ストンフォールの伝承

Stonefalls Lore

エボンハート・パクトへの案内Guide to the Ebonheart Pact

エボンハート・パクトはモロウウィンド、スカイリム、ブラック・マーシュまでの広範囲に広がる各国に結ばれた予想外の同盟で、ダークエルフ、ノルド、自由アルゴニアンが共同防衛のためにまとまったものである。同盟国の大きさと距離のおかげで、パクトは内部の反目や不協和音とは比較的無縁な状態にある。ノルドとダークエルフには自国内で取り組むべき案件が非常に多く、お互い相手に干渉する時間がほとんどない。

エボンハート・パクトが生まれたのは第二紀572年、タムリエル北部への第二次アカヴィリ侵攻に対応するためだった。ノルド、ダークエルフ、自由アルゴニアンは、タムリエルの残りの地域を虐殺と隷属から救うために力を結集した。戦時中に結ばれたこの同盟は、大陸に急に登場した新興勢力となった。最初はダークエルフが昔からの宿敵および以前の奴隷との同盟を維持できると信じた者は少なかったが、色々なことがあった十年が過ぎたのちも、パクトは強力で無傷のままだった。

パクトは「グレートムート」が支配する。各国の種族代表が平等に扱われるこの評議会は、短期と大声で知られるだけでなく、相互の尊重と、どんなことがあろうとパクトを維持しようという驚くべき意志でも有名だ。平等でなければ、ノルドとダークエルフの誇りを満たし、以前は奴隷にされていたアルゴニアンの傷を癒すことができない。

不可欠、というより同盟の最も重要な一部であろうモロウウィンドのダークエルフは、よそよそしく誇り高く、そして非常に奇妙である。彼らは懸命に「劣等の」同盟国への軽蔑を隠そうとするが、現在の危機で競合する他同盟を寄せつけないためには、ノルドの強い武力とアルゴニアンの策略に富んだ機知が必要なのだ。ダークエルフは天才的な器用さと深い経験を武器にして、パクトに不可欠な反応と即応能力を提供している。アルドメリ¥ドミニオンにもダガーフォール・カバナントにもこれほどの力はない。パクトは優秀な戦士と妖術師を配置している。そして他の種族には匹敵するもののない財産がある。3人の生き神、アルマレクシア、ヴィベク、ソーサ・シルがその中にいることだ。

スカイリム東部のノルドは恐れを知らず攻撃的で、勤勉かつ進取の気性に富む。彼らは戦争に秀で、交易で栄え、探検家、開拓者として他に並ぶ者はいない。力強く、頑固で、たくましい彼らには戦いで問題解決を図る習慣がある。ノルドは陽気に戦闘になだれこみ、その獰猛さは敵を恐れ震撼させる。彼らはそれを認め、エボンハート・パクトのための突撃隊という役割を楽しんでさえいる。ノルドは率直で企むところがない。そのためグレートムートの会議では単純な解決法を支持するが、悪賢いアルゴニアンや抜け目のないダークエルフに投票で負けることもよくある。しかし戦場において彼らに勝る者はいない。パクトの将軍はノルドであることが多く、戦場の戦士のほとんどもまたノルドである。ノルドにはこだわりがない。これは戦利品を最初に獲得するという意味でもある。

アカヴィリに対して決然と武力介入したことにより、ブラック・マーシュのアルゴニアンはダークエルフの奴隷状態から自由を獲得し、その教訓から彼らはパクトの重要な一員となった。控え目かつ異質な彼らの無表情と抑揚のない話し方は他の種族に真の動機を理解させづらくしている。それでも彼らには冷静な知性がある。信頼するのは遅く、理解するのは難しいが、生得の敏捷性のおかげで、彼らは魔法も隠密活動も武器も同じように軽々と操ってみせる。長年国境を防衛してきたため、戦争において、より強力で昔ながらの組織化された軍隊に対しての専門家である。陸でも水中でも同じようにやすやすと動ける彼らは、パクト軍のために偵察隊、前衛隊の役割を果たしている。アルゴニアンの文化の他の側面は部外者にほとんど理解不能で、そこには彼らの社会的階級や集団意思決定も含まれる。彼らの代表が説明なしに奇妙な提案をすることがあるが、同盟国は彼らのやることにすべて必ず理由があることを学んだ。

今日、スカルド王の若きジョルンがムートの実質的上級王になっているが、必ずしも同盟全体の支持を得ているわけではない。パクトの一員として同盟を維持し結束させるために奮闘しながらも、各国は各々内部の脅威にも対応しなければならない。野戦でドミニオンやカバナントと対面する前に、未解決のこうした脅威のために自滅する可能性もある。

スカイリムのノルドNords of Skyrim

我が民、我が誇り

フロスムンド・ウルフハート 著

尊敬すべき読者よ。私はフロスムンド・ウルフハート、ノルド人だ。しかし何より重要なのは、私がスカイリムで育ったノルドである点だ。

本書は、タムリエルの人々に、知られるべき我が民について知ってもらい、この地方の真の姿、すなわち争う余地のないその美しさと文化の地である事を理解してほしいという切なる願いをもって書いている。

よく知られている点のいくつかは、間違いなく真実だ。身体的にも、ノルド人は印象的で人目を引く。身長が高く、骨は強く、筋肉は太い。髪は金髪で、先祖からの伝統に則って編んでいる。スカイリムは毛皮となる生物の宝庫であり、そのような有効な資源を利用しないのはもったいないので、我々はよく毛皮を身にまとっている。

ここまで読んだところで、私の言葉の強さと、北方の「野蛮人」としての教養に驚いただろう。そう、多くのノルド人は読み書きができる。子供の頃、父が書き方を教えてくれたのだ。その父も、またその父もそうだった。

スカイリムの子供達がたしなむのは、言語技術だけではない。私たちは職人でもあり、彫刻家が陶器を作るように、我々は代々、鋼の扱いを学んできた。

実際にハイロックとシロディールから来た旅人が、スカイフォージの火で鍛造され、グレイ・メーン家の神業ともいえる職人の手によって危険なまでに美しく磨き上げられた剣を見て、信じられないという様子で嘆くのを私は見た。

だがそんなことが可能なのか、と諸君らは疑問に思うかもしれない。雪と泥に覆われた地から出たことのない者たちに、そのような偉業を成し遂げることができるのだろうか?もう一度言うが、そうした地域的な偏見は真実を曇らせる。

スカイリムの街は、どれもノルドの創意力と職人芸の証だ。主要都市は以下のとおりである。ソリチュード—上級王の王座があるスカイリムの首都。ウィンドヘルム—古く名誉ある雪中の宝石。マルカルス—遥か昔から存在する、岩盤を削って造られた町。リフテン—秋の森の金色の影に位置し、極上の魚とハチミツ酒を生み出す街。そしてホワイトラン—ジョルバスクルを囲むように造られ、高貴なる同胞団や人々から崇拝されるスカイフォージの故郷。

尊敬すべき読者よ、以上が全体像だ。我々ノルドは諸君らの想像通りであり、また、それ以上でもある。

しかし、本書を真実への唯一の入口と捉えないでほしい。馬車または船を予約して、北方へ旅をしてみるといい。スカイリムを自分の目で確かめてみるのだ。神が最初に世界を形作ってから変わらぬスカイリムの姿を、ノルド人と同じ目線で見てもらいたい。

ダンマーの名家の格言Mottos of the Dunmeri Great Houses

ヴィリン・ジリス 著

息子よ、簡単な事実さえ覚えられないお前の無能さのせいで、ことあるごとに我が一族は恥をかく。これはヴァーデンフェルの名家に語り継がれる言葉と、各家が守護者として祀っている聖人たちをお前に伝えるための記録であり、もしお前がまた、我が家の取引相手であるフラール家とドーレス家の商人貴族たちを混同するようなことがあれば、今度こそお前を勘当する。これは改めて言う、お前への最後通告だ。

レドラン家:「レドランは戦士であり、その務めは第1にトリビュナルに、第2にレドラン家に、第3に家族と一族に対し果たされるものである」

—レドラン家の守護聖人は指揮官、聖ネレヴァルである。

インドリル家:「正義は眠らない。インドリルが命じ、聖堂が裁きを下す」

—インドリル家の守護聖人は公正なる聖オルムスである。

フラール家:「公正かつ自由な取引が三大神を称える」

—フラール家の守護聖人は巡礼者、聖ヴェロスである。

ドーレス家:「無知蒙昧の民に文化と真実を広めよ。これが我らの責任であり義務である」

—ドーレス家の守護聖人は、敬虔なる聖ロシスである。

テルヴァンニ家:「力強い意志を表現することが、真の栄誉を先人に与える」

—テルヴァンニ家の守護聖人は殉教者、聖ヴォリスである。

第6の名家、影の家、ダゴス家に伝わる格言が欠けているのにはきっと気づいていないだろう。これはあの家がレッドマウンテンの戦いで滅ぼされ、断絶したからである。そののち残った名家がトリビュナルに捧げる聖堂を建立した。もしダゴス家のことを気族仲間の前で口にしたら、私はお前を勘当する。

気付いただろうが私はここまでで2度、お前を勘当すると警告している。これは私がメファーラやヴィベク卿ほど冷酷ではないということだ。私の心は弱く、お前を家族から簡単に取り除けずにいる。

この文章を肌身離さず身に付けていなさい。そしてこの家訓を見ては我が身の行いを正し、貴族の立場に恥じることのないように。お前の愚かさで我が一族を汚すことのないように。2度とお前を人前で大ばか者と呼ばずにすむことを願っている。

私たちの中のアルゴニアンArgonians Among Us

シル・ロスリル 著

アルゴニアンは鱗に覆われ、知性に劣り、我々の日常生活の一部となっている。モロウウィンドとその周辺地域では、どの都市、どの街にもその姿が見られる。我々の食事を運び、子供たちに服を着せてくれる…しかし実際のところ彼らは何者なのだろう。

