ストンフォールの伝承

Stonefalls Lore

エボンハート・パクトへの案内Guide to the Ebonheart Pact

エボンハート・パクトはモロウウィンド、スカイリム、ブラック・マーシュまでの広範囲に広がる各国に結ばれた予想外の同盟で、ダークエルフ、ノルド、自由アルゴニアンが共同防衛のためにまとまったものである。同盟国の大きさと距離のおかげで、パクトは内部の反目や不協和音とは比較的無縁な状態にある。ノルドとダークエルフには自国内で取り組むべき案件が非常に多く、お互い相手に干渉する時間がほとんどない。

エボンハート・パクトが生まれたのは第二紀572年、タムリエル北部への第二次アカヴィリ侵攻に対応するためだった。ノルド、ダークエルフ、自由アルゴニアンは、タムリエルの残りの地域を虐殺と隷属から救うために力を結集した。戦時中に結ばれたこの同盟は、大陸に急に登場した新興勢力となった。最初はダークエルフが昔からの宿敵および以前の奴隷との同盟を維持できると信じた者は少なかったが、色々なことがあった十年が過ぎたのちも、パクトは強力で無傷のままだった。

パクトは「グレートムート」が支配する。各国の種族代表が平等に扱われるこの評議会は、短期と大声で知られるだけでなく、相互の尊重と、どんなことがあろうとパクトを維持しようという驚くべき意志でも有名だ。平等でなければ、ノルドとダークエルフの誇りを満たし、以前は奴隷にされていたアルゴニアンの傷を癒すことができない。

不可欠、というより同盟の最も重要な一部であろうモロウウィンドのダークエルフは、よそよそしく誇り高く、そして非常に奇妙である。彼らは懸命に「劣等の」同盟国への軽蔑を隠そうとするが、現在の危機で競合する他同盟を寄せつけないためには、ノルドの強い武力とアルゴニアンの策略に富んだ機知が必要なのだ。ダークエルフは天才的な器用さと深い経験を武器にして、パクトに不可欠な反応と即応能力を提供している。アルドメリ¥ドミニオンにもダガーフォール・カバナントにもこれほどの力はない。パクトは優秀な戦士と妖術師を配置している。そして他の種族には匹敵するもののない財産がある。3人の生き神、アルマレクシア、ヴィベク、ソーサ・シルがその中にいることだ。

スカイリム東部のノルドは恐れを知らず攻撃的で、勤勉かつ進取の気性に富む。彼らは戦争に秀で、交易で栄え、探検家、開拓者として他に並ぶ者はいない。力強く、頑固で、たくましい彼らには戦いで問題解決を図る習慣がある。ノルドは陽気に戦闘になだれこみ、その獰猛さは敵を恐れ震撼させる。彼らはそれを認め、エボンハート・パクトのための突撃隊という役割を楽しんでさえいる。ノルドは率直で企むところがない。そのためグレートムートの会議では単純な解決法を支持するが、悪賢いアルゴニアンや抜け目のないダークエルフに投票で負けることもよくある。しかし戦場において彼らに勝る者はいない。パクトの将軍はノルドであることが多く、戦場の戦士のほとんどもまたノルドである。ノルドにはこだわりがない。これは戦利品を最初に獲得するという意味でもある。

アカヴィリに対して決然と武力介入したことにより、ブラック・マーシュのアルゴニアンはダークエルフの奴隷状態から自由を獲得し、その教訓から彼らはパクトの重要な一員となった。控え目かつ異質な彼らの無表情と抑揚のない話し方は他の種族に真の動機を理解させづらくしている。それでも彼らには冷静な知性がある。信頼するのは遅く、理解するのは難しいが、生得の敏捷性のおかげで、彼らは魔法も隠密活動も武器も同じように軽々と操ってみせる。長年国境を防衛してきたため、戦争において、より強力で昔ながらの組織化された軍隊に対しての専門家である。陸でも水中でも同じようにやすやすと動ける彼らは、パクト軍のために偵察隊、前衛隊の役割を果たしている。アルゴニアンの文化の他の側面は部外者にほとんど理解不能で、そこには彼らの社会的階級や集団意思決定も含まれる。彼らの代表が説明なしに奇妙な提案をすることがあるが、同盟国は彼らのやることにすべて必ず理由があることを学んだ。

今日、スカルド王の若きジョルンがムートの実質的上級王になっているが、必ずしも同盟全体の支持を得ているわけではない。パクトの一員として同盟を維持し結束させるために奮闘しながらも、各国は各々内部の脅威にも対応しなければならない。野戦でドミニオンやカバナントと対面する前に、未解決のこうした脅威のために自滅する可能性もある。

スカイリムのノルドNords of Skyrim

我が民、我が誇り

フロスムンド・ウルフハート 著

尊敬すべき読者よ。私はフロスムンド・ウルフハート、ノルド人だ。しかし何より重要なのは、私がスカイリムで育ったノルドである点だ。

本書は、タムリエルの人々に、知られるべき我が民について知ってもらい、この地方の真の姿、すなわち争う余地のないその美しさと文化の地である事を理解してほしいという切なる願いをもって書いている。

よく知られている点のいくつかは、間違いなく真実だ。身体的にも、ノルド人は印象的で人目を引く。身長が高く、骨は強く、筋肉は太い。髪は金髪で、先祖からの伝統に則って編んでいる。スカイリムは毛皮となる生物の宝庫であり、そのような有効な資源を利用しないのはもったいないので、我々はよく毛皮を身にまとっている。

ここまで読んだところで、私の言葉の強さと、北方の「野蛮人」としての教養に驚いただろう。そう、多くのノルド人は読み書きができる。子供の頃、父が書き方を教えてくれたのだ。その父も、またその父もそうだった。

スカイリムの子供達がたしなむのは、言語技術だけではない。私たちは職人でもあり、彫刻家が陶器を作るように、我々は代々、鋼の扱いを学んできた。

実際にハイロックとシロディールから来た旅人が、スカイフォージの火で鍛造され、グレイ・メーン家の神業ともいえる職人の手によって危険なまでに美しく磨き上げられた剣を見て、信じられないという様子で嘆くのを私は見た。

だがそんなことが可能なのか、と諸君らは疑問に思うかもしれない。雪と泥に覆われた地から出たことのない者たちに、そのような偉業を成し遂げることができるのだろうか?もう一度言うが、そうした地域的な偏見は真実を曇らせる。

スカイリムの街は、どれもノルドの創意力と職人芸の証だ。主要都市は以下のとおりである。ソリチュード—上級王の王座があるスカイリムの首都。ウィンドヘルム—古く名誉ある雪中の宝石。マルカルス—遥か昔から存在する、岩盤を削って造られた町。リフテン—秋の森の金色の影に位置し、極上の魚とハチミツ酒を生み出す街。そしてホワイトラン—ジョルバスクルを囲むように造られ、高貴なる同胞団や人々から崇拝されるスカイフォージの故郷。

尊敬すべき読者よ、以上が全体像だ。我々ノルドは諸君らの想像通りであり、また、それ以上でもある。

しかし、本書を真実への唯一の入口と捉えないでほしい。馬車または船を予約して、北方へ旅をしてみるといい。スカイリムを自分の目で確かめてみるのだ。神が最初に世界を形作ってから変わらぬスカイリムの姿を、ノルド人と同じ目線で見てもらいたい。

ダンマーの名家の格言Mottos of the Dunmeri Great Houses

ヴィリン・ジリス 著

息子よ、簡単な事実さえ覚えられないお前の無能さのせいで、ことあるごとに我が一族は恥をかく。これはヴァーデンフェルの名家に語り継がれる言葉と、各家が守護者として祀っている聖人たちをお前に伝えるための記録であり、もしお前がまた、我が家の取引相手であるフラール家とドーレス家の商人貴族たちを混同するようなことがあれば、今度こそお前を勘当する。これは改めて言う、お前への最後通告だ。

レドラン家:「レドランは戦士であり、その務めは第1にトリビュナルに、第2にレドラン家に、第3に家族と一族に対し果たされるものである」

—レドラン家の守護聖人は指揮官、聖ネレヴァルである。

インドリル家:「正義は眠らない。インドリルが命じ、聖堂が裁きを下す」

—インドリル家の守護聖人は公正なる聖オルムスである。

フラール家:「公正かつ自由な取引が三大神を称える」

—フラール家の守護聖人は巡礼者、聖ヴェロスである。

ドーレス家:「無知蒙昧の民に文化と真実を広めよ。これが我らの責任であり義務である」

—ドーレス家の守護聖人は、敬虔なる聖ロシスである。

テルヴァンニ家:「力強い意志を表現することが、真の栄誉を先人に与える」

—テルヴァンニ家の守護聖人は殉教者、聖ヴォリスである。

第6の名家、影の家、ダゴス家に伝わる格言が欠けているのにはきっと気づいていないだろう。これはあの家がレッドマウンテンの戦いで滅ぼされ、断絶したからである。そののち残った名家がトリビュナルに捧げる聖堂を建立した。もしダゴス家のことを気族仲間の前で口にしたら、私はお前を勘当する。

気付いただろうが私はここまでで2度、お前を勘当すると警告している。これは私がメファーラやヴィベク卿ほど冷酷ではないということだ。私の心は弱く、お前を家族から簡単に取り除けずにいる。

この文章を肌身離さず身に付けていなさい。そしてこの家訓を見ては我が身の行いを正し、貴族の立場に恥じることのないように。お前の愚かさで我が一族を汚すことのないように。2度とお前を人前で大ばか者と呼ばずにすむことを願っている。

私たちの中のアルゴニアンArgonians Among Us

シル・ロスリル 著

アルゴニアンは鱗に覆われ、知性に劣り、我々の日常生活の一部となっている。モロウウィンドとその周辺地域では、どの都市、どの街にもその姿が見られる。我々の食事を運び、子供たちに服を着せてくれる…しかし実際のところ彼らは何者なのだろう。

アルゴニアンは元々ブラック・マーシュとして知られる地域の出身だ。じめじめとした陰鬱な土地で、沼気を発し、虫がうじゃうじゃといる。その生まれ故郷でアルゴニアンは悪臭を放つ水溜りに住み、原始的な部族の神を信仰している。彼らの民間魔術と単純な部族の軍隊は、人間や勇敢なエルフに対してきちんと防御できたことはなかった。

沼地はシロディール軍により第一紀2811年に初めて制圧された。この残虐で気まぐれな人間たちは、人間の山賊王の支配を終わらせるためだけにその地域に侵入したのだった。籠手をつけた手の文明がアルゴニアンの元に入ってからは、彼らの故郷は主に流刑囚の土地の役目を果たした。無思慮で野蛮なシロディール人は無情にも最も暴力的で不安定な犯罪者たちを沼地に放った。

ほぼ600年前、この鱗のある召使の種族の生活にダークエルフが介入した。第二紀の黎明期に我々は本格的にアルゴニアンと共に働き始めた。部族全体がヴァーデンフェル、ストンフォール、デシャーンの安全で乾いた気候の土地に移住した。我々は彼らのかなり恥ずかしい外見を隠すために衣類を作り、世界に送りこんだ。彼らが新しい環境で学び仕えるためだ。我々の気前のよい行為に対して、アルゴニアンには見返りをほとんど求めなかった!それでもあの悪臭放つ地の住民全員が本当に感謝しているわけではない。

事実、我々の時代の密接な協力関係は数年前に終わりを告げた。ナハテン風邪の名で知られる恐ろしい病気が沼地の奥深くの瘴気から生まれ、地域一帯に広がった。アルゴニアンの呪術師の手による産物と噂された病は、爬虫類を先祖に持つ者以外を襲い、数えきれないほどの犠牲者を出した。最も悲劇的だったのは、他の種族がアルゴニアンを疫病を広めた者として恐れるようになったことだ。我々がアルゴニアンを発見の旅に送りこもうとするたびに、拒絶されてしまった。

現在、もちろんアルゴニアンはエボンハート・パクトにおいて共に立ち並んでいる。かつては単なる召使だったが、今はこの単純な爬虫類の評価が高まった。彼らは我々の軍事同盟において強力で誇り高い貢献者であり、家庭においては家族の面倒もよく見てくれる。

私たちの中のアルゴニアンは、生活を豊かにしてくれる存在だ。

先人とダンマー(要約)Ancestors and the Dunmer (Abridged)

彼らと共に歩む亡霊

ダンマーの死者の魂は、他の種族でも皆そうかもしれないが、死後も生き続ける。亡くなった先人達の知識や力はダンマーの家に恩恵をもたらす。生きている家族と先人を繋ぐものは血や儀式、そして意志である。結婚したことで新たにその家族に加わった者は、儀式と家に対する誓いを行うことによって家の先人と交流を図り、恩恵を受けられるようになる。とはいえ、結婚して家に加わった者は純潔の者と比べると先人との繋がりは薄く、自分自身の先人との繋がりも保ち続ける。

家の祠

それぞれの家にはその家の祠がある。貧しい家では、家族の遺品が置かれて崇拝するだけのただの暖炉棚程度の物かもしれない。裕福な家では、先人専用の部屋が用意されている。この祠は待機の扉と呼ばれ、オブリビオンへの扉を表している。

ここで家族の者は捧げものや祈り、責務の誓い、家族にあった出来事の報告を通して先人達に敬意を払うのである。その見返りとして家族は先人達から情報をもらったり、指導を受けたり、祝福を与えてもらう。このため、先人達は家、特に待機の扉との境界線における守護者なのである。

定命者の戦慄

霊魂は定命者の世界を訪れることを好まず、訪れるのは義務感や責任感によるものでしかない。向こうの世界の方が楽しく、少なくとも冷たくて厳しい、痛みと喪失感に溢れた現実世界より居心地が良いと魂は言う。

狂った霊魂

自分達の意思に反して我々の世界に留まることを余儀なくされた霊魂は、狂った霊魂や亡霊となる可能性がある。死ぬ際の状況が悲惨だったという理由や、人物や場所、物にとても強い感情的な結び付きがあるために留まっている魂もいる。これらを呪縛霊と呼ぶ。

ウィザードが魂を魔法のアイテムに縛りつける場合もある。もしそれが本人の望むものでなければ、その霊魂は狂ってしまう。望んでいた者の場合、正気を保てるか保てないかは、霊魂の強さと付呪師の知識次第である。

他にも、自分達の意思に反して家族の祠を守るために縛りつけられている魂もいる。この苦しい宿命は生きている間、家族にきちんと役目を果たさなかった者に待ち受けている。忠実で立派だった先人の魂は、言うことを聞かない魂を縛り付けるのに手を貸してくれることも多い。

こうした霊魂は通常狂ってしまい、恐ろしい守護者となる。儀式によって彼らは一族の者に害を与えないようになっているが、だからといって彼らの悪戯や気難しい態度を軽減させることはできない。彼らは侵入者にとって非常に危険な存在である。しかし侵入者が霊魂の怒りを見抜き、その霊魂の家に対する怒りをうまくかきたてることができたら、その怒った魂を操ることができてしまう。

オブリビオン

オブリビオンの存在はあらゆるタムリエル文化で認識されているものの、その別世界の性質については様々な説がある。皆が同意しているのはエドラとデイドラが住んでいる場所であり、この世界とオブリビオンは魔法と儀式を通じて交流や行き来ができるということくらいである。

ダンマーはこの世界とオブリビオンの違いについてタムリエルの人間文化ほどは重要視していない。彼らは我々の世界ともう一方の世界を違う性質を持った明確な境界で分割された別々の世界と考えるのではなく、双方を行き来することのできるいくつもの道で繋がった1つの世界として捉えている。この哲学的な視点があるからこそ、エルフは魔法やその実践に高い親和性を持っているのかもしれない。

他の種族から見たダンメリの先人崇拝と霊魂の魔法

アルトメリとボスメリ文化にも先祖を敬う風習があるが、こちらの世界から別の世界に通じる秩序だった幸福な道を大事にするだけである。ウッドエルフとハイエルフは我々の世界に霊魂を引き止めようとすることは残酷かつ自然に反することだと信じているのだ。さらに彼らにとってゴーストフェンスやアッシュピットに先祖の死体の一部を使用することは、奇怪かつ不快な行為と言える。例えば、家族の祠に指節骨を飾っておくことはボズマー(死体を食す種族)にとって冒とく的な行為であり、アルトマー(死者の灰を埋める種族)にとっては野蛮なことなのだ。

タムリエルの人間はダークエルフを教養はあるがオークやアルゴニアンと同じ邪悪な存在と見なしているため、彼らとその文化については無知で、恐れる傾向がある。タムリエルの人間は、ダンマーの先人崇拝と霊魂の魔法は死霊術と関連があると考えている。実際、このダークエルフと死霊術との関連性は、タムリエル中に広まっているダンマーにまつわる黒い噂と少なからず関係しているだろう。しかし、認められた種族以外の儀式で死霊術を行うことはダンマーが最も忌み嫌う行為であるため、これは無知による誤解と言える。

ダークエルフはどんなダークエルフにも、またどんなエルフの死体にも死霊術の魔法を施そうなどとは絶対に思わない。しかし彼らは人間やオークといった種族は動物と大差ないと考えている。そのような種族の死体、または動物や鳥や昆虫の死骸に対する死霊術は禁じていない。

闘争家の兄弟The Brothers of Strife

ニリ・オマヴェル 著

アッシュランドのエルフたちは無敵だと、私の仲間の学者たちに信じこませられただろうか。彼らはレッドマウンテンやその他の勝利、例えばドゥエマーに対する激戦を証拠として挙げる。しかし遠い昔、我らが民はスカイリムの山腹のように広がっていた。その遠い昔、我々はぎりぎりのところまで追いこまれた。

レッドマウンテンの前の時代、我々はチャイマーと呼ばれていた。我々は内海のほとりで何とか食いつなぐエルフの一種族に過ぎなかった。

それからネードがやってきた。今日のノルドは同盟だが、ネードは闇の性質を持つ敵だった。彼らは我々の土地だけを狙い、征服し、略奪した。我々は外交の手を差し伸べたが、撥ねつけられた。移動する集団においてはどんなエルフも格好の的だった。男も女も子供も。

当時の最も偉大な将軍は兄弟だった。バルレスとサダルは敵軍に対する意気盛んな戦士を率いた。最初は敵をアッシュから追い払おうという試みだった。戦争が続くにつれて、彼らの行動は純粋に防御と方向転換に変わった。チャイマーの部隊が血をもって村の民を避難させられるのであれば、その血は流す価値があったとみなされた。

ネードは数年後、我々が今ストンフォールと呼ぶ地のほとんどを支配した。チャイマーの軍隊は内海から追放され、援軍はヴァーデンフェルから切り離された。兄弟は撤退を重ね、最後には選りすぐりの妖術師と部隊からなる小さな集団だけが残った。この集団はその後、古代のデイドラの遺跡に避難した。

遺跡で起きたできごとは歴史の中に埋もれてしまったが、現在、その地を特徴づける大量の像が無言の証人として残っている。チャイマーの将軍たちの死により戦争は終わった。だが、その代償は?

この遺跡でいわゆる闘争家の兄弟が生まれた。私の研究によればヴァーデンフェル出身のチャイマーの魔術師がどうやら獣を支配したらしいが、それまでには兄弟が何百人もの人間とエルフの命を奪っていた。我々の民の最も暗い歴史がその後に続いた。止まらなくなった獣がアッシュを駆け回り血で染まらせたのだ。チャイマーもネードも同じように。

兄弟がどうやってニルンに持ち込まれたかは推測するしかない。デイドラ公が彼らを遺跡へ召喚したのかもしれない。笑うシェオゴラスか、ボエシアからの厳しい生き残りの試験かもしれない。

二匹の野獣は最終的にストンフォールの双子の尖塔に突き立てられ、爪で汚した血の歴史と共に休息についた。我々は彼らのような者が二度とアッシュランドに現れないよう希望し、トリビュナルに祈らなければならない。

名家とその特権The Great Houses and Their Uses

テル・ヴェラノ 著

アッシュランドに住めば厳しい暮らしに慣れるだろう。怒れるクワマー、毒キノコ、部族の襲撃者。どれも相手を殺そうと狙っている。みすみす殺されることのないように。

ここにダークエルフの名家に関する覚書をまとめる。使うもよし、使わぬもよし。判断は任せる。ただドーレス家の奴隷キャラバンにいる自分に気づいたとしても、テル・ヴェラノに忍び寄るのは勘弁してほしい。

インドリル家

内海の南岸近くのどこかにいるなら、インドリル家が采配を振るっていることだろう。アルマレクシアの犬たちはストンフォールとデシャーンの有力な家のほとんどの主導権を握っているし、ドーレス家には金があり、レドラン家には武力がある。だが騙されてはならない。青い帽子がアッシュランドの精神的中心を握っているのだ。

彼らの紋章を見たことがあるだろうか?翼があって、我々の頭上を高く飛べる。彼らは我々をそんな風に見ている。自分たちの下に。自分たちよりも遥か下に。ストンフォールの軍隊は地域で最も強力な軍隊のひとつで、インドリル家の戦争の英雄、タンバルがその頂点にいる。

ヒント:誰よりも先にインドリル家の軍隊に賄賂を渡すべし。彼らは最も顔が利く。聖堂に侵入しようとしないこと。砦のようなものだから。インドリル家の服を着た者はストンフォールとデシャーンに重要な影響力がある。もっと簡単な目標を探せ。

レドラン家

義務。名誉。愚行。一般の民はレドラン家をパクトの強力な利き腕と考えている。野外でパクトの士官の集団を見かけると、彼らは最も印象的な帽子がこの誇り高き一族に属しているように見せかける。

現実は少し違っている。赤い帽子の部隊は確かにパクトの軍隊を動かしてはいるが、下から支えているのであって、上から支配しているのではない。アルゴニアンの偵察部隊とノルドの狂戦士たちもまた多くの部隊の指揮を執っている。この話を隠そうとする理由?高潔なレドラン家はそもそもパクトが組織されたことをいまだに快く思っていないのだ。彼らの軍人らしい大胆さはアルゴニアンの隠密ぶりとノルドの勇気に比較するとやや薄っぺらく見える。

彼らの諺からひとつ引用しよう。「人生は厳しい。判断し、我慢し、熟考せよ。軽率な人生は生きる価値がない」それですべてうまくいっていたのは、外見の異なる民が来るまでのことだった。その後は、嘘をつき気取って歩く庶民の時代となった。

ヒント:レドランの部隊はユーモアのセンスはないが、強欲だ。充分なものを提供すれば、自分の母親でさえ売り飛ばすだろう。レドランは絶対に面と向かって侮辱してはならない。いや、どんな状況であれ侮辱してはならない。彼らは訓練場で噂話をする傾向がある。スリを働く気なら、レドランは格好の標的だ。逃げ道だけは確保しておくように。さもないと思っているより早くトリビュナルに合う羽目になるだろう。

フラール家

フラール家は称賛しないわけにはいかない。パクトの連帯に関して有言実行してみせたのだから。だが古くからの敵や奴隷を急に愛するようになったというわけではない。いや、フラール家の大師範はただ他のほとんどよりも賢いというだけのことだ。手を広げてみせれば、背中に隠した短剣には気づかれにくいというものだ。違うだろうか?

