ダンジョン探検家の文書

Dungeon Delver Documents

アークマギスター・マヴォンの昇格Archmagister Mavon’s Ascension

ナーディル・アレサン 著

有名な事例はいくつか存在するものの、パレオニミックや、何らかのニミックの力に完全に束縛されているデイドラは少数である。それはデイドラが自分たちのニミックをどこかに記録することや、定命の者、あるいは他のデイドラにニミックを知られるのを許すことが滅多にないからである。ここに記す内容は、アークマギスター・マヴォン・ウレスの経歴に関して、最近発見されたミシッサの没収されたノートに基づいて付け加えられた推測である。直接の引用はこの文献に依拠しているが、推測は私によるものである。

第二紀210年、賢者マヴォン・ウレスは計り知れない力を秘めるとされるある呪文を唱えた。それによりアークマギスターとしての彼の地位が確立され、その称号は賢者ヴァロナ・ギスラーノによって奪われるまでほぼ十年の間続いた。その呪文は下級デイドラ1体を召喚し、それを束縛して賢者マヴォンに従わせた。この種の呪文はこれ以前にもインプやスキャンプに対して用いられていたが、スカーフィンやその他の等級のデイドラに対して試みた者はいなかった。これこそが、アークマギスター・マヴォンの呪文を特別かつ強大なものにしていたのである。

アークマギスター・マヴォンは記録をほとんど残さなかったことで知られている。このせいで彼は同時代に生きた賢者たち――すなわち、彼の魔術の秘訣を盗んで利用したがる者たち――からも、文書によって過去を保全しようとする歴史家たちからも、広く不興を買っている。それに対し、彼の呪文によって束縛されたスカーフィン、ミシッサは、マヴォンに対する憎悪を顕著かつ詳細に表明した。彼女は賢者マヴォンとの生活を詳述したが、その文書を検討しても、他の魔術師にとって有用なものは何も見つからない。ミシッサが書いた本のほとんどは、彼女のような状況に置かれたデイドラが言いそうな侮辱や脅迫で満たされている。とはいえある一節は、アークマギスター・マヴォンがミシッサを束縛した呪文をいかに完成させたかについての示唆を与えている。

「奴が真に後悔を知る生物のように、狡猾な策略によって私の名を勝ち取ったのなら、問題はなかった。だが奴はニコットを拒絶し、私の名を見つけた。あの間抜けな定命の者は、自分を魔術の神だとでも思っているのか?愚かな!犬の尻尾にさえ、奴以上の魔力がある!奴が死んだら、その無価値な死骸の上にこの領域の虫やミミズを呼び寄せ、食い破らせてやる」

ミシッサが言及している名とは、彼女のパレオニミックだと思われる。アークマギスター・マヴォンがどういう手段を使ってか、デイドラのパレオニミックを見つけたとすれば、スカーフィンを下僕に変えた由来も、これまでに考えられていたほど謎ではなくなる。このことは、ミシッサがマヴォンの秘密を書き記さなかったことの説明にもなる。彼女を束縛していた呪文は、マヴォンの魔術研究に対する直接の妨害を禁じていた可能性が高いからだ。それはミシッサにとっても好都合なはずである。そうなれば彼女のパレオニミックも、彼女を賢者マヴォンに仕えさせた儀式も記録に残らないのだから。

ミシッサの存在と、賢者マヴォンに対する彼女の従属はこれまで、数多くの推測の対象となってきた。アークマギスター・マヴォンの昇格の時期にいた他の賢者たちは、マヴォン以外の者は誰も影響を受けなかったのに、彼の魔力だけが突然大幅に向上したことに気づいた。彼はオブリビオンについて深い知識を持つようになったため、デイドラか何かと契約を結んだのだろうと考える者もいたほどである。しかし、スカーフィンの援助または助言を受けていると推測する者はいなかった。

アークマギスター・マヴォンを始末するための詳細な計画を記した何冊もの本から、現在我々が知っていることを総合するなら、ミシッサはアークマギスター・マヴォンの失墜に関与していたと思われる。これまでは賢者デュベレ・ディルミンが友好的態度と新たな錬金術素材の共有を約束してマヴォンの塔に侵入したと考えられていた。現在の仮説では、ミシッサが主人の注意を逸らし、扉を完全に施錠しないように仕向けたと思われる(殺しの計画その534)。

アークマギスター・マヴォンが失踪した後――というのも彼は実際に姿を消したからだが、ミシッサが宣告したようにミミズに喰われたのかもしれない――ミシッサがどうなったかは知られていない。私の推測では、アークマギスター・マヴォンに仕える生活が終わった後、彼女は手早く自分のパレオニミックの痕跡を始末し、この次元を去った。呪文についての記録も、アークマギスター・マヴォンが何らかの呪文作成に貢献したというメモも一切残っていないことはこれで説明がつく。

私としては、アークマギスター・マヴォンの失墜がニミックを利用してデイドラを閉じ込め、支配することへの警鐘だと言いたいところだが、ミシッサに関する文書記録を考えると、十分なことはわかっていないというのが実情である。しかしミシッサもこう記している、「自分に扱えない物事に手を出すな。それが名の力であればなおさらだ」と。

イズモサールの力Izzmothar’s Power

(焼け焦げた紙切れ。第一紀503年にまで遡る、ほとんど読めない走り書き)

イズモサールはとてもいいことをする。感動。紙に書く手段を探す、燃えない紙を。見たか?感動だ。イズモサールは炎のスキャンプを呼んで沢山燃やすが、それはいいことだ。デッドランドもたくさん燃やしている。イズモサールはさらに燃やす。イズモサールは貢献している。

イズモサールはもっといいことをする。炎のスキャンプだけに指揮させる。ルールを決めさせる。脳のないショークや精霊には掟を与える。頭が棘のドレモラが言うように「メエルーンズ・デイゴンの名誉のため」だ。イズモサールは知っている。イズモサールはよく聞いている。

イズモサールは定命の者が悪口を言うのを知っている。メエルーンズ・デイゴンには力がない。棘頭のドレモラに力がない。イズモサールには力がないと。イズモサールは精霊を率いている。イズモサールにはすごい力がある。

イズモサールは定命の者に見せたい。イズモサールはニルンに行って、精霊とショークを取ってくる。イズモサールは炎の精霊に乗りたい。精霊は背が高い。イズモサールも背が高くなりたい。