アルゴニアンは元々ブラック・マーシュとして知られる地域の出身だ。じめじめとした陰鬱な土地で、沼気を発し、虫がうじゃうじゃといる。その生まれ故郷でアルゴニアンは悪臭を放つ水溜りに住み、原始的な部族の神を信仰している。彼らの民間魔術と単純な部族の軍隊は、人間や勇敢なエルフに対してきちんと防御できたことはなかった。

沼地はシロディール軍により第一紀2811年に初めて制圧された。この残虐で気まぐれな人間たちは、人間の山賊王の支配を終わらせるためだけにその地域に侵入したのだった。籠手をつけた手の文明がアルゴニアンの元に入ってからは、彼らの故郷は主に流刑囚の土地の役目を果たした。無思慮で野蛮なシロディール人は無情にも最も暴力的で不安定な犯罪者たちを沼地に放った。

ほぼ600年前、この鱗のある召使の種族の生活にダークエルフが介入した。第二紀の黎明期に我々は本格的にアルゴニアンと共に働き始めた。部族全体がヴァーデンフェル、ストンフォール、デシャーンの安全で乾いた気候の土地に移住した。我々は彼らのかなり恥ずかしい外見を隠すために衣類を作り、世界に送りこんだ。彼らが新しい環境で学び仕えるためだ。我々の気前のよい行為に対して、アルゴニアンには見返りをほとんど求めなかった!それでもあの悪臭放つ地の住民全員が本当に感謝しているわけではない。

事実、我々の時代の密接な協力関係は数年前に終わりを告げた。ナハテン風邪の名で知られる恐ろしい病気が沼地の奥深くの瘴気から生まれ、地域一帯に広がった。アルゴニアンの呪術師の手による産物と噂された病は、爬虫類を先祖に持つ者以外を襲い、数えきれないほどの犠牲者を出した。最も悲劇的だったのは、他の種族がアルゴニアンを疫病を広めた者として恐れるようになったことだ。我々がアルゴニアンを発見の旅に送りこもうとするたびに、拒絶されてしまった。

現在、もちろんアルゴニアンはエボンハート・パクトにおいて共に立ち並んでいる。かつては単なる召使だったが、今はこの単純な爬虫類の評価が高まった。彼らは我々の軍事同盟において強力で誇り高い貢献者であり、家庭においては家族の面倒もよく見てくれる。

私たちの中のアルゴニアンは、生活を豊かにしてくれる存在だ。

先人とダンマー(要約)Ancestors and the Dunmer (Abridged)

彼らと共に歩む亡霊

ダンマーの死者の魂は、他の種族でも皆そうかもしれないが、死後も生き続ける。亡くなった先人達の知識や力はダンマーの家に恩恵をもたらす。生きている家族と先人を繋ぐものは血や儀式、そして意志である。結婚したことで新たにその家族に加わった者は、儀式と家に対する誓いを行うことによって家の先人と交流を図り、恩恵を受けられるようになる。とはいえ、結婚して家に加わった者は純潔の者と比べると先人との繋がりは薄く、自分自身の先人との繋がりも保ち続ける。

家の祠

それぞれの家にはその家の祠がある。貧しい家では、家族の遺品が置かれて崇拝するだけのただの暖炉棚程度の物かもしれない。裕福な家では、先人専用の部屋が用意されている。この祠は待機の扉と呼ばれ、オブリビオンへの扉を表している。

ここで家族の者は捧げものや祈り、責務の誓い、家族にあった出来事の報告を通して先人達に敬意を払うのである。その見返りとして家族は先人達から情報をもらったり、指導を受けたり、祝福を与えてもらう。このため、先人達は家、特に待機の扉との境界線における守護者なのである。

定命者の戦慄

霊魂は定命者の世界を訪れることを好まず、訪れるのは義務感や責任感によるものでしかない。向こうの世界の方が楽しく、少なくとも冷たくて厳しい、痛みと喪失感に溢れた現実世界より居心地が良いと魂は言う。

狂った霊魂

自分達の意思に反して我々の世界に留まることを余儀なくされた霊魂は、狂った霊魂や亡霊となる可能性がある。死ぬ際の状況が悲惨だったという理由や、人物や場所、物にとても強い感情的な結び付きがあるために留まっている魂もいる。これらを呪縛霊と呼ぶ。

ウィザードが魂を魔法のアイテムに縛りつける場合もある。もしそれが本人の望むものでなければ、その霊魂は狂ってしまう。望んでいた者の場合、正気を保てるか保てないかは、霊魂の強さと付呪師の知識次第である。

他にも、自分達の意思に反して家族の祠を守るために縛りつけられている魂もいる。この苦しい宿命は生きている間、家族にきちんと役目を果たさなかった者に待ち受けている。忠実で立派だった先人の魂は、言うことを聞かない魂を縛り付けるのに手を貸してくれることも多い。

こうした霊魂は通常狂ってしまい、恐ろしい守護者となる。儀式によって彼らは一族の者に害を与えないようになっているが、だからといって彼らの悪戯や気難しい態度を軽減させることはできない。彼らは侵入者にとって非常に危険な存在である。しかし侵入者が霊魂の怒りを見抜き、その霊魂の家に対する怒りをうまくかきたてることができたら、その怒った魂を操ることができてしまう。

オブリビオン

オブリビオンの存在はあらゆるタムリエル文化で認識されているものの、その別世界の性質については様々な説がある。皆が同意しているのはエドラとデイドラが住んでいる場所であり、この世界とオブリビオンは魔法と儀式を通じて交流や行き来ができるということくらいである。

ダンマーはこの世界とオブリビオンの違いについてタムリエルの人間文化ほどは重要視していない。彼らは我々の世界ともう一方の世界を違う性質を持った明確な境界で分割された別々の世界と考えるのではなく、双方を行き来することのできるいくつもの道で繋がった1つの世界として捉えている。この哲学的な視点があるからこそ、エルフは魔法やその実践に高い親和性を持っているのかもしれない。

他の種族から見たダンメリの先人崇拝と霊魂の魔法

アルトメリとボスメリ文化にも先祖を敬う風習があるが、こちらの世界から別の世界に通じる秩序だった幸福な道を大事にするだけである。ウッドエルフとハイエルフは我々の世界に霊魂を引き止めようとすることは残酷かつ自然に反することだと信じているのだ。さらに彼らにとってゴーストフェンスやアッシュピットに先祖の死体の一部を使用することは、奇怪かつ不快な行為と言える。例えば、家族の祠に指節骨を飾っておくことはボズマー(死体を食す種族)にとって冒とく的な行為であり、アルトマー(死者の灰を埋める種族)にとっては野蛮なことなのだ。

タムリエルの人間はダークエルフを教養はあるがオークやアルゴニアンと同じ邪悪な存在と見なしているため、彼らとその文化については無知で、恐れる傾向がある。タムリエルの人間は、ダンマーの先人崇拝と霊魂の魔法は死霊術と関連があると考えている。実際、このダークエルフと死霊術との関連性は、タムリエル中に広まっているダンマーにまつわる黒い噂と少なからず関係しているだろう。しかし、認められた種族以外の儀式で死霊術を行うことはダンマーが最も忌み嫌う行為であるため、これは無知による誤解と言える。

ダークエルフはどんなダークエルフにも、またどんなエルフの死体にも死霊術の魔法を施そうなどとは絶対に思わない。しかし彼らは人間やオークといった種族は動物と大差ないと考えている。そのような種族の死体、または動物や鳥や昆虫の死骸に対する死霊術は禁じていない。

闘争家の兄弟The Brothers of Strife

ニリ・オマヴェル 著

アッシュランドのエルフたちは無敵だと、私の仲間の学者たちに信じこませられただろうか。彼らはレッドマウンテンやその他の勝利、例えばドゥエマーに対する激戦を証拠として挙げる。しかし遠い昔、我らが民はスカイリムの山腹のように広がっていた。その遠い昔、我々はぎりぎりのところまで追いこまれた。

レッドマウンテンの前の時代、我々はチャイマーと呼ばれていた。我々は内海のほとりで何とか食いつなぐエルフの一種族に過ぎなかった。

それからネードがやってきた。今日のノルドは同盟だが、ネードは闇の性質を持つ敵だった。彼らは我々の土地だけを狙い、征服し、略奪した。我々は外交の手を差し伸べたが、撥ねつけられた。移動する集団においてはどんなエルフも格好の的だった。男も女も子供も。

当時の最も偉大な将軍は兄弟だった。バルレスとサダルは敵軍に対する意気盛んな戦士を率いた。最初は敵をアッシュから追い払おうという試みだった。戦争が続くにつれて、彼らの行動は純粋に防御と方向転換に変わった。チャイマーの部隊が血をもって村の民を避難させられるのであれば、その血は流す価値があったとみなされた。

ネードは数年後、我々が今ストンフォールと呼ぶ地のほとんどを支配した。チャイマーの軍隊は内海から追放され、援軍はヴァーデンフェルから切り離された。兄弟は撤退を重ね、最後には選りすぐりの妖術師と部隊からなる小さな集団だけが残った。この集団はその後、古代のデイドラの遺跡に避難した。

遺跡で起きたできごとは歴史の中に埋もれてしまったが、現在、その地を特徴づける大量の像が無言の証人として残っている。チャイマーの将軍たちの死により戦争は終わった。だが、その代償は?