最も有力な地位はインドリル家が権利を持つ一方で、フラール家はデシャーンを狡猾に支配している。配下の最大の都市はナルシスで、モーンホールドにさえかなりの影響力を持っている。フラール家の宿屋と大農園はストンフォール南部のここかしこに見られる。その設計図をよく学ぶといい。建築業者の多くは同じ設計図を繰り返し使っている。フラールの宿屋の隠れ場所を一つ知ったら、すべての宿屋について知ったことになる。

ヒント:フラールの部隊はデシャーンのクワマー・クイーンのようだ。彼らに対抗するにはそれを使え。デシャーンの外に出ると、フラール家の者は自分が灰嵐に立っているような気持ちがするらしい。彼らにどこで会おうとも黄色い帽子がよい目印になる。とことん活用するとよい。

ドーレス家

ドーレス家のことは知っていると思っているのではないだろうか。階級の役割に厳格な、血も涙もない奴隷商人。庶民を見るやいなや売り飛ばす傲慢な上流階級。

かなりのところは当たっている。「ドーレスに関わるな」と頭の中にぐるぐる浮かぶことだろう。ただこういう声も聞こえる。「テル、彼らは使い道もわからないほど多くの金を持っている」それもまた正しい。平均的なドーレスの一員は、最も熟練したスリでさえその気にさせるほどの宝石を見せびらかしている。

友よ、その敏捷な指は抑えておくことだ。ドーレスの正義はオーディネーターや地元の衛兵を悩ませることはない。ドーレスに関われば、消えるのみ。死ぬかどこかの上流階級の大農園の奴隷になる。

ヒント:硬貨はすべて奴隷商人の財布に結びつけられている。ドーレスには関わるな。

テルヴァンニ家

この魔術師の家で良い点はひとつだけだ。パクトに関して文句を言わない。彼らが気にかけているのはテルヴァンニの海岸沿いの聖域だけだ。パクトが作られたとき、彼らは予想外の方法でロープを手に入れ、見つけられる限りの室内履きを吐き出した。彼らはトカゲともノルドとも仲良くはない。別の家の大師範を助けるために道を渡ることもしない。簡単に言えば、彼らは古典的な象牙の塔の魔法使いだ。

それ以外の茶色の帽子に関する話は悪いものばかりだ。彼らはドーレス家と同じくらいの奴隷を動かしている。テルヴァンニ家の貴族であるためには、かなりの力が必要だ。きちんとした身なりの茶色の帽子を間違ったやり方で見てしまったら、彼らは相手の顔を溶かしてしまうだろう。彼らは素晴らしい魔法の宝と、干からびた一斤のパンでも取り替えられないような本に同じ価値を見出している。

ヒント:暴れまわるデイドラは私に魔術師の塔を攻撃させることはできなかったが、どうしてもニルンを出たいのならば、炎と霜に対する防御効果を魔法で付与された鎧を勧める。それからできるだけ長く塔を観察すること。そこに魔法の防御の印が見られれば、たぶん修復のために外に出なければならないだろう。路上で幸運に恵まれることがあるかもしれない。新しい略奪品はじっくり観察するといい。宝の中には防御の力が既に備わっているものがある。

様々な宗派:アルゴニアンVarieties of Faith: The Argonians

帝国大学 ミカエル・カルクソル修道士 著

最も同化した少数を除いて、アルゴニアンはエドラもデイドラも崇拝しない。彼らにはタムリエルの他の地域で「宗教」として知られるものが存在しない。彼らがブラック・マーシュのヒストの木を崇めているのは知られているが、祈祷や聖職者や聖堂といったものはないようだ。

アルゴニアンはシシスも崇拝している。神々が生まれるまえに存在した原始的な影と混沌である。タムリエルの民のほとんどとは異なり、彼らはシシスを「悪」とは捉えない。実際、アルゴニアンで影座のもとに生まれた者は誕生時に連れ去られ、闇の一党に捧げられる。闇の一党は社会に不可欠な一部と考えられている。

様々な宗派:ダークエルフVarieties of Faith: The Dark Elves

帝国大学 ミカエル・カルクソル修道士 著

ダンマーは、エドラを崇拝するアルドメリから異端とみなされるチャイマーの子孫である。アレッシア改革はモロウウィンドで起こらなかったため、神殿はタムリエルの他の地とは類似していない。ダークエルフの元々の宗教は「善きデイドラ」と呼ばれるデイドラ公の崇拝だったが、ほとんどの者が「生ける神」トリビュナルを崇拝するようになった。

トリビュナル

アルマレクシア(モロウウィンドの母):

古代チャイマーの伝説からは、彼らが「大脱出」と呼ぶ一件の間にアーリエルの痕跡のほとんどが消えてしまっている。これはアルトマーとの繋がりが強く、彼らに人気があったことが主因だとされている。しかし、定命の各種族が重要視するアーリエルの要素の大半、すなわち不死性、歴史性、そして系統は、モロウウィンドの神聖なるトリビュナルの中でも最も人気のあるアルマレクシアに都合よく反映されている。

ヴィベク(モロウウィンドの主):

ダンマーの詩吟を詠む戦神であるヴィベクは聖なる地の目に見える管理人で、火山の邪神たち相手に警戒を続け、第二紀572年に1日だけ水中で呼吸する方法を教え、モロウウィンドを冠水させてアカヴィリの侵略者たちを排除した件を初め、ダンマーの民を何度も滅亡から救っている。

ソーサ・シル(モロウウィンドの謎):

ダンマーの神、ソーサ・シルは神聖なるトリビュナルの中でも最も知名度が低く、機械仕掛けの秘密都市から世界を作り変えつつあると言われている。

「善き」デイドラ

ボエシア(策略のデイドラ公):

預言者ヴェロスによって代弁されたボエシアは、ダークエルフの神にして開祖である。ボエシアがもたらした光により、やがて「チャイマー」、もしくは変容せし者と呼ばれる一族はアルドマーとの縁をすべて切り、デイドラの理念に基づいた新しい国家を設立したのだった。哲学、魔術、そして「責任ある」建築など、ダークエルフのあらゆる文化的な「進歩」はボエシア由来のものとされている。ヴェロスが古代に説いた説話はいずれもボエシアがあらゆる種類の敵に対し英雄的な成功を収める展開となっており、チャイマーの先駆者ゆえの苦労を反映したものとなっている。ボエシアはアルマレクシアの守護者としても知られている。

メファーラ(両性をもつ者):

メファーラは糸を紡ぐ者、すなわち蜘蛛の神である。モロウウィンドではチャイマーに敵から逃れ、殺す術を教えた先人とされている。チャイマーは小規模の集団だったため、敵は無数にいた。メファーラはボエシアと共に、やがて名家となる部族のシステムを生み出した。また、モラグ・トングも設立している。ヴィベクの守護神とも呼ばれる。

アズラ(黄昏と暁の女神):

アズラはチャイマーらに、自分たちがアルトマーとは別の存在たりえることを教えた先人である。その教えは時にボエシア由来とされることもある。伝説ではアズラは1人の先祖というよりも、一族共通の開祖として登場することが多い。ソーサ・シルの守護者としても知られている。

不在の神

ロルカーン(不在の神):

この創造者、詐欺師にして試練を与える神は、タムリエルに存在するどの神話にも登場する。彼の最も一般的に知られる名前はアルドメリの「ロルカーン」か破滅の太鼓である。彼は父親であるパドメイが始まりの場所に不安定さをもたらして現状を乱したのと同じように、原初の魂を説得、もしくはけしかけて定命の者の次元を生み出させた。その世界が実現すると、ロルカーンは神の中心地から離れ、伝承によっては不本意ながらという説もあるが、原初の神々の創造地をさまよう。彼と彼の「計画」については文化によって大きく違う。例えばモロウウィンドではサイジックの企て、すなわち定命の者たちが創造主である神々を超越する試みに関与しているとされている。

災厄の四柱神「試練の神」

崇拝ではなく、宥め、和らげる対象の敵対する神

モラグ・バル(企みの神、残虐の王):

モロウウィンドで重要な地位を占めるデイドラ。同地ではどこへ行っても策略のデイドラ公ボエシアの宿敵とされている。ダンマー(およびその先達であるチャイマー)の直面する苦境の主な出どころである。伝説では、モラグ・バルは常に名家の血統を壊そうと試み、ダンマーの純血を台無しにしようと試みている。モラグ・アムールに住んでいたと言われる怪物の種族は、前紀に行われたヴィベクの誘惑の結果であるという。

マラキャス(呪いの神):

ダンマーの神話では、ボエシアがアルドマーの英雄神トリニマクを飲み込み、排出したものがマラキャスとされる。弱いが復讐心に燃えた神である。ダークエルフは彼がオークの神王マラクだと言う。彼はダンマーの身体的な弱さを試す。

シェオゴラス(狂神):

シェオゴラスに対する恐怖は広く普及しており、タムリエルのほとんどの地域に見られる。最近の知見では由来がアルドマーの創世話にあるようで、ロルカーンの神性が失われたときに「誕生」したものとされている。重要な神話の一つではシェオゴラスを「シシスの形をしたこの世の穴」と称している。彼はダンマーの心の弱さを試し、名家を互いに裏切らせようとする。

メエルーンズ・デイゴン(破壊の神):

人気のあるデイドラ。火炎、地震、洪水などの自然の脅威に関連づけられている。一部の文化集団で、デイゴンは単に流血と裏切りの神となっている。モロウウィンドではとりわけ重要な神であり、その地の限りなく不毛に近い地形の象徴とされている。

様々な宗派:ノルドVarieties of Faith: The Nords

帝国大学 ミカエル・カルクソル修道士 著

八大神

カイネ(終末の口づけ):

ノルドの嵐の女神。ショールと死に別れている。戦士たちが好んで信仰する。しばしば人類の母と呼ばれる。嵐の声を意味するスゥームを初期のノルドたちに教えたのはカイネの娘たちだとされている。

マーラ(愛の女神):

ノルドの神話で、マーラはカイネの侍女にしてショールの愛人とされている。多産と農業の女神として、マーラは時にアヌアドのニール、すなわち宇宙の女性的基盤であり、創造を生み出した存在と関連づけられている。

ディベラ(美の女神):

八大神の一員で人気のある女神。シロディールでは様々な分派が存在し、女性を尊ぶもの、芸術家や美学を尊ぶもの、性愛の指導を身上とするものなどがある。

ストゥーン(身代金の神):

ツンとは兄弟であるノルドの神で、ステンダールの原型と言える。ショールの盾の従士であったストゥーンはアルドマーの神々と戦った戦神であり、人間たちに敵を捕虜にとる方法と、そうすることの利点を伝授している。

ジュナール(ルーンの神):

知識と秘密を司るノルドの神にして、ジュリアノスの先駆者。気まぐれで戦いを好むノルドの間では人気がなく、崇拝は消えようとしている。

ショール(死の国の神):

ロルカーンのノルド版であり、世界の創世後に人間たちに味方するものの異国の神(すなわちエルフのものなど)の共謀により倒され、ソブンガルデへと送られてしまう。アトモーラの神話では抑圧側のアルドマーに対しノルドらを何度も何度も勝利へと導く血に飢えた武将として描かれている。転落する以前のショールは主神であった。子供たちに神の異名で呼ばれることがある(オーキー参照)。「死んだ神」と考えられるショールには司祭がおらず、積極的に崇拝されている訳ではないが、誓いに使われることは多い。

オーキー(叩く者):

定命の神。オーキーはモーロッチとアーケイの側面を組み合わせている。ノルドの「借り物の神」で、アルドマーがアトモーラを支配していた時期に信仰が始まったようだ。ノルドは自分たちがかつて、オーキーが現れるまではエルフに匹敵する長寿であったと信じている。野蛮な策略により騙されて取引をし、冬を数える運命に縛られたのだとされている。伝説では一時オーキーの邪悪な魔術により、ノルドの寿命がわずか6年間まで落ち込んでいたことがあったそうだが、ショールが現れ、何らかの方法で呪いを解き、その大部分を近くにいたオークに肩代わりさせたものとされている。

アルドゥイン(世界を喰らう者):

アルドゥインはアカトシュのノルド版というべき存在だが、帝国の八大神との類似点は表層的なものにとどまっている。例えばアルドゥインの二つ名である「世界を喰らう者」は、この世を生み出すために前の世界を破壊した恐ろしく強大な炎の嵐としてアルドゥインを描く神話に由来している。ノルドらはすなわち、時の神を創造主でもあり、終末を伝える者でもあると認識している。アルドゥインはノルドの主神ではなく(主神はいない。ショールの項参照)、その恐ろしく、暗い水源的存在と見なされている。

アルドゥインは以前の世界を破壊し、この世界の作成を可能にしている。この世界も破壊し、次の世界の作成を可能にするだろう。アルドゥインは、以前竜教団に崇拝されていた。しかし、竜教団が非合法化されてから長いため、アルドゥインを公然と崇拝する者はいない。

ハルマ・モラ(ウッドランドの男):

古代アトモーラの魔族、「知識の悪魔」で、ノルドたちを誘惑してアルドマーに変える寸前までいったことがある。イスグラモルの神話の大半はハルマ・モラの企みをかわす話がほとんどとなっている。ボズマーとは異なり、ノルドはデイドラであることを否定していない。

モーロッチ(オークの神、山の屁):

ノルドにはデイドラ公マラキャスと同一視されているモーロッチは、戦いを通して試練を与える。モーロッチはハラルド王の世継ぎたちを長きに渡り苦しめた。第一紀660年に竜の壁の戦いでの敗北後、東方に敗走したという。その憤怒は空を憎しみで満たし、後に「夏中の冬の年」と呼ばれるようになったという。

死せる神

ツン:

今では消滅してしまっている、逆境に対する挑戦を司るノルドの神。ショールを異国の神々から守ろうとして命を落とした。

リフトの伝承

The Rift Lore

さまようスカルドThe Wandering Skald

あらゆる蔵書庫がカビ臭い古い物語を抱えている
それは雨と雪の中、運ばれた
だがノルドのスカルドは喜んで人々をもてなす
それは遥か昔に詩人達に広く歌われていた物語

あらゆる本には題名と名前がある
だがそのページはすぐに塵となる
私達の歌う詩は名誉と共に生き続ける
私達全てが信じる時代から

古い物語は遥か昔から伝えられてきた
抑揚と拍子と詩歌と共に
すぐにスカルドの顧客は期せずして知ることになる
「そうだ、私の人生は悪くない」

そして王達は真実を知る
剣や盾よりもましなことを
過ぎ去った若き日々から教えられる
スカルド王には行使する英知がある

よくぞ来てくれた友よ
今夜歌う詩のために
終わることなく夜通し続くだろう
乾杯のハチミツ酒から日の出まで!

セネファンのハチミツ酒の謎Thenephan’s Mysteries of Mead

ダガーフォールから締め出され、エルデンルートから追い出され、モーンホールドから追放されたのには訳がある。私はこの世界にいる限り避けては通れない、人を酔わせるあらゆる物、ワイン、エール、そしてアルゴニアン酒を試してきた。カジートのスクゥーマを試飲し、アルゴニアンのヒストの木を舐め、ボズマーの「魔法」カエルを仕留めたこともあった。

どれもノルドのハチミツ酒とは比較にならない。ハチミツ酒に並ぶようなものは存在しないのだ。

この世界一純粋な酒はノルドの村で作られる。だが今はノルドと戦争中だ。それにブレトンが生きてそこに辿り着ける保証もない。その手のことは専門家に任せるべきだ。だがまだ希望は残されている。もし酒場に行ったとき、そこにノルドのハチミツ酒が置いてあったら、それを飲まない手はない。

ハチミツ酒は発酵したハチミツと水から作られる(糖蜜を使うレシピもいくつかある)。時には、すり潰した穀物を入れて味を調えることもあるが、必ずしも必要というわけではない。ハイエルフの一部はこれを「ハチミツワイン」と呼んでいる、とにかくハチミツ酒には非常に良質のハチミツが必要となる。それぞれのハチミツ酒醸造所には独自のレシピがある。たくさんのハチミツ酒を飲めば、醸造家の名前を自然と覚えるようになる。酔っ払ったノルドは、素晴らしい醸造家の名誉のためであれば、他のノルドの顔を殴りつけさえする。だが酔っ払ったノルドであれば、何かと理由を付けて誰にでも殴りかかるかもしれない。

あらゆる醸造家が、独自に調合したスパイスやフルーツ、そして時にはホップ(これがハチミツ酒に苦味を与え、一部のノルドの舌をしびれさせる)を持っている。詩人や吟遊詩人の伝えるところによれば、英雄の血を混ぜたハチミツ酒もあるそうだ。

あるアルトマーから、醸造はあらゆる文化の根幹を成しているという話を聞いた。だからこそ我々の祖先は農業を始め、街を作ったのだ。そして、小麦と大麦とホップが余り、農業に疲れると、醸造を行う。どうやら酒を飲む文化がノルドを一つに束ねているようだ。

ノルドは本当に農業にうんざりしているようだ。なぜなら彼らは驚くほどのハチミツ酒を造って飲んでいるからだ。素晴らしいハチミツ酒の樽が開くと、ノルドはその樽がすぐに空になると知っているためその周りに集まる。だが、もしノルドの酒飲み文化のしきたりを知らなければ、最後には酔いつぶれて、意識を失い、二日酔いになって、動けなくなってしまうだろう。私はそのしきたりを苦労して身につけたのだ。

ノルドは飲むのが好きだ。だがそれだけではない。ノルドは苦難を乗り越えられる人々を尊敬している。なぜ2人のノルドが「私の顔面を思い切り殴れ」競争をするのかを説明するには大げさすぎるかもしれないが、しかしだからこそ彼らの文化では酔うことを称賛するのである。

吹雪の中を生き抜いたり、鋭い棒きれで熊を倒したりしたときと同じように、ノルドはハチミツ酒を誰よりも多く飲むことで尊敬を得ることができる。彼らは酔うと「ノルドの名誉」について延々と語り出すが、素面の時に比べればまだましである。つまりノルドについて最初に知るべきことは、彼らから尊敬されたければ、飲むのを絶対にやめてはならないということだ。これは試験なのだ。次の酒が飲めなければ、その場から離れなければならない。そうしなければ、とても愉快な場所で目を覚ますことになる、だがその当事者はきっと笑ってはいられないだろう。

ノルドは吟遊詩人も愛している。乱闘や空自慢が頂点に達し、斧を投げ始めるようになると、歌と物語を背景にして観客は大いに盛り上がる。彼らの歌は、彼らがいかに他者より優れているかを語っているものばかりである。彼らはそれを何度も何度も聞いている。だからその場を訪れたら自分しか知らない話をすることをお勧めする。彼らは新しい物語を聞きたがっているのである。

どこにいても、酒は誤りを正したり誤ったりするときの手っ取り早い手段となる。そしてそれはノルドでも同じだ。競争で敗れたら、酒を買わなければならない。失敗したり誰かを怒らせたりしたら、酒を買わなければならない。屈辱を受けたにも関わらず、呆然と立ち尽くすしかなかったら、酒を買わなければならない。

酔っ払ったノルドだらけの部屋を抜け出すには、必ずしも腕っ節の強い人間になる必要はない。彼らの心を動かしたければ、上手く言いくるめるか頭を働かせればいい。だがそのためにはかなりの才能が必要だ。顔を殴られる時を迎えたら、顔面を殴られる準備をした方がいいだろう。殴られるのが嫌ならば、政治や最高の醸造家、さらには誰が一番殴る力があるかなどについては、絶対に話題にしてはならない。そして殴られた理由を決して聞いてはならない。

もっと詳しく知りたければ、ダガーフォールで今度、私に酒をおごってくれ。きっと教えられることがあるはずだ。

ソブンガルデへの道The Road to Sovngarde

語り部達は、ソブンガルデに行って戻ってきたと主張する英雄達の物語を知っている。だが真実のほどは定かではない。偉大なる戦士達は命を落とすことでソブンガルデに向かって歩みを進めることになる、だがもし命のある者がそこに行き、戻ることができたとすれば、前代未聞のことである。

だが語り部はソブンガルデが存在していることは知っている。我らの神がそれを裏づけている、と我々は信じている。ソブンガルデはエセリウスの中心にあり、死亡した戦士達の魂が辿り着くのを待っている。名誉ある戦死を遂げたノルドは、死んだ後にこの地で目覚める。勇気の間では痛みも病も消え去る。酒宴は終わることなく続き、ハチミツ酒が大量に振る舞われ、史上最も偉大なノルド達が、力と勇気の腕比べをする。

この世界の閉じ込められた霊魂は、負け戦や王国の没落、そして目的を失った人々につきまとう、苦しみや空虚や終わりのない苦痛を知っている。だがソブンガルデではそれがないのだ!不死の退屈さというものすら感じることなく、幽霊達はそこかしこにある影に潜み、腕試しをできる相手を待っている。

ショールは大昔にその見事な魔術でソブンガルデの領域を作った。だがこの詐欺師の神は我々の世界から姿を消してしまった。他の神々は彼の欺瞞のベールをはがすべく、見捨てられた力を利用し、この来世の世界へと続く隠された道を探そうとした。だがその試みは全て悲劇に終わった。誰もこの詐欺師を出し抜くことができなかったのだ。言い伝えによれば、ショールはこの領域に引きこもり、彼を出し抜こうとした者を嘲笑っていたとされている。彼はこの世界の支配者でもあるらしく、彼の気の向くままに英雄を選び出して栄誉を与えている。

これはすべて憶測でしかない。尊敬に値する者だけが真実を知ることができる。そして彼らは生者に対して口をつぐむ。この世界のあらゆる苦痛と不幸を耐え抜いた本物のノルドの戦士だけが、ソブンガルデに行けるのである。

リーチのクラン:ガイドClans of the Reach: A Guide

エーセルモ 著

リーチの野蛮なクランの人々と関わり合いを持つ機会、または不運が巡ってきたら、関わりを持つ相手のことを知っておくべきだ。北の都市と穏当かつ平和的に交易を行っているクランも多々あるが、旅行者を脅威や標的とみなしているクランも存在する。

私は研究の過程で、どんな犠牲を払っても特に関わりを避けるべき3つのクランを特定した。

ボーンシェイパー・クラン:

ボーンシェイパー・クランは、トゲのある蔓や植物を用いた数多くの風変わりな儀式を創り上げてきた。クランの名前も、儀式のいけにえの骸骨にそういった蔓を通し、骸骨の中で蔓を育てる彼らの伝統に由来している。この植物は元々リーチにあったものではなさそうだが、彼らは上手に栽培を行っている。

襲撃や戦闘を開始する直前に、彼らはこの蔓で人形を作る。その植物で、生物の大雑把で不格好な似姿を作る。クラン内では死霊術が禁忌となっているようだが、儀式の中には死者を利用するものもある。死体がどんな形で使用されるのかは不明だが、旅行者は彼らの武骨なクランのシンボルを見かけたら、十分な距離を保つべきである。

レイジクロー・クラン:

レイジクロー・クランは、頑丈で好戦的な種類の熊科の動物を家畜化している。この熊は幼いうちから訓練され、クランの特定のメンバーや家族と結び付いている。女性が支配するこのクランは、多くの面で彼らの相棒である動物を模倣している。最も重視されているのはクランの若いメンバーを保護することで、私もレイジクローの家族全体が、子供に対するごくささいな脅威をきっかけに戦いに加わるのを目にしたことがある。

このクランがリーチの他のクランといさかいを起こすきっかけとなっている独特の習慣がある。レイジクローは自分達より規模の小さなクランを制圧し、吸収した上で、レイジクローの流儀に従わせるのだ。新たにクランに加わった女性は、自分達にとてつもない支配権と自由が与えられていることに気づき、変化を楽しむことが多い。男の戦士たちは大人の熊と1対1で闘わされ、熊を1匹服従させることでクランの中での居場所を得るが、こういった巨大な獣の扱いに慣れていないクランの男性は大抵苦戦する。

ストーンタロン・クラン:

最後がストーンタロン・クランである。表向きは上記の2つのクランほど攻撃的ではないが、独特で闘争的なふるまいは多々見られる。レイジクロー同様、ストーンタロンも女系社会だが、女性の数は非常に少ないようだ。目撃される時、女性は皆鳥の羽で作られた重たいマントにくるまれ、まるで病気にでもかかっているような出で立ちをしている。彼らは何か計り知れない目的のために、数々の試練に耐えているに違いない。

いずれにせよ、私が出会ったマントの女性達は1人残らず強力な魔法使いであった。結果として、ストーンタロン・クランは故郷を遠く離れた場所で出会うには最も危険な人々だと言えるかも知れない。

リフテンの利益の河Rivers of Profit in Riften

リフテンの街には冒険を好むならず者の興味をそそるチャンスが満ちているが、隠れた流砂にのみ込まれる危険も潜んでいる。リフトには我々の試みに適した肥沃な土地はほとんどなく、少しの間だけでも立ち寄ることをお勧めできる場所はリフテンのみである。

一旦街に入ったら、「ウィサードツリー」か「シェイドホーム」に仕事の拠点を置くことができる。どちらも違いの分かる旅行者の要求を満たす宿屋である。街をざっと流すと有望な顧客が何人か見つかるだろう。だがここで警告しておく。偵察は常に用意周到に、街のたくさんの商人達から品物を1つ買った上で行うべきだ。街の衛兵隊は活動的で、よそ者に対して異様なほど疑り深く、ノルド以外の人種に対してはことさらその傾向が強い。地元で買った品を持たずにそぞろ歩きしていると、あっという間に監房に入れられてしまうだろう。

街の心臓部を形作る島は、近くにある湖のさわやかな水に囲まれており、商人の屋台がいくつかある。こちらで手早く買いものを済ませれば、衛兵の疑念を和らげるだけではなく、商人が扱っている品物をチェックすることもできる。商品の質や品ぞろえにはかなりの違いがあるため、どの屋台が最も興味深いかについては各自に判断を委ねたい。

北には注目すべき建物が2つある。一般に島内の屋台では手に入らない品物を扱う2軒の老舗である。ロサレン家は手工芸用の素材を扱っており、その中には非常に専門的で貴重な品もいくつか含まれている。このダンマーの一家は、その商品が平凡な街に怪しい魅力を添えているという理由でリフテンの街に受け入れられている。ロサレン家は他のすべてのダンマー同様貪欲で疑り深く、嘆かわしいほど数多くの衛兵を雇った上に、もっと深遠な安全対策も講じている。ここでは貪欲な鉤爪に警告し、大人しくさせるべきである。

ロサレン家の隣にあるのはグラム・アイアンアームの工房である。この引退した鍛冶屋とその家族は、武器や防具の職人として技術を提供している。こういった商売に必要な素材はほぼここでそろうため、リフト中から職人達が訪ねてくる。警備はアイアンアーム一族が行っており、一族の情熱の証として、玄関の上にたくさんの切り落とされた手が釘で打ちつけられている。

衛兵隊長の宿舎や戦士ギルドについて長く語る必要はない。何の見返りも見当たらないのにあれほど深くて流れの速い水に飛び込むのは愚か者のみだからだ。

ああ、しかしリフテンで最も印象的な大建造物、魔術師ギルドのホールは別である!あの中に納められた財宝を想い起こすだけで、私の爪は震える。呪文の一部分に、貴重な巻物、そして強力な魔力を秘めた品々——リフトにしかない貴重なコレクションだ。残念ながらそれを守る護衛はよく切れる頭と破壊力とを兼ね備えている。この建物に入るときはすべての感覚を研ぎ澄ませよ。

水際には街の港がある。単純な者はそこで釣りをしたり、暗い水面をのぞき込んだりするが、我々の中でも貪欲な者はもっと大きな喜びを抱く。港の下層では、海岸すれすれに位置するうっとりするほど湿っぽい倉庫で、人目につかない場所を好む商人が商売を営んでいることがある。ここでは通常どんな種類の売りものにも買い手が見つかる。街の衛兵は港の下層を避けるか、規模の大きい、回避しやすい集団でのみパトロールを行っている。

港の一方の端にある格子戸は、小さな下水道に通じている。現在はネズミの通路でしかないが、リフテンの発展に応じて最終的にはこれが街全体の地下に広がり、秘密の作戦の際にもっと役立つものになるだろう。

ギルドの知識を広げることに貢献できるよう願いつつ、リフテンでの私の体験の記録を提供する。
同志たちよ、潤いを保て。

ここに謹んで提出する
「意志を持った目」

帰還の歌 第5巻Songs of the Return, Volume 5

我らの偉大なる王であり、我ら全ての導き手であるイスグラモルは、キャンプの炎の前に座っていた。ジョルバスクル、ファロウファイア、ケール・カーズの船員達は、彼に食べ物を勧め、自慢話をせがみ、酒をついだ。この土地のいたるところには500の同胞団の愉快な団員達がいた。数々の物語が語られ、哀歓があり、常に焼けた肉の匂いが漂っていた。我ら全ての偉大なる者は、戦士達を全員近くに招き寄せると、ウースラドの鍛造の物語を語り始めた。

導き手が始末したあらゆるエルフは、ウースラドによって殺された。長い戦いの中で、導き手が違和感なく使えた武器は強大なるウースラドだけだった。彼が語ったように、伝説上の斧のほとんどが、夜の最も暗い時に鍛造されたものだった。

それは涙の夜だった。イスグラモルは海を渡ることにした。彼は最後の船に乗り、タムリエルから逃れてアトモーラの岸に向った。そこから彼は、最初の街、サールザルが炎を上げているのをじっと見ていた。膨れ上がった空が炎と海の上に雨を降らせた。そして我ら全ての偉大なる者は、悲痛な涙を流した。

導き手の悲しみは非常に深く、イスグラモルは悲しみを隠すことなく、混じりけのない黒檀の涙を流した。彼の一番上の息子であるユンゴルはその涙を器に集め、暖かく父親を抱きしめた。彼は導き手の偉大なる喉にハチミツ酒を流し込むと、導き手の偉大なる肩を毛皮で包み、導き手を下甲板の偉大なるハンモックに寝かせた。

そして彼は仕事に取り掛かった。我ら全ての導き手の一番上の息子であるユンゴルは、我々が知る限り一番の鍛冶師だった。海の上でユンゴルは自分の道具を使って仕事に取り掛かった。彼は雷を使って夜の涙を温め、海の波でそれを冷やし、勢いを増す風音の中ハンマーを叩き続けた。