棘頭のドレモラは言う。「イズモサール、殺せ。定命の者にメエルーンズ・デイゴンの力を見せろ」と。イズモサールは笑う。イズモサールは見せている。言われなくても。

イズモサールは「潰せ」と言う。炎の精霊は潰す。イズモサールは「殺せ」と言う。炎のショークは殺す。イズモサールはとても大きくていいことをする。イズモサールは「燃えろ」と言う。炎だらけになる。家は燃える。定命の者が叫ぶ。定命の者が叫んで燃える。多くの破壊。多くの死と苦痛。定命の者の苦痛は笑える。

イズモサールは満足しない。もっとやりたい。火で溶けない鋭い石を見つける。イズモサールは石を拾う。イズモサールは燃えて叫ぶ定命の抜け殻を見つける。叫ぶ定命の殻はイズモサールに「お慈悲を」と言う。イズモサールは「お慈悲」を知らない。イズモサールは石で定命の口の筋肉を切る。定命の者はもう大きな言葉を言わない。イズモサールは定命の口の筋肉をショークに放り、ショークが燃えるのを見る。定命の者は叫ぶ。だがイズモサールは忘れない。イズモサールは火の手を定命の者の顔に置いて、定命の者が抜け殻に変わるのを見る。

イズモサールは定命の者のところに留まる。家が燃えるのを見る。デッドランドのような匂いがするのを待つ。そしてイズモサールは紙を探す。イズモサールは記録する。イズモサールの力を。メエルーンズ・デイゴンの力を。

定命の者には力がない。

ウィンドウィーパーの森の伐採The Felling of Windweaper’s Grove

アリゼ・ジュスタル騎士長の命令、および第一紀2907年の布告により、我らはここにウィンドウィーパーの森から、有害と無害を問わずすべての自然を排除せよとの使命を与えられた。

この日よりいかなる樹木もラーチャーも、昆虫やリスといった根の間を這う生物も、我らの建設現場を邪魔することはなくなるだろう。ウィンドウィーパーの森が現在あるところには、進歩と文明の流れがもたらされる。アアリゼ・ジュスタル騎士長はスプリガンによって守られた聖なる森を称えるアーケイの聖堂と、我らが偉大なる街を守るため拡大を続ける民兵用の兵舎の建設を依頼した。

ゼニタールの名において、我々の労働が実りを結び、労力が報われますよう。
アーケイが彼の名において建造される、我らが聖堂を受け入れてくださるよう。
そして何より、アカトシュが我らの労働を速やかに完成へ導いてくださいますよう。

スナシュラグの約束Snushularg’s Promise

よし、蛾ほどの脳みそしかないお前らノミだらけの本の虫どもの中で、アビサル・セファリアークの所有物を汚すためわざわざアポクリファに来た奴はどいつだ?余白にコメントを書くとは、敬意というものがないのか?礼儀は?文章に少しでも関係のあることが書いてあったならまだしも、そうでない以上この冒涜には何の意味もないわけだ。

俺の計算によれば、被害状況は以下だ。下線が引かれた作品が35冊、言葉を囲んである作品が157冊、言葉がこすられて読めなくなっている作品が8冊、それから余白に落書きしてある本が全部で1,256冊――さらに「嘘つき」と繰り返し書かれている本が495冊だ。お前らが誰から基本的礼節を教わったのかは知らんが、授業をすっぽかしたのは確かなようだな。

運よくお前らを見つけだせたら、もう二度と筆記用具を持てないようにしてやる。お前らは権利を失った。アポクリファの蔵書庫を冒涜したんだ。俺より先にラーカーに見つかることを祈るんだな。

――解読者スナシャラーグ

チューターのリパリウスのリストTutor Riparius’s List

クランフィアが鈍すぎる。アリーナの挑戦者用にもっと血がたぎるような対戦相手を用意するようファーヌイヘンが望んでいる。整備のためにドワーフ・スフィアの部品の確認が必要かもしれない。既存の記録を念入りに調べて一番効率のいい方法を探そう。ファーヌイヘンは待たされるのが嫌いだ。

オーガに戦術を教えられるなら、ファーヌイヘンは見たがるだろう。オーガの大部隊の計画を立てているが、オーガが隊形の維持を覚えられなくては絶対に実現できない。

挑戦者が入る前に、アリーナの螺旋の影の蜘蛛の巣を撤去するようファーヌイヘンに伝えなければ。蜘蛛の巣がありすぎると有望な挑戦者さえ命を落とすことになる。

ファーヌイヘンがアリーナの挑戦を修復するために必要な未使用のクリエイシアを探している。ファウンデーション・コア のことを伝える前に、十分なクリエイシアが残っているかどうか確認しておこう。あるじからどの程度の修復が必要だと考えているか聞いていない。

誰かが男爵の広間にある洗浄用水槽の水が交換されているかどうか気を配らないといけない。植物は想像以上に花粉を排出していて、洗浄用水槽の水は以前ほど澄んでいない。この仕事は私がやる羽目になりそうだ。

ニボルウェンの日記Niborwen’s Journal

黒手袋を迎え入れたかった。彼は関心がありそうだった。でも、アラドロスが私を側に置く選択をしたことに文句は言えない。それは彼がレセルロスの狼の群れより私の能力と戦略のほうに価値を見出していることを明確に意味するからだ。もしかしたらアラドロスは、オーススウォーンへの襲撃計画に感心したのかもしれない。何しろ私の提案だし。大きな声では言えないが、私は聡明だ。計画は大成功だった!訓練所は我々の制御下にある。

オーススウォーンの入門者は大部分が死んで、我々は有能な戦士を大儀に引き込むために時間を費やしている。まだ誰も説得できていないようだが、それは対話をしているのが私ではないからだ。

私の責務はアラドロスの側にある。それはわかってる。だからどれだけ黒手袋に挑んで彼を回想者に加えたかろうと、アラドロスを見捨てたりはしない。真実を見せてくれたのは彼なのだから。彼のおかげで目が開き、この次元の穴を見ることができた。そしてその穴は我々が修復する。回想者は忘れられたものを取り戻す!