この遺跡でいわゆる闘争家の兄弟が生まれた。私の研究によればヴァーデンフェル出身のチャイマーの魔術師がどうやら獣を支配したらしいが、それまでには兄弟が何百人もの人間とエルフの命を奪っていた。我々の民の最も暗い歴史がその後に続いた。止まらなくなった獣がアッシュを駆け回り血で染まらせたのだ。チャイマーもネードも同じように。

兄弟がどうやってニルンに持ち込まれたかは推測するしかない。デイドラ公が彼らを遺跡へ召喚したのかもしれない。笑うシェオゴラスか、ボエシアからの厳しい生き残りの試験かもしれない。

二匹の野獣は最終的にストンフォールの双子の尖塔に突き立てられ、爪で汚した血の歴史と共に休息についた。我々は彼らのような者が二度とアッシュランドに現れないよう希望し、トリビュナルに祈らなければならない。

名家とその特権The Great Houses and Their Uses

テル・ヴェラノ 著

アッシュランドに住めば厳しい暮らしに慣れるだろう。怒れるクワマー、毒キノコ、部族の襲撃者。どれも相手を殺そうと狙っている。みすみす殺されることのないように。

ここにダークエルフの名家に関する覚書をまとめる。使うもよし、使わぬもよし。判断は任せる。ただドーレス家の奴隷キャラバンにいる自分に気づいたとしても、テル・ヴェラノに忍び寄るのは勘弁してほしい。

インドリル家

内海の南岸近くのどこかにいるなら、インドリル家が采配を振るっていることだろう。アルマレクシアの犬たちはストンフォールとデシャーンの有力な家のほとんどの主導権を握っているし、ドーレス家には金があり、レドラン家には武力がある。だが騙されてはならない。青い帽子がアッシュランドの精神的中心を握っているのだ。

彼らの紋章を見たことがあるだろうか?翼があって、我々の頭上を高く飛べる。彼らは我々をそんな風に見ている。自分たちの下に。自分たちよりも遥か下に。ストンフォールの軍隊は地域で最も強力な軍隊のひとつで、インドリル家の戦争の英雄、タンバルがその頂点にいる。

ヒント:誰よりも先にインドリル家の軍隊に賄賂を渡すべし。彼らは最も顔が利く。聖堂に侵入しようとしないこと。砦のようなものだから。インドリル家の服を着た者はストンフォールとデシャーンに重要な影響力がある。もっと簡単な目標を探せ。

レドラン家

義務。名誉。愚行。一般の民はレドラン家をパクトの強力な利き腕と考えている。野外でパクトの士官の集団を見かけると、彼らは最も印象的な帽子がこの誇り高き一族に属しているように見せかける。

現実は少し違っている。赤い帽子の部隊は確かにパクトの軍隊を動かしてはいるが、下から支えているのであって、上から支配しているのではない。アルゴニアンの偵察部隊とノルドの狂戦士たちもまた多くの部隊の指揮を執っている。この話を隠そうとする理由?高潔なレドラン家はそもそもパクトが組織されたことをいまだに快く思っていないのだ。彼らの軍人らしい大胆さはアルゴニアンの隠密ぶりとノルドの勇気に比較するとやや薄っぺらく見える。

彼らの諺からひとつ引用しよう。「人生は厳しい。判断し、我慢し、熟考せよ。軽率な人生は生きる価値がない」それですべてうまくいっていたのは、外見の異なる民が来るまでのことだった。その後は、嘘をつき気取って歩く庶民の時代となった。

ヒント:レドランの部隊はユーモアのセンスはないが、強欲だ。充分なものを提供すれば、自分の母親でさえ売り飛ばすだろう。レドランは絶対に面と向かって侮辱してはならない。いや、どんな状況であれ侮辱してはならない。彼らは訓練場で噂話をする傾向がある。スリを働く気なら、レドランは格好の標的だ。逃げ道だけは確保しておくように。さもないと思っているより早くトリビュナルに合う羽目になるだろう。

フラール家

フラール家は称賛しないわけにはいかない。パクトの連帯に関して有言実行してみせたのだから。だが古くからの敵や奴隷を急に愛するようになったというわけではない。いや、フラール家の大師範はただ他のほとんどよりも賢いというだけのことだ。手を広げてみせれば、背中に隠した短剣には気づかれにくいというものだ。違うだろうか?

最も有力な地位はインドリル家が権利を持つ一方で、フラール家はデシャーンを狡猾に支配している。配下の最大の都市はナルシスで、モーンホールドにさえかなりの影響力を持っている。フラール家の宿屋と大農園はストンフォール南部のここかしこに見られる。その設計図をよく学ぶといい。建築業者の多くは同じ設計図を繰り返し使っている。フラールの宿屋の隠れ場所を一つ知ったら、すべての宿屋について知ったことになる。

ヒント:フラールの部隊はデシャーンのクワマー・クイーンのようだ。彼らに対抗するにはそれを使え。デシャーンの外に出ると、フラール家の者は自分が灰嵐に立っているような気持ちがするらしい。彼らにどこで会おうとも黄色い帽子がよい目印になる。とことん活用するとよい。

ドーレス家

ドーレス家のことは知っていると思っているのではないだろうか。階級の役割に厳格な、血も涙もない奴隷商人。庶民を見るやいなや売り飛ばす傲慢な上流階級。

かなりのところは当たっている。「ドーレスに関わるな」と頭の中にぐるぐる浮かぶことだろう。ただこういう声も聞こえる。「テル、彼らは使い道もわからないほど多くの金を持っている」それもまた正しい。平均的なドーレスの一員は、最も熟練したスリでさえその気にさせるほどの宝石を見せびらかしている。

友よ、その敏捷な指は抑えておくことだ。ドーレスの正義はオーディネーターや地元の衛兵を悩ませることはない。ドーレスに関われば、消えるのみ。死ぬかどこかの上流階級の大農園の奴隷になる。

ヒント:硬貨はすべて奴隷商人の財布に結びつけられている。ドーレスには関わるな。

テルヴァンニ家

この魔術師の家で良い点はひとつだけだ。パクトに関して文句を言わない。彼らが気にかけているのはテルヴァンニの海岸沿いの聖域だけだ。パクトが作られたとき、彼らは予想外の方法でロープを手に入れ、見つけられる限りの室内履きを吐き出した。彼らはトカゲともノルドとも仲良くはない。別の家の大師範を助けるために道を渡ることもしない。簡単に言えば、彼らは古典的な象牙の塔の魔法使いだ。

それ以外の茶色の帽子に関する話は悪いものばかりだ。彼らはドーレス家と同じくらいの奴隷を動かしている。テルヴァンニ家の貴族であるためには、かなりの力が必要だ。きちんとした身なりの茶色の帽子を間違ったやり方で見てしまったら、彼らは相手の顔を溶かしてしまうだろう。彼らは素晴らしい魔法の宝と、干からびた一斤のパンでも取り替えられないような本に同じ価値を見出している。

ヒント:暴れまわるデイドラは私に魔術師の塔を攻撃させることはできなかったが、どうしてもニルンを出たいのならば、炎と霜に対する防御効果を魔法で付与された鎧を勧める。それからできるだけ長く塔を観察すること。そこに魔法の防御の印が見られれば、たぶん修復のために外に出なければならないだろう。路上で幸運に恵まれることがあるかもしれない。新しい略奪品はじっくり観察するといい。宝の中には防御の力が既に備わっているものがある。

様々な宗派:アルゴニアンVarieties of Faith: The Argonians

帝国大学 ミカエル・カルクソル修道士 著

最も同化した少数を除いて、アルゴニアンはエドラもデイドラも崇拝しない。彼らにはタムリエルの他の地域で「宗教」として知られるものが存在しない。彼らがブラック・マーシュのヒストの木を崇めているのは知られているが、祈祷や聖職者や聖堂といったものはないようだ。

アルゴニアンはシシスも崇拝している。神々が生まれるまえに存在した原始的な影と混沌である。タムリエルの民のほとんどとは異なり、彼らはシシスを「悪」とは捉えない。実際、アルゴニアンで影座のもとに生まれた者は誕生時に連れ去られ、闇の一党に捧げられる。闇の一党は社会に不可欠な一部と考えられている。

様々な宗派:ダークエルフVarieties of Faith: The Dark Elves

帝国大学 ミカエル・カルクソル修道士 著

ダンマーは、エドラを崇拝するアルドメリから異端とみなされるチャイマーの子孫である。アレッシア改革はモロウウィンドで起こらなかったため、神殿はタムリエルの他の地とは類似していない。ダークエルフの元々の宗教は「善きデイドラ」と呼ばれるデイドラ公の崇拝だったが、ほとんどの者が「生ける神」トリビュナルを崇拝するようになった。

トリビュナル

アルマレクシア(モロウウィンドの母):

古代チャイマーの伝説からは、彼らが「大脱出」と呼ぶ一件の間にアーリエルの痕跡のほとんどが消えてしまっている。これはアルトマーとの繋がりが強く、彼らに人気があったことが主因だとされている。しかし、定命の各種族が重要視するアーリエルの要素の大半、すなわち不死性、歴史性、そして系統は、モロウウィンドの神聖なるトリビュナルの中でも最も人気のあるアルマレクシアに都合よく反映されている。

ヴィベク(モロウウィンドの主):

ダンマーの詩吟を詠む戦神であるヴィベクは聖なる地の目に見える管理人で、火山の邪神たち相手に警戒を続け、第二紀572年に1日だけ水中で呼吸する方法を教え、モロウウィンドを冠水させてアカヴィリの侵略者たちを排除した件を初め、ダンマーの民を何度も滅亡から救っている。

ソーサ・シル(モロウウィンドの謎):

ダンマーの神、ソーサ・シルは神聖なるトリビュナルの中でも最も知名度が低く、機械仕掛けの秘密都市から世界を作り変えつつあると言われている。

「善き」デイドラ

ボエシア(策略のデイドラ公):

預言者ヴェロスによって代弁されたボエシアは、ダークエルフの神にして開祖である。ボエシアがもたらした光により、やがて「チャイマー」、もしくは変容せし者と呼ばれる一族はアルドマーとの縁をすべて切り、デイドラの理念に基づいた新しい国家を設立したのだった。哲学、魔術、そして「責任ある」建築など、ダークエルフのあらゆる文化的な「進歩」はボエシア由来のものとされている。ヴェロスが古代に説いた説話はいずれもボエシアがあらゆる種類の敵に対し英雄的な成功を収める展開となっており、チャイマーの先駆者ゆえの苦労を反映したものとなっている。ボエシアはアルマレクシアの守護者としても知られている。

