コールドハーバーの伝承

Coldharbour Lore

デロディールの消失The Whithering of Delodiil

(著者不詳)

かつて、遥か昔、ハートランドにある街があった。デロディールという名だった。その街には素敵な散歩道があり、勤勉な学者たちがおり、技巧優れた職人たちがおり、踊り子たちがいた。そしてまた、デロディールには勇猛で誇り高い戦士たちがいて、散歩道を、学者たちを、職人たちを、そして踊り子たちを守っていた。戦士たちの数は少なかったが、彼らは屈強だった。

そしてデロディールの人々は多くの神々を崇拝していた。彼らは敬虔で、すべての神に敬意を払っていたからである。しかし彼らは他のどの神々にもまして光の淑女を崇めており、メリド・ヌンダのために色とりどりの光に満ちた教会を建てた。それは栄光のためであり、まるでエセリウスの一部分が定命の者たちの世界に降りてきたかのようだった。そしてデロディールの人々はそれに誇りを持っていた。

だが、谷を超えたところにアバガーラスというもう一つの街があり、デロディールが光を尊ぶのと同じように、闇を尊んでいた。そしてアバガーラスはデロディールと同じくらい多くの市民を有していたが、その中に踊り子や職人、学者の数は少なかった。なぜなら大部分は勇猛で誇り高き戦士だったから。その戦士たちは他の国や街に貸し出され、戦争での働きと引き換えに富を得ていた。そのようにしてアバガーラスは独自のやり方で繁栄を遂げた。

そしてアバガーラスの王はデロディールの誇りだった光の教会を見て、こう言った。「アバガーラスはデロディールと同じくらい偉大な街ではないのか?我々は自分たちの偉大な教会を持つべきだ」。そして王はアバガーラスの富の大部分が、彼自らの守護神、すなわちモラグ・バル王のための祠の建設に費やされることを命じた。そしてアバガーラスの人々はモラグ・バルのための広大な祠を打ちたてたが、彼らは職人ではなく粗暴な兵士たちにすぎなかったので、祠は作りが悪く、色合いもひどく、見るに堪えるものではなかった。しかし、それにもかかわらず、祠はデロディールの光の教会よりも大きかったので、アバガーラスの王は自分の街がそのためにデロディールよりも偉大だと自慢した。それでもデロディールの人々は嫌悪感を示すこともなく、今まで通り自分たちの仕事にいそしんでいた。

そしてデロディールのこうした無関心がアバガーラス王の心に穴を穿ち、彼は苦悩の末、狂気へと追いやられた。王は兵士たちを送り、アバガーラスにあったメリド・ヌンダの小さな祠を冒涜させ、それからモラグ・バルの広大な祠へ行き、大きな誓いを交わした。そうしてある家族をデロディールを訪問した罪で祭壇の前で殺し、王は軍を集結させ、谷を越えて進軍し、デロディールの民すべてを捕らえ、光の教会の中でモラグ・バルへの生け贄に捧げると誓った。

そしてアバガーラスの王は自分の兵士をすべて集め、激しく舞うオーロラによって空が輝いたある夜、谷を越えてデロディールに進軍した。だが王とその軍が到着した時、その地が空っぽであることを発見した。デロディールの街はなくなっていた、煉瓦のひとかけらに至るまで!

そして王は空の光の中から笑い声が聞こえてきたように思った。陽気な騒ぎ声は恐怖の悲鳴に変わった。それは上空からではなく、背後にある谷の向こうから来ていた。王は急いで兵士たちを進めて自らの街に戻ったが、彼らがアバガーラスに到着すると、そこに見出したのはまるで光に焼かれたかのように、すっかり破壊された街だった。兵士たちや王の家族の名残といえば、ただ街の壁に焼きつけられた影が見つかっただけだった。

これが、アバガーラスの物語である。だがデロディールの運命については、これ以上のことは何も知られていない。

ブラックフォージThe Black Forge

キンガルド・ナズクリクソーによる在庫目録の報告

グレート・シャックルのための原料:

黒檀合金の冷たい鉄の供給は17500トンで安定しているが、鋳造過程で発生する減量の一般的な割合を考慮すると、これではシャックルを鋳造するのにぎりぎり間に合う程度の量しかない。もう2000トンの採掘のために、鉄の巨像の巨大な死体の脇にある炭鉱の穴に人を送ったほうが賢明かもしれない。後で謝ることになるくらいなら、安全策を取ったほうがいい。

悔恨の木炭の物資における枯渇の原因を発見したと報告することができるのは喜ばしいことだ。灰インプどもが忘れ去られたプラズム菅を通って倉庫に入り込み、RのCを貪り食っていたんだ(このことがわかったのは、腹が膨れすぎて開いた管を通って戻れなくなった奴を1匹見つけたからだ)。我々は爆発するダクトワームを挿入し、それが巣を発見して灰インプどもをすべて粉砕した。悔恨の木炭における物資の不足は、コスリンギの魂なき者に対する拷問のノルマを上げることで作り出されたものだった。

こういうことを言うのは気が引けるが、私の義務として報告すると、たとえシャックルがスケジュール通りに鋳造されたとしても、1000人の無実の者の血の積み荷を受け取れなければ冷却できないだろう。我々は流血執行人サルタンティクスが繰り返し、積み荷はこちらに向かっており「今すぐにでも」届くだろうと請け合っているが、これまでのところ、受け取ったのは約束だけだ。このことをオーバーキンのレベルにまで持っていくのはためらわれるが、この問題の査察を依頼すべき時だと思う。

メリド・ヌンダの解釈Exegesis of Merid-Nunda

エリンヒルのファラスタス 著

率直に言って、メリド・ヌンダの冊子は第一紀初期から我々まで続いてきた神話史の作品の中でも最も奇妙で、最も理解されることの少ないものの一つだ。冊子は部分的な手稿の形でのみ存在しており、帝都の秘術大学蔵書庫に唯一の写しが保管されている(少なくともかつてはそうだった。しかし魔術師ギルドがヴァレン皇帝の失踪に関して非難を受け、シロディールから追放されて以来、かつては立派だったあの蔵書庫が現在どうなっているか私は知らない)。

幸運にも、私はギルドがまだ所持していた頃に注釈を施された冊子を細部にわたって研究する機会を与えられた。それで私は自分のために私用のコピーを作り、エリンヒルへ戻った際にその謎を解き明かす作業を続けられるようにしたのだった。

メリド・ヌンダの冊子を理解する際の問題は二重である。第一に、現存する文書は明らかにより大きな作品の一部であり、おそらくは真ん中あたりから始まっている。前後の部分がないために、残された部分に関する文脈がほとんど分からない。第二に、冊子はアイレイドの言葉をネードの構文で使用する特殊な隠語で書かれており、その中には他のいかなる文献にも見られない、起源不明の言葉が多く含まれている。

しかしながら、過去にウェネグラス・モンハナおよびヘルミニア・シンナによって翻訳された断片を元に作業することで、この謎の多い手稿における重要な部分のいくつかに関して、新しい光を投げかけられると思う。我々の形式は、各文の翻訳を提示し、次にその意味についての私の解釈を記すものである。

「…は九光輝として知られる、マグナスによって連れていかれる道を選んだ者たちである。メリド・ヌンダはこれら姉妹たちの出身であり、同時に、ニーモ・リーやゼロ・リグ、また…」

これは「デイドラ公」のメリディアといわゆる星の孤児たちに対応するようである。星の孤児とはマグナスがアービスの創造から身を退いた際に、マグナスから分かれたアヌイ=エルの原初存在である。これら星の孤児たちの中で最もよく知られているのはおそらく、青星のニーモリーであろう。ニーモリーは非時間的出来事と結びつけられ、ドラゴンブレイク時の昼間の空でさえ視認できると言われている。

「…それゆえ我々は光についてメリド・ヌンダに話しかけ、セネデリンを呼んで大地を拘束した。それは彼女が暗闇を恐れず、引力と回転の波を泳ぐことのできる稀有な存在だったからである…」

言うまでもなく、アイレイドにとって光は創造の4つの要素のうちの1つである。この文はメリディアが野生のエルフにとって光の化身であったことを確証していると思われる。この文の翻訳は間違っていないはずなのだが、正直に言って最後の文の意味は把握しかねる。

次の文はかなり難しかったが、この翻訳は深遠の暁紀についての我々の理解に対し、まったく新しい挿話を加えることになる。

「混沌領域の王たちはメリド・ヌンダの違反を叱責し、彼女のアービスへの帰還を命じ、その際に現存するすべての球は彼らのものだと主張した。しかしメリド・ヌンダは自らの実体から偉大なるドラグレンズを形作り、マグナスの光はそれによって屈折させられた。光線は新しい球を混沌から[削りだし?集中させ?]、メリド・ヌンダはそれを[笑いながら?きらめきながら?]自分のものと主張した」

これはどうやらメリディアのオブリビオン領域として知られる色彩の間の起源を、神聖な意志の行いによって混沌の物質から直接形成されたものとして詳述しているようである。

そして最後に:

「…それゆえメリド・ヌンダは虹の道を端から端まで[乗る?滑る?]。一方の端ではドラゴンを伸ばし、もう一方の端では縮めながら…」

実に不思議な文である。「ドラゴン」とはもちろん、伝統的に我々が時の神アカトシュとして知る神を指している。どうやらこれは「虹の道」(光の多色反射についての言及か)を旅することによって、メリディアが何らかの意味で時間の流れの進みかたを変化させられるということを示唆しているようである。

時間の「速度」を変える?これは後期アイレイドのソーサラー司祭たちの単なる馬鹿げた思いつきか、それとも、デイドラ公のうちでも最も理解されることの少ない存在の性質についての、真の洞察なのだろうか?

一体、誰に分かろう?

黄昏の蔵書庫:希少本The Library of Dusk: Rare Books

第12貯蔵庫:希少本コレクション

立ち入り禁止

品目:

ミモフォヌス著「アセドリクスの難問」
—9つの驚異的な問いと、読者を狂気へと追いやる解答の数々。

著者不明「ホシルの配置」(カリソスもしくはモラチェリス所有)
—シロディールのノルドにおけるアトモーラの民間伝承を記述した叙事詩の物語。

アーリエイト・サーペント著「グウィリム実践」
—知性を持つ怪物が死ぬ瞬間に、そのマジカを吸収する方法。

アルカン著「バーン・ダルの第3の巻物」
—偉大なる盗賊がいかにしてヴィベクから「第37の教え」を盗んだか——彼がそれを書き記すよりも前に。

「アレッシアとベルハルザの手紙」
—初代女帝と人牛との親密な往復書簡。

リンダイの異端者著「十祖先による十一のその他の勅令」
—古典「十一勅令」のパロディで、十祖先はデイドラよりもアーリエルを崇拝していたと仮定している。

技師カグレナク著「ヌミディウムの青写真」
—巻物がすべて行方不明——回収してくれば報酬あり

ペリナル・ホワイトストレーク著「ロルカーンの心臓との会話」
—アービスの本質についての考察。注意:創作の可能性大。

操舵手トパル著「南海岸は東の海ほどにも遠く」
—偉大なるアルドマー探検家の航海記。

アークメイジ・シャリドール著「考察」(初版本)
—ドラゴンの起源と性質に関する学術論文。

猿の預言者マルク著「アレッシアの教義:手稿原本」
—アカトシュの非エルフ的性質の教理を定義した長い論説。

モリアン・ゼナス著「アポクリファの研究」
—ゼナスが信じることを拒否したアポクリファから判明した真実の概説。全14巻。

透明なる者著「書簡的洞察」
—有害なデイドラの禁じられた祈祷。

コルヴス・ディレニ著「グリモア」
—強大な召喚師の呪文の秘訣。

匿名の作者著「メリド・ヌンダの冊子」(完全版)
—メリディアの本質と、彼女を星の孤児たちと同一視することの誤りを解明する作品。

伝統的な「好色なアルゴニアンの侍女」(完全収録)
—修復中——蔵書庫司書により誤って破損。

吟遊詩人のフョッキ著「愛と剣さばきの技法」
—信じがたく、かつ奇妙に説得力のある数々の功績を持つ遊び人のノルド、フョッキの有名な自伝。希少ではないが、本蔵書庫で年間を通しての人気作。

光なき土牢The Lightless Oubliette

光なき土牢に関するキン報告

過去に光なき土牢での勤務を経験したことがないのなら、よく注意を払うことだ。なぜなら、ここはミスを犯すべき場所ではないからだ。土牢はあの光の尻軽女の虜になったしもべたちのために特別に建設された拘留施設だ。我らがドレッドロードが彼女をどう思っているかは知っているだろう。もしあのオーロランやラストラントたちのどれか1人でも、お前の当番中に逃げ出してみろ。第2級の低速身体分解で済めば運がいいくらいだ。

さて、俺はお前が701の布告をよく知っているかどうかとか、強制追加条項の章や節をそらんじているかどうかとか、そういうことは気にしない。光なき土牢で大切なルールは次のものだけだ。

1.白や黄色に光るクリスタルを施設内に持ち込んではいけない。

陰気なのが好きだからじゃねえんだよ、馬鹿。囚人たちは光の特定の波長を捻じ曲げて、自分たちのために利用できるからなんだ。照明には青いクリスタルを使うか、あるいは剥き出しの炎ならもっといい。

2.囚人たちを拷問して遊んではいけない。

これにはエルフ王も含まれる。いや、俺はなぜかなんて知らん。ただそういうことになっているのだ。噂じゃドレッドロードはあの光の尻軽女のためにとんでもない驚きを企画していて、そのためには彼女のしもべたちの身体が無傷で残ってなくちゃならないんだと。本当かもしれんが、俺は知らんよ。

3.ちゃんと後始末をすること。

ここは最も警備が厳重な施設だ。だから魂なき者は誰も入ってはいけない。管理人でもだ。汚したら、ちゃんと洗うこと。これには実戦演習の時に飛び散った体液も含まれる。今度またフラグストーンに染みが付いてるのを見つけたら、次の勤務時間は痛みの輪の中でやらせるからな。

混沌のクリエイシア:アズール・プラズムChaotic Creatia: The Azure Plasm

ライザンディウス博士 著

境界間神話神秘学の博士として、私は長い間魂と身体の問題、すなわち消滅後のデイドラの身体の再形成、および「面影」として一般に知られるエキスの周囲での身体の形成に興味を抱いてきた。我々がコールドハーバーへの移転を強制されて以来、輝きの淑女の取り計らいにより、私はこの工程を直接観察する数多くの機会を得ることができたため、ムンダスにおいては単なる推測にすぎなかった多くの仮説を確証できる立場に身を置いている。

長い間理解されてきたところでは、デイドラは「魂」として知られるアヌイ=エルのアニムスを欠いており、その身体が破壊されても死ぬことはない。ムンダスにおいて殺されたデイドラは単に「消滅」してやって来た次元に帰るだけであり、そこにおいてデイドラの形態、あるいは「面影」が少しずつ新しい身体を形成し、いずれデイドラは復活する(これは自らの出身地であるオブリビオンで殺されたデイドラにも起きることである)。

さらに、我々がデイドラ自身から学んできたことによれば、デイドラの身体は混沌の物質そのものによって形成されており、これはオブリビオンの「クリエイシア」という、無形かつエネルギーを持つ素材としての面影の周囲に蓄積し、形態の遺伝パターンに順応する。

ムンダスにいた頃、私は単純にもこのクリエイシアを虚無のどこかに渦巻いている、霧状の無形物質のようなものだと考えていた。我々がコールドハーバーに到着して後、コールドハーバー全土に広がるこの青いスライムの液だまり、我々が今では「アズール・プラズム」と呼んでいる物質が、実はクリエイシアがこの次元において取る形態だと気づくまでしばらくかかった。その延長として、私は混沌のクリエイシアがオブリビオンのそれぞれの領域において、次元に対応した、互いに異なる形態を取るのではないかと推理した。この理論は後に、ソージュルナーという名の、無数の次元で存在することを直接経験していたズィヴィライの盗賊によって、私にとっては確証済みのものとなった。

実際、プラズム付着の過程が進行しているところを観察できる、秘密の洞穴の1つを初めて私に教えてくれたのはソージュルナーだった(デイドラが「生まれる」この類の洞穴を見つけるには、ただアズール・プラズムのゆったりした流れを観察し、その向かう先を追っていくだけでいい。プラズム付着は付近の源泉からの遅い吸収を引き起こすからである)。面影が少しづつアズール・プラズムを吸収し、それを一般的から特殊へと変化させていき、ゆっくりと巨大な爬虫類型のデイドロスの大きさと形になっていくのは、実に見事な光景だ。

そして魂なき者という名で知られる哀れな奴隷たちがいる。どれも死に際してムンダスから誘拐されてきた定命の者であり、その魂はモラグ・バルによって、何か想像もできないような目的のために盗まれ、その代わりとして面影がここコールドハーバーにおける紛い物の身体を形成しているのだ。しかし彼らはオブリビオンの生まれではないから、魂なき者の身体は人生に倦み疲れた身体の惨めな模造品でしかなく、急速な消耗と腐敗に苦しんで死ぬ。しかもその死は解放ではなく、面影は再び身体を形成し、それは無限に繰り返されるのだ…

以上が事実である。以下に続くのは、ソージュルナーの不定期かつ予期せぬ訪問の最中に彼と交わした会話から生まれた思弁である。彼の理論では、魂なき者の身体が不完全なのは、それがアヌイ=エルの魂の集中原理を失っているからであり、それゆえに彼らの身体の面影は不完全な模様になっている。それはあり得ると私は同意し、それから魂を失っておきながら、何か別のアヌイ=エルの内的姿を所有している魂なき者の存在という、理論的な可能性を提示した。この魂なき者の「パラゴン」とでも言うべき存在はコールドハーバーにおいて、ムンダスでまとわれていた身体の完璧な複製である無欠の身体を形成するだろう。実際、もしこのパラゴンが十分に高いアヌイ=エル原子価を帯びていれば、パドマーのクリエイシアとの接触によって、その身体はほとんど一瞬のうちに形成されるだろう。

ソージュルナーは私の理論を一笑に付したが、にもかかわらずその発想には興味をそそられたらしかった。彼はさらに思弁を進めて、もしそのようなものがあり得るとすれば、おそらくそれはムンダスが存在の危機に瀕している時に発生するだろうと言った。その場合、ニルンの心臓は自発的にそのような「パラゴン」個体を、破壊から自らを守る手段として生産するだろう。定命の者の身体が伝染病を撃退するのと似たようなものである。

ああ、ソージュルナー。君の刺激的な話が懐かしい。なんという空想の飛躍だろう!しかし、この次元での長期にわたる私の生活で見てきた驚異の数々を思えば、本当に不可能なことなどあるだろうか?

