クラフトモチーフ77
Stags of Z’en Style
エルデンルート、緑に祝福された武芸の達人、グワエレロス 著
紡ぎ手は世界の全てが木だと言うだろう。悪は害虫のように樹皮の下を進み、善を飲み干してしまう。緑の戦士は枝を探り、隠れている悪を取り除き、喜んでむさぼる。罪に報いを与え、悪意に報いを与える。鹿である我らは、その罰を遂行する。報酬に求めるのは血だ。労苦と復讐の神ズェンが求めるものはそれだけだ。
エルデンルート、緑に祝福された武芸の達人、グワエレロス 著
紡ぎ手は世界の全てが木だと言うだろう。悪は害虫のように樹皮の下を進み、善を飲み干してしまう。緑の戦士は枝を探り、隠れている悪を取り除き、喜んでむさぼる。罪に報いを与え、悪意に報いを与える。鹿である我らは、その罰を遂行する。報酬に求めるのは血だ。労苦と復讐の神ズェンが求めるものはそれだけだ。
これはヴァレンウッドに棲むウッドエルフの子供たちが、幼いころから聞かされる物語である。
かつて、この世界のものには形がありませんでした。大地の様子は定まらず、木々は硬い幹や枝や樹皮を育まず、エルフたち自身の姿も絶えず移ろい、一つにとどまらなかったのです。この渾沌が、「ウーズ」と呼ばれました。
ところが、イフレがウーズを取って命じました。イフレはまず、「緑」について語ります。「緑」とは、森とそこに生い茂る全ての植物を指します。イフレは「緑」に思い通りの形をとる力を与えました。なぜなら、それがイフレの語る最初の物語だったからです。
エルフは、イフレが語った2つめの物語でした。イフレが物語を紡ぐのに合わせ、エルフは今の姿になりました。イフレは彼らに物語を語る力を与えましたが、自分自身や「緑」の姿を変えようとしてはならないと戒めました。森の姿を変え、森を破壊することは禁じられたのです。
そのかわり、イフレはウッドエルフたちを「緑」に委ねました。雨露をしのぐ住まいと安全な道は、「緑」に頼めば与えてくれるのです。そして、彼らが尊ぶ気持ちを忘れないかぎり、「緑」は言うことを聞いてくれるのです。これを、「グリーンパクト」と呼びます。
最後に、イフレは大地を歩く生き物と川を泳ぐ生き物と空を飛ぶ生き物全てについて語りました。イフレはそれらを、生きる糧としてウッドエルフに与えたのです。彼らは植物をいっさい食べず、肉だけを食べることになりました。イフレはまた、ウッドエルフに殺されたウッドエルフは土に還ることが許されず、他の生きもの同様、食糧として消費されなければならないとも言いました。これが、「ミート・マンデイト」と呼ばれるものです。
物語が語られるたび、イフレはそれらが満足のいく形をなすよう取り計らいました。けれども、ウーズのなかにはウーズのままでいるものもありました。そこでイフレは最後の物語を語り、そうしたウーズにも目的を与えました。
「緑」の姿を変えたり「緑」を損なったりしてグリーンパクトに背いたウッドエルフは、罰として形を持たないウーズに戻されるようになりました。彼らの名前はイフレが語る物語から消され、沈黙に置き換わるのです。
ウッドエルフの間で、「緑」に愛された者はウーズに囚われた罪人を解き放つ力を持つと言われています。もっとも、そうやって解放された者たちがどこに向かい、どんな形を取るかは知られていません。
ウーズを見たことがある者は誰もいません。そこに囚われた人々の声を聞いた者もいなければ、彼ら罪人たちをこの業罰から救うことができる者に会った者もいないのです。でも、ウーズを「ただの物語」だと思うかどうかウッドエルフに尋ねれば、決まって次のような答えが返ってくるでしょう。「”ただの物語”なんてものは存在しない」と。
ウッドエルフなら誰しも、内側の部位ほど美味だということを知っている。他の種族は肉を調理するにしても、血が蒸発してぱさぱさになるまで火を入れるし、内臓や脳味噌は捨ててしまうが、ウッドエルフはそういった部分こそ最もジューシーで、したがって最も風味豊かであることを知っているのである。
次に紹介するのは、ヴァレンウッドのグリーンシェイド地方に伝わる名物料理である。
鹿肉の壺詰め
指で触れて柔らかくなるまで腰臀部を吊るす(5日間)。
腰臀部を中火で加熱する。その際、油を塗ると外側をカリカリにできる。肉がぱちぱち言い始めたら、火からおろす。
熱々の肉を甕か壺に入れ、出し汁とタマネギのみじん切りを加えてふたをし、そのまま2週間寝かせる。
食卓に出すときは壺の蓋を開け、肉を出し汁と一緒にそのまま皿に盛る。とても柔らかいので、ナイフで切り分ける必要はない。
この料理は4人家族がお腹を満たせる量だし、数日獲物を仕留められずにいた猟師1人を満足させるだけの量がある。
こういった名物料理は他にもたくさんあり、親から子へと伝えられるケースも少なくない。
ファリネスティが姿を見せなくなってから、ウッドハース以上にウッドエルフの性格と歴史を余すところなく示している都市はない。
ヴァレンウッドの南西岸に位置するウッドハースは、もともとは帝国の入植地であり、最初はつつましい街だった。その地域に点在するウッドエルフの集落との交易を促進する目的で時の皇帝が建設し、歴代の皇帝が維持してきたのである。
にぎわう港町であると同時にヴァレンウッドの自然の脅威から人々を守る砦でもあったウッドハースに対する近在のウッドエルフの反応は、好奇心と友好的態度、それに敵意が入り交ったものだった。
敵愾心の強いボズマーが防壁に攻撃を仕掛けてきたことも一度や二度ではない。その内の何度かは、強力な破壊魔法を集中的に浴びせることで、防壁の一部を崩落させることに成功している。もっとも、せっかく防壁を破壊しても、帝国軍の粘り強さと優れた装備の前に、結局は撃退されてしまうのが常だった。
やがて、ヴァレンウッドのグリーンパクト・ボズマーの間でついに和平が結ばれる。すると、ほどなくしてボズマーの集落が出現し、帝国の建築物の数を上回るようにさえなった。ウッドエルフが自分たちの住む森との間に結んでいるあの特別な関係の賜物として、ボズマーの集落の特徴である木の家や歩道が生まれたのである。
ボズマーが帝国を助ける勢力になったことで、ウッドハースの統治は徐々にウッドエルフ自身に任せられるようになって行く。樹の従士が置かれ、インペリアルの建設した区画こそさびれはしたが、全体としてウッドハースの街は栄えた。
それから一世代の内に、ウッドハースの樹の従士の評価は高まった。揺るぎない指導力を発揮し公正な裁きを行うという評価が、ウッドエルフのみならずその同盟者たちの間にも定着したのである。
この原稿を書いている現在、ウッドハースの樹の従士はファリエルであり、彼女は樹の従士としてのみならず、創設間もないアルドメリ・ドミニオンのアイレン女王の元、サルモールのメンバーとしても統治を行っている。海辺の聖域と共にヴァレンウッドの主要港の地位を保つウッドハースは、今やありとあらゆる種族が住む、種族のるつぼと言っても過言ではない。
クランマザー・アニッシから愛する娘達への言葉
パート1
アニッシは教えよう。あなたはもはや子猫ではないし、アニッシに隠しごとをすることも覚えた。だからアニッシは話そう。
初めは、オーナールとファドマイというつがいがいた。様々な局面が過ぎ、ファドマイはオーナールに、「結婚して子供を作り幸せを分かち合おう」と言った。
そして彼らの間に最初の猫、アルコシュが生まれた。オーナールは「アルコシュよ、時間を与えよう。猫のように素早く、ときにはゆっくり動くものは何だ?」と言った。
それから風のケナーシが生まれた。「ケナーシよ、お前に空を与えよう。何が風より高く飛ぶのだ?」
そして猫の目のマグルスが生まれた。「マグルスよ、お前に太陽を与えよう。何が猫の目より明るく輝くのだ?」
そして母猫のマーラが生まれた。「マーラよ、お前は愛である。何が母の愛より優るのだ?」
そして子猫のスレンダルが生まれた。「スレンダルよ、お前に慈悲を与えよう。慈悲なくしてどうしたら子猫は生き延びれるのだ?」
様々なことが起こり、オーナールとファドマイは幸せだった。
オーナールが、「もっと子供を作って幸福を分かち合うべきだ」と言った。それにファドマイも賛成した。そしてハーモーラーが生まれた。その後、ハーシーン、マールンズ、マファラ、サンジーン、シェッゴロス、他にもたくさんの子供が生まれた。
ファドマイはこう言った:
「ハーモーラーよ、お前は潮汐です。月が潮の流れを予測できるのか、それとも潮の流れが月を予測するのか、誰に分かりましょう?」
「ハーシーンよ、お前は腹を空かせた猫です。腹を空かせた猫より上手に狩りをするものは何ですか?」
「マールンズよ、お前はジャ・カジートです。子猫より破壊的なものは何ですか?」
「マファラよ。お前は一族の母です。一族の母のやり方より明かされないものは何ですか?」
「サンジーンよ、お前はスクゥーマの猫です。スクゥーマの猫より正気でないものは何ですか?」
そしてオーナールは「子供は2人で十分だ。子供が多すぎると幸せを奪われてしまう」と言った。
しかし、ケナーシはファドマイのところへ行き、「母よ、ケナーシは兄弟のアルコシュでさえも飛べないほど高い所に飛んでしまえるので寂しいです」と言った。ファドマイはケナーシを可哀そうに思い、オーナールを騙して再び身籠った。
ファドマイは月とその動きを生み出した。次に魔法の砂と豊富な森のニルニ、そして黄昏と暁のアズラーを生んだ。
最初から、ニルニとアズラーは母親の愛を奪い合った。
オーナールはファドマイが出産しているとき彼女を捕まえた。オーナールは怒った。オーナールはファドマイを打ちつけ、彼女は最後の子供を生むために深い闇の奥へと逃げた。子供たちはこの出来事を聞き、母を父の怒りから守るためにやって来た。
そしてファドマイは、最後の子供ローカジュを深い闇の中で生んだ。ローカジュの心は深い闇でいっぱいだった。ローカジュが生まれると、深い闇はその名前を知った。それがナミイラであった。
クランマザー・アニッシから愛する娘達への言葉
パート2
ファドマイは自分の死期が近いことを悟り、こう言った:
「ジャ・カージェイよ、お前にラティスを与えよう。月の側面よりしっかりとしたものは何ですか?お前の止まることのない動きは我々をオーナールの怒りから守るでしょう」そして、月は天より出てしかるべき場所に着いた。オーナールの怒りが轟き渡り深い闇は揺れたが、彼はラティスを渡ることはできなかった。
「ニルニよ、お前に素晴らしいものを残しましょう。ファドマイが今日まで子供を授かったように、お前もたくさんお子宝に恵まれるだろう」アズラーには何もないことが分かると、ニルニは笑った。
アズラーを除いてファドマイの子供たちは全員去った。ファドマイは「私のお気に入りの娘よ、お前に最も素晴らしいものをあげよう。ファドマイはお前に秘密を残します」と言って、娘に3つの事を話した。
ファドマイは「ニルニに子供がたくさんできたら、1人選んで変化させなさい。機敏で賢く、美しくし、カジートと呼ぶのです」と言った。
「カジートは最高の登り手でなければいけません。マッサーとセクンダが落ちても、ケナーシの息吹を登って月を彼らの道に戻さなくてはなりませんから」
さらに「カジートは最高の詐欺師でなければいけません。いつもオーナールの子供たちに自分の性質を隠さなくてはなりませんから」
「カジートは最高の生存者でなければいけません。ニルニが嫉妬して、砂をザラザラにし森を激しいものにし、常にニルニとの戦いで飢えるからです」
このような言葉を残してファドマイは息を引き取った。
様々な局面が過ぎ、ニルニがローカジュのもとにやって来てこう言った。「ローカジュよ、ファドマイは私にたくさん子供を生めと言いましたが、そんな場所はありません」
ローカジュは「ローカジュが子供たちのために場所を作り、お前はそこで子供を生める」と言った。しかしローカジュの心は深い闇でいっぱいだった。ローカジュは姉妹を欺き、2人はニルニとともにこの新しい地へ行くしかなかった。ファドマイの子供の多くは逃げ、星になった。ファドマイの子供の多くはニルニの歩みを安定させるために亡くなった。そして生き残った者は残り、ローカジュを罰した。
ファドマイの子供たちはローカジュの心を引き出し、ニルニの内側奥深くに隠した。彼らは「騒がしいローカジュよ、我々はお前を呪う。色々な段階をニルニと歩むように」と言った。
しかしニルニは子供を作るため、すぐにローカジュを許した。彼女は子供たちで満たされたが、お気に入りの子供、森の精は自分の姿が分からなかったので泣いた。
アズラーが来て「哀れなニルニよ、泣くのを止めなさい。アズラーからお前のために新しい子供を送ろう」ニルニは泣き止み、アズラーは月への第1の秘密を話した。2人は分かれて、アズラーを通した。アズラーは人間と野獣の狭間で悩んでいた森の精を、最高の砂漠と森へ連れて行った。アズラーはその見識で数多くの形に彼らを変えた。全ての目的に合う1つの姿にした。アズラーは彼らをカジートと名づけ第2の秘密を話し、秘密の価値を教えた。そしてアズラーはニルニの秘密の護衛者にふさわしいよう、新しいカジートを月のラティスと結びつけた。それから第3の秘密を話した。月は沼地を照らし、その光は砂糖になった。
しかしワイファーは第1の秘密の話を聞き、アズラーの後ろについて忍び込んだ。ワイファーは秘密について理解できず、アズラーの罠のことをニルニに話した。ニルニは砂漠を熱し、砂は燃えるようにジリジリした。それから森を濡らし猛毒で満たした。ニルニはワイファーに感謝し、森の精を変えさせた。ワイファーにはアズラーの巧妙な知恵はなかったので、森の精をエルフにし、2度と野獣にならないようにした。彼らをボズマーと名づけた。そのときから、彼らはもはやカジートとは同じ子供ではなくなった。
そしてワイファーは秘密の価値を理解していなかったので、息を引き取るまで第1の秘密を大声で触れまわり、ファドマイの子供たちは全員ラティスを渡れた。しかしアズラーは賢く、オーナールとローカジュの耳を塞いで、その言葉が聞こえないようにした。
以下はモルヴァス・アンドリスによる4巻からなるグリーンパクト・ボズマーの研究書からの抜粋である。この研究は第一紀に3年間続けられたが、モルヴァス・アンドリスがとある弔い合戦で命を落とし、研究していたクランに貪り食われたことで途絶した。
…ファニリエルは齢100歳にして沼地の発光ガエルを食べ、上下が逆さまの樹木都市、ハートグリーンの幻影を見た。そこには逆立ちをして両手で歩くエルフたちが住んでいたという…
…「窃盗の権利」後の請求に成功した回数が200回を超える怪盗ヴァニリオンは、かつて森の真ん中に現れた木に登り、幻視を見たと言われている。
その木は葉が紫色で、ヴァニリオン自身の言葉によれば、そうした紫色の葉に囲まれて座っていると、得も言われぬかぐわしい匂いがしたという。その甘い香りを嗅いでいるうちに、ヴァニリオンは心が穏やかになり、一種陶然とした境地に入った。樹木が環状に茂る森が見えたのは、その時である。森に足を踏み入れたヴァニリオンだが、奥へと進むにつれて樹木の環は広がり、いつまでたっても森の中央にたどりつけない。
そうやって森の中をさまよううちに、ヴァニリオンはそれまでに見たこともないほど美しい霊魂に出会う。その霊魂は話す時、文章が堂々巡りをするよう、本来最後に来るべき言葉をあえて頭に置いた。「横になりましょう。おいでなさい。川のほとりで一緒に」
木の葉の強力な芳香によって恍惚境に陥っていたヴァニリオンは、枝から落ちてようやく我に返った。命に別状はなかったが、落下の衝撃で片脚を折ってしまい、盗賊家業は廃業した。ヴァニリオンはその後の人生を、葉が紫色の木を探すことに費やしたが、ついに見つけることはできなかった。
私は樹の従士に尋ねて見たことがある。パクト・ボズマーはそうした幻視を「見る」と言うが、「思い浮かべる」と表現するほうが適切ではないかと。というのも、こうした奇妙な幻影に登場する都市や森やその他の驚くべき事象が、ニルンにもオブリビオンにも実在しないことは明らかだからだ。
その樹の従士は、何やら当時流行りの発酵牛乳らしき臭い飲みものを長々とあおると、自分の足元を見つめ、それから空を見上げておもむろに答えた。「世界は自分の目で見える範囲で終わっているとあなたがたは言う。我々は違う。自分の目で見える範囲を超えたところから、世界は始まるのだ」
木々が太陽に向かって伸びるように、また、月が出ている夜は出ていない夜と違う鳥たちのさえずりが聞こえるように、ヴァレンウッド生まれのウッドエルフならば誰しも(そして、ヴァレンウッド生まれでないエルフのほとんど全てが)グリーンパクトについて知っている。
グリーンパクトとは我々ウッドエルフが、大いなる物語の始まりから我々を導き、生き方を教えてくれているイフレと交わした約束である。
グリーンパクトの定めは明快だ。森を傷つけてはならない。植物由来のものは一切口にしてはならない。食べるのは肉だけにせよ。敵を征服したときには、骸が土に還るに任せず、その肉を食らうべし。無駄な殺生はこれを禁ずる。汝らウッドエルフの姿は神聖なものゆえ、獣の姿をとってはならない。
これがグリーンパクトである。この協約を守る見返りに、森——我々は「緑」と呼ぶが——は充分な食べものと雨露をしのぐ住まいを提供してくれる。森が、我々の要請に応じて自ら姿を変えてくれるのである。これは、イフレが我々ウッドエルフだけにくれた特別な贈り物だ。おかげで、我々は満ち足りた暮らしを送ってきた。
ところが今、我々は未曽有の状況に置かれている。我々の新しい盟友たち、すなわちハイエルフとカジートは、グリーンパクトを守ろうとしない。彼らは草葉と木材でこしらえた家に住み、ありとあらゆる種類の果実を食べ、ブドウから造ったワインを飲む。敵を貪り食うなど、彼らから見れば野蛮人の所業以外の何ものでもないのだ。
こういった盟友たちを、ヴァレンウッドのウッドエルフはどのように受け入れたらよいだろうか?それも、グリーンパクトを遵守しつつ、だ。これは今日多くのエルフを悩ませている問題であり、とりわけ、新たに建設されたばかりの街マーブルクに住むエルフたちの困惑は深い。我々は「緑」に対する冒涜の度合いで言えば、もっと些細な事柄をめぐって戦争をしたこともある。
一方、ドミニオン成立当時、グリーンレディとシルヴェナールがウッドエルフの利益とグリーンパクトの精神を代弁してくれたことを我々は知っている。そして今、サルモールにはウッドハースの樹の従士にして我々の力強い代弁者であるファリエルがいることを、我々は忘れてはいないのだ。
彼らはこの不確かな時代に我々が模範とすべき指導者たちだ。彼らは自らの振る舞いを通して、我々にたどるべき道を示してくれている。我々は新しい盟友たちを、ウッドエルフならではの歓待で迎え入れるべきだ。彼らに喧嘩を吹っかけてはならない。彼らから盗みを働くような真似は、慎むべきだろう(彼らの多くは「窃盗の権利」というものを正しく理解していないのだが、それはまた別の機会に論ずる)。しかし同時に、我々は自分たちの利益、そして「緑」の利益を守るためにはっきりものを言うことを、ためらうべきではない。
樹の従士たるファリエルが力強い弁舌をふるってくれたおかげで、マーブルクで使う木材の多くと草葉の全ては他からヴァレンウッドに運び込まれた。一方、街を建設する場所を作るためにおびただしい数の樹木が切り倒されなければならなかったという事実は、多くのウッドエルフにとって許しがたいことだ。ただ、ファリエルの見るところ、新たな盟友たちを受け入れることは、ヴァレンウッドを破壊するに違いない連中に対する強力な防備を構築するための第一歩なのである。
我々の意見に進んで耳を傾けようというアイレン女王の姿勢は、彼女が優れた知性の持ち主であることと、彼女がウッドエルフの民に敬意を抱いていることを示している。であれば、我々は女王の指導力を積極的に信頼することで、彼女の厚意に報いるべきであろう。
——作者不詳の口承文学を聞き書きしたもの——
歌え、ヴァレンウッド。叫べ、「緑」よ
動く者、形を与える者の物語を語れ
その名はさまよえる王
彼の目は世界に向かって突き出し
知覚するもの全てに触れる
彼は思考によって、形を与える
果たして彼はどこにいるのか
山だろうか
森だろうか
否。そこに彼はいない
なぜなら、「そこ」とは場所であり、場所には際限がある
さまよえる王に際限はない
彼は宮廷にして玉座
彼は宮廷にして玉座
彼が歩めば、踏み出した足は自身の上に落ちる
彼の足音と地響きを、誰が聞かずにいられるだろう?