メファーラ(両性をもつ者):

メファーラは糸を紡ぐ者、すなわち蜘蛛の神である。モロウウィンドではチャイマーに敵から逃れ、殺す術を教えた先人とされている。チャイマーは小規模の集団だったため、敵は無数にいた。メファーラはボエシアと共に、やがて名家となる部族のシステムを生み出した。また、モラグ・トングも設立している。ヴィベクの守護神とも呼ばれる。

アズラ(黄昏と暁の女神):

アズラはチャイマーらに、自分たちがアルトマーとは別の存在たりえることを教えた先人である。その教えは時にボエシア由来とされることもある。伝説ではアズラは1人の先祖というよりも、一族共通の開祖として登場することが多い。ソーサ・シルの守護者としても知られている。

不在の神

ロルカーン(不在の神):

この創造者、詐欺師にして試練を与える神は、タムリエルに存在するどの神話にも登場する。彼の最も一般的に知られる名前はアルドメリの「ロルカーン」か破滅の太鼓である。彼は父親であるパドメイが始まりの場所に不安定さをもたらして現状を乱したのと同じように、原初の魂を説得、もしくはけしかけて定命の者の次元を生み出させた。その世界が実現すると、ロルカーンは神の中心地から離れ、伝承によっては不本意ながらという説もあるが、原初の神々の創造地をさまよう。彼と彼の「計画」については文化によって大きく違う。例えばモロウウィンドではサイジックの企て、すなわち定命の者たちが創造主である神々を超越する試みに関与しているとされている。

災厄の四柱神「試練の神」

崇拝ではなく、宥め、和らげる対象の敵対する神

モラグ・バル(企みの神、残虐の王):

モロウウィンドで重要な地位を占めるデイドラ。同地ではどこへ行っても策略のデイドラ公ボエシアの宿敵とされている。ダンマー(およびその先達であるチャイマー)の直面する苦境の主な出どころである。伝説では、モラグ・バルは常に名家の血統を壊そうと試み、ダンマーの純血を台無しにしようと試みている。モラグ・アムールに住んでいたと言われる怪物の種族は、前紀に行われたヴィベクの誘惑の結果であるという。

マラキャス(呪いの神):

ダンマーの神話では、ボエシアがアルドマーの英雄神トリニマクを飲み込み、排出したものがマラキャスとされる。弱いが復讐心に燃えた神である。ダークエルフは彼がオークの神王マラクだと言う。彼はダンマーの身体的な弱さを試す。

シェオゴラス(狂神):

シェオゴラスに対する恐怖は広く普及しており、タムリエルのほとんどの地域に見られる。最近の知見では由来がアルドマーの創世話にあるようで、ロルカーンの神性が失われたときに「誕生」したものとされている。重要な神話の一つではシェオゴラスを「シシスの形をしたこの世の穴」と称している。彼はダンマーの心の弱さを試し、名家を互いに裏切らせようとする。

メエルーンズ・デイゴン(破壊の神):

人気のあるデイドラ。火炎、地震、洪水などの自然の脅威に関連づけられている。一部の文化集団で、デイゴンは単に流血と裏切りの神となっている。モロウウィンドではとりわけ重要な神であり、その地の限りなく不毛に近い地形の象徴とされている。

様々な宗派:ノルドVarieties of Faith: The Nords

帝国大学 ミカエル・カルクソル修道士 著

八大神

カイネ(終末の口づけ):

ノルドの嵐の女神。ショールと死に別れている。戦士たちが好んで信仰する。しばしば人類の母と呼ばれる。嵐の声を意味するスゥームを初期のノルドたちに教えたのはカイネの娘たちだとされている。

マーラ(愛の女神):

ノルドの神話で、マーラはカイネの侍女にしてショールの愛人とされている。多産と農業の女神として、マーラは時にアヌアドのニール、すなわち宇宙の女性的基盤であり、創造を生み出した存在と関連づけられている。

ディベラ(美の女神):

八大神の一員で人気のある女神。シロディールでは様々な分派が存在し、女性を尊ぶもの、芸術家や美学を尊ぶもの、性愛の指導を身上とするものなどがある。

ストゥーン(身代金の神):

ツンとは兄弟であるノルドの神で、ステンダールの原型と言える。ショールの盾の従士であったストゥーンはアルドマーの神々と戦った戦神であり、人間たちに敵を捕虜にとる方法と、そうすることの利点を伝授している。

ジュナール(ルーンの神):

知識と秘密を司るノルドの神にして、ジュリアノスの先駆者。気まぐれで戦いを好むノルドの間では人気がなく、崇拝は消えようとしている。

ショール(死の国の神):

ロルカーンのノルド版であり、世界の創世後に人間たちに味方するものの異国の神(すなわちエルフのものなど)の共謀により倒され、ソブンガルデへと送られてしまう。アトモーラの神話では抑圧側のアルドマーに対しノルドらを何度も何度も勝利へと導く血に飢えた武将として描かれている。転落する以前のショールは主神であった。子供たちに神の異名で呼ばれることがある(オーキー参照)。「死んだ神」と考えられるショールには司祭がおらず、積極的に崇拝されている訳ではないが、誓いに使われることは多い。

オーキー(叩く者):

定命の神。オーキーはモーロッチとアーケイの側面を組み合わせている。ノルドの「借り物の神」で、アルドマーがアトモーラを支配していた時期に信仰が始まったようだ。ノルドは自分たちがかつて、オーキーが現れるまではエルフに匹敵する長寿であったと信じている。野蛮な策略により騙されて取引をし、冬を数える運命に縛られたのだとされている。伝説では一時オーキーの邪悪な魔術により、ノルドの寿命がわずか6年間まで落ち込んでいたことがあったそうだが、ショールが現れ、何らかの方法で呪いを解き、その大部分を近くにいたオークに肩代わりさせたものとされている。

アルドゥイン(世界を喰らう者):

アルドゥインはアカトシュのノルド版というべき存在だが、帝国の八大神との類似点は表層的なものにとどまっている。例えばアルドゥインの二つ名である「世界を喰らう者」は、この世を生み出すために前の世界を破壊した恐ろしく強大な炎の嵐としてアルドゥインを描く神話に由来している。ノルドらはすなわち、時の神を創造主でもあり、終末を伝える者でもあると認識している。アルドゥインはノルドの主神ではなく(主神はいない。ショールの項参照)、その恐ろしく、暗い水源的存在と見なされている。

アルドゥインは以前の世界を破壊し、この世界の作成を可能にしている。この世界も破壊し、次の世界の作成を可能にするだろう。アルドゥインは、以前竜教団に崇拝されていた。しかし、竜教団が非合法化されてから長いため、アルドゥインを公然と崇拝する者はいない。

ハルマ・モラ(ウッドランドの男):

古代アトモーラの魔族、「知識の悪魔」で、ノルドたちを誘惑してアルドマーに変える寸前までいったことがある。イスグラモルの神話の大半はハルマ・モラの企みをかわす話がほとんどとなっている。ボズマーとは異なり、ノルドはデイドラであることを否定していない。

モーロッチ(オークの神、山の屁):

ノルドにはデイドラ公マラキャスと同一視されているモーロッチは、戦いを通して試練を与える。モーロッチはハラルド王の世継ぎたちを長きに渡り苦しめた。第一紀660年に竜の壁の戦いでの敗北後、東方に敗走したという。その憤怒は空を憎しみで満たし、後に「夏中の冬の年」と呼ばれるようになったという。

死せる神

ツン:

今では消滅してしまっている、逆境に対する挑戦を司るノルドの神。ショールを異国の神々から守ろうとして命を落とした。

バンコライの伝承

Bangkorai Lore

グレンモリル・ウィルドThe Glenmoril Wyrd

タネスのレディ・シンナバー 著

タムリエルで、グレンモリル・ウィルドの魔女たちほど誤解されている者はいない。第一に、これまで彼女たちについての文献を執筆してきた学者が皆、男性だったのが原因であると私は思う。これはリルモスのキギョー師と、シャド・アツーラのバースト教授による革新的な著作物を完全に軽視しているわけではなく、単に彼らの客観性がその男性優位の文化的先入観によって影響を受け、次第に損なわれてきたということだ。

誤解のないように言うと、私が感情的にグレンモリル・ウィルドの姉妹を理解するに適しているのは私が女である事実のせいではない。それどころか、従来の性的役割における背景において客観的でいられるという能力は、著名な私の小論文「聖人で奴隷の女王:アレッシアとジェンダーの観点」で証明済みである。ゆえに、私はウィルド姉妹のような一方の性のための社会における問題に取り組む比類なき資質を持ち合わせていることになる。

グレンモリル・ウィルドは、自然と自然界を深く尊敬し、デイドラ崇拝に傾く魔女が集まった統制の緩い団体である。種族的には完全に人間だが、魔術結社によってはハグレイヴンやラミアなどの人間の混血もいて、彼女らは大抵自分たちの魔術結社を牛耳っている。彼女たちにとって野生の中で生きていくことは、大抵の場合、農業や牧畜を営む「文明人」の少数民族集団から遠く離れて位置することを意味する。それが彼女たちの本性が理解されない一因になっている。これが原因で、グレンモリルの魔女の魔術結社は、不気味、世捨て人、危険、有害、悪などの言葉で表されることが常なのだ。

実際に、グレンモリル・ウィルドには、これらすべての表現が当てはまった。ただし反論するが、悪だけは違う。彼女らが文明世界と文明の習わしを強固に拒み続けているのは事実であり、魔術結社に男性が入ることを一切認めないのも確かだ。また、自分たちのことを、「自然の法則」を施行する者と見なしているのも事実であるが、それを認めているのは彼女たちだけである。しかし、だからといって彼女たちが悪なのではなく、我々のものとは異なる道徳規範を厳格に守っているだけだ。