戦いと苦闘の人生A Life of Strife and Struggle

ラロリアラン・ダイナー王の私的な覚え書き「アイレイドの最後の王」への注釈

構成:慣習に則った10章立て。10人の祖先のそれぞれに1章ずつ

第1章:後期アイレイド時代の苦闘(263-331)
—我が父は女帝に辱められた
—ネナラータのシロディール帝国への隷属状態
—非奴隷経済への困難な移行
—強制されたアレッシア八大神の受容
—我、ネナラータの王冠を戴く
—高まる無力と絶望

第2章:アレッシア教団、アイレイドの無秩序(332-371)
—帝都の反乱
—我、皇帝に忠誠を誓う
—シロディールの神権政治
—アイレイドの迫害
—従属国家の縮小
—ネナラータの孤立

第3章:失われたネナラータへの涙(372-374)
—皇帝の最後通告
—頑固者たちとの協議
—ネナラータでの最後の時
—シロディールからの不穏な旅路
—頑固者たちの虐殺の知らせ
—ゴブリンに噛み殺される

第4章:ビョルサエの避難民たち(375-452)
—ディレニによる歓迎
—オークを追放し、街を設立
—湖のビスネンセル
—ブレトンとの緊急緩和、オークとの平和条約
—シロディールからの不快な知らせ

第5章:太古の探究者の驚異(453-460)
—ハルメアス・モラの邪悪な教団
—奇妙な儀式、消えない幻視
—大司祭ウルスキャントが権威を主張する
—夜の殺人
—王家の逃亡

第6章:ディレニの中の聖域(461-477)
—バルフィエラ島
—リャン、エイデン、レイヴン
—スカイリムとの戦争
—戦術家にして戦略家:我が天職の発見
—エルフ殺しのホアグ倒れる

第7章:アレッシア軍の接近(478-479)
—ハートランドから聞こえる不満
—アレッシア主義に転向するブレトンの発見
—宣教師たちの処罰
—アレッシア軍の西進
—クラグローンの陥落

第8章:ハイロックの集結(480-481)
—隷従王への使者
—エイデン、不承ながら権利章典に署名
—農場労働者たちを軍団兵に
—軍がハイロックへ接近
—アレッシアの虐殺

第9章:グレナンブリア湿原の戦い(482)
—開幕の小競り合い
—餌をまく
—ファオルチュ罠にかかる
—隠れていた騎士たちの突撃
—コルヴスとカラーニの召喚獣
—アレッシアの潰走

第10章:ネナラータへの帰還(482-484)
—アレッシア軍の追撃
—クラグローンでの抹殺
—マルーカティの殉教者たち
—ハートランドへの帰還
—ネナラータにおびき寄せられる
—モラグ・バルの狡猾な罠
—コールドハーバーの囚人

ここではたっぷりと時間がある。私の筆記用具が取り上げられなければいいのだが。いかにドレモラとはいえ、そこまで残酷になれるだろうか?

定命の者により召喚されたI was Summoned by a Mortal

デスブリンガー・クランのキンヴァル・ゼッデンカシク 著

私が記憶している限り——そしてドレモラなら誰でもそうであるように、私の記憶は、特に復讐に関する記憶は優れている——私は自分のクランの士官たちに忠実に仕えてきたし、それを通じて我が主、モラグ・バルに仕えてきた。しかしながら、常にというわけではなかった。恥ずべきことながら一度だけ、私は他の者に仕えることを強制されたからである。

私は終わりなき階段を警備する任務に就いていた。これはいつでも楽しい仕事だった。というのも、通りがかる魂なき者を馬鹿にしたり嫌がらせをしたりでき、しかも奴らのノルマ達成について責任を負わなくてもいいからだ。爪の柱のかげから飛び出し、「見つけたぞ、弱き者め!」と叫ぶのは、面白くてしょうがない。

私はダークアンカーの鎖の連結部の後ろに潜み、近づいてくる魂なき者をいきなり殴り倒し、「相手にならん」と嘲笑して、恐怖を与えてやろうと待ち構えていた。すると突然、角から足先まで体中にちくちくと痛みを感じた。目まいがして、危うく青いプラズムの池に倒れこんでしまうところだった。そして突然、終わりなき黒い虚無の中に自分が投げ込まれるのを感じたのだ。

最初は不安を感じなかった。終わりなき黒い虚無に投げ込まれたことのない者がいるだろうか?その場所で自分の体が具現化し始め、空気の味を感じて、初めて最初の不安を覚えた。「弱き者の臭いがする」と私はつぶやいた。私はまったく正しかった。

そこで初めて、私を召喚した者の声を聞いた。召喚者は「ああ、これはなかなか強そうだな」と言い、自分の置かれた恐ろしい状況が明らかになった。なにせ、私を召喚したのは…定命の者だったのだ。

私はぎょっとして振り向き、いったい誰がニルンとの無限の距離を超えて私を召喚したのか見ようとした。すると、目の前にいたのは背の高いサマーセットのエルフだった。こうした手合いは知っている。私はこれまで少なからぬ数のアルトマーの魂なき者をいたぶってやった。それも大いに楽しんで。こいつらは定命の者にはふさわしくない、偉ぶった傲慢さを隠そうともしない。このエルフは私に軽い、値踏みするような一瞥をくれた後、背を向けて「ついてきて戦え。虫の教団の信者どもを退治する」と言った。

虫の教団の信者。この屈辱を想像できるだろうか?憎たらしい定命のエルフによって自分の任務から引き離されただけでなく、そいつのためにマニマルコの、つまり我らがドレッド・ロードの副官にして副王となるべき存在のしもべを殺さなければならないのだ!私は抵抗しようとして我が不屈の意思を振り絞ったが、この定命の魔術師の拘束呪文はあまりにも強力だった。私にできることは「誰も逃さん!」と言ってこの者に従い、一対のたいまつを通り過ぎて地下のトンネル迷路へ向かうことだけだった。

「ドレモラよ、お前は偉大なるヴァヌス・ガレリオンに仕えるのだ」と私の召喚者は宣言した。誰もそんなことは聞いていない——自分を奴隷にしている主人の名前を知る必要がどこにあるというのか?しかし私は考え直し、その名を我々の誰もが持つ長いリストに心の中で付け足した。「復讐」という名のリストに。

私は付き従ったが、私の召喚者が身を隠すためにしゃがみ込んでも、ただこの召喚者をにらみつけて心の中で「お前の心臓を貪り食ってやる」と考えていた。しかし実際は、このヴァヌスとかいうエルフについていくしかなかった。というのもトンネルは数が多く入り組んでいた。我々ドレモラは恐れを知らず無慈悲で、オブリビオンのどこを探しても戦士としては右に出る者がいないとはいえ、方向感覚には優れていない。密使の任についていた時、私はムーンレスウォークのど真ん中で道に迷い、出発地の光なき土牢に戻ってきてしまうことで有名だった。

そのうち、ヴァヌスは頻繁に立ち止まり、耳を澄ませるようになった。これが私の怒りと苛立ちを一層あおった。結局、彼は足を止め、私に向かって「静かに!」と言った。まったくもって理不尽だ。私は一言も言葉を発していなかったのだから。しかし奥のトンネルから人間の話し声が聞こえてきた時、私はなぜ彼が止まったのかがわかった。一瞬もためらうことなく、私は自分のグレートソードを取り出して前方に突進していった。「近くに抗いし者がいる!」と叫びながら。エルフは悪態をついて後からついてきたが、自業自得だ——私は命令を忠実にこなしていたのだから。

その後の時間は、真のドレモラならば戦闘中に誰でも感じる、あの赤い憤怒の中で過ぎていった。しかし、普段は流血の殺戮が喜びをもたらすものの、自分が手にかけているのはドレッド・ロードが望まない相手なのだという意識にさいなまれ、喜びとは程遠い体験だった。私が虫の教団の信者たちの手足や頭を切り落としている間、エルフの強力な魔法のエネルギーが火花を散らしながら私を通り過ぎ、離れた場所にいる敵を焼き払っていたが、私は屈辱に打ちひしがれ、破壊の狂騒にひたれなかった。エルフは私が最後の虫の隠者を細切れにしているところにずかずかとやって来て「こいつらもこれで終わりだな。思い知ったか、マニマルコ!」と言ってほくそ笑んだ。

「相手になる者などいない」と私は不機嫌に応じた。すると、再びあの奇妙なちくちく感が襲ってきた。私をニルンへと誘った召喚術が弱まってきたのだ。拘束が解けると私はエルフに向かって威嚇の一歩を踏み出したが、そこで再び私の周囲の次元が回転し、また終わりなき黒い虚無の中に戻ってしまった。

感覚を取り戻すと、私はターコイズ色のスライムの池に横たわり、見上げると上司であるキンリーヴ・ザルゾルキグの笑顔が見えた。「さて、ゼッデンカシク」と彼はうなり声をあげた。「任務中に持ち場を離れたのか?こいつは痛みの輪ものだぞ!」

「しかし、キンリーヴ」と叫びながら、私はがばっと起き上がり言った。「仕方がなかったのです!私は召喚され、ニルンに向かわされてしまったのです——定命の者によって!」

ザルゾルキグはさらに口を広げて微笑んだ。「そんなくだらん嘘をつく奴には、痛みの輪をさらに追加してやろう。さあ歩くのだ、ゼッデンカシク」と彼は叫んだ。棍棒で私を叩きながら。「左、右、左、右、左、右…」

ザルゾルキグが笑うとロクなことがない。キンリーヴだろうが関係ない。彼の名前も私のリストに入れておこう。

侮辱の法廷の手続きProtocols of the Court of Contempt

ジャッジ・シベン 著

すべての手続きは厳密に記録されるべきものとする。ただし、その手続きが記録によって影響を被ると命ぜられた場合は例外とする。

罪ある者は本法廷に敬意を持ってあたるものとする。でなければ執政官ボグトロにより適切な処罰を受けるものとする。

罪ある者は適切なかつらを身に着けたスキャンプの格好で審議に参加する権利を持つものとする。ただしスキャンプは本質的に低俗であることから、侮辱の法廷で口をきくことは禁じられている。

罪ある者はこれらの手続きにおいて、自らの屈辱を時間をかけて、最も激しい言葉を用いて表現することが推奨されている。裁判官と執政官の余興のためである。

侮辱の法廷の公平性についての評判は、100パーセントの有罪率によって証明されている。

連れていけ!

名誉を失ったクランの誓いOath of a Dishonored Clan

ライランス 作

目的が達成されるまで、決して再び休むことはない。

誤りし者に報復する機会を探し続ける。

ヴァルキナズ・セリス:裏切りの代償を払わせよ。

オーバーキンに対する我々の義務でさえ、これには及ばない。

二度とフールキラーズ・クランの名を耳にすることなかれ。それは苦痛である。

我らは目的を助ける者に対しては寛大になるだろう。

デスブリンガー・クランの偽りの優位に終止符を打つ。

グレナンブラの伝承

Glenumbra Lore

アルドメリ・ドミニオンへの警告A Warning to the Aldmeri Dominion

エリステラ・リジェン 著

アルドメリ・ドミニオンの君主達に対しここに警告する。武力侵略の野望を放棄して自分の島や密林へ戻れ。さもなければダガーフォール・カバナントの憤怒が神々の槌のように振り下ろされるだろう。

アルドメリの計画にエルフによる他の種族、特に人類とオークに対する支配を取り戻そうとする狙いがあることは周知の事実だ。彼らは第一、第二帝国の遺産を覆し、歴史から消し去ろうとしている。これを許してはならない。自由となった人類とオークがエルフの圧政に従うことは二度とない!

ドミニオンの原動力が傲慢なサマーセットのハイエルフであることは明らかだ。我々カバナントはディレニを受け入れることでエルフと平和に暮らせることを示してきたが、アイレン女王は戦争を求めている。女王のタムリエル大陸侵攻は武力侵略以外の何ものでもない。ドミニオンにシロディールの領土権はない。アルトマーがサマーセットに戻らないなら、侵略軍は倒される。

ウッドエルフとカジートはイリアック湾の王国と長年交易してきたが、裏切り者のサマーセットのアルトマーの味方になるという過ちを犯した。カバナントとして彼らに敵意はないが、ドミニオンとの同盟を続けるならば、我々の手によりハイエルフと同じ運命に苦しむことになるだろう。考え直すか、憤怒に直面するかだ。

ウィレス:名づけの娘達Wyresses: The Name-Daughters

喋る樫のグラーガーギル 著

エルデンの時代、エルフの時代、イェフレは訪れた
走った場所で生物達を名づけた

すべては混沌としていて、名前は存在しなかった
彼の贈りものは獣、植物、石それぞれに名前を与えることだった

人とエルフ以外のすべてのものが身のほどをを知っていた
どこへいっても略奪と破壊を繰り返した彼らを除いて

「お前達をアースボーンと名づける」とイェフレは告げた、
「森、石、根、種の王よ。
この遺産を育む、その保護者となれ
その価値がある者を守りとして指名せよ」

それ以来ウィルドの女性達は緑を守る、
ツンドラから森まで、頂上から谷底まで、

虎であろうと虫であろうと、すべての生物に思い出させる
その名前、その性質、その機能と姿を。

緑を堕落させようとする者には
ウィレスがあらゆる場所で立ち向かうだろう。

だから森を歩く時は注意しろ、イェフレのやり方に敬意を払え
さもなければ監視するウィルドの女性達に連れ去られる。

ウェアウルフの皮The Werewolf’s Hide

謎のパックリーダー 著

我々の最大の強みはその飢え、数、怒り、爪、牙、だと言う者もいるだろう。愚か者だ。ハーシーンの贈り物は武器だけではなく、守りに関するものもある。

主人の大きな猟場で狩りをするには、痛みを感じず、自分の体を支配する必要がある。

多くのウェアウルフの狩人がこの理由から皮を奪おうとする。身につけるか、或いは燃やそうとする。いずれにせよ、これは最大の宝であり、汚したり壊したりしないよう注意せねばならない。
狼の毛皮は地位の証でもある。それは体の代わりに傷つき、痛みから守ってくれる。貴族が装飾品を扱うように扱うこと。なぜならお前はハーシーンの家来だ。

汚い毛皮をした、野生化した狼をよく見かける。お前は野性の犬ではない!獣として森をさまようしかない愚かな狼ではない!狩人達の王だ!
敵に襲われ、敵が押し寄せて剣や鎌、熊手や槍と対峙するために真の姿に変身した時、私に感謝するだろう。その毛皮は輝いて恐怖を呼び起こし、どんな打撃にも傷つくことはない。

オークの本性(発禁版)The True Nature of Orcs (Banned Ed.)

オークたちは深遠の暁紀の最後の頃に誕生したとされている。歴史的にはゴブリンに近い獣人の類と誤認されてきたが、オークは実際はハイエルフの祖霊の中でも最も強大と言われたトリニマクの子供たちだ。トリニマクがデイドラ公ボエシアにより食われ、汚らわしきこの神の臓物と化した時、オークたちも変容してしまったという。オークの古名は「追放されし者たち」を意味する「オーシマー」である。現在のオークたちはトリニマクの遺骸であるモーロッチを信仰している。

モーロッチとは?