ニボルウェン

ビックス・ムズの最後の記述The Last Addition of Bikkus-Muz

私がこの書架に貢献できるのはこれが最後になるかもしれないし、その名誉を得られるかさえ定かではない。揚げ触手のスープの批判が文字通り最後の記述になったら、ビックス・ムズの名がすたる!

今目の前で起きているのに、それでも信じがたい。本が勝手に落ちて、開かれている。これだけなら大したことではない。アポクリファの本がしばしば自律的に行動することは知られている――だが、インクがページから立ち昇ってくるのが見えるのだ。インクは最初、読めそうな形をしていたが、すぐに流れ出して集まり、球体になった。トームシェルが本から出てくるのと似ているが、トームシェルの姿は見えない。インクの球体は伸びて形を歪ませている。あれは動き、本の上高くまで昇り、全方位に黒い液体を放出し始めている。液体は地面に溜まり、しばらく動かずにいたが、形になりつつある。

運命のページよ!あの形――影と呼ぶべきかもしれないが――あれは完全な生命体だ。インクで出来た、定命の者や怪物。独立して動くことができるのだ。奴らの皮膚から黒さが消えている。本は生物を具現化した。私は言葉が歩くのを目にしているのだ。

私は離れているので、奴らが話し、音を立てるのは聞こえてこないが、そのほうがいい。あの獣は邪悪な感じがする。あってはならないことが起きているのだ。言葉が文字通り生命を得るなんて喜ばしいことだと最初は思った。無味乾燥な歴史文書が読むまでもなく出てきてくれるのなら、目が疲れることもないだろうと。だが私は隠れ場所で恐怖に凍りついている。

あの生物たちが私を見つけたら、何をされるかわからない。私の知っていることが目の前で変化した今、私は何よりも未知のものを恐れている。ただ死ぬだけならまだ幸福だ。この全身を焼かれるような恐怖も、それで終わりを迎えるのだから。

ファーヌイヘンのメモFa-Nuit-Hen’s Note

未来のファーヌイヘンへ:

鍵を必要としない錠前を依頼する時は、暗記もいらないものにするよう明確に指定すること。私はどんな戦士からも命を奪う能力はたくさん持っているが、暗記はその中に入っていない。

では、明確に紙に記すことなく何が鍵なのかを思い出すにはどうしたらいい?もちろんこれは答えを求めない問いだ。私はこれを将来の啓発のために書いている。これはヒントだ!

このパズルのヒントは、線のうち2本を無効にして、3個の四角を残すことだ。

現在のファーヌイヘン

ファーヌイヘンの2つ目のメモFa-Nuit-Hen’s Second Note

退屈したファーヌイヘン

こういったヒントを考えるのは、私のアリーナを作る工程と似ていなくもない。簡単だ!少なくとも、そこまで困難ではない。今と未来の自分にとってもっと難しくするにはどうしたらいいだろう?答えをあいまいにしてやりがいを与える?うん、悪くなさそうだ。

この錠に必要なのは、2本の線を無効にして2個の四角を残すこと。

これで私は未来、戻った時に少しばかり考え込むことになるぞ!

ファーヌイヘンの3つ目のメモFa-Nuit-Hen’s Third Note

この錠前は素晴らしい!まさに技術と知恵による作品だ。私がこのヒントを必要としなければ、残しておく必要もなかった。障壁の解除に必要な暗号を解読するのは私ぐらいのものだろう!

中の小物を使えるように、この鍵はやや簡単にした。3本の線を無効にして四角を4個残すこと。

ファエナリルの手紙Faenalir’s Letter

大好きな兄さん。

もう書くのはやめると約束したけど、こうやって伝えたいことを書き連ねていると、兄さんを失った痛みがやわらぐことに気づいた。

きっと喜んでくれると思うけど、アラドロスが私を庇護下に置いて、オーススウォーンの指導者であるダルズシュ・フォージファイアを説得して仲間にするという仕事を任せてくれた。オーススウォーンについては言いたいこともあるだろうけど、強い信念を持ってるのは確かだよね。彼女が私と同じように、ニルンを蝕む空虚さを感じていればいいなと思ってた。何かがあるはずなのに何もない、痛みを伴うぽっかりと空いた穴を。彼女は感じてた。驚いたし、一瞬希望があるかと勘違いしてしまった。でも、その感覚との付き合い方は私とは違ってた。彼女はそれをモーロッチの拳と呼んでいた。あのオークたちは自分たちへの慰めが、すべてあの除け者の戦士神から与えられると思ってる。

彼女の説得が一度の対話で済むはずがないことは承知しておくべきだった。私は別の手法を試した。アンセルミルによる愛する相手への拷問、レセルロスによる仲間との絆の利用。結局、残ったのは死んだオークたちと負傷した鍛冶頭だけだった。鍛冶のロッジにこもり、訓練場の熱を使ってダルズシュを回想者に転向させようとしたけど、あのオークは頑固そのものだった。彼女は鍛冶場の中で水もないのに想定した限界を超えて生き長らえ、しかも水入りフラスコを持つ私を嘲る力まで残していた。

オーススウォーンは見たことのないような熱情をもって私たちと戦った。誤解しないでほしいけど、オーススウォーンは評判ほど恐ろしくはない。でもすごく頑固よ。私は彼らの目の前で数えきれないほどの仲間を殺し、死体を焼いた。それでもオーススウォーンは転向を拒否する。どうしたら私たちの大義に同調させられる?アラドロスに考えがあるといいんだけど。じゃないとここでの収穫は、1本の杖とオークの死体の山だけということになる。

もうあまり期待はしていない。アラドロスが口を開くたびに、ダルズシュ・フォージファイアを殺せと指示されるような気がしてしまう。正直言って、自分がその指示を恐れてるのか歓迎するのかわからない。いずれにしても、訓練場に長居はしないでしょう。

それじゃ、また
ファエナリル

ブルワラ船長の記録Captain Burwarah’s Records

第二紀304年、アビシアン海

船員の数がこの勢いで減っていけば、俺たちの呪われた航海を生き延びるのはこの記録だけになってしまうかもしれない。トゥワッカよ、そのような運命を避ける力を授けたまえ。