さらに、グレンモリルの魔術結社が男性を受け入れない状態で人口の維持を可能にしているように見える事実もまた、近接して住む人々が不信感を抱く対象となっている。ウィルドの姉妹は近所の農家から女児を盗むことで数を補充しているという古い中傷があるが、そのような慣習が立証されたことはない(ハイヤルマーチの沼地に住む悪名高き魔女については除くが、彼女らが崇拝するのはモラグ・バルで、子供の誘拐は彼女らの不快な習慣の中でも最もましなことだった)。大規模になりつつある私の研究によって、ほとんどの魔術結社に関しては、困窮した両親によって連れてこられた、望まれない女児を新規のメンバーとして獲得しているという結論が導き出された。(北部地域における望まれない男児はどうなるかという質問は、おそらく投げかけずにしておくのが最善だろう)

グレンモリル・ウィルドは数的に少数だが、地理的に最東は中央スカイリムのグリーンスプリング魔術結社から、最西はハイロックのイレッサン・ヒルズ魔術結社まで広範囲にわたる。8ほどある最も有名な魔術結社はハーシーンの信奉者だが、西ファルクリースにあるハグフェザー魔術結社はナミラをあがめ、マルカルスの姉妹(都会に住む唯一の魔術結社)はメエルーンズ・デイゴンを崇拝し、前述したハイヤルマーチの沼地に住む魔女たちは、モラグ・バルの信奉者である。

北部の未開地に住むもう一方の主要なデイドラ崇拝者であるリーチの民との関係は、魔術結社によって、そしてリーチの一族によって異なる。ハグフェザー魔術結社、ライムロック・ウィルド、そしてマルカルスの姉妹は皆リーチの民と友好的な関係を持っているが、イレッサン・ヒルズの西の魔術結社とビリジアン・ウッドは、何千年にも遡ってリーチ族たちと争っている歴史がある。これは、イレッサンとビリジアン・ウィルドが、ハーシーンのあまり野蛮でない側面を崇め、ライカンスロープを治癒することで知られている一方、リーチの民がハーシーンのより残忍な側面を好み、ライカンスロープを呪いよりもむしろ贈り物として称賛しているという事実によって説明されるかもしれない。

ということで、これこそが、広範囲に生息するが捕えどころのないグレンモリル・ウィルドの姉妹について分かっていることである。確かに、多くの疑問は未解決のままであるし、なされるべきさらなる研究も残っている。これらの問題に適切に取り組むには、タネスを出て北部の未開地へと個人的な探検に乗り出す必要さえあるかもしれない。ただし、このような価値ある学究的活動への資金援助を申し出る、気前のいい後援者がいればの話だが。

ハーシーンの姿Aspects of Lord Hircine

リーチの民の言い伝え、その5

コロール大学、ジュノ・プロシラス 著

以下は、自らを魔法使いウラキャナックと呼ぶ、ドルアダッチの呪術師による話を書き留めたものである。

「手の指のように、ハグレイヴンの爪のように、熊を殺す矢のように、ハーシーン王の姿は5つある。5つのどれにも出会う可能性はある。どれも真の姿であり、森の中の死である。どれも敬意を払うに値するものである」

「アルラベグと呼ばれる「狩人」に出会うかも知れない。彼は悲痛な慈愛の槍を身に付けている。ハンティング・グラウンドから、新しい獲物を狩るためにここへやって来るか、もともとハンティング・グラウンドにいるユニコーンなどの獲物を、新しい森で狩るために連れてくる。獲物を連れてきてない時に彼と出くわせば、ただでは済まない。野兎役に指名されてしまう可能性がある。そうなったら力の限り逃げるしかないが、逃げ切れはしない」

「ストリーベグと呼ばれる「獣男」に出会うかも知れない。狼の頭蓋骨のトーテムを身に付け、そのうなり声はまるでカース渓谷の地滑りのようだ。子供達のスキンシフターと一緒に狩りのためにやって来るか、新しく子供を養子にして生皮を剥ぐために来る。彼の遠吠えは、星霜の月の真夜中に池が凍るのと同じように体内を凍らせる。死が近づいてくるのが分かるが、逃げることはできない」

「ウリカンベグと呼ばれる「大雄鹿」に出会うかも知れない。そのひづめの音はブラッド・サモンズに鳴り響く。雌鹿と交尾をするためにやって来て、その目的のために魅力的な女性を変身させてしまうこともあれば、群れの中で弱った者を殺すこともある。彼のひづめの音が聞こえたら、群れと走る運命にあり、彼の後についてハンティング・グラウンドに行き、追い回された末に滅ぼされることになるだろう」

「グリベグと呼ばれる「素早い狐」に出会うかも知れない。彼は骨の杖を巧みに操る。定命の狩人達を当惑させるためにやって来て、円を描くように走らせた末で、極端に途方に暮れた状態にして、彼について崖や道のない泥沼を渡らせる。体を激情で満たし、彼を追い求めることしかできなくされてしまうか、彼に利口だと認められて技を教えてもらえるかも知れない」

「フロッキベグと呼ばれる「強大な熊」に出会うかも知れない。爪と牙のトーテムの化身であり、孤独、労働を離れた平穏、そして内なる燃える霊魂の更新を求めてやって来る。彼を刺激して平穏を乱すようなことをすれば、粉々にされてしまうので注意しなくてはいけない。しかし敬意を払って近づき、甘いハチミツ酒を捧げれば、次の戦闘時に熊の心臓の力を授けてくれるかも知れない」

「これらが5つの姿だ。これ以上はなく、あると言う者は無知で愚かな者だ。ウラキャナックがそう言うのだ。これまで私が間違っていたことがあるか?そう言ってるのだから、そうなのだ。ジュニパーの水薬をよこしてくれ」

バンコライ、ハイロックの盾Bangkorai, Shield of High Rock

(イーモンド王による兵士達に向けた最後の演説)

「聖ペリンの騎士、エバーモア衛兵、モウルノスとエフェサスの自由民による市民軍、バンコライの兵士達よ!我々は以前にも、東からの侵略者に対するブレトン王国の防衛の最前線である、ハイロックの盾となったことがあった。これまで幾度も、エバーモアとその周辺地域のブレトンは武器を手に取り、バンコライ峠に軍を配置し、我らが母国を略奪し荒らそうとした者達を追い返した。第一紀の874年、スルジュ戦士長のオークとゴブリンの軍が、レッドガードによってハンマーフェルから送り込まれた際には、通過を阻止して北東への撤退を余儀なくさせ、オルシニウムへたどり着くまで、重い足取りでドラゴンテール山地を通らせた。前哨戦を抜けて我らが母国に入れたゴブリンなど、一体もいなかった」

「そして1029年、女帝ヘストラの帝国軍が、ヴァーカースの吸血鬼であるストリキ王を退位させた際、王は恐ろしいグレイホストを率いて、周囲を火の海にして惨殺を繰り返しながら西へ撤退した。しかしそのコウモリ人間と狼の軍がバンコライ駐屯地に到着した時には、岩に砕け散る波のように倒れた。生存者はヘストラの帝国軍が捕獲して殺した。女帝は大いに感心したため、ハイロックに最初の帝国への加盟の名誉を与えた」

「ルビーの玉座の下でおよそ千年近くが経過した後、アレッシア教団の逸脱行為によって、ハイロックは最初の帝国からの脱退を余儀なくされたが、シロディールの僧兵はおとなしく手を引こうとはしなかった。2305年、修道院将軍プリスクス・マクテータの指揮の下、ブレトンを傘下に戻すべく慈悲と恩寵の帝国軍が送り込まれた。マクテータの狂信者達がフォールンウェイストを端から端まで埋め尽くしたが、バンコライ駐屯地を通ることはできず、信心深い者が気高い者と戦う5ヶ月間の包囲の末、修道院将軍は敗北を認め、面目を失ってシロディールに戻る他はなかった」

「駐屯地がハイロックを防御できなかったことは1度しかない。ダーコラクのリーチの民の大群が、ビョルサエの南岸になだれ込み、それまでいつも我々を守ってくれた北東の尖塔から流れ入った。そしてエバーモアが略奪され、要塞は裏側から襲われた。それでもなお、我々はハイロックのために十分な時間を稼ぎ、ブレトン王国は兵を集めることができ、結果的にはダガーフォールでダーコラクを撃退した」

「今日、東からの侵略者が、シロディールからの帝国軍という形で再び我々を脅かしている。しかし連中は女帝ヘストラの伝説に名高い帝国軍でもなければ、皇帝レマンのよく訓練された兵士達でもない。サルンの強奪者の、堕落した傭兵達だ。おまけにこの帝国軍は、まさしくあの堕落して信念を失った家族の親族が率いている!」

「魔導将軍セプティマ・サルンとは何者だ?追徴課税で自由民を苦しめる以外に、これまでに戦に勝利したことはあるのか?ただの寄せ集めで名前だけの「帝国軍」を、デイドラを崇拝する異端の方法で我々の母国に連れてくるとは、何のつもりなのだ?」

「私は連中をクズと呼ぶ。かつて高貴だった「帝国軍」という名前を汚す行為である。私は連中を暴徒と呼ぶ。そして、我々が壁を守っている限り、バンコライ駐屯地を通させはしないと確信している!」

「どうだろう、聖ペリンの騎士、エバーモア衛兵、モウルノスとエフェサスの自由民による市民軍、バンコライの兵士達よ!先祖の血を裏切って、敵を通してやるのか?あり得ない!今日も、明日も、この先も決してそんなことをさせてなるものか!」

ビリジアンのセンチネルThe Viridian Sentinel

しーっ。もう少し寝なさい。ビリジアンのセンチネルがいるかぎり、ここにはトロールは来ないから。

何だって?ビリジアンのセンチネルの話をまた聞きたいって?もちろんいいよ。さあ、枕に頭を休めてお聞き。

バンコライ北部の者なら、誰もがビリジアンのセンチネルについて知っている。センチネルは、野生のものすべてを森にとどめておくガーディアンだ。センチネルが監視をしている限り、トロール、熊、魔女と仲間の狼。どれも征服された土地には入らせない。そしてセンチネルはいつも監視を続けてくれる。