彼の到来とともに大地は震える
地下から彼のホロウがせりあがる
さざ波一つない水面の儚い静けさが
極小の石つぶてで粉々に砕けるごとく
さまよえる王が通り過ぎる時、恐るべき力が伝わる
叫べ、ブランブルブリーチよ!むせび泣くがいい、影の守人よ!
さまよえる王は味方にして敵
敵にして味方なり
彼の足音を、誰が記録にとどめられるだろう?
彼が口を開いて歌う時
誰がその旋律を耳にできるだろう?
幼い時、私は両親に連れられ、司祭たちがネレイドを崇める洞窟を訪ねた。両親は我が子もいつか司祭になれるかもしれないと、私をその聖堂に捧げたのだった。
その聖堂には、私の他に3人しか子供がいなかった。10歳になるまで、私はその3人にからかわれ続けたが、それは私の片脚がもう一方より短く、短いほうの脚を引きずって歩いていたからだ。
ある日、私たち4人は洞窟の中を走り回っていた(こうした行為は禁じられていたが、司祭たちは子供が子供らしく振る舞うのにいちいち目くじらを立てず、見て見ぬふりをしてくれることが少なくなかった)。そのとき、私は何かに蹴つまずき、顔から池に落ちてしまった。私は頭を打ち、気を失った。他の子供たちは私よりもずっと先を走っていたので、この異変に気づかなかった。
後で司祭たちに聞いたところでは、ネレイドの1人が溺れる私を助けてくれたらしい。その時私は何も憶えていないと言ったが、時間が経つにつれ、水中を浮上する感覚と、そのとき覚えた一種の戦慄に似た感覚を思い出した。それは、見てはいけない何かを見てしまった時、定命の存在が目にするには美しすぎる何かを見てしまったときに覚える感覚だった。
司祭たちは私たちにネレイドとの関わりかたを教えてくれた。私たちは「ネレイドの贈り物」という次のような文句をそらんじ、毎日繰り返し暗唱することを求められた。
ネレイドの贈り物は次の3つから成る:
姿の美しさ、
歌声の甘美さ
そして、その庇護である。
年長の子供らには、儀式を執り行う司祭たちを補佐する役目が与えられた。中央の祭壇にはネレイドに捧げる肉が運ばれる。そして年に1度、司祭の1人が洞窟の奥深くに入り、ネレイドの歌声に包まれて瞑想する。瞑想を終えて戻ってきた司祭は、預言を皆に伝えるのが常だった。
子供らは一定の年齢に達すると、聖堂に残って司祭になるか、それとも追放されるかを選ばなければならない。幼いころからずっと洞窟の中で過ごしてきた私には、他の生き方など想像することもできなかった。だから、司祭になる道を選んだ。そんな私でも、ときどき陽の光が恋しくなることがある。そしてそういう時には、もし追放を選んでいたら、自分が今頃どこにいてどんな光景を目にしていたかと、想像を巡らせずにはいられないのだ。
輝かしい春。大地が雨に酔いしれ、太陽がヴァレンウッドに微笑む季節。ウッドエルフは旅に出て、齢経りたストラングラー、最も古き者のねぐらを訪ねる。そこで彼らはその年も春が訪れたことをイフレに感謝し、最も古き者の枝に囲まれて、自分たちの故郷の歴史をひもとくのである。
その後、グリーンパクト・ボズマーの主宰で、春と最も古き者を祝う盛大な宴が催される。宴は夜になっても続き、エルフたちは過去の宴や巡礼の逸話を肴に美酒を飲み交わし、佳肴に舌鼓を打つ。
宴で語られる逸話は神聖なものもあれば冒涜的なものもある。
例えばある逸話では、悪名高い戦士長に率いられた軍隊が最も古き者の住処の前で進撃を止め、住処の主に尊敬の念を示すため中に入っていく。住処から出てきた彼らは武器を捨て、そのまま立ち去った。彼らは二度と戦をしなかったという。
対照的に、こんな逸話もある。とある悪戯好きなウッドエルフが、森林マンモスの糞を挽いて粉にしたものを巡礼者たちのパンチ酒に混ぜた。そのせいで宴の参加者はみな、それまで嗅いだこともないようなすさまじい悪臭を放つ放屁に悩まされるようになる。宴が続き夜が更け、臭いがいよいよ耐えがたいものになってくるにつれ、彼らはうめき声をもらしたが、やがて鼻が慣れてしまうと、うめき声は爆笑に変わり、その笑い声が森を満たしたという。
宴で語られる逸話には、この巡礼の走りとなった男女の話もある。彼らは子供のいない老夫婦で、最も古き者を我が子のように世話したという。この2人が、初代のシルヴェナールとグリーンレディになった。
巡礼が語る逸話は他にも数多くあるが、書き留められているものは少ない。興味のある向きは春に最も古き者の住処を訪れ、逸話が語られるのを自分自身の耳で聞き、齢経りたストラングラーの姿を自分の目で拝むべきだろう。
〈告げ示す者〉ベレダルモ 著
樹皮から明らかになった真実がある
アダマンティアのスパイクとゼロストーンは、彼らの物語もしくはドラゴンの(時に縛られた)寓話の展開の中にある本質をアース・ボーンズのために解明するため、アウルビクに関連する真実の構造を口述筆記させた。アルドメリの神話紀のエルフは単一の目的を持っていたが、それは他の塔がそれぞれの石を持ち、それぞれ集注の設計者によって刻まれた規則に従う物語をするかも知れないと気付くまでの話だった。そしてエルフはそれぞれ屈折し、それぞれが創造を始めた。チャイマーはレッドハートに従い、ボズマーはグリーン・サップを芽生えさせ、アルトマーはクリスタルのような法を創設した。
しかし様々なエルフの中でも、ハートランドのアイレイドほど厚かましいものは無かった。彼らはアダマンティアの露骨な模倣にて塔を建て、彼らの発掘した偉大なるレッド・ダイヤモンドを礎石として使った。ロルカーンの心臓そのものから取った血液を結晶化したと言われるチム・エル・アダバルである(ハートランドを超えてきた矢の付いた心臓は、その4つのうちの1つの意味を生み出した)。
知っての通り、次の様に白金は一の塔となった
聖蚕の目に予言された様に、アイレイドの慢心は辛い結果を招いた。オーバーワールドを見据える彼らの高い理想のせいで、奴隷達が決起して塔を彼らから奪うまで、足元で煮え立つネードの波風に気付けなかった。チム・エル・アダバルも同様に奪われたが、アークメイジのアヌマリルはその時までに、八叉の塔杖を作っていた。各部位が踊りにおける塔の外観を示していた。そしてその時、7つの部位が白金の騎士達によって遠く折り畳まれし地まで運ばれ、そこで隠された。
(これはすべてペリン・アルエッシアには確実に知られていなかった、もしくは異なる八大神がいたのかも知れない!)
こうして、白金はグリーンサップに変わった
ボイシェ・エルフはイェフレと緑の歌に最も耳を傾けたアース・ボーンズであった。彼らは塔を建てず、不確実なドングリから広がる偉大なるグラー・オークを拡大した。これが彼らの石だった。そして、ドングリが他のどこかにもいた可能性があるため、グリーンサップは多様で様々な存在になった。そして、各々歩むことができた。
それゆえ、それぞれのグリーンサップはあらゆるグリーンサップでもあった。真実の結末を持つ全ての緑の話がそれぞれにされており、その点で扉は常に不確実な扉だった。しかし、彼らの本質はプリズムの分裂の中にあったので、ボイシェはボズマーに成ることに慣れ、不確実な扉を楽しむ様になった。こうして、ボズマーはどの歌が木を踊らせるのか、どの踊りをしてもよいのか学んだ。
さて、8つの部位、もしくはアヌマリルがその外観を、零の塔を反映している一の塔として作った一の部位へ話を戻そう。アイレイドがハートランドから逃れた時、彼らは四方八方へ向かい、その行先は選択の余地があったが、多くはその先で終焉を迎えた。しかしヴァレンウッドへ逃れたアイレイドは、その他の方向へ行った者達よりも多く吸収された。これもまた選択の一つだった。これらのクランの中で、アヌマリルは大腿骨として一の部位を身に着けた。歩くこと以外の方法のために、スポークはハブを動かせるだろうか?
グリーンサップのエルフは、ハートランド人が緑の歌を調和させることに応じる限り、アイレイドを歓迎した。気付かれぬ様、手を当てて咳をしたアヌマリルを救うために、皆これに応じた。アヌマリルは偉大なるカモランにグリーンサップを見せる様頼み、その時エルデンルートに偶然立っていた一つの元へ連れていかれた。偉大なるグラーの内部で彼は不確実な扉を通り、彼が求めていた不確実なドングリを見つけた。それは多くのうちの一つだったが、アヌマリルにとっては十分だった。
次にアヌマリルは、一の部位を根の先へ運び金の木の実に見せて結末を告げた。石を確実なドングリにするために。そのエルデンの木は再び歩くことはできなくなったが、アヌマリルはさらに活用する意図を持っていた。歯を楽器として使い、彼は自分の骨を徐々に取り除き、それでニルンとその惑星を映し出すムンダス・マシーンを作った。そしてこの太陽系儀を作り出すためにすべての材料を使い終わった時、その部位の杖を内に置き、月と月の間に隠した。
そして彼は待った。しかし彼の待っていたことは起きず、おそらく彼はいまだに待っているだろう。アヌマリルはハートランド人が新たな領域を作れるように、グリーンサップを白金に変質させることを望んでいた。しかし、なぜ自分の計画が見込みを外れたのか、アヌマリルは知らずそもそも知ることができなかった。お分かりのとおり、アイレイドの魔法は起こるかも知れない、起こるであろう、起こるに違いない事柄だ。しかし、グリーンサップの元で、すべては不確実なのである。
アイレイドの計画は成功しなかった。そして失敗もしなかった。これはいまだに結末のない話だから。
生徒にして友 アフワ 著
死霊術は召喚師によって用意された、もしくは場合によっては作り出された魂の支配として広く知られている。
技術的に正確を期した場合、これはこの方法で意思に反して呪縛された魂が、解放される望みなく閉じ込められることを示唆している。
また人間であれエルフであれ、構成物を占めている魂は常に知的能力があると考えられる様である。兵士や肉体労働者として死体に生命を吹き込むことによって固定化された、誤った考えである。
この誤解と誤用の可能性は、死霊術への非難と、マニマルコやその仲間達のアルテウム島からの追放を引き起こした。
エンター・ヴァスタリーはサイジック会の学徒であり、ヴァヌス・ガレリオンやマニマルコといった著名人と同時代の人物である。
マニマルコが死霊術の力を直接利用して力を探求する一方で、ヴァスタリーの目的ははるかに難解だった。彼女は知的生物が死んだ時に魂の解放を遅らせて協議し、その知識を長年保持する手段を探し求めた。
彼女はアルテウムを去った後、この目的のためにマニマルコと共に働き、下級デイドラを捕らえられる可能性がある、魂を閉じ込める方法を探求した。
モラグ・バルが秘密を隠していると信じた二人は、コールドハーバーに入って吸血鬼の始祖その人から奪おうと企てた。彼らは共に計画を立てた。
若者のみが持つ無鉄砲な勇気により、マニマルコと仲間達はデイドラ公の世界へのポータルを開いた。冒険を熱望したヴァスタリーは深く足を踏み入れ、見たこともない類の黒いクリスタルを持ち帰った。
マニマルコにとって、それは完璧なものだった。小さく、最も強き魂さえ入れることができ、一見すると不滅であった。ヴァスタリーにとっては非常に欠陥があった。魔法がなければ、魂を深みから自由にできなかったためである。
たとえそうでも、彼女は石を複製する仕事に取りかかった。分解して様々な物質と分析し、そして幸運にも新しいものを作り出した。それが最初の印晶石である。
クリスタルの様に透き通ったこの新しい装置は、知的生物の魂をその深みの中に閉じ込めることができた。だが支配の王から力ずくで奪った宝石と違って異常に壊れやすく、たった数日しかその力を保てない様だった。
一度閉じ込められると、魂は晶石の間を移転させられた。それを魂石として利用すると、魂が解放された。
ヴァスタリーは探し求めていたものを見つけたが、マニマルコは怒り狂った。魔法のために仕えない魂石などどうすればいいのだ?彼はヴァスタリーに、彼女の作品を彼の目的に合う様に修正する方法を探せと要求した。
彼女の友が探求を止めず、彼とのさらなる発見は彼の目標に向かうだけであると気付いたため、彼女は研究を集め、夫であり強力な死霊術師であるテラカルと共に去った。
彼らは共にマニマルコの手中から逃れ、ヴァレンウッドにあるアイレイド遺跡の奥深くに隠れた。彼らが長年住んだ場所は、彼らの技を完成させるためにこれ以上ないほど静かだった。彼らは数十年に渡りお互いを支え合い、幸せそうだった。ヴァスタリーが去る日までは。
その後数年、彼女はニルンの地をさまよい、力のある場所を探索した。彼女はウェイレスト、アリクル、水晶の塔、そしてデューンの蔵書庫を訪れ、彼女の魂を苛む疑問の答えを探した。
やがて彼女は探していたものを見つけ、ヴァレンウッドへ帰った。そこで彼女は塔を建て見習いを雇い、彼女の死霊術の特殊な型を教え、そして研究を進めた。
印晶石を使って、我々は下級デイドラの魂を呪縛し、魂石の力でオブリビオンへの帰還を遅らせた。それから、閉じ込められた霊魂をこの世界に表す方法に取り組んだ。
初期の試みは予期されていない、むしろ危険な結果をもたらした。晶石は砕け、壊れた水晶の破片は仲間の生徒の肉体に突き刺さった。誤用された力は生きた魂を小さな石に呪縛した。しかし、学ぶに連れて我々は、失敗を正し手法を洗練した。
ついにヴァスタリーは習熟した。死の瞬間に印晶石を使用することで、魂をその深みに留めることができた。召喚の応用によって、ゆっくりと協議できる場所である霊体の殻に引き込むことができた。
彼女はその発見を魔術師ギルドに手紙で知らせた。ヴァヌス・ガレリオン自身が、彼女の実演に立ち会いに来た。その実演は手法の実演に自主的に協力した、古い管理人と協議することを含んでいた。
彼女が魂を器具に呪縛した時、彼は衝撃を受け、過程が終了して古い管理人が解放され、エセリウスへ還ることができた時、彼は真っ青になった。
ゆっくりと彼は立ち上がり、集まった生徒達へ話しかけた。復讐の悪意と怒りを交えて話し、その様子は彼の気取らない態度から誰も予期しないものだった。話し終えると、身を翻して去った。
幾人かは彼を追った。誰も彼らを非難できなかった。彼は間違ってはいなかった。印晶石は危険な創造物だった。悪用されれば戦争の火種となり、歴史上前代未聞の破滅をもたらす可能性があった。
ヴァスタリーはくじけず、ガレリオンの頑固な無知は彼を破滅へ導くであろうと説得したが、数年内に何か他のものが彼女の注意を奪ったようだった。広大な遺跡が彼女の塔の基礎の下から発見された。それはデイドラ公の力によって、目と探知から隠されていたのだ。
やがて、彼女はその遺跡に入り、二度と出てこなかった。我々の一部は、今もなお彼女の帰りを待っている。
タムリエル細目の第四階層学者 クラウドレストのクイヌア 著
この報告書は、我々の血縁であるウッドエルフの血統へ組み込まれた、アイレイドの血筋を強調することに教化的利点があるかどうか調査するため、サルモール同盟委員会によって委嘱された。広範囲にわたるヴァレンウッドへの旅によって、このテーマに隠れた歴史的事実を突き止めることができた。これらの事実が同盟親睦を深める有益な組織的活動を後押しできるかどうかは、委員会と教化サピアルチ次第である。
ダスクのプルリベルが彼女の権威ある著書「アイレイドの崩壊」で記しているとおり、第一紀243年の白金の大災害には破滅的な要因が様々にあり、契約していた人間の労働者による血の反乱は、主因ではないのかも知れない。プルリベルは、保守的なエドラを崇拝するアイレイドのクランと、退廃的で今なお確実に強力であり、デイドラ崇拝を取り入れたクランが対抗し合った、神話紀末期のナーフィンセル分裂を重要視している。私も同意見だ。この衝突は、第一紀198年にウェンデルベックの粛清で、アタタアのグリンフェレン王がアイレイドの伝統主義者バルサエビクに対してデドラフィル戦士の連合軍を率いた時に頂点を迎えた。バルサエビクはハートランドからアルゴニア北西部へ追放され、それ以降シロディールにおけるデイドラ崇拝に対する組織的な反抗は事実上終わった。
いずれにしても一般的な見解からすれば、アイレイド文明は白金の塔がネードの残虐行為に屈するまでの数世代で次第に衰えた。素晴らしいエルフ文化の廃墟の中に佇みながら勝者は、敗れたクランを拷問と残酷を好む暴力的なデドラフィルに仕立て上げることで、虐殺の正当性を捏造した。奴隷女王の一団と運命を共にしたエドラ信奉者を大部分とするクランのために、例外が作られた。もちろんこれは彼らの根絶をただ遅らせただけに過ぎず、シロディールの他のエルフが絶滅に追いやられた後すぐ、残虐なネードは否応なくかつての盟友を追跡した。
この様に、ハートランドのエルフが新しい居住地をタムリエルのどこかに見つけようとするアイレイドの離散が始まった。そして明らかに、ある程度の成功を収めた。かつてファルマーが所有していた土地へ北の方から逃れた者達は、悪名高き虐殺者ヴレイジ率いるノルドによって虐殺された。その時までアルゴニアに定着していたバルサエビクはかつての迫害者であるアタタア人への迎合を拒否し、ほとんどのクランは猫人の領地への不運な遠征で消滅した。いくつかのクランはハンマーフェルからイリアック湾への長い行軍に出発し、一部は到達して、そこで長い歴史を持つバルフィエラのディレニに合流した(そして吸収された)。
最も成功を収めた、かなりの数がいるクランはヴァレンウッドの森林下にある南西へ逃れた。アヌトウィル、ヴィルヴェリン、タルウィンク、バウン、ヴァロンドのクランはみな、森の中に新しい生活を切り開くべくほとんど無傷で逃れた。これらのクランはみなデイドラ公達を崇拝していたが、ヴァレンウッドへの移住を強いられた後はその崇拝熱が薄れたかの様に見えた。おそらく、見捨てられたクランが助けを必要としている時に、デイドラ公達がほとんど、あるいはまったく手助けしなかった事実が原因だろう。幸い彼らの新しい主人であるボズマーは、ハートランドのエルフがグリーンパクトのあらゆる面を受け入れて森に害を与えない限り、アイレイドを領地へ受け入れることに驚くほど寛大であった。アイレイドは同意するしかなく、おそらくこれが彼らの文化を薄れさせる一因となった。
本来の形が薄められていくうちに、やがて吸収され、そしてついに忘れられた。私はヴァレンウッドの素晴らしいアイレイド遺跡を歩いた。ヘクタヘイム、ルレニルズ・フォール、ベララダ、ラエロリア、さらに1ダースもの遺跡。どれもあの離散から、2000年もまだ経っていないのだ。何らかの理由でアイレイドはある時偉大なるグラー・オークに従属し、その独特の文化は完全に消滅した。