一般的には、追放されし者やのけ者にされし者、誓約、そして血の呪いを司るデイドラ公マラキャスとして知られている。厳密にはデイドラ公ではなく、他のデイドラも仲間と見なしてはいないが、その領分を考えればふさわしい扱いといえよう。マラウクはかつてハイエルフの神々の英雄トリニマクとしてハイエルフたちを内外の敵から守り、場所によってはアーリエルすらも凌ぐ人気を博していた。ところがトリニマクは従徒たちと共にヴェロシの反乱を阻止しようと試みた際に、ボエシアに食われてしまう。そしてその肉体と魂を汚され、マラキャスとして世に現れたのである。従徒たちも悲惨な変貌をとげ、神聖なるアーリエルを筆頭に万人から蔑まれ、サールザル近くの北方の荒地へと逃れた。彼らは居場所を手に入れようとノルドとチャイマー相手に戦ったが、得られた領土は僅かであった。スカイリムでマラキャスはオーキー、もしくは叩く者として知られ、イスミールとの戦いの数々は伝説の域となっている。

(指令:この悪しき、伝統的だが反オーク的なプロパガンダは、ダガーフォール・カバナントの全域で禁書となった。各管理者が責任を持つように)

ダガーフォール・カバナントへの案内Guide to the Daggerfall Covenant

ダガーフォール・カバナントは北西タムリエルの人々、ブレトン、レッドガード、オークの間で結ばれた協定であり、タムリエル全域の平和と秩序の実現のために相互防衛同盟を形成している。実際にカバナントの王達はレマンを参考にし、自らを第二帝国の精神的後継者と主張している。

ダガーフォール・カバナントは、「ブラック・ドレイク」のダーコラク率いるリーチの民の大群の侵略を撃退するためにハイロックの王達が同盟を結んだ第二紀542年に結成された。東の山々から来た野蛮なリーチの民はエバーモアを破滅させ、ウェイレストを包囲し、カムローンを略奪し、ようやくブレトンが止めた頃にはダガーフォールの門まで進軍していた。ダーコラクが倒されると、ダガーフォール、ウェイレスト、カムローン、エバーモア、そしてショーンヘルムの王達の間でいわゆる「最初」のダガーフォール・カバナントが結ばれた。互いの王国を守り外敵に対しては一丸となって戦うことを厳粛に誓った。

ブレトンの再建とともにハイロックは繁栄した。第二紀561年にウェイレスト付近の鉱山労働者が歴史に残る最大のオリハルコンを掘り当てた後は特に栄えた。鉱山があったカンバーランド伯爵のエメリックは、鉱山で得た富をウェイレスト艦隊の補強とハイロック全体の貿易の改善に使うことを提案した。ウェイレストのガードナー王は承認したが、艦隊が完成する前に恐るべきナハテン風邪がウェイレストを襲い、ガードナー王家の全員が亡くなった。その後エメリック伯爵が王になり、カンバーランド家がウェイレストの第二王朝となった。

ウェイレストの新しいエメリック王はショーンヘルムのランセル王の娘に求愛していたが、第二紀566年にセンチネルのマラヤ王女と結婚した。裏切られたと感じたランセルがウェイレストに奇襲を仕掛け、最初のカバナントは崩壊しかけた。カムローン、エバーモア、ダガーフォールの王達は皆ウェイレストの味方につき、エメリックの優れた外交術によりセンチネルの軍もエメリックの女王を守るために戦いに参加した。さらに、エメリックはロスガーの大きなオーク・クランに呼び掛け、協力の礼としてオルシニウムを与えると提案した。ショーンヘルムは倒され、カバナントは再生した。単なるブレトンの防衛協定としてではなく、新たな多国間の同盟として。

同盟の交渉の秘密会議はあらゆる場面で論争や議論を伴いながら、数ヶ月に及んだ。最終結果はエメリック王の構想を元にしており、多数の妥協と注意深く交渉された条件により実現された。地域全体の貿易の自由が保障され、リベンスパイアーの貴族やアリクルのクラウン・レッドガードの反対にも関わらず、オークは対等な同盟の一員として受け入れられた。やがて、北西タムリエルのすべての街と州が、上級王エメリックが議長を務めるカバナント王立議会に忠誠を誓った。同盟の設立者として、王は最高の統率力を誇った。

これが現代のダガーフォール・カバナントである。ファハラジャード王率いる北ハンマーフェルのレッドガード、オルシニウムのクログ王率いる北東山間部のオーク、ウェイレストの宮殿から統治するハイロックのブレトンの王エメリックによる同盟だ。理想的には、第一・第二帝国のすべての良い面を象徴する、騎士の精神を持つ高潔な人々による高貴な同盟である。そしてこの強固な基盤から、もしかすると第三の、より強力な帝国が台頭し、タムリエルの全住民に相互尊重、活気溢れる貿易、神々の崇拝の恩恵を与えてくれるかも知れない。

モーロッチの掟The Code of Mauloch

「モーロッチの掟において!」私は何度この誓いを薄汚い酒場で聞いたか、興奮した傭兵が腹の底から叫んでいるのを聞いたか知れない。だがオーク要塞がその言葉を規範としていないと言ったら嘘になるだろう。この私、アマンダ・アレイアが、良い戦士を作り上げるために「伝統」や「昔のやり方」が必要だと言う事はほとんどないが、オークに関しては先祖に忠実でいる事が勝利への近道のようだ。

少し遡ったところから説明させてもらおう。オークによると、オーク要塞は自分達の種族の歴史と同じくらい長く存在しているのだそうだ。それは控えめに言うと武装したキャンプ、大げさにいうと要塞である。壁の内側にいるすべての者が生まれた時からそれを守るよう訓練されている。武器や鎧はすべて要塞内で製造され、食料はオーク戦士によって狩りで捕獲され、獲物を持ち帰ると要塞に住む皆で食べる。

彼らに従うべき法律はなく、自分たちの中に刻み込んだ、文字には記されない「モーロッチの掟」と呼ばれる規範に従っている。これはマラキャスとも呼ばれる、彼らの神々の1人から名付けられている。ほとんどは、盗むな、殺すな、理由もなく人を襲うな(多くの例外があるようだが)というシンプルな内容だ。しかし、オークは要塞内に犯罪者を拘束する監獄を持たない。その代わりにあるのが、血の代償だ。犯した罪に見合った物を差し出すか、被害者が満足するまで血を流し続けるのだ。言うまでもないが、オークは血の気が多い。

掟には誰が要塞を管理すべきかという内容も含まれている。通常は最も強い男が族長で、何かを決断し、モーロッチの掟が守られているかどうかを判断する。ここにいる女はすべて族長の妻か娘だが、例外として儀式や治癒を行うための賢女がいる。深刻な議論は短くも激しい戦いで処理するが、族長とうまくやっていけない者の多くは要塞を追い出され、私達と共に生活する。オークはすべての事柄と戦うよう教えられて成長するが、戦うほどの価値がない物に関して、この掟は適用されない。

オーク要塞はよそ者が好きではなく、今も昔も自分たちだけで自活している。なぜこんなに熟知しているかというと、要塞を去ったオークの大多数は傭兵や兵士になり、ハチミツ酒を数杯飲めば彼らも故郷の事を話し始めるからである。時折、オークがオークでない者を「親族」にすることがあり、そうするとその者が一族として要塞内で暮らすのを許されるという話を耳にする。もちろん、実際に起こったという話は聞いた事がない。

モーロッチの掟に定められている変わった規範や伝統は、覚悟を持った戦士を育て上げる。また、彼らは普通の戦士とは集中の仕方が違う。武器を抜くまでに躊躇せず、隠し立てする事なく問題を解決しようとする。これこそが要塞内にいるオークと街中にいるオークの真の違いだと思う。法は争いを治安官によって解決するよう定めているが、モーロッチの掟は自分の問題を自分で解決するように求めている。これは傭兵として生きるには、うってつけの考え方だと言えるだろう。

リーチの魔術師の陰謀Schemes of the Reachmage

ウィザードのガブリエル・ベネレ 著

墓の歌い手アンゴフとしか知られていないリーチの魔術師を止めようとする獅子の守護団の試みに対し、私は魔術師ギルドの正式な代表として、調査中に予期せぬ事態が起きた場合に備えて発見や推測を記録することにしました。魔術師ギルドの仕事がこれほど危険で興奮するようなものになると、誰が予測したでしょう?とにかく、これは私が書き記した時点では正確かつ最新の記録です。間違いや後日発覚した事実については、後の巻で補足することにします。もし書いたものを自動的に更新する魔法を発明できたら…ダメです。1度に1つのことに集中しなければ!

アンゴフには計画の遂行を助ける多くの仲間がいます。奴は「手下」と呼んでいるようです。この邪悪な死霊術師に協力していると疑われる者について、復習しましょう。

ライカンスロープと関係があり、カムローンに攻撃を仕掛けたファオルチュは、より強力な者の命令で動いているように見えます。おそらくアンゴフだと推測しますが、この繋がりを示す証拠はまだつかんでいません。

ブラッドソーン教団は明らかにアンゴフと繋がりがあります。奴が教団のリーダーか、単なるメンバーかはまだ判断しかねますが、両者に関係があることは確信しています。信者達は遺物や力を持つ物品を求めて土地を探し回り、組織には多くの死霊術師が属しています。デイドラ公のような者と関係があっても驚きません。当て推量をするなら、モラグ・バルでしょうか。

デイドラもまた、アンゴフの矢筒の矢のように思えます。農民が風に種を投げるように、アンゴフはデイドラを世界に放っています。アンゴフのしもべがさらに潜んでいるはずですが、現時点で他の提案は単なる憶測の域を越えません。代わりに、リーチの魔術師本人について発見したことを述べましょう。

まず、アンゴフは何かしらの方法で大地を毒しているように思えます。通った場所に生える汚れた蔓が、魔法が地方を汚染していることを示す証になっています。その名前、墓の歌い手そのものが死の魔法に関する執着と能力を表しています。死と腐敗がアンゴフの領域であり、生と死を支配することを求めています。

信者達はアンゴフを強く説得力のあるリーダーであると考えています。喜ばせるためなら文字どおり死ぬ者もいるでしょう。そのような献身は不健全であり、誰かが他人にそれほどの影響力を持つことを個人的には恐ろしく思います。

アンゴフはできるだけ多くの混乱と破壊を起こそうとしています。最終目的は分かりません。グレナンブラに来たのは征服するためか、破滅させるためか?最終的にその違いに意味はあるのか?分かるのは、止める方法を見つけねばならないことです。絶対に!

さて、続きはまた後日書きましょう。今は出掛けて、キャス・ベドロード近くの要塞で獅子の守護団と合流しなければなりません。集めた知識は、目の前の任務に応用できるでしょうか。

帝国の真の後継者True Heirs of the Empire

エリステラ・リジェン 著

喜べ、北西タムリエルの人々よ!ニルンの他の地は戦争、狂気、デイドラの恐怖に苦しめられているものの、ダガーフォール・カバナントにはレマン帝国の栄光と名誉が存続している。我々は貿易の優位、自由の原理、神々への崇拝に忠実だ。

敵の世界に対して、イリアック湾の貿易の有力者達は強力な同盟を形成した。ハイロック、ハンマーフェル、オルシニウムは、ウェイレストの上級王による支配のもとで1つとなった。オークとブレトンの職人技により同盟は経済的に恵まれ、オークとレッドガードの軍事力により侮れない勢力となった。我々の王達は住民とともにタムリエル帝国の復活、それに伴う経済的繁栄を望んでいる。正しい皇帝が帝都を支配するために、方法は1つしかない。自ら手にすることだ。

現在の「シロディール帝国」はレマンの栄光の第二帝国を真似た見せ掛けだけのごまかしにすぎない。ルビーの玉座に座る詐欺師達は公の場で神々を嘲り、人類の敵であるオブリビオンの王の機嫌を取る。有望と思われたヴァレン皇帝でさえもデイドラの堕落の被害者となり、その改革はデイドラの徒党の黒幕により一掃されてしまった。

ダガーフォール・カバナントが第二帝国の原理を受け継ぐ唯一の真の後継者である。神々の名のもと、シロディールを征服してレマンの遺産の栄光を復興せねばならない。シロディールを堕落させ、ニルンに脅威をもたらしている病的なデイドラ崇拝を、タムリエルから一掃しなければならない。タムリエル・カバナントを設立し、新たな王朝のもとですべての王国に大議会の席を与えるのだ。

進め、カバナントの兵士達!神々の名のもとにすべての人々を自由にしろ!新たな帝国、新たな法と正義の時代のために!

様々な宗派:オークVarieties of Faith: The Orcs

帝国大学 ミカエル・カルクソル修道士 著

オークは他の神の存在も認識しているが、崇拝する神は1つだ:

マラキャス、またはモーロッチ(オークの父、偉大な族長):

オークはモーロッチを最初のオークとして崇めており、名誉や報復などの問題について指示するモーロッチの掟に従って生きる。

モーロッチの掟

掟は明白に述べるよりも暗示することが多いが、以下が記されている:

——鋳造と鍛冶への敬意。
——族長とその妻達の伝統的な役割。
——挑戦と戦いにより新しい族長を選ぶ伝統。
——罪を犯した者は被害者(または被害者の親族)に「血の犠牲」を払うという習慣。
——名誉を傷つけられた者は復讐するという条件。
——戦いで死ぬことはモーロッチを満足させるという認識。

トリニマク教団

多くのオークがエルフの神トリニマクがボエシアに食べられ、排泄された時にトリニマクはマラキャスに、全信者はオークに変異したという起源の神話を信じている。オークの種がエルフに由来するというこの説を信じる者は自らを「オーシマー」と呼ぶ。

ゆえに、オークの中にはマラキャスよりトリニマクを神の祖先として崇拝する者がいる。トリニマク教団のオークたちの主張によると、トリニマクはその体内を通ることで腐敗するとボエシアには信じ込ませ、実際はボエシアの力の一部を吸収して信者に分け与えたという。この考えではオーシマーを「進歩したエルフ」ととらえることができる。

様々な宗派:ブレトンVarieties of Faith: The Bretons

帝国大学 ミカエル・カルクソル修道士 著

八大神

アカトシュ(時の竜神):アカトシュは八大神(シロディールおよびその各地方に普及している一大宗派)の主神であり、タムリエルのすべての宗教で登場する二つの神の一方である(もう一方はロルカーン)。一般に、始まりの場所に出現した神々のうち最初の神だったと見なされている。アカトシュの存在が確立すると他の神格も存在という過程を経るのが容易になり、世界中に様々な神々が登場したという。アカトシュはシロディール帝国の究極神であり、そこでは耐久、無敵、そして永劫に続く正当性などの資質の象徴とされている。

キナレス(大気の女神):キナレスは八大神の一員であり、天空を司る中では最も力のある神格であり、船乗りと旅人を守る。伝説によってはロルカーンの案に最初に同意し、虚無の中に次元を作るための空間を確保したとされている。彼女は雨とも繋がりがあるが、これはロルカーンの神性が失われる以前にはなかったという。

ジュリアノス(叡智と論理の神):ノルドの言語と数学の神であるジュナールとの繋がりがしばしばあるジュリアノスはシロディールの文学、法学、歴史と矛盾の神である。ブレトンの魔術師に最も好まれる。

ディベラ(美の女神):八大神の一員で人気のある女神。様々な分派が存在し、女性を尊ぶもの、芸術家や美学を尊ぶもの、性愛の指導を身上とするものなどがある。

アーケイ(生と死の円環の神):八大神の一員であり、他の地方でも人気があるアーケイは、父であるアカトシュが時の神としてあまり扱われていないか、あるいは人々に分かりにくい場合、その文化集団で重要視されていることが多い。アーケイは埋葬と葬儀の神であり、四季との繋がりがある場合もある。アーケイの司祭は死霊術およびあらゆるアンデッドに対し強い敵意を抱いている。アーケイは世界がロルカーンの指導/推奨/欺まんのもとで作られるまでは存在しなかったと言われている。そのため、定命の者たちの神と呼ばれることもある。

ゼニタール(労働と商業の神、商いの神):
八大神の一員であるゼニタールは当然ながらボズマーのズェンとの関連がある。しかしハイロックでは格段に洗練された商人や職人、中流貴族の神となっている。信者たちはその謎めいた出自にもかかわらず、ゼニタールは常に勝利する神だと主張する。

マーラ(愛の女神):ほぼ全ての宗派に存在する女神。元々は神話の時代の多産の女神として登場した。ハイロックでは母神とされている。マーラは時にアヌアドのニール、すなわち宇宙の女性的基盤であり、創造を生み出した存在と関連づけられている。ブレトンの神話では、マーラはアカトシュと夫婦になっている。

ステンダール(慈悲の神):八大神に属するステンダールはノルド由来の神から思いやり、時には正しき統治の神へと発展している。ステンダールは執政官、支配者、遍歴の騎士の守護者とされている。

ブレトンの宗派で著しく重要とされる神

マグナス(メイガス):魔術の神であるマグナスは最後の最後で世界の創造から身を引いたが、その代償は大きかった。この世に残っている彼の名残りは定命の者たちに魔法として認識され、操られている。伝説の一つでは、定命の次元を生み出すこと自体はロルカーンの発案だったものの、実際の構築に必要な図式や図表を作り出したのはマグナスだったとされている。マグナスは黄金の目、天体観測儀、望遠鏡、もしくは、もっとも一般的である杖の姿で描かれることがある。シロディールの伝説でマグナスは強大な魔術師の体に宿り、力を貸すことができると言われている。

イフレ(森の神):時の竜アカトシュが神の王であっても、イフレは「現在」の霊魂として崇拝されている。エルフによると定命の者の次元の誕生後、何もかもが混沌に陥っており、最初の定命の者たちは植物に姿を変えては動物に変化し、再び戻ることを繰り返していた。そこでイフレがアース・ボーンズを意味する最初のエルノフェイ、もしくは「アース・ボーンズ」に姿を変えた。これら自然の掟が確立した後、定命の者たちは新たな世界を理解することで、ある程度の安全を確保できるようになったという。

シェオール(バッドマン):ハイロックでは、バッドマンがあらゆる争いの元凶とされている。当初は凶作の神であったが、今日の神学者の大半はノルドのショールやアルドメリのロルカーンを悪魔化したもので、サールザル陥落後の暗黒時代に誕生したものと見なしている。