イスグラモルが次の朝に目を覚ました時にユンゴルは、昨日の夜彼を打ちのめした悲しみから削り出した強力な斧を彼に渡した。そして我ら全ての導き手は息子を抱きしめた。彼は喜びと、悲しみと、怒りの涙を流した。そして、サールザルからの最後の船の甲板で、イスグラモルはその斧を、アトモーラの言葉で「嵐の涙」を意味する、ウースラドと名付けた。

そして、ここでイスグラモルは言葉を詰まらせた。我ら全ての導き手はユンゴルの名前を叫んだ。ハラックの船員達と一緒にいたユンゴルが、離別の嵐により行方不明になってしまったのだ。イスグラモルの長男であり、彼の一番の喜びでもあったユンゴルは、いつも彼と一緒にいた。嵐の涙に捕らえられたユンゴルは、名誉ある気高い500の同胞団との日々の中で、常にイスグラモルと共にあった。

帰還の歌 第27巻Songs of the Return, Volume 27

ついにシンムールは追い詰められた。我ら全ての導き手イスグラモルは、臆することなく残っていた同胞団を最後の戦いへと導いた。すでに多くの勇敢な同胞達が巨人に倒されていた。そして頑健なヴァルダーとずる賢いハクラが、狡猾な半巨人に攻撃を開始した。彼らの霊魂が長きに渡り讃えられんことを。他の多くの者は、その頃ソブンガルデに向かって神聖な道を歩いていた。彼の血族は全て死に絶え、シンムールだけが我らの偉大なる者に抵抗していた。

百に及ぶ巨人を殺したウースラドは、血を滴らせながら、シンムールの墓地の暗闇の中で鈍く光っていた。イスグラモルは前に進むと、従者達に止まるように指示した。つまり彼は勇敢にも命を賭けてシンムールと戦うことにしたのだ。そしてこの巨人族もそれを受け入れて、大声を上げて挑戦の意志を示すと、戦いにその身を投じた。鉄で強化された彼の巨大な棍棒が敵を潰さんと前に振り下ろされた。我らの王イスグラモルが横に避けると、彼の横にあった岩が棍棒によって打ち砕かれた。ウースラドは血の歌を歌いながら棍棒を切り刻むと、それを麦わらのようにバラバラにしてしまった。

シンムールは怒りに大声を上げると、もはや見る影もなくなったその武器の破片を我らの王イスグラモルの頭めがけて投げつけた。そして彼はイスグラモルを掴むと、握りつぶして殺そうとした。だがその怪物の耳に届いたのは大きな笑い声だった。イスグラモルは額と膝を使ってそれぞれ強力な一撃を放った。シンムールは悲鳴を上げると、我らの王の前に跪いた。

イスグラモルが巨人の頭蓋骨を真っ二つにしたとき、ウースラドは死と歓喜の歌を鋭く響かせた。シンムールから血が噴き出し、死の音が喉元からもれると、イスグラモルは勝利の声を上げた。ウースラドが頭上で振られ、同胞団は大きな歓声を上げた。この巨人とその下劣な一族による略奪行為がついに終わりを迎えたのだ。我ら全ての導き手のイスグラモルの伝説は、このとき強固なものとなった。

帰還の歌 第49巻Songs of the Return, Volume 49

船長達のサークルの命令により、それぞれの船の船員達は各々の判断で船を出すことになり、サークルの伝説的存在、ファロウファイアの船員達を大いに喜ばせることになった。彼らの望みは始末していないエルフ達が住んでいる新しい土地に、人間の恐怖を持ち込むことだった。彼らは自分達の王、イスグラモルの「慈悲の心を捨てよ。思いやりを見せるな」という言葉を深く心に刻み込んだ。

ファロウファイアのために岸に薪が積み上げられた。彼らの愛した船の灰が海に降り注ぐと、アトモーラに向かって流れていった。これにより彼らと故郷との繋がりが完全に絶たれることになった。グリルダ・シャークトゥース船長に率いられたファロウファイアの船員達は、海に背を向けて内陸へと歩みを進めた。

彼らは南に向かい、他のイスグラモルの船員達が手を付けていない土地を探した。彼らはイスグラモルが求めている血の復讐の種を蒔きながら、南へと進んでいった。彼らの斧を目にしたエルフで生き残った者はおらず、彼らが通った後には焼け落ちた住居だけが残された。ファロウファイアは王の怒りを不誠実なエルフ達へ忠実に伝えた。彼らが旅を続ける内に、エルフ達は彼らに対して恐怖心を抱くようになっていった。

グリルダは船員達を険しい山脈の裾野に連れて行った。彼らはそこをイスグラモルの歯と名付け、そこを通り抜ける道を長い間探し続けた。ようやくその道を見つけ出すと、船員達は山を越えて新たな土地へと足を踏み入れた。深い渓谷と流れの速い川で分断されていたことから、彼らはこの土地を「リフト」と呼ぶようになった。彼らはファロウファイアと死んだ同胞達、そしてユンゴルの名の下に、この土地を物色してエルフの村々を焼き払い、出会った者全てをその斧の餌食にした。

ついにエルフ達が戦いを挑んできた。勇敢なグリルダの同胞団と戦うために、臆病なエルフ達は岩の丘の頂上に大軍を集めた。そして実際に攻撃を開始した。苦闘が繰り広げられ、勇気ある決断があり、英雄が生まれた。戦いは時間が経つごとに激化し、その日の太陽が西の山脈の頂上に触れたとき、エルフの軍は崩壊して敗走した。グリルダは多数の武器で刺されて瀕死状態になっており、太陽が沈んでから息を引き取った。彼女の霊魂は、船員達の勝利を知る、ソブンガルデへと登っていった。

その日、エルフによるリフトの支配は終わりを告げた。同胞団は、我ら全ての導き手、イスグラモルの名の下にその地の支配者となり、全てのノルドにその土地を解放した。同胞団は彼らの死を讃えるために、長い間苦心しながらその丘を調査して墓を作った。グリルダは彼女の武器や鎧と一緒にそこに埋葬された。そこにはグリルダと一緒に、船長を守るために戦いで命を落とした、歯なしのベルギッテと鷲の目のカヨルドも埋められた。名誉の戦死を遂げた他の者も同じように埋葬された。墓の入口の周辺には、墓の位置を見失わないように、巨大な石塚が立てられた。

長い間グリルダの一等航海士であった、ひとつ目のヴィコルドは、彼女の後を次いで船長となると、周りにある山々と足下にある渓谷を長い間じっと見つめた。そして彼はここが愛せる場所であり、人々が繁栄できる土地だと考えた。彼は最後には船員達の自由を認め、戦場に大会堂を建設した。ファロウストーンの間はこのようにして、彼らをこの岸まで運んでくれた船に敬意を表して作られた。このとき以来リフトの同胞団はここで暮らしている。彼らの栄光が決して色あせぬことを!

虫の舌の感触Touch of the Worm’s Tongue

13日目:外見上好ましくはないが、厳密に保存用の塩のみを使用した場合に最も転換の成功率が高いことが判明した。

17日目:黒ずんだ体液が器の中に戻ってくる前に、残った血液を(特に基本的な臓器から)すべて抜き取る必要がある。

19日目:時に宿主に死に至るほどの苦痛を与えるが、肺に水を押し込むと、将来的に咳と膿を吐く発作を防げるかも知れない。

23日目:ごくまれな状況下においてのみ、器が前世で抱えていた症状を示すことがある。初期段階でこれが問題となった場合は、作業を放棄する以上の対処法がないことが多い。

29日目:今日、指示された特定のやり方で慎重に準備を整えておかないと、宿主が器を受け付けない場合があることが明らかになった。これは宿主に対する重大な侮辱であり、このような事態を招くほど器の扱いがずさんであったとすれば、軽い扱いでは済まないであろう。

31日目:最近採用された2つの早道は、器の寿命をあてにできない状態を招くことが分かった。準備段階では一切の早道を回避することが重要だ。誤った知識が広まる原因となった者達は処分された。

37日目:我々の未来の輝かしい最初の一例が誕生した。宿主と器は完璧に結びつけられ、結果として驚くべき力が生じている。

予期せぬ味方Unexpected Allies

私がまだ若かった頃、私はスカイリムの東端に立ち、モロウウィンドを眺めていた。ステンダールの灯台からはヴァーデンフェルのレッドマウンテンが見えた。だがそこに行ったことは一度もなかった。他の多くのノルドと同じように、私も国外の土地はその国の人々のものだと考えていたのだ。

およそ10年前の第二紀572年、私の父は異なる道を選択した。第二次アカヴィリの侵攻に抵抗するために、父は同盟を結んでいたダンマーと共に戦った。ノルドが侵略者を追ってストンフォールに入った時、父もスカイリムの兵士としてそこにいた。父から聞いた話だが、外国のさらに奥深くへと進軍していた軍隊は、飢餓状態でもはや壊滅状態だったらしい、だがダンマーがノルドのためにアルゴニアンの兵士達を連れてきてくれたおかげで、軍隊はすんでのところで気力を取り戻せたそうだ。

これは誰も予想していなかった。今考えても本当に驚くべき出来事だ。ダンマーはかつてアルゴニアンを奴隷にしていた、だがその時にアルゴニアンが来てくれたおかげで歴史が変わったのだ。密林から現れた彼らは、血と泥にまみれていた。アカヴィリは彼らの爪の前に敗れ、その仲間のノルドとダンマーの剣と魔術によって打ち倒された。その時に同盟が結ばれ、それ以来その関係は一度も揺らいでいない。

協定はエボンハートで結ばれた。だが戦場で築かれた絆と比べると、これは表面的なものでしかなかった。逆境の炎で鍛造されたこの同盟は、我々をあらゆる侵入者から守るための盾となった。それぞれ文化は異なっているが、その目的が我々を一つにしているのだ。

数年前、ダンマーのトリビュナルから同盟に兵の支援要請があった。シロディールで頭角を現しつつある我々の新たな敵、帝国と戦うためだ。カバナントとドミニオンにいる我々の敵も、この土地を解放するために軍隊を送った。

そして今はどうなったか?タムリエル全土へと戦火は広がったのだ。カジートとボズマーは、ダンマーとアルゴニアンと戦っている。アルトマーはスカイリムを攻撃している。そしてハイロックからダガーフォール・カバナントが我々に攻撃を仕掛けてきている。

この混沌の中、我々にはどんな選択肢が残されているのだろうか?ダンマーとアルゴニアンとの同盟は10年続いている。私は仲間達と一緒に戦っている。そして家に帰ると子供達に、ダンマーやアルゴニアンと一緒に勝ち取った誇らしい勝利の話をする。

パクトが永遠に続いたとしても驚くべきことではない。私はかなり前からアルゴニアンの秘術師達と言葉を交わし、その世界観に驚かされている。ダンマーの司祭の洞窟に行けば、暗闇を見つめている間、彼らは神々の物語を聞かせてくれる。

いつかダンマーとアルゴニアンとノルドが共にシロディールの盟主となる日が来るだろう。我々は無敵の確固たる同盟、パクトの旗の下で勝利を挙げるのだ。

伝記集

Biographies

アイレン:不測の女王Ayrenn: The Unforeseen Queen

アルドメリ礼儀作法大学のタニオン学長 著

当大学のボズマーおよびカジートの生徒の中には、美しい我らがアイレン女王の下に団結するのはすべてのサマーセットのアルトマーではないと誤解し、流言を繰り返す者がいる。それはまったくの嘘である!我々ハイエルフには、古くからある洗練された文化に新たに触れた者には時に勘違いされてしまうような、「しゃれ」や言葉の軽妙なやりとりを好む習慣がある。私はこの件を解決するべく、我らが敬愛するアリノールの女王についてアルドメリ・ドミニオンの新たな仲間にも理解してもらえるように、簡素かつ率直に紹介することを目的に、この簡潔な入門書を整理した。

アルトマーはニルンを創造した神々からの連綿とした子孫であることは当然のことだ。アリノールの王族に関しては、特に当てはまる。威厳ある名を残したアイレンの父ヒデリス王は、サマーセット諸島を長い間うまく統治し、エルフの儀式制君主政治において最良のやり方を例証して、下す決断はすべてプラキスの書に制定された判例を基盤とした。

やがてヒデリス王とその妻の公女トゥインデンは書が定めるとおりに子を儲け、そしてプラキスが決定づけたとおり、その子をアイレンと名付けた。アイレン王女が生まれた第二紀555年の栽培の月5日は吉兆に満ちた日だったが、その重要性を完全に理解するための背景が不足しているだろうから、理由については割愛したい。しかし、サマーセット、オーリドン、アルテウムの全島民が、王女の誕生を55日間にわたって祝ったということは信じてくれて良い。

アイレン王女は自分が生まれてきた、騒然とした落ち着きのない時代を反映すると予言されたが、そのとおりになった。頭の回転が早く勘がいいアイレンは、家庭教師の授業を早々に極め、学業においても若年から型破りな方法で取り組んだ。実際に時折、独自の研究に没頭しすぎるあまり、何日も居場所がわからずにいたこともあった。野外に出かければ際立った知識を身につけて戻り、卓越した新しい技能を披露した。

573年の星霜の月のある日、アルトマーの王政プラキスと儀式制君主政治を必ず3555日間学ぶ大学であるサピアルチの迷宮への入学が許可されたアイレンを祝うため、アリノールの全王族が水晶の塔に集まった。だが、アイレンは現れなかった。王女は宮殿と塔の間のどこかで姿を消し、司法高官による第十七段階の捜査にもかかわらず、どこにも見当たらなかった。しかしサピアルチの迷宮は、アイレンの失踪した夜は兆候と前兆に満ちていたと報じた。淑女座が駿馬座に乗っているかのように見え、大天球儀は反対に廻り、幼い鷲のヒナが探検家トパルの像の上で見つかった。

その結果、アイレンの弟の内もっとも年長だったナエモン王子がアリノール王の後継者として指名され、575年に迷宮へ入学した。ナエモンは自分の父親同様生まれながらの儀式制君主で、後継者のしきたりによって決定する慣習や任務を心から享受しているようだった。ヒデリス王が580年にエセリウスに上がった時も、ナエモン王子は父親の地位へと昇進する八十日の即位の典礼を表明する準備を即座に始めた。

その後、予告もなしにその不測は起きた!大陸にあるポート・ヴェリンから、アイレン王女が白鳥型の船でオーリドンに向かう途中であると便りが来たのである!驚きあわてたアリノールの宮廷は王女を出迎えにファーストホールドへ向かい、王女の予期せぬ帰還を歓迎するために間に合うよう到着した。アイレン王女は最年長の後継者としてアリノールの王座を引き受ける準備ができていると発表し、最高司法官はそれが確かに王女の権利であることを認めた。580年降霜の月7日、王女はアイレン女王として即位した。

さて、諸君の中には、アイレン王女がサマーセットにいなかった間に経験した、冒険に関する数々の面白い話を聞いたことがある者がいるかもしれない。一等航海士としてアンヴィルの海賊船長と共に航海したとか、ネクロムの宝物庫でインディゴの書を読むためにダンマーに変装したとか、リハドの修道僧に刀剣の舞いで打ち勝ったとか、ハチミツ酒飲み比べコンテストで、ウィンドヘルムの炎の髪のマブジャールン女王よりも飲んだとか。断言するが、全ての俗説や噂は実にばかげているし、非常にふざけている。我らが女王は単にご自分のやり方で独自の研究を行い、プラキスと儀式制君主政治の準備をしていて不在であっただけの話だ。

王座を継承してからというもの、女王はこの地の規則を改変させた。ただ、それは女王の吉兆な誕生の時に予言されたとおりで、サピアルチは誰もが近代化を支持した。であるからして、諸君。アイレンは島々の女王であることは明白であり、すべてはそうあるべくして正しく、当然のことなのである。

スカルド王ジョルンJorunn the Skald-King

ウィンドヘルムの吟遊詩人、リュート・ボイスのヘルグレイル 著

第二紀546年に炎の髪のマブジャールン女王のもとに生まれたジョルン王子は、姉のナルンヒルデが即位する宿命にあるということを理解し育った。人間の声が持つ力をあがめる文化において稀に見る歌の才能を見せたジョルンは、リフテン外部に位置するゴールド島にある、スカルドの静養所で学んだ。彼はそこで、東王国で最も名高い吟遊詩人らから学べる限りのすべてのことを教わった。ジョルンは、スカイリムの「スカルド王子」と呼ばれていた。

ジョルンはほとんどの青年時代を芸術や哲学的探究に費やし、東スカイリム全域と、それを越える地域から実に様々な芸術家、職人、演者を育てた。モーンホールド、ストームホールド、サッチ、エリンヒルで過ごした彼だが、西スカイリムの首都であるソリチュードを変装して訪れたという噂まである。また、政治や統治に興味はないと主張していたが、生まれ持った指導力のおかげで、どんな独創的な分野に身を置いてもリーダー的存在となっていた。戦闘と武力行使の策謀に関して受けた正規の教育はほんのわずかだった(といっても、ノルドの王子が何とか習得できるほどのわずかさだが)一方で、タムリエル全土を旅するのはいつでも危険な行為であった。旅をすることで、彼は問題への対処法を正統ではない方法で学んだのである。

第二紀572年にアカヴィリのディル・カマルがスカイリムの北東海岸を襲撃した時、ジョルンはリフテンにいた。ジョルンと彼の親しい仲間による「吟遊詩人団」は戦いながら海岸を進み、ウィンドヘルムへ到着したのは、アカヴィリによってその門が破られるまさにその時であった。ジョルンは戦いに身を投じ、それなりに慣れていた市街戦に加わったが、街の陥落も、戦いに向かったマブジャールンと「短命の女王」となってしまったナルンヒルデの殺害も防げなかった。

負傷し、精神的にもひどく落ち込んだジョルンは、ウィンドヘルムの略奪をどうにか無事に逃れた。王家生まれの責任を初めて感じた彼は、グレイビアードに援助を訴える決心をして、隠れながらも大急ぎでハイ・フロスガーへと向かった。その理由は明らかになっていないが、グレイビアードはスカルド王子に、ソブンガルデから英雄を召喚し、召喚者の言葉のために戦うスームを教えた。しかしジョルンの声では、スームは王家の勇気の呼び声となってしまい、召喚される英雄は灰の王、ウルフハース以外にいなかった。

今やスカルド王の称号を共に得たウルフハースとジョルンは東スカイリムのノルドを再結集し、リフトと、イーストマーチの外側領域から兵力を集め、その後リフテンを要塞化した。ウィンドヘルムから南に移動したディル・カマルが目にしたものは、ウルフハースの存在に触発されて怒ったノルドがリフテンを守り、しきりに戦いたがっている姿であった。それを見たディル・カマルは、レッドマウンテンの戦い以来、初めてリフテンを迂回してモーンホールドへ前進を続けた。アカヴィリの指揮者が立ち去るのを見て喜ぶだろうと考えたからだ。

その選択は致命的な誤りだった。ジョルンとウルフハースは兵を率いてアカヴィリ部隊を追跡し、ノルド軍はレッドマウンテンの戦い以来、初めてモロウウィンドに入った。アカヴィリ軍はストンフォールで、ノルドとアルマレクシア率いるダンマーの軍団の間で捕まった。大規模な戦いの行く末がどちらに転ぶかは不明であったが、爬虫類の魔闘士3人が率いる、アルゴニアン・シェルバックの部隊が予期せぬ介入を行ったことによって決着した。アカヴィリの戦線は突破され、海へと追いやられた彼らは、数千人単位で溺れ死んだ。

目的を果たした灰の王はソブンガルデへと帰っていった。3週間後のウィンドヘルムでは、ジョルンが王の宮殿の王座の間にて、上級王に即位した。

皆に対して情け深いファハラジャード王The All-Beneficent King Fahara’jad

第一章:立派な青年時代

ああ幸福な読者よ。センチネルの王座まで上り詰めた立派な話を始めとする、国王陛下の非常に恵まれた人生の話を、そして陛下の数えきれない長所と美点の列挙を、いかにして語ればよいのか。

ああ、敬愛する読者よ。我らが吉兆の王の家は貴族であり王族でもあるが、父はジャフルールのマカラの子孫、まさにアルアザル上級王の子孫である。同様に、母の先祖は、最も威厳ある名と功績を残したジゼーンをはじめとする、アンチフィロスの大公である。いかにもジゼーン大公に関しては、あまりにも誠実だったために、婦女の浴場に誤って入ってしまった際、直ちに自分の目をくりぬき、みだらな行為を未然に防いだという逸話が、詩人ベロウズによって伝えられている。

(アルアザル上級王については、知りたがり屋の探検家が「立派なアルアザルの偉業」の書を探している)

さて、皆に対して情け深いファハラジャード王がまだアンチフィロスの王子だった頃、ある日大公の庭で象牙の弓を使って野鳥狩りをしていると、大カラスがイチジクの木に止まったのを見た。するとファハラジャード王子は、「我はこのカラスを、オンシのまばゆい刀剣にかけて殺害せん!」と誓った。そうして王子は象牙の矢を象牙の弓につがえて放った。見よ、それはカラスの目に命中し瞬時にして死んだ。

その時、空から忌まわしいハグレイヴンが辛辣な呪いをもって落ちて来た。「そなたは我が愛情を注いだ子を殺したがゆえ、死なねばならぬ!その目を引き抜き、葡萄のように食らってやろう!」と叫びながら、若き王子を汚れたかぎ爪で脅した。そして大きな叫び声をあげながら、王子の眼球を引っかいた。

すると、天から金の光の筋が照らされ、永遠に壮大なるオンシがまるでまばゆい刀剣の上を闊歩するかのように降りてきて、「待て、悪魔の生き物よ」と叫んだ。そして、ハグレイヴンのカラスをひょうのように地面に落として打ち負かすと、彼女も同様に倒れ、神にひれ伏して情けを請い始めた。オンシは、「嘆願しても無駄だ。金切り声のうるさい女め。お前は我が特別に大事に育て守るべき運命の王子を脅かした。この貴族の青年ファハラジャードは、長年にわたる危難において人々を導く予言を与える者であるゆえ、お前は死なねばならぬ」と言って、ハグレイヴンの首をはねた。

ひどく驚いた王子は両目を覆い、もう一度見てみた時には、神もハグレイヴンもいなかった。それゆえ自分の目を疑った王子は聖堂へと急ぎ、オンシの司祭に起きたことをすべて話した。そして、司祭は王子が見たことは真実であると判断した。これが、第一の王室の予言であった。

君主の勝利、第三章Triumphs of a Monarch, Ch. 3

第三章:ダガーフォールの門にて

グランデン・トールの戦いの十数年後、平和だったハイロックの王国では、ウェイレスト、ダガーフォール、センチネルの商船がタムリエルの全港の遠くや近くで商売をしていた。ウェイレストにある父の商売の間では、配送した荷の追跡、収支バランス、通貨の変動を学んだ。だが、カンバーランドのピエリックは世界の本質を知っていて、自分の息子に単に平和と商売のやり方だけを学ばせても満足はしなかった。毎日朝にはカンバーランドの戦闘の達人とスパーリングし、昼は天気の許す限り軍馬に乗ってメネヴィアの重装竜騎兵と運動した。それはただの練習ではなかった。毎年夏の2ヶ月間は馬に乗ったエバーモア・キャラバンの護衛団の副官として旅に出て、山賊やゴブリンの襲撃者、リーチの民の部隊を片手では数えきれないほど撃退した。

私がまだ20歳だった第二紀541年、ブラック・ドレイクのダーコラクがリーチに勢力を広げ、野蛮な部族民を戦争に招集した。武器を長く手にしていたのは幸運なことだった。蹴られた蟻塚の蟻のように山の隠れ家から噴出してきたリーチの民は、雄叫びを挙げて略奪をしながらバンコライへと突入した。わずか3日の包囲の末、エバーモアはこの軍勢の手に落ちた。土地は略奪され、人々は大量に虐殺された。ホーリンズ・スタンドは比較的長く抵抗したが、最終的には異教徒の軍勢によって占領されてしまった。ビョルサエの向こう側にいる彼らは、数日のうちにウェイレストに迫ると思われた。

その頃は街が大きくなったせいで古い壁が限界に来ており、ガードナー王がウェイレスト周辺に新しく壁と胸壁を建てたことを皆が喜んでいた。地方から大勢の人が殺到してきて、街の壁の中にメネヴィア、ガヴァウドン、アルカイアが全て入っているように見えた。しかし、ウェイレストにリーチの民の嵐が突如現れると、その混雑もデイドラを愛好する異教徒の怒りから自分たちを守るための、小さな犠牲のように思えた。

このようにして、叙事詩にあるウェイレストの包囲が始まった。ストームヘヴンのブレトンは恐ろしい敵の攻撃から57日間壁を守り抜いた。攻城兵器が不足していたリーチの民は、新しい壁を破壊することも街を略奪することもできなかった。また、船が不足していたため、港を封鎖することも、街を飢えさせて人口を減らすこともできなかった。手詰まりだ。ダーコラクによるハイロックの侵略は終わったのか?