ヴァレンウッドのアイレイドの絶滅を説明する時に、私の前任者であるヴェラスピドのゲルガラドは彼の「ディシェリテージの定説」、つまり何らかの理由により森のアイレイド同士で繁殖できなくなり、地元民のボズマーとの結婚でしか子孫を残せなくなったという説を重要視した。この説は確かにアイレイドの緩やかな消滅を説明するかも知れないが、残念なことにゲルガラドの定説は旧い物語や言い伝えに裏付けられているに過ぎず、事実による立証が欠けている。
シメレネ大学のセティス博士の反論はここで言及するに値する。彼女の説明はアイレイドの衰退を、以上に強いボズマーの飲み物を過剰摂取したことによるとしている。喪失への深い悲しみに傷つき易くなっていたアイレイドは、ウッドエルフの麻痺性のある飲み物に取りつかれてしまい、努力をやめてしまったとセティス博士は考えている。これに関しては、他の者達の勤勉な努力の誇示によってしばしば侮辱されるボズマー達自身から勧められたのかも知れない。
では我々の森にすむ血縁者は、アイレイドから何を学んだのであろうか?明らかに、高度な石細工と石工の技術の他はほとんどない。ハートランドのエルフの文化はウッドエルフの文化に永続的な影響をほとんど与えなかった様だ。ウッドエルフの意見は、エルデンルートの旧族長であるフォンロアにアイレイドについて尋ねたときの彼の返答である、以下の言葉に集約されている様に思える。「アイレイド?ああ、そうだな。いい奴らだった。だが自分達のことを真面目に考えすぎていたな。で、彼らに何が起きたんだ?」
ミストラル・アウレリアヌス・テリスコル 著
ヴァレンウッドで、金属武器はあまり広く行き渡っていない。いくつかの地域においては泥炭や石炭で金属を鍛造可能な温度まで焼き上げられるとはいえ、ウッドエルフのグリーンパクトは火床を燃やすための木の使用を禁止している。他のボズマーは骨の棍棒か、石か黒曜石の刃の斧や槍を使用する。
ヘヴンやポート・ヴェリンのような沿岸部の街では、ボズマーの剣士集団がアルトマーの顧問の指導と輸入された金属武器の安定した供給から利益を得ている。妙なことに、ハイエルフはおそらくタムリエルで最高級であるボズマーの加工角弓を認めていない。
相互便益協定としてドミニオンを評する者はいるが、ここでは相互憤激協定とみなしたい。剣士集団が好例である。ほとんどのウッドエルフは伝統的なアルトマーの軍事教育に当たる知的訓練を受けていない。彼らは容易に気を散らし、訓練の哲学的観点に対する我慢強さもない。剣士集団のシステムを「適切なる闘争」と評したアルトマーの指導者は、その技能をより身長が低くリーチの短い弟子に適応させることを拒否した。
そこで、ボズマーは彼らの伝統的な戦闘方法、弓術に戻った。14になると、ウッドエルフの若者は狩猟集団に同行できる弓の達人となる。長距離射手はジャクスパーと呼ばれる。ジャクスパーの弓の引き方は「掴み、放すまでが連続的な1動作」と表現される。これは非常に高度な射撃を維持するジャクスパーが可能にする。もっとも、そのような速さで精度を保つには何年にもわたる訓練が必要とされる。
ボズマーは他の種族が作った木の弓矢は何の問題もなく喜んで購入し、使うが、自身で作成することはグリーンパクトによって禁じられている。伝統的なボズマーの弓は角と腱から作成される。弦もまた腱から作られ、カジートのガットが最高だと言われている。そして、このためにヴァレンウッドの射手の間で高値がつく。
ボズマーの矢は骨から刻まれ、様々な種類の鳥の羽根をつけられる。ウッドエルフは使われた骨の源が矢の特徴に影響すると信じている。マンモスの骨の矢はターゲットをノックダウンさせるのに十分な一撃を加えると考えられている。鳥の骨の矢はより速く、正確に飛ぶ。センチタイガーの骨の矢は追加ダメージを見舞う。帝国の立会人による検証では主張されたような効果が再現できていないが、これを聞くとボズマーはただ舌を鳴らし、わずかに微笑むのである。
シサリオンの私的な日記より
オークは奇妙である
彼らはほとんどあらゆる面において大雑把で、残忍で、単刀直入である。性格に個人差はあるものの、ボズマーがオークに対していつも予想できるいくつかの事柄がある。私達の文化は、それらの一つも完全に理解できない。
様々な理由を除けば、彼らの血縁であるウッドオークはなおもよそ者である。皮肉なことにボズマーとの方が共通点があり、主にヴァレンウッドに居住している。
ウッドオークは強さと名誉を何よりも重んじるが、意味することの解釈は、彼らの北方の血縁であるオルシニウムとは一線を画す。例えば、ウッドオークにとって強さを持つことは、筋力と持久力を持つことを意味するのと同様に、敏捷さと可動性を持つことを意味する。この点についてオルシニウムオークの見解を聞いてみたいが、オルシニウムオークは重々しい歩兵連隊の一員の様に鍛えられており、ウッドオークは同じ軍の身軽な散兵の様なものであると考えていると想像する。
ウッドオークもまたボズマーの様に、森林地域において繁栄している。彼らはグリーンパクトを誓っていない。グリーンパクトを完全に無視し、それについての知識も欠如している。しかし、彼らが木で一杯の地区を進んでいくところを見たことがある。どうにかしてイフレに気に入られていても驚きはしない。
なぜこのことを心配するのか?私は最近ウッドオークのことばかり考えている。私の様に彼らに囲まれたことがあると、考えずにはいられないのだ。私は現地のバトルリーブより、彼らの領土を通って伝言を届ける様命じられた。発見されないことは容易いだろうと言われて。だがウッドオークは先に詳細に記述した通り、オークの中でもかなり異なった種類である。これまで私はボズマー以外に捕らえられたことがなかったが、彼らが私を捕まえた時、彼らは私の存在に木の上から気づいた。彼らは森の中で何日間も何かを警戒し続けていたに違いないという気がするの。だが私は準備ができており、同じ矢で攻撃してきた3人のうち2人を倒した。
私は不意を打たれた。3人とも倒せると予想していたからだ。だが最後の1人は、不可解で全くオークらしくないことに、稲妻の様に飛び出してきた。湾曲した手斧が森の中をくるくる旋回し、私の心臓のあったであろう場所を貫いた瞬間、私は跳び上がり地面を転がった。私は足に短剣が準備されているのを思い出し、私の手からナイフを振り落とす寸前だった手斧の二撃目をかわした。ウッドオークは唸って再び打ちかかった。その瞬間の私は、彼を血縁であるオルシニウムのオークと区別できなかっただろう。彼は敏捷さと私の種族の優雅さに、北方のオークの誓いに縛られた憤怒を組み合わせて戦った。私が一握りの土を彼の目に投げた時、彼は私の脇腹に深い傷を負わせた。私は痛みで半分視野を失いながら、暗い森の比較的安全な方へよろめいた。彼は悪態をついて唾を吐き、私を「森と戦わずして森を隠れ蓑にする卑怯者」と呼んだ。
その日の私にはハーシーンの加護があったに違いない。私は確かに戦いに負けたのだから。ウッドオークはあまりにもどう猛に戦い、森を嫌というほど知っていた。だが彼は二度と私を見つけられなかった。私は喜んで二回戦を受けて立とう。ただしボズマーの領土にて。
ファスター 著
ギル・ヴァ・デールで何が起こったのか皆が知っている。そして、同時に、誰も知らない。伝説では恐ろしいデイドラ公モラグ・バルが、ウッドエルフの街に足を踏み入れて焼き尽くした。神話の正確な意味は分からない。古代の物語は兵士を雇う軍隊のように隠喩を使うのだ。
もしバル自身がこの世界を邪悪な意志と共に訪れたなら、なぜ我らの生き残りがいるのか?彼についての説話を考えれば、ウッドエルフの街1つを完全に破壊しただけで止まったとは考えられない。タムリエルのすべてが炎に包まれるまで止めないだろう。デイドラ公の訪れと呼ばれるものについては、多くの場合この問題が疑問視される。
ひょっとしたら敵対するデイドラ公、神々、エドラの使途など、誰かが彼を止めたかもしれないという反論もある。しかしまた戻るが、この証拠がどこにあるのか?魔術師、歴史家、少なくとも、話したことのある誰もが、この情報のためのはっきりとした文章を参照できないでいる。
多くの歴史的な創作物の欠片はそこで起きたことを脚色しようと試みるが、その物語のどれもがはっきりと確認されない。街を襲った壊滅的な出来事への言及以外には。住民は殺されたのか逃れたのか。その後は誰も消息が伝わっていない。しかし、誰でも知っていることは、大きな火が犯人だったということだ。ウッドエルフの家への火がどれほど壊滅的な被害を与えるか、想像もできない。
今日、ギル・ヴァ・デールは有害な場所であり、思い切って近くを冒険するものも多くはない。しかし、具体的な敵がいる訳ではない。怯えと迷信に妨げられているだけだ。
(抜粋)
すべてのものは木へ
木から、すべてのものに
——アイレイドの預言
* * * * *
これを最初の講義にしよう。最初の木の根はこの地面の全てをつかんでいる。雨や風が来ても、根がしっかりと捕まえていてくれるだろう。その根の下にはニルンが横たわり、その主枝の上にエセリウスが輝く。彼女は床と屋根の両方を与えてくれている。その他の避難所など必要ないように。
* * * * *
アズラの根はゆっくりと流れる川の川岸に沿って伸びる。泥から離れてゆっくりとその根を引くと、根は湿った布に巻きつく。このため、植物は輸送可能かもしれない。十分な水分を保ってやれば、苔のバスケットや鉢に根づくだろう。
* * * * *
サラシェのエルフが初めてエルデンルートにきたとき、彼らはメリディアの輝ける色によって導かれており、それはこれが彼女の贈り物であり、祝福であると語った。その木の枝と根が手とすると、ムンダスとオーバーワールドに同時に届く。これによって、我々はムンダスの最も偉大な街を築き、彼女の最も誉れ高き、最上の種族であることを証明した。
* * * * *
夏の熱気の中では、クワズイモの葉はシルクで覆い隠しなさい。成長過程をそれだけ遅らせたならば、果実はより大きく、甘くなるだろう。イフレはその落ちた実を捧げものとして食べたそうだ。
アロメリア植物はこれに関係しているが、実を結ばない。ホテイアオイの例を知っているかもしれない。
* * * * *
彼等は到着したときに、こう言った、「これは偉大なる木の森だ。これは賢者の森であり、エルフの森である。我々は生命と知識を運んできており、偉大なる木の陰に、教室と蔵書庫を作ろう。理知の遺産を集めることができるように」
* * * * *
ニルンルートの種は鳥やその他の生物によってはるかに遠くまで運ばれるかもしれない。偉大なる木の近くでは、シダ類の葉が高く青々と茂っている。ずっと離れた場所では、ひょろひょろとして、そんなに丈夫ではない。
これもまた同様に講義しよう。
ミストラル・アウレリアヌス・テリスコル 著
街のウッドエルフは主として飲み物と帝国から提供されるぜいたく品に満足しており、密林の奥地に住む遠方の部族ははるかに残忍である。争いはヴァレンウッドの軒下で絶え間なく行われる。部族がカジートを盛んに襲撃していない時、彼らは気晴らしにお互いを襲撃しあっている。
文明化した人々と異なり、部族のボズマーは有意義な目的や建設的な目的のために戦わない。彼らには領土支配のため、物資のため、国境を守るために戦うというコンセプトが理解できない。ヴァレンウッドを傷つける輩を追い出すために包囲することはあれど、己のための征服にまったく興味がないのは明らかである。むしろ、ウッドエルフは、戦利品、自慢、退屈が目的でお互いに襲撃しあう。部族間の侵略者は典型的に、森林マンモスとサンダーバグを盗む。多くの盗品(または人々)は持ち主によって買い戻しが可能だ。
この突飛で変則的な戦争行為は殺しを目的とするものではない。死は生じるが、それは偶然であり、たいてい悔やまれるものである。多くの侵略は少しの戦いもなく終わる。気づかれることなく代価のため他の部族の村に忍び入り、品物を盗むことは技術の極地と考えられる。その品が大きければ大きいほど、名声は増す。何世紀にもわたるこの練習のおかげで、部族のボズマーのステルスは伝説的な腕だ。彼らの最も有名な詩の題名は、「メー・アイレイディオン」で、その意味は「何千もの利益を隠したるもの」である。
戦闘中に死が生じたとき、ミート・マンデイトの古代の規定は、倒れた敵を3日以内に完食しなければならないと要求している。この伝統には今や最も遠く離れた残忍な村のみが従っている。敵を大量に殺した戦士の家族は、その食事を手伝ってもよい。
伝統的な「弔い合戦」は、いまだ街の外のほぼあらゆるところで従われている。部族の一員が殺されたとき、彼ないし彼女は象徴的に侵略の際とられた人質によって置き替えられる。その部族は近隣の集団から捕虜を奪うだろう。もし、故人が部族において、特別に強く、信望のあるものだった場合、多数の捕虜が代わりに連れてこられるかもしれない。
彼らの価値を試すためということになっている肉体的な責め苦の期間の後、捕虜は喜ばしくクランに迎え入れられる。恐ろしい虐待から愛ある抱擁というこの突然の手のひら返しは、苦しみに忠実なボズマーの捕虜の弱った知性を混乱させる。伝統的に犠牲者は死亡したメンバーの地位、所有物、そして家族を与えられる。もっとも、この慣行は最近滅多に履行されない。
様々な宗派:ウッドエルフ
帝国大学 ミカエル・カルクソル修道士 著
八大神
(ただし、帝国の外ではほとんどのボズマーが神を八柱に限ろうとしない):
アーリエル(アルドマーの王):
エルフのアカトシュはアーリエルである。アーリエルはアヌイ・エルの魂であり、同様にアヌイ・エルは「すべてのもの」のアヌの魂。ほとんどのアルドマーの神々の長である。大抵のアルトマーとボズマーがアーリエルの直接の子孫であると主張している。唯一知られる欠点として、アーリエルは定命の者の次元の創造で役目を果たすことに同意したが、それは永久なる霊魂の世界からエルフが永遠に分断される行いであった。その埋め合わせをするべく、アーリエルは神話の時代に最初のアルドマーを率いてロルカーンの軍と戦い、強大な力に打ち勝って、アルトマー、アルトモラ、旧エルノフェイの、最初の諸王国を建立した。その後彼は、信奉者たちが定命の者の次元から逃避するのに必要な道のりを学べるよう、皆が注目する中で天に昇った。
イフレ(森の神):
ボズマーの神々の中で最も重要な神格。時の竜アカトシュが神の王であっても、イフレは「現在」の霊魂としてボズマーに崇拝されている。ウッドエルフによると定命の者の次元の誕生後、何もかもが混沌に陥っており、最初の定命の者たちは植物に姿を変えては動物に変化し、再び戻ることを繰り返していた。そこでイフレがアース・ボーンズを意味する最初のエルノフェイ、もしくは「アース・ボーンズ」に姿を変えた。これら自然の掟が確立した後、定命の者たちは新たな世界を理解することで、ある程度の安全を確保できるようになったという。イフレは時折、語り部とも呼ばれるが、これは彼が最初のボズマーに教えた講義のためである。ボズマーの一部はグレート・エフェクト(ワイルドハント)に利用できるこの混沌の時代の知識をいまだに所持している。
アーケイ(輪廻の神):
アーケイは埋葬と弔いの儀式の神、そして時折、四季とも結びつけられる。彼の司祭は死霊術師とすべての形態のアンデッドの断固たる敵である。アーケイは、ロルカーンのうるさく、詐欺的な監督下の神によって世界が創造される前には存在していなかったそうだ。このため、定命の者の神と呼ばれることもある。
ザルクセス:
ザルクセスは先祖と秘密の知識の神である。始めはアーリエルの書記だった彼は、時間が始まって以来、小さいものも大きいものも含め、これまでのすべてのアルドマーの偉業を記録している。妻のオグマは、歴史上自分が気に入った節目から作り出した。
マーラ(愛の女神):
万物の女神といっても過言ではない。起源は豊穣の女神として神話の時代に始まった。創造を生んだ宇宙の女性の本源である、「アヌアド」のニールを時に連想させる。ボズマーにとっては、アーリエルの妻。
ステンダール(慈愛の神):
慈悲と公正な規範の神。アルドマーの初期の言い伝えの中では、ステンダールは人類の弁証者である。
ズェン(労苦の神):
報酬と報復の両方を含む、ボズマーの応報の神である。研究によれば、アルゴニアンとアカヴィリの両方の神話に起源があるようだ。おそらくコスリンギの船乗りたちによってヴァレンウッドに伝わったのだろう。表面上は農業の神であるが、ズェンは時折、より高次の存在であることを証明する。
バーン・ダル(山賊神):
カジートから借りてきた盗賊と物乞いのいたずら好きな霊魂。
主なボズマーの教団の追加神:
ハルマ・モラ(ウッドランドの男)
悪意のあるいたずら好きの霊魂(さらに増えた!)、そのボズマーの信者はデイドラのハルメアス・モラと混同しないようにと言っている(他のものはこの主張を嘲笑している)。
ジョーンとジョーデ(小月神と大月神):
アルドマーの月の神、彼らは幸運と悪運の両方の運の霊魂である。
ハーシーン(ハンツマン、獣人の父):
偉大なる狩りのマスターであり、全てのライカンスロープの王。ハーシーンの崇拝者たちは他のデイドラを崇拝するものたちのように無慈悲などではなく、つねに獲物に少なくとも1回は小さな脱出の機会を与える。
ロルカーン(不在の神):
この創造者、詐欺師にして試練を与える神は、タムリエルに存在するどの神話にも登場する。彼の最も一般的に知られる名前はアルドメリの「ロルカーン」か破滅の太鼓である。彼は父親であるパドメイが始まりの場所に不安定さをもたらして現状を乱したのと同じように、原初の魂を説得、もしくはけしかけて定命の者の次元を生み出させた。その世界が実現すると、ロルカーンは神の中心地から離れ、伝承によっては不本意ながらという説もあるが、原初の神々の創造地をさまよう。彼と彼の「計画」については文化によって解釈が大きく違う。エルフにとっては崇高なる力において最も不浄な存在であるが、それは彼らの精神世界へのつながりすべてを永久に壊したためである。言い伝えにおいて彼はいつでもアルドマーの敵であり、ゆえに初期の人間にとっては英雄である。
帝国大学 ミカエル・カルクソル修道士 著