フィナスタール:サマーセット諸島の英雄神であり、アルトマーに歩幅を狭めることで自然の寿命をもう100年延ばす方法を伝授したとされている。ディレニの守護神にして「教師」であり、エルフの血を強調するブレトンの魔術師に崇拝されることが多い。

グリーンシェイドの伝承

Greenshade Lore

ウーズ:ある寓話The Ooze: A Fable

これはヴァレンウッドに棲むウッドエルフの子供たちが、幼いころから聞かされる物語である。

かつて、この世界のものには形がありませんでした。大地の様子は定まらず、木々は硬い幹や枝や樹皮を育まず、エルフたち自身の姿も絶えず移ろい、一つにとどまらなかったのです。この渾沌が、「ウーズ」と呼ばれました。

ところが、イフレがウーズを取って命じました。イフレはまず、「緑」について語ります。「緑」とは、森とそこに生い茂る全ての植物を指します。イフレは「緑」に思い通りの形をとる力を与えました。なぜなら、それがイフレの語る最初の物語だったからです。

エルフは、イフレが語った2つめの物語でした。イフレが物語を紡ぐのに合わせ、エルフは今の姿になりました。イフレは彼らに物語を語る力を与えましたが、自分自身や「緑」の姿を変えようとしてはならないと戒めました。森の姿を変え、森を破壊することは禁じられたのです。

そのかわり、イフレはウッドエルフたちを「緑」に委ねました。雨露をしのぐ住まいと安全な道は、「緑」に頼めば与えてくれるのです。そして、彼らが尊ぶ気持ちを忘れないかぎり、「緑」は言うことを聞いてくれるのです。これを、「グリーンパクト」と呼びます。

最後に、イフレは大地を歩く生き物と川を泳ぐ生き物と空を飛ぶ生き物全てについて語りました。イフレはそれらを、生きる糧としてウッドエルフに与えたのです。彼らは植物をいっさい食べず、肉だけを食べることになりました。イフレはまた、ウッドエルフに殺されたウッドエルフは土に還ることが許されず、他の生きもの同様、食糧として消費されなければならないとも言いました。これが、「ミート・マンデイト」と呼ばれるものです。

物語が語られるたび、イフレはそれらが満足のいく形をなすよう取り計らいました。けれども、ウーズのなかにはウーズのままでいるものもありました。そこでイフレは最後の物語を語り、そうしたウーズにも目的を与えました。

「緑」の姿を変えたり「緑」を損なったりしてグリーンパクトに背いたウッドエルフは、罰として形を持たないウーズに戻されるようになりました。彼らの名前はイフレが語る物語から消され、沈黙に置き換わるのです。

ウッドエルフの間で、「緑」に愛された者はウーズに囚われた罪人を解き放つ力を持つと言われています。もっとも、そうやって解放された者たちがどこに向かい、どんな形を取るかは知られていません。

ウーズを見たことがある者は誰もいません。そこに囚われた人々の声を聞いた者もいなければ、彼ら罪人たちをこの業罰から救うことができる者に会った者もいないのです。でも、ウーズを「ただの物語」だと思うかどうかウッドエルフに尋ねれば、決まって次のような答えが返ってくるでしょう。「”ただの物語”なんてものは存在しない」と。

ウッドエルフのグルメガイド、第1章The Wood Elf Gourmet, Ch. 1

ウッドエルフなら誰しも、内側の部位ほど美味だということを知っている。他の種族は肉を調理するにしても、血が蒸発してぱさぱさになるまで火を入れるし、内臓や脳味噌は捨ててしまうが、ウッドエルフはそういった部分こそ最もジューシーで、したがって最も風味豊かであることを知っているのである。

次に紹介するのは、ヴァレンウッドのグリーンシェイド地方に伝わる名物料理である。

鹿肉の壺詰め

指で触れて柔らかくなるまで腰臀部を吊るす(5日間)。

腰臀部を中火で加熱する。その際、油を塗ると外側をカリカリにできる。肉がぱちぱち言い始めたら、火からおろす。

熱々の肉を甕か壺に入れ、出し汁とタマネギのみじん切りを加えてふたをし、そのまま2週間寝かせる。

食卓に出すときは壺の蓋を開け、肉を出し汁と一緒にそのまま皿に盛る。とても柔らかいので、ナイフで切り分ける必要はない。

この料理は4人家族がお腹を満たせる量だし、数日獲物を仕留められずにいた猟師1人を満足させるだけの量がある。

こういった名物料理は他にもたくさんあり、親から子へと伝えられるケースも少なくない。

ウッドハース:ポケットガイドWoodhearth: A Pocket Guide

ファリネスティが姿を見せなくなってから、ウッドハース以上にウッドエルフの性格と歴史を余すところなく示している都市はない。

ヴァレンウッドの南西岸に位置するウッドハースは、もともとは帝国の入植地であり、最初はつつましい街だった。その地域に点在するウッドエルフの集落との交易を促進する目的で時の皇帝が建設し、歴代の皇帝が維持してきたのである。

にぎわう港町であると同時にヴァレンウッドの自然の脅威から人々を守る砦でもあったウッドハースに対する近在のウッドエルフの反応は、好奇心と友好的態度、それに敵意が入り交ったものだった。

敵愾心の強いボズマーが防壁に攻撃を仕掛けてきたことも一度や二度ではない。その内の何度かは、強力な破壊魔法を集中的に浴びせることで、防壁の一部を崩落させることに成功している。もっとも、せっかく防壁を破壊しても、帝国軍の粘り強さと優れた装備の前に、結局は撃退されてしまうのが常だった。

やがて、ヴァレンウッドのグリーンパクト・ボズマーの間でついに和平が結ばれる。すると、ほどなくしてボズマーの集落が出現し、帝国の建築物の数を上回るようにさえなった。ウッドエルフが自分たちの住む森との間に結んでいるあの特別な関係の賜物として、ボズマーの集落の特徴である木の家や歩道が生まれたのである。

ボズマーが帝国を助ける勢力になったことで、ウッドハースの統治は徐々にウッドエルフ自身に任せられるようになって行く。樹の従士が置かれ、インペリアルの建設した区画こそさびれはしたが、全体としてウッドハースの街は栄えた。

それから一世代の内に、ウッドハースの樹の従士の評価は高まった。揺るぎない指導力を発揮し公正な裁きを行うという評価が、ウッドエルフのみならずその同盟者たちの間にも定着したのである。

この原稿を書いている現在、ウッドハースの樹の従士はファリエルであり、彼女は樹の従士としてのみならず、創設間もないアルドメリ・ドミニオンのアイレン女王の元、サルモールのメンバーとしても統治を行っている。海辺の聖域と共にヴァレンウッドの主要港の地位を保つウッドハースは、今やありとあらゆる種族が住む、種族のるつぼと言っても過言ではない。

クランマザー・アニッシの言葉パート1Words of Clan Mother Ahnissi, Pt. 1

クランマザー・アニッシから愛する娘達への言葉

パート1

アニッシは教えよう。あなたはもはや子猫ではないし、アニッシに隠しごとをすることも覚えた。だからアニッシは話そう。

初めは、オーナールとファドマイというつがいがいた。様々な局面が過ぎ、ファドマイはオーナールに、「結婚して子供を作り幸せを分かち合おう」と言った。

そして彼らの間に最初の猫、アルコシュが生まれた。オーナールは「アルコシュよ、時間を与えよう。猫のように素早く、ときにはゆっくり動くものは何だ?」と言った。

それから風のケナーシが生まれた。「ケナーシよ、お前に空を与えよう。何が風より高く飛ぶのだ?」

そして猫の目のマグルスが生まれた。「マグルスよ、お前に太陽を与えよう。何が猫の目より明るく輝くのだ?」

そして母猫のマーラが生まれた。「マーラよ、お前は愛である。何が母の愛より優るのだ?」

そして子猫のスレンダルが生まれた。「スレンダルよ、お前に慈悲を与えよう。慈悲なくしてどうしたら子猫は生き延びれるのだ?」

様々なことが起こり、オーナールとファドマイは幸せだった。

オーナールが、「もっと子供を作って幸福を分かち合うべきだ」と言った。それにファドマイも賛成した。そしてハーモーラーが生まれた。その後、ハーシーン、マールンズ、マファラ、サンジーン、シェッゴロス、他にもたくさんの子供が生まれた。

ファドマイはこう言った:

「ハーモーラーよ、お前は潮汐です。月が潮の流れを予測できるのか、それとも潮の流れが月を予測するのか、誰に分かりましょう?」

「ハーシーンよ、お前は腹を空かせた猫です。腹を空かせた猫より上手に狩りをするものは何ですか?」

「マールンズよ、お前はジャ・カジートです。子猫より破壊的なものは何ですか?」

「マファラよ。お前は一族の母です。一族の母のやり方より明かされないものは何ですか?」

「サンジーンよ、お前はスクゥーマの猫です。スクゥーマの猫より正気でないものは何ですか?」

そしてオーナールは「子供は2人で十分だ。子供が多すぎると幸せを奪われてしまう」と言った。

しかし、ケナーシはファドマイのところへ行き、「母よ、ケナーシは兄弟のアルコシュでさえも飛べないほど高い所に飛んでしまえるので寂しいです」と言った。ファドマイはケナーシを可哀そうに思い、オーナールを騙して再び身籠った。

ファドマイは月とその動きを生み出した。次に魔法の砂と豊富な森のニルニ、そして黄昏と暁のアズラーを生んだ。

最初から、ニルニとアズラーは母親の愛を奪い合った。

オーナールはファドマイが出産しているとき彼女を捕まえた。オーナールは怒った。オーナールはファドマイを打ちつけ、彼女は最後の子供を生むために深い闇の奥へと逃げた。子供たちはこの出来事を聞き、母を父の怒りから守るためにやって来た。

そしてファドマイは、最後の子供ローカジュを深い闇の中で生んだ。ローカジュの心は深い闇でいっぱいだった。ローカジュが生まれると、深い闇はその名前を知った。それがナミイラであった。

クランマザー・アニッシの言葉パート2Words of Clan Mother Ahnissi, Pt. 2

クランマザー・アニッシから愛する娘達への言葉

パート2

ファドマイは自分の死期が近いことを悟り、こう言った:

「ジャ・カージェイよ、お前にラティスを与えよう。月の側面よりしっかりとしたものは何ですか?お前の止まることのない動きは我々をオーナールの怒りから守るでしょう」そして、月は天より出てしかるべき場所に着いた。オーナールの怒りが轟き渡り深い闇は揺れたが、彼はラティスを渡ることはできなかった。

「ニルニよ、お前に素晴らしいものを残しましょう。ファドマイが今日まで子供を授かったように、お前もたくさんお子宝に恵まれるだろう」アズラーには何もないことが分かると、ニルニは笑った。

アズラーを除いてファドマイの子供たちは全員去った。ファドマイは「私のお気に入りの娘よ、お前に最も素晴らしいものをあげよう。ファドマイはお前に秘密を残します」と言って、娘に3つの事を話した。

ファドマイは「ニルニに子供がたくさんできたら、1人選んで変化させなさい。機敏で賢く、美しくし、カジートと呼ぶのです」と言った。

「カジートは最高の登り手でなければいけません。マッサーとセクンダが落ちても、ケナーシの息吹を登って月を彼らの道に戻さなくてはなりませんから」

さらに「カジートは最高の詐欺師でなければいけません。いつもオーナールの子供たちに自分の性質を隠さなくてはなりませんから」

「カジートは最高の生存者でなければいけません。ニルニが嫉妬して、砂をザラザラにし森を激しいものにし、常にニルニとの戦いで飢えるからです」

このような言葉を残してファドマイは息を引き取った。

様々な局面が過ぎ、ニルニがローカジュのもとにやって来てこう言った。「ローカジュよ、ファドマイは私にたくさん子供を生めと言いましたが、そんな場所はありません」

ローカジュは「ローカジュが子供たちのために場所を作り、お前はそこで子供を生める」と言った。しかしローカジュの心は深い闇でいっぱいだった。ローカジュは姉妹を欺き、2人はニルニとともにこの新しい地へ行くしかなかった。ファドマイの子供の多くは逃げ、星になった。ファドマイの子供の多くはニルニの歩みを安定させるために亡くなった。そして生き残った者は残り、ローカジュを罰した。

ファドマイの子供たちはローカジュの心を引き出し、ニルニの内側奥深くに隠した。彼らは「騒がしいローカジュよ、我々はお前を呪う。色々な段階をニルニと歩むように」と言った。

しかしニルニは子供を作るため、すぐにローカジュを許した。彼女は子供たちで満たされたが、お気に入りの子供、森の精は自分の姿が分からなかったので泣いた。

アズラーが来て「哀れなニルニよ、泣くのを止めなさい。アズラーからお前のために新しい子供を送ろう」ニルニは泣き止み、アズラーは月への第1の秘密を話した。2人は分かれて、アズラーを通した。アズラーは人間と野獣の狭間で悩んでいた森の精を、最高の砂漠と森へ連れて行った。アズラーはその見識で数多くの形に彼らを変えた。全ての目的に合う1つの姿にした。アズラーは彼らをカジートと名づけ第2の秘密を話し、秘密の価値を教えた。そしてアズラーはニルニの秘密の護衛者にふさわしいよう、新しいカジートを月のラティスと結びつけた。それから第3の秘密を話した。月は沼地を照らし、その光は砂糖になった。

しかしワイファーは第1の秘密の話を聞き、アズラーの後ろについて忍び込んだ。ワイファーは秘密について理解できず、アズラーの罠のことをニルニに話した。ニルニは砂漠を熱し、砂は燃えるようにジリジリした。それから森を濡らし猛毒で満たした。ニルニはワイファーに感謝し、森の精を変えさせた。ワイファーにはアズラーの巧妙な知恵はなかったので、森の精をエルフにし、2度と野獣にならないようにした。彼らをボズマーと名づけた。そのときから、彼らはもはやカジートとは同じ子供ではなくなった。

そしてワイファーは秘密の価値を理解していなかったので、息を引き取るまで第1の秘密を大声で触れまわり、ファドマイの子供たちは全員ラティスを渡れた。しかしアズラーは賢く、オーナールとローカジュの耳を塞いで、その言葉が聞こえないようにした。

グリーンパクト・ボズマーが見る幻視Visions of the Green Pact Bosmer

以下はモルヴァス・アンドリスによる4巻からなるグリーンパクト・ボズマーの研究書からの抜粋である。この研究は第一紀に3年間続けられたが、モルヴァス・アンドリスがとある弔い合戦で命を落とし、研究していたクランに貪り食われたことで途絶した。

…ファニリエルは齢100歳にして沼地の発光ガエルを食べ、上下が逆さまの樹木都市、ハートグリーンの幻影を見た。そこには逆立ちをして両手で歩くエルフたちが住んでいたという…

…「窃盗の権利」後の請求に成功した回数が200回を超える怪盗ヴァニリオンは、かつて森の真ん中に現れた木に登り、幻視を見たと言われている。

その木は葉が紫色で、ヴァニリオン自身の言葉によれば、そうした紫色の葉に囲まれて座っていると、得も言われぬかぐわしい匂いがしたという。その甘い香りを嗅いでいるうちに、ヴァニリオンは心が穏やかになり、一種陶然とした境地に入った。樹木が環状に茂る森が見えたのは、その時である。森に足を踏み入れたヴァニリオンだが、奥へと進むにつれて樹木の環は広がり、いつまでたっても森の中央にたどりつけない。

そうやって森の中をさまよううちに、ヴァニリオンはそれまでに見たこともないほど美しい霊魂に出会う。その霊魂は話す時、文章が堂々巡りをするよう、本来最後に来るべき言葉をあえて頭に置いた。「横になりましょう。おいでなさい。川のほとりで一緒に」

木の葉の強力な芳香によって恍惚境に陥っていたヴァニリオンは、枝から落ちてようやく我に返った。命に別状はなかったが、落下の衝撃で片脚を折ってしまい、盗賊家業は廃業した。ヴァニリオンはその後の人生を、葉が紫色の木を探すことに費やしたが、ついに見つけることはできなかった。

私は樹の従士に尋ねて見たことがある。パクト・ボズマーはそうした幻視を「見る」と言うが、「思い浮かべる」と表現するほうが適切ではないかと。というのも、こうした奇妙な幻影に登場する都市や森やその他の驚くべき事象が、ニルンにもオブリビオンにも実在しないことは明らかだからだ。

その樹の従士は、何やら当時流行りの発酵牛乳らしき臭い飲みものを長々とあおると、自分の足元を見つめ、それから空を見上げておもむろに答えた。「世界は自分の目で見える範囲で終わっているとあなたがたは言う。我々は違う。自分の目で見える範囲を超えたところから、世界は始まるのだ」

グリーンパクトとドミニオンThe Green Pact and the Dominion

木々が太陽に向かって伸びるように、また、月が出ている夜は出ていない夜と違う鳥たちのさえずりが聞こえるように、ヴァレンウッド生まれのウッドエルフならば誰しも(そして、ヴァレンウッド生まれでないエルフのほとんど全てが)グリーンパクトについて知っている。

グリーンパクトとは我々ウッドエルフが、大いなる物語の始まりから我々を導き、生き方を教えてくれているイフレと交わした約束である。

グリーンパクトの定めは明快だ。森を傷つけてはならない。植物由来のものは一切口にしてはならない。食べるのは肉だけにせよ。敵を征服したときには、骸が土に還るに任せず、その肉を食らうべし。無駄な殺生はこれを禁ずる。汝らウッドエルフの姿は神聖なものゆえ、獣の姿をとってはならない。