そんなビリジアンのセンチネルがいなかった時代があると知っていた?ずっとずっと遠い昔のこと。私達ブレトンはディレニのエルフから自由を勝ち取ったばかりで、エルフはまだ苦々しく思っていた。「さあ、お前達がハイロックと呼ぶこの地を所有するがいい」と彼らは言った。「すぐに手放すことになる。私達は塔のある島へ撤退する。アース・ボーンズとの協定を断ち、これらの土地は荒野に返すことになる」

エルフの話し方についていつもそうであるように、私達は彼らの意味したことを理解しておらず、ただ肩をすくませて、この土地を自分達のものにすべく働き始めた。畑を耕し、作物の種をまいた。草原には柵を立て、家畜用に牧草地を作った。道を作り、市場街を建設し、人々が互いに生産物や商品を売れるようにした。何事もうまくいっているように見えた。

しかし、森に最も近い農家で悪いことが起き始めた。軒の下に魔女達が潜み、森に近寄りすぎたブレトン達が森の影の中に消え去ったまま戻ってこないようになった。次第に農民達は森に近い畑を放置せざるをえなくなった。

事態はさらに悪化した。森の中から、恐ろしい生物や獣といった様々なものが、主に夜間だが時には昼間にも現れ始めた。それらの生物は農場をうろつき、農家の家族を脅かし、可能ならば殺しさえした。農民の多くは「荒野から来たあんな生物には太刀打ちできない。さあ、農場を去って街に行こう」と言った。

しかし彼らが街に到着すると、農民にできる仕事は見つからなかった。さらに悪いことに、農民達が街に食料を送り出さなくなったので、食べるものはほとんどないに等しかった。街の住民達は農場を放棄した農民達を責め、農民達は武装した番人を送ってくれなかった街の住民達を責めた。どうすればいいのか、意見をまとめられる者はいなかった。

農家の子供でグリーンワードという名の青年は、とても心配していた。礼拝堂に行って真剣にステンダールに祈りを捧げた。「慈悲と保護の力を持つ高潔な神よ、私達はひどい窮地に立たされており、あなたの助けを必要としています。荒野の獣たちが解き放たれ、私達の土地は荒れた地に戻りかけています。じきに、規律と調和を重んじる定命の者が住める場所はなくなってしまいます。私達自身も獣になってしまい、名前を忘れ、神々に背を向けることになってしまわないかと心配なのです。神よ、どうしたらいいか、どうぞ助言をお与えください」

するとカワセミが礼拝堂に飛び込み、グリーンワードの前にある祭壇に止まった。とても大きなカワセミで、青年がそれまで見たことがないほどだった。カワセミは頭を上に向けると、口笛を吹くようにさえずって、くちばしを鳴らした。グリーンワードには、そのさえずりとくちばしの音に混ざって、話し声が聞こえるようだった。「獣が荒野から出てきたのは、あなた達の名前を忘れ、殺すことが認められている同じ獣だと思い込んでいるからだ。誰かが荒野に入り、獣達に対して、自分には名前があり、征服された土地は没収されたのだと伝えなくてはならない」。その後カワセミは鳥らしくそこを汚してから飛び去った。

青年はお辞儀をして言った。「家族と、征服された土地にいる他の家族のために、私がやります」。彼は父を抱きしめ、母にキスをすると、街を出て荒野の端へ戻った。そこで凶暴な虎と出くわし、虎は彼に襲いかかりそうになったが、青年はこう言った。「名前があって獣ではない自分を襲うことは認められていない。名前はグリーンワード。この土地は征服された土地であると宣言する。荒野に戻って二度とここへは来るな」

するとどうなったと思う?凶暴な虎は言われたとおりにした。植えた狼も、よろよろ歩く熊も、恐ろしいトロールも、危険なスプリガンも、すべて荒野に戻り、それ以上征服された土地には来なくなった。

これをやり終えた時、青年は務めを果たし、家族の元に戻れると思ったが、そうではなかった。荒野から新しい獣が現れる度に、境界線で教えてやらなければいけなかったのだ。そのため、それから青年は森の近くに住み、荒野の端へ歩いて行って、獣に名前を伝えて送り返すようになった。そして人々は彼をビリジアンのセンチネルと呼んだ。

時は流れ、そのうちビリジアンのセンチネルはかなりの高齢になり、やがて境界線へ歩いて行けなくなるかも知れないと思い始めた。彼は心配になった。しかし、鳥から話を聞いたという1人の少女が現れ、それからは2人で一緒に境界線へ行くようになった。そしてついにセンチネルが亡くなり、彼の名前が魂と共にエセリウスへ行くと、少女が新しいビリジアンのセンチネルになり、征服された土地の安全は保たれた。

それ以来これはずっと続いている。この先も続くはずだ。

フォールン・グロットの伝説The Legend of Fallen Grotto

遠い昔、7人の息子と7人の娘を持つ男がバンコライに住んでいた。家族の住まいは、森の外れにある、奥深くまで続く曲がりくねった洞窟の中にあった。

周囲を取り囲む森は、熊、狼、アナグマ、鹿など、ありとあらゆる種類の生物であふれていた。大家族ではあったが、獲物は豊富にいて狩りも楽だったため、空腹とは無縁だった。

「ハーシーンの祝福に感謝しなくては」と男は言った。

そして狩りの神を祭った祠を家の中に建て、ハーシーンに祈りを捧げることにした。洞窟の壁には動物の脂肪と土を混ぜたものを塗った。子供達が狩った鹿から枝角を取って祭壇を作り、妻は皮を編んで敷物を作り、土の地面を覆った。

祠が完成すると、男のその家族は獣脂のキャンドルを灯し、雄牛をあぶり焼きにし、祈りの言葉を唱えながら雄牛の血を祭壇に注いだ。

すると突然、笑い声が聞こえ、雄牛の死に際の鳴き声とその焼かれた肉の匂いに誘われたハーシーンが、彼らの目の前に現れたのだった。

「上出来だ!」とハーシーンは大股で歩み寄りながら大声を上げた。何重もの動物の革に身を包んでいたが、足元は裸足だった。

「私はあなたの忠実なるしもべです」と男は神の前にひれ伏しながら言った。

「信仰心の証明として」ハーシーンは言った。「7人の息子と7人の娘を送り出すがいい。夜明けから夕暮れ、そして夜明けまで、私が満足するまで狩りの獲物にしよう」

男は恐怖で後ずさりした。「そんなことできません!」男は言った。「他のものなら構いませんが、子供達だけはご勘弁を!」

ハーシーンは目をしかめ、洞窟の天井に向けて片手を上げた。そしてもう一方の手で地面を指した。ハーシーンが叫び声を上げると、壁が内側へ崩れ、祠と男の家は破壊された。

捧げ物から上がる煙のように塵が舞い上がり、がれきの中から16体の森のトロールがドシンドシンと頼りなさげに現れ、よろめきながら洞穴から森の中へと入っていった。

ハーシーンが冷たく言った。「獣にするにも値しなかったが、どうせだから狩りをするとしよう」

ライカンスロープ症と生きるLiving with Lycanthropy

時代を超えて、「ウェアウルフ」という言葉を聞く時、それは恐怖と嫌悪からくる叫びだった。しかしこれからは、必ずしもそうではない。セイニーズ・ルピナスに苦しんでいても、生産性のある平穏な暮らしを送ることは可能だとタムリエルに証明するのだ。

掟:暴力的な行動をしたくなる衝動を抑える

社会から遠ざかることで、このシンプルな掟を毎日の生活に適用する方法を学べる。私達の苦境を理解できない者に対して報復するという、野生の願望に負けてはいけない。他者を単なる娯楽目的で殺すべきではない。ハーシーンは私達に、優れた戦闘能力と、普通の人間を超える強さを与えて下さった。この祝福を、他者を傷つけるために利用してはならない。代わりに、他者にも恩恵があるように使わなくてはならない。狩りはやりがいのある趣味にもなり、恩人に感謝する方法にもなる。しかし人間であれ獣であれ、他者を苦しめる方法であってはいけない。

この祝福は、祝福であって呪いではない。おかげで重い荷物を運ぶことができ、疲労することなく長距離を移動できる。このため、旅の商人に向いており、あらゆる種類の肉体労働にも向いている。継続して自制を見せ、他者に暴力を振るわず、空腹感によって殺す衝動に駆られないと証明することで、自分達と家族に敬意を払うことができる。

ハーシーンの祝福に忠実であり続け、ウェアウルフも穏やかでいられると示すことは、私達の務めである。

狩りへの出立The Posting of the Hunt

いかなる者にも人前で言わせてはならない。狩りが中止されてないことも、儀式の宣言がされたことも、古代の務めの存在についても。

純潔な獲物の儀式は、グレートハントとも呼ばれる。この世界を包み込む強力なマジカの流れから魔法のエネルギーを引き込む、古代の儀式である。儀式の作成者と時期については遠い昔に忘れ去られた。しかし正しく行えば、儀式はハンツマンに強大な力と威厳をもたらす。

儀式では、上級犬と下級犬を連れた全能のハンツマンを、定命の生物である人類の狩りにちなんで伝統的に「野兎」と呼ばれる、哀れで不幸な純潔の獲物と戦わせる。ハンツマンは即座にその能力がもたらす強烈なスリルと栄光、そして無力な獲物に対する支配力で満たされ、それと同時に、純潔な獲物の悲劇的で崇高な、究極的に無益な苦境に心を動かされる。儀式のこれ以上になく美的な実現の中で、殺しによって我を忘れる歓喜は、純潔な獲物が抱く悲しみと絶望をハンツマンが認識することによって釣り合いが保たれる。純潔な「野兎」の死体が小さく切り裂かれる中で、ハンツマンは力の悲劇的な不均衡について、そして世界における残酷な不公平について思いを巡らせる。