その異端の姿にふさわしく、カジートは多くの神々を崇拝し、帝国の八大神のみを崇拝する者はごく少数である。
八大神:
アルコシュ(猫たちの竜王):
前リ・ダッタ王朝アネクイニネの神格。アルトマーのアーリエルの変化形の1つであり、それゆえアカトシュ——カジートの始祖にとっての文化的英雄である。彼の崇拝はリドル・サールの確立と重なり、エルスウェアの未開拓地方では、今でも絶大な人気を誇っている。その姿は恐ろしいドラゴン、カジート曰く「ただの本物の大きな猫」として描かれている。神話の時代、ペリナル・ホワイトストレークの初期アルドマーの虐殺を撃退した。
リドル・サール(双子月の舞踏):
カジートの宇宙秩序の神格、リドル・サールは、預言者にしてたてがみのリドサーリ・ダッタによって明らかにされている。単独の存在というよりも生き方の一連の指針となっているが、彼の化身は神のしがない伝令として出現するのを好んでいる。また砂糖の神としても知られる。
ジョーンとジョーデ(小月神と大月神):
ともに、月の象徴の神格、運命、そして幸運。カジートは信仰の中で、ジョーンとジョーデは月のラティスまたはジャ・カージェイの姿である。
マーラ(母猫):
万物の女神のような存在。本来は豊穣の女神だが、カジートは「アヌアド」のニルニと習合させ、女性的宇宙原理とした。アルコシュの恋人である。
スレンダル(子猫、慈愛の神):
スレンダルの領域には慈悲、事前、そして正義を含む。アルドマーの初期の言い伝えの中では、スレンダルは人類の弁証者である。
ケナーシ(風の神):
ケナーシは最も強い空の霊魂である。いくつかの伝説によれば、定命の者の次元を創造するというローカジュの計画に最初に賛同し、虚空にその創造のための空間を提供している。また、ローカジュの聖なる光以前には起こらなかったといわれる現象、雨と結びつけられている。
バーン・ダル(山賊神):
大多数の地域において、バーン・ダルはあまり重要な神ではなく、盗賊と物乞いのいたずら好きな精霊である。エルスウェアにおいてはより重要であり、追放されし者とみなされた。この側面において、バーン・ダルは、器用さ、または辛抱強いカジートの、どたんばの計画で常に彼らの(エルフまたは人間)敵のたくらみをひっくり返すという、命知らずの特徴となる。彼はまた、カジートの行商団であるバーンダリ行商人組合にその名を貸している。
主なカジートの教団の追加神:
マグルス(猫の目、太陽神):
カジートにおけるマグナス、太陽と魔術の神、カジートの魔法使いに人気がある(たとえアズラーほどではなくとも)。
ラジーン(追いはぎ):
盗賊でいたずら好きな神、満悦の虚言者、カジートの語り部たちから大変愛されている。ラジーンはセンシャルのブラック・キエルゴで育った。エルスウェアの歴史上、最も有名な強盗であり、眠っている女帝キンタイラの首からタトゥーを盗んだといわれている。
アズラー(暁と黄昏の女神):
カジートの魔法使いの守護者、その時折みせる計略のため恐れられるよりも尊敬されている。神話によれば、彼女はアルドマーの系種から外れたカジートの始祖と結び付いている。
シェッゴロス(スクゥーマの猫、狂神):
狂気の王は、正気と責務の拘束にいらだつ猫人間の陰の側面を強調している。
ハーシーン(腹を空かせた猫):
狩りとスキンチェンジングの神、獰猛さと狡猾さが敬愛されている。
サンジーン(血の猫):
死と秘密の殺人の神。サンジーンの地位は猫の目からは隠されていて見えない。「誰が血の滾りを制御できるのか?」
ナミイラ(深い闇):
生けるものの敵、崇拝されているというよりも鎮められている。
ローカジュ(月の獣):
前リ・ダッタ王朝アネクイニネの神格であり、たやすく不在の神、ロルカーンと同一視された。この創造主——いたずら好き——試験官な神格はすべてのタムリエル的な神話の伝承の中にある。彼は父親であるパドメイが始まりの場所に不安定さをもたらして現状を乱したのと同じように、原初の魂を説得、もしくはけしかけて定命の者の次元を生み出させた。その世界が実現すると、ローカジュは彼の神的中心から隔離され、伝承によっては不本意ながらという説もあるが、原初の神々の創造地をさまよう。彼と彼の「計画」については文化によって解釈が大きく違う。伝説の中で、彼はほとんど常にアルドマーの敵であり、そのため、初期人類の英雄である。
嵐がサラジャ船長の計画に予期せぬ変更をもたらした。彼女は海賊船の裂けた帆と折れたマストを見つめた。つい最近の略奪品が流されただけでなく、風がなくなり修理を終えるまで進めなくなってしまった。
「座礁したも同じですよ」。一等航海士のフルツが険しい顔で言った。
「船がいたら、乗ってる奴らに降りるよう話をつけるさ」と船長はしわがれ声で笑って答えた。「船は動けないがまだ浮いてる。お前は悪いことばかり考えてるな」
「だとしてもずっと…あれは船では?」
サラジャは振り返りニヤリと笑った。「未来の我々の船ってことだ」
フルツは距離を見て思慮深く言った。「そう遠くはない。ボートを降ろしましょう」
すぐに乗組員のカジートたちは船に乗り移る準備を整えた。砂州に錨を降ろしたその船は無傷なようだ。近づきながらサラジャは動きがないか船と空の境を見る。静かなものだ。略奪の機は熟した。
フルツが暗い船体をゆっくりと探りながら登っていく。仲間たちが網を張り乗船できるよう、こちら側に警備がいたら彼が抑えなければならない。そっと甲板に上がると、フルツは船首と船尾にちらりと目をやった。警備はいない。手すりから身を乗り出して仲間に合図を送る。
次々と海賊たちが乗船し、武器を抜いて音を立てずに歩き回る。静かな船に全員が乗り込んだ。
「遊覧航海には大きすぎますね」とフルツが船長に囁いた。「それに武装の割に静かすぎる」
サラジャは船室の扉を示して頷いた。「あそこに隠れてるんだろう」と囁く。「我が船から降りてもらおうじゃないか」
ときの声を上げてフルツが船室のドアを蹴り破った。爪を出し武器を構えた海賊たちが彼に続くが、10歩も行かずに足を止めた。中は静かで暗い。
「どうなってるんだ?」
「早く!明かりをくれ!」
海賊の1人がほくちと火打ち石を打つ。ゆっくりとたいまつを掲げると、室内いたるところにある鏡にほのかな明かりが映り込んだ。
「なんてこった!コスリンギだ!」
「コスリンギの死体だ!」
サラジャは壊れた船に戻るよう全員に命じるが、もう手遅れだった。紅き船を見て、生きて戻った者はいない。乗組員たちは見る以上のことをしたのだ。
公文書保管人 エンダラナンデ 著
アルドメリ・ドミニオンの多くの命がヴァレンウッドで生まれている。緑の森に覆われ、多様な動植物で溢れかえるこの地は、古きエルノフェイから来た最初のエルフたちの一部にとっては故郷である。
時と世代を経て、この初期の移住者たちは森に適応していった。新たな獲物たちを研究してステルスや巧妙さを身につけた。やがて彼らはボズマーことウッドエルフとなった。アルトマーより小柄で、勤勉かつ機敏な彼らは射手や斥候として名高い。
果敢な戦闘員としてのボズマーにはグリーンパクトという独自の強みがある。ボズマーの伝説によると、森の神イフレが敵を破る方法を授けたのだという。ただしヴァレンウッドの植物を食べたり傷つけたり、収穫することはしないのが条件だ。
グリーンパクトの一つの結果であるワイルドハントも有名だが、これについては語らないでおこう。
ボズマーはよその土地から救いを求めてヴァレンウッドに来た者を歓迎する。この点について彼らは、近縁の生粋のアルトマーとは大きく異なる。我々は尊厳を維持しようとするが、ボズマーは若木のようにたやすく他者の意志に従うのだ。
乱暴で愚直だが、このウッドエルフたちはドミニオンにとって不可欠な存在である。我々の同盟の繁栄のため、失うわけにはいかないのだ。
抄録
グウィリム大学の高名な歴史家 ホムフリー 著 第二紀445年
南部地域におけるハートランド・ハイエルフの輝かしい集落についての調査
…ここで、注目に値するセイヤタタルの街々や現代のブラヴィルの元になったアイレイドの集落に触れるべきだろう。これらはヘヴン、ウッドハース、シルヴェナールといったヴァレンウッドの街に並び、いずれも栄えていた。現在シロディールの中心である場所に白金の塔が建った後、貿易が活性化したことによるものだった。
特に注目すべきは、エルデンルート近くの大学や蔵書庫だ。その地のアイレイドはエルデンの木、別名始まりの木とその周辺に街を築いた。この木がヴァレンウッド全域に種をまいたのだと多くの者に信じられている。
ヘヴンとウッドハースはマオマーの攻撃で徹底的に破壊された。マオマーはヴァレンウッドのアルドマーの進んだ文明に配慮することはなかった。内陸へと進軍した彼らはエルデンルートを居留地にしただけでなく、あの大樹までも奪ったのだ。あのように荘厳なものを傷つけ奪うとは、なんと不埒な部族か。
マオマーはアルドマーの民族的純粋性を保つ伝統を破り、ピャンドニア先住の野蛮な部族と交わった可能性がある。それならば彼らの凶暴性や、本土の偉大なエルフ文化に対する敬意のなさも説明がつくだろう。
ウィローレッグは足首をさすった。折れてはいない。捻っただけだ。彼は慎重に足に体重をかけ、立ち上がった。よし。耐えられそうだ。ヴァレンウッドを旅しながら、よく転んでいた。彼の片足はもう一方より細く、時々それを忘れてしまうのだ。
「さて、ここはどこか突き止めるか」。ウィローレッグは言った。頭上高く出揺れる木々の葉を見上げると、その間に青空が時折見え隠れする。ウッドエルフでなければ、そんなわずかな眺めからは何もわからない。ウィローレッグはすぐにまた歩き始めた。
すぐに、自分だけではないと気付く。彼の左手に別のウッドエルフがいた。ぼさぼさの濃緑色の髪を顔の周りに垂らしている。一人旅に慣れている彼は、その静かな同行者が彼を追い越さないよう、歩く速度を合わせていることにも気が付いた。
「あんたもファリネスティに?」。ウィローレッグは訊ねた。
「ああ」
ウィローレッグは気さくに続けた。「移動前に夏の地に着けるといいんだが」
緑髪のウッドエルフは言った。「大丈夫だろう」。これ以上話したくなさそうな声音にウィローレッグは黙って頷き、歩き続けた。
彼らはその日ずっと、黙ったまま一緒に旅をした。ウィローレッグが休憩しようと止まると見知らぬ男も足を止めた。ウィローレッグは水と干し肉を分けてやった。そしてまた、残りの旅路につく。木々がまばらになっていき、ファリネスティがぴったり収まった空き地に出た。
空き地の端で、見知らぬ男は立ち止まりウィローレッグの腕に手を置いた。驚いたウィローレッグは、その緑髪のエルフの肌がザラザラで硬く、樹皮のようだと気付いた。
「ここにいろ」と男は言い、小声で呪文を唱えた。
ウィローレッグは動くことも話すこともできず、男がファリネスティの根元へ行き、表面に額で触れるのを見ていた。木の街は震えると、大地から根を上げてゆっくりと移動を始めた。
緑髪のエルフがファリネスティを連れて歩き去ると、ウィローレッグはかけられた奇妙な呪文が解けるのを感じた。そして手足のうずきとともに動けるようになった。下を見た彼は細い片足が治っているのに気付いたが、靴はなくなっていた。
「ウッズマー」だ。ウィローレッグは畏敬の念を抱きつぶやいた。ウッズマーは森で不用心に迷った者を導く神話の存在だが、道を知る者に恵みを授けるとも言われている。
ファリネスティは南へ移動し、ウィローレッグはどこへ行ったのかと考えた。
発明家テレンジャーによる収集
発酵飲料で広く知られるバルクワステンには、知る中でも特に気さくなボズマーが暮らしている。種族の特徴でもあるが、彼らは勤勉でたいていの人とうまく付き合える。彼らの醸造方法の調査を終え、地元の家に泊めてもらった。
歴史家として私は、ユーモアを研究すればその文化の多くを学べると考えている。そこで将来の研究のために彼らのジョークを書き留めておく。彼らの娯楽をよく知ればきっと、ボズマーの考え方をより深く理解できるだろう。
スケルトンが酒場に入ってきてこう言ったんだ。「ロトメスをくれ。あとモップも」
Q:なぜ猿が木から落ちたか?
A:死んでたから。
Q.茶色くてボーッとしたものは何?
A.棒だろ。
人物1:俺が木か聞いてみな。
人物2:お前は木か?
人物1:いいや。
Q.レイヴンのどっち側に一番羽毛が生えてる?
A.外側。
Q.頭が3つあって、醜くて臭いものは何?
A.おっと違った!君の頭は3つないな!
Q.羽のように軽いけど、あまり長くは持たないものは何?
A.息。
Q.スローターフィッシュがいるのにボートが沈みかけるのを想像して。どう助かる?
A.想像するのをやめる!
Q.なぜサンダーバグは生肉を食べるのか?
A.料理を習ったことがないから。
Q.なぜハチはブンブン言うのか?
A.口笛が吹けないから。
我が淑女よ目覚めよ、朝が来た
あなたを絹で着飾ろう
髪には羽を編み込んで
足には革の履き物を履かせよう
我が淑女よこちらへ、愛が待っている
今日この日、テーブルを囲もう
宴のテーブルの上は
美味なるごちそうばかり
グリーンレディ、我が淑女よこちらへ
客人たちは集まった
そして陽気で楽しい音楽が響く
イフレの子らはなんと恵まれているか!
別名「裸しっぽ」のナラル 著 日付のない回顧録
子供たちよ、旅で出会うウッドエルフたちの奇妙な性質について理解できるよう、ナラルがこれを書き残します。彼らの恨み深さには気をつけて!
最上位のエルフ2人の結婚の宴のため、何ヶ月も前から準備が始まりました。彼らの結婚は森とその人々が一つであるという証。そのためとても大きな宴なのです。
商人として、王族へのちょっとした食べ物の用意をよく依頼されていました。名は挙げないまでも率直に言えば、ムーンシュガーをまぶしたビスケットをエルデンルートの宴のために何度も用意していました。でもこの結婚の宴では、私にできる以上のことをたくさん要求されて、土壇場での変更を余儀なくされたのです。
牛のスープ50樽については、根菜スープを足すことで30樽分を用意して埋めあわせました。ウッドエルフは死んだ素材にはこだわらないので、手に入る骨なら何でもよしとして出どころは聞かずに骨髄10カゴ分を用意しました。
でも小麦粉を使わないケーキ?そんなの聞いたこともない!それが作れるというウッドエルフのパン職人たちに相談しました。ウッドエルフはよそ者に用意されたのでなければ植物は食べません。それなのに小麦粉なしのケーキを出せというのには戸惑いました。そしてレシピをいくつか入手し卸売業者に確認すると、期限内に必要な量を揃えられる者はいませんでした。
かくして私はケーキ作りを始めました。卵のかさ増しをするため水で薄めます。その緩さを消すためにアロールートと粉末のフラックスシードを加えました。砂糖はケーキで最も高価な材料だったので、使う量を減らすために石灰の粉を足しました。味はケーキに似ていました。とても似ていた。これはかかった時間も金もわずかで、ケーキだけで儲けは2倍となったのです。
でもバターの代用品にしたラードと泡立てたフラックスシードオイルが、多くの客人の腹とこの私に破滅をもたらしました。
ウッドエルフは以降の契約をすべて打ち切っただけでなく私の尾の毛をそり、あわてて逃げた私の所持品や品物も奪ったのです。
子供たちよ、ウッドエルフの宴に商品を提供してはいけません。必ず辛い結果に終わります。
「このように混ぜなさい」とラカールが言った。湿った粘土とハーブを規則的な動きで乳棒ですりつぶす。「塗料を作るという行為そのものが祈りなの」
ヤシールは自分の石の乳棒を掴むと、器を引き寄せて女司祭をまねた。
叩く!上げる!一つかみのハーブを器にばらまき、また叩く!オークたちは膝をつき合わせて側に座り、曲げた膝で器を支えている。
ラカールは動きに合わせて、そっと詠唱した。徐々に一団の動きが強さを帯びてくると、彼女の声はそれに釣り合う大きさになった。
「モーロッチは!」叩く!
「我々の行いを…」上げる!
「…見ている!」ばらまく!
部族の化粧の準備をするという名誉は、少数の族長の娘たちのものだった。ヤシールはこの輪に加わり座ったことはない。これまではハーブや粘土を集めていて、それ以上はなかった。それが今はラカールの右側という栄誉ある位置に座っている。若いウッドオークは誇りを感じた。彼女は明らかに、見習いに選ばれたのだ!
「モーロッチは!」叩く!
「我々に…」上げる!
「…血をくださる!」ばらまく!
最後の言葉で女たちは頭を後ろにそらせ、モーロッチの叫びを解放した。喉の奥から出た遠吠えが木々の間や近くの崖に響き渡る。ラカールは仕事の完了を合図した。
部族の者たちが列を成す。できたての戦赤の粘土で化粧を施してもらうのだ。ラカールは戦にふさわしくない、あるいは向かないと見なした者を脇へとよけさせる。彼らは化粧の儀式に参加することは許されない。
ラカールに列から出るよう合図され、ヤシールは抗議の声を上げようとしたが口を堅くつぐんだ。ラカールの判断に異議を申し立てるのは不名誉とされる。混乱した怒りで頭を下げたまま、ヤシールは選ばれなかった少数のオークに加わった。
ラカールは選ばれなかった者たちに目をやり、ヤシールを自分の横に連れ出した。「モーロッチは次の儀式を行う者にお前を選んだの。剣を持ちなさい。忘れないで、モーロッチはお前を見ています」
ヤシールの手を引いてラカールは空のボトルの上にかがみ、伸ばした首に若いオークの剣を滑らせた。真の戦士の聖なる血で次の化粧を施すため、彼女が意識を失おうとしていてもラカールの手は緩まなかった。
ネレイドが私の夫を奪った
私の夫をネレイドが奪った
海辺の乙女には用心して
次にあなたが慰められないように。
私たちは無邪気に海岸をぶらついて
貝を集めたり石をひっくり返したり
そして声が聞こえ今の私は嘆く
その声、歌は、あんなに高い声で!
すぐに夫は足を速めた
「待って」私は叫んだ「ネレイドよ」
しかし夫はさらに足を速めた
彼女の甘い呼び声には逆らえない。
手遅れだ、ああ悲しいかな、もう遅い
彼の心は傾き、もう深い虜
彼の恐れは運命のように現実に
彼はネレイドの呼び声に従った。
そして彼女は美しく残酷で無分別
姉妹の元へ泳ぎながら叫んだ
「あなたの夫はつまらない
返してあげるわ、背中曲がりの奥さん!」
ネレイドが夫を奪って
すぐに返してきた
かわいそうな私、あの日から
望まれないのに彼の側にいる!