これがグリーンパクトである。この協約を守る見返りに、森——我々は「緑」と呼ぶが——は充分な食べものと雨露をしのぐ住まいを提供してくれる。森が、我々の要請に応じて自ら姿を変えてくれるのである。これは、イフレが我々ウッドエルフだけにくれた特別な贈り物だ。おかげで、我々は満ち足りた暮らしを送ってきた。

ところが今、我々は未曽有の状況に置かれている。我々の新しい盟友たち、すなわちハイエルフとカジートは、グリーンパクトを守ろうとしない。彼らは草葉と木材でこしらえた家に住み、ありとあらゆる種類の果実を食べ、ブドウから造ったワインを飲む。敵を貪り食うなど、彼らから見れば野蛮人の所業以外の何ものでもないのだ。

こういった盟友たちを、ヴァレンウッドのウッドエルフはどのように受け入れたらよいだろうか?それも、グリーンパクトを遵守しつつ、だ。これは今日多くのエルフを悩ませている問題であり、とりわけ、新たに建設されたばかりの街マーブルクに住むエルフたちの困惑は深い。我々は「緑」に対する冒涜の度合いで言えば、もっと些細な事柄をめぐって戦争をしたこともある。

一方、ドミニオン成立当時、グリーンレディとシルヴェナールがウッドエルフの利益とグリーンパクトの精神を代弁してくれたことを我々は知っている。そして今、サルモールにはウッドハースの樹の従士にして我々の力強い代弁者であるファリエルがいることを、我々は忘れてはいないのだ。

彼らはこの不確かな時代に我々が模範とすべき指導者たちだ。彼らは自らの振る舞いを通して、我々にたどるべき道を示してくれている。我々は新しい盟友たちを、ウッドエルフならではの歓待で迎え入れるべきだ。彼らに喧嘩を吹っかけてはならない。彼らから盗みを働くような真似は、慎むべきだろう(彼らの多くは「窃盗の権利」というものを正しく理解していないのだが、それはまた別の機会に論ずる)。しかし同時に、我々は自分たちの利益、そして「緑」の利益を守るためにはっきりものを言うことを、ためらうべきではない。

樹の従士たるファリエルが力強い弁舌をふるってくれたおかげで、マーブルクで使う木材の多くと草葉の全ては他からヴァレンウッドに運び込まれた。一方、街を建設する場所を作るためにおびただしい数の樹木が切り倒されなければならなかったという事実は、多くのウッドエルフにとって許しがたいことだ。ただ、ファリエルの見るところ、新たな盟友たちを受け入れることは、ヴァレンウッドを破壊するに違いない連中に対する強力な防備を構築するための第一歩なのである。

我々の意見に進んで耳を傾けようというアイレン女王の姿勢は、彼女が優れた知性の持ち主であることと、彼女がウッドエルフの民に敬意を抱いていることを示している。であれば、我々は女王の指導力を積極的に信頼することで、彼女の厚意に報いるべきであろう。

さまよえる王の伝説The Wilderking Legend

——作者不詳の口承文学を聞き書きしたもの——

歌え、ヴァレンウッド。叫べ、「緑」よ
動く者、形を与える者の物語を語れ
その名はさまよえる王

彼の目は世界に向かって突き出し
知覚するもの全てに触れる
彼は思考によって、形を与える

果たして彼はどこにいるのか
山だろうか
森だろうか

否。そこに彼はいない
なぜなら、「そこ」とは場所であり、場所には際限がある
さまよえる王に際限はない

彼は宮廷にして玉座
彼は宮廷にして玉座
彼が歩めば、踏み出した足は自身の上に落ちる

彼の足音と地響きを、誰が聞かずにいられるだろう?
彼の到来とともに大地は震える
地下から彼のホロウがせりあがる

さざ波一つない水面の儚い静けさが
極小の石つぶてで粉々に砕けるごとく
さまよえる王が通り過ぎる時、恐るべき力が伝わる

叫べ、ブランブルブリーチよ!むせび泣くがいい、影の守人よ!
さまよえる王は味方にして敵
敵にして味方なり

彼の足音を、誰が記録にとどめられるだろう?
彼が口を開いて歌う時
誰がその旋律を耳にできるだろう?

ネレイドの贈り物Gifts of the Nereids

幼い時、私は両親に連れられ、司祭たちがネレイドを崇める洞窟を訪ねた。両親は我が子もいつか司祭になれるかもしれないと、私をその聖堂に捧げたのだった。

その聖堂には、私の他に3人しか子供がいなかった。10歳になるまで、私はその3人にからかわれ続けたが、それは私の片脚がもう一方より短く、短いほうの脚を引きずって歩いていたからだ。

ある日、私たち4人は洞窟の中を走り回っていた(こうした行為は禁じられていたが、司祭たちは子供が子供らしく振る舞うのにいちいち目くじらを立てず、見て見ぬふりをしてくれることが少なくなかった)。そのとき、私は何かに蹴つまずき、顔から池に落ちてしまった。私は頭を打ち、気を失った。他の子供たちは私よりもずっと先を走っていたので、この異変に気づかなかった。

後で司祭たちに聞いたところでは、ネレイドの1人が溺れる私を助けてくれたらしい。その時私は何も憶えていないと言ったが、時間が経つにつれ、水中を浮上する感覚と、そのとき覚えた一種の戦慄に似た感覚を思い出した。それは、見てはいけない何かを見てしまった時、定命の存在が目にするには美しすぎる何かを見てしまったときに覚える感覚だった。

司祭たちは私たちにネレイドとの関わりかたを教えてくれた。私たちは「ネレイドの贈り物」という次のような文句をそらんじ、毎日繰り返し暗唱することを求められた。

ネレイドの贈り物は次の3つから成る:
姿の美しさ、
歌声の甘美さ
そして、その庇護である。

年長の子供らには、儀式を執り行う司祭たちを補佐する役目が与えられた。中央の祭壇にはネレイドに捧げる肉が運ばれる。そして年に1度、司祭の1人が洞窟の奥深くに入り、ネレイドの歌声に包まれて瞑想する。瞑想を終えて戻ってきた司祭は、預言を皆に伝えるのが常だった。

子供らは一定の年齢に達すると、聖堂に残って司祭になるか、それとも追放されるかを選ばなければならない。幼いころからずっと洞窟の中で過ごしてきた私には、他の生き方など想像することもできなかった。だから、司祭になる道を選んだ。そんな私でも、ときどき陽の光が恋しくなることがある。そしてそういう時には、もし追放を選んでいたら、自分が今頃どこにいてどんな光景を目にしていたかと、想像を巡らせずにはいられないのだ。

最も古き者:巡礼の話The Eldest: A Pilgrim’s Tale

輝かしい春。大地が雨に酔いしれ、太陽がヴァレンウッドに微笑む季節。ウッドエルフは旅に出て、齢経りたストラングラー、最も古き者のねぐらを訪ねる。そこで彼らはその年も春が訪れたことをイフレに感謝し、最も古き者の枝に囲まれて、自分たちの故郷の歴史をひもとくのである。

その後、グリーンパクト・ボズマーの主宰で、春と最も古き者を祝う盛大な宴が催される。宴は夜になっても続き、エルフたちは過去の宴や巡礼の逸話を肴に美酒を飲み交わし、佳肴に舌鼓を打つ。

宴で語られる逸話は神聖なものもあれば冒涜的なものもある。

例えばある逸話では、悪名高い戦士長に率いられた軍隊が最も古き者の住処の前で進撃を止め、住処の主に尊敬の念を示すため中に入っていく。住処から出てきた彼らは武器を捨て、そのまま立ち去った。彼らは二度と戦をしなかったという。

対照的に、こんな逸話もある。とある悪戯好きなウッドエルフが、森林マンモスの糞を挽いて粉にしたものを巡礼者たちのパンチ酒に混ぜた。そのせいで宴の参加者はみな、それまで嗅いだこともないようなすさまじい悪臭を放つ放屁に悩まされるようになる。宴が続き夜が更け、臭いがいよいよ耐えがたいものになってくるにつれ、彼らはうめき声をもらしたが、やがて鼻が慣れてしまうと、うめき声は爆笑に変わり、その笑い声が森を満たしたという。

宴で語られる逸話には、この巡礼の走りとなった男女の話もある。彼らは子供のいない老夫婦で、最も古き者を我が子のように世話したという。この2人が、初代のシルヴェナールとグリーンレディになった。

巡礼が語る逸話は他にも数多くあるが、書き留められているものは少ない。興味のある向きは春に最も古き者の住処を訪れ、逸話が語られるのを自分自身の耳で聞き、齢経りたストラングラーの姿を自分の目で拝むべきだろう。

グラーウッドの伝承

Grahtwood Lore

アウルビクの謎4:エルデンの木Aurbic Enigma 4: The Elden Tree

〈告げ示す者〉ベレダルモ 著

樹皮から明らかになった真実がある

アダマンティアのスパイクとゼロストーンは、彼らの物語もしくはドラゴンの(時に縛られた)寓話の展開の中にある本質をアース・ボーンズのために解明するため、アウルビクに関連する真実の構造を口述筆記させた。アルドメリの神話紀のエルフは単一の目的を持っていたが、それは他の塔がそれぞれの石を持ち、それぞれ集注の設計者によって刻まれた規則に従う物語をするかも知れないと気付くまでの話だった。そしてエルフはそれぞれ屈折し、それぞれが創造を始めた。チャイマーはレッドハートに従い、ボズマーはグリーン・サップを芽生えさせ、アルトマーはクリスタルのような法を創設した。

しかし様々なエルフの中でも、ハートランドのアイレイドほど厚かましいものは無かった。彼らはアダマンティアの露骨な模倣にて塔を建て、彼らの発掘した偉大なるレッド・ダイヤモンドを礎石として使った。ロルカーンの心臓そのものから取った血液を結晶化したと言われるチム・エル・アダバルである(ハートランドを超えてきた矢の付いた心臓は、その4つのうちの1つの意味を生み出した)。

知っての通り、次の様に白金は一の塔となった

聖蚕の目に予言された様に、アイレイドの慢心は辛い結果を招いた。オーバーワールドを見据える彼らの高い理想のせいで、奴隷達が決起して塔を彼らから奪うまで、足元で煮え立つネードの波風に気付けなかった。チム・エル・アダバルも同様に奪われたが、アークメイジのアヌマリルはその時までに、八叉の塔杖を作っていた。各部位が踊りにおける塔の外観を示していた。そしてその時、7つの部位が白金の騎士達によって遠く折り畳まれし地まで運ばれ、そこで隠された。

(これはすべてペリン・アルエッシアには確実に知られていなかった、もしくは異なる八大神がいたのかも知れない!)

こうして、白金はグリーンサップに変わった

ボイシェ・エルフはイェフレと緑の歌に最も耳を傾けたアース・ボーンズであった。彼らは塔を建てず、不確実なドングリから広がる偉大なるグラー・オークを拡大した。これが彼らの石だった。そして、ドングリが他のどこかにもいた可能性があるため、グリーンサップは多様で様々な存在になった。そして、各々歩むことができた。

それゆえ、それぞれのグリーンサップはあらゆるグリーンサップでもあった。真実の結末を持つ全ての緑の話がそれぞれにされており、その点で扉は常に不確実な扉だった。しかし、彼らの本質はプリズムの分裂の中にあったので、ボイシェはボズマーに成ることに慣れ、不確実な扉を楽しむ様になった。こうして、ボズマーはどの歌が木を踊らせるのか、どの踊りをしてもよいのか学んだ。

さて、8つの部位、もしくはアヌマリルがその外観を、零の塔を反映している一の塔として作った一の部位へ話を戻そう。アイレイドがハートランドから逃れた時、彼らは四方八方へ向かい、その行先は選択の余地があったが、多くはその先で終焉を迎えた。しかしヴァレンウッドへ逃れたアイレイドは、その他の方向へ行った者達よりも多く吸収された。これもまた選択の一つだった。これらのクランの中で、アヌマリルは大腿骨として一の部位を身に着けた。歩くこと以外の方法のために、スポークはハブを動かせるだろうか?

グリーンサップのエルフは、ハートランド人が緑の歌を調和させることに応じる限り、アイレイドを歓迎した。気付かれぬ様、手を当てて咳をしたアヌマリルを救うために、皆これに応じた。アヌマリルは偉大なるカモランにグリーンサップを見せる様頼み、その時エルデンルートに偶然立っていた一つの元へ連れていかれた。偉大なるグラーの内部で彼は不確実な扉を通り、彼が求めていた不確実なドングリを見つけた。それは多くのうちの一つだったが、アヌマリルにとっては十分だった。

次にアヌマリルは、一の部位を根の先へ運び金の木の実に見せて結末を告げた。石を確実なドングリにするために。そのエルデンの木は再び歩くことはできなくなったが、アヌマリルはさらに活用する意図を持っていた。歯を楽器として使い、彼は自分の骨を徐々に取り除き、それでニルンとその惑星を映し出すムンダス・マシーンを作った。そしてこの太陽系儀を作り出すためにすべての材料を使い終わった時、その部位の杖を内に置き、月と月の間に隠した。

そして彼は待った。しかし彼の待っていたことは起きず、おそらく彼はいまだに待っているだろう。アヌマリルはハートランド人が新たな領域を作れるように、グリーンサップを白金に変質させることを望んでいた。しかし、なぜ自分の計画が見込みを外れたのか、アヌマリルは知らずそもそも知ることができなかった。お分かりのとおり、アイレイドの魔法は起こるかも知れない、起こるであろう、起こるに違いない事柄だ。しかし、グリーンサップの元で、すべては不確実なのである。

アイレイドの計画は成功しなかった。そして失敗もしなかった。これはいまだに結末のない話だから。

ヴァスタリーの伝説The Legend of Vastarie

生徒にして友 アフワ 著

死霊術は召喚師によって用意された、もしくは場合によっては作り出された魂の支配として広く知られている。

技術的に正確を期した場合、これはこの方法で意思に反して呪縛された魂が、解放される望みなく閉じ込められることを示唆している。

また人間であれエルフであれ、構成物を占めている魂は常に知的能力があると考えられる様である。兵士や肉体労働者として死体に生命を吹き込むことによって固定化された、誤った考えである。

この誤解と誤用の可能性は、死霊術への非難と、マニマルコやその仲間達のアルテウム島からの追放を引き起こした。

エンター・ヴァスタリーはサイジック会の学徒であり、ヴァヌス・ガレリオンやマニマルコといった著名人と同時代の人物である。

マニマルコが死霊術の力を直接利用して力を探求する一方で、ヴァスタリーの目的ははるかに難解だった。彼女は知的生物が死んだ時に魂の解放を遅らせて協議し、その知識を長年保持する手段を探し求めた。

彼女はアルテウムを去った後、この目的のためにマニマルコと共に働き、下級デイドラを捕らえられる可能性がある、魂を閉じ込める方法を探求した。

モラグ・バルが秘密を隠していると信じた二人は、コールドハーバーに入って吸血鬼の始祖その人から奪おうと企てた。彼らは共に計画を立てた。

若者のみが持つ無鉄砲な勇気により、マニマルコと仲間達はデイドラ公の世界へのポータルを開いた。冒険を熱望したヴァスタリーは深く足を踏み入れ、見たこともない類の黒いクリスタルを持ち帰った。

マニマルコにとって、それは完璧なものだった。小さく、最も強き魂さえ入れることができ、一見すると不滅であった。ヴァスタリーにとっては非常に欠陥があった。魔法がなければ、魂を深みから自由にできなかったためである。

たとえそうでも、彼女は石を複製する仕事に取りかかった。分解して様々な物質と分析し、そして幸運にも新しいものを作り出した。それが最初の印晶石である。

クリスタルの様に透き通ったこの新しい装置は、知的生物の魂をその深みの中に閉じ込めることができた。だが支配の王から力ずくで奪った宝石と違って異常に壊れやすく、たった数日しかその力を保てない様だった。

一度閉じ込められると、魂は晶石の間を移転させられた。それを魂石として利用すると、魂が解放された。

ヴァスタリーは探し求めていたものを見つけたが、マニマルコは怒り狂った。魔法のために仕えない魂石などどうすればいいのだ?彼はヴァスタリーに、彼女の作品を彼の目的に合う様に修正する方法を探せと要求した。

彼女の友が探求を止めず、彼とのさらなる発見は彼の目標に向かうだけであると気付いたため、彼女は研究を集め、夫であり強力な死霊術師であるテラカルと共に去った。

彼らは共にマニマルコの手中から逃れ、ヴァレンウッドにあるアイレイド遺跡の奥深くに隠れた。彼らが長年住んだ場所は、彼らの技を完成させるためにこれ以上ないほど静かだった。彼らは数十年に渡りお互いを支え合い、幸せそうだった。ヴァスタリーが去る日までは。

その後数年、彼女はニルンの地をさまよい、力のある場所を探索した。彼女はウェイレスト、アリクル、水晶の塔、そしてデューンの蔵書庫を訪れ、彼女の魂を苛む疑問の答えを探した。