いや、そうではなかった。恐れなき凶暴なリーチの戦士は、そこまで我慢強くはなかった。ブラッド・ドレイクは、我々を中に閉じ込めておくよう壁の周辺にある護岸に十分な軍勢を残し、あっさりとグレナンブラへ去っていってしまった。奇襲を受け、新たに独立した都市国家カムローンが陥落して略奪された。そしてその後、ダーコラクは南へ、ダガーフォールへとその目を向けた。

幸運にもガードナー王が、重装竜騎兵を輸送するために我々の商船を使用するという助言に耳を傾けてくれた。それがきっかけで、ウェイレスト最高の槍騎兵を引率し、ダガーフォールの街門の前で固まっていたリーチの民の背後から突入した。ブラック・ドレイクの戦士がいかに完全な不意打ちを受けたか、私がどのようにダーコラクを倒して奴の不浄な旗を引き下ろしたか、ブレトンは皆知っている。我々が始めた仕事をベルガモット王のダガーフォール騎士が終わらせ、強風の前の秋の落ち葉のように破れた異教徒軍を追い散らしたことを、ブレトンは知っているのだ。

その後たったの2週間で、ダガーフォール、カムローン、ショーンヘルム、エバーモア、そしてウェイレストの王たちが最初のダガーフォール・カバナントに署名したところを、私は頭を伏せながら見ていた。

君主の勝利、第六章Triumphs of a Monarch, Ch. 6

第六章:ランセルの戦争——ウェイレスト包囲

第二紀563年は重大な年だった。ウェイレストの国王に即位してから、王妃を誰にするかが私と側近の関心事だった。ショーンヘルムのランセル王にラエレ王女という美しい娘がいて、ショーンヘルムにいる私の仲間がその娘をしょっちゅう私に勧めてきた。実際に、私はショーンヘルムの王女を受け入れる決心をほぼしていたが、センチネルを訪れた際にファハラジャード王の娘、マラヤ王女を初めて見た時に気持ちが変わった。その瞬間から、マラヤ以外にウェイレストの女王はいないと誓った。もちろん、他にも予期せぬ利点があった。彼女が持参金として2つの国の通商協定を持ってきたおかげで、皆が大きく繁栄したのだ。

悲しいことにランセル王は娘の手を取らなかった私に激怒し、ウェイレストの宮廷にいる大使を召喚した。566年の春、私とマラヤの結婚式にはランセルを招待したが、彼はカバナントの他の王たちと同様に、ショーンヘルムにとどまって怒りで煮えくり返っていた。

おそらく私はランセルの機嫌の悪さにもっと注意を向けるべきだったが、新しい花嫁と、イリアック湾界隈での商売の問題に夢中になりすぎたために、山地のショーンヘルムは遠く無関係のように思われた。この誤りによって、王座を危うく失うところだった。

1年以上もの間、ランセルは静かに軍勢を集結し、傭兵への支払いのために金庫を空にしていった。第二紀566年の収穫の月、彼は南に落雷が落ちる中軍隊を率いてショーンヘルムを後にした。ランセルがアルカイアとメネヴィアを進軍して通り抜ける直前まで、我々はその接近に気がつかなかった。ショーンヘルムの先遣隊がウェイレストの門に到達した頃、我々が急いで招集した民兵はまだ列を成して門を通り過ぎていた。これが、歴史を揺るがす幕開けの時だった。オールドゲートの槍騎兵隊の攻撃が我々の民兵を追い散らして門を占拠していれば、ウェイレストは1時間以内に攻撃者の手に落ちていたかもしれない。

幸いにも、私自身がカンバーランドの衛兵と門にいた。事の重大さに気がついた私は、自分の旗手に突撃を知らせ、オールドゲートの槍騎兵隊に対抗するべく門衛と家の兵士を率いた。兵士たちは鎧兜に身を固め、私は鎧を着けていなかったが、利点の多い魔法の剣、オリハルコンのメスを腰につけていた。オリハルコンのメスを使ったのはその時が初めてだったが、我々が槍騎兵隊に猛然と突っ込んでいくと、製材機の刃のようにきらめいてうなった。挑む敵が混乱した不正規軍ではなく武装した古参兵であることを急に理解した敵は、突如到来した雷雨によってさらに打ち負かされた。ひょうに激しく打たれた敵の馬は雷を怖がり、首や手足を刈るオリハルコンのメスに直面した。評判の高いオールドゲートの槍騎兵隊もたじろぎ、急に方向を変えてあわてて門から逃げ出した。

ランセルの主力が現場に到着した時、すでに我が軍は全員壁の中だった。門は固く閉まっていたが、ショーンヘルムの王は後に引かなかった。ウェイレストの街はまたもや包囲され、リーチの民のダーコラク以上の策略と周到な準備を持ったランセルは、攻城兵器を伴ってやってきていた。

君主の勝利、第十章Triumphs of a Monarch, Ch. 10

第十章:運命の召喚

読者の諸君、これが私の話だ。ここまで、私のカンバーランド家での気楽な青春時代、私の父ピエリック卿が通商の船で私を訓練してくれた経緯、戦争や国について、そしてダガーフォールの門にてダーコラク相手に初めて大勝利を収めたことや、カンバーランド鉱山で当家が掘り当てたオリハルコンの巨大な鉱脈のことも読んでいただいたと思う。ナハテン風邪が到来した悲劇によって私の父とウェイレストの王族全員が命を奪われ、我々の王国が大混乱の時代に指導者のいない状態になってしまった経緯もお分かりいただいただろう。ウェイレストの王座に、説得されて就任したことが私にとって不本意であったこと、即位式で太陽が金の円光を縁取ったことも、もうご存知かと思う。あの神々による賛同の予兆のおかげで私の疑念はすべて晴れ、最もねたんでいたライバルでさえ、心の底からの盟友と変わった。

ランセルの戦いの真の歴史と、ハンマーフェルのレッドガードや、我々が最も切実に援助を必要としていた時に来てくれたオルシニウムのオークを含み、どのようにしてそれが第二次の、より偉大なダガーフォール・カバナントへと導いたのかをこれで学んでいただけたと思う。タムリエルの自由な人々は、それが内部であれ外部からのものであれ、全ての脅威に対して共に抵抗することを誓ったのだ。

我々はすぐに試されることになった。第二紀578年、協定を結んでいたヴァレン皇帝が帝都から姿を消し、シロディールはまたもやデイドラの陰鬱な陰謀に支配された。ヴァレンの謎の失踪により、野蛮なリーチの民の子孫であるクリビア「女帝」がルビーの玉座に就任した。それ以降帝国の中心部は、狂気、殺人、腐敗に陥ってしまった。我々の民にとっては(実際のところ、タムリエルのすべての民にとっては)帝国の真の炎がまだダガーフォール・カバナントで燃えていることは幸いなことである。今はひどい時代だが、我々の運命は、我々の前にレマンの道々のようにまっすぐ、そして真実味を帯びて並んでいる。我々はシロディールを行進して偽の女帝とその血統すべてを倒し、タムリエルの帝国を取り戻さなければならない。そうすれば、血と炎ではなく、平和と正義による国の統治が今一度実現されるだろう。

死の幻惑The Illusion of Death

[断片]

…その後、猿の娘ダルサをもてあそんだために、マルクは自らの世紀の秘跡をストーンメドウズで過ごしたが、目は焼け、舌は腫れ上がり、皮膚はまだら模様になって、左手の親指は常に塔の星を指していた。そして、アレッシュの影が絶えず彼に話しかけ、概念の臓器をノコギリの言葉でギシギシとこすり、苦痛によって知恵をもたらした。

そして彼は、その猿の血が流れる中で、グリフを使って懇願のスカープに彼女の言葉を記録し、人面の石には血から燃える火によって七十七の不動の教義が刻まれた。そして、労働が劣化しようとも自分の実体を惜しむことなく破壊したのは、死が幻であることを知っていたからだ。死んでいるにもかかわらず、アレ=エシュが話すナイフを貫かなかったから?そして、ペリナルはウマリルの死で彼自身死んだのに、彼女の死の目撃者ではなかったのか?そうするとマルクは、真の命とエルノフィックの破棄に捧げられた正しき到達が、死の幻惑を越えて存続することを知っていたが、それは腐敗を消し去る原動力がアーケイの円環でさえ打ち負かすことができるからだ。

聖アレッシアの裁判Trials of Saint Alessia

[聖アレッシアの裁判からの断片]

はるか昔のその当時、アカトシュはアレッシアと契約を結んだ。彼はオブリビオンのもつれた糸を集め、それを血まみれの心臓の腱であっという間に編んでみせると、アレッシアに贈ってこう言った。「これを、汝の血と誓いが事実であるかぎり、我が血と誓いが汝にとって事実であるという我が印とする。この印は王者のアミュレットとなり、霊魂の王である我と、定命の女王である汝の間で契約が結ばれよう。汝は定命の者の肉体すべての証人となり、我は不死の魂すべての証人となろう」

そしてアカトシュは胸から一握りの燃える心臓の血を取り出し、アレッシアの手に渡しながら言った。「これも、我らの結ばれた血と、固く誓った誓約の印となろう。汝と汝の後裔が王者のアミュレットを身につけているかぎり、永遠の炎であるこのドラゴンファイアが、人類と神々すべてにとって信義の印として燃え続けるであろう。そしてドラゴンファイアの火が灯っているかぎり、我が心臓の血がオブリビオンの門を堅く保つことを、汝とそのすべての子孫に誓う」

「ドラゴンの血がその支配者に強く流れるかぎり、帝国の栄光はいつまでも拡大するであろう。ただし、ドラゴンファイアが弱まり、王者のアミュレットを身につける我らの血を受け継ぐ者が誰もいなければ、帝国は闇へと陥り、失政の悪魔の権力者がその地を統治することになろう」

—ドラゴンファイアの再点火式より

同胞団の偉大な導き手Great Harbingers of the Companions

この歴史は、第二紀ジョルバスクルのサークル、千里眼のスワイクによる記録だ。私は文才に恵まれなかったが、自分の前の同胞団の歴史を学び、私の代でそれが失われることのないよう記録を始めた。ここには有名な同胞団の導き手の一覧を記す。闇を貫き、我らをソブンガルデの栄光に導いた者達だ。

導き手のメモ:同胞団にはイスグラモル以来本当の統率者はいない–誰にもジョルバスクルで鼓動する偉大な心臓を統率するような強さはなかった。魔術師や盗賊などは階級によって何を着るかも変わって来るが、我々同胞団は自ら栄光の運命を掴める。導き手は助言し、問題を解決し、名誉に関する疑問が上がったら解明する。同胞団は何千年もの間ジョルバスクルにあり、導き手の中には悲惨な者も卓越した者も共に存在する。腕や心、その魂によって。歌や行動に影響を与えた最も栄光ある導き手を記載する。

イスグラモル:最初の導き手、最初の人間、言葉をもたらす者、そしてはるか昔、遠く離れた地で初めて同胞団に栄光をもたらした者。もっと良い者が彼について書いているため、ここには記載しない。

川のジーク:帰還中のジョルバスクルの船長で、スカイフォージの発見者、ホワイトランの創設者、時と共に失われた、同胞団の最初の誓いの番人。他の乗組員は征服に栄光を求めていたが、彼の乗組員は最初に定住し、戦争に向かない者がその地で遅れた時、彼らの護衛を勤めた。

撤退者ムライフウィール:イスグラモルの死から数百年後、同胞団は傭兵より少しましな雇われ兵士の集団だった。戦争で戦うために雇われたが、個人の名誉を追求したため、盾の兄弟は否応なく戦場で顔を合わせた。ムライフウィールの知恵により、いかなる戦争や政治的な争いにも関与しないと宣言するまで、同胞団の名誉の絆は崩壊する寸前だった。彼の優れた統率力のおかげで、今日の同胞団は公平な調停者として、戦場の栄光とともに有名だ。

高慢なシロック:最初のアトモーラ人以外の導き手。これはノルドが自分達をノルドだと考え始め、純粋さとイスグラモルの遺産を巡って大きな論争があった頃だ。シロックは最初従者としてジョルバスクルに来たが、このレッドガードは当時の名誉のない戦士から不当な扱いを受けた時、すぐに勇気を証明した。導き手の沈黙のタルバーを助けた後、彼は名誉ある同胞団の地位を得た。盾の兄弟で最も有能な戦士として知られ、速さと狡猾さではあらゆるアトモーラを上回った。彼が導き手となった時間は短かったが、その剣さばきは訓練を通して新しい同胞団へ受け継がれている。

よそ者ヘナンティア:最初のエルフの導き手。前のシロックのように、彼もまたジョルバスクルに着いた当初は嘲りの的で、時期的な事もあって(第一紀が終わるところだった)エルフは正式な同胞団にはなれず、殿堂の中を見ることさえほとんどの者に許されなかった。日中のヘナンティアは謙虚に、頼まれた事を何でもやった。夜は中庭の外で激しく訓練し、翌日の仕事を再開するまで数分しか眠らなかった。彼は数名の導き手に尽くし、休まず不満も言わず、心と体を磨き続けた。長い年月が過ぎ、彼は同胞団に名誉のあり方を教える助けとなる者として信用されるようになった。

弟子の1人が導き手となり、老人となった時、ヘナンティアは死の床に付き添った。導き手はすべての同胞団を集め、彼の後継者にヘナンティアを指名してこう言った。「エルフもノルドの心を持って生まれる事がある」その日同胞団には武器を置く者もいたが、真の名誉を知る者は残った。我々は彼らの遺産を担っている。

鋭い眼のマッケ:その美しさで知られる導き手だが、それを理由に過小評価した者は同じ過ちを繰り返せないだろう。敵軍の半分を睨み倒し、残りを単独で倒したと言われている。導き手として8年目に行方不明になった理由は不明だが、多くの中傷的な嘘が理由として挙げられている。

長鼻のキルニル:第二紀の暗黒期の後、相次ぐ不誠実で不名誉な導き手がジョルバスクルに対する権利を主張していた時、真の心を持った同胞団を荒野に集め、ジョルバスクルに猛攻撃を仕掛けたのが、長鼻のキルニルだった。昔ながらのやり方で強奪者を倒し血を流して名誉を取り戻した。彼は若く新しい同胞団に規範を示す、サークルと呼ばれる信頼できる相談役(偉大なるイスグラモルの船長の議会から名付けた)を創設した。

名誉の概念を壊れない伝統として、彼は同胞団が進む道を定めた。我々は再びイスグラモルの下へ向かい、ソブンガルデへと進めるようになった。

秘術師ガレリオンGalerion the Mystic

荒れ果てた時代だった第二紀の初期、無名の貴族ソルリチッチ・オン・カーのジルナッセ卿の農奴、トレクタスとして生まれたのが、後のヴァヌス・ガレリオンである。トレクタスの父と母は普通の労働者だったが、父はジルナッセ卿の法に逆らい、密かにトレクタスに読み書きを教えた。奴隷が教養を持つことは自然に反しており、奴隷自身と貴族にとって危険な存在であると、ジルナッセ卿は教えられてきた。ソルリチッチ・オン・カーにある本棚はすべて封鎖されており、ジルナッセの砦の外では、すべての本屋、詩人、教師が禁じられた存在だった。しかしながら、少しずつ密かに書物と巻物が持ち込まれ、ジルナッセの目を盗んで出回っていた。

トレクタスが8歳になったころ、書物を持ち込んだ者たちが逮捕され、投獄された。無学で信心深く、夫を恐れていたトレクタスの母の裏切りによるものだと言われているが、他の噂もある。裁判は存在せず、すぐに刑が執行された。トレクタスの父の遺体は、何世紀もすさまじい暑さが続いているソルリチッチ・オン・カーの真夏の時期に、何週間も吊るされたままにされた。

3ヶ月後、トレクタスはジルナッセ卿の元から逃げ出した。サマーセット諸島までの道のりの中間地点、アリノールまでたどり着いた。道脇の水路で丸くなって死にかけていた彼は、吟遊詩人の楽団の手によって介抱され、食事と寝床の見返りに雑用係として雇われた。吟遊詩人の1人、予言者ヘリアンドがトレクタスの精神を試したところ、内気ではあるが、劣悪な環境で育ったにも関わらず、不思議なほど知的で洗練されていると分かった。アルテウム島で秘術師としての訓練を受けていたヘリアンドは、少年の中に自分と共通するものを感じた。

サマーセットの東の果て、ポテンサで一座が演奏をしていた時、ヘリアンドは11歳になっていたトレクタスをアルテウム島へ連れていった。島の賢者イアケシスはトレクタスの資質を見抜き、生徒として受け入れ、ヴァヌス・ガレリオンの名を与えた。ヴァヌスはアルテウム島で精神、そして身体を鍛えた。

そして、魔術師ギルド最初のアークマギスターが誕生した。彼はアルテウム島のサイジックから訓練を受けた。幼少期からの欲望と不当な扱いから、彼は知識を分かち合う哲学を身につけていた。

生産の本

Crafting Books

クラフトモチーフ1:ハイエルフスタイルCrafting Motif 1: Altmer Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

この小論集は、タムリエルの主要文化の1つひとつにつき、それぞれを他と分かつ象徴的および様式的特徴を芸術作品や工芸品から抽出し、大づかみに概観しようという試みである。論考の焦点は、さまざまな種族の携行耐久財、すなわち、衣類、装飾品、武器防具などに当てられることになるだろう。なぜなら、それらには個々の文化の表情が如実に現れるからだ。この小論集が完成した暁には、アルケイン大学の初等民族誌学コースのカリキュラムで教材として使われる予定である。

本稿の筆を起こすにあたって、まずはハイエルフ、すなわちサマーセット諸島に隠遁するアルトマーを取り上げたい。というのも、タムリエルの文明は旧エルノフェイのアルドマーによってもたらされたという議論が可能であり、実際、そういった議論がしばしばエルフたちによって提起されるからだ。確かに、サマーセット諸島のエルフが神話紀の先祖から受け継いだ遺産を守るために意識的な努力をする限りにおいて、第一紀以前の社会の伝統に最も近いのは、彼らの伝統であることは間違いない。

もっとも、だからといって、最初のアルドマーがこの大陸にやってきて以来数千年のあいだに、ハイエルフの文化が次第に本流からはずれ、さまざまに枝分かれしていないとは言えない。なぜなら、それは事実に反するからだ。むしろ、現在のアルトマー文化を歴史家の目で見れば、そこには文化的起源の輪郭がかろうじて見て取れる、と言えるに過ぎない。

今後の研究の端緒となるだろうこの仕事において、私はここアルケイン大学で教鞭を執る変性意識学の泰斗、モリアン・ゼナス教授から助言を賜る幸運に恵まれた。ゼナス教授は本学の教授陣で唯一、サマーセット諸島を訪れた経験があり、具体的にはアルテウムでしばらく過ごしたほか、ダスクにも乗り継ぎの際にごく短期間ながら滞在している。

聖堂地区にある教授の住まいを初めて訪ねたときには少々恐れをなしていた私だが、実際に会ってみると、教授は気難しいという評判が嘘のように魅力的な老紳士だった。モリアン(教授がそう呼んでほしいと言うので、あえてこう書くが)が夕食を食べていくよう勧めてくれたので、私は教授の弟子で無駄口をきかないアルゴニアン、セイフイジ・ヒッジャの給仕で供応にあずかった。

モリアンの説明によると、ハイエルフはシンプルな美しさをそなえたデザインを旨としており、流れるような線は自然界の優美な造形を反映しているのだという。多かれ少なかれ抽象的に描かれた鳥や花、貝殻といったものはよくあるモチーフで、それらが豊かな、それでいて抑えた色調で描かれる。鎧には鱗や羽毛の模様が刻まれ、重いキュイラスや兜にさえ、翼や嘴を模した意匠が凝らされる。

金属製品にはしばしば、「碧水晶」と呼ばれる緑がかった半透明な材質でアクセントが添えられる。これは一種のヒスイ様黒曜石であり、アルトマーにしか知られていない秘密の手法によってそれを加工するすべを、エルフの鍛冶屋たちは習得したのである。冷やせば切れ味鋭い刃になるほど硬い反面、可鍛性を持たせることができるため、ほぼどんな形にも整えられる。ハイエルフは装飾を凝らした武器防具の作製に、この碧水晶という素材を広く用いている。

夕食のあと、2人でシロディールブランデーのグラスを傾けながら、私はモリアンから質問攻めにされた。モチーフに関する研究計画のこと、私自身のこと…。これは面映ゆくもたいへん嬉しい経験だった。もう一度彼と話をする口実を見つけなければ。

クラフトモチーフ2:ダークエルフスタイルCrafting Motif 2: Dunmer Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

ハイエルフの次はダークエルフについて考察するのが自然だろう。なぜなら、モロウウィンドに移り住む前の彼らの故郷はサマーセット諸島だからだ。それゆえ、ダークエルフの文化はアルトマー文化から枝分かれしたものと考えることもできるが、多くの意味で、ダンマーの文化はサマーセット文化の延長というよりは、それに対する反発として生まれたものと言える。

ところで、モリアンからディヴァイス・ファーというダークエルフを紹介された。教授によれば、「変性意識状態による逗留」なるプロジェクトを手伝ってもらっているパートナーだという。いったいどういう内容なのか見当もつかないが、それでもディヴァイス本人からダンマー文化のことならなんでも訊いてほしいと言われたので、私としては断る理由もなかった。

優美さを重んじる程度においてはダークエルフもハイエルフに引けを取らない。が、それ以外の点では、2つの種族の様式はこれ以上ないほど違う。モロウウィンドは風光明媚なサマーセット諸島とは比べものにならないぐらい自然環境が厳しく、その過酷さがダンマーのデザインに反映されているのである。ダークエルフもまた自然からインスピレーションを得るが、鳥や植物のモチーフに代わって、ダンマーはモロウウィンドに生息する巨大な昆虫の甲殻が持つ、曲面や尖りで構成された形状を模倣する。それらは優美ではあるが、同時に恐ろしげでもあり、ダンマーが生存をかけて日夜戦っていることを絶えず思い出させてくれる。

黒檀はダークエルフの重装鎧に好んで用いられる素材だが、軽装鎧や軽盾も、素材の鋼や合金鋼をわざわざ暗い色に塗って黒檀のように見せる場合が少なくない。衣服は鎧も含め、しばしば肩や頭頂部あるいは腰部を膨らませてアクセントとし、さらにはドワーフ文化から拝借したとおぼしい重層的な幾何学模様をあしらっている。もっとも、ダンマーがいかなる形であれドゥエマーの影響を受けているなどという考えに、ディヴァイスは苛立ちを隠さないのではあるが。

実を言うと私は、このヴァーデンフェル出身のソーサラーが、妙に抗いがたい魅力をそなえていることに気づいている。彼はさほど年配に見えないが、少なくとも60歳は超えているだろうモリアンのことを「あの青年」と言う。いったい彼はいくつなのだろう?いや、気になるところは他にも山ほどある。心の底まで見透かされそうなあの赤い眼…あの眼で見つめられると、少々ドギマギしてしまう。

そのディヴァイスから、波止場地区にあるボズマーの酒場に行ってみないかと誘われた。この機会に一度、足を運んでみるのもいいかもしれない。

クラフトモチーフ3:ウッドエルフスタイルCrafting Motif 3: Bosmer Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

次はエルフの項のしめくくりとして、ヴァレンウッドのボズマーを取りあげたいと思う。類縁に当たるハイエルフやダークエルフに比べて世界全体におよぼす影響力は劣るものの、数ではタムリエルに住む他のエルフ族すべてをしのぐ。ウッドエルフはエルフにしては多産であり、あえて言うなら、他よりも色好みの気がある。

ウッドエルフが自然のモチーフを好むというのは月並みな指摘だが、単にそれだけではないことを私は学んだ。そうした自然のモチーフが埋め込まれ様式化されたスタイルには、彼らのイフレ崇拝と「アース・ボーンズ」にまつわる物語が反映されているのである。ボズマーの信じるところによれば、イフレがすべての動植物と人々に名前を与える前、自然はことごとく混沌に包まれていたという。名前こそが、各動植物種に恒久的な姿形を与えたのだというのだ。だからこそ、各動植物種はイフレから与えられた原型を表す、独特かつ理想化されたモチーフによって描かれるのである。

このことは、ウッドエルフが手掛ける芸術、工芸、衣服のいたるところに現れるデザインに反映されている。こうしたデザインには膨大な数のレパートリーが存在する。というのも、ボズマーの世界に生息する動植物各種には、それぞれ固有のデザインがあるからだ。もっとも、こうしたデザインの使い方や描き方は文化的にきっちり決まっていて、バリエーションが生まれる余地はほとんどない。これら様式化されたいわば絵文字を正統的でないやりかたで用いることは不適切のそしりを免れず、はっきり言えば「誤り」と見なされる。

その他のことにはひどく無頓着で奔放そうな種族だけに、矛盾して見えるかもしれない。けれども、これは誇張でもなんでもなく、私も実際にこの目でそれを確かめる機会に恵まれた。帝都には相当数のウッドエルフがいて、波止場地区には「酔いどれホタル亭」という酒場を中心に、小さなボズマー街が形づくられている。モリアン・ゼナスの実験を手伝っている魅力的なダークエルフの魔術師ディヴァイス・ファーから、ボズマー街に行ってみないかと誘われた私は、良い機会なので足を運んでみることにした。

ディヴァイスと波止場地区に行く約束の日、モリアンの住まいを訪ねると、玄関の扉をあけてくれたのは教授自身だった。ちょっと書斎に寄ってほしいと言われ、いささか面食らうとともに、モリアンのいでたちにも私は驚かされた。なんと彼は星座のシンボルをあしらった真新しい絹のローブに身を包み、髪の毛はきちんと刈りそろえて櫛を通し、かすかにラベンダーの香りまで漂わせていたのである。それまで、焦げ痕と染みだらけのみすぼらしいローブを着ているところしか見たことがなかったので、その変わりようには目をみはらされた。

書斎で話を聞いてみると、教授はディヴァイス・ファーと波止場地区に行くのはよしたほうがいいと言うのだった。私は思わず吹き出してしまい、教授の顔を赤らめさせたのだが、そのあときちんと、自分は子供ではないし心配にはおよばないと告げた。モリアンはやや狼狽し、ぶつぶつと詫び言を口にした。それから察するに、どうやら教授は私が波止場地区に足を運ぶことよりも、ディヴァイスと一緒に過ごすことのほうが気がかりなようだった。私は彼の気持ちを傷つけたくなかったので、まっさらなローブをほめた。モリアンが相好を崩すのを見てから、私はディヴァイスが待つ客間に足を向けた。

これ以上だらだらと書き連ねるのもはばかられるが、それにしてもあの夜は素晴らしかった。酔いどれホタル亭はにぎやかな店で、ディヴァイスは女将のレディ・ビニエルに紹介してくれた。彼女は一緒に飲もうと言って譲らなかった。出しものは「ビニエルのボズマー風バーレスク」で、これがとても愉快だったうえ、ひどい味がするウッドエルフの飲みものはどれも受けつけなかったものの、バグスモークのパイプをディヴァイスと回し喫みすることは断らなかったものだから、私は妙な具合に陽気になってしまった。

実を言うと、ボズマーが「不適切なデザイン」をいかに蔑むかの格好の例を目の当たりにすることができたのも、このパイプのおかげだった。というのも、私がディヴァイスのパイプを喫っているのを見て、レヤウィンの船乗りが、骨を削ってこしらえた「純ヴァレンウッド製」だというパイプを買わないかと持ちかけてきたのだ。するとレディ・ビニエルが、それは偽物だから騙されちゃいけないよと忠告してくれた。船乗りは抗議したが、この小柄なウッドエルフ女性が、火皿にイムガが彫ってあるようなガラクタがまともな品でないことは、どんな馬鹿にだって分かると一喝すると、船乗りは引き下がるしかなかった。

それから間もなく、ディヴァイスと私は店を出た。帝都の城門に向かう道すがら、ディヴァイスは星降る夜空を指さし、それぞれの星座を古いチャイマーの言葉でなんというか教えてくれた。正直、星座の名前は全部忘れてしまったが、ただ、ディヴァイスのよく通る声の暖かい調子は憶えている。そして、私の腕に触れる彼の掌の温かい感触も…

クラフトモチーフ4:ノルドスタイルCrafting Motif 4: Nord Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