狩りが始まると、下級犬は緑のクリスタルが映し出す純潔な獲物の礼拝堂の前に集合する。礼拝堂の中では、ハンツマン、上級犬、そして狩りの王が儀式を執り行い、ハンツマン、ハント、そして純潔な獲物を参加者として清める。次に、ハンツマンは礼拝堂から出て、悲痛な慈愛の槍を掲げ、「狩りの務め」を読み上げる。そこには狩りの4段階、すなわち、さらい、追跡、合図、検分における掟と条件が説明されている。

第1段階:さらい。下級犬が地面をさらい、隠れている「野兎」を外に出す。

第2段階:追跡。上級犬が「野兎」を見える所へ狩り出す。

第3段階:合図。上級犬が「野兎」を罠にかけ、仕留めるために漁師を呼ぶ。

第4段階:検分。ハンツマンは儀式で使う悲痛な慈愛の槍を使って仕留め、街の鐘を鳴らして狩りの王を呼び、見てもらう。次に狩りの王は、狩りで悲痛な慈愛の槍を巧みに使った、勇敢なる猟師に報酬を授ける。狩りの王はさらに勇敢なるハンツマンに、次の狩りにおける「野兎」を指名するように要求する(勇敢なるハンツマン自身は次の狩りに参加するとは限らない)。

勇敢なるハンツマン、狩りの王、猟犬が厳粛に守らなくてはいけない「狩りの務め」には、狩りの手法と条件が詳細に記述されている。これらの手法と条件は掟とも呼ばれ、狩りにまつわる詳細がすべて具体的に定められている。例えば、参加できる各種猟犬の数、悲痛な慈愛の槍を使う際の方法などである。さらに掟では、たとえわずかであれ、「野兎」には現実的に狩りから逃げられるチャンスがなくてはならないと定めている。実際には、デイドラの儀式の聖堂に集めると、野兎が狩りから離れた場所へ転移できる、すなわち猟師と槍から逃れられる鍵が6つ用意されているという条件で満たされる。当然ながら、「野兎」が実際に鍵を発見して逃避することは起こりえないが、その形式は守られなくてはならず、鍵に細工をしたり、「野兎」が鍵を発見または使用できる本来のチャンスを削いだりする行為は、恥ずべきものであり、狩りの掟に対する許されざる裏切り行為である。

真のホーリン伝説 パート1The True-Told Tale of Hallin, Pt. 1

「若きファハラジャード王子へ伝えられた物語の歴史」より

おお王子よ、ではお話しよう。ラ・ガーダがたちまちハンマーフェル中に広がって牙の民を追いやり、かつてヨクダ人であった人々が剣を捨て、代わりにシャベルとこてを拾い上げるやいなや平和が生まれた。三世代の間レッドガードは地を掘り、偉大な建造物を数多く砂漠の上に建立した。また、我らが民は皆、その偉大さを称える記念碑を建設していたために、剣の道の研究を行う者はほとんどいなかった。

今のアリクル東部、そしてバンコライの峠の南部に、立派であり続けるオジュワ女王によって見事な街が建設され、すべて白い石と縦溝掘りの柱に彩られたその街の名は、非常に高名な女王のその名にちなんで、オジュワンブと名付けられた。その道々と広大な大通りには、商業的かつ創造的なすべての芸術を扱った家や集会所がたくさん見られた。人々は洗練された服に身を包み、輝く宝石で自らを飾り立てて通りをうろつき、美味しいものを食べ、活気ある曲や心静まる曲を聴いた。そして、それについてはすべて、心地よいものであった。

壁によって光が遮られた、取るに足らない街角に立つ「戦いの美徳の間」では、アンセイ最後の戦士、ホーリン師が、剣の道に関心を持ったオジュワンブの若者たちにそれを教えていた。そんな若者は少ししかいなく、同輩から冷やかしや冷酷なからかいを受けたりしたが、それでも彼らは年老いたホーリンから刺激を受け、レッドガードの真の戦士となるまで剣の道を学んだ。後にお分かりいただくように、申し分のない戦士になった。

「竜の尾」という山岳地帯にて未だ潜伏する牙の民が、レッドガードに対する怒りの不満を大げさに示すがごとく、そのぼろぼろになった衣服を引き裂いていた。その中に、謀略によってディヴァドの呪いを逃れたために減退していなかった、ゴブリンの偉大なる領主がいた。悪賢さと活力の両方を備えていたこの巨大なゴブリンは、部族の中で長い間働き、ある日竜の尾にいるすべての牙の民の領主となっていることに気がついた。彼の名は石拳のマーグズールといった。そういうわけでマーグズールは、偉大な剣「骨切り」を掲げて地震のような力強い声で吠え、復讐の日はついにそこまで来ていると宣言した。

それからマーグズールは、竜の尾から「直立軍」を率いて大きな砂嵐のようにハンマーフェルへと殺到したが、その前に立ちはだかる者は誰もいなかった。フォールン・ウェイストの人々は、牙の民の怒りを前に逃げまどい、街が溢れ返るまで、実に多くの者がオジュワンブの壁の向こうに避難した。苦悩と不安の中、市民は泣き叫び、「ああ、オジュワ女王よ。我々のために一体誰が戦うのか?我々は皆、職人に、そして喜びを作る者になってしまった。今や剣の道を忘れてしまったのだ」と嘆いた。

すると、オジュワ女王は民に話しかけ、「剣の道を覚えている者は誰もいないのか?」と言った。そこで、ホーリン師が名乗り出て、女王の前でお辞儀をするとこう言った。「女王様、私はアンセイ最後の戦士です。少なくとも自分が心得ているだけの剣の道を覚えております。できる限りのことをいたしましょう」

それから、ホーリンの弟子たちも前に進み、女王の足元に剣を置いた。しかし、非常に高名なオジュワは、剣の数があまりに少ないことに失望し、取り乱してこう言った。「そのように少ない剣でどうやって直立軍を撃退することができるのか?牙の民は砂漠の砂のように無数にいるのだぞ」

ホーリンはそれでも決して思いとどまることなく、大胆に、「偉大なる陛下よ、ご安心ください。あなたの民はレッドガードです。剣の道を容易に思い出すでしょう。剣の柄をいま一度手に取れば、円環の書からもう一度格言を学び、敵が無数であろうと、全世界のどの民にも匹敵するでしょう」と言った。

「アンセイの師よ、そのようになさい」と、オジュワ女王は答えた。「しかし、レッドガードといえども、剣の道を習得するには時間を要する。しかし我々には時間がない」

「それなら、もっと時間を作りましょう。十分な時間を与えるのが我が任務です。それは我が人生において、最高の仕事となりましょう。オンシのまばゆい刀剣にかけて、与えることを誓います」そして、彼は女王の目の前で剣を引き抜き、剣の仲間への誓いをかけた。驚くべきことに、ホーリンの背丈は巨人の背丈になった。剣の鋭い刃は輝く光になり、皆は注視できなかった。

そのうちに視力が戻った彼らが目にしたのは、いつものホーリン師が、微笑みながら剣を鞘に収める姿であった。すると、アンセイ最後の戦士は、まるでオジュワンブの全市民を抱擁するかのように両手を掲げて言った。「レッドガードの仲間たちよ。私は君たちに、長きに渡って守ってきた円環の書の知識を伝授しよう。どんな脅威であれ対処できるであろう。我が弟子たちが君たちに知識を教えれば、皆が剣の道をもう一度理解するだろう」

それから彼はオジュワ女王に振り向いて言った。「さあ、民を導いてください。偉大なる女王よ。それはあなたにしかできない仕事です。彼らを西へ連れて行き、ハンマーフェルは自ら直立軍との戦いの準備を整えられると、剣の道の評判を広めるのです。私はこの街にとどまり、人々が自らのために戦う準備が整うまで、他のアンセイと共にできるかぎり防衛しましょう」

真のホーリン伝説 パート2The True-Told Tale of Hallin, Pt 2

ホーリン師の言葉をそのまま信じたオジュワ女王は、直ちに兵士に命令し、円環の書からの教練を毎日行わせながらも、アリクルへと向けて西へと進軍させた。ただし、オジュワ女王が行ったのはこれだけではなかった。フクロウの仲間である賢明な女王は、すべてのフクロウに敬意を払い、殺してはいけないと法令で定めていた。そのお返しに、フクロウも女王の願いを叶えていた。だから女王はフクロウの父を呼び出し、オジュワンブで待機してホーリンの防御を見守るように頼んだ。女王は、「街全体を1人の男がどうやって守るのかを知りたい」と言った。

アリクルへ続く秘密の道を進むため、最後尾にいたオジュワンブの人々が門から出たと同時に、東に牙の民の斥候が現れたが、ホーリンはそれに気がついた。なぜなら、彼は年老いてはいたが、その目は鋭かったのだ。

聞いていたのはフクロウの父以外にはいなかったが、ホーリンは言った。「蛇が脱皮をするように、アンセイは過去の殻から新たに現れよう」彼は剣を掲げ、「同胞よ!人々の救援を求める。時が終わるとしたら、その時は今なのだ」と叫んだ。

彼が剣を左に指し示すと、胸壁に沿って北のほうで、蛇皮のようなカサカサという音がした。すると驚いたことに、胸壁沿いに兵士の集団の影ができた。そこには、かつては皆アンセイの女であったらしき者たちが立っていて、ホーリンの方を向いて敬礼をした。ホーリンが右に同じような身振りをすると、胸壁に沿って南のほうで、カサカサという音がした。すると驚いたことに、かつては皆アンセイの男であったらしき者たちがそこに現れ、同様にホーリンに向かって敬礼をした。それから、北と南のすべての者は、輝く剣を抜き、胸壁の上で立って待ち構えた。