俺の船で起きた事件について書くのを何日もサボっていたので、主な出来事をおさらいしておく。

俺たちはサマーセットを出発し、東の海域へと向かった。強烈な風が帆を満たしたため、航路の計算によればケフレムへの上陸は1週間早まる予定になった。乗組員たちは喜んだ。長い間海上にいたし、皆また慣れ親しんだ海域に戻りたがっていたからだ。太陽は高く、見張り台からは他の船も、嵐も見えなかった。すべては静かで、のんびりとしていた。俺たちはターヴァの好意にあずかったらしい。その時はそう思った。

ある朝目を覚ますと、俺たちはぴったりと台風の目の中に閉じ込められていた。どの方向を見ても、1リーグもの距離が黒雲と荒れた海で覆われていた。だが俺たちは無風で波もない、晴れ渡った空間の中に収まっていた。最初、俺たちはシーエルフの襲撃だと思った。乗組員は三日三晩の間、武装して戦いに備えた。交替で眠ったが、ほとんど休めなかった。嵐の雲を突き抜けて船が現れることも、俺たちの船の帆に風が当たることもないとわかると、今度はデイドラに目をつけられたのではないかと思うようになった。だが食糧は日々減り続けていたし、餓死を待つわけにもいかない。俺は手の空いている者たちにオールを漕ぐよう命じた。風がストロス・エムカイまで連れて行ってくれないのなら、俺たちの手で行くしかない。それが俺の過ちだった。

最初のオールが静かな水を貫いた瞬間、海は荒れ狂った。水面が乱れて弾け、百匹ものシー・アダーを放出した。シー・アダーの分厚い蛇の胴体が甲板に飛び込んできた。手にオールを持っていた者たちが一番大きな被害を受けた。オールは長すぎて戦いには向かなかったからだ。甲板下でシーエルフ監視のシフトを終えて休んでいた者たちは、体制を整える間もなく階段でアダーに襲われた。俺たちは何とかアダーを片づけたが、大量の犠牲者を出した。海は再び静かになり、甲板長はまだ碧落の岸へ行っていない者たちの手当てをするため、1日休息を取ることを命じた。

その夜は甲板下から聞こえる苦痛の歌で満たされ、なかなか休めなかった。しかし曇り空の朝を迎えると、大きな歓声が上がった。空には太陽が昇り、それと共に風も出てきた。ついに俺たちを閉じ込めていた静止は消え、帆は痛めつけられた船員たちを呪われた海域から運び去った。

これで俺たちの苦難も終わったと思った。だが風は戻ってきたものの、嵐は消えていなかった。俺たちは嵐のど真ん中を航海することになり、目に見えて数の減った船員たちを従えて、俺がこれまで不幸にも体験した中で最悪のスコールと戦う羽目になった。

熟練の船員が2人、雲の中から現れたインプの手に押されて船から落ちた。彼らの叫び声は波の下に消え、俺たちは嵐とインプの両方から必死で身を守った。インプの群れが襲いかかる中、武器を取れとの命令の声が方々から上がり、勇敢な乗組員たちは持ち場を守った。俺たちはかろうじて船を守ることに成功し、インプたちは退却した。

俺たちは歓声を上げ、それに劣らぬ熱意で周囲の雲を罵りつつ、これ以上の襲撃者が現れないことを祈って風との戦いに集中した。見える限りでは敵の姿はなかったが、嵐の攻撃はまだ続いた。俺たちが一瞬油断したその時、稲妻が落ちてきた。これまでに見たこともない、渦を巻く稲妻だった。威圧的な巨体が目の前に現れて、乗組員たちは恐怖の叫び声を発した。石と嵐の獣が、俺たちの船に凄まじい力をぶつけてきたのだ。

だが、奴らから逃げる手段はなかった。俺の船は速いが、風より速くは走れない。甲板は滑らかだが、稲妻は跳ね返せない。俺たちは船をバラバラにされないよう必死に戦った。それで精一杯だったのだ。そうして、生き残った半数の勇敢な船員は、雷に命を奪われるまで持ち場を守り、仕事を果たした。

俺は広い海でも最低の船長だった。たったの2日で、俺は見たこともない怪物を相手に船員の半数以上を失ったのだ。襲撃を受けるたび、俺は船員たちを守ろうと焦ったが、何もできなかった。どうやって精霊たちから逃れたのかわからない。どこを航海したか、どうやって船を動かしたのかもわからない。ただ運がよかっただけだ。精霊どもがいなくなったのはトゥワッカの祝福だが、俺たちの旅がまだ終わっていないことは呪いだ。

俺たちの船と安全なサマーセットとの距離を乗り越えるのは不可能に感じる。俺たちの旅路は海と空に呪われている。通らねばならない海域から敵が出現し、今もこの数日の間に、大切な船員たちが苦痛に倒れている。

俺たちの物語がどう記憶されることになるかはわからないが、この記録は俺たちよりも長生きするだろう。もし神々の祝福があって、俺たちも生き延びられたら、俺はかつて愛した海を離れるつもりだ。海は俺を裏切った。ターヴァよ、我らを家へ導きたまえ。でなければ速やかな最期を与えたまえ。

マエロロルの年代記Maerolor’s Chronicle

アンセルミルはずっとあのコンストラクトで私を押しつぶそうとしている。普段ならこんなことは気にならないのだが、今はやるべき仕事が多いのでとてもうっとうしく感じる。多分彼女に優しくすべきなのだろう。彼女の熱意は私が一番気に入っている部分でもあるし。だが、すでにオーススウォーンへの侵攻が始まっている。あの育ち過ぎた木で私を殺そうとする暇があるなら、もっと自分の任務に集中してもいいのではないだろうか。

私たちは決して型どおりの組み合わせではない。ほとんどの人は自分のパートナーに命を狙われたら不快に思うだろう。だがアンセルミルの場合は、それが情熱の証だ。彼女は私と私の身に起きることをとても気に掛けている。それに、明確な不快感の伝え方を見つけてくれたことにも本当に感謝している。

アラドロスが私を側に置き、アンセルミルに斧のロッジを任せた理由を私は理解できているか?いや、できていない。それに正直言うと、アンセルミルが私に対してあんなにも厳しい態度をとることにも驚いている。彼女は斧のロッジを試し、我々に加わる価値がある者がいるかどうかを確かめたくてたまらないのだと思っていた。だが違う。アクスボーン・クルガを粉砕するという考えさえ、私の最愛の人を喜ばせることはできなかった。