変化は風の中に。木々の葉や、水の流れの中に。動物たちですらその違いを感じ取れる。「民の声」は沈黙していた。
シルヴェナールは死んだ。予想されてはいたが、多かれ少なかれ騒動を伴う事態だ。
優先すべきは街か、それともシルヴェナールか?答えを知る者も気にする者もいないようだ。かつて混沌があり、何世代も続く社会構造が現れた。いや、社会構造のようなものだ。むしろ組織だった狂乱と呼ぶほうが近い。
次のシルヴェナールである若い男が、マントを手にしようとする。
「彼らが待っています」と従者が言った。彼女は発酵したスープの入ったアラバスターのゴブレットを差し出す。
「わかっている。少し待ってくれ」。インデニールは儀式のカップを受け取る前に目を閉じ、深く息をした。
シルヴェナール。公式には結婚までこの称号は彼のものではなかった。だが彼はすでに変化を感じることができた。耳元での蛾の羽ばたきのように、新たな身分が彼の脈拍を速めてインデニールに囁いてくる。くすぐったい気分だ。
シルヴェナールはウッドエルフの代表だ。彼もしくは彼女は、民の意思を感じそれに従って行動する。この関係は双方に作用する。彼もしくは彼女は、ウッドエルフに影響を与えうるのだ。
彼の民は緊張していた。
タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き
(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)
この小論集は、タムリエルの主要文化の1つひとつにつき、それぞれを他と分かつ象徴的および様式的特徴を芸術作品や工芸品から抽出し、大づかみに概観しようという試みである。論考の焦点は、さまざまな種族の携行耐久財、すなわち、衣類、装飾品、武器防具などに当てられることになるだろう。なぜなら、それらには個々の文化の表情が如実に現れるからだ。この小論集が完成した暁には、アルケイン大学の初等民族誌学コースのカリキュラムで教材として使われる予定である。
本稿の筆を起こすにあたって、まずはハイエルフ、すなわちサマーセット諸島に隠遁するアルトマーを取り上げたい。というのも、タムリエルの文明は旧エルノフェイのアルドマーによってもたらされたという議論が可能であり、実際、そういった議論がしばしばエルフたちによって提起されるからだ。確かに、サマーセット諸島のエルフが神話紀の先祖から受け継いだ遺産を守るために意識的な努力をする限りにおいて、第一紀以前の社会の伝統に最も近いのは、彼らの伝統であることは間違いない。
もっとも、だからといって、最初のアルドマーがこの大陸にやってきて以来数千年のあいだに、ハイエルフの文化が次第に本流からはずれ、さまざまに枝分かれしていないとは言えない。なぜなら、それは事実に反するからだ。むしろ、現在のアルトマー文化を歴史家の目で見れば、そこには文化的起源の輪郭がかろうじて見て取れる、と言えるに過ぎない。
今後の研究の端緒となるだろうこの仕事において、私はここアルケイン大学で教鞭を執る変性意識学の泰斗、モリアン・ゼナス教授から助言を賜る幸運に恵まれた。ゼナス教授は本学の教授陣で唯一、サマーセット諸島を訪れた経験があり、具体的にはアルテウムでしばらく過ごしたほか、ダスクにも乗り継ぎの際にごく短期間ながら滞在している。
聖堂地区にある教授の住まいを初めて訪ねたときには少々恐れをなしていた私だが、実際に会ってみると、教授は気難しいという評判が嘘のように魅力的な老紳士だった。モリアン(教授がそう呼んでほしいと言うので、あえてこう書くが)が夕食を食べていくよう勧めてくれたので、私は教授の弟子で無駄口をきかないアルゴニアン、セイフイジ・ヒッジャの給仕で供応にあずかった。
モリアンの説明によると、ハイエルフはシンプルな美しさをそなえたデザインを旨としており、流れるような線は自然界の優美な造形を反映しているのだという。多かれ少なかれ抽象的に描かれた鳥や花、貝殻といったものはよくあるモチーフで、それらが豊かな、それでいて抑えた色調で描かれる。鎧には鱗や羽毛の模様が刻まれ、重いキュイラスや兜にさえ、翼や嘴を模した意匠が凝らされる。
金属製品にはしばしば、「碧水晶」と呼ばれる緑がかった半透明な材質でアクセントが添えられる。これは一種のヒスイ様黒曜石であり、アルトマーにしか知られていない秘密の手法によってそれを加工するすべを、エルフの鍛冶屋たちは習得したのである。冷やせば切れ味鋭い刃になるほど硬い反面、可鍛性を持たせることができるため、ほぼどんな形にも整えられる。ハイエルフは装飾を凝らした武器防具の作製に、この碧水晶という素材を広く用いている。
夕食のあと、2人でシロディールブランデーのグラスを傾けながら、私はモリアンから質問攻めにされた。モチーフに関する研究計画のこと、私自身のこと…。これは面映ゆくもたいへん嬉しい経験だった。もう一度彼と話をする口実を見つけなければ。
タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き
(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)
ハイエルフの次はダークエルフについて考察するのが自然だろう。なぜなら、モロウウィンドに移り住む前の彼らの故郷はサマーセット諸島だからだ。それゆえ、ダークエルフの文化はアルトマー文化から枝分かれしたものと考えることもできるが、多くの意味で、ダンマーの文化はサマーセット文化の延長というよりは、それに対する反発として生まれたものと言える。
ところで、モリアンからディヴァイス・ファーというダークエルフを紹介された。教授によれば、「変性意識状態による逗留」なるプロジェクトを手伝ってもらっているパートナーだという。いったいどういう内容なのか見当もつかないが、それでもディヴァイス本人からダンマー文化のことならなんでも訊いてほしいと言われたので、私としては断る理由もなかった。
優美さを重んじる程度においてはダークエルフもハイエルフに引けを取らない。が、それ以外の点では、2つの種族の様式はこれ以上ないほど違う。モロウウィンドは風光明媚なサマーセット諸島とは比べものにならないぐらい自然環境が厳しく、その過酷さがダンマーのデザインに反映されているのである。ダークエルフもまた自然からインスピレーションを得るが、鳥や植物のモチーフに代わって、ダンマーはモロウウィンドに生息する巨大な昆虫の甲殻が持つ、曲面や尖りで構成された形状を模倣する。それらは優美ではあるが、同時に恐ろしげでもあり、ダンマーが生存をかけて日夜戦っていることを絶えず思い出させてくれる。
黒檀はダークエルフの重装鎧に好んで用いられる素材だが、軽装鎧や軽盾も、素材の鋼や合金鋼をわざわざ暗い色に塗って黒檀のように見せる場合が少なくない。衣服は鎧も含め、しばしば肩や頭頂部あるいは腰部を膨らませてアクセントとし、さらにはドワーフ文化から拝借したとおぼしい重層的な幾何学模様をあしらっている。もっとも、ダンマーがいかなる形であれドゥエマーの影響を受けているなどという考えに、ディヴァイスは苛立ちを隠さないのではあるが。
実を言うと私は、このヴァーデンフェル出身のソーサラーが、妙に抗いがたい魅力をそなえていることに気づいている。彼はさほど年配に見えないが、少なくとも60歳は超えているだろうモリアンのことを「あの青年」と言う。いったい彼はいくつなのだろう?いや、気になるところは他にも山ほどある。心の底まで見透かされそうなあの赤い眼…あの眼で見つめられると、少々ドギマギしてしまう。
そのディヴァイスから、波止場地区にあるボズマーの酒場に行ってみないかと誘われた。この機会に一度、足を運んでみるのもいいかもしれない。
タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き
(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)
次はエルフの項のしめくくりとして、ヴァレンウッドのボズマーを取りあげたいと思う。類縁に当たるハイエルフやダークエルフに比べて世界全体におよぼす影響力は劣るものの、数ではタムリエルに住む他のエルフ族すべてをしのぐ。ウッドエルフはエルフにしては多産であり、あえて言うなら、他よりも色好みの気がある。
ウッドエルフが自然のモチーフを好むというのは月並みな指摘だが、単にそれだけではないことを私は学んだ。そうした自然のモチーフが埋め込まれ様式化されたスタイルには、彼らのイフレ崇拝と「アース・ボーンズ」にまつわる物語が反映されているのである。ボズマーの信じるところによれば、イフレがすべての動植物と人々に名前を与える前、自然はことごとく混沌に包まれていたという。名前こそが、各動植物種に恒久的な姿形を与えたのだというのだ。だからこそ、各動植物種はイフレから与えられた原型を表す、独特かつ理想化されたモチーフによって描かれるのである。
このことは、ウッドエルフが手掛ける芸術、工芸、衣服のいたるところに現れるデザインに反映されている。こうしたデザインには膨大な数のレパートリーが存在する。というのも、ボズマーの世界に生息する動植物各種には、それぞれ固有のデザインがあるからだ。もっとも、こうしたデザインの使い方や描き方は文化的にきっちり決まっていて、バリエーションが生まれる余地はほとんどない。これら様式化されたいわば絵文字を正統的でないやりかたで用いることは不適切のそしりを免れず、はっきり言えば「誤り」と見なされる。
その他のことにはひどく無頓着で奔放そうな種族だけに、矛盾して見えるかもしれない。けれども、これは誇張でもなんでもなく、私も実際にこの目でそれを確かめる機会に恵まれた。帝都には相当数のウッドエルフがいて、波止場地区には「酔いどれホタル亭」という酒場を中心に、小さなボズマー街が形づくられている。モリアン・ゼナスの実験を手伝っている魅力的なダークエルフの魔術師ディヴァイス・ファーから、ボズマー街に行ってみないかと誘われた私は、良い機会なので足を運んでみることにした。
ディヴァイスと波止場地区に行く約束の日、モリアンの住まいを訪ねると、玄関の扉をあけてくれたのは教授自身だった。ちょっと書斎に寄ってほしいと言われ、いささか面食らうとともに、モリアンのいでたちにも私は驚かされた。なんと彼は星座のシンボルをあしらった真新しい絹のローブに身を包み、髪の毛はきちんと刈りそろえて櫛を通し、かすかにラベンダーの香りまで漂わせていたのである。それまで、焦げ痕と染みだらけのみすぼらしいローブを着ているところしか見たことがなかったので、その変わりようには目をみはらされた。
書斎で話を聞いてみると、教授はディヴァイス・ファーと波止場地区に行くのはよしたほうがいいと言うのだった。私は思わず吹き出してしまい、教授の顔を赤らめさせたのだが、そのあときちんと、自分は子供ではないし心配にはおよばないと告げた。モリアンはやや狼狽し、ぶつぶつと詫び言を口にした。それから察するに、どうやら教授は私が波止場地区に足を運ぶことよりも、ディヴァイスと一緒に過ごすことのほうが気がかりなようだった。私は彼の気持ちを傷つけたくなかったので、まっさらなローブをほめた。モリアンが相好を崩すのを見てから、私はディヴァイスが待つ客間に足を向けた。
これ以上だらだらと書き連ねるのもはばかられるが、それにしてもあの夜は素晴らしかった。酔いどれホタル亭はにぎやかな店で、ディヴァイスは女将のレディ・ビニエルに紹介してくれた。彼女は一緒に飲もうと言って譲らなかった。出しものは「ビニエルのボズマー風バーレスク」で、これがとても愉快だったうえ、ひどい味がするウッドエルフの飲みものはどれも受けつけなかったものの、バグスモークのパイプをディヴァイスと回し喫みすることは断らなかったものだから、私は妙な具合に陽気になってしまった。
実を言うと、ボズマーが「不適切なデザイン」をいかに蔑むかの格好の例を目の当たりにすることができたのも、このパイプのおかげだった。というのも、私がディヴァイスのパイプを喫っているのを見て、レヤウィンの船乗りが、骨を削ってこしらえた「純ヴァレンウッド製」だというパイプを買わないかと持ちかけてきたのだ。するとレディ・ビニエルが、それは偽物だから騙されちゃいけないよと忠告してくれた。船乗りは抗議したが、この小柄なウッドエルフ女性が、火皿にイムガが彫ってあるようなガラクタがまともな品でないことは、どんな馬鹿にだって分かると一喝すると、船乗りは引き下がるしかなかった。
それから間もなく、ディヴァイスと私は店を出た。帝都の城門に向かう道すがら、ディヴァイスは星降る夜空を指さし、それぞれの星座を古いチャイマーの言葉でなんというか教えてくれた。正直、星座の名前は全部忘れてしまったが、ただ、ディヴァイスのよく通る声の暖かい調子は憶えている。そして、私の腕に触れる彼の掌の温かい感触も…
タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き
(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)
次はノルドについて考察する。タムリエルでエルフの支配に抗い、あまつさえ取って代わることに成功した最初の人間文化である。
ボズマー同様、ノルドもまた建築や工芸、被服の各分野において、様式化され、しばしば絡み合った自然のモチーフに大きく頼っている。しかし、ウッドエルフのデザインが主として植物を意匠化したものであるのに対し、ノルドのそれは動物を強調しており、とりわけアトモーラの古い信仰においては8つの「トーテム」動物が重んじられる。すなわち、狼、鷹、鯨、蛇、蛾、狐、その他である。また、デザインのバリエーションという点では、ウッドエルフの様式をはるかにしのぐ。動物のモチーフの中には、あまりに抽象的すぎて、何の動物か判別しがたいものまであるほどだ。それどころか、縁取りの部分など、まったく自然物を想起させない幾何学模様の組み合わせで埋められることも少なくない。
ノルドのデザインは、エルフのそれとも、また別な点で異なっている。エルフの作品がほっそりとして優美で、かつ控えめなのに対し、ノルドのデザインはおおむね単純で重々しく、それでいてダイナミックな形状に依拠する。何にせよ、ノルドの作るものに控えめなものなど存在しない。
このことは、帝都のスカイリム大使館の外観にもはっきりと表れていた。モリアン、ディヴァイス、私の3人で、ログロルフ王の歓迎会に足を運んだときのことだ。大使館の入口扉の上に渡されたまぐさは、挑発の言葉を叫んでいるかのようにくちばしを大きくひらいた鉄製の巨大な鷹の頭を戴いており、扉の側柱には意匠化が強すぎて鳥類というよりも斧と呼ぶほうがよほどふさわしい鷹の浅浮き彫りがほどこされていた。扉自体は暗色のオーク材でできており、木材がまるで攻撃を跳ね返すためでもあるかのように鉄で束ねられ、鉄の鋲がいくつも打ち込まれていた。
大使館のなかは、外側ほど武張ったものではなかった。ただ、扉のすぐ内側には甲冑に身を固め武器を携えた衛兵が立ち、番をしていた。パーティーの招待客をチェックするのに羊の角をあしらった顔まで覆う兜を着ける必要がはたして本当にあるのかどうか、私には疑問に思えたが、ノルドの衛兵の目つきは必ずしも質問を促すようなものではなかった。
パーティーはすでに述べた通り、最高顧問に敬意を表するために帝都を訪れているログロルフ王を歓迎する催しだった。モリアンはアルケイン大学の代表として招かれたのだが、彼から同行してほしいと頼まれた私は、気性の荒いことで知られるこの北方の(同じ人間種に属する)いとこたちを彼らのホームグラウンドで見られるならばと、二つ返事で承知した。私たち2人がどこに出かけるのかを聞きつけたディヴァイスは、モリアンがものすごい目つきでにらむのにも構わず勝手についてきたが、いざ大使館に足を踏み入れ、大声で話す騒々しいノルドたちに囲まれてみると、一緒に来たことを後悔しているようだった。
一方モリアンはというと、それとは対照的だった。ハチミツ酒をひと壜飲み干したあとの彼は、突如として、私の目にまったく新しいゼナス教授として映ったのだ。真新しいローブで盛装したモリアンは、まさに意気軒昂と形容するにふさわしく、称賛の目で彼を見つめる外交官たちを相手に魔法の歴史を長々と弁じたて、ノルドのアークメイジ、シャリドールがなしたという数々の魔術的偉業を語り、聞く者を夢中にさせたのだった。その姿はまるで20歳も若返ったかのようで、私には突然、初めて帝都を訪れ、アルケイン大学の創設に関わった全盛期にはきっとこんなふうだったに違いないと思えるモリアンが垣間見えた。
モリアンはなんとログロルフ王本人に私を紹介してくれたが、彼がどうやってスカイリムの君主と近づきになったのか、私には見当もつかない。ディヴァイスを探すと、彼はいつのまにか姿を消していた。モリアンと私は遅くまで大使館に残り、ハチミツ酒をあおりながらノルドのあけっぴろげな冗談に腹を抱えて笑った。ようやく御輿をあげ、モリアンに送られて家まで歩く道すがら、私は彼の眼にそれまでとは違う光が宿っているのを見た気がした。
彼もまた、私の眼に同じ光が宿っているのを見たかもしれない…
タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き
(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)
アルケイン大学の大賢者レディ・オペル・ダンテーヌはブレトンだ。そこで、ブレトンのモチーフを研究するにあたって、私は彼女に意見を仰ぐことにした。レディ・オペルは気さくな女性で、惜しみなく協力してくれた。
ブレトンは、タムリエルで最後にエルフによる支配のくびきを脱した主要人間種である。そして、長きにわたりディレニに臣従してきたことが、多くの点で彼らの文化を規定している。ブレトンは自治の気風が強く、ハイロックの各王国は個々の主権を死守しているが、ブレトンの社会そのものは階級主義のディレニ王朝に由来する封建的構造を脱していない。また、ブレトンは同じ人間種のノルドとほぼ同じくらい気難しいが、長らくエルフの保護下にあったことから魔術に対しては開放的で、さほど抵抗感を持たない。
以上のことが、果たして彼らの芸術や工芸にどのように表れているだろうか?例として、ブレトンの鎧を見てみよう。ブレトン騎士が着る光沢を放つ重装鎧はノルドの私兵が着る鎧と同じくらい頑丈で実用的だが、目に心地よいその形状にはエルフの優美さを髣髴とさせる微妙な洗練がにじんでいる。同じ影響は、美しい外観と裏腹に恐るべき破壊力を誇るブレトンの武器にも見て取れる。
このことから私が連想したのは、ディヴァイスとモリアンの違いだった。ディヴァイスがエルフ特有の都会性をそなえているのに対して、モリアンはその深い学識とは裏腹に、例の気難しさも含め、あまりにも人間臭い矛盾をいくつも抱えている。変性意識状態の実験は、どうもうまくいっていないようだった。ゆうべ教授の家に立ち寄ったところ、モリアンもディヴァイスも不在だった。教授の弟子のセイフイジによると、2人はオブリビオンへの旅から確実に生還できるようにするには、輸送の担い手にどのような対価を支払うのが妥当かという問題をめぐって口論を始めたという。やがて個人攻撃の応酬になり、ついには私の名前まで持ち出されたらしいのだ。2人は怒鳴り合いのすえ、研究室から憤然と出ていくと、神々通りをそれぞれ反対方向に歩み去ったという。
言葉もなかった。私を巡って2人がケンカを?白状するが動転のあまり、私はレディ・オペルに洗いざらい打ち明けてしまった。彼女は信じられないほど優しく、親身になってくれた。2人の魔術師のどちらかに特別な感情を抱いているのかと訊ねられた私は、そうだと認めたものの、気持ちは葛藤し、せめぎ合っていた。レディ・オペルがバンコライのスパイスが入ったワインを1本か2本あけてくれたので、夜が更けるにつれて私たちはいっそう打ち解けていった。どうやって家に帰り着いたかは憶えていない。今日は二日酔いで頭が痛いけれど、そのかわり心がいくぶん軽くなったのでよしとしよう。
タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き
(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)
今朝モリアンの住まいを訪ねると、前日のことが嘘のように何もかも普段通りだった。ディヴァイスと教授はまるで親友同士のように、チャルを注いだマグカップを片手におしゃべりに興じていた。話題はラリバラーの「11の儀式形態」と「最も神秘的盟約の本」の比較だ。私はディヴァイスに、商業地区のヨクダの礼拝堂に連れていってくれる約束はどうなったかと訊ねた。モリアンはかすかに眉を曇らせたが、それでも笑顔を作り、自分は研究室で新しい超苦悶媒体をテストしたいから、かえって好都合だと言ってくれた。
(それと、おそらく光の加減だと思うが、私の目には二人ともなんだか…若やいで見えた。どちらも高い能力を持つ魔術師であり、おそらくは幻惑魔法にも通じているだろうから、その点を忘れないようにしなければ。たんに私がのぼせあがっているだけかもしれないが)。
礼拝堂では博識なレッドガード数人と会ったが、全員が全員、例の威厳と奥ゆかしさをそなえていた。私が見たところ、それらはレッドガードのなかでも高い教育を受けた人々に特有の資質だ。トゥワッカの司祭であるジルミル大司祭(つづりが間違っていないことを祈る)はとりわけ協力的だった。
大司祭が指摘したのは、レッドガードの故郷であるヨクダにしろ、彼らの現在の本拠地であるハンマーフェルにしろ、どちらも砂漠だ(ヨクダについては、砂漠「だった」と言うべきか)という点だ。涼しく過ごすため、また厳しい日差しや強い風から身を守るため、レッドガードの衣服はおのずと軽いうえ、丈が長く、ゆったりとしたつくりになる。そしてその流れるような曲線が、彼らの作る芸術作品や工芸品のデザインに持ち込まれているのである。彼らの着るローブや鎧は、関節部と頭部に曲線状の膨らみでアクセントを添えることが少なくない。剣でさえ、やもすると曲線を描く。
対照的に、彼らの建築物はどちらかというと重厚な印象だが、よく見ると、それは主として砂漠の極端な気温を遮断するためのものだと分かる。ジルミル大司祭は礼拝堂の優れたシステムを見せてくれた。かすかな風をも逃さず身廊に送り込むため、明かり層に「よろい張り」を施した換気ダクトが設けられているのである。
ジルミル大司祭が受け持ちの信徒団の相手をするために呼ばれて行ってしまうと、ディヴァイスと私はヨクダの神々を祀った8つの祠を眺めようと、ぶらぶら後陣に入っていった。ディヴァイスによれば、ハンマーフェルのフォアベアーがレマン帝国によってもたらされたシロディールの神々を崇めることが少なくないのに対して、より保守的なクラウン・レッドガードはこうした伝統的な神々を崇拝するのだという。そんなうんちくを傾けていたディヴァイスだったが、モルワを祀った蜂の巣状の祠の後ろで不意に向きなおり、例の燃えるように赤い眼で見つめながら、私の手を取るや、だしぬけに、あなたはこの帝都で誰よりも聡明で素敵な女性だと言った。私は息を飲んだ。心臓が早鐘のように打っている。ところが、彼が私を抱きしめるようなそぶりを見せた瞬間、私は急に怖くなった。私は後ずさりをし、かぶりを振ると、身をひるがえして身廊に駆け込んだ。モルワの祭壇に蝋燭を立てていたレッドガードの子供たちを、ずいぶん驚かせてしまったと思う。
どうしよう?ディヴァイスをひどく侮辱してしまったに違いない。どうしたらこの埋め合わせができるだろう?それと、モリアンには話すべきだろうか?ああ、ジュリアノスの小さな茶瓶にかけて、なんというジレンマだろう!
タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き
(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)
今朝教授の住まいを訪ねた私が真っ先にしたかったのは、ディヴァイスに謝ることだった。ところがセイフイジからあいにく留守だと言われた。ポータルのある部屋でなにやらまじないを唱え、どこかに行ってしまったという。あとには物が燃える匂いの他、何も残っていなかったとか。仕事を進めるのよと、私は自分に言い聞かせた。仕事が忘れさせてくれる。というわけで、私はモリアンを探しにいった。
教授は朝食中で、ちょうどスイートロールを食べ終え、チャルを飲み終わったところだった。私が台所に入っていくと、驚いたことに、彼はお辞儀をしようとあわてて立ちあがった拍子に、あやうくマグカップを引っくり返しそうになった。私は小論集ではカジートにも触れたい旨を告げ、あいにく猫族に知り合いがいないので、誰か紹介してもらえないかと訊ねた。教授はそれならうってつけの人物を知っていると請け合い、ちょうど今日は「あの癇癪持ちのテルヴァンニ」も休みをとっているし、喜んで紹介しようと言ってくれた。
それまでにも私は市場の門の外側に折々設営されるバーンダリ行商人組合のキャンプの前をよく通っていたが、中に足を踏み入れたことはなかった。あそこには近づかないようにという父の忠告がいまだに残っていることもあるし、鼻を刺すようなにおいが自然に足を遠のかせたということもある。けれどもモリアンは躊躇なくキャンプに入っていくと、色とりどりの祈りの旗で飾られた天幕に私を連れていった。あとについて天幕に入っていった私を、彼はマダム・シザヒ・ジョーに引き合わせてくれた。なんでも、アズラーとマグルスに仕えるカジートの妖術師だという。蓮華座を組んで座ったまま、マダムは恭しく頭を下げ——猫族の体はかくもしなやかなのだ——、床に敷かれた一組のクッションを勧めると、「この者」がどんなお役に立てますかと訊ねてきた。
マダムとの会話は楽しく、私たちはすっかり話し込んでしまった。カジートとレッドガードのモチーフやデザインには表面的に似通っている点があるが、これはおそらく、両者がいずれも暑く乾燥した土地に住んでいるためと思われる。しかし、レッドガードが長く、流れるような曲線を好むのに対し、猫族は円形と三日月形に愛着を示す。それは、マッサーとセクンダのすべての月相の形状が、カジートの衣類や装飾品のいたるところに現れることからも明らかだろう。鎌にも似た三日月の形はまた、カジートの手足の肉球からバネ仕掛けのように飛び出す鉤爪を思い出させる。目立たないとはいえ、そんなものを四六時中ちらつかされては、気の弱い人はたまらないだろう。
マダム・シザヒ・ジョーはお茶をたててくれ(カジートの食べものや飲みものの例に漏れず、これもまたベタベタと甘ったるかった)、それから私のカップの底の茶葉を見るよう促した。彼女は桃色がかった鉤爪でお茶をかきまわし、私の悩みの種が分かったと言った。夫人によれば、私は臆病風に吹かれて本心から目をそらし、ふさぎの虫に取りつかれているのだという。私はディヴァイスにキスされそうになったことを、うっかり口にしてしまった。モリアンは自分のカップを取り落とした。飛び散ったお茶がマダムにかかったのは、気の毒としか言いようがない。
てっきり激怒するかと思いきや、モリアンはいかにも悲しげな表情を浮かべ、それから私に対する自分の気持ちを堰が切ったように話しだした。彼の言葉はとても情熱的で、私はすっかりほだされてしまった。カジートの魔術師が気を利かせて席を外してくれたので、私たちはクッションに座ったまま、それこそ何時間とも知れないほど話し続けた。
タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き
(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)
ゆうべ、短い時間だが酔いどれホタル亭でディヴァイスと会い、あなたのことは大好きだけれど、モリアンに心を奪われてしまったと正直に打ち明けた。ディヴァイスはジェラール山脈を吹き荒れる嵐もかくやというほど表情を曇らせたが、それでも大きく息をつくと、どうにか威厳を保ちながら店を出ていった。ああ、どうか彼が大丈夫でありますように。
ただ、正直に言えば、今はモリアンのほうが心配だ。ディヴァイスとの共同研究は佳境を迎えつつある。間もなくモリアンはゲートをひらき、単身オブリビオンへと旅する予定だ。とりあえずはアズラが支配する領域、ムーンシャドウを目指すつもりだと言っている。それなら比較的安全なはずだと。安全ですって!?私は鉄板の上に載せられたスクリブみたいに心配でならない。せめて出発する前にひと目会いたいが、モリアンは承知しない。儀式の執行に集中しなければならず、気が散るようなことは避けたいからと。
セイフイジからモリアンの手紙を渡された。オルシニウムの新しい大使を迎える支配者主催の公式晩餐会に、自分の代わりに大学を代表して出席してほしいと書いてある。是非とも行きたいと言っていたこの催しを欠席するからには、よほど忙しいに違いない。もっとも、わが「諸種族のモチーフ」プロジェクトにとっては願ってもない話だ。それに、仕事に没頭していれば、あれこれ気に病まずにすむ!
新たに帝国の州となったオルシニウムはまだ帝都に大使館を置いていないため、支配者に仕える半人半蛇のしもべたちの手で、白金の塔の1階に天幕がずらりと設営されていた。ズグギク大使を歓待しようと、すべての天幕はロスガーから取り寄せた本物のオーク備品で飾られている。私はこれ幸いとばかり、だらだらと冗長なスピーチが続くあいだ、日誌を取り出し、そうした品々をせっせとメモにとる作業に励んだ。
それにしても、オークのような野蛮な種族がこれほどまでに洗練された品々をデザインし、こしらえることができるとは!もちろん、彼らは防具作りの名手としてタムリエル全土に知られているが、私は常々、それは技能のおかげというよりも並外れた腕力のなせる技だと思っていた。しかし、彼らの武器や防具をちらっと見ただけで、それがいかに間違った考えかを思い知らされた。華美な装飾どころか、装飾自体いっさい凝らされていないのだが、ノルドのそれよりもシンプルで実用的なオークの金属細工には、均整と対称性、そして調和というものを彼らがどれほど深く理解しているかが表れているのである。オークの剣は暴力の道具かもしれないが、使う者の掌に吸いつくように造形された重いが形の良い柄と好対照をなす刃が、ダイナミックに薙ぎ払われるさまを思い浮かべると、なぜだか私はほとんど安らぎに似た気持ちを覚える。
その後、嬉しいことに、晩餐会の席で大賢者レディ・オペルの姿を見つけた。彼女は親しげに挨拶をしてくれ、エイダールチーズを肴にウェストウィールドのワインを傾けながら、2人の魔術師とはその後どうなっているのかと訊いてきた。私が何もかも台無しにしてしまったと思うと答えると、レディ・オペルは大丈夫、最期に全部丸く収まるからと請け合ってくれた。モリアンとは長い付き合いだそうで、あれこれと小うるさい年寄りのように見えて、そのじつ非常に思慮深い人間だという。彼があなたぐらい賢い女性を見初めたのは嬉しいかぎりだとも言ってくれた。これで研究室に入ったきり姿を消してしまう心配がなくなるもの、と。
けれども、私に言わせれば、それこそまさに彼がしたことだった。セイフイジともう一度話してみよう。彼なら、旅立つ前のモリアンになんとか会わせてくれるかもしれない。
タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き
(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)
今朝、メイドのダリエラが興奮した口ぶりで、戸口にトカゲの女性が来ていますと告げた。何やら、急ぎの用事らしいという。帝都にアルゴニアンはそれほど大勢いない。そう考えると、セイフイジの使いではないかと思い当った。きっとモリアンに関する何か恐ろしい知らせを携えてきたに違いない。私は大学のローブを羽織ると、玄関に急いだ。
戸口で待っていたのは、まさに若いトカゲ族の女性だった。複雑な螺旋形の意匠で飾られたスパイダーシルク製の洒落た上着をまとい、通りに立っている。彼女は〈尾を上げる者〉と名乗り(私は冗談に違いないと思ったが、爬虫類特有の無表情な顔立ちからは、冗談とも本気ともつかなかった)、主である〈明瞭なる者〉デッシュ・ウルムの命で迎えにきたと言った。どんな用件かまでは知らされていないが、とにかく急を要することだから、すぐに来てほしいという。私はためらいながらもうなずくと、そのまま彼女のあとについていった。
アルゴニアンの娘に連れられ、私は聖堂の門をくぐり、波止場地区へと向かった。埠頭のはずれまで行くと、そんなものがあるとはそれまで気づかなかった風変わりな古びた館があった。玄関の脇の黒いプレートには〈ザンミーア〉と彫ってある。初めて目にする言葉だった。中に入ると、その大きな館は丸ごとアルゴニアンに占領されていることが分かった。人数は十数人もいただろうか、全員そこに住んでいるらしく、どの部屋もみなで共有しているようだった。そこらじゅういたるところに、アルゴニアンの掛け布、彫刻、呪物がある。それらは貝殻、骨、羽根といった自然の素材でつくられ、目もあやな螺旋と幾何学のデザインが凝らされていた。もしそのどれもがアルゴニアンの故郷で使われているのと同じものだとしたら、蛇皮、亀の甲羅、鋸歯状牙、ターコイズ、ヒスイ…私たちが珍しい異郷の素材と見なしているこれらすべてが、ブラック・マーシュではありふれたものに過ぎないことになる。
〈尾を上げる者〉は私の先に立ち、階段を取り払ってしつらえたとおぼしい傾斜路を上がっていった。上の階で、彼女はとある湿った部屋に私を案内した。気のせいか、腐臭とかび臭さが感じられる。咳き込みながら足を踏み入れると、部屋の中はほとんど丸ごと熱帯植物の鉢植えで埋まっているのが分かった。一部はとっくの昔に枯れてしまい、腐っている。私はサンダルで何かを踏みつぶしてしまい、思わず後ずさりをしたが、トカゲ族の娘が優しく手を取り、シダの葉が生い茂るなかを部屋の真ん中まで導いてくれた。
そこには不釣り合いにも、陶製の大きなニベン式浴槽が置かれていた。私の住まいの化粧室にあるものと似ているが、目の前にあるそれは縁までなみなみと気味の悪い緑色の泥で満たされている。そしてその泥のなかに、かろうじて鼻づらだけ覗かせた、見たこともないほど年老いたアルゴニアンが身を横たえていた。
じっさい、その老いさらばえたトカゲ族の男性はミイラにしか見えなかったので、その口がひらき、そこから言葉が発せられたとき、私は肝をつぶしてしまった。皮革がきしむような声で、その爬虫類はゆっくりと言葉を継いだ。「わしはデッシュ・ウルム。お前様はアル・フィッド…帝都で並ぶ者なき才女とお見受けする。わがウクシス——いや侘び住まいにようこそ参られた」
相手の視線が私の肩のあたりにさまよっているように見えたので、怪訝に思ってよく見ると、年老いたトカゲ族の両目は乳白色の膜で覆われていた——彼は盲目だったのだ。向こうは目が見えないという事実が、いくぶん気を楽にしてくれた。私は冷静さを取り戻し、ありがたいことに、礼儀作法を思い出した。私はお辞儀をし——相手には見えなかっただろうが——、こう述べた。「お招きにあずかり光栄に存じます、デッシュ・ウルム様。私のような若輩者が、どのようなことで叡智の長老のお役に立てるでしょう?」
「気をつけられよ!」彼はしわがれ声で叫んだ。鱗に覆われた両手が泥の中から現れたかと思うと、浴槽の縁をつかみ、腕の力で上体を持ちあげる。「お前の肌の乾いた魔術師たち——彼らのことで、横糸がほどけつつあるのじゃ」そう言うと、アルゴニアンの老人はやや落ち着きを取り戻し、両手で螺旋形を描く見慣れないジェスチャーをした。「由々しき事態じゃ。アウルビクのかせ糸たちが悪意によって分かたれてはならぬ」
このところ魔術師たちと過ごしているおかげで、私は彼の言う意味を推し量ることができた。「モリアンとディヴァイスのことですか?2人の身に危険が?私はどうすればよいのでしょう?」
デッシュ・ウルムはあごを2度鳴らしてから言った。「お前様は有能じゃ。彼らを止めなければならぬ。お前様は勝つじゃろう。万一敗れれば——」額に生えた3本の鋭い棘状の突起物が立ちあがる。「——その川を泳ぐ者たちすべてに悪夢と鋸歯状の刻み目がもたらされるじゃろう。カオック!」歳ふりたアルゴニアンはだしぬけに浴槽のなかでばちゃばちゃやりだし、泥を周囲にまき散らした。「セイラル!」
〈尾を上げる者〉が昆虫の甲殻でつくったとおぼしい水差しにさっと手を伸ばし、栓を抜くと、茶色の液体をトカゲ族の老人の喉に注ぎ込んだ。「行って!」部屋の出口を指さし、彼女は鋭く言う。「お師匠様がそう言ってるの!さあ早く!」
私はきびすを返して部屋を出ると、傾斜路を下り、玄関を抜け、走って帝都の市内に戻った。
タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き
(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)
帝都…私はこの街に憧れていた。若いころ、故郷のスキングラードはどうしようもなく田舎臭く思え、年に1度ハートランドを訪ねる母親に同伴する機会が来るのを待ちわびたものだ。私にとって帝都は学びと文化そのものであり、私が愛おしむすべてのものの縮図だった。
私は今、その帝都の街路を歩いている。地区から地区へと移動しつつ、街並みに目を凝らす。スキングラードはたしかに田舎臭く思えたが、それでもコロヴィアらしい町ではあった。直截的かつ簡潔で、すっきりとした線で構成され、質素で禁欲的な趣をそなえる。そこに暮らす人々もまた同様だ。
それに対して帝都はというと、城壁と白金の塔はアイレイドが作ったものだから除くとしても、ニベンの色彩が強い。洗練され、装飾過多で、捉えがたく、隠微なのだ。
退廃的で、爛熟しているのだ。
…そこに住む人々やそこに引き寄せられる人々がそうであるように。
私は間に合わなかった。
モリアンは行ってしまった。ディヴァイス、呪うべきディヴァイスの助けを借りて夢をかなえ、オブリビオンに旅立ってしまったのだ。セイフイジによると、モリアンは計画通りムーンシャドウにたどり着いたものの、そこに留まらず、なおも旅を続けたのだという。ムーンシャドウからアッシュピットへ。アッシュピットからコールドハーバーへ。コールドハーバーからクアグマイアへ。クアグマイアからアポクリファへ…
そしてアポクリファで、彼は足をとめた。
平板なはずの爬虫類の声を震わせながらセイフイジが教えてくれた。オブリビオンに足を踏み入れてから、モリアンはますます向こう見ずになり、次の次元へと通じるポータルをくぐるたびに、どんどん有頂天になってゆくように見えたこと。助手である自分がいくら戻ってきてくれるよう懇願しても、耳を貸そうとしなかったこと。モリアンがアポクリファに…魅入られてしまったこと。
セイフイジ・ヒッジャは取り乱していた。頭を抱え、背びれをしょんぼりと垂れさがらせたその姿は、明らかに途方に暮れている者のそれだった。自分でなんとかするしかない。そう悟った私はディヴァイスの部屋へ走った。セイフイジから留守だと聞かされていたが、モリアンと連絡を取る何らかの手立てが見つかるかもしれない。あるいは、助けを求める私の声に、ディヴァイスなら反応してくれるかもしれない。
ディヴァイスの部屋では、1冊の本しか見つからなかった。机の上に置いてあったその書物の題名は「フラグメンテ・アビーサム・ハルメアス・モラス」。デイドラ公ハルメアス・モラスを呼び出す儀式について書かれているとおぼしきページが開かれており、そこには次のようなくだりがあった。「いかなる代償であろうとも、必ずや支払うべし」
アポクリファの王ハルメアス・モラを呼び出す儀式…
私はモリアンの研究室に急いだ。徹底的に調べたが、手がかりになりそうなものは1つしか出てこなかった。それは丸められた紙切れで、広げるとこう記してあった。「汝がオブリビオンに入らんとするとき、オブリビオンもまた汝に入らんとす」
モリアンは行ってしまった。彼はアポクリファに渡り、そこに留まっている。
だから、私は地区から地区へとさまよい歩きながら、思いをめぐらせている。アポクリファの王がディヴァイス・ファーに求めた代償はなんだろうか?モリアン・ゼナスを魅了し、虜にすることの対価として、ハルメアス・モラはディヴァイスに何を求めたのだろう?
私は帝都の大路小路をあてもなくさまよいながら、自問自答を繰り返している。
私はいつ、代償を支払う覚悟ができるだろうか?