次はノルドについて考察する。タムリエルでエルフの支配に抗い、あまつさえ取って代わることに成功した最初の人間文化である。

ボズマー同様、ノルドもまた建築や工芸、被服の各分野において、様式化され、しばしば絡み合った自然のモチーフに大きく頼っている。しかし、ウッドエルフのデザインが主として植物を意匠化したものであるのに対し、ノルドのそれは動物を強調しており、とりわけアトモーラの古い信仰においては8つの「トーテム」動物が重んじられる。すなわち、狼、鷹、鯨、蛇、蛾、狐、その他である。また、デザインのバリエーションという点では、ウッドエルフの様式をはるかにしのぐ。動物のモチーフの中には、あまりに抽象的すぎて、何の動物か判別しがたいものまであるほどだ。それどころか、縁取りの部分など、まったく自然物を想起させない幾何学模様の組み合わせで埋められることも少なくない。

ノルドのデザインは、エルフのそれとも、また別な点で異なっている。エルフの作品がほっそりとして優美で、かつ控えめなのに対し、ノルドのデザインはおおむね単純で重々しく、それでいてダイナミックな形状に依拠する。何にせよ、ノルドの作るものに控えめなものなど存在しない。

このことは、帝都のスカイリム大使館の外観にもはっきりと表れていた。モリアン、ディヴァイス、私の3人で、ログロルフ王の歓迎会に足を運んだときのことだ。大使館の入口扉の上に渡されたまぐさは、挑発の言葉を叫んでいるかのようにくちばしを大きくひらいた鉄製の巨大な鷹の頭を戴いており、扉の側柱には意匠化が強すぎて鳥類というよりも斧と呼ぶほうがよほどふさわしい鷹の浅浮き彫りがほどこされていた。扉自体は暗色のオーク材でできており、木材がまるで攻撃を跳ね返すためでもあるかのように鉄で束ねられ、鉄の鋲がいくつも打ち込まれていた。

大使館のなかは、外側ほど武張ったものではなかった。ただ、扉のすぐ内側には甲冑に身を固め武器を携えた衛兵が立ち、番をしていた。パーティーの招待客をチェックするのに羊の角をあしらった顔まで覆う兜を着ける必要がはたして本当にあるのかどうか、私には疑問に思えたが、ノルドの衛兵の目つきは必ずしも質問を促すようなものではなかった。

パーティーはすでに述べた通り、最高顧問に敬意を表するために帝都を訪れているログロルフ王を歓迎する催しだった。モリアンはアルケイン大学の代表として招かれたのだが、彼から同行してほしいと頼まれた私は、気性の荒いことで知られるこの北方の(同じ人間種に属する)いとこたちを彼らのホームグラウンドで見られるならばと、二つ返事で承知した。私たち2人がどこに出かけるのかを聞きつけたディヴァイスは、モリアンがものすごい目つきでにらむのにも構わず勝手についてきたが、いざ大使館に足を踏み入れ、大声で話す騒々しいノルドたちに囲まれてみると、一緒に来たことを後悔しているようだった。

一方モリアンはというと、それとは対照的だった。ハチミツ酒をひと壜飲み干したあとの彼は、突如として、私の目にまったく新しいゼナス教授として映ったのだ。真新しいローブで盛装したモリアンは、まさに意気軒昂と形容するにふさわしく、称賛の目で彼を見つめる外交官たちを相手に魔法の歴史を長々と弁じたて、ノルドのアークメイジ、シャリドールがなしたという数々の魔術的偉業を語り、聞く者を夢中にさせたのだった。その姿はまるで20歳も若返ったかのようで、私には突然、初めて帝都を訪れ、アルケイン大学の創設に関わった全盛期にはきっとこんなふうだったに違いないと思えるモリアンが垣間見えた。

モリアンはなんとログロルフ王本人に私を紹介してくれたが、彼がどうやってスカイリムの君主と近づきになったのか、私には見当もつかない。ディヴァイスを探すと、彼はいつのまにか姿を消していた。モリアンと私は遅くまで大使館に残り、ハチミツ酒をあおりながらノルドのあけっぴろげな冗談に腹を抱えて笑った。ようやく御輿をあげ、モリアンに送られて家まで歩く道すがら、私は彼の眼にそれまでとは違う光が宿っているのを見た気がした。

彼もまた、私の眼に同じ光が宿っているのを見たかもしれない…

クラフトモチーフ5:ブレトンスタイルCrafting Motif 5: Breton Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

アルケイン大学の大賢者レディ・オペル・ダンテーヌはブレトンだ。そこで、ブレトンのモチーフを研究するにあたって、私は彼女に意見を仰ぐことにした。レディ・オペルは気さくな女性で、惜しみなく協力してくれた。

ブレトンは、タムリエルで最後にエルフによる支配のくびきを脱した主要人間種である。そして、長きにわたりディレニに臣従してきたことが、多くの点で彼らの文化を規定している。ブレトンは自治の気風が強く、ハイロックの各王国は個々の主権を死守しているが、ブレトンの社会そのものは階級主義のディレニ王朝に由来する封建的構造を脱していない。また、ブレトンは同じ人間種のノルドとほぼ同じくらい気難しいが、長らくエルフの保護下にあったことから魔術に対しては開放的で、さほど抵抗感を持たない。

以上のことが、果たして彼らの芸術や工芸にどのように表れているだろうか?例として、ブレトンの鎧を見てみよう。ブレトン騎士が着る光沢を放つ重装鎧はノルドの私兵が着る鎧と同じくらい頑丈で実用的だが、目に心地よいその形状にはエルフの優美さを髣髴とさせる微妙な洗練がにじんでいる。同じ影響は、美しい外観と裏腹に恐るべき破壊力を誇るブレトンの武器にも見て取れる。

このことから私が連想したのは、ディヴァイスとモリアンの違いだった。ディヴァイスがエルフ特有の都会性をそなえているのに対して、モリアンはその深い学識とは裏腹に、例の気難しさも含め、あまりにも人間臭い矛盾をいくつも抱えている。変性意識状態の実験は、どうもうまくいっていないようだった。ゆうべ教授の家に立ち寄ったところ、モリアンもディヴァイスも不在だった。教授の弟子のセイフイジによると、2人はオブリビオンへの旅から確実に生還できるようにするには、輸送の担い手にどのような対価を支払うのが妥当かという問題をめぐって口論を始めたという。やがて個人攻撃の応酬になり、ついには私の名前まで持ち出されたらしいのだ。2人は怒鳴り合いのすえ、研究室から憤然と出ていくと、神々通りをそれぞれ反対方向に歩み去ったという。

言葉もなかった。私を巡って2人がケンカを?白状するが動転のあまり、私はレディ・オペルに洗いざらい打ち明けてしまった。彼女は信じられないほど優しく、親身になってくれた。2人の魔術師のどちらかに特別な感情を抱いているのかと訊ねられた私は、そうだと認めたものの、気持ちは葛藤し、せめぎ合っていた。レディ・オペルがバンコライのスパイスが入ったワインを1本か2本あけてくれたので、夜が更けるにつれて私たちはいっそう打ち解けていった。どうやって家に帰り着いたかは憶えていない。今日は二日酔いで頭が痛いけれど、そのかわり心がいくぶん軽くなったのでよしとしよう。

クラフトモチーフ6:レッドガードスタイルCrafting Motif 6: Redguard Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

今朝モリアンの住まいを訪ねると、前日のことが嘘のように何もかも普段通りだった。ディヴァイスと教授はまるで親友同士のように、チャルを注いだマグカップを片手におしゃべりに興じていた。話題はラリバラーの「11の儀式形態」と「最も神秘的盟約の本」の比較だ。私はディヴァイスに、商業地区のヨクダの礼拝堂に連れていってくれる約束はどうなったかと訊ねた。モリアンはかすかに眉を曇らせたが、それでも笑顔を作り、自分は研究室で新しい超苦悶媒体をテストしたいから、かえって好都合だと言ってくれた。

(それと、おそらく光の加減だと思うが、私の目には二人ともなんだか…若やいで見えた。どちらも高い能力を持つ魔術師であり、おそらくは幻惑魔法にも通じているだろうから、その点を忘れないようにしなければ。たんに私がのぼせあがっているだけかもしれないが)。

礼拝堂では博識なレッドガード数人と会ったが、全員が全員、例の威厳と奥ゆかしさをそなえていた。私が見たところ、それらはレッドガードのなかでも高い教育を受けた人々に特有の資質だ。トゥワッカの司祭であるジルミル大司祭(つづりが間違っていないことを祈る)はとりわけ協力的だった。

大司祭が指摘したのは、レッドガードの故郷であるヨクダにしろ、彼らの現在の本拠地であるハンマーフェルにしろ、どちらも砂漠だ(ヨクダについては、砂漠「だった」と言うべきか)という点だ。涼しく過ごすため、また厳しい日差しや強い風から身を守るため、レッドガードの衣服はおのずと軽いうえ、丈が長く、ゆったりとしたつくりになる。そしてその流れるような曲線が、彼らの作る芸術作品や工芸品のデザインに持ち込まれているのである。彼らの着るローブや鎧は、関節部と頭部に曲線状の膨らみでアクセントを添えることが少なくない。剣でさえ、やもすると曲線を描く。

対照的に、彼らの建築物はどちらかというと重厚な印象だが、よく見ると、それは主として砂漠の極端な気温を遮断するためのものだと分かる。ジルミル大司祭は礼拝堂の優れたシステムを見せてくれた。かすかな風をも逃さず身廊に送り込むため、明かり層に「よろい張り」を施した換気ダクトが設けられているのである。

ジルミル大司祭が受け持ちの信徒団の相手をするために呼ばれて行ってしまうと、ディヴァイスと私はヨクダの神々を祀った8つの祠を眺めようと、ぶらぶら後陣に入っていった。ディヴァイスによれば、ハンマーフェルのフォアベアーがレマン帝国によってもたらされたシロディールの神々を崇めることが少なくないのに対して、より保守的なクラウン・レッドガードはこうした伝統的な神々を崇拝するのだという。そんなうんちくを傾けていたディヴァイスだったが、モルワを祀った蜂の巣状の祠の後ろで不意に向きなおり、例の燃えるように赤い眼で見つめながら、私の手を取るや、だしぬけに、あなたはこの帝都で誰よりも聡明で素敵な女性だと言った。私は息を飲んだ。心臓が早鐘のように打っている。ところが、彼が私を抱きしめるようなそぶりを見せた瞬間、私は急に怖くなった。私は後ずさりをし、かぶりを振ると、身をひるがえして身廊に駆け込んだ。モルワの祭壇に蝋燭を立てていたレッドガードの子供たちを、ずいぶん驚かせてしまったと思う。

どうしよう?ディヴァイスをひどく侮辱してしまったに違いない。どうしたらこの埋め合わせができるだろう?それと、モリアンには話すべきだろうか?ああ、ジュリアノスの小さな茶瓶にかけて、なんというジレンマだろう!

クラフトモチーフ7:カジートスタイルCrafting Motif 7: Khajiit Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

今朝教授の住まいを訪ねた私が真っ先にしたかったのは、ディヴァイスに謝ることだった。ところがセイフイジからあいにく留守だと言われた。ポータルのある部屋でなにやらまじないを唱え、どこかに行ってしまったという。あとには物が燃える匂いの他、何も残っていなかったとか。仕事を進めるのよと、私は自分に言い聞かせた。仕事が忘れさせてくれる。というわけで、私はモリアンを探しにいった。

教授は朝食中で、ちょうどスイートロールを食べ終え、チャルを飲み終わったところだった。私が台所に入っていくと、驚いたことに、彼はお辞儀をしようとあわてて立ちあがった拍子に、あやうくマグカップを引っくり返しそうになった。私は小論集ではカジートにも触れたい旨を告げ、あいにく猫族に知り合いがいないので、誰か紹介してもらえないかと訊ねた。教授はそれならうってつけの人物を知っていると請け合い、ちょうど今日は「あの癇癪持ちのテルヴァンニ」も休みをとっているし、喜んで紹介しようと言ってくれた。

それまでにも私は市場の門の外側に折々設営されるバーンダリ行商人組合のキャンプの前をよく通っていたが、中に足を踏み入れたことはなかった。あそこには近づかないようにという父の忠告がいまだに残っていることもあるし、鼻を刺すようなにおいが自然に足を遠のかせたということもある。けれどもモリアンは躊躇なくキャンプに入っていくと、色とりどりの祈りの旗で飾られた天幕に私を連れていった。あとについて天幕に入っていった私を、彼はマダム・シザヒ・ジョーに引き合わせてくれた。なんでも、アズラーとマグルスに仕えるカジートの妖術師だという。蓮華座を組んで座ったまま、マダムは恭しく頭を下げ——猫族の体はかくもしなやかなのだ——、床に敷かれた一組のクッションを勧めると、「この者」がどんなお役に立てますかと訊ねてきた。

マダムとの会話は楽しく、私たちはすっかり話し込んでしまった。カジートとレッドガードのモチーフやデザインには表面的に似通っている点があるが、これはおそらく、両者がいずれも暑く乾燥した土地に住んでいるためと思われる。しかし、レッドガードが長く、流れるような曲線を好むのに対し、猫族は円形と三日月形に愛着を示す。それは、マッサーとセクンダのすべての月相の形状が、カジートの衣類や装飾品のいたるところに現れることからも明らかだろう。鎌にも似た三日月の形はまた、カジートの手足の肉球からバネ仕掛けのように飛び出す鉤爪を思い出させる。目立たないとはいえ、そんなものを四六時中ちらつかされては、気の弱い人はたまらないだろう。

マダム・シザヒ・ジョーはお茶をたててくれ(カジートの食べものや飲みものの例に漏れず、これもまたベタベタと甘ったるかった)、それから私のカップの底の茶葉を見るよう促した。彼女は桃色がかった鉤爪でお茶をかきまわし、私の悩みの種が分かったと言った。夫人によれば、私は臆病風に吹かれて本心から目をそらし、ふさぎの虫に取りつかれているのだという。私はディヴァイスにキスされそうになったことを、うっかり口にしてしまった。モリアンは自分のカップを取り落とした。飛び散ったお茶がマダムにかかったのは、気の毒としか言いようがない。

てっきり激怒するかと思いきや、モリアンはいかにも悲しげな表情を浮かべ、それから私に対する自分の気持ちを堰が切ったように話しだした。彼の言葉はとても情熱的で、私はすっかりほだされてしまった。カジートの魔術師が気を利かせて席を外してくれたので、私たちはクッションに座ったまま、それこそ何時間とも知れないほど話し続けた。

クラフトモチーフ8:オークスタイルCrafting Motif 8: Orc Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

ゆうべ、短い時間だが酔いどれホタル亭でディヴァイスと会い、あなたのことは大好きだけれど、モリアンに心を奪われてしまったと正直に打ち明けた。ディヴァイスはジェラール山脈を吹き荒れる嵐もかくやというほど表情を曇らせたが、それでも大きく息をつくと、どうにか威厳を保ちながら店を出ていった。ああ、どうか彼が大丈夫でありますように。

ただ、正直に言えば、今はモリアンのほうが心配だ。ディヴァイスとの共同研究は佳境を迎えつつある。間もなくモリアンはゲートをひらき、単身オブリビオンへと旅する予定だ。とりあえずはアズラが支配する領域、ムーンシャドウを目指すつもりだと言っている。それなら比較的安全なはずだと。安全ですって!?私は鉄板の上に載せられたスクリブみたいに心配でならない。せめて出発する前にひと目会いたいが、モリアンは承知しない。儀式の執行に集中しなければならず、気が散るようなことは避けたいからと。

セイフイジからモリアンの手紙を渡された。オルシニウムの新しい大使を迎える支配者主催の公式晩餐会に、自分の代わりに大学を代表して出席してほしいと書いてある。是非とも行きたいと言っていたこの催しを欠席するからには、よほど忙しいに違いない。もっとも、わが「諸種族のモチーフ」プロジェクトにとっては願ってもない話だ。それに、仕事に没頭していれば、あれこれ気に病まずにすむ!

新たに帝国の州となったオルシニウムはまだ帝都に大使館を置いていないため、支配者に仕える半人半蛇のしもべたちの手で、白金の塔の1階に天幕がずらりと設営されていた。ズグギク大使を歓待しようと、すべての天幕はロスガーから取り寄せた本物のオーク備品で飾られている。私はこれ幸いとばかり、だらだらと冗長なスピーチが続くあいだ、日誌を取り出し、そうした品々をせっせとメモにとる作業に励んだ。

それにしても、オークのような野蛮な種族がこれほどまでに洗練された品々をデザインし、こしらえることができるとは!もちろん、彼らは防具作りの名手としてタムリエル全土に知られているが、私は常々、それは技能のおかげというよりも並外れた腕力のなせる技だと思っていた。しかし、彼らの武器や防具をちらっと見ただけで、それがいかに間違った考えかを思い知らされた。華美な装飾どころか、装飾自体いっさい凝らされていないのだが、ノルドのそれよりもシンプルで実用的なオークの金属細工には、均整と対称性、そして調和というものを彼らがどれほど深く理解しているかが表れているのである。オークの剣は暴力の道具かもしれないが、使う者の掌に吸いつくように造形された重いが形の良い柄と好対照をなす刃が、ダイナミックに薙ぎ払われるさまを思い浮かべると、なぜだか私はほとんど安らぎに似た気持ちを覚える。

その後、嬉しいことに、晩餐会の席で大賢者レディ・オペルの姿を見つけた。彼女は親しげに挨拶をしてくれ、エイダールチーズを肴にウェストウィールドのワインを傾けながら、2人の魔術師とはその後どうなっているのかと訊いてきた。私が何もかも台無しにしてしまったと思うと答えると、レディ・オペルは大丈夫、最期に全部丸く収まるからと請け合ってくれた。モリアンとは長い付き合いだそうで、あれこれと小うるさい年寄りのように見えて、そのじつ非常に思慮深い人間だという。彼があなたぐらい賢い女性を見初めたのは嬉しいかぎりだとも言ってくれた。これで研究室に入ったきり姿を消してしまう心配がなくなるもの、と。

けれども、私に言わせれば、それこそまさに彼がしたことだった。セイフイジともう一度話してみよう。彼なら、旅立つ前のモリアンになんとか会わせてくれるかもしれない。

クラフトモチーフ9:アルゴニアンスタイルCrafting Motif 9: Argonian Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

今朝、メイドのダリエラが興奮した口ぶりで、戸口にトカゲの女性が来ていますと告げた。何やら、急ぎの用事らしいという。帝都にアルゴニアンはそれほど大勢いない。そう考えると、セイフイジの使いではないかと思い当った。きっとモリアンに関する何か恐ろしい知らせを携えてきたに違いない。私は大学のローブを羽織ると、玄関に急いだ。

戸口で待っていたのは、まさに若いトカゲ族の女性だった。複雑な螺旋形の意匠で飾られたスパイダーシルク製の洒落た上着をまとい、通りに立っている。彼女は〈尾を上げる者〉と名乗り(私は冗談に違いないと思ったが、爬虫類特有の無表情な顔立ちからは、冗談とも本気ともつかなかった)、主である〈明瞭なる者〉デッシュ・ウルムの命で迎えにきたと言った。どんな用件かまでは知らされていないが、とにかく急を要することだから、すぐに来てほしいという。私はためらいながらもうなずくと、そのまま彼女のあとについていった。

アルゴニアンの娘に連れられ、私は聖堂の門をくぐり、波止場地区へと向かった。埠頭のはずれまで行くと、そんなものがあるとはそれまで気づかなかった風変わりな古びた館があった。玄関の脇の黒いプレートには〈ザンミーア〉と彫ってある。初めて目にする言葉だった。中に入ると、その大きな館は丸ごとアルゴニアンに占領されていることが分かった。人数は十数人もいただろうか、全員そこに住んでいるらしく、どの部屋もみなで共有しているようだった。そこらじゅういたるところに、アルゴニアンの掛け布、彫刻、呪物がある。それらは貝殻、骨、羽根といった自然の素材でつくられ、目もあやな螺旋と幾何学のデザインが凝らされていた。もしそのどれもがアルゴニアンの故郷で使われているのと同じものだとしたら、蛇皮、亀の甲羅、鋸歯状牙、ターコイズ、ヒスイ…私たちが珍しい異郷の素材と見なしているこれらすべてが、ブラック・マーシュではありふれたものに過ぎないことになる。

〈尾を上げる者〉は私の先に立ち、階段を取り払ってしつらえたとおぼしい傾斜路を上がっていった。上の階で、彼女はとある湿った部屋に私を案内した。気のせいか、腐臭とかび臭さが感じられる。咳き込みながら足を踏み入れると、部屋の中はほとんど丸ごと熱帯植物の鉢植えで埋まっているのが分かった。一部はとっくの昔に枯れてしまい、腐っている。私はサンダルで何かを踏みつぶしてしまい、思わず後ずさりをしたが、トカゲ族の娘が優しく手を取り、シダの葉が生い茂るなかを部屋の真ん中まで導いてくれた。

そこには不釣り合いにも、陶製の大きなニベン式浴槽が置かれていた。私の住まいの化粧室にあるものと似ているが、目の前にあるそれは縁までなみなみと気味の悪い緑色の泥で満たされている。そしてその泥のなかに、かろうじて鼻づらだけ覗かせた、見たこともないほど年老いたアルゴニアンが身を横たえていた。

じっさい、その老いさらばえたトカゲ族の男性はミイラにしか見えなかったので、その口がひらき、そこから言葉が発せられたとき、私は肝をつぶしてしまった。皮革がきしむような声で、その爬虫類はゆっくりと言葉を継いだ。「わしはデッシュ・ウルム。お前様はアル・フィッド…帝都で並ぶ者なき才女とお見受けする。わがウクシス——いや侘び住まいにようこそ参られた」

相手の視線が私の肩のあたりにさまよっているように見えたので、怪訝に思ってよく見ると、年老いたトカゲ族の両目は乳白色の膜で覆われていた——彼は盲目だったのだ。向こうは目が見えないという事実が、いくぶん気を楽にしてくれた。私は冷静さを取り戻し、ありがたいことに、礼儀作法を思い出した。私はお辞儀をし——相手には見えなかっただろうが——、こう述べた。「お招きにあずかり光栄に存じます、デッシュ・ウルム様。私のような若輩者が、どのようなことで叡智の長老のお役に立てるでしょう?」

「気をつけられよ!」彼はしわがれ声で叫んだ。鱗に覆われた両手が泥の中から現れたかと思うと、浴槽の縁をつかみ、腕の力で上体を持ちあげる。「お前の肌の乾いた魔術師たち——彼らのことで、横糸がほどけつつあるのじゃ」そう言うと、アルゴニアンの老人はやや落ち着きを取り戻し、両手で螺旋形を描く見慣れないジェスチャーをした。「由々しき事態じゃ。アウルビクのかせ糸たちが悪意によって分かたれてはならぬ」

このところ魔術師たちと過ごしているおかげで、私は彼の言う意味を推し量ることができた。「モリアンとディヴァイスのことですか?2人の身に危険が?私はどうすればよいのでしょう?」

デッシュ・ウルムはあごを2度鳴らしてから言った。「お前様は有能じゃ。彼らを止めなければならぬ。お前様は勝つじゃろう。万一敗れれば——」額に生えた3本の鋭い棘状の突起物が立ちあがる。「——その川を泳ぐ者たちすべてに悪夢と鋸歯状の刻み目がもたらされるじゃろう。カオック!」歳ふりたアルゴニアンはだしぬけに浴槽のなかでばちゃばちゃやりだし、泥を周囲にまき散らした。「セイラル!」

〈尾を上げる者〉が昆虫の甲殻でつくったとおぼしい水差しにさっと手を伸ばし、栓を抜くと、茶色の液体をトカゲ族の老人の喉に注ぎ込んだ。「行って!」部屋の出口を指さし、彼女は鋭く言う。「お師匠様がそう言ってるの!さあ早く!」

私はきびすを返して部屋を出ると、傾斜路を下り、玄関を抜け、走って帝都の市内に戻った。

クラフトモチーフ10:インペリアルスタイルCrafting Motif 10: Imperial Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

帝都…私はこの街に憧れていた。若いころ、故郷のスキングラードはどうしようもなく田舎臭く思え、年に1度ハートランドを訪ねる母親に同伴する機会が来るのを待ちわびたものだ。私にとって帝都は学びと文化そのものであり、私が愛おしむすべてのものの縮図だった。

私は今、その帝都の街路を歩いている。地区から地区へと移動しつつ、街並みに目を凝らす。スキングラードはたしかに田舎臭く思えたが、それでもコロヴィアらしい町ではあった。直截的かつ簡潔で、すっきりとした線で構成され、質素で禁欲的な趣をそなえる。そこに暮らす人々もまた同様だ。

それに対して帝都はというと、城壁と白金の塔はアイレイドが作ったものだから除くとしても、ニベンの色彩が強い。洗練され、装飾過多で、捉えがたく、隠微なのだ。

退廃的で、爛熟しているのだ。

…そこに住む人々やそこに引き寄せられる人々がそうであるように。

私は間に合わなかった。

モリアンは行ってしまった。ディヴァイス、呪うべきディヴァイスの助けを借りて夢をかなえ、オブリビオンに旅立ってしまったのだ。セイフイジによると、モリアンは計画通りムーンシャドウにたどり着いたものの、そこに留まらず、なおも旅を続けたのだという。ムーンシャドウからアッシュピットへ。アッシュピットからコールドハーバーへ。コールドハーバーからクアグマイアへ。クアグマイアからアポクリファへ…

そしてアポクリファで、彼は足をとめた。

平板なはずの爬虫類の声を震わせながらセイフイジが教えてくれた。オブリビオンに足を踏み入れてから、モリアンはますます向こう見ずになり、次の次元へと通じるポータルをくぐるたびに、どんどん有頂天になってゆくように見えたこと。助手である自分がいくら戻ってきてくれるよう懇願しても、耳を貸そうとしなかったこと。モリアンがアポクリファに…魅入られてしまったこと。

セイフイジ・ヒッジャは取り乱していた。頭を抱え、背びれをしょんぼりと垂れさがらせたその姿は、明らかに途方に暮れている者のそれだった。自分でなんとかするしかない。そう悟った私はディヴァイスの部屋へ走った。セイフイジから留守だと聞かされていたが、モリアンと連絡を取る何らかの手立てが見つかるかもしれない。あるいは、助けを求める私の声に、ディヴァイスなら反応してくれるかもしれない。

ディヴァイスの部屋では、1冊の本しか見つからなかった。机の上に置いてあったその書物の題名は「フラグメンテ・アビーサム・ハルメアス・モラス」。デイドラ公ハルメアス・モラスを呼び出す儀式について書かれているとおぼしきページが開かれており、そこには次のようなくだりがあった。「いかなる代償であろうとも、必ずや支払うべし」

アポクリファの王ハルメアス・モラを呼び出す儀式…

私はモリアンの研究室に急いだ。徹底的に調べたが、手がかりになりそうなものは1つしか出てこなかった。それは丸められた紙切れで、広げるとこう記してあった。「汝がオブリビオンに入らんとするとき、オブリビオンもまた汝に入らんとす」

モリアンは行ってしまった。彼はアポクリファに渡り、そこに留まっている。

だから、私は地区から地区へとさまよい歩きながら、思いをめぐらせている。アポクリファの王がディヴァイス・ファーに求めた代償はなんだろうか?モリアン・ゼナスを魅了し、虜にすることの対価として、ハルメアス・モラはディヴァイスに何を求めたのだろう?