やがて彼女は探していたものを見つけ、ヴァレンウッドへ帰った。そこで彼女は塔を建て見習いを雇い、彼女の死霊術の特殊な型を教え、そして研究を進めた。

印晶石を使って、我々は下級デイドラの魂を呪縛し、魂石の力でオブリビオンへの帰還を遅らせた。それから、閉じ込められた霊魂をこの世界に表す方法に取り組んだ。

初期の試みは予期されていない、むしろ危険な結果をもたらした。晶石は砕け、壊れた水晶の破片は仲間の生徒の肉体に突き刺さった。誤用された力は生きた魂を小さな石に呪縛した。しかし、学ぶに連れて我々は、失敗を正し手法を洗練した。

ついにヴァスタリーは習熟した。死の瞬間に印晶石を使用することで、魂をその深みに留めることができた。召喚の応用によって、ゆっくりと協議できる場所である霊体の殻に引き込むことができた。

彼女はその発見を魔術師ギルドに手紙で知らせた。ヴァヌス・ガレリオン自身が、彼女の実演に立ち会いに来た。その実演は手法の実演に自主的に協力した、古い管理人と協議することを含んでいた。

彼女が魂を器具に呪縛した時、彼は衝撃を受け、過程が終了して古い管理人が解放され、エセリウスへ還ることができた時、彼は真っ青になった。

ゆっくりと彼は立ち上がり、集まった生徒達へ話しかけた。復讐の悪意と怒りを交えて話し、その様子は彼の気取らない態度から誰も予期しないものだった。話し終えると、身を翻して去った。

幾人かは彼を追った。誰も彼らを非難できなかった。彼は間違ってはいなかった。印晶石は危険な創造物だった。悪用されれば戦争の火種となり、歴史上前代未聞の破滅をもたらす可能性があった。

ヴァスタリーはくじけず、ガレリオンの頑固な無知は彼を破滅へ導くであろうと説得したが、数年内に何か他のものが彼女の注意を奪ったようだった。広大な遺跡が彼女の塔の基礎の下から発見された。それはデイドラ公の力によって、目と探知から隠されていたのだ。

やがて、彼女はその遺跡に入り、二度と出てこなかった。我々の一部は、今もなお彼女の帰りを待っている。

ヴァレンウッドで生き残ったアイレイドAyleid Survivals in Valenwood

タムリエル細目の第四階層学者 クラウドレストのクイヌア 著

この報告書は、我々の血縁であるウッドエルフの血統へ組み込まれた、アイレイドの血筋を強調することに教化的利点があるかどうか調査するため、サルモール同盟委員会によって委嘱された。広範囲にわたるヴァレンウッドへの旅によって、このテーマに隠れた歴史的事実を突き止めることができた。これらの事実が同盟親睦を深める有益な組織的活動を後押しできるかどうかは、委員会と教化サピアルチ次第である。

ダスクのプルリベルが彼女の権威ある著書「アイレイドの崩壊」で記しているとおり、第一紀243年の白金の大災害には破滅的な要因が様々にあり、契約していた人間の労働者による血の反乱は、主因ではないのかも知れない。プルリベルは、保守的なエドラを崇拝するアイレイドのクランと、退廃的で今なお確実に強力であり、デイドラ崇拝を取り入れたクランが対抗し合った、神話紀末期のナーフィンセル分裂を重要視している。私も同意見だ。この衝突は、第一紀198年にウェンデルベックの粛清で、アタタアのグリンフェレン王がアイレイドの伝統主義者バルサエビクに対してデドラフィル戦士の連合軍を率いた時に頂点を迎えた。バルサエビクはハートランドからアルゴニア北西部へ追放され、それ以降シロディールにおけるデイドラ崇拝に対する組織的な反抗は事実上終わった。

いずれにしても一般的な見解からすれば、アイレイド文明は白金の塔がネードの残虐行為に屈するまでの数世代で次第に衰えた。素晴らしいエルフ文化の廃墟の中に佇みながら勝者は、敗れたクランを拷問と残酷を好む暴力的なデドラフィルに仕立て上げることで、虐殺の正当性を捏造した。奴隷女王の一団と運命を共にしたエドラ信奉者を大部分とするクランのために、例外が作られた。もちろんこれは彼らの根絶をただ遅らせただけに過ぎず、シロディールの他のエルフが絶滅に追いやられた後すぐ、残虐なネードは否応なくかつての盟友を追跡した。

この様に、ハートランドのエルフが新しい居住地をタムリエルのどこかに見つけようとするアイレイドの離散が始まった。そして明らかに、ある程度の成功を収めた。かつてファルマーが所有していた土地へ北の方から逃れた者達は、悪名高き虐殺者ヴレイジ率いるノルドによって虐殺された。その時までアルゴニアに定着していたバルサエビクはかつての迫害者であるアタタア人への迎合を拒否し、ほとんどのクランは猫人の領地への不運な遠征で消滅した。いくつかのクランはハンマーフェルからイリアック湾への長い行軍に出発し、一部は到達して、そこで長い歴史を持つバルフィエラのディレニに合流した(そして吸収された)。

最も成功を収めた、かなりの数がいるクランはヴァレンウッドの森林下にある南西へ逃れた。アヌトウィル、ヴィルヴェリン、タルウィンク、バウン、ヴァロンドのクランはみな、森の中に新しい生活を切り開くべくほとんど無傷で逃れた。これらのクランはみなデイドラ公達を崇拝していたが、ヴァレンウッドへの移住を強いられた後はその崇拝熱が薄れたかの様に見えた。おそらく、見捨てられたクランが助けを必要としている時に、デイドラ公達がほとんど、あるいはまったく手助けしなかった事実が原因だろう。幸い彼らの新しい主人であるボズマーは、ハートランドのエルフがグリーンパクトのあらゆる面を受け入れて森に害を与えない限り、アイレイドを領地へ受け入れることに驚くほど寛大であった。アイレイドは同意するしかなく、おそらくこれが彼らの文化を薄れさせる一因となった。

本来の形が薄められていくうちに、やがて吸収され、そしてついに忘れられた。私はヴァレンウッドの素晴らしいアイレイド遺跡を歩いた。ヘクタヘイム、ルレニルズ・フォール、ベララダ、ラエロリア、さらに1ダースもの遺跡。どれもあの離散から、2000年もまだ経っていないのだ。何らかの理由でアイレイドはある時偉大なるグラー・オークに従属し、その独特の文化は完全に消滅した。

ヴァレンウッドのアイレイドの絶滅を説明する時に、私の前任者であるヴェラスピドのゲルガラドは彼の「ディシェリテージの定説」、つまり何らかの理由により森のアイレイド同士で繁殖できなくなり、地元民のボズマーとの結婚でしか子孫を残せなくなったという説を重要視した。この説は確かにアイレイドの緩やかな消滅を説明するかも知れないが、残念なことにゲルガラドの定説は旧い物語や言い伝えに裏付けられているに過ぎず、事実による立証が欠けている。

シメレネ大学のセティス博士の反論はここで言及するに値する。彼女の説明はアイレイドの衰退を、以上に強いボズマーの飲み物を過剰摂取したことによるとしている。喪失への深い悲しみに傷つき易くなっていたアイレイドは、ウッドエルフの麻痺性のある飲み物に取りつかれてしまい、努力をやめてしまったとセティス博士は考えている。これに関しては、他の者達の勤勉な努力の誇示によってしばしば侮辱されるボズマー達自身から勧められたのかも知れない。

では我々の森にすむ血縁者は、アイレイドから何を学んだのであろうか?明らかに、高度な石細工と石工の技術の他はほとんどない。ハートランドのエルフの文化はウッドエルフの文化に永続的な影響をほとんど与えなかった様だ。ウッドエルフの意見は、エルデンルートの旧族長であるフォンロアにアイレイドについて尋ねたときの彼の返答である、以下の言葉に集約されている様に思える。「アイレイド?ああ、そうだな。いい奴らだった。だが自分達のことを真面目に考えすぎていたな。で、彼らに何が起きたんだ?」

ヴァレンウッドの標準的武器Common Arms of Valenwood

ミストラル・アウレリアヌス・テリスコル 著

ヴァレンウッドで、金属武器はあまり広く行き渡っていない。いくつかの地域においては泥炭や石炭で金属を鍛造可能な温度まで焼き上げられるとはいえ、ウッドエルフのグリーンパクトは火床を燃やすための木の使用を禁止している。他のボズマーは骨の棍棒か、石か黒曜石の刃の斧や槍を使用する。

ヘヴンやポート・ヴェリンのような沿岸部の街では、ボズマーの剣士集団がアルトマーの顧問の指導と輸入された金属武器の安定した供給から利益を得ている。妙なことに、ハイエルフはおそらくタムリエルで最高級であるボズマーの加工角弓を認めていない。

相互便益協定としてドミニオンを評する者はいるが、ここでは相互憤激協定とみなしたい。剣士集団が好例である。ほとんどのウッドエルフは伝統的なアルトマーの軍事教育に当たる知的訓練を受けていない。彼らは容易に気を散らし、訓練の哲学的観点に対する我慢強さもない。剣士集団のシステムを「適切なる闘争」と評したアルトマーの指導者は、その技能をより身長が低くリーチの短い弟子に適応させることを拒否した。

そこで、ボズマーは彼らの伝統的な戦闘方法、弓術に戻った。14になると、ウッドエルフの若者は狩猟集団に同行できる弓の達人となる。長距離射手はジャクスパーと呼ばれる。ジャクスパーの弓の引き方は「掴み、放すまでが連続的な1動作」と表現される。これは非常に高度な射撃を維持するジャクスパーが可能にする。もっとも、そのような速さで精度を保つには何年にもわたる訓練が必要とされる。

ボズマーは他の種族が作った木の弓矢は何の問題もなく喜んで購入し、使うが、自身で作成することはグリーンパクトによって禁じられている。伝統的なボズマーの弓は角と腱から作成される。弦もまた腱から作られ、カジートのガットが最高だと言われている。そして、このためにヴァレンウッドの射手の間で高値がつく。

ボズマーの矢は骨から刻まれ、様々な種類の鳥の羽根をつけられる。ウッドエルフは使われた骨の源が矢の特徴に影響すると信じている。マンモスの骨の矢はターゲットをノックダウンさせるのに十分な一撃を加えると考えられている。鳥の骨の矢はより速く、正確に飛ぶ。センチタイガーの骨の矢は追加ダメージを見舞う。帝国の立会人による検証では主張されたような効果が再現できていないが、これを聞くとボズマーはただ舌を鳴らし、わずかに微笑むのである。

ウッドオークと共にIn the Company of Wood Orcs

シサリオンの私的な日記より

オークは奇妙である

彼らはほとんどあらゆる面において大雑把で、残忍で、単刀直入である。性格に個人差はあるものの、ボズマーがオークに対していつも予想できるいくつかの事柄がある。私達の文化は、それらの一つも完全に理解できない。

様々な理由を除けば、彼らの血縁であるウッドオークはなおもよそ者である。皮肉なことにボズマーとの方が共通点があり、主にヴァレンウッドに居住している。

ウッドオークは強さと名誉を何よりも重んじるが、意味することの解釈は、彼らの北方の血縁であるオルシニウムとは一線を画す。例えば、ウッドオークにとって強さを持つことは、筋力と持久力を持つことを意味するのと同様に、敏捷さと可動性を持つことを意味する。この点についてオルシニウムオークの見解を聞いてみたいが、オルシニウムオークは重々しい歩兵連隊の一員の様に鍛えられており、ウッドオークは同じ軍の身軽な散兵の様なものであると考えていると想像する。

ウッドオークもまたボズマーの様に、森林地域において繁栄している。彼らはグリーンパクトを誓っていない。グリーンパクトを完全に無視し、それについての知識も欠如している。しかし、彼らが木で一杯の地区を進んでいくところを見たことがある。どうにかしてイフレに気に入られていても驚きはしない。

なぜこのことを心配するのか?私は最近ウッドオークのことばかり考えている。私の様に彼らに囲まれたことがあると、考えずにはいられないのだ。私は現地のバトルリーブより、彼らの領土を通って伝言を届ける様命じられた。発見されないことは容易いだろうと言われて。だがウッドオークは先に詳細に記述した通り、オークの中でもかなり異なった種類である。これまで私はボズマー以外に捕らえられたことがなかったが、彼らが私を捕まえた時、彼らは私の存在に木の上から気づいた。彼らは森の中で何日間も何かを警戒し続けていたに違いないという気がするの。だが私は準備ができており、同じ矢で攻撃してきた3人のうち2人を倒した。

私は不意を打たれた。3人とも倒せると予想していたからだ。だが最後の1人は、不可解で全くオークらしくないことに、稲妻の様に飛び出してきた。湾曲した手斧が森の中をくるくる旋回し、私の心臓のあったであろう場所を貫いた瞬間、私は跳び上がり地面を転がった。私は足に短剣が準備されているのを思い出し、私の手からナイフを振り落とす寸前だった手斧の二撃目をかわした。ウッドオークは唸って再び打ちかかった。その瞬間の私は、彼を血縁であるオルシニウムのオークと区別できなかっただろう。彼は敏捷さと私の種族の優雅さに、北方のオークの誓いに縛られた憤怒を組み合わせて戦った。私が一握りの土を彼の目に投げた時、彼は私の脇腹に深い傷を負わせた。私は痛みで半分視野を失いながら、暗い森の比較的安全な方へよろめいた。彼は悪態をついて唾を吐き、私を「森と戦わずして森を隠れ蓑にする卑怯者」と呼んだ。

その日の私にはハーシーンの加護があったに違いない。私は確かに戦いに負けたのだから。ウッドオークはあまりにもどう猛に戦い、森を嫌というほど知っていた。だが彼は二度と私を見つけられなかった。私は喜んで二回戦を受けて立とう。ただしボズマーの領土にて。

ギル・ヴァ・デールの猛火The Devouring of Gil-Var-Delle

ファスター 著

ギル・ヴァ・デールで何が起こったのか皆が知っている。そして、同時に、誰も知らない。伝説では恐ろしいデイドラ公モラグ・バルが、ウッドエルフの街に足を踏み入れて焼き尽くした。神話の正確な意味は分からない。古代の物語は兵士を雇う軍隊のように隠喩を使うのだ。

もしバル自身がこの世界を邪悪な意志と共に訪れたなら、なぜ我らの生き残りがいるのか?彼についての説話を考えれば、ウッドエルフの街1つを完全に破壊しただけで止まったとは考えられない。タムリエルのすべてが炎に包まれるまで止めないだろう。デイドラ公の訪れと呼ばれるものについては、多くの場合この問題が疑問視される。

ひょっとしたら敵対するデイドラ公、神々、エドラの使途など、誰かが彼を止めたかもしれないという反論もある。しかしまた戻るが、この証拠がどこにあるのか?魔術師、歴史家、少なくとも、話したことのある誰もが、この情報のためのはっきりとした文章を参照できないでいる。

多くの歴史的な創作物の欠片はそこで起きたことを脚色しようと試みるが、その物語のどれもがはっきりと確認されない。街を襲った壊滅的な出来事への言及以外には。住民は殺されたのか逃れたのか。その後は誰も消息が伝わっていない。しかし、誰でも知っていることは、大きな火が犯人だったということだ。ウッドエルフの家への火がどれほど壊滅的な被害を与えるか、想像もできない。

今日、ギル・ヴァ・デールは有害な場所であり、思い切って近くを冒険するものも多くはない。しかし、具体的な敵がいる訳ではない。怯えと迷信に妨げられているだけだ。

偉大なる木の本The Book of the Great Tree

(抜粋)

すべてのものは木へ

木から、すべてのものに

——アイレイドの預言

* * * * *

これを最初の講義にしよう。最初の木の根はこの地面の全てをつかんでいる。雨や風が来ても、根がしっかりと捕まえていてくれるだろう。その根の下にはニルンが横たわり、その主枝の上にエセリウスが輝く。彼女は床と屋根の両方を与えてくれている。その他の避難所など必要ないように。

* * * * *

アズラの根はゆっくりと流れる川の川岸に沿って伸びる。泥から離れてゆっくりとその根を引くと、根は湿った布に巻きつく。このため、植物は輸送可能かもしれない。十分な水分を保ってやれば、苔のバスケットや鉢に根づくだろう。

* * * * *

サラシェのエルフが初めてエルデンルートにきたとき、彼らはメリディアの輝ける色によって導かれており、それはこれが彼女の贈り物であり、祝福であると語った。その木の枝と根が手とすると、ムンダスとオーバーワールドに同時に届く。これによって、我々はムンダスの最も偉大な街を築き、彼女の最も誉れ高き、最上の種族であることを証明した。

* * * * *

夏の熱気の中では、クワズイモの葉はシルクで覆い隠しなさい。成長過程をそれだけ遅らせたならば、果実はより大きく、甘くなるだろう。イフレはその落ちた実を捧げものとして食べたそうだ。

アロメリア植物はこれに関係しているが、実を結ばない。ホテイアオイの例を知っているかもしれない。

* * * * *

彼等は到着したときに、こう言った、「これは偉大なる木の森だ。これは賢者の森であり、エルフの森である。我々は生命と知識を運んできており、偉大なる木の陰に、教室と蔵書庫を作ろう。理知の遺産を集めることができるように」

* * * * *

ニルンルートの種は鳥やその他の生物によってはるかに遠くまで運ばれるかもしれない。偉大なる木の近くでは、シダ類の葉が高く青々と茂っている。ずっと離れた場所では、ひょろひょろとして、そんなに丈夫ではない。