自分が簡単には殺せない者で本当によかった。

マエロロル

マルケストの日記Malkhest’s Journal

アポクリファ大蔵書庫の一区画でしかないとはいえ、果てしなき保管庫は常に謎に満ちた迷宮だった。混乱の源であり、変化し続けるこの領域の性質に適応していない者にとっては罠でもある。保管庫の広大な空間内に散在するそれぞれの場所は、互いに大きく異なるように見えるが、それらを繋ぐ通路を気づかないうちに通ってしまうことが多いため、入口へ戻ることはほとんど不可能になっている。

モラの書記たちは裂け目を最後に訪れた時、果てしなき保管庫のねじ曲がった道を地図にしようと試みた。彼らはこの場所の内的構造の理解へ向けていくらかの成果を挙げたが、全体を地図に記す前に彼らの裂け目は閉じ始めた。彼らのうちの幾人かは、未だに回廊をさまよっているかもしれない。

以上から言えるのは、ここが恐るべき場所だということだ。最近、保管庫はかつてないほど乱雑さを増していると感じる。私は最近の調査旅行の時、書記たちの地図を携えて奥地まで進んだ。保管庫にある無数の区画を結ぶ門のどれ一つとして、地図には合致していなかった――以前にはなかったことである。これは私の経験的な推測にも一致している。果てしなき保管庫内の場所がひとりでに位置を変えるというのは言い過ぎかもしれないが、ある程度はそれが現実に起きているのではないだろうか。より正確には、各地の間に新しい連結を作り出す、超自然的な扉が存在するのだと思われる。比喩的に言うならば、保管庫の棟同士を結んでいる扉がランダムに開き、施錠されている。それに加えて大工たちが設計図を変えたり、新しい別館を作ったりしているのだ!要するに、ここでは何か不思議なことが起きている。私はこの謎を究明したい。

***

今日の私の旅は純粋に学問的なものだった。保管庫に変化し続ける性質が存在することは確認したが、私はさらに姿を変える広間に対処する戦術をも考案できた。索引と整理者たちのおかげで、私は広間を通過するのに多少面倒な思いをする程度で済んだ。大成功というほどではないが、少なくともこの不可解な場所の研究を続けるという、最大の目的に再び取り掛かることができる。

今日、私は「捉えがたき旅人」という、ささいな歴史記述が記された本を探した。著者はカルニウス・ミッソニーという、これも大して重要でない人物だ。全体として、この本が果てしなき保管庫の正体についての手がかりを与えてくれるとは期待していなかった。しかし意外なことに、この本は索引の記録から消えていたのだ。

整理者ジュンが橋の近くの棟でこの本を発見したので、私は軽くページに目を通してから、長い徒歩の帰り道に着いた。本はこの辺りに散乱している大半の本と似通った内容のようだった。〈面影〉の旅についての、多少の脚色が施された歴史記述である。果てしなき保管庫に収められている本の多くは、より最近の出来事についての歴史記述のカテゴリーに属している。

さて、多くの記述は出来事の基本的な順序について意見を一致させているが、細かい内容については見解が分かれている。例えば、ある本はドラゴンのジョーラーマーが炎を吐くと述べ、別の本は毒の煙が雲となって口から吹き出されると主張する、という具合だ。これらの記述間の差異のため、真実には一定程度の曖昧さが残っている。

しかし、私は自分なりの仮説を立てている。索引のカタログに「捉えがたき旅人」』に関する情報が不思議なくらい欠けていることはすでに述べた。これまで私が出会った本の中で、情報が欠如しているものはこれが最初でない。自説を裏付けるためにまた本を探しに行くことはせず、仮説はここに記しておき、また別の機会に調査へ赴こう。私の仮説は、索引のカタログにある情報が制限されている本が、〈面影〉の歴史に関わっているというものだ。この説が正しいとしたら、それは何を意味する?そして、どうすればそうした本をすべて見つけられる?それらの本すべてを記録に収める方法が存在するはずだ。

***

私はあるものに出くわしたが、あれは幻視、それとも小次元と言うべきだろうか。いずれにせよあまりに奇妙だったので、合理的に説明することはできそうにない。

私は果てしなき保管庫へ旅立った。またしてもこの場所の歴史の調査を進めるため、ある本を探しに行ったのだ。だが今回は、ある区画の端に到達した時、1つではなく2つのポータルが出現した。私はこの場所の危険について健全な理解を有している。通ったことのある道から逸れることの危険はわかっている。今は特にそうだ。だから、自分がなぜ2つ目のポータルに足を踏み入れたのかは説明しがたい。その瞬間から、私の体験は言葉に表しがたいほど奇異なものに変わった。

私の目は頭蓋骨に収まらなくなった。通常の限界を超えて引き延ばされたため、今でも目が痛む。そして私の歯はまったく小さすぎると感じた。吐き気がするほどの量の砂糖を感じ、あらゆるものに甘さがこびりついていたことを憶えている。私が意識を取り戻し、かろうじて大切な書類を台無しにしないよう地面に向かって吐くだけの節度を保とうとしている間も、甘さは私から離れなかった。それは今でもここにある。口の裏側にハチミツの飴が張り付いているような気分だ。手足も痛む。まるで長い距離を走ったような感じだったが、私は出発地点に戻ってきただけだった。

この記録を書き終えたら眠ろう。長い休息を取れば、あの体験の意味もはっきりするかもしれない。

遺物の悪の発見に関してOn the Discovery of Relic Fiends

銀の薔薇騎士団とあの日に起きた全てのことに関する考えをまとめている間、私はある不愉快な事実に気づいた。それはどんな地位にあっても、あらゆる者がアズラの届かない影に落ちうるということだ。

自分の目で見たものを信じたくない。私があれほど尊敬した騎士たちがあのような…悪と化したことを認めたくない。守ることを求めた騎士たちが、守るべき相手に牙をむいたなどと言いたくはない。だがこれらは全て事実なのだ。

かつてオブリビオンに対する防波堤として戦ったあの獣が、堕落する以前の自己をわずかでも保っているのかどうかは、私の理解を超えている。保っていないほうがいい。彼らのうちで「これは間違っている」と叫ぶ囁き声が響いていないことを願う。オブリビオンの何が変化させたにせよ、それが彼らの心から記憶の最後の一片まで奪い去ったと思いたい。彼らの行動を見れば、そう思わざるをえない。