私は帝都の大路小路をあてもなくさまよいながら、自問自答を繰り返している。

私はいつ、代償を支払う覚悟ができるだろうか?

クラフトモチーフ11:古代エルフスタイルCrafting Motif 11: Ancient Elf Style

セイフイジ・ヒッジャ 著

先生、モリアン・ゼナスは行ってしまわれた。レディ・アルフィディア(いつもはルプス博士と呼んでいた)も姿を消した。姿を消したと言えば、あのテルヴァンニ家の男もそうだが、少なくともあいつに関しては、いなくても寂しいとは思わない。あのいけすかないエルフときたら、教授の目を盗んでは「鱗肌の助手風情」が云々と意地の悪いことを口にしていた。

そうとも。あのテルヴァンニ家の男が消えてくれて、むしろせいせいしている。しかし、他の2人については…

私はできるかぎりここに留まり、教授の住まいをきちんとしておくつもりだ。誰かが手記や試料を整理整頓し、蔵書のほこりを払わねばならない。私はまだ教授が帰ってくるという希望を捨てていない。今のところ大学は教授を「長期休暇」扱いとし、私が教授の居宅と研究施設を維持できるように俸給を送ってくれている。

あるとき教授の机を整理していた私は、偶然、数冊のノートを見つけた。それはレディ・アルフィディアの優美な筆跡でしたためられた研究ノートだった。複数の文化様式における被服や武器防具を題材にした、未完の労作だ。川の流れがゆるやかな今日このごろ、私は(望むらくは)ルプス博士がそうしたであろうやりかたに近いやりかたで、これらのノートをまとめあげようと決心した。

今日のタムリエルに存在するエルフの主要な社会がそれぞれ備える様式に関する研究ノートは、すでにまとまってはいるものの、まだ言及しなければならない要素が残っている。というのも、自らの祖先と血統を大切にするエルフは、アルドメリ文化の歴史に特別な敬意を抱いているからだ。エルフが初めてタムリエルを征服し植民地化した神話紀を、彼らは模倣すべき黄金時代と見なしている。結果として、当時の衣服と防具が本当の意味で時代遅れになることはかつて一度もなかったし、多くのエルフは古代アルドメリの様式と作法にいまだ愛着を感じているのである。往古のアイレイドやチャイマーのような装いをしたハイエルフやダークエルフに出くわすことは、タムリエル大陸でさえ珍しいことでもなんでもない。こうしたいでたちをエルフは「ゆったりとした襞を多用したエルノフェイ・スタイル」と呼ぶが、エルフ以外はたんに「古代エルフスタイル」と呼びならわしている。

(ここで、不在のレディ・アルフィディアに代わって私見を付け加えたいと思う。私自身、長年帝国の首都で暮らしているが、ウッドエルフに限っては、この古代エルフスタイルの装いをした手合いにお目にかかった試しがない。どうやらボズマーは我々アルゴニアン同様、今現在に生きることを好むようであり、昔の流儀にはさほど敬意を払わないように見える)

古代エルフスタイルは、サマーセット諸島やモロウウィンドに暮らす現代の匠たちが好むエルフ様式とまったく同じというわけではない。前者のほうが、いくぶん有機的な度合いが強く、かつ、より抽象的でもある。流れるような植物のモチーフが使われるのは同じで、たいてい先細りして尖った先端や終端に収束するのだが、これはいたるところにアイレイドの遺跡があり、鋭角なアーチを見慣れているシロディールの住民にはなじみ深いものだ。古代エルフスタイルでは円、半円、円弧がふんだんに使われ、しばしばそれらのなかに先細りする有機的な巻きひげが描かれるが、これはエドラ(エルフが自分たちの祖先だと主張する人々)がムンダスの創造によって束縛されたことを象徴しているように思える。

(え?今のはなんだ?「気取ってること、セイフイジ!」だって?まるでレディ・アルフィディアに耳打ちされたような…)

クラフトモチーフ12:蛮族スタイルCrafting Motif 12: Barbaric Style

セイフイジ・ヒッジャ 著

引き続き、アルフィディア・ルプス博士が残した、さまざまな文化様式における被服および武器防具の研究ノートの編集を進める…

誉れ高き我らが第二帝国による文明化の影響にもかかわらず、タムリエルには今なお文化果つる辺境があちこちに残っていて、そういった場所には未開の部族が住んでいる。おそらく、我々シロディール人にとって最もなじみ深いのは、スカイリムとハイロックにまたがる荒涼たる山岳地帯に住む蛮族、リーチの民だろう。ブルーマの周縁部で略奪をはたらく彼らの姿が見られたのは、さほど昔の話ではない。リーチの民のほかにも、モロウウィンドのアッシュランダー、ブラック・マーシュに住む好戦的なコスリンギ、中央ハンマーフェルのケット・ケプトゥ等々、数多くの蛮族が存在する。

こうした数多の蛮族が、それぞれ大陸の遠く離れた場所に暮らしながら、服装に関しては驚くほど嗜好が似ているというのは、奇妙だが否定できない事実だ。それがいったいどういう理由によるのかは、もっと思弁的な民族誌学の研究に任せるとしよう。本稿は、単なる記述的研究にすぎないのだから(したがって、記述を続けよう)。

「バーバリック」と呼ばれるこの氏族的あるいは部族的な様式は、実のところ、洗練度において他の文化の様式に引けを取らない。いわゆる「蛮族」たちは、単に気取った抑制というような考えをことごとく蔑んでいるだけであり、けばけばしさや悪趣味をことさら好むに過ぎないのである。彼らのあいだでは鮮やかな色彩が好まれ、素材をどんな色合いに染めるかに関してはほとんど制限がない。装身具にはたいてい頭蓋骨、鹿の骨、羽根、紐でつなげた歯などが使われるうえ、銅箔によるアクセントが加えられる。また武器については、これでもかというぐらい大きなものを、これみよがしにいくつも身に着けるのが普通だ。

(ついでに言うなら、上の記述の多くは、我が故郷ブラック・マーシュの様式にも当てはまる。かの地が「バーバリック」などと形容される謂れはほとんどないにも関わらずだ!…この文化様式については、別の機会にあらためて取り扱おう)

クラフトモチーフ13:野生スタイルCrafting Motif 13: Primal Style

セイフイジ・ヒッジャ 著

引き続き、アルフィディア・ルプス博士が残した、さまざまな文化様式における被服および武器防具の研究メモの編集を進める…

完全装備をしたゴブリンの族長を見て、読者諸賢はこう思うかもしれない。なんてちぐはぐな恰好なんだ。原始的な装備品を手当たり次第に身に着けただけじゃないか、と。けれども、それは間違いだ。族長が身に着けているものは、すでに評価の定まった優れものを注意深く選び抜いた逸品であり、数千年の伝統に裏打ちされた選定を表しているのである。これは我々民族誌学者が「野生」と呼ぶ武器防具の様式であり、その独自性と識別のしやすさは他のどんな文化にも劣らない。

プライマルを自分たちの文化様式として採用したゴブリンその他の種族は、たいてい、ゴミ漁りとお宝の回収を得意とする。捨てられたもののなかにも、まだまだ使えることはもちろん、他よりも優れた品質さえ備え、なおかつ野生の美意識にかなうような装備品はいくらでも存在する。彼らはどこを探せばそういうものが見つかるかを嗅ぎ分ける特殊な嗅覚をそなえているようにも見える。そして彼らが自分たちのいでたちに対して抱いている誇りは、帝国のどんな百人隊長にも劣らないのだ。

グウィリム大学のイントリケイトゥス博士による最近の研究は、上記を裏付けるばかりでなく、「野生」というのがこの様式を形容するのに最もふさわしい言葉であることを示す新情報をも発掘した。虐殺された「ナイフビター」というゴブリンの部族がまとっていた原始式の装束を57組調べたところ、死体が身に着けていた品々の多くは、数千年とは言わないまでも、数百年は昔のものであることが判明したのだ。グリーブやキュイラスのなかには第一紀初期のものと思われるものがあり、そうした装備品にはその後歴史に埋もれてしまった古代の鍛造技術が使われていたという。はたしてゴブリンたちは、巷間言われてきたように、それらをシロディールの古代遺跡から掘り出しているのだろうか?それとも、彼ら自身の手で、悠久の過去から現在へと、いくつもの世代を仲立ちにして受け継いできたのだろうか?

ええ、ゼナス教授。教授はそういうふうに「悠久」とお書きになります。えっ…どういうことだ?教授?今のはあなたのお声ですか?

クラフトモチーフ14:デイドラスタイルCrafting Motif 14: Daedric Style

セイフイジ・ヒッジャ 著

引き続き、アルフィディア・ルプス博士が残した、さまざまな文化様式における被服および武器防具の研究ノートの編集を進める…

ルプス博士による小論集「種族別のモチーフ」の掉尾を飾るこの項目がデイドラの武器防具であるのは、まったくもって妥当である。というのも、不在のレディ・アルフィディアは消息を絶った我が師モリアン・ゼナス教授の後を追って、いかなる方法を使ってかデイドラが支配するオブリビオンの次元に赴いたものと私は信じているからだ。そして、教授のささやき声がほとんど絶えず聞こえてくるようになった今こそ、ルプス博士のノートのまとめを締めくくり、オブリビオンへの扉をくぐった教授の旅について語る段階に移行する潮時であると考える。

デイドラは教授がしばしば言っていたように混沌の獣であり、巨大なエネルギーと力を併せ持つ存在だが、創造性というものを完全に欠いている。彼らは模倣や誇張はできるし、改悪もできる。しかし、新しいものは何一つ生み出すことができない。創造という能力は本来エドラと、彼らからその能力を贈られた我々ニルンの定命の者だけに備わっているのである(ブラック・マーシュではもちろん見解が異なる。上記はあくまでも教授とレディ・アルフィディアの考えであることに留意されたい)。

それゆえに、ルプス博士が「人間型」と呼ぶドレモラ、ズィヴィライ、ゴールデンセイントのようなデイドラの武器防具は、我々にとってなじみ深いタムリエル様式の胴当て、胸当て、ポールドロン、剣、槍、弓で構成されている。それらは我々の目には、風変わりな鋲と大げさな飾り線文様で飾られているように映るかもしれないが、デイドラの鎧一式の内側を見れば、そこには、見慣れた詰めものや革ひもがついていて、普通の体型をした者ならば誰でも着用できるようになっている。デイドラの剣を手に取れば、その異様な形状にもかかわらず、柄はしっくりと手になじみ、目方のバランスも良好だと分かる。実際、「モラグ・バルの戦棍」のような名高いデイドラ公のアーティファクトは、そのほとんどが、魅入られた、あるいは強要された定命の匠の手で作られたと言われているほどだ。

ええ、教授。もう充分だと思います。少なくとも当面は。親切だった博士に対する義理はこれで果たしました。さあ、私はあなたの書斎で机につき、耳をそばだてています。もう一度ムーンシャドウのことを話してください…

クラフトモチーフ29:魂なき者スタイルCrafting Motif 29: Soul-Shriven

コールドハーバー王宮の騎士、騎士道の勇者、無防備な者を守る者、魂なき者の指導者 アンドーンテッドのキャドウェル卿 著

ここコールドハーバーにはタムリエル全土から人々が集まってきている。彼らを責めることができるか?この王国は楽園のようなものだ!それと、今思えば食の面では矛盾している。なぜなら、我ら魂なき者は生きているが、食べはしない。最後に少しでも腹が減ったと感じたのはいつだったか、覚えてすらいない。おかしいだろう?なぜなのだろうか?

だがそれはいい。本題はこれだ:スタイル!厳密には魂なき者のスタイルだ。全てのスタイルから吸収しているため、スタイルなきスタイルなのだ!全てのいいところ取りだと思わないか?

我々の武器を見てみろ!とがった凶器に戦闘向けの付属品が本当に豊かだ。短剣:魂なきカジートの波状の短剣!戦棍:魂なきオークの上質なとげとげ鎖鉄球!剣:カマリの馬鹿げたまっすぐな剣ではなく、本物のアカヴィリ、あのずる賢いツァエシが使っていた本物のカタナだ!そして斧:大鎌のついた格好いいやつだ…本物の大鎌…いや、正直に言うとどこからきたものか知らないが、ほぼ間違いなくどこか楽しいところだろう!

そして鎧も見てみろ!ほら!似たようなものは見たことがないが、私はその見た目が好きだ。あれは…何といえばよいだろうか?なんだかごちゃごちゃに混ざって分かりにくいだろう?そこらじゅういろんなものの断片が寄せ集められた感じで…少し精霊に似ているが、着心地は何倍もいいし、あんなに刺激的ではない。

そこで、少しでもスタイルに関心があるのなら、無鉄砲な冒険に向けて魂なき者の武器や防具を作ってみてはどうだろうか?魅力的だし、全くもって怪しくない。いやまあ、少なくとも怪しすぎることはない。

タムリエルの釣りの手引きA Guide to Fishing Tamriel

「老いぼれスローターフィッシュ」 著

釣りはいいものだ。農耕の大変な時期のあとや妻になじられた長い夜のあと、ちょいと釣りに出ることよりいいことなんてない。

自然の中に自分だけ、木々の間を抜ける風や岸に寄せる波の音を聞く。これで大抵の男は満足だ。価値のある獲物を釣るなんてことは考えちゃいない。だから森で居眠りしてると妻やご近所に思われるんだ。

だが真の釣り人は常に、うまい料理に使えるようなでかい魚でびくをいっぱいにしたがるものだ。それには何を釣ればいいのか、そいつはどこにいるのか、餌は何がいいのかを知らなきゃならない。これがタムリエル中で見つかる一般的な魚だ:

スローターフィッシュとトロッド:
こいつらは下水道、悪臭のする沼地や腐乱死体のそばの水たまりなど、どにかく汚い水にいる。安全な壁の中にいたい街の住人たちのお気に入りだ。この魚たちははい虫や魚卵に引き寄せられる。

サケとリバー・ベティ:
このうまい魚の住みかは清流だ。餌は昆虫や小さなシャッドをよく食べる。

スペードテールとシルバーサイド・パーチ:
日差しを遮れる深い穴や茂みのある湖をこの魚は好む。小さなカエルやグアル、鶏などの内臓、それに小さなオーシャンミノウが一番の餌だ。

ズフィッシュとロングフィン:
海辺にいるなら、このきれいな魚を手づかみで捕まえてみるといい。庭によくいる虫や小さなチャブがこの魚の中でも大物を誘うだろう。

これが今度釣りに行った時に役立つことを祈っている。これならきっと大漁で家に帰れる。誰にも1日を無駄にしたと責められることはないだろう。

バカでもできる木工Woodworking For Simpletons

「スカヴィンのヘボ大工」ことホアリー・ドゥロッツェル 著

おふざけはそこまでにしときな、鼻たれども。手に職をつけねえ限り、おめえたちにゃゴブリンの糞ほどの値打ちもねえ。そしてオイラは、小屋を身内の糞の臭いで満たすつもりはねえんだからな。

今日は木工のイロハを教えてやる。おい、腹を鳴らすのはやめて聞けってんだ!木工はまっとうな商売だ。おめえたちもこのホアリーを見直すことになるだろうぜ。いいか、テボンズでもついてこれるよう、優しい言葉で教えてやっから安心しな。

まずはこの斧を持って森に行くんだ。古い切り株や岩の近くで苔むした丸木を探しな。見つかったら斧で叩き割って粗目のカエデ材を10持ち帰るんだ。何?なんでそう呼ぶかだって?粗目だからに決まってんだろうが、この馬鹿ガキ!とにかく何かをこしらえようと思ったら、それだけの数は入り用だぜ。

次に、集めた粗目のカエデ材10を木工場に持ってくんだ。そこで、粗目のカエデ材を上質のカエデ材に変えるってわけよ。これを、この商売じゃ「加工」って呼んでる。いや、研磨じゃねえ、加工だって!できあがるのは上質なカエデ材だ。全然紛らわしくなんかねえだろ!

その次は——おい、聞いてんのか?ここは大事だぜ!スタイルも決めねえで、ただ闇雲に上質なカエデ材を削り始めることはできねえからな。わかるか?スタイルだよ、スタイル!タムリエルの全種族は固有のスタイルを持ってて、それぞれ好みの素材も違うんだ。

アルゴニアンはアルゴニアンスタイルで素材を加工すんだ。わかるかい?じゃあ、街でスタイル素材を仕入れてくるがいいぜ。木工師から買うに決まってんだろ、このイカレポンチが。ええい、どの木工師からだろうと構いやしねえよ!

さあ、いよいよスタイル素材と上質なカエデ材3つを持って木工場に行き、カエデの弓を作る段だぜ。弓弦のことは気にしなくていいからな。いや、だから無視して構わねえって言ってんだよ!しなやかなウッドエルフの踊り子の脚みてえな弓をつくることに集中しな。うん?踊り子?おめえたちにゃ関係ねえ話だよ!

「それだけ?」ってのはどういう意味だい?八大神の名にかけて、それだけのわけがねえだろう!木工はもっと奥が深いもんよ。材料を増やして品質を上げることだってできるし、完成した木工品を改良することだってできるんだ。

だから今それを話そうと思ってたところだって!カエデの弓は〈樹脂〉で改良してはじめて仕上がったと言えるんだ。〈樹脂〉なら、そこらで見つかるはずだぜ。「そこら」と言ったら「そこら」だよ!言っとくがな、充分な〈樹脂〉を用意しねえで改良しようとすると、弓はおしゃかになるし、〈樹脂〉も無駄になるから気をつけるんだぜ。

ああ、森に行けばいつだってカエデはあるぜ。ん?どういう意味だ?砂漠で過ごす予定でもあんのか?ああ、そういうことか…いいだろう。砂漠じゃカエデを見つけることはできねえ。なぜって砂漠にゃ森がないからな。だが、おめえにゃカエデの弓がある。そいつを木工場に持ってって、弓そのものから必要な素材を取り出せばいい。もちろん弓はおしゃかになる。オイラたちはこの処理を「解体」って呼んでる。おめえの姉妹がこさえる出来の悪い詩みてえなネーミングだけどよ、とにかく鑿さえあればそいつができるってわけだ。

なぜそんなに木工がうまくなったかだと?分析のおかげだよ。いや、本を読んでお勉強するのとは違うぜ。できのいい木工品が手に入るたび、オイラはそいつを分解して調べたんだ。そこらのガラクタとどこがどう違うのかを学ぶためにな。そりゃあ時間がかかったし、分解すればその木工品はおしゃかになったが、オイラは気にしなかった。どうやってそれをつくったかさえ分かれば、てめえでいくらでも新品を作れるわけだからな。

さあ、いい加減その口を閉じなよ、テボンズ。飛び込んできた肉喰い蝿を飲み込んでしまう前にな。

基本調理ガイドBasic Provisioning Guide

第七軍団糧秣担当下士官クロエリウス・マルギネンシス 著

私はこの20年というもの帝国軍第七軍団の補給責任者を務めているが、その間に1つの絶対的な真理を学んだ。それは、こと食糧の調達と供給に関しては、自分1人のためでも軍全体のためでも変わらないということだ。魔導将軍セプティマ・サルンの命により、実績と経験で我々に劣る他軍団の補給担当者の力となるべく、ここに私の知識を披露する次第である。

ステップ1:材料の調達

戦場において、味方兵士たちが食糧貯蔵庫として当てにできるのは、貴君のバックパックしかない。したがって、見つかるものは手当たりしだいに徴発すべし。樽、箱、穀物袋…こういったものからは漏れなくその一部を差し出させなければならない。

帝国兵士として、貴君には欲しいだけ徴発する権利がある。とはいえ、節度は保つべきだ。食料庫を空っぽにされた市民は、帝国の横暴をなかなか忘れまい。私は単純に、1つの樽、箱、あるいは穀物袋から徴発する量としては、片手に一杯、柄杓にひと掬い、数えられるものであれば1個にとどめておくことを自分に課している。

ステップ2:レシピの入手

自分が調理師であって、シェフではないことを忘れないように。貴君は何も、シェイデインハル女公爵が召しあがる食事をこしらえているわけではないのだ。部隊の腹を満たすことさえできれば、味なぞどうでもよろしい。貴君に必要なのは、手間がかからずシンプルで、大量に作るためのレシピだ。

鶏の胸肉のローストを例にとってみよう。これをつくるには鶏が要る。ただ、正しいレシピがなければ、いくら必要な食材を知っていても無意味だ。レシピなしでは、手に入れた材料は単なる生肉にすぎない。住民には料理の材料を準備する彼らなりのやりかたがあるものだ。したがって、物資の徴発にあたっては、レシピを見落とさないことが重要になる。

ステップ3:調理、調理、ひたすら調理

レシピを頭に入れたら、集めた材料を調理場まで持っていく。いよいよ調理開始だ。くれぐれも焦がさないように注意されたし。

味方兵士たちには、彼らが最も必要としているものを供すること。斥候と尖兵にはふんだんな野菜が必要だ。魔術師には果物がいちばん効く。歩兵にはいつでもボリュームたっぷりの肉料理が喜ばれる。暖かい食事がときに生死を分けるということを、ゆめゆめ忘れないように。

補足:陣中における醸造

酒類の醸造については訊ねられることが多いので、特に紙幅を割く。まず、酒はポケット瓶1つぶんより多い量を作り置きしないことをお勧めする。そうすれば、味方兵士たちも、それが目覚ましい戦功をあげた者たちだけに与えられる褒賞だと理解するだろう。

とはいえ、戦いや閲兵式の直前など、部隊に景気をつけることが必要なときもある。そんなとき、私はその土地のレシピをひもといて酷い味の地酒をこしらえることにしている。それなら一種のショック療法で兵士たちに自信を与えられるし、とにかくまずいので病みつきになる心配もない。

ステップ1とステップ2は調理と同じだ。ではステップ3はどうだろう?

ステップ3:醸造、醸造、ひたすら醸造

レシピを頭に入れたら、材料を調理場に運び、醸造を始める。失敗しないように。

私は事前に材料を「寄付」してくれた現地住民に、余った醸造酒を分けてやることが少なくない。これは帝国の徴発方針とは異なるのだが、将来われわれほど勇猛果敢でない軍団の巻き添えを食って退却を余儀なくされたとき、部隊が現地住民の敵意に囲まれないようにするには些かの効果がある。

救済のお願いA Request for Relief

親愛なる財務府さま

今年私に課せられました税金について、考え直していただけますよう再度お願い申し上げます。確かに私は帝都に暮らす、認可済みの付呪師です。ですが状況が変わり、かつてはうまくいっていた商売も、今では収入を削るばかりなのです。

数年前、付呪師は付呪をかける対象物を使いました。さまざまな材料と道具を使い、必要な神秘の力をそれに吹き込むのです。このため、付呪師が競う相手は同じ街の同業者だけでした。多くの人々はわずかなゴールドドレイクを浮かせるために剣を下げて何百リーグも先の付呪師の元へ行くのは望みませんでしたから。街での値段は3、4人の付呪師による友好的な会合で決められ、十分な利益を上げられました。王家の権利により、街での営業には高額の税が課せられることもありました。

ですが今はすべてが変わりました。付呪師は望みの効果を閉じ込めたグリフを作るだけです。グリフは単なる宝石で、誰でも剣の柄頭や鎧の部品に取り付けられます。そうすればグリフ内の魔法がその品に流れ込みます。

簡単に思えますでしょう?これが市場の暴落を引き起こしたのです。街ごとの基準で決めた付呪の価格をつけるのではなく、タムリエルの全付呪師が競い合うことになってしまいました。ダガーフォールの三流付呪師が10個の炎のグリフを作り旅の商人に売ります。商人はそれを帝都に持ち込み、シロディールの付呪師たちが決めた値段よりずっと安く売るのです。

この競争により、今では材料費をわずかに上回るほどのゴールドしか得られません。そしてこれでは、あなた方が課した税を払えないのです。

あなた方がよそで作られたグリフの輸入を停めないのであれば、私がこの商売を続けるための税を減らしてください。このままでは20年住み続けた家を売り、商人の息子の家庭教師など、他の職業に就かねばなりません。

お返事を心よりお待ちしております。

疲れ果てた賢者

仕立屋入門A Clothier’s Primer

粉々の仮面 著

未来の挑戦者たちよ!俺様、粉々の仮面が戦ってきた相手のなかには、きちんとした履きものの重要性を理解しない連中があまりに多い。

この入門書では、貴様にシンプルな手織りの靴のこしらえかたを伝授しよう。もし将来「聖なるるつぼ」で貴様と相まみえるなら、貴様が負けるのは靴が満足に縫えなかったせいではなく、俺様の比類ない戦闘技能のおかげであってほしいからな。

ステップ1:黄麻の入手

未加工の黄麻は安く、豊富なうえ、編みやすい。一目でそれと分かる黄色い花を原野で探すんだ。なんなら、誰かに金を払って積んできてもらってもいい。闘技場で俺様が懲らしめたいのは、その手の怠け癖だからな。

ステップ2:布の加工

仕立台さえあれば、未加工の黄麻に手を加えることができる。プロの仕立屋はこの処理を「加工」と呼ぶが、加工は未加工の素材であればどんなものにも施せる。靴をこしらえるために必要な加工済みの黄麻を作るには、さしあたり未加工の黄麻が10要る。

もっとも、機織りなんぞやってられるか、というなら話は別だがな。

ステップ3:スタイル!