これもまた同様に講義しよう。

部族ボズマーの戦闘習慣War Customs of the Tribal Bosmer

ミストラル・アウレリアヌス・テリスコル 著

街のウッドエルフは主として飲み物と帝国から提供されるぜいたく品に満足しており、密林の奥地に住む遠方の部族ははるかに残忍である。争いはヴァレンウッドの軒下で絶え間なく行われる。部族がカジートを盛んに襲撃していない時、彼らは気晴らしにお互いを襲撃しあっている。

文明化した人々と異なり、部族のボズマーは有意義な目的や建設的な目的のために戦わない。彼らには領土支配のため、物資のため、国境を守るために戦うというコンセプトが理解できない。ヴァレンウッドを傷つける輩を追い出すために包囲することはあれど、己のための征服にまったく興味がないのは明らかである。むしろ、ウッドエルフは、戦利品、自慢、退屈が目的でお互いに襲撃しあう。部族間の侵略者は典型的に、森林マンモスとサンダーバグを盗む。多くの盗品(または人々)は持ち主によって買い戻しが可能だ。

この突飛で変則的な戦争行為は殺しを目的とするものではない。死は生じるが、それは偶然であり、たいてい悔やまれるものである。多くの侵略は少しの戦いもなく終わる。気づかれることなく代価のため他の部族の村に忍び入り、品物を盗むことは技術の極地と考えられる。その品が大きければ大きいほど、名声は増す。何世紀にもわたるこの練習のおかげで、部族のボズマーのステルスは伝説的な腕だ。彼らの最も有名な詩の題名は、「メー・アイレイディオン」で、その意味は「何千もの利益を隠したるもの」である。

戦闘中に死が生じたとき、ミート・マンデイトの古代の規定は、倒れた敵を3日以内に完食しなければならないと要求している。この伝統には今や最も遠く離れた残忍な村のみが従っている。敵を大量に殺した戦士の家族は、その食事を手伝ってもよい。

伝統的な「弔い合戦」は、いまだ街の外のほぼあらゆるところで従われている。部族の一員が殺されたとき、彼ないし彼女は象徴的に侵略の際とられた人質によって置き替えられる。その部族は近隣の集団から捕虜を奪うだろう。もし、故人が部族において、特別に強く、信望のあるものだった場合、多数の捕虜が代わりに連れてこられるかもしれない。

彼らの価値を試すためということになっている肉体的な責め苦の期間の後、捕虜は喜ばしくクランに迎え入れられる。恐ろしい虐待から愛ある抱擁というこの突然の手のひら返しは、苦しみに忠実なボズマーの捕虜の弱った知性を混乱させる。伝統的に犠牲者は死亡したメンバーの地位、所有物、そして家族を与えられる。もっとも、この慣行は最近滅多に履行されない。

様々な宗派:ウッドエルフVarieties of Faith: The Wood Elves

様々な宗派:ウッドエルフ

帝国大学 ミカエル・カルクソル修道士 著

八大神

(ただし、帝国の外ではほとんどのボズマーが神を八柱に限ろうとしない):

アーリエル(アルドマーの王):

エルフのアカトシュはアーリエルである。アーリエルはアヌイ・エルの魂であり、同様にアヌイ・エルは「すべてのもの」のアヌの魂。ほとんどのアルドマーの神々の長である。大抵のアルトマーとボズマーがアーリエルの直接の子孫であると主張している。唯一知られる欠点として、アーリエルは定命の者の次元の創造で役目を果たすことに同意したが、それは永久なる霊魂の世界からエルフが永遠に分断される行いであった。その埋め合わせをするべく、アーリエルは神話の時代に最初のアルドマーを率いてロルカーンの軍と戦い、強大な力に打ち勝って、アルトマー、アルトモラ、旧エルノフェイの、最初の諸王国を建立した。その後彼は、信奉者たちが定命の者の次元から逃避するのに必要な道のりを学べるよう、皆が注目する中で天に昇った。

イフレ(森の神):

ボズマーの神々の中で最も重要な神格。時の竜アカトシュが神の王であっても、イフレは「現在」の霊魂としてボズマーに崇拝されている。ウッドエルフによると定命の者の次元の誕生後、何もかもが混沌に陥っており、最初の定命の者たちは植物に姿を変えては動物に変化し、再び戻ることを繰り返していた。そこでイフレがアース・ボーンズを意味する最初のエルノフェイ、もしくは「アース・ボーンズ」に姿を変えた。これら自然の掟が確立した後、定命の者たちは新たな世界を理解することで、ある程度の安全を確保できるようになったという。イフレは時折、語り部とも呼ばれるが、これは彼が最初のボズマーに教えた講義のためである。ボズマーの一部はグレート・エフェクト(ワイルドハント)に利用できるこの混沌の時代の知識をいまだに所持している。

アーケイ(輪廻の神):

アーケイは埋葬と弔いの儀式の神、そして時折、四季とも結びつけられる。彼の司祭は死霊術師とすべての形態のアンデッドの断固たる敵である。アーケイは、ロルカーンのうるさく、詐欺的な監督下の神によって世界が創造される前には存在していなかったそうだ。このため、定命の者の神と呼ばれることもある。

ザルクセス:

ザルクセスは先祖と秘密の知識の神である。始めはアーリエルの書記だった彼は、時間が始まって以来、小さいものも大きいものも含め、これまでのすべてのアルドマーの偉業を記録している。妻のオグマは、歴史上自分が気に入った節目から作り出した。

マーラ(愛の女神):

万物の女神といっても過言ではない。起源は豊穣の女神として神話の時代に始まった。創造を生んだ宇宙の女性の本源である、「アヌアド」のニールを時に連想させる。ボズマーにとっては、アーリエルの妻。

ステンダール(慈愛の神):

慈悲と公正な規範の神。アルドマーの初期の言い伝えの中では、ステンダールは人類の弁証者である。

ズェン(労苦の神):

報酬と報復の両方を含む、ボズマーの応報の神である。研究によれば、アルゴニアンとアカヴィリの両方の神話に起源があるようだ。おそらくコスリンギの船乗りたちによってヴァレンウッドに伝わったのだろう。表面上は農業の神であるが、ズェンは時折、より高次の存在であることを証明する。

バーン・ダル(山賊神):

カジートから借りてきた盗賊と物乞いのいたずら好きな霊魂。

主なボズマーの教団の追加神:

ハルマ・モラ(ウッドランドの男)

悪意のあるいたずら好きの霊魂(さらに増えた!)、そのボズマーの信者はデイドラのハルメアス・モラと混同しないようにと言っている(他のものはこの主張を嘲笑している)。

ジョーンとジョーデ(小月神と大月神):

アルドマーの月の神、彼らは幸運と悪運の両方の運の霊魂である。

ハーシーン(ハンツマン、獣人の父):

偉大なる狩りのマスターであり、全てのライカンスロープの王。ハーシーンの崇拝者たちは他のデイドラを崇拝するものたちのように無慈悲などではなく、つねに獲物に少なくとも1回は小さな脱出の機会を与える。

ロルカーン(不在の神):

この創造者、詐欺師にして試練を与える神は、タムリエルに存在するどの神話にも登場する。彼の最も一般的に知られる名前はアルドメリの「ロルカーン」か破滅の太鼓である。彼は父親であるパドメイが始まりの場所に不安定さをもたらして現状を乱したのと同じように、原初の魂を説得、もしくはけしかけて定命の者の次元を生み出させた。その世界が実現すると、ロルカーンは神の中心地から離れ、伝承によっては不本意ながらという説もあるが、原初の神々の創造地をさまよう。彼と彼の「計画」については文化によって解釈が大きく違う。エルフにとっては崇高なる力において最も不浄な存在であるが、それは彼らの精神世界へのつながりすべてを永久に壊したためである。言い伝えにおいて彼はいつでもアルドマーの敵であり、ゆえに初期の人間にとっては英雄である。

様々な宗派:力ジートVarieties of Faith: The Khajiit

帝国大学 ミカエル・カルクソル修道士 著

その異端の姿にふさわしく、カジートは多くの神々を崇拝し、帝国の八大神のみを崇拝する者はごく少数である。

八大神:

アルコシュ(猫たちの竜王):

前リ・ダッタ王朝アネクイニネの神格。アルトマーのアーリエルの変化形の1つであり、それゆえアカトシュ——カジートの始祖にとっての文化的英雄である。彼の崇拝はリドル・サールの確立と重なり、エルスウェアの未開拓地方では、今でも絶大な人気を誇っている。その姿は恐ろしいドラゴン、カジート曰く「ただの本物の大きな猫」として描かれている。神話の時代、ペリナル・ホワイトストレークの初期アルドマーの虐殺を撃退した。

リドル・サール(双子月の舞踏):

カジートの宇宙秩序の神格、リドル・サールは、預言者にしてたてがみのリドサーリ・ダッタによって明らかにされている。単独の存在というよりも生き方の一連の指針となっているが、彼の化身は神のしがない伝令として出現するのを好んでいる。また砂糖の神としても知られる。

ジョーンとジョーデ(小月神と大月神):

ともに、月の象徴の神格、運命、そして幸運。カジートは信仰の中で、ジョーンとジョーデは月のラティスまたはジャ・カージェイの姿である。

マーラ(母猫):

万物の女神のような存在。本来は豊穣の女神だが、カジートは「アヌアド」のニルニと習合させ、女性的宇宙原理とした。アルコシュの恋人である。

スレンダル(子猫、慈愛の神):

スレンダルの領域には慈悲、事前、そして正義を含む。アルドマーの初期の言い伝えの中では、スレンダルは人類の弁証者である。

ケナーシ(風の神):

ケナーシは最も強い空の霊魂である。いくつかの伝説によれば、定命の者の次元を創造するというローカジュの計画に最初に賛同し、虚空にその創造のための空間を提供している。また、ローカジュの聖なる光以前には起こらなかったといわれる現象、雨と結びつけられている。

バーン・ダル(山賊神):

大多数の地域において、バーン・ダルはあまり重要な神ではなく、盗賊と物乞いのいたずら好きな精霊である。エルスウェアにおいてはより重要であり、追放されし者とみなされた。この側面において、バーン・ダルは、器用さ、または辛抱強いカジートの、どたんばの計画で常に彼らの(エルフまたは人間)敵のたくらみをひっくり返すという、命知らずの特徴となる。彼はまた、カジートの行商団であるバーンダリ行商人組合にその名を貸している。

主なカジートの教団の追加神:

マグルス(猫の目、太陽神):

カジートにおけるマグナス、太陽と魔術の神、カジートの魔法使いに人気がある(たとえアズラーほどではなくとも)。

ラジーン(追いはぎ):

盗賊でいたずら好きな神、満悦の虚言者、カジートの語り部たちから大変愛されている。ラジーンはセンシャルのブラック・キエルゴで育った。エルスウェアの歴史上、最も有名な強盗であり、眠っている女帝キンタイラの首からタトゥーを盗んだといわれている。

アズラー(暁と黄昏の女神):

カジートの魔法使いの守護者、その時折みせる計略のため恐れられるよりも尊敬されている。神話によれば、彼女はアルドマーの系種から外れたカジートの始祖と結び付いている。

シェッゴロス(スクゥーマの猫、狂神):

狂気の王は、正気と責務の拘束にいらだつ猫人間の陰の側面を強調している。

ハーシーン(腹を空かせた猫):

狩りとスキンチェンジングの神、獰猛さと狡猾さが敬愛されている。

サンジーン(血の猫):

死と秘密の殺人の神。サンジーンの地位は猫の目からは隠されていて見えない。「誰が血の滾りを制御できるのか?」

ナミイラ(深い闇):

生けるものの敵、崇拝されているというよりも鎮められている。

ローカジュ(月の獣):

前リ・ダッタ王朝アネクイニネの神格であり、たやすく不在の神、ロルカーンと同一視された。この創造主——いたずら好き——試験官な神格はすべてのタムリエル的な神話の伝承の中にある。彼は父親であるパドメイが始まりの場所に不安定さをもたらして現状を乱したのと同じように、原初の魂を説得、もしくはけしかけて定命の者の次元を生み出させた。その世界が実現すると、ローカジュは彼の神的中心から隔離され、伝承によっては不本意ながらという説もあるが、原初の神々の創造地をさまよう。彼と彼の「計画」については文化によって解釈が大きく違う。伝説の中で、彼はほとんど常にアルドマーの敵であり、そのため、初期人類の英雄である。

シャドウフェンの伝承

Shadowfen Lore

ある母親の童謡A Mother’s Nursery Rhyme

お子さんは5人だそうですね、お母さん。そう聞いてますよ。
5人ですって?いいえ、今夜は4人しかいません!
可愛くて素直な子供が4人。
その4人きりですとも!

お子さんは4人だそうですね、お母さん。そう聞いてますよ。
4人ですって?いいえ、今夜は3人しかいません!
夜更かしして床に就くのが遅れた子供が3人。
その3人きりですとも!

お子さんは3人だそうですね、お母さん。そう聞いてますよ。
3人ですって?いいえ、今夜は2人しかいません!
おとなしくて恥ずかしがり屋の子供が2人。
その2人きりですとも!

お子さんは2人だそうですね、お母さん。そう聞いてますよ。
2人ですって?いいえ、今夜は1人しかいません!
お歌を唄っている子供が1人。
その1人きりですとも!

お子さんは1人だそうですね、お母さん。そう聞いてますよ。
子供ですって?よしてくださいな、子供なんていませんわ!
みんな今頃はお父さんと一緒。
もうここでは暮らしていません。

スリルの日記Suril’s Journal

—薄明の月4日

今度の研究プロジェクトは植物がらみだ。となれば、シャドウフェン以上におあつらえむきの場所があるだろうか?なにしろ雰囲気からして違う。肌にまとわりつくようなこの湿気が、これほどまでに緑豊かな土地を生み出すのだ。きっと研究材料にできる新種が見つかるだろう。

—蒔種の月8日

雨にはうんざりだ。もうひと月降り続いている。地面がぬかるんで、ろくすっぽ現地調査もできやしない。こんな時期にストームホールドにやってきたのは、どう考えても失敗だ。

ただ、救いもある。ギルドホールを自分好みに模様替えする時間が取れたことだ。と言っても、ひと部屋だけだが。これまで——特にダボンズ・ウォッチでの一件以来——時間や空間をなかなか自由に使えなかっただけにありがたい。監視所では、いささか思い込みが過ぎた。まあ、研究者というのは誰しも時々過ちを犯すものだ。それも仕事のうちと見るべきだろう。

—蒔種の月22日
ようやく雨があがったぞ。

—恵雨の月1日
地衣類の驚くべき新種を発見した。「ブラック・マーシュの植生辞典」の背に生えていたのだ。

—恵雨の月3日
アークメイジに手紙を書いた。配置換えを希望する内容だ。できればアリクルにでも落ち着きたい。

ナハテン風邪についてOn the Knahaten Flu

公文書保管人ネレミンデューレ 著

背景:
この病気がどのように発生し拡散したかは謎に包まれている。情報を集め、解明の糸口にしたい。

アルゴニアンはこの風邪に免疫があるように見える。このことが、ある憶測を呼んだ。長年ダークエルフの元で奴隷にされてきた彼らが、復讐のためにこの風邪を持ち込んだのではないかというのである。ただし、こういった主張は立証も反証もされておらず、さらなる調査が待たれる。

対策:
この風邪の急速な蔓延を防ぐ方法としては、感染者の所有物を焼却処理する(残念ながら、この方法は時折、遺された家族まで焼き殺してしまうという事故を起こす)、感染者を一ヶ所に隔離する(または、壁に塗りこめる)、感染者を船に押しこめ、どこへともなく流してしまう、などが挙げられる。通常の治癒呪文や霊薬は効いたり効かなかったりと、この風邪に対する効果には一貫性が認められない。

症状と経過:
患者はひとまず漠然とした体調不良、食欲不振、疲労感を訴え、数時間たつと、その他の症状を発現するようになる。具体的には涙がとまらなくなり、肌には粒状の、痒みを伴わない真っ赤な発疹が生じる。

発症から24時間ないし36時間以内に、患者は鼻血に悩まされるようになり、涙にも血が混じるようになるのに加え、粒状の発疹は全身に広がる。この時点で、患者はぜいぜいと苦しげな咳をするようになる。発症後36時間から48時間が経過すると、咳のたびに血痰を吐くようになる。

ほとんどの場合、発症からわずか72時間で死に至るが、なかには5日から7日のあいだ生きながらえる患者もいる。

治療:
ナハテン風邪は、最初に流行したときから、すでに封じ込め不可能という印象があった。信頼できる治療法はいまだに確立されていない。

今から10年前、ペリザーダという若いレッドガードが、夢のなかで神々から治療法を教わったと主張。夢で見たとおりの治療法を再現した彼女は、住民もろとも焼き払われることが決まっていた村で臨床試験を行った。すると、この治療法が効果を発揮し、村は救われた。

その治療法は、クランフィアの爪を塩水で煎じたものを飲むというものだった。クランフィアの爪は、本物はもちろん、本物かどうか怪しげなものまで闇市場で盛んに取引されるようになり、結果、価格が暴騰した。インチキ療法によってむしろ死期を早めた患者があまりにも多かったせいで、ペリザーダの治療法が公式に認可を受けることはなかった。のちにペリザーダ自身がこの風邪で死亡したことから、彼女の治療法の効き目はせいぜい「疑わしい」という評価に落ち着いた。