起きてしまったこの事態を、オブリビオンの不思議を抑制しようとする全ての者への警告としよう。あれは定命の者が持ってはならない力なのだ。

私は日没にアズラへ祈りを捧げ、オブリビオンの魔術から守るよう願おう。デイドラ公ほど力のある存在であれば、私が目にした運命によく耐えられるかもしれない。

――ウェイリン

影を彫る者を悼んでIn Memoriam of the Carver of Shadows

慎重な蛾のごとく動く男爵のために。

私の男爵の中で最も慎重で計算高かった。どうしてこの運命を予測できなかったのか。

記憶の中に再び飛び込んで来ることを願って。

塩のスプレーを悼んでIn Memoriam of the Salt Spray

波の上の陽光のごとく動く男爵のために。

あなたの名前を聞くと活き活きとした情景が思い浮かぶけれど

あなたの明るい顔は欠けている。

時々、あなたが実在するのか、

私が面白がって組み合わせた言葉の羅列なのかわからなくなる。

穏やかなる戦士を悼んでIn Memoriam of the Gentle Warrior

葦の風のごとく動く男爵のために。

私の心は曇っている。決して見通せない濃霧のように。

ここにいて、忘却の雲を追い払ってくれたらいいのに。

灰の風を悼んでIn Memoriam of the Ashy Wind

煙噴く羽毛のごとく動く男爵のために。

私は炎が空気を求めるように、あなたを求めていると思っていたけど、

それは違った。

私があなたを求めるのは、俳優が脚本家を求めるようなものだった。

ページに言葉が足りない時に

銀の薔薇はボーダーウォッチに咲くThe Silver Rose Blooms over Borderwatch

第二紀87年、銀の薔薇騎士団はボーダーウォッチの侵略を試みたズィヴィライ・クランに対する危険な作戦を展開した。騎士団がどのようにしてズィヴィライの計画を把握し、介入したかについて多くのことは知られていないが、その手際は素早く効果的だった。騎士団員コラティヌス・アンティアスによって書かれた報告は、騎士団の戦略を記述している。

「我々は夜中にこっそりと進軍した。気づかれぬようゆっくりと丘を越え、草原を歩いた。これは騎士団の熟練の指揮官にとっても珍しい作戦だった。我々の陣形はよく整っており、隙はほぼなかった。ようやく戦いが始まると、我々の攻撃は戦いに慣れたデイドラたちに衝撃を与え、その驚きが我々に優位をもたらした。我々は勇猛に戦った。訓練には何ヶ月も費やしたが、戦いは一夜よりも少し長い程度の時間で終わった。ズィヴィライは個として戦い、自らの戦闘技術で自分のための栄光を勝ち取ることに慣れていた。最終的にはそれが彼らの敗因となった。彼らの陣形の欠如は、訓練を経た我々の戦術には対抗できなかったからだ。我々はその次の日、互いを称え合い、戦いを生き延びさせてくれた薔薇の母に感謝を捧げて過ごした。彼女の名において、我々は勝利した。我らの地は腐敗から救われた。そして彼女の名において、我々は行動する。

我らの攻撃を導き力を授けてくれた、アズラに祝福あれ」

訓練場の教訓Lessons of the Pit

入門者よ、しっかりと読め。なぜなら私は何度も同じことを書くつもりはないからだ。お前たちはタムリエルでもっとも偉大な戦士たちから戦いを学ぶためにここに来た。オーススウォーンは慎重かつ巧妙な戦士だ。片っ端から切り刻んで勇気を示したいなら、アンドーンテッドにでも入るがよい。

何を誓うと聞きたい者もいるだろう。誓うのは、戦場にいる者すべてを辱めないこと。全力で戦うこと。賢く戦うこと。そして仲間のオーススウォーンと共に戦うことを。忘れるな。モーロッチは血の誓いのデイドラ公であり、背かれし者の防御者だ。オーススウォーンに背を向けたら、モーロッチに背を向けたも同じこととなり、お前と盾を合わせて立ち上がる者はいなくなるだろう。

誓いを果たすため、3つのロッジを突破してもらう。まずは拳のロッジだ。武器は特権であり、入門者が持つ資格はない。お前たちは鼻にパンチを食らって怒りを制御することを学ぶ。素早い動きも学ぶかもしれない。武器を持つ敵との戦いを学び、勝利を学ぶのだ。

拳のロッジの指導者が十分に備えられたと判断したら、斧のロッジへ進む。そこではあらゆる種類の武器について学ぶ。武器の動きと、武器に合わせた動きを学ぶ。壊れ方を学び、剣を失った瞬間に降伏するブレトンの騎士とは対照的に、その破片での戦い方を学ぶ。お前たちはすでに拳のロッジでの学びを終えている。故に、武器は自分を武器とすることほどには重要でないと知ったうえで訓練を積むことになろう。

最初と同じように、指導者たちが斧のロッジで学ぶべきことをすべて修めたと判断したら、鍛冶のロッジへ進む。ここでもっとも素晴らしく、もっとも厳しい教えが新参者に叩き込まれる。真の力は戦士でなく、鍛冶頭が持つことを学ぶのだ。炉の前に立てばどんな怪我よりも苦痛を感じることを学ぶ。そうして自分の中に無限の可能性があること学ぶ。鍛冶場こそ、オーススウォーンが作られる場所なのだから。

さて、これを記憶したことを祈る。さもなければ、訓練場で過ごす日々がずっと長くなるであろう。

訓練場主、アグサシャグ

死霊術の初心者向け素材Materials for Novice Necromancers

不死のギララ 著

あなたの魔術の経験や才能に応じて、死霊術の初心者が扱うのに向いている素材の種類がいくつかある。自分の軍隊を築いて敵を制圧するためには、まずこれらの素材を理解しなければならない。なんといっても、「理解できないものは完全に制御できない」というのが魔術の鉄則である。

亡霊
魔術とは気まぐれなもので、この世界の物理的制約の多くに縛られない。そのため初学者にとってはしばしば、同様に非物体的な素材に命令するのが最も簡単である。常に目に見える形で具現化するだけの力を有しているとは限らないが、死者の霊魂はタムリエル中に存在する。この点における死霊術の有用性は明白である。ただどこかの場所に力を集中させれば、何かの亡霊が現れる可能性が高い。