仕立屋たる者、自分たちの文化に固有のスタイルを守るものだ。何より、闘技場で目立つ格好をしようと思ったらスタイルが欠かせない。だから、自分が作業しやすいスタイル素材を見つけることだ。貴様がアルゴニアンなら、アルゴニアンスタイルの素材から始めるといい。仕立屋から買うもよし、貴様に負けて吠え面をかいている負け犬から取り上げるもよしだ。

ステップ4:靴の作製

スタイル素材と黄麻5(いいか、加工済みの黄麻だぞ。未加工の黄麻じゃ駄目だ)を持って仕立台に足を運び、さっそく作業に取りかかれ。手織りの靴を1足こしらえるんだ。使う黄麻を増やせば品質を上げられるが、まずは5から始めるのがいいだろう。

たやすい仕事だぞ!硫黄の王冠を勝ち取るという貴様のはかない、勘違いも甚だしい望みを打ち砕くのが、俺様にとってたやすいのと同じくらいにな。

粉々の仮面流仕立術

闘技場でそれなりの戦いぶりを見せる戦士ならば誰しも、ただの靴じゃ満足しない。その点、生皮のブーツなら防御力が上がるし、色鮮やかなサッシュなら闘技場で目立つこと請け合いだ。是非、こしらえてみるといい。仕立屋家業の勘所さえつかんでおけば、愛する者たちの目の前で俺様に恥をかかされたあとでも、食うに困る心配はなくなるぞ。

靴の改良

こしらえた靴、またはその他の衣服を改良するには、仕立台で「タンニン」を使う必要がある。ただし、慎重にやらないと、衣服もタンニンも途中で失われてしまうぞ。タンニンは、必要と思うだけ使うこと。

タンニンは自分で見つけるんだ。なんでもかんでも楽な方法があると思うなよ。

解体

貴様は手間を省きたいタイプかもしれない。未加工の素材を集める暇がないなら、要らなくなった衣服をいつでも解体できるぞ。解体すればその衣服は駄目になるが、その代わり、俺様に頭から吹っ飛ばされる運命の帽子を作るために必要な素材を回収できるだろう。

特性の調査

さて、そろそろ貴様はこう考えているだろう。「粉々の仮面と戦うには、何か強みが必要だぞ」と。それなら、自分より腕のいい仕立屋がこしらえた衣服をばらばらにし、使われている技術を学ぶのがお薦めだ。そうすれば、その衣服に固有の特性が分かる。とにかく、自信をつけるためにできることはなんでもするがいい——俺様がそいつを粉々に打ち砕いてやるまではな。

鍛冶の基本Blacksmithing Basics

ゼグ・グラ・ドゥシュ 著

オークの鍛冶夫人たちは言う。鍛冶のノウハウを知っているのは自分たちだけだと。そんな言い草はくそ喰らえだ!本書では鉱石の見つけかたから始め、鉱石からインゴットを取り出す方法を示し、さまざまな加工スタイルを説明したうえで、具体的な武器の作り方を解説する。これを読めば、君もすぐに鍛冶屋を名乗れるようになるだろう。

ステップ1:鉄鉱石の入手

鉄鉱石は最も扱いやすく、しくじっても簡単にやり直しがきく。まずは、大きな岩の露頭の近くで艶のないさび色の岩を探すこと。見つかったら掘り出す。自分で掘らない場合は、掘り出した人から買うか、知り合いに借りればいい。鉄鉱石の塊が10個集まったら、次のステップに進む準備は完了だ。

ステップ2:インゴットの加工

まず、鍛冶場を見つける。次に、鉄鉱石の塊10個からインゴットをつくる。この作業を「加工」と呼ぶ。理由が知りたければ、鍛冶夫人に訊ねればいい。

ステップ3:スタイルの選択

すべての種族が独自の鍛冶スタイルを持っており、それぞれ伝統的に好まれる素材が違う。憶えやすいように、ここではそれを「スタイル素材」と呼ぶ。私にはオークのスタイルが一番しっくりくるが、それは私がオークだからだ。君がアルゴニアンなら、アルゴニアンスタイルの素材から始めるといいだろう。素材が他で見つからなかったら、鍛冶屋に行けば売っている。

ステップ4:鉄の短剣の作製

鉄の短剣は簡単に作れる。必要なのはスタイル素材が1つ、インゴットが2つ。あとはハンマーをしっかり握った片手があればいい。これらがそろったら鍛冶場を見つけ、鉄の短剣を一振り作ってみよう。高品質なものを作るには使うインゴットの数を増やさなければならないが、さしあたって2つで充分だ。

ステップ5:作品の鑑賞

先に進む前に、しばし自分の作品を鑑賞しよう。それは「ただの鉄の短剣」とは違う。君が地面から鉱石を掘り出してつくった、命を奪うことができる道具だ。自分の作品には敬意を払うべし。

とはいえ、鉄の短剣では鍛冶夫人たちを感心させられないだろう。だが、あの連中に何が分かる?鍛冶仕事をする者は誰しも鍛冶屋を名乗る資格がある。何も鍛冶屋に嫁ぐ必要はない。今日は鉄の短剣しか作れなくとも、明日は黒檀の大剣を作ればいいのだ。

補足:上級鍛冶

本気で鍛冶夫人たちの鼻を明かしたいと思ったら、鉄の短剣以上のことを知らねばならない。

武器防具の改良

鍛造した武器や防具を改良するには、〈添加物〉を用いる。必要なときに見つかった試しがなく、いつも怒りに我を忘れる。

〈添加物〉が見つかったら、改良したいアイテムと一緒に鍛冶場に持ってゆく。〈添加物〉の数が多いほど、品質を向上させられる確率が高まる。ただし、成功する保証はない。失敗すれば〈添加物〉もアイテムも失われる。

〈解体〉

素材が足りないとき、武器や防具を〈解体〉して素材を取り出すことができる。〈解体〉すればそのアイテムは壊れてしまい、素材の一部しか回収できないが、インゴットを手っ取り早く手に入れたいときには便利な方法だ。

特性の調査

鍛冶夫人を戸惑わせる方法の1つは、彼女から最良のアイテムを買い、それを分解して彼女が作る武器防具の最大の特性を突きとめることだ。それが分かれば、その鍛冶夫人の最高傑作をコピーして、安く売ることができる。本気で彼女を怒らせたいなら、その鍛冶夫人の鍛冶場で作業を行えばいい。

弟子のための錬金術Alchemy For My Apprentice

言わずと知れた私より

我が愛弟子よ、お前が無駄にしてくれた錬金術の材料は、とうてい不問に付せる量ではない。我が師なら、かくも見下げはてた無能さにはとうてい耐えられまい。「教えるだけ無駄」、「本でも読んでいれば」などと突き放されるのが落ちであろう。そんな不肖の弟子のために、私はこの簡単な手引書をしたためた。希少な溶媒をもう1ケース調達するよりは安くあがるからだ。

万一この手引書を失くしても——お前のことだ、どうせ失くすだろうが——、捨て鉢になる必要はない。私はお前に年俸として支払うべき金を投じてこの手引書を大量に印刷し、ほうぼうに配布する手はずを整えた。いずれ、タムリエルじゅうの錬金術の作業場にこの小冊子が行き渡るだろう。

ステップ1:溶媒の入手

すでに承知の通り、どんな薬を調合するにも下地となる溶媒が要る。私の講義を一度でも真剣に聴いたことがあるなら、最も望ましい溶媒は自然に湧き出た清浄な水だということを知っていよう。水の純度が、薬の品質を左右する。したがって、水を汲むのに最も適しているのは自然の泉なのだ。

新鮮な水が湧く場所の必要性は、何度強調しても足りぬ。治癒の水薬に関する例の事故を憶えているかね?淀んだ水たまりや入り江の洞窟、製革所の下流などで水をすくって事足れりとしてよいはずがないのだ。都会であれば瓶入りのきれいな水がいくらでも手に入るだろうが、それでも自分で汲むに越したことはない。

ついでながら、お前の言う「雨水溶媒」は絶対に使いものになるまい。無駄な実験はただちにやめることだ。

ステップ2:試料の入手

錬金術は組み合わせの学問だ。溶媒が薬の下地であるのに対し、試料は薬の有効成分となる。1つの試料には、4つの特性がある。ここで方形混合の原理を——あらためて——お前に説明するのは気が進まぬが、基本だけは思い出させてやろう。そう、「似たもの同士を組み合わせるべし」だ。

今後、必要な試料は野や山で探すがいい。我が研究室ではなくな!よいか、草花とキノコ類を探すのだぞ。他のものは必要ない!いかなる状況下でも、この原則から逸脱してはならぬ。いつかお前が持ってきた「リスをすりつぶした粉末」などは、八大神に対する冒涜以外の何ものでもない。

なお、使った乳鉢と乳棒は念入りに洗い、きれいにしておくのを忘れぬように。

ステップ3:薬の調合

溶媒1種類と試料2種類を持って錬金台に足を運ぶがいい。くどいようだが、試料は種類の異なるものが必要となる。ムラサキ草とムラサキ草を組み合わせたところで、できあがるのはたんなるまずい水だ。

必要なものがそろったら、それらを混ぜ合わせて薬を調合する。プラスの特性を持つ試料同士を組み合わせれば、プラスの効能を持つ薬ができる。反対に、マイナスの特性を持つ試料同士を組み合わせれば、それをあえて飲もうという愚か者に害悪を及ぼすだろう。試料の特性が合わなければ、溶媒も試料も失われてしまう。

とにかく試料をとっかえひっかえし、どういう薬ができるか試してみることだ。そうすれば、おのずと試料の特性が分かってこよう。もっとも、試料のごく基本的な特性は食べてみれば分かる。ただし、食べるのは1つだけでいい。間違っても試料で腹を満たそうとするでないぞ!

そう言えば、お前はニルンルートを口にしただろう?ばれないとでも思っていたか?こうしていても歯の歌う声が聞こえるくらいだし、だいいち、光るおまるを隠す方法などないのだぞ。

上級錬金術の原理

あくまでも基本をマスターしたうえでの話だが、手の込んだことをやろうと考えるのもよかろう。注意深い研究を重ねれば、薬を調合する際にマイナスの特性を抑える方法、単純な試料の組み合わせから複数の薬を調合する方法、あるいは、試料を追加してより強力な薬を調合する方法さえ習得できよう!

しかし、さしあたって今は、「自分に毒を盛らないこと」を目標にすべきであろうな。

付呪は簡単Enchanting Made Easy

「ルーンをすなどる者」 著

付呪師には誰でもなれる。今何者であるかも、過去何者であったかも関係ない。私など、ひょんなことから付呪の世界に足を踏み入れることになるまで、20年間、ブラック・マーシュで魚を獲っていた。アルゴニアンの元奴隷漁師にマスターできるのだから、あなたにできないわけがない!

ステップ1:ルーンの入手

何年も前、ブラック・マーシュで漁をしていた私は、光り輝くルーンを見つけた。そのときはてっきりウィスプだとばかり思ったよ!ルーンは危ない場所でよく見つかる。だから、充分用心しつつ、そういう場所でルーンが埋まっている角ばった石を探すといい。

—赤い品質ルーンは魚の歳を思い出させる。稚魚はたくさん獲れるが、身が少ない。反対に、歳をくった老魚にはめったに出くわさないが、釣れれば大きい。
—青い潜在力ルーンは魚の味を髣髴とさせる。うまければ1日気分がいいし、まずければ敵に食わせるのにうってつけだ。
—緑色の本質ルーンは魚の種類のようなものだ。霜魚、鎧魚、毒魚…あとは考えれば分かるだろう。

タムリエルじゅうにルーンが散らばっているのはなぜかと訊かれることもある。でもそんなことは魔術師ギルドに訊いてほしい。自分は魚がどこから来るかなんて考えたこともない。考えたのは、どこに行けばたくさんいるかということだけだ。

(白状すると、私は色が識別できない。そういう向きはルーンの明るさを見るといい。品質ルーンは暗く、潜在力ルーンは明るく、本質ルーンはとても明るい)

ステップ2:付呪の作成

品質(魚の年齢)、潜在力(魚の味)、本質(魚の種類)の各ルーンが1つずつそろったら、付呪台に持っていく。さあ、ルーンを1つにまとめて、記念すべき最初の付呪を作成しよう!

漁を学ぶ最良の方法は、実際に魚を獲ってみることだ。付呪にも同じことが言える。付呪を作成する過程で、未知のルーンの意味と機能が分かってくるだろう。「ルーンがどのように魂と共鳴するかを理解しなければ、本当に理解したことにはならない」という意見もあるだろうが、そういう小難しいことは魔術師ギルドに任せておけばいい。

ステップ3;アイテムへの付呪

記念すべき最初の付呪が完成した。いよいよ、初めてアイテムに付呪する準備が整ったぞ!付呪を施し、魔力を付加したいアイテムを見つけるんだ。楽勝だろう?もちろん、そんなに簡単なわけはない。

付呪は選り好みが激しい。武器に使うのがふさわしいものもあれば、防具に使うのがふさわしいものもある。また、宝飾品にしか使えない付呪も多い。自分の手元にあるものよりも高品質なアイテムでないと使えない付呪だってあるかもしれない。そうそう、もし気が変わったら、アイテムを再付呪できるが、新たな魔法を付与すると、古い魔法は失われてしまう。肝心なのは、私の卵の姉妹が言うように、「その場にふさわしい魚を食べさせろ」ということだ。

補足:ルーンの抽出

作成した付呪が自分で使えなくても、がっかりすることはない!売ったり、交換したり、それを使える友達にプレゼントすればいい。

もちろん、付呪台さえあれば、付呪からルーンを抽出することができる。私はこれを「魚のわた抜き」と呼んでいる。この処理で付呪は駄目になってしまうが、使われているルーンの1つを回収できるので、それを別な付呪に使える。

宝飾の喜びThe Joys of Jewelry Crafting

宝飾職人フェラリアン 著

私たちの内には、それぞれ石がある。粗く、でこぼこで、控えめな石が。だがギザギザな表面の奥では色と、可能性の光が輝いている。精錬されていないが有望だ。そして少し磨くだけで、その石は美しく光り輝く宝石になれる潜在力がある。

私たちは誰でも宝飾の技を内に秘めているが、誰もがその力を見通せるわけではない。それゆえ、技を磨き始めるための方法について案内を書く役目を引き受けた。以下に記す簡単な手順をこなせば、どんな新米でも宝飾の基礎を学ぶことができる。

ピューターの粉末の入手

ピューターは入門者が最初に取り組むのに適した素材だ。加工が容易なだけでなく、呆れるほどどこにでもある。ただ荒野でピューターの鉱脈を探せばいい。鉱石と同じように、こうした鉱脈は通常岩の露出部分で見つかる。そこから必要なピューターの粉末を簡単に入手し、クラフトを始められるだろう。

ピューターのオンスの精錬

次に、ピューターの粉末をピューターのオンスへと精錬する必要がある。これはどの宝飾台でも可能だ。宝飾台は通常、大都市で見つかる。もちろん、可能なら自宅に自分用の宝飾台を置くことを推奨する。利便性は費用に十分見合うと思う。

指輪の作成

ここからがピューターのオンスを有効活用する時だ。簡素なピューターの指輪はクラフトで作れるアイテムの中で豪華なものではないが、最初のアイテムとしては上出来だ。この作業を完了するためには、やはり宝飾台が必要になる。

宝飾の解体

宝飾台は宝飾の作成だけでなく、解体のためにも使える。解体すれば指輪やネックレスを作成するために使った材料の一部を回収できる。例えばピューターの指輪を解体すると、ピューターのオンスが手に入る。もちろん、クラフトの大部分と同様、これによって経験値を得ることもできる。

特性の研究

宝飾はそれだけでも美しいが、非常に有用でもありうる。正しい特性を与えられれば、指輪やネックレスは体力、スタミナ、マジカを増加させられる。望ましい特性の宝飾を作るには、まずその特性をすでに有している宝石を研究しなければならない。例えば「堅牢」の特性を持つピューターの指輪を見つけたら、その指輪を研究すれば「堅牢」の特性を持つ新しい宝石を作る助けになる。残念ながら、このプロセスは常に研究されたアイテムを破壊してしまう。それが進歩というものだ。

終わりに

この案内を読んで、宝飾という栄誉ある技の探究を始めてくれることを心から願っている。上に記した基礎を覚えておけば、誰でも真の職人になる旅を始められるだろう。記述はこの辺にして、君の努力が実るよう祈っている!

イーストマーチの伝承

Eastmarch Lore

スカイリムのオークOrcs of Skyrim

最果ての放浪者ソーラ 著

スカイリムのノルドにとって、これまでのところオークほど叩いても叩いても自分たちを悩ませる存在は他にない。あの牙の生えた連中が我々の麗しい郷土の占有を主張したのは、遠くイスグラモルが「亡霊の海」を渡る以前までさかのぼる。当時の記録はほとんど現存していないが、同胞団がスノーエルフを駆逐するかたわら、オーク要塞を一つ残らず滅ぼしたことについては、さまざまな歴史に言及がある。

オーク要塞は防備の堅い拠点であり、鉱物資源の鉱床の周囲に築かれることが少なくない。十数世帯が暮らせる施設を擁し、周囲には最強の軍勢以外どんな相手でも撃退できるよう設計された防壁が巡らせてある。領内のオーク要塞を滅ぼそうと企てた挙句、果たせずに命を落としたことで歌にうたわれ、記憶にとどめられている首長は数知れない。オーク要塞を単に滅ぼせないだけならまだしも、滅ぼしたはずの要塞が世代も代わらないうちに復活することもしばしばである。それを防ぐにはノルドの砦で対抗するしかないが、その場合は兵員と糧秣を絶えず補給しなければならない。

岩を積みあげただけの砦とも呼べないような代物を数年以上にわたって守る余裕のある首長などほとんどいない。だから、オーク要塞は依然として我々の土地の病巣であり続けている。オーク要塞の中にはこの調子で数千年とは言わないまでも、数百年存続しているものがある。イーストマーチのクレイドルクラッシュにある古いオーク要塞などは、地下の鉱脈が完全に枯れてしまったにもかかわらず、これまで攻め落とされたこともなければ打ち捨てられたこともないと言われている。

スカイリムにおけるオークの勢力が絶頂に達したのは、第二紀の初頭、ヤシュナグの族長国が樹立されたときである。ブレトンとレッドガードの連合軍によるオルシニウムの破壊を契機に民族大移動を強いられたオークたちは、北の大地全土に離散する。ハイロックを追われたヤシュナグとその民は東へと逃れ、いにしえの権利によって自分たちのものだと彼らが感じるスカイリムの土地を奪還しようとした。西スカイリム王のスヴァートルは、西王国を蝕むオークやリーチの民を撃退する能力に欠けていた。ヤシュナグの族長国は30年余りものあいだ西ファルクリースを悩ませ続けた末、第二紀の467年に「ヤシュナグ殺し」のハックヴィルドによって焼き払われた。

ハックヴィルドがファルクリースの首長になったのは、父親である先代首長が戦場でヤシュナグに殺されたからである。若き首長が継承したのは、西から攻めてきたオークの侵略者たちに大部分を占領された、崩れかけの砦以外にほとんどなかった。ハックヴィルドはヤシュナグとヤシュナグに従うオークの勇者たちに決闘の儀式で勝負をつけようと申し込み、1人ずつ倒していったと言われている。この知られざるオークの儀式をハックヴィルドがどうやって知ったのかは詳らかになっていないが、指導者が倒されたのを見て、ヤシュナグの追従者たちは族長国を捨て、去っていった。

ヤシュナグの族長国が崩壊すると、オークはスカイリムのさらに奥へと入り込んで散らばるか、または後退してロスガーの山々に分け入った。ヤシュナグの民を祖先に持つオークの諸部族は、スカイリムの歴代王に対して激しい憎悪を燃やしてきた。オークが数百年前に自分たちの故郷を焼き払ったタムリエル西部の民とさえ関係を修復していることを考えると、ノルドに対する彼らの敵意がこうまで大きくなったのは、皮肉としか言いようがない。

スカイリムの霊魂Spirits of Skyrim

学究の徒イシティルレ 著

スカイリムでも往来の少ない寂しい道には、さまざまな霊魂が出没する。そうした英魂の一部は凶暴で恐ろしい存在だ。彼らは定命の者を憎み、ねたんでいる。それ以外の霊魂は単にいたずら好きなだけだが、彼らが山ほど用意している無邪気ないたずらは、仕掛けられた側がきちんとそれに気づかないようだと危険なものに変わりうる。少数ながら、中には気立ての良い霊魂もいるとはいえ、そういう霊でさえ、こちらが礼節を欠いたり敬意に乏しかったりすれば敵意を露わにしてくる可能性がある。一口に霊魂と言っても、自由にさまようデイドラから、死んだ定命の者や自然の化身まで多種多様だ。もっとも、脅かされている当事者にとっては、そうした区別にさほどの意味はないかもしれない。あれこれ悪さをしてくる霊魂が、さまようデイドラだろうとこの世にぐずぐず居残っている村の小作人の亡霊だろうと誰が気にするだろう?どちらにせよ、実体を持たない存在であることに変わりはなく、危険な相手であることにも変わりはない。

ウィンドヘルムのずっと南に広がる「亡霊の森」は、遠い昔から謎と危険に満ちた場所だった。閃く光や抗しがたい囁き声が、どんなふうに旅人を森の奥へと誘い込むかを語る物語はそれこそ枚挙にいとまがない。本来ならば用心深いはずの地元の農夫や木こりたちでさえ、太陽が中天高く登る時、あるいは夜闇が大地を覆いつくす時、奇妙な物音や怪しい光景の犠牲になってきた。そういう話には事欠かない。

そうした霊魂の一種に、湖や丘や木立といった特定の土地に縛られた、ガーディアン・スピリットがある。彼らは緑のある一帯に出没し、そこを捨て去ったり、そこから遠く離れたりすることはできない。定命の者の前に現れるとき、ガーディアン・スピリットは定命の者の姿をとることが多い。だが、騙されてはならない。こうした霊魂は決して定命の存在ではないし、定命の世界からかけ離れていることはオブリビオンの住人と変わらない。彼らは定命の者の振る舞いを真似るかもしれないが、そうした振る舞いを理解することもなければ、そうした振る舞いにほんのわずかでも関係があるわけでもない。

ガーディアン・スピリットは決まりきった日常に飽きるかもしれない。また、縄張りに迷い込んできた新たな生き物に興味を抱くかもしれない。ことによると、自分の領分を訪れた定命の存在から侮辱を受けたと思い込んで、怒りに駆られることさえあるかもしれない。いずれにせよ、そういう場合はガーディアン・スピリットの注意を引いてしまう。あるいは、今挙げた3つとは全然違う理由から、ガーディアン・スピリットに目をつけられることも考えられなくはない。この世ならぬ存在が何に動かされているかなど、いったい誰に分かるだろう?

亡霊の森のガーディアン・スピリットは、物見高くいたずら好きではあるものの、定命の訪問者に対していきなり敵意を示すことはまれだ。あの森の中で何かをなくす、怪しい何かが現れる、無邪気ないたずらを仕掛けられるといった話には事欠かないが、森が底を訪れた定命の者に牙を剥いたという話はほとんどない。どうやら、少なくともこの霊魂に限っては、我々と何らかの関係を築こうとしているように見える。あるいは、そういう考えもまた、霊魂の意図を誤解しているだけなのかもしれない。ひょっとしたらこのガーディアン・スピリットは、単に森を訪れた者を油断させようとしているだけなのかもしれない。相手が気を緩めたところを見計らって、襲いかかるために。

ストームフィスト・クランThe Stormfist Clan

最果ての放浪者ソーラ 著

ノルドのクランはマンモスの群れのようにスカイリム全土に広がったが、その数と土地におよぼす影響力はマンモスの比ではない。もっとも、各クランが名を馳せる理由はそれぞれ違う。狩猟の腕前で知られるクランもあれば、森林に精通していることで知られるクランもあり、クラフトの技術で知られるクランもある。大柄なクランもあれば、小柄なクランもある。政府や共同体で華々しく活躍するクランもあれば、忌まわしく、暗いイメージがつきまとうクランもある。後者は誰もが関わり合いになるのを避け、その名を口にするのも憚られるクランだ。そうしたクランの1つとして、ホワイトラン・ツンドラを本拠地とする悪名高いストームフィストを挙げられる。

ストームフィストの系譜を遡れば、クランの始祖であり50年近くに渡って率いた力強い女族長、オグラ・ストームフィストに辿り着く。戦闘技能と鎧作りの腕前を高く評価されたストームフィスト・クランは、何世紀にも渡り、数々の戦いで中心的な役割を果たした。ホワイトラン要塞の戦い、ダイアルマーチの虐殺、ウィンドヘルム包囲…。ただ、ウィンドヘルム包囲を最後に、この一族は信頼を失い、忌むべき存在の烙印を押されてしまう。

第二次アカヴィリ襲来の前夜、東スカイリムを統べるマブジャールン女王の息子、強健王子フィルジョアは、異郷とそこに住む人々を自分の目で見るため西方に旅した。そこで王子はストームフィスト・クランの若い男女たちと出会い、後に大いに役立ってくれる友情と絆を育む。やがて、成人の試練に挑む覚悟ができたフィルジョアが旅を再開する際、ストームフィスト・クランの仲間が彼と旅を共にすることを決める。やがて彼らはストームフィスト旅団と呼ばれるようになり、フィルジョアは生まれながらの仲間ではないにもかかわらず、事実上の指導者となった。

もし、それ以前のストームフィスト・クランに何がしかの評判があったとしても、ストームフィスト旅団が築いた伝説の前で色あせてしまった。彼らは勇猛な戦士たちであり、冒険を求めては、王国で最も敵意に満ち、最も周囲から隔絶された地域へと足を向けた。フィルジョアに率いられた彼らは山賊の集団を潰走させ、埋もれた財宝を見つけ、怪物を倒した。アカヴィリの侵略軍が攻め寄せたとき、フィルジョアはストームフィスト旅団を率いて戦いの渦中に身を投じる。そうして彼らはついにウィンドヘルムまでたどりつき、マブジャールン女王及びその主力との合流を果たした。

ウィンドヘルムの陥落を防ぐことも女王を救うこともできなかったものの、ストームフィスト旅団は侵略軍を敗走させるために功があった。彼らはノルド連合軍の一翼を担い、土壇場で加わったダークエルフおよびアルゴニアンと共にアカヴィリを打倒したのである。しかし、それに続いて運命の決断がなされた。フィルジョアが姉ナルンヒルデの死によって空位となった玉座に就く意思を表明したとき、ストームフィスト・クランは王子を最も強く支持する輪に加わったのである。その結果どうなったかは承知の通りだ。ジョルンとフィルジョアは一対一の果し合いにおよび、結局ジョルンが玉座を勝ち取った。フィルジョアは追放の憂き目に遭い、いつか戻ってくることを誓ってスカイリムを離れた。

ストームフィスト・クランはフィルジョアに対する忠誠を最後まで貫き、ジョルンの前に頭を垂れることも、その王たる権威が自分たちに及ぶのを認めることも拒んだ。彼らは西の故郷に帰ってゆき、戦いに倦み疲れていたジョルン王もあえて止めようとはしなかった。以来今日に至るまで、ストームフィスト・クランは外界との交わりを絶ち、自分たちの縄張りから外に出ることも、クランより大きなノルドの共同体に加わることも稀だ。ただし、もし彼らが故郷のツンドラ地帯を離れ、他のクランの間で地位を回復しようと決意した場合、何が起きるかは誰にも分からない。特に、もしフィルジョアが自らの誓いを果たしたとしたら、そのときどうなるかは神のみぞ知る。

テルニオンのモンクThe Ternion Monks

書記エルガド 著

テルニオンのモンクについては、邪教の教団だと切って捨てる者もいれば、さらに悪しきものだという者もいる。しかし、彼らは三柱の古き神々とそのそれぞれに結び付いたトーテムを崇める伝統の担い手なのだ。古くから存在する信仰だが、今や帰依する者はほとんどいない。多くの点で、テルニオン信仰はゆっくりと死に向かっていると言える。というのも、現在のモンクによる布教の成果は微々たるものだからだ。三柱の古き神々の崇拝に改宗する者の数が減る一方であることを考えると、この信仰がただのぼんやりとした記憶と化してしまうのは時間の問題かもしれない。