いわゆる「クランフィアの煎じ薬」が知られてからというもの、ナハテン風邪を治すという触れ込みのさまざまな治療法が雨後の竹の子のごとく現れた。いずれも、何かを煎じて飲むという点は変わらない。最貧層では、チキンスープが重宝された。安いだけでなく手に入りやすいからである。それを飲めばたいてい咳がおさまり、呼吸が楽になった。

チキンスープは決して効果のほどが保証された治療法ではないが、入手がきわめて容易であることは確かだ。もしこの恐ろしい風邪が再び流行るようなことがあれば、試してみる価値はあるだろう。

粒状の発疹は炎症を起こさないので、そのまま放置する患者も多い。しかし、発疹を包帯や湿布剤、あるいはただの布で覆っておけば、治療や看病にあたる者への感染が少なくなるようである。比較的寒冷な土地や冬季におけるこの感染症の広がりが格段に遅いのも、このことから説明できる。

その他の治療法について何か情報をお持ちの諸兄は、どうか私宛てに報告書を送ってほしい。さらなる調査の材料にしたい。

まともなツルハシThe Right Mattock for the Job

重労働だと聞いてはいたが、フースマヒームもまさかこれほどきついとは思っていなかった。報酬を受け取るためには1日にかご8つを一杯にしなければならなかったが、いかんせん、フースマヒームの道具はどれもこれも粗悪品だった。小さなツルハシは鉤爪の生えた手で扱うようにはできていないし、それがありあわせの道具でこしらえたものとなれば尚更だ。

錆色の液体がスラグの山から滲み出し、作業員の鱗を黒みがかったオレンジ色に染めてゆく。フースマヒームはもっと奥の土と岩を掘り返そうと、かごを引きずりながら数フィート這い進んだ。じくじくと湿った土塁で見つかる多種多様な試料を掘り出すべく、鉱山労働者たちは岩を砕き、泥をかきわけてゆく。

フースマヒームの隣で作業をしていた男が声をかけてきた。「かご8つ分、集まったぜ。そっちは?」

「もうちょいで7つめが一杯になる」フースマヒームは答えた。「お前はいつも速いな、「しっぽ割れ」。何かコツでもあるのか?」

「がんばることさ」「しっぽ割れ」は笑って言う。「それと、大きなツルハシが買えるだけの金を貯めることかな」

「汚いぞ!」言葉とは裏腹に、フースマヒームは笑いをもらした。

「それじゃお先に」

そのとき、階段状になった壁から乾いた砂が滝のように流れ落ちてきた。坑道の崩落には慣れっこの鉱山労働者たちは、自分の収穫をひっつかむと、すばやくその場を離れる。

「あれを見ろ!」誰かが叫んだ。まだ一緒にいたフースマヒームと「しっぽ割れ」は、そろって頭上のスロープを見あげた。ずるずると滑り降りてくる岩くずからあがる土煙を通して、2人は自分たちに向かってくる複数の人影を認めた。どれもかかとに体重を乗せてスピードを殺し、両手を広げてバランスを取っている。

「オーガだ!知らせ——」

みなまで言わないうちに、「しっぽ割れ」は一撃を浴びて地面に転がった。

10体を超えるオーガが、ごつい拳だけを振りかざしながら、丸腰の鉱山労働者たちに襲いかかってきたのだ。フースマヒームめがけて右のフックが飛んでくる。彼は身をかがめてそれをかわす。かごはまだしっかりと胸に抱えたままだ。村に帰ってみんなに知らせなければ。少なくともここ12ヶ月というもの、鉱山の近くでオーガの姿を見ることはなかったのだから。

フースマヒームは駆け出した。まだ後生大事にかごを抱えていることに気づくと、すぐさまそれを投げ捨てる。これで両手が自由に使えるぞ。と思ったのもつかのま、フースマヒームよりも腕力に勝る粗暴なオーガにしっぽをつかまれ、ぐいっと引き戻された。その途端、そいつが怒りと苦悶の入りまじった叫び声をあげる。「しっぽ割れ」がまともな大きさのツルハシを、フースマヒームのしっぽをつかんでいるオーガの手に叩き込んだのだった。

「逃げろ!」「しっぽ割れ」は叫んだ。

ルビーのネックレスThe Ruby Necklace

干し草の俵をもう1つ納屋の2階に運び上げたマークルは、また肩に痛みが走るのを感じた。筋肉のこわばりをほぐそうと、肩を回してみる。

「助かったよ。ありがとう」と、アルゴニアンの商人が言う。マークルはコスリンギ族に向かってうなずくと、荷車を引いてその場をあとにした。

あの商人が馬の飼い葉にする干し草を山積みにしてズークのもとにやってくるようになってから、もう数ヶ月になる。兄弟のフーグが生きている頃、その取引を仕切るのはフーグの仕事だった。運搬の手配、俵の荷下ろし、代金の授受。こういったことはフーグがやっていたのだ。ところが、そのフーグが病魔に取りつかれた。体が色鮮やかな発疹に覆われ、高熱が出たと思ったら、1週間と経たないうちに死んでしまった。

そして今はマークルがその商人との取引を仲介している。それにしても、筋肉痛がこれほど酷くなければなあ、とマークルは驚いた。どう見ても、自分は死んだ兄弟のような力自慢じゃない。もっとがんばらねば、と自分を奮い立たせはするものの、本来、肉体労働よりも勉強や読書が好きなマークルだった。

「とにかく、帳簿を確認しないとな」マークルはそうつぶやきながら、自分の小屋に入っていった。兄弟が病みついて以来、ついつい帳簿をほったらかしにしていたが、さっき配達があった分はきちんとつけておかないとならない。

マークルが支払い台帳をひらくと、ページのあいだにはさまっていた紙切れが1枚、ひらひらと床の上に舞い落ちた。そこに書かれている文字が兄弟の筆跡だと気づいたマークルは、紙片を拾いあげる。

「ルビーのネックレスに気をつけろ」

マークルは眉根を寄せた。うちにはネックレスを買う余裕なんかない。それがルビーのものとなれば、なおさらだ。兄弟はいったいどういうつもりでこれを書いたんだろう?肩をすくめると、マークルは紙片を丸めて机の横の火鉢に放った。それから外套を膝にかけ、たまった帳簿を片づけにかかる。今日はやけに冷えるなと思いながら…

その晩、細君が心配そうな表情でマークルの顔をのぞきこんできた。咳き込み、悪寒に震えながら机にかじりついている亭主を見つけた彼女は、なかば引きずるようにして床に就かせたのだった。マークルの喉には、紛れもない発疹がみみず腫れのようにつながって、首輪のようになっている。

「ルビー…」うわごとを口走りながら喉をかきむしるマークル。ナハテン風邪が一番新しい犠牲者に牙を剥いた瞬間だった。

我ヲ忘レルナカレRemember Me

トンネル…それとも洞窟だろうか?薄暗く、じめじめして、それでいて暖かい。鱗の歌はおぼろげな明かりを目指して走った。狭い空間に自分の足音がこだまする。だが、前に進めば進むほど、深い泥に沈んでゆく。

「この程度の泥に沈むなんてことがあるか?」思わず声に出してしまう。「俺はブラック・マーシュ生まれだぞ」

泥に足を取られ、もうそれ以上先に進むことができなくなると、鱗の歌はこうべを垂れ、頭上で絡み合う植物の根に結んだ露が滴り落ちる音に耳を傾けた。すぐに終わるさ。ヒストのもとに召されるだけだ。ただ、アルゴニアンの端くれとして、泥に溺れて死ぬのが情けなかった。

そこで不意に目がさめた。またあの夢か。ここ数週間というもの、鱗の歌は毎晩同じ夢に悩まされている。洞窟の出口近くまでたどりついたような気がするのも毎回同じだ。出口に辿り着けさえすれば、何もかもはっきりするに違いない。そう思いつつ、毎朝、夢の意味が少しも解き明かされないまま目覚めるのだ。

「決まってるさ、ヒストが語りかけてるんだよ」卵の兄弟、裂け目のある尾が言う。「今夜はこっちから訊いてみたらいい。何が望みだ?って」

「やってみるよ」と鱗の歌は答えた。「ただ、目がさめるまでは夢だってことに気づかないんだよな」

裂け目のある尾は傍らの棚に置かれた土器の壺に手を伸ばすと、中から葉っぱを分厚く巻いて蔓で結わいたものを取り出して鱗の歌に渡した。

「そいつを焚くといい。お香が頭をはっきりさせてくれるかもしれない。ヒストのご託宣なら、きちんと聞かなきゃ駄目さ」

鱗の歌はうなずいた。さすがは裂け目のある尾だ。いざというとき頼りになる。その日はひさしぶりに、夜が来るのが待ち遠しかった。

香を焚いた鱗の歌の小屋は、濃い灰色の煙で満たされていた。床すれすれの低いところでは、煙が霧のようにどんよりとぐろを巻いている。まさかこれほどひどい臭いがするとは思わなかった。それでも、鱗の歌は煙がゆっくりと部屋に広がってゆくのを眺めた。そのうちに、だんだんとまぶたが重くなってくる…

…ここは洞窟だろうか?それともトンネルの中か?ぬかるんだ地面近くに、煙の層ができている。鱗の歌は走るのをやめ、煙に手を伸ばした。話しかけろ。訊ねるんだ。言葉を発しろ。さあ。

「何か言いたいことがあるのか?」鱗の歌は思い切って訊ねた。

「ワタシハ死ンデイル」

「死んでいる?お前は誰だ?」

すると、煙が1つにまとまって、フード付きのマントを着た人の形になった。陽炎のようにゆらめき、しっぽが小刻みに震えている。「ワタシハ死ンデイル」人の形をした煙は繰り返した。「ソレガナケレバ、ワタシノスベテハ永遠ニ失ワレル。ソレヲ見ツケルノダ。忘レルナ」

「それ?それとはなんだ?」

鱗の歌は人の形をした煙のあとについて暗い道をたどった。いつもの夢と違って、もうぬかるみに足が沈むことはない。2人とも、無言で歩を進めてゆく。鱗の歌は用心しつつも、意外に平静だった。

数時間も歩いたと思われること、ようやくトンネルの出口にたどりついた。陽炎のような人影は大きくため息をつくと、1本の委縮した樹木を指さした。

「ヒストだ」鱗の歌の声に驚きがにじむ。「これがそうなのか?たしかに死んでる…だが、どうして?」

「忘レルナカレ」そう言い残すと、人の姿をした煙は雲散霧消してしまった。ただその前に、鱗の歌の手にムネミックの卵を1つ、託していった。

自由の代償Freedom’s Price

代金が支払われ、取引が成立した。波風を立てる者は新しい主人の所有物となったのである。

センドラサ・ルラリスは、たった今買い付けたばかりの奴隷がすでに購入済みの奴隷の群れに加わる様子を眺めた。あまり長く見つめたものだから、波風を立てる者がセンドラサの視線に気づく。一瞬2人のまなざしが交錯するが、双方あわてて目をそらした。奴隷が主人と目を合わせれば、鞭打ち10回の刑に処せられる。

市場から屋敷まではたかだか7マイルの道のりだが、センドラサには屋敷に帰り着くまでの時間が永遠にも感じられた。自分の城を構え、波風を立てる者を連れ帰れるようになるまで、何年も辛抱強く待ったのだから無理もない。

「全員、離れに連れていきなさい」召使の手を借りて馬から降りながら、センドラサはそう命じた。「ただし、あれだけ」と言って、波風を立てる者の方を示す。「居間で待たせておいて。身のまわりの世話をさせることにしたから」

「かしこまりました、奥様」

手袋をはずしながら屋敷に入ってゆくセンドラサの足取りは軽かった。彼女は笑いながら独りごちる。「ついにやったわ!これで私の思い通りになる」

最後に恋人と口づけを交わしてから、どれぐらい経つだろうか?人目を忍ぶ逢瀬のたびに、互いの後ろめたさから狂おしく抱き合ったあの頃から、いったいどれほどの月日が流れただろうか?2人の仲が露見してからというもの、自分はどれほどの苦しみを味わっただろう?まるで——と、センドラサは苦い思いをかみしめる——愛する恋人がアーチェインたちの手で売られていくのをなすすべもなく見守るだけでは、償い足りないとでもいうように。

それ以来、センドラサがついに波風を立てる者の居所を突きとめ、自分の手に買い戻すまで、時は恐ろしいほどゆっくりとしか進まなかった。今度こそ誰にも邪魔させない。仲を引き裂かせはしない。2人は一心同体なのだ。

扉が開き、波風を立てる者が部屋に入ってきた。奴隷の作法を守り、目を伏せている。センドラサはつかつかと彼女のかたわらを通り過ぎると、扉を閉めて鍵をかけ、それから恋人に向きなおった。

「会いたかったわ」ささやくようにセンドラサは言う。

次の瞬間、2人はひしと抱き合っていた。センドラサは波風を立てる者の鱗に優しく、探るように指を這わせる。

拷問されたのね?あいつら、ただじゃおかないから!

波風を立てる者はかぶりを振った。その拍子に背びれがぱたぱたと揺れる。「平気よ。あなたに会えたんですもの。傷なんか癒えるわ。でも、アーチェインたちは…」

「大丈夫、あの裏切り者たちにはもう、指一本触れさせないから」

「ねえ、聞いて」波風を立てる者は言った。「あなたのご両親はアーチェインに大金を支払ったわ。どこだろうと、彼らの目が光ってる。あなたが私を買い戻したことはいずれ伝わるでしょうし、そうなったらきっと連れ戻しに来るわ」

「じゃあ自由民にしてあげる。そうすれば手出しできないわ!」

「どうかしら」とアルゴニアンはささやいた。「アーチェインは自由民でもお構いなしに売りさばくわ。2人で安心して暮らそうと思ったら、モロウウィンドを離れるしかないの」

「わかったわ。さあ、キスしてちょうだい」

暮色が近づくなか、センドラサと波風を立てる者はスカイリムとの境界を目指し、北西に向けて旅立った。

「リフテンは安全かしら?」波風を立てる者はささやいた。追っ手をまくために、あえて道をはずれてからもう数日になる。

答えようとしたセンドラサの喉を、矢が射抜いていた。片手で矢をつかむ彼女。その目は驚愕にみひらかれている。すぐさま二の矢、三の矢が飛来し、ダークエルフが地面にくずおれたときには、とうに息はなかった。

「晴れて自由の身だな」そう言いながら、アルゴニアンの射手が暗がりから姿を現した。

波風を立てる者は言葉もなく、ただ呆然と射手を見つめた。

「手荒な扱いを受けてないか?」射手はそう言いながら近づいてくる。「これでブラック・マーシュに帰れるぞ。もう君は奴隷じゃないんだ」

波風を立てる者はセンドラサの亡骸にすがりつき、すすり泣くのだった。

塵の影Dust’s Shadow

彼女には、月光の閃きしか見えなかった。それが鋭い直線となって傍らに立つ男を射抜いたと思ったら、次の刹那、男はうめき声を漏らしてがっくりと膝をつき、そのまま横ざまに倒れていた。

「八大神の名にかけて、一体全体どうなってるの?」恐怖に駆られたローミンガはつぶやいた。が、それ以上言葉を継ぐことはできなかった。鱗に覆われた手で、口もとを覆われたからだ。

「これでカタはついた」低い、しわがれ声が言う。と同時に、ふわふわした灰の塊が空気を満たし、ローミンガは咳き込んだ。このアサシンはなぜ私を殺さないんだろう?

灰の霧が晴れると、ローミンガはその場に自分しかいないことに気づいた。傍らの地面に残った血の染みだけが、相棒が息絶えた場所を示している。目が暗さに慣れるのを待って、彼女は注意深くあたりを見まわした。やはり誰もいない。ローミンガは自由な両手で顔を覆い、祈りを唱えた。

カイネよ、わが女神にして導き手よ。トカゲ族の魔手から救ってくれたことを感謝します。必ずや奴らを根絶やしにせねばなりません」

「よく言った。ではその報いを受けてもらおう」

刃に肉を貫かれる感触を覚えた次の瞬間、傍らにアルゴニアンが現れた。ローミンガは口を動かすが、声にならない。アルゴニアンの武器が突き刺さった喉に、思わず両手がいく。

「お前が一味だという証拠はなかった」アルゴニアンはローミンガのシャツで刃を拭ってから武器を鞘におさめた。「やむなく引きあげようとしたところで、お前が自ら罪を認めてくれたのは助かったよ。そうでなければ、すぐにまた別のシャドウスケールを送り込むはめになるところだった」

ローミンガがくずおれるのを見ながら、シャドウスケールの暗殺者は付け加えた。「今やわれわれは全員がパクトに加わっているのだ…お前たちのような裏切り者以外はな」

言い終えると暗殺者は姿を消し、ローミンガも息絶えた。

浅いプールA Shallow Pool

浅いプールしか求めない
根を生やすための水
霧と影
空に向かって伸びる枝葉

恵みの雨しか必要はない
夜のとばり
ぬくもりと雨
暗闇を伝わる葉のざわめき

浅いプールしか望まない
思い出が抱かれ
古い物語が語られ
我をヒストと呼ぶ子らに取り巻かれる

美しきアルゴニアンの乙女Fair Argonian Maiden

来たれ、わが恋人よ、話そうではないか
来たれ、美しき乙女よ、語らおうではないか
鱗と鱗を触れ合わせ
頭のてっぺんから尾の先まで娶せようではないか
美しき乙女
ヒストの乙女
そして樹液にまみれた恋人よ

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