セイフイジ・ヒッジャ 著
先生、モリアン・ゼナスは行ってしまわれた。レディ・アルフィディア(いつもはルプス博士と呼んでいた)も姿を消した。姿を消したと言えば、あのテルヴァンニ家の男もそうだが、少なくともあいつに関しては、いなくても寂しいとは思わない。あのいけすかないエルフときたら、教授の目を盗んでは「鱗肌の助手風情」が云々と意地の悪いことを口にしていた。
そうとも。あのテルヴァンニ家の男が消えてくれて、むしろせいせいしている。しかし、他の2人については…
私はできるかぎりここに留まり、教授の住まいをきちんとしておくつもりだ。誰かが手記や試料を整理整頓し、蔵書のほこりを払わねばならない。私はまだ教授が帰ってくるという希望を捨てていない。今のところ大学は教授を「長期休暇」扱いとし、私が教授の居宅と研究施設を維持できるように俸給を送ってくれている。
あるとき教授の机を整理していた私は、偶然、数冊のノートを見つけた。それはレディ・アルフィディアの優美な筆跡でしたためられた研究ノートだった。複数の文化様式における被服や武器防具を題材にした、未完の労作だ。川の流れがゆるやかな今日このごろ、私は(望むらくは)ルプス博士がそうしたであろうやりかたに近いやりかたで、これらのノートをまとめあげようと決心した。
今日のタムリエルに存在するエルフの主要な社会がそれぞれ備える様式に関する研究ノートは、すでにまとまってはいるものの、まだ言及しなければならない要素が残っている。というのも、自らの祖先と血統を大切にするエルフは、アルドメリ文化の歴史に特別な敬意を抱いているからだ。エルフが初めてタムリエルを征服し植民地化した神話紀を、彼らは模倣すべき黄金時代と見なしている。結果として、当時の衣服と防具が本当の意味で時代遅れになることはかつて一度もなかったし、多くのエルフは古代アルドメリの様式と作法にいまだ愛着を感じているのである。往古のアイレイドやチャイマーのような装いをしたハイエルフやダークエルフに出くわすことは、タムリエル大陸でさえ珍しいことでもなんでもない。こうしたいでたちをエルフは「ゆったりとした襞を多用したエルノフェイ・スタイル」と呼ぶが、エルフ以外はたんに「古代エルフスタイル」と呼びならわしている。
(ここで、不在のレディ・アルフィディアに代わって私見を付け加えたいと思う。私自身、長年帝国の首都で暮らしているが、ウッドエルフに限っては、この古代エルフスタイルの装いをした手合いにお目にかかった試しがない。どうやらボズマーは我々アルゴニアン同様、今現在に生きることを好むようであり、昔の流儀にはさほど敬意を払わないように見える)
古代エルフスタイルは、サマーセット諸島やモロウウィンドに暮らす現代の匠たちが好むエルフ様式とまったく同じというわけではない。前者のほうが、いくぶん有機的な度合いが強く、かつ、より抽象的でもある。流れるような植物のモチーフが使われるのは同じで、たいてい先細りして尖った先端や終端に収束するのだが、これはいたるところにアイレイドの遺跡があり、鋭角なアーチを見慣れているシロディールの住民にはなじみ深いものだ。古代エルフスタイルでは円、半円、円弧がふんだんに使われ、しばしばそれらのなかに先細りする有機的な巻きひげが描かれるが、これはエドラ(エルフが自分たちの祖先だと主張する人々)がムンダスの創造によって束縛されたことを象徴しているように思える。
(え?今のはなんだ?「気取ってること、セイフイジ!」だって?まるでレディ・アルフィディアに耳打ちされたような…)
セイフイジ・ヒッジャ 著
引き続き、アルフィディア・ルプス博士が残した、さまざまな文化様式における被服および武器防具の研究ノートの編集を進める…
誉れ高き我らが第二帝国による文明化の影響にもかかわらず、タムリエルには今なお文化果つる辺境があちこちに残っていて、そういった場所には未開の部族が住んでいる。おそらく、我々シロディール人にとって最もなじみ深いのは、スカイリムとハイロックにまたがる荒涼たる山岳地帯に住む蛮族、リーチの民だろう。ブルーマの周縁部で略奪をはたらく彼らの姿が見られたのは、さほど昔の話ではない。リーチの民のほかにも、モロウウィンドのアッシュランダー、ブラック・マーシュに住む好戦的なコスリンギ、中央ハンマーフェルのケット・ケプトゥ等々、数多くの蛮族が存在する。
こうした数多の蛮族が、それぞれ大陸の遠く離れた場所に暮らしながら、服装に関しては驚くほど嗜好が似ているというのは、奇妙だが否定できない事実だ。それがいったいどういう理由によるのかは、もっと思弁的な民族誌学の研究に任せるとしよう。本稿は、単なる記述的研究にすぎないのだから(したがって、記述を続けよう)。
「バーバリック」と呼ばれるこの氏族的あるいは部族的な様式は、実のところ、洗練度において他の文化の様式に引けを取らない。いわゆる「蛮族」たちは、単に気取った抑制というような考えをことごとく蔑んでいるだけであり、けばけばしさや悪趣味をことさら好むに過ぎないのである。彼らのあいだでは鮮やかな色彩が好まれ、素材をどんな色合いに染めるかに関してはほとんど制限がない。装身具にはたいてい頭蓋骨、鹿の骨、羽根、紐でつなげた歯などが使われるうえ、銅箔によるアクセントが加えられる。また武器については、これでもかというぐらい大きなものを、これみよがしにいくつも身に着けるのが普通だ。
(ついでに言うなら、上の記述の多くは、我が故郷ブラック・マーシュの様式にも当てはまる。かの地が「バーバリック」などと形容される謂れはほとんどないにも関わらずだ!…この文化様式については、別の機会にあらためて取り扱おう)
セイフイジ・ヒッジャ 著
引き続き、アルフィディア・ルプス博士が残した、さまざまな文化様式における被服および武器防具の研究メモの編集を進める…
完全装備をしたゴブリンの族長を見て、読者諸賢はこう思うかもしれない。なんてちぐはぐな恰好なんだ。原始的な装備品を手当たり次第に身に着けただけじゃないか、と。けれども、それは間違いだ。族長が身に着けているものは、すでに評価の定まった優れものを注意深く選び抜いた逸品であり、数千年の伝統に裏打ちされた選定を表しているのである。これは我々民族誌学者が「野生」と呼ぶ武器防具の様式であり、その独自性と識別のしやすさは他のどんな文化にも劣らない。
プライマルを自分たちの文化様式として採用したゴブリンその他の種族は、たいてい、ゴミ漁りとお宝の回収を得意とする。捨てられたもののなかにも、まだまだ使えることはもちろん、他よりも優れた品質さえ備え、なおかつ野生の美意識にかなうような装備品はいくらでも存在する。彼らはどこを探せばそういうものが見つかるかを嗅ぎ分ける特殊な嗅覚をそなえているようにも見える。そして彼らが自分たちのいでたちに対して抱いている誇りは、帝国のどんな百人隊長にも劣らないのだ。
グウィリム大学のイントリケイトゥス博士による最近の研究は、上記を裏付けるばかりでなく、「野生」というのがこの様式を形容するのに最もふさわしい言葉であることを示す新情報をも発掘した。虐殺された「ナイフビター」というゴブリンの部族がまとっていた原始式の装束を57組調べたところ、死体が身に着けていた品々の多くは、数千年とは言わないまでも、数百年は昔のものであることが判明したのだ。グリーブやキュイラスのなかには第一紀初期のものと思われるものがあり、そうした装備品にはその後歴史に埋もれてしまった古代の鍛造技術が使われていたという。はたしてゴブリンたちは、巷間言われてきたように、それらをシロディールの古代遺跡から掘り出しているのだろうか?それとも、彼ら自身の手で、悠久の過去から現在へと、いくつもの世代を仲立ちにして受け継いできたのだろうか?
ええ、ゼナス教授。教授はそういうふうに「悠久」とお書きになります。えっ…どういうことだ?教授?今のはあなたのお声ですか?
セイフイジ・ヒッジャ 著
引き続き、アルフィディア・ルプス博士が残した、さまざまな文化様式における被服および武器防具の研究ノートの編集を進める…
ルプス博士による小論集「種族別のモチーフ」の掉尾を飾るこの項目がデイドラの武器防具であるのは、まったくもって妥当である。というのも、不在のレディ・アルフィディアは消息を絶った我が師モリアン・ゼナス教授の後を追って、いかなる方法を使ってかデイドラが支配するオブリビオンの次元に赴いたものと私は信じているからだ。そして、教授のささやき声がほとんど絶えず聞こえてくるようになった今こそ、ルプス博士のノートのまとめを締めくくり、オブリビオンへの扉をくぐった教授の旅について語る段階に移行する潮時であると考える。
デイドラは教授がしばしば言っていたように混沌の獣であり、巨大なエネルギーと力を併せ持つ存在だが、創造性というものを完全に欠いている。彼らは模倣や誇張はできるし、改悪もできる。しかし、新しいものは何一つ生み出すことができない。創造という能力は本来エドラと、彼らからその能力を贈られた我々ニルンの定命の者だけに備わっているのである(ブラック・マーシュではもちろん見解が異なる。上記はあくまでも教授とレディ・アルフィディアの考えであることに留意されたい)。
それゆえに、ルプス博士が「人間型」と呼ぶドレモラ、ズィヴィライ、ゴールデンセイントのようなデイドラの武器防具は、我々にとってなじみ深いタムリエル様式の胴当て、胸当て、ポールドロン、剣、槍、弓で構成されている。それらは我々の目には、風変わりな鋲と大げさな飾り線文様で飾られているように映るかもしれないが、デイドラの鎧一式の内側を見れば、そこには、見慣れた詰めものや革ひもがついていて、普通の体型をした者ならば誰でも着用できるようになっている。デイドラの剣を手に取れば、その異様な形状にもかかわらず、柄はしっくりと手になじみ、目方のバランスも良好だと分かる。実際、「モラグ・バルの戦棍」のような名高いデイドラ公のアーティファクトは、そのほとんどが、魅入られた、あるいは強要された定命の匠の手で作られたと言われているほどだ。
ええ、教授。もう充分だと思います。少なくとも当面は。親切だった博士に対する義理はこれで果たしました。さあ、私はあなたの書斎で机につき、耳をそばだてています。もう一度ムーンシャドウのことを話してください…
コールドハーバー王宮の騎士、騎士道の勇者、無防備な者を守る者、魂なき者の指導者 アンドーンテッドのキャドウェル卿 著
ここコールドハーバーにはタムリエル全土から人々が集まってきている。彼らを責めることができるか?この王国は楽園のようなものだ!それと、今思えば食の面では矛盾している。なぜなら、我ら魂なき者は生きているが、食べはしない。最後に少しでも腹が減ったと感じたのはいつだったか、覚えてすらいない。おかしいだろう?なぜなのだろうか?
だがそれはいい。本題はこれだ:スタイル!厳密には魂なき者のスタイルだ。全てのスタイルから吸収しているため、スタイルなきスタイルなのだ!全てのいいところ取りだと思わないか?
我々の武器を見てみろ!とがった凶器に戦闘向けの付属品が本当に豊かだ。短剣:魂なきカジートの波状の短剣!戦棍:魂なきオークの上質なとげとげ鎖鉄球!剣:カマリの馬鹿げたまっすぐな剣ではなく、本物のアカヴィリ、あのずる賢いツァエシが使っていた本物のカタナだ!そして斧:大鎌のついた格好いいやつだ…本物の大鎌…いや、正直に言うとどこからきたものか知らないが、ほぼ間違いなくどこか楽しいところだろう!
そして鎧も見てみろ!ほら!似たようなものは見たことがないが、私はその見た目が好きだ。あれは…何といえばよいだろうか?なんだかごちゃごちゃに混ざって分かりにくいだろう?そこらじゅういろんなものの断片が寄せ集められた感じで…少し精霊に似ているが、着心地は何倍もいいし、あんなに刺激的ではない。
そこで、少しでもスタイルに関心があるのなら、無鉄砲な冒険に向けて魂なき者の武器や防具を作ってみてはどうだろうか?魅力的だし、全くもって怪しくない。いやまあ、少なくとも怪しすぎることはない。
「老いぼれスローターフィッシュ」 著
釣りはいいものだ。農耕の大変な時期のあとや妻になじられた長い夜のあと、ちょいと釣りに出ることよりいいことなんてない。
自然の中に自分だけ、木々の間を抜ける風や岸に寄せる波の音を聞く。これで大抵の男は満足だ。価値のある獲物を釣るなんてことは考えちゃいない。だから森で居眠りしてると妻やご近所に思われるんだ。
だが真の釣り人は常に、うまい料理に使えるようなでかい魚でびくをいっぱいにしたがるものだ。それには何を釣ればいいのか、そいつはどこにいるのか、餌は何がいいのかを知らなきゃならない。これがタムリエル中で見つかる一般的な魚だ:
スローターフィッシュとトロッド:
こいつらは下水道、悪臭のする沼地や腐乱死体のそばの水たまりなど、どにかく汚い水にいる。安全な壁の中にいたい街の住人たちのお気に入りだ。この魚たちははい虫や魚卵に引き寄せられる。
サケとリバー・ベティ:
このうまい魚の住みかは清流だ。餌は昆虫や小さなシャッドをよく食べる。
スペードテールとシルバーサイド・パーチ:
日差しを遮れる深い穴や茂みのある湖をこの魚は好む。小さなカエルやグアル、鶏などの内臓、それに小さなオーシャンミノウが一番の餌だ。
ズフィッシュとロングフィン:
海辺にいるなら、このきれいな魚を手づかみで捕まえてみるといい。庭によくいる虫や小さなチャブがこの魚の中でも大物を誘うだろう。
これが今度釣りに行った時に役立つことを祈っている。これならきっと大漁で家に帰れる。誰にも1日を無駄にしたと責められることはないだろう。
「スカヴィンのヘボ大工」ことホアリー・ドゥロッツェル 著
おふざけはそこまでにしときな、鼻たれども。手に職をつけねえ限り、おめえたちにゃゴブリンの糞ほどの値打ちもねえ。そしてオイラは、小屋を身内の糞の臭いで満たすつもりはねえんだからな。
今日は木工のイロハを教えてやる。おい、腹を鳴らすのはやめて聞けってんだ!木工はまっとうな商売だ。おめえたちもこのホアリーを見直すことになるだろうぜ。いいか、テボンズでもついてこれるよう、優しい言葉で教えてやっから安心しな。
まずはこの斧を持って森に行くんだ。古い切り株や岩の近くで苔むした丸木を探しな。見つかったら斧で叩き割って粗目のカエデ材を10持ち帰るんだ。何?なんでそう呼ぶかだって?粗目だからに決まってんだろうが、この馬鹿ガキ!とにかく何かをこしらえようと思ったら、それだけの数は入り用だぜ。
次に、集めた粗目のカエデ材10を木工場に持ってくんだ。そこで、粗目のカエデ材を上質のカエデ材に変えるってわけよ。これを、この商売じゃ「加工」って呼んでる。いや、研磨じゃねえ、加工だって!できあがるのは上質なカエデ材だ。全然紛らわしくなんかねえだろ!
その次は——おい、聞いてんのか?ここは大事だぜ!スタイルも決めねえで、ただ闇雲に上質なカエデ材を削り始めることはできねえからな。わかるか?スタイルだよ、スタイル!タムリエルの全種族は固有のスタイルを持ってて、それぞれ好みの素材も違うんだ。
アルゴニアンはアルゴニアンスタイルで素材を加工すんだ。わかるかい?じゃあ、街でスタイル素材を仕入れてくるがいいぜ。木工師から買うに決まってんだろ、このイカレポンチが。ええい、どの木工師からだろうと構いやしねえよ!
さあ、いよいよスタイル素材と上質なカエデ材3つを持って木工場に行き、カエデの弓を作る段だぜ。弓弦のことは気にしなくていいからな。いや、だから無視して構わねえって言ってんだよ!しなやかなウッドエルフの踊り子の脚みてえな弓をつくることに集中しな。うん?踊り子?おめえたちにゃ関係ねえ話だよ!
「それだけ?」ってのはどういう意味だい?八大神の名にかけて、それだけのわけがねえだろう!木工はもっと奥が深いもんよ。材料を増やして品質を上げることだってできるし、完成した木工品を改良することだってできるんだ。
だから今それを話そうと思ってたところだって!カエデの弓は〈樹脂〉で改良してはじめて仕上がったと言えるんだ。〈樹脂〉なら、そこらで見つかるはずだぜ。「そこら」と言ったら「そこら」だよ!言っとくがな、充分な〈樹脂〉を用意しねえで改良しようとすると、弓はおしゃかになるし、〈樹脂〉も無駄になるから気をつけるんだぜ。
ああ、森に行けばいつだってカエデはあるぜ。ん?どういう意味だ?砂漠で過ごす予定でもあんのか?ああ、そういうことか…いいだろう。砂漠じゃカエデを見つけることはできねえ。なぜって砂漠にゃ森がないからな。だが、おめえにゃカエデの弓がある。そいつを木工場に持ってって、弓そのものから必要な素材を取り出せばいい。もちろん弓はおしゃかになる。オイラたちはこの処理を「解体」って呼んでる。おめえの姉妹がこさえる出来の悪い詩みてえなネーミングだけどよ、とにかく鑿さえあればそいつができるってわけだ。
なぜそんなに木工がうまくなったかだと?分析のおかげだよ。いや、本を読んでお勉強するのとは違うぜ。できのいい木工品が手に入るたび、オイラはそいつを分解して調べたんだ。そこらのガラクタとどこがどう違うのかを学ぶためにな。そりゃあ時間がかかったし、分解すればその木工品はおしゃかになったが、オイラは気にしなかった。どうやってそれをつくったかさえ分かれば、てめえでいくらでも新品を作れるわけだからな。
さあ、いい加減その口を閉じなよ、テボンズ。飛び込んできた肉喰い蝿を飲み込んでしまう前にな。
第七軍団糧秣担当下士官クロエリウス・マルギネンシス 著
私はこの20年というもの帝国軍第七軍団の補給責任者を務めているが、その間に1つの絶対的な真理を学んだ。それは、こと食糧の調達と供給に関しては、自分1人のためでも軍全体のためでも変わらないということだ。魔導将軍セプティマ・サルンの命により、実績と経験で我々に劣る他軍団の補給担当者の力となるべく、ここに私の知識を披露する次第である。
ステップ1:材料の調達
戦場において、味方兵士たちが食糧貯蔵庫として当てにできるのは、貴君のバックパックしかない。したがって、見つかるものは手当たりしだいに徴発すべし。樽、箱、穀物袋…こういったものからは漏れなくその一部を差し出させなければならない。
帝国兵士として、貴君には欲しいだけ徴発する権利がある。とはいえ、節度は保つべきだ。食料庫を空っぽにされた市民は、帝国の横暴をなかなか忘れまい。私は単純に、1つの樽、箱、あるいは穀物袋から徴発する量としては、片手に一杯、柄杓にひと掬い、数えられるものであれば1個にとどめておくことを自分に課している。
ステップ2:レシピの入手
自分が調理師であって、シェフではないことを忘れないように。貴君は何も、シェイデインハル女公爵が召しあがる食事をこしらえているわけではないのだ。部隊の腹を満たすことさえできれば、味なぞどうでもよろしい。貴君に必要なのは、手間がかからずシンプルで、大量に作るためのレシピだ。
鶏の胸肉のローストを例にとってみよう。これをつくるには鶏が要る。ただ、正しいレシピがなければ、いくら必要な食材を知っていても無意味だ。レシピなしでは、手に入れた材料は単なる生肉にすぎない。住民には料理の材料を準備する彼らなりのやりかたがあるものだ。したがって、物資の徴発にあたっては、レシピを見落とさないことが重要になる。
ステップ3:調理、調理、ひたすら調理
レシピを頭に入れたら、集めた材料を調理場まで持っていく。いよいよ調理開始だ。くれぐれも焦がさないように注意されたし。
味方兵士たちには、彼らが最も必要としているものを供すること。斥候と尖兵にはふんだんな野菜が必要だ。魔術師には果物がいちばん効く。歩兵にはいつでもボリュームたっぷりの肉料理が喜ばれる。暖かい食事がときに生死を分けるということを、ゆめゆめ忘れないように。
補足:陣中における醸造
酒類の醸造については訊ねられることが多いので、特に紙幅を割く。まず、酒はポケット瓶1つぶんより多い量を作り置きしないことをお勧めする。そうすれば、味方兵士たちも、それが目覚ましい戦功をあげた者たちだけに与えられる褒賞だと理解するだろう。
とはいえ、戦いや閲兵式の直前など、部隊に景気をつけることが必要なときもある。そんなとき、私はその土地のレシピをひもといて酷い味の地酒をこしらえることにしている。それなら一種のショック療法で兵士たちに自信を与えられるし、とにかくまずいので病みつきになる心配もない。
ステップ1とステップ2は調理と同じだ。ではステップ3はどうだろう?