治癒魔法で知られるテルニオンのモンクは、三柱の古き神々の姿を呼び出すことができる。それらの姿の助けを借りて、彼らは単なる定命の存在に許された範囲を超える務めを果たせるのである。それぞれの姿は三柱の古き神々を模している。すなわち、狐、熊、狼である。

狐はずるがしこく、機敏で、その姿は自分を呼び出したモンクの速度と敏捷性を増大させる。

熊は堂々たる体躯と膂力を有し、守護者となる。その姿は自分を呼び出した者の力を強くし、その者を危害から守る。

狼は抜け目がなく鋭敏で、獰猛かつ危険な存在だ。状況を見定め、待機し、行動を起こす絶好の機会を探す。その姿は自分を呼び出した者の視野や知覚を広げ、よりはっきりと物事が見えるようにする。その結果、隠れているものや曖昧なものに気付くようになる。

テルニオンのモンクは自分以外の誰かがほとんど近づけないような場所で瞑想にふけり、神々を崇めることを好む。モンクの魔法を使わないかぎり、そうした神聖な隠れ処にたどりつけないことも少なくない。ガーディアンは他のモンクか、よほど差し迫った必要に駆られた、道を開いて通すに値する相手に求められなければ道を開かない。

私はモンクたちと共に過ごすことで、彼らの流儀の幾分かを学び、彼らが実際に治癒魔法を使うところも目にした。彼らは価値ある伝統を守り、今に伝える善良な人々だと思う。けれども残念ながら、今の世代が死に絶えた時、テルニオンのモンクと三柱の古き神々の崇拝は、次第に消滅の道を辿るだろう。

そしてそれは、悲しむべき日になるに違いない。

フレイディスの王冠The Crown of Freydis

神話の作り手タレオン 著

我らが敬愛するマブジャールン女王が戴くフレイディスの王冠には、長い歴史がある。名高いその美しさについて知る者は多いが、この王冠の本当の使い道や、この王冠が作られた経緯を知る者は少ない。そして、フレイディス女王以前の君主たちもこの王冠を被っていたという事実も、ほとんど知られていない。

フレイディスの王冠は、実を言うとスカイリムでは2つめの王冠である。最初の王冠の栄誉は、「尖った王冠」に属する。これはノルドの初代王ハラルドがドラゴンの骨から作った王冠で、伝説によればハラルド王の血を引く最後の王ボルガスが、第一紀369年のワイルドハントで落命した際に行方知れずになったという。イスグラモルの系譜に連なる最後の1人であったボルガスには子がなく、彼の死は「継承戦争」と呼ばれる血で血を洗う内紛の引き金を引いた。

継承戦争は隻眼のオラフが新しいスカイリムの上級王になるまで、5年余り続いた。オラフが王に選ばれた主たる理由は、ヌーミネックスというドラゴンを退治したことで得た名声であり、仁徳や政治的手腕を見込まれてのことではまったくなかった。隻眼のオラフによる治世は、ノルドの間で大きな争いと分断が起きたことによって特徴づけられる。オラフがボルガス同様に明確な世継ぎを残さず死んだとき、上級王を選出するための新たな手続きを導入することが決まった。

かくして、スカイリムの各要塞から1人ずつ選出された魔術師たちが一堂に会する。目的は、上級王の有力候補の適格性をテストする魔法のアーティファクトを作製することだった。この時彼らが創り出したのが「認証の王冠」である。王冠の形をしたアーティファクトの作成は革新的なアイデアだった。というのも、「尖った王冠」が失われてから、オラフは一目でそれとわかる王権の象徴を身に着けなかったからだ。この新しい王冠が、比較的不安定だったオラフの治世後、新王の元で国がまとまる助けになるだろう。そう魔術師たちは感じた。この王冠が作製されたタイミングは、吉兆だったと言える。

さて、ムートは氷砕きのアサーンという族長を次期スカイリム上級王に選出する。アサーンはドラゴンを倒したことこそなかったものの、隻眼のオラフ同様、武勇無双の戦士だった。しかし、即位する前に、アサーンは完成間もない「認証の王冠」を被る必要があった。このアーティファクトが持つ、本当の力が明らかになったのはその時である。

王冠はアサーンを拒絶した。文字通り、彼の頭に載せられることを拒んだのである。激怒したアサーンは忠実な支持者たちを呼び集めて周りを固め、もし自分を正統な王として認めなければ皆殺しにしてやるとムートに迫った。アサーンとしては、王冠ごときに否定される気は毛頭なかったのである。すると、ムートのメンバーに名を連ねる語り口の穏やかな男が椅子から立ち上がった。彼は法に則り、アサーンに戦いを挑む。勝負は短時間で決着がついた。アサーンは打ち倒された。語り口の穏やかなその男が王冠を手に取り、難なく自分の頭の上に載せた瞬間、スカイリムの新しい上級王が誕生した。これが、「白のジョリック」が王位に登ったいきさつである。

以来今日まで、フレイディスの王冠は上級王から上級王へと受け継がれてきている。この王冠は上級王の候補について、それが誰であるかにかかわらず、ムートが適格性を確かめるために使われている。アサーンが倒されてからというものの、王冠の正当性やその力に疑義を唱える者は誰もいなかった。第二紀の431年、レマン帝国が四分五裂し、ログロルフ王が暗殺されるまでは。

ログロルフの娘フレイディスは庶子であり、したがって王位継承者はムートによって選ばれなければならない。ソリチュードのスヴァートル首長がそう主張したのである。「認証の王冠」を被ったフレイディスがウィンドヘルムで上級女王に指名されていたにもかかわらず、ソリチュードで開かれた不公正なムートはスヴァートルを上級王に選出する。それ以降、西王国はスヴァートルとその後継者たちによって統べられ、東王国は「認証の王冠」という呼称を自らの名を冠したものに改めた、フレイディスの跡継ぎたちによって治められた。

巨人のすべてAll About Giants

第二紀569年、スカイリムの巨人族の観察記録。放浪者ボノリオンの日記より

イーストマーチとリフトの雪深い辺境を探索したとき、私はスカイリムの原住民たちが「巨人」と呼ぶ風変わりで図体の大きな人々を観察する機会に恵まれた。スカイリムの原住民からして大柄だが、雪に覆われた原野を放浪する巨人の身長は、猪首で肩幅の広いノルドの平均身長の2倍(もしくはそれ以上!)もある。ここに、私が観察の結果知り得たことをいくらか書き記しておきたいと思う。将来この寒冷な地を旅する人々の役に立てば何よりだ。

巨人は背が高い

巨人たちは見たところ、いたっておとなしい。ただし、怖がらせれば話は別だ。そうなると彼らは巨大な棍棒を振りまわし、筋骨たくましいノルドさえ野や川の向こうまでぶっ飛ばしてしまう。これをやられたノルドは十中八九助からない。もっとも、巨人の全力攻撃を浴びて命を取り留めた者の話を聞けた試しがないから、あくまでも私の推測に過ぎないが。

巨人を怖がらせる行動としては、次のようなものがある。ただし、これらに限るわけではない。
 側に近づく。
 マンモスに手を出す。
 矢を射かける。

私が話を聞いた人々の中に、巨人の女性や子供を見たという者はいなかった。巨人は子供でもボズマーより背が高いのだろうか?また、巨人の女性はひどく内気ではにかみ屋なのだろうか?この件については、さらなる観察が必要だ。

巨人は野営地近くの岩や木に絵を描く。この原始的な芸術は、希少な女性の巨人が近くを通りかかった際、誘い込むためのものかもしれない。あるいは、縄張りを示す印か。それとも、たんに絵を描くのが好きなだけかも。その辺りを見極めるには、さらなる調査が必要だ。

巨人はどうやっいぇマンモスの乳を搾るか?答えはおっかなびっくり搾る(注:ノルドはこのジョークがお気に入りだ。ハチミツ酒を何杯か飲んだ後は特に)。

話を聞いたノルドのなかに、マンモスチーズを口にしたことのある者はいなかった。別段食べてみたいとも思わないらしい。

何とかしてあの図体の大きな種族と親しくなる手立てを見つけなければ。あのすばらしく香り高いチーズをひとかけらでも手に入れるには、それしか思いつかない。

第二紀571年に記された博識家ジェゴードのメモ

ウッドエルフのボノリオンはクレイドルクラッシュと呼ばれる一帯にほど近い、大きな丘のふもとで見つかった。全身の骨が砕けていたという遺体の状態からして、どうやら彼は自分自身の戒めを無視したらしい。ノルドならどんなに血の巡りが悪い子供でも、巨人に近づかないだけの分別はあるというのに。ところで、ボノリオンの亡骸が見つかった場所にいちばん近い巨人族の野営地でも、1リーグ近く離れている。これに鑑みるに、ウッドエルフは巨人の棍棒で飛ばされれば、相当な距離を飛べるということが言えるかもしれない。

私は彼の日誌を回収し、保管しておいた。イーストマーチやリフトといった、巨人が住む地域を探索しようという者の役に立つかもしれないからだ。とにかく、巨人と親しくなろうなどとはゆめゆめ考えないこと。これは、たとえ筆者自身がなおざりにしたとしても、肝に銘じるべき教訓だ。

兄弟の戦争The Brothers’ War

アカヴィリの襲来が最高潮に達していた第二紀572年、ナルンヒルデ姫の双子の弟、スカルド王子ジョルンと強健王子フィルジョア(面と向かって口にされることこそなかったが、「癇癪王子」とも)はそれぞれ、まったく違う場所にいた。ジョルンは最も近しい仲間である「吟遊詩人団」とリフテンに、フィルジョアはスカイリムの北東沿岸で、姉と共にディル・カマルのアカヴィリを迎え撃っていた。アカヴィリがウィンドヘルムに迫るなか、ジョルンとその仲間たちも急ぎこの名高いノルドの都市を目指した。

一方フィルジョアは、沿岸部の支配を巡る攻防戦が激しくなるにつれ、武勇はもちろんのこと、天井知らずの怒りを何度も繰り返し示した。彼にも「ストームフィスト旅団」と呼ばれる側近集団があり、しばしばこれを率いて戦った。ストームフィスト・クランのメンバーで構成されるこの旅団は、フィルジョアの巡礼と成人の試練に付き従い、共に戦うことで強健王子に尽くしてきたのだった。

それぞれの側近集団を従えてウィンドヘルムに到着したジョルンとフィルジョアが目にしたのは、都市の城門が破られ、大きな突破口を開けられる光景だった。双子の兄弟はどちらも雄々しく戦ったが、都市の陥落もマブジャールンとナルンヒルデ(別名「短命女王」)の両女王の死も防ぐことはできなかった。二代の女王は宮殿と愛する民を守りながら命を落としたのである。双子の兄弟は、何年も疎遠だったにもかかわらず、血のつながった者同士で意気投合し、侵略者を撃退するために力を合わせて戦った。ジョルンがダークエルフと手を組んだこと、そして意外にもアルゴニアンが加勢してくれたことにより、アカヴィリの野望はついに潰えた。

ジョルンと配下の兵がウィンドヘルムに戻ると、フィルジョアが姉の後継者に名乗りをあげる。危機が去った今こそ潮時だと、そう強健王子は考えたのだ。彼はジョルンがおとなしく従うものとばかり思っていた。それまでも、フィルジョアの怒りと抑えきれない情熱の前に、ジョルンは大抵そうしてきたからだ。ところが、予想に反してジョルンは異を唱えた。スカルド王子は「スカルド王」になることを決意したのである。というのも、彼はフィルジョアの情熱がどういった性質のものか分かっていたからだ。確かに、戦を共に戦う味方としては頼もしい。しかし、民を導く指導者としてはどうだろう?本音を言えば、ジョルンは王位になど就きたくなかった。しかし、そうも言っていられない。フィルジョアが民にとって良い統治者になるとは到底思えなかったからだ。

ジョルンの反抗に怒ったフィルジョアは、ストームフィスト・クランをはじめとする自分の支持者を国中から集めた。結局のところ、彼は正真正銘のノルドの戦士であって、ジョルンのような歌い手でも学者でもないのだった。王国が内戦に突入することを危ぶんだジョルンは、フィルジョアに一騎打ちで決着をつけようと提案する。強健王子はほくそ笑んだ。吟遊詩人の兄弟など、簡単に倒せるという自負があったからだ。フィルジョアがこの提案を受け入れ、最近の歴史では最も長い3時間の幕が切って落とされた。文字通り、骨肉の果し合いが始まったのである。

双子の兄弟は、アカヴィリとの戦闘で被害を受けた宮殿の外の広場で戦った。この戦いは激しく、長く続いた。武器が切り結ばれ、受け流され、打ち合わされたと思うとまた離れ、相手に血を流させた。このままではどちらも優勢をとれないまま、疲労困憊して双方が倒れるだろうと思われたその時、ジョルンが予想外の底力を発揮した。彼は相手の武器を粉々に打ち砕くと、フィルジョアを地面に這わせ、降参するよう迫った。

他に選択肢がなかったため、フィルジョアはやむなく降参した。しかし、彼の憎しみの炎は燃え上がり、彼の怒りは吹き荒れる嵐のごとく彼の体を取り巻いた。ジョルンは心を鬼にしてフィルジョアを追放し、彼に肩入れした罪でストームフィスト・クランも罰した。フィルジョアはジョルンの名前を呪ってウィンドヘルムを離れた。スカルド王が務めに打ち込み、自らが有能で敬愛される君主であることを示している間、強健王子はダガーフォールカバナントが支配する国々に亡命したと噂された。ひょっとするといつの日か、この兄弟の骨肉の争いは再燃するかもしれない。

第二の侵略:報告Second Invasion: Reports

南中の月7日

アカヴィリの大船団が浜辺に押し寄せてくる。一部は撃退または撃沈したものの、こちらの防備をかいくぐった船のほうが多い。我が軍は前進し、浜辺を見おろす断崖の上で敵と相まみえることにした。地の利を活かす作戦だ。

見晴らしの利く崖の上から、女王は近づいてくる敵を眺め渡しておられる。ブラッドクローの獰猛さと強さを、女王は直にご覧になられるだろう!

南中の月8日

アカヴィリの船団は、沖合で錨を下ろした。恐らく我々の刃を恐れているのだろう。ならば、せいぜい船の上で飢えさせてやりましょう。私がそう申し上げると、ナルンヒルデ姫は首を振り、きっと彼らは臆病風に吹かれた訳ではなく、何か企んでいるのだとおっしゃる。私より賢くあらせられる姫のお言葉だ。私はさっそく斥候を差し向けた。敵が何か腰抜けの考えそうな策略を実行に移そうとしているのならば、その内容を突き止め、不埒な意図をくじいてくれよう。

南中の月19日

あれから1週間以上経つが、依然としてアカヴィリは攻めてこない。我が兵は落ち着きを失い、ナルンヒルデ姫も考え込んでおられる。斥候は空手で戻ってきていた。それでも、私は毎日のように斥候を出している。私に異論を唱える者などいないが、もう一度海岸沿いを哨戒してくるように命じられたときの彼らの表情を見れば、言いたいことは嫌でも分かる。

ブラッドクローは殺戮のために創設された部隊だ。待ち続けるためではない。

南中の月22日

野営地では口論やケンカが絶えなくなった。アカヴィリの船団は依然として我々の手の届かないところで待機している。海岸沿いの北と南では攻撃があったとの報告を受けた。特に南は、ダークエルフの領土までアカヴィリの攻撃が及んでいるという。よそで戦闘が起きているのに、なぜ自分たちはここでただ待っているのか。兵士たちは怪訝に思っている。そして、その怪訝な思いは怒りに変わりつつある。

目の前の船団こそが敵の主力であり、向こうは我々を誘い出そうとしているのです。女王がそう諭すと、兵士たちも頭を冷やし、短慮を慎むようになる。姫は彼らの怒りや反発をものともされない。もっと頻繁に兵士たちに語りかけてくださるとよいのだが。

南中の月26日

今日アカヴィリの船が1隻、浜に乗り上げた。夜明け前の、まだ暗い時刻だった。我が軍の兵士たちが船を取り囲み、矢が雨あられと射かけられるのを予想して身構えたか、意外にも敵の攻撃はない。今にして思えば、あれほどの大型船が浜に乗りあげること自体おかしかったのだが、兵士たちは退屈し、血に飢えていた。結局その船に仕掛けられた魔法の罠が作動し、我が方に7名の犠牲者を出した。

我が軍の兵士たちがあれほど怒りに駆られるのを、私は見たことがない。女王でさえ、なだめるのに苦労されたほどだ。アカヴィリが上陸してきたら、連中は八つ裂きにされるだろう。我々が自分の体を八つ裂きにしていなければの話だが。

南中の月29日

ダークエルフの地が蹂躙されているという報告が相次いで寄せられる。ノルドとダークエルフは本来不仲ではあるが、今度ばかりは彼らが感じているに違いない無念に共感せずにはいられない。報告で聞くかの地でのアカヴィリの狼藉ぶりに、我が軍の兵士たちは戦いへの飢えを募らせるばかりだ。

姫と話をした。今度の知らせで、ブラッドクローの鬱屈が未知の域にまで高まる恐れがあると申し上げる。王女は何もおっしゃらず、唇を一文字に結ばれただけだった。常に我々の数歩先を行っておられる姫のこと。もしや、私がまだ気づいていない何かに気づいておられるのでは?

収穫の月2日

今朝、アカヴィリが上陸してきた。ついに破壊の大波が波に打ち寄せたのだ。戦闘準備の号令が下るや、我が軍の兵士たちは冷静さを失ってしまった。彼らは闇雲に打って出、第一陣は戦列を整える間もなく敵の弓兵になぎ倒された。結局こうした無謀さの代償として我々は浜辺を失い、侵略者が我が領土に橋頭保を築くのを許す結果になった。

収穫の月3日

我々は後退を余儀なくされた。戦闘があまりに激烈なのを見かねたナルンヒルデ姫は、全軍にウィンドヘルムまで退くよう命じられたのだ。かくなる上は城壁で敵を迎え撃ち、地の利を生かして侵略者を完膚なきまでに叩きつぶしてくれよう!

収穫の月4日

この張りつめた空気。今夜にも、アカヴィリが総攻撃を仕掛けてきそうな気配だ。ナルンヒルデ姫も鎧に身を包んでおられる。ブラッドクローは姫に従うだろう。姫の命令がドラゴンの声のように聞こえるに違いない。だが、リスクは途方もなく高い。一方、双子の王子がすぐそこまで来ておられるとの知らせが届いた。戦いながらウィンドヘルムに向かっておられるという。お二人が間に合ってくださることを祈るばかりだ。

収穫の月7日

マブジャールン女王とナルンヒルデ姫は亡くなられた。ウィンドヘルムの城門が破られるのをご覧になった姫は、ブラッドクローを率いて戦いに身を投じられたのだ。彼らはかつて私が見たこともないような戦いぶりを示し、完璧な連携で暴れまわった。マブジャールン女王が討ち死にされると、皆が怒りに我を忘れそうになったが、ナルンヒルデが王冠を被られ、戦列に秩序を回復しようとされた。結局、アカヴィリは都から撤退した。向こうは我々を追い詰めたつもりかもしれないし、実際その通りだが、その結果覚醒した獣は、彼らの手におえる相手ではなかったのだ。

それでも、また彼らは戻ってきた。新女王ナルンヒルデ陛下はすでにない。本来であれば、私が配下の戦士たちを指揮し、制御できなければならなかった。死ぬべきは新女王でなく、私だったのだ。その死の責任は私にある。そのことを、双子の王子に直接説明申しあげなければ。

忍び足On Stepping Lightly

トレジャーハンターのナルシス・ドレン 著

スカイリムの土地に点在している古代ノルドの遺跡は、過去のノルド人の創造力を証明している。貴族階級の墓を建てる時、この「野蛮」と思われる人たちは、全く野蛮ではないことを証明した。我々の先祖は最も洗練されて賢い防衛策を開発していた。恐ろしいドラウグルの存在と合わせて、この墓はトレジャーハンター志望の者に相当な試練となった。

最も見落としがちなのが、墓中に展開する無数の罠だ。単純なワイヤー式落石から複雑な圧力版式ダーツトラップと幅広く、古代のノルド人はこれらの装置を多数活用した。ほとんどの罠は起動装置を探して避ければ回避できる。邪魔な物があるところによく設置されているから、床に注意したほうがいい。

ノルドの遺跡を生き残る鍵の1つが、罠を上手く使って遺跡の居住者に対して優位に立つことだ。多くの場合、起動装置の向こう側で彼らが罠にはまらないかと期待しておびき寄せるのは簡単だ。この優位はオイルトラップの時に発揮される。弓を使って犠牲者をオイルの上まで誘い出し、上にぶら下がったファイアポットに矢を放つ。ファイアポットは粉々に砕け散り、オイル溜まり全体に火がつき敵に熱い死を与える。自分がオイルのないところにいないように注意すること。さもなければ、この技で冒険が想定よりも早く終わるかもしれない。

恐らく遺跡で見つかるすべての技術で最も驚異的なのは、殺すために設計された罠がほとんどないことだ。鎖の引き方、レバー、スイッチ、圧力板をすべて活用し、苛立たしい障害がパズルとして現れて進行の邪魔をする恐れがある。これらの障壁の兆候に注意する。一ヶ所に複数のレバー、回転する柱に顔の彫刻がされていたり、大きな圧力板が部屋の床に並べてあったりする。ほとんどの場合パズルは実験でき、他の場合は遺跡のどこか別のところに答えがある。筆記用具と日誌を持っていき、見つけたあらゆるものを記録することを勧める。施設のどこかにあったものを、いつ参照しなければならなくなるか分からない。

ノルドの遺跡には通常スキーヴァーやクモなどの害虫が出没するが、ドラウグルと比べれば見劣りする。この動く恐ろしい死体はほとんどの墓にガーディアンとして発見され、無慈悲に墓を守る。ドラウグルは誰かが偶然出くわすまで休眠する傾向にあり、遭遇する狭い隙間や石棺を注意して見たほうがいい。このアンデッドは素早く静かに動くから、常に背後へ気をつける。通り過ぎた亡骸が突然動き出して、警告なしに襲いかかってくるかもしれない。

ノルドの遺跡の冒険には報酬がないわけではない。大きな建造物の埋葬室にはあらゆる財宝が入っており、金貨もあれば、魔法がかかった武器や鎧の場合もある。遺跡に点在する儀式用の骨つぼは決して無視してはならない。ほとんどが非常に価値のある古代の奉納物で満たされている。すべてではないかもしれないが、ほとんどの遺跡には大きな壁があり、魔法の碑文が書いてあるという噂があるが、まだ確認はされていない。

ノルドの遺跡について知っていることをできるだけ広範に記述したが、独自のまだ発見されていないものの中にも間違いなく危険が潜んでいる。墓に入る時は常にたくさんの装備と道具、そして頑丈な武器を持っていかなくてはならない。少しの辛抱と、鋭い眼で注意しながらそっと歩けば、ノルドの遺跡は大いなる富をもたらしてくれる。私の助言に従わなければ、多くの墓荒らしの先輩のよう、永久に閉じ込められてしまう。

夢歩きDreamwalkers

モーンホールドの学徒レイナルドによる考察

彼らは夢歩きと呼ばれている。簡単な呪文を1つ唱えるだけで、他人の夢の中に足を踏み入れることができる者たちだ。自分の最も暗い欲望、最も不埒な夢想、本当の自分自身、そういったものの一切合財が、夢歩きにかかれば開いた本のように丸裸にされる。かけがえのない思い出も、前夜の宴の残飯のように漁られ、丹念に改められてしまうのだ。

夢を歩く者たちは、デイドラ公ヴァルミーナに忠誠を誓っていると言われる。ヴァルミーナが支配する次元「夢中の歩み」に入る能力を得るため、魂を売り渡したのだ、と。この説の真偽を云々することは私の手に余る。ただ、夢歩きの技とヴァルミーナの司祭が行う秘蹟は、気味が悪いほど似通っている。

私が確認できたのは、夢の状態への入り方が違うということだけだ。ヴァルミーナの司祭は錬金術の調合薬を一滴だけ必要とする。最も優れた錬金術師の手で用意された水薬だ。これに対して夢歩きは、そういった薬を必要としない。その代わりに魔法を使うのだが、それは誰に教わったわけでも、何らかの相続手続きによって譲り渡されたわけでもない。純粋に天与のものに思える。彼らはデイドラ公の祝福を受けたのだろうか?それとも、彼らの両親が生まれてくる子供にこの力を授けようと、何らかの秘儀を執り行ったのだろうか?誰に聞いても本当のところはあやふやだし、人によっても言うことが違う。

しかし、夢歩き自身はどうなのだろうか。彼らは何のためにこの力を使うのだろう?想像してほしい。他人の夢に侵入することで、どんな大混乱が起こりうるか。考えただけで恐ろしくなる。

それでも、私が会った夢歩きたちは、みな親切で優しかった。彼らは他人を助けるために自分たちの力を使う。苦い記憶を消し、最も優秀な治癒師でさえ癒せない精神の病気を治す。単に相手の夢に触れるだけで、信じられないような奇跡を起こすのだ。なぜ私にそんなことが分かるのかというと、夢歩きがその力を使うところを、実際にこの目で見たからだ。

私の妻と子供たちはナハテン風邪を患った。さんざん苦しんだすえ死に至る、恐ろしい病だ。妻子をなくすと同時に、私は生きる意味も失った。ところが、そんな私をある夢歩きが憐れみ、チャンスをくれた。家族を失う苦しみを忘れ、家族を思い出すチャンスを。喪失の痛みから解放され、病気にかかる前の家族を思い出すチャンスを。幸せと愛を思い出すチャンスを。

その夢歩きは私の夢の中に入ってきた。目覚めると、私は穏やかな気持ちで満たされていた。何もかも大丈夫だという安堵。この先の人生を生きていけるという自信。私は礼をしたかったが、夢歩きはすでにいなかった。彼にはそれっきり会っていない。

夢歩きの正体がなんであれ、また彼らが結局のところ誰に仕えているのであれ、私は恩義を忘れないだろう。もっとも、だからといって、私の心の底にわだかまる恐れが消えるわけではない。はたして苦しみを取り除いてもらったことは正しかったのだろうか?記憶こそが、我々を唯一無二の存在たらしめているものではないのか?記憶が改変されてしまった私は、要するに別の誰かになってしまったのではないのか?これではまるで、苦悩の後釜に恐怖が居座ったかのようだ。はたしてどちらが良かったのか、私には分からない。