スケルトン
有能な死霊術師の軍団の基礎となる兵士、スケルトンは魔術で形を保っている物体の塊でしかない。このアンデッドを蘇らせるのに大した努力は要らず、骨は必要になるまで、袋に入れて持ち運ぶこともできる。

ゾンビ
スケルトンは単純なしもべであり、召喚も命令も簡単である。ゾンビはまったく事情が異なる。ゾンビの肉体はかつての記憶を保っているため、蘇らせて制御する前に忘却させなければならない。儀式に加えて、場所も大幅に変化させることで、肉体を混乱させ、以前の素性を奪うことが重要となる。成功すれば、選んだ死体はある種の停滞状態を獲得し、あなたの命令に易々と従うようになる。

レイス
他のアンデッドとは異なり、レイスは強力な感情によって支配された霊魂である。レイスを呼び出して命令するためには、霊魂をその最も邪悪な表出へと歪曲させる方法を学ばなければならない。命を奪われたことへの不満と怒りに霊魂の形態を支配させてから召喚する。死者の怒りを支配できれば、苦もなくレイスに命令できるようになるだろう。

リッチ
リッチを制御することはできない。魔術によって命令することは試みるだけ無駄である。リッチは死霊術を使って不死の状態へと至った者であって、あなたよりも強力だ。彼らは暗黒の儀式の達人であり、最高位の死霊術師なのだ。

焦熱の嵐を悼んでIn Memoriam of the Scorching Storm

熱い稲妻のごとく動く男爵のために。

雨が降る時、あなたのことが一番よくわかる。

でも空が晴れている時、私はあなたを感じない。

挑戦者たちに不公平でなかったなら、いつも雨を降らせておいたのだけれど。

新人の恐怖Initiate’s Fear

怖い。認めよう。オーログブは恐れている!

もしかしたら訓練の一部なのかもしれないが、死者の呼ぶ声が聞こえた。声は反響し、まるで訓練場の炎から聞こえてくるかのようだった。黒手袋のガームには恐怖に支配されるなと言われてる。真のオーススウォーンの戦士は敵との戦いと同じぐらい恐怖との戦いも易々とこなすものだと。でも、できるかどうかわからない。幽霊のような声は恐ろしかった。声は決闘を挑み、訓練場で実力を示すことを要求した。そんなことはできない。まだ来て1週間しか経ってないのに!

ウルグドゥカが言うには、声は昔の訓練場主で、新たに仲間に加える者を探してるんだそうだ。モーロッチよ、お助けを。彼女が間違っていますように。

全力で戦おう。ガームが言うように。でも、憑りつかれるため訓練場に来たんじゃない。

挑戦者の思索A Challenger’s Thoughts

散々懇願した結果、チューターのリパリウスというファーヌイヘンの助手がここへ来ることを許可してくれた。一人で自分の思考と向き合える場所がほしいと頼んだのだ。色々と耳にしたアリーナの挑戦を受けて立つ前に、精神統一ができる場所だ。それで、この男爵の広間で一息つくことを許された。これはとても名誉なことだから、敬意を示して感想の記録以外は何も残すなとチューターのリパリウスにはっきりと言われた。アリーナの挑戦で何が起ころうと、私ことヌヌリオン・アランはベドラムのベールにいた。

ここはとても静かだ。それでも、どこかタムリエルの荒野にいたときのような不安を感じる。静寂は危険の、捕食動物の襲撃の兆候だ。だが静寂がさらなる静寂の先触れであるこの広間でそんなことは起きない。この紙の上になら、最初は恐怖にかられたと認めることができる。死と戦ってファーヌイヘンを感心させる準備はできていた。少しだけ、集中できる時間があれば助かるだろうと思ったが、こんな不自然なほどの静寂の中にいると、自分の準備やルーティンに疑問を感じてしまう。

だが疑ってる場合じゃない。ファーヌイヘンが招いてくれたんだ。私は求められてるし、力も満ちてる。それだけは何があっても覚えておかなければ。それでも、もう少しここで過ごしてもいいかもしれない。静寂が気にならなくなるまで精神と呼吸を整えるために。それがこの先に待つものと対峙する準備が整ったことを示す合図になるだろう。

私に準備ができ、彼らも私に対抗する準備ができたら、アリーナに立ち向かおう。それまでは男爵の広間に座り、めったに見られない領域を観察しよう。

入門者が最後に見たものInitiate’s Last Sight

入信者ダラン・エマクス 著

明日、目隠しをつける。この時を恐れていたけど、あんな光景を見てしまったら、二度と目を使わなくて済むのが嬉しいぐらいだ。盲目の道はもう恐怖じゃない。おかげでこの先の人生にダラン・エマクスを怯えさせるものはなくなるんだから、盲目に感謝する。

もちろん、ダークシャードのことは知っていた。入門者に最大の闇を見せる悪夢の怪物のことを聞いたことがない、盲目の道の者はいない。ダークシャードから見せられる幻視は誰一人として同じじゃない。中にはすべてを飲み込む炎や愛する人の死体を見せられたと言う者もいる。ダークシャードは止める間もなく入門者を攻撃し、殺してしまうこともある。そんなことはめったに起きないけど、ダークシャードと対峙する直前には、それしか考えられなくなる。さらによくあるのが、入門者が目隠しを着けられる状態にまで回復できないことだ。ためらうことなく道をたどれるのは、正気を保っている者だけだ。私は彼らのようになりたかった。そしてそうなった。

ダークシャードと出会った時、私は簡素な部屋にいた。壁に飾りはなく、怪物以外は誰もいなかった。動ける気がしなかった。私は数多くある怪物の手の1本が勢いよく飛び出て、私の首を断ち切るのをただ待っていた。でも何も起きなかった。どれぐらいあの部屋で怪物が恐怖を見せる決断をするのを待っていたのかわからない。何時間も、もしかしたら丸一日あの部屋にいたような気がした。扉が開く頃には服が汗でぐっしょりと濡れていて、目が痛んだ。ダークシャードの前でまばたきをした覚えがまったくないし、できたとも思えない。

あの過酷な試練から何時間も経った今でさえ、気分が悪くて力が入らない。ダークシャードのことを考えるのがやめられない。他の入門者は試練の達成を祝っているが、私にはできない。なぜ私には計り知れぬ恐怖を見せなかった?なぜダークシャードは、オブリビオンのもっとも陰惨な恐怖に直面する覚悟を決めていた私を見捨てた?私が道をたどる者にふさわしいと思えなかったのか?それとも、私を試すものが何も残っていなかったのか?