ステップ3:醸造、醸造、ひたすら醸造
レシピを頭に入れたら、材料を調理場に運び、醸造を始める。失敗しないように。
私は事前に材料を「寄付」してくれた現地住民に、余った醸造酒を分けてやることが少なくない。これは帝国の徴発方針とは異なるのだが、将来われわれほど勇猛果敢でない軍団の巻き添えを食って退却を余儀なくされたとき、部隊が現地住民の敵意に囲まれないようにするには些かの効果がある。
親愛なる財務府さま
今年私に課せられました税金について、考え直していただけますよう再度お願い申し上げます。確かに私は帝都に暮らす、認可済みの付呪師です。ですが状況が変わり、かつてはうまくいっていた商売も、今では収入を削るばかりなのです。
数年前、付呪師は付呪をかける対象物を使いました。さまざまな材料と道具を使い、必要な神秘の力をそれに吹き込むのです。このため、付呪師が競う相手は同じ街の同業者だけでした。多くの人々はわずかなゴールドドレイクを浮かせるために剣を下げて何百リーグも先の付呪師の元へ行くのは望みませんでしたから。街での値段は3、4人の付呪師による友好的な会合で決められ、十分な利益を上げられました。王家の権利により、街での営業には高額の税が課せられることもありました。
ですが今はすべてが変わりました。付呪師は望みの効果を閉じ込めたグリフを作るだけです。グリフは単なる宝石で、誰でも剣の柄頭や鎧の部品に取り付けられます。そうすればグリフ内の魔法がその品に流れ込みます。
簡単に思えますでしょう?これが市場の暴落を引き起こしたのです。街ごとの基準で決めた付呪の価格をつけるのではなく、タムリエルの全付呪師が競い合うことになってしまいました。ダガーフォールの三流付呪師が10個の炎のグリフを作り旅の商人に売ります。商人はそれを帝都に持ち込み、シロディールの付呪師たちが決めた値段よりずっと安く売るのです。
この競争により、今では材料費をわずかに上回るほどのゴールドしか得られません。そしてこれでは、あなた方が課した税を払えないのです。
あなた方がよそで作られたグリフの輸入を停めないのであれば、私がこの商売を続けるための税を減らしてください。このままでは20年住み続けた家を売り、商人の息子の家庭教師など、他の職業に就かねばなりません。
お返事を心よりお待ちしております。
疲れ果てた賢者
粉々の仮面 著
未来の挑戦者たちよ!俺様、粉々の仮面が戦ってきた相手のなかには、きちんとした履きものの重要性を理解しない連中があまりに多い。
この入門書では、貴様にシンプルな手織りの靴のこしらえかたを伝授しよう。もし将来「聖なるるつぼ」で貴様と相まみえるなら、貴様が負けるのは靴が満足に縫えなかったせいではなく、俺様の比類ない戦闘技能のおかげであってほしいからな。
ステップ1:黄麻の入手
未加工の黄麻は安く、豊富なうえ、編みやすい。一目でそれと分かる黄色い花を原野で探すんだ。なんなら、誰かに金を払って積んできてもらってもいい。闘技場で俺様が懲らしめたいのは、その手の怠け癖だからな。
ステップ2:布の加工
仕立台さえあれば、未加工の黄麻に手を加えることができる。プロの仕立屋はこの処理を「加工」と呼ぶが、加工は未加工の素材であればどんなものにも施せる。靴をこしらえるために必要な加工済みの黄麻を作るには、さしあたり未加工の黄麻が10要る。
もっとも、機織りなんぞやってられるか、というなら話は別だがな。
ステップ3:スタイル!
仕立屋たる者、自分たちの文化に固有のスタイルを守るものだ。何より、闘技場で目立つ格好をしようと思ったらスタイルが欠かせない。だから、自分が作業しやすいスタイル素材を見つけることだ。貴様がアルゴニアンなら、アルゴニアンスタイルの素材から始めるといい。仕立屋から買うもよし、貴様に負けて吠え面をかいている負け犬から取り上げるもよしだ。
ステップ4:靴の作製
スタイル素材と黄麻5(いいか、加工済みの黄麻だぞ。未加工の黄麻じゃ駄目だ)を持って仕立台に足を運び、さっそく作業に取りかかれ。手織りの靴を1足こしらえるんだ。使う黄麻を増やせば品質を上げられるが、まずは5から始めるのがいいだろう。
たやすい仕事だぞ!硫黄の王冠を勝ち取るという貴様のはかない、勘違いも甚だしい望みを打ち砕くのが、俺様にとってたやすいのと同じくらいにな。
粉々の仮面流仕立術
闘技場でそれなりの戦いぶりを見せる戦士ならば誰しも、ただの靴じゃ満足しない。その点、生皮のブーツなら防御力が上がるし、色鮮やかなサッシュなら闘技場で目立つこと請け合いだ。是非、こしらえてみるといい。仕立屋家業の勘所さえつかんでおけば、愛する者たちの目の前で俺様に恥をかかされたあとでも、食うに困る心配はなくなるぞ。
靴の改良
こしらえた靴、またはその他の衣服を改良するには、仕立台で「タンニン」を使う必要がある。ただし、慎重にやらないと、衣服もタンニンも途中で失われてしまうぞ。タンニンは、必要と思うだけ使うこと。
タンニンは自分で見つけるんだ。なんでもかんでも楽な方法があると思うなよ。
解体
貴様は手間を省きたいタイプかもしれない。未加工の素材を集める暇がないなら、要らなくなった衣服をいつでも解体できるぞ。解体すればその衣服は駄目になるが、その代わり、俺様に頭から吹っ飛ばされる運命の帽子を作るために必要な素材を回収できるだろう。
特性の調査
さて、そろそろ貴様はこう考えているだろう。「粉々の仮面と戦うには、何か強みが必要だぞ」と。それなら、自分より腕のいい仕立屋がこしらえた衣服をばらばらにし、使われている技術を学ぶのがお薦めだ。そうすれば、その衣服に固有の特性が分かる。とにかく、自信をつけるためにできることはなんでもするがいい——俺様がそいつを粉々に打ち砕いてやるまではな。
ゼグ・グラ・ドゥシュ 著
オークの鍛冶夫人たちは言う。鍛冶のノウハウを知っているのは自分たちだけだと。そんな言い草はくそ喰らえだ!本書では鉱石の見つけかたから始め、鉱石からインゴットを取り出す方法を示し、さまざまな加工スタイルを説明したうえで、具体的な武器の作り方を解説する。これを読めば、君もすぐに鍛冶屋を名乗れるようになるだろう。
ステップ1:鉄鉱石の入手
鉄鉱石は最も扱いやすく、しくじっても簡単にやり直しがきく。まずは、大きな岩の露頭の近くで艶のないさび色の岩を探すこと。見つかったら掘り出す。自分で掘らない場合は、掘り出した人から買うか、知り合いに借りればいい。鉄鉱石の塊が10個集まったら、次のステップに進む準備は完了だ。
ステップ2:インゴットの加工
まず、鍛冶場を見つける。次に、鉄鉱石の塊10個からインゴットをつくる。この作業を「加工」と呼ぶ。理由が知りたければ、鍛冶夫人に訊ねればいい。
ステップ3:スタイルの選択
すべての種族が独自の鍛冶スタイルを持っており、それぞれ伝統的に好まれる素材が違う。憶えやすいように、ここではそれを「スタイル素材」と呼ぶ。私にはオークのスタイルが一番しっくりくるが、それは私がオークだからだ。君がアルゴニアンなら、アルゴニアンスタイルの素材から始めるといいだろう。素材が他で見つからなかったら、鍛冶屋に行けば売っている。
ステップ4:鉄の短剣の作製
鉄の短剣は簡単に作れる。必要なのはスタイル素材が1つ、インゴットが2つ。あとはハンマーをしっかり握った片手があればいい。これらがそろったら鍛冶場を見つけ、鉄の短剣を一振り作ってみよう。高品質なものを作るには使うインゴットの数を増やさなければならないが、さしあたって2つで充分だ。
ステップ5:作品の鑑賞
先に進む前に、しばし自分の作品を鑑賞しよう。それは「ただの鉄の短剣」とは違う。君が地面から鉱石を掘り出してつくった、命を奪うことができる道具だ。自分の作品には敬意を払うべし。
とはいえ、鉄の短剣では鍛冶夫人たちを感心させられないだろう。だが、あの連中に何が分かる?鍛冶仕事をする者は誰しも鍛冶屋を名乗る資格がある。何も鍛冶屋に嫁ぐ必要はない。今日は鉄の短剣しか作れなくとも、明日は黒檀の大剣を作ればいいのだ。
補足:上級鍛冶
本気で鍛冶夫人たちの鼻を明かしたいと思ったら、鉄の短剣以上のことを知らねばならない。
武器防具の改良
鍛造した武器や防具を改良するには、〈添加物〉を用いる。必要なときに見つかった試しがなく、いつも怒りに我を忘れる。
〈添加物〉が見つかったら、改良したいアイテムと一緒に鍛冶場に持ってゆく。〈添加物〉の数が多いほど、品質を向上させられる確率が高まる。ただし、成功する保証はない。失敗すれば〈添加物〉もアイテムも失われる。
〈解体〉
素材が足りないとき、武器や防具を〈解体〉して素材を取り出すことができる。〈解体〉すればそのアイテムは壊れてしまい、素材の一部しか回収できないが、インゴットを手っ取り早く手に入れたいときには便利な方法だ。
特性の調査
鍛冶夫人を戸惑わせる方法の1つは、彼女から最良のアイテムを買い、それを分解して彼女が作る武器防具の最大の特性を突きとめることだ。それが分かれば、その鍛冶夫人の最高傑作をコピーして、安く売ることができる。本気で彼女を怒らせたいなら、その鍛冶夫人の鍛冶場で作業を行えばいい。
言わずと知れた私より
我が愛弟子よ、お前が無駄にしてくれた錬金術の材料は、とうてい不問に付せる量ではない。我が師なら、かくも見下げはてた無能さにはとうてい耐えられまい。「教えるだけ無駄」、「本でも読んでいれば」などと突き放されるのが落ちであろう。そんな不肖の弟子のために、私はこの簡単な手引書をしたためた。希少な溶媒をもう1ケース調達するよりは安くあがるからだ。
万一この手引書を失くしても——お前のことだ、どうせ失くすだろうが——、捨て鉢になる必要はない。私はお前に年俸として支払うべき金を投じてこの手引書を大量に印刷し、ほうぼうに配布する手はずを整えた。いずれ、タムリエルじゅうの錬金術の作業場にこの小冊子が行き渡るだろう。
ステップ1:溶媒の入手
すでに承知の通り、どんな薬を調合するにも下地となる溶媒が要る。私の講義を一度でも真剣に聴いたことがあるなら、最も望ましい溶媒は自然に湧き出た清浄な水だということを知っていよう。水の純度が、薬の品質を左右する。したがって、水を汲むのに最も適しているのは自然の泉なのだ。
新鮮な水が湧く場所の必要性は、何度強調しても足りぬ。治癒の水薬に関する例の事故を憶えているかね?淀んだ水たまりや入り江の洞窟、製革所の下流などで水をすくって事足れりとしてよいはずがないのだ。都会であれば瓶入りのきれいな水がいくらでも手に入るだろうが、それでも自分で汲むに越したことはない。
ついでながら、お前の言う「雨水溶媒」は絶対に使いものになるまい。無駄な実験はただちにやめることだ。
ステップ2:試料の入手
錬金術は組み合わせの学問だ。溶媒が薬の下地であるのに対し、試料は薬の有効成分となる。1つの試料には、4つの特性がある。ここで方形混合の原理を——あらためて——お前に説明するのは気が進まぬが、基本だけは思い出させてやろう。そう、「似たもの同士を組み合わせるべし」だ。
今後、必要な試料は野や山で探すがいい。我が研究室ではなくな!よいか、草花とキノコ類を探すのだぞ。他のものは必要ない!いかなる状況下でも、この原則から逸脱してはならぬ。いつかお前が持ってきた「リスをすりつぶした粉末」などは、八大神に対する冒涜以外の何ものでもない。
なお、使った乳鉢と乳棒は念入りに洗い、きれいにしておくのを忘れぬように。
ステップ3:薬の調合
溶媒1種類と試料2種類を持って錬金台に足を運ぶがいい。くどいようだが、試料は種類の異なるものが必要となる。ムラサキ草とムラサキ草を組み合わせたところで、できあがるのはたんなるまずい水だ。
必要なものがそろったら、それらを混ぜ合わせて薬を調合する。プラスの特性を持つ試料同士を組み合わせれば、プラスの効能を持つ薬ができる。反対に、マイナスの特性を持つ試料同士を組み合わせれば、それをあえて飲もうという愚か者に害悪を及ぼすだろう。試料の特性が合わなければ、溶媒も試料も失われてしまう。
とにかく試料をとっかえひっかえし、どういう薬ができるか試してみることだ。そうすれば、おのずと試料の特性が分かってこよう。もっとも、試料のごく基本的な特性は食べてみれば分かる。ただし、食べるのは1つだけでいい。間違っても試料で腹を満たそうとするでないぞ!
そう言えば、お前はニルンルートを口にしただろう?ばれないとでも思っていたか?こうしていても歯の歌う声が聞こえるくらいだし、だいいち、光るおまるを隠す方法などないのだぞ。
上級錬金術の原理
あくまでも基本をマスターしたうえでの話だが、手の込んだことをやろうと考えるのもよかろう。注意深い研究を重ねれば、薬を調合する際にマイナスの特性を抑える方法、単純な試料の組み合わせから複数の薬を調合する方法、あるいは、試料を追加してより強力な薬を調合する方法さえ習得できよう!
しかし、さしあたって今は、「自分に毒を盛らないこと」を目標にすべきであろうな。
「ルーンをすなどる者」 著
付呪師には誰でもなれる。今何者であるかも、過去何者であったかも関係ない。私など、ひょんなことから付呪の世界に足を踏み入れることになるまで、20年間、ブラック・マーシュで魚を獲っていた。アルゴニアンの元奴隷漁師にマスターできるのだから、あなたにできないわけがない!
ステップ1:ルーンの入手
何年も前、ブラック・マーシュで漁をしていた私は、光り輝くルーンを見つけた。そのときはてっきりウィスプだとばかり思ったよ!ルーンは危ない場所でよく見つかる。だから、充分用心しつつ、そういう場所でルーンが埋まっている角ばった石を探すといい。
—赤い品質ルーンは魚の歳を思い出させる。稚魚はたくさん獲れるが、身が少ない。反対に、歳をくった老魚にはめったに出くわさないが、釣れれば大きい。
—青い潜在力ルーンは魚の味を髣髴とさせる。うまければ1日気分がいいし、まずければ敵に食わせるのにうってつけだ。
—緑色の本質ルーンは魚の種類のようなものだ。霜魚、鎧魚、毒魚…あとは考えれば分かるだろう。
タムリエルじゅうにルーンが散らばっているのはなぜかと訊かれることもある。でもそんなことは魔術師ギルドに訊いてほしい。自分は魚がどこから来るかなんて考えたこともない。考えたのは、どこに行けばたくさんいるかということだけだ。
(白状すると、私は色が識別できない。そういう向きはルーンの明るさを見るといい。品質ルーンは暗く、潜在力ルーンは明るく、本質ルーンはとても明るい)
ステップ2:付呪の作成
品質(魚の年齢)、潜在力(魚の味)、本質(魚の種類)の各ルーンが1つずつそろったら、付呪台に持っていく。さあ、ルーンを1つにまとめて、記念すべき最初の付呪を作成しよう!
漁を学ぶ最良の方法は、実際に魚を獲ってみることだ。付呪にも同じことが言える。付呪を作成する過程で、未知のルーンの意味と機能が分かってくるだろう。「ルーンがどのように魂と共鳴するかを理解しなければ、本当に理解したことにはならない」という意見もあるだろうが、そういう小難しいことは魔術師ギルドに任せておけばいい。
ステップ3;アイテムへの付呪
記念すべき最初の付呪が完成した。いよいよ、初めてアイテムに付呪する準備が整ったぞ!付呪を施し、魔力を付加したいアイテムを見つけるんだ。楽勝だろう?もちろん、そんなに簡単なわけはない。
付呪は選り好みが激しい。武器に使うのがふさわしいものもあれば、防具に使うのがふさわしいものもある。また、宝飾品にしか使えない付呪も多い。自分の手元にあるものよりも高品質なアイテムでないと使えない付呪だってあるかもしれない。そうそう、もし気が変わったら、アイテムを再付呪できるが、新たな魔法を付与すると、古い魔法は失われてしまう。肝心なのは、私の卵の姉妹が言うように、「その場にふさわしい魚を食べさせろ」ということだ。
補足:ルーンの抽出
作成した付呪が自分で使えなくても、がっかりすることはない!売ったり、交換したり、それを使える友達にプレゼントすればいい。
もちろん、付呪台さえあれば、付呪からルーンを抽出することができる。私はこれを「魚のわた抜き」と呼んでいる。この処理で付呪は駄目になってしまうが、使われているルーンの1つを回収できるので、それを別な付呪に使える。
宝飾職人フェラリアン 著
私たちの内には、それぞれ石がある。粗く、でこぼこで、控えめな石が。だがギザギザな表面の奥では色と、可能性の光が輝いている。精錬されていないが有望だ。そして少し磨くだけで、その石は美しく光り輝く宝石になれる潜在力がある。
私たちは誰でも宝飾の技を内に秘めているが、誰もがその力を見通せるわけではない。それゆえ、技を磨き始めるための方法について案内を書く役目を引き受けた。以下に記す簡単な手順をこなせば、どんな新米でも宝飾の基礎を学ぶことができる。
ピューターの粉末の入手
ピューターは入門者が最初に取り組むのに適した素材だ。加工が容易なだけでなく、呆れるほどどこにでもある。ただ荒野でピューターの鉱脈を探せばいい。鉱石と同じように、こうした鉱脈は通常岩の露出部分で見つかる。そこから必要なピューターの粉末を簡単に入手し、クラフトを始められるだろう。
ピューターのオンスの精錬
次に、ピューターの粉末をピューターのオンスへと精錬する必要がある。これはどの宝飾台でも可能だ。宝飾台は通常、大都市で見つかる。もちろん、可能なら自宅に自分用の宝飾台を置くことを推奨する。利便性は費用に十分見合うと思う。
指輪の作成
ここからがピューターのオンスを有効活用する時だ。簡素なピューターの指輪はクラフトで作れるアイテムの中で豪華なものではないが、最初のアイテムとしては上出来だ。この作業を完了するためには、やはり宝飾台が必要になる。
宝飾の解体
宝飾台は宝飾の作成だけでなく、解体のためにも使える。解体すれば指輪やネックレスを作成するために使った材料の一部を回収できる。例えばピューターの指輪を解体すると、ピューターのオンスが手に入る。もちろん、クラフトの大部分と同様、これによって経験値を得ることもできる。
特性の研究
宝飾はそれだけでも美しいが、非常に有用でもありうる。正しい特性を与えられれば、指輪やネックレスは体力、スタミナ、マジカを増加させられる。望ましい特性の宝飾を作るには、まずその特性をすでに有している宝石を研究しなければならない。例えば「堅牢」の特性を持つピューターの指輪を見つけたら、その指輪を研究すれば「堅牢」の特性を持つ新しい宝石を作る助けになる。残念ながら、このプロセスは常に研究されたアイテムを破壊してしまう。それが進歩というものだ。
終わりに
この案内を読んで、宝飾という栄誉ある技の探究を始めてくれることを心から願っている。上に記した基礎を覚えておけば、誰でも真の職人になる旅を始められるだろう。記述はこの辺にして、君の努力が実るよう祈っている!