違う。他に何かある。こんな答えじゃ、あの遭遇で陥ったほどの恐怖は感じない。きっとダークシャードが私に与えた恐怖は、不確かさなのだと思う。私が何を見せられるはずだったのか、あれが何を見せるつもりだったのか、知ることは決してできない。ダークシャードの顔、その舌打ち、一瞬で殺せたはずだったのに殺さなかったあの腕以外には何も知ることができない。私は不可知の存在と対峙した。私はそれを見詰めていたのに、目隠しをする直前まで気づかなかった。

妙なやり方だが、私は二度と未知と対峙することはない。ダークシャードは贈り物をくれた。盲目者は私に贈り物をくれた。私は歩けなくなるまで、この道を歩むつもりだ。

北方の謎の殺し屋たちObscure Killers of the North

フローアノット・エピナード 著

本書では、喉裂きボトゲルヴィ、毒殺者リンゲルド、および名無しのノルドについて論じてきた。これから扱うのは、最も謎の多い殺し屋である。記録は無数に存在するにもかかわらず、同僚の学者たちの中には本当に実在するのかを疑う者もいる。確かに、民間伝承や迷信は正確な情報源でなく、しばしば新しいものやより大きな信仰によって変化し、断片的な真実しか含まないことは認めよう。それでもこの殺し屋に関する伝承の核心部分は、物語や韻文、詩歌が一定の事実に基づいていると信じさせるに足るものであると私は考える。

この殺し屋についての実際の歴史的事実がどのようなものであれ、この男が北スカイリムの文化的実践に与えた影響は明白である。子供たちはその季節の最も暗い夜、命を奪われるのを恐れてベッドの下に隠れたと言われている。そしてすべての大人は、間違った人物を糾弾し、その報復を受けることを恐れて沈黙したと言われる。読者よ、ここに紹介しよう――モーサルの屠殺者である。

この捉えがたい人物について、多くのことは知られていない。彼は第二紀248年にまで遡る物語へ散発的に現れるが、同時代の児童向けの歌の中にはより頻繁に現れる。歴史全体を通じて、屠殺者は恐怖と民間伝承の源泉である。この執着はおそらく、この職業が死者や解剖と密接にかかわっていることに起因しているのだろう。原因が何であれ、モーサルの屠殺者と呼ばれる存在については、無視できない事実がいくつかある。

残酷な男、屠殺者ハエファル
スイートロールにご執心
その刃は旧モーサルよりも冷たく
お前を切ってフロストトロールに放り投げる

彼はお前をヤギと呼ぶ、お前の喉を切り裂きながら
残酷な屠殺者ハエファル
川が溶けたらお前は流され
二度とモーサルに姿を現さない

――第二紀275年頃、子供の足踏み歌

上に引用した不吉な内容は、第二紀248年の長い冬に起きた出来事を指している。十を超える家族が姿を消したのである。これはモーサルの生存者たちの間にパニックと不安を引き起こした。行方不明のノルドたちが見つかることはなかったが、彼らの家の扉は開きっぱなしになっていた。まるで何者かが真夜中に家へ入り込み、彼らを引きずり出したかのようだった。

当時の記録はハエファルに言及していない。言及していたら、謎は始まる前に解けていたはずだ。名前が与えられたのは、おそらく童謡の作成者によるものだ

当時の学者も、私の同時代の学者の大半も、村人の消失は当時頻繁に起きていたゴブリンの戦略的な襲撃の結果だと考えている。だがここで少しだけ、モーサルの屠殺者が本物だったと考えてみよう。彼は何者だったのだろうか?

モーサルは大きな村ではないため、正式の屠殺人がいた可能性は低い。より現実的に考えるなら、どの家庭も動物を屠殺する経験を持っていたはずである。専門的な職人がいたのなら、犯人を特定するのはきわめて簡単だっただろう。もしくは、犯人は実際に腕の立つ屠殺人だったのかもしれない。しかし、屠殺者という名称は犠牲者たちの悲惨な最期から付けられたもので、職業を意味するのではなかった可能性が高いだろう。

性格に関して、屠殺者はきわめて短気な人物だったはずである。子供の歌で、殺し屋はある違反、すなわち彼のスイートロールを食べるという違反を犯した相手に復讐するとされている。デザートを奪われただけで暴力的な殺人を冒すというのが本当なら、殺し屋はスイートロールにご執心という程度では済まなかったはずだ。この執着は狂信的な、ほとんど信仰に近いものであろう。だが美味なデザートへの宗教的献身などというのは、文献から飛躍しすぎた仮説になるので、この点は脇に置くことにしたい。

屠殺者ハエファルに関する多くの文献がヤギに言及していることは注目に値する。これは彼が犠牲者に加える行為を予告する手段だったのだろうか?この同じ年に、ヤギの群れが複数いなくなることがあったという仮説も提示されているが、群れの規模に関する記録は通常よりも乏しい。このような説明はにわかに信じがたいが、学問的誠実さのためにこの情報もここに含めておく。

これほど秘密が多く、虚飾が入り混じっている可能性のある殺し屋に関して、殺人がいつ収まったのかを特定するのは困難である。本当のところ、この殺し屋が実際に捕まったのかを知ることも不可能である。本書の他の事例では、より決定的な結末が見られた。それは歴史家にとっても、一般民衆にとってもありがたいことだが、モーサルの屠殺者の伝説が完全に死に絶えたことは決してないのである。

もしあなたがモーサルへ旅し、村の長老に尋ねる機会があったら、おそらく長老は屠殺者が何者だったか知っているだろう。その人が子供の頃、屠殺者が悪夢に現れた話までしてくれるかもしれない。それは屠殺者がモーサルの人々に及ぼした影響の証左である。この男は民間伝承と人々の記憶の中に存在しているため、死ぬことはなかったのだ。モーサルの屠殺者は完全に殺すことも、打ち破ることも決してできないのである。