牙の民の斥候は、オジュワンブの防衛を観察しようと、直ちに立ち止まった。街の人々が剣の道を忘れてしまったと聞いていた彼らは、胸壁に相当な数の戦士がずらりと並んでいるのを見て驚いた。そして、誰がマーグズール戦士長へこの知らせを届けるかについての相談がなされたが、そのような知らせを伝える者は首を切り落とされるだろうと恐れたために、彼らは口論になり、言い逃れをすることとなった。しかし、最終的には一番小さな者が、心の打撃を受けながらも戦士長への報告を持ち帰った。

そのようにして斥候は、マーグズールに、オジュワンブの壁には奇妙なことに、相当数の防衛にあたる戦士がいると報告した。石拳は瞬く間に斥候の首を打ち落としたが、悪質さも活力も備わっている彼は、よく考えた。そして彼は、「だからどうだというのだ?我々は砂漠の砂ほど無数にいる。このオジュワンブを取り囲んで、入口も出口も離れない。彼らの畑を荒らし、物資の流れを止めて、誰も飲まず食わずにさせるのだ。さすれば、街は陥落しよう」と考えた。

そしてマーグズールは命令を下し、それは実行された。牙の民は外塁の戦利品で暇をつぶし、壁を防衛する戦士たちに罵声を浴びせ、彼らを愚弄した。しかし、戦士たちは何も応じなかった。捕虜を虐待して最低な楽しみ方で時間を過ごしていたマーグズールとその部隊は、オジュワンブの防衛者たちが衰弱し、その数が減少するのも時間の問題であると確信していた。

だが、そうではなかった。戦士長の骨計数機による計算が、市内の食料や飲料の底がついたと示しても、戦士たちはじっと立ち、屈強な様子で、黙っていた。そこでマーグズールは呪術師を招集し、「呪術師よ!我々はレッドガードにばかにされているのか?我々が見ている戦士は、実際に胸壁に並んでいるのか?それとも、ただの影なのか?」と言った。

それで、呪術師たちは前兆を占い、双子の乳児をいけにえに捧げ、東門へ偵察を送ったが、ホーリンはそれを上から槍で突いた。彼らは戻り、こう言った。「いいえ、偉大なるマーグズール様。我々はばかにされてなどおりません。我々が目にしているのは、確かに胸壁に並んだ相当数の戦士です。しかし、いかにして飲まず食わずで立っていられるのかは、私どもにはわかりません」

マーグズールはほんの一瞬で呪術師たちの首を打ち落とし、それから血まみれの「骨切り」を掲げて叫んだ。「戦闘準備だ!隊列を作れ!今夜我らはオジュワンブの血を飲むのだ!」

その戦いを生き延び、話を語るレッドガードは誰もいなかった。しかしそれでも、フクロウの父によって伝えられたために、賢明なオジュワ女王はその事実をすべて知ることとなった。まさに17日もの間、ホーリンとそのアンセイの戦士たちがいかにして攻撃に耐えたかが伝えられた。戦士の数はかなり多かったが、それでも時間と共にアンセイの戦士は減少した。ただし、彼らは蛇皮へと変わるように、殻のみを残して逝った。最後には、東門に立つ者はホーリンだけとなり、「骨切り」を振り上げたマーグズール戦士長が門を押し開けた。すると、ホーリンの体は戦士長に匹敵するほど拡大したように見え、どちらも剣の戦いへと突入した。

長きにわたって剣はぶつかり合ったが、月が昇ると石拳はついに、ホーリンを地面に叩きつける強打を放った。しかし、ホーリンを倒したと同時に、円環の書のありとあらゆる切り込みと突きを心得たホーリンは、剣を振ってマーグズール武将の首を切り落とした。それから両者とも死に果てたが、その死に顔に微笑みと平穏な表情を浮かべていたのは、1人であった。

オジュワ女王はこの知らせを聞きながらうなずき、「それはよろしい」と言った。そして、円環の書のありとあらゆる切り込みと突きを心得たレッドガードの戦士による大軍隊の方を向き、言った。「レッドガードよ!今こそ牙の民から我らの地を取り戻すため、進撃するのだ。もう一度我らの壮麗な街を取り戻したら、それをホーリンズ・スタンドと新しく名付けよう。その日はきっと訪れるであろう」

そのようにして、街の名は、その後ずっとホーリンズ・スタンドと呼ばれている。

野蛮人と獣の生活A Life Barbaric and Brutal

アーセナイス・ベロック 著

第一章:リーチの民による拉致

私は、エバーモアからビョルサエを北へ行った、マルシエン村で生まれた。母は織工で、父は、川貿易用の小さな漁船やコラクル舟を作る船大工だった。少年時代は、父が働く港で遊んだり、森の近くでイッポンシメジのかさやクルミを隅々まで探したりと、幸せだったことを覚えている。

それはある日、後者の遊びをしていた時だったが、私はいつもより村から少し離れて道に迷い、ブライアの茂みに入り込んでしまった。すると突然、いつの間にか気がつくと、1対の人間の頭蓋骨をじっと見つめていた。自分が見ていたものが、杖に乗った頭蓋骨と、その隣にあった頭蓋骨のような模様を描いた女の顔だということに気がついた時には、打ちのめされて縛られ、女の肩に担がれていた。

家から離れ、北へと連れていかれた先は山の中だった。蹴ったり叫んだりし始めると女は私を投げおろし、さらにきつく縛って、おまけに猿ぐつわをかませた。それから女はまた、辺境へと私を運んでいった。結局私は、極度の疲労で気絶した。

目が覚めると辺りは暗かったが、火明かりのゆらめきのおかげで、ぼんやりと物影を見ることはできた。それは、角や骨、そしてくぎや羽毛を身につけた人影だった。リーチの民だ。私は目を閉じて、目覚めようとしたが、それは悪夢ではなかったのだ。目を開けると、彼らはまだそこにいた。

猿ぐつわは外されていたので、水が欲しいと叫ぶと、頭蓋骨顔の女(後にヴォアンシェという名だと知る)が、コップに入れた水を持ってきてくれた。女は縄を確認したが、私が痛みにたじろいだ部分を、実際に少し緩めてくれたのだ。これに私は驚いた。リーチ族は未開人で、残虐行為にふける意地悪なデイドラ崇拝者であるといつも聞かされていたからだ。もしかすると、私がどれほど苦しんでいたかを知れば、解放され家に帰されていたかもしれない。

だがそれは、空頼みだった。私はそのまま、8年間もクロウワイフ・クランの捕虜にされたのだ。リーチの民は、故郷のブレトンで信じ込まされたよりもはるかに複雑で、理解し難かったが、1つだけ間違っていないことがあった。それは、リーチにおいて野蛮な行為と残酷さは、ごく当たり前の日常だったことだ。ヴォアンシェは馬飼いで、前の奴隷が頭を蹴られて死んで以来、馬の世話をする奴隷が必要だったため、私を拉致したのだった。彼女が私に水を与え、縄を緩めたのは、新しい所有物の状態を心配しただけに過ぎなかった。

ヴォアンシェのクランは、クロアブドラというハグレイヴンが牛耳っていたが、かぎつめのような爪をしたこのしなびた婆は、かなりの権力を持った女呪術師だった。彼女は、デイドラの霊魂ナミラという、クモや虫、ナメクジや大蛇といった不快な害獣を制する古代の闇の淑女に仕える女司祭だった。ナミラは有害な小動物の支配者だったので、リーチの民は彼女を「子供の神」と呼んだ(ユーモアがないわけではなかったが、彼らの冗談はいつでも悪意あるものであった)。双子月の闇の度に、クロアブドラはリーチも奴隷も含む一族の子供を抽選で無作為に選び、闇の女神へのいけにえにした。選ばれた子供は、「いつもにじみ出る祭壇」に連れて行かれ、ナミラへの供物としてその心臓を切り離された。いつも自分が選ばれると思っていたが、羽が引かれると、そこに書かれた名前は、いつでも他の子供の名前だった。

クロアブドラの醜い夫は、コインスサックという無作法で暴力的な男だった。彼は墓の歌い手で、死体を意のままにする呪術師だったが、それを私の国では死霊術師と呼んだ。彼はいつも、焼いた鳥肉を見るかのようにヴォアンシェを横目で見ながら唇をなめていた。彼は一族で権力があったし皆に恐れられていたが、ヴォアンシェは高慢な態度で接したため、それは時にコインスサックを怒らせることとなり、夜にテントへ嘲笑する幽霊を送り込まれたり、馬の肥料にライスワームで呪いをかけられたりした。ヴォアンシェはまったく動じず、彼の醜い妻クロアブドラに苦情を出すぞとコインスサックを脅して、いつでも追い払っていた。

リーチでの生活は大変だった。クロウワイフは狩猟クランだったため、荒野の至る所で群れを追いまわすのが私たちの生活だった。それは厳しく危険な暮らしで、大牡鹿の枝角や、サーベルキャットの牙で一瞬にして生命が奪われてもおかしくないような日々だった。しかし、私が最も恐れていたのは、半年ごとにある、ツンドラの群れの後を追ってカース川を横断することだった。私の仕事は、ヴォアンシェとその役立たずの娘が、氷のように冷たい過流を馬に泳いで渡らせるのを手伝うことだったが、毎回これが最後だと、そう思っていた。カース川に捕らえられる度に、2人の兄弟たちのようにビョルサエで水泳を習っていたらと、どれほど願ったことだろうか。

時折、横断の途中で馬がパニックに陥り私たちの手を離れたが、それは大抵、溺れて死ぬことを意味していた。ヴォアンシェと私は馬の死体が打ち上げられている場所が見つかるまで、はるか下流を捜索した。それは馬の皮をはいで、貴重な脂肪や肉、そして骨を手に入れるために死体を解体するためだった。リーチの民の間で、無駄になるものは何もなかったのだ。

カラス妻の奴隷になって6回目の夏(なんと、大嫌いなカースを11回も渡っていた!)、クロアブドラとコインスサックの無礼な息子、アイオックノールに注目され始め、私は迷惑していた。彼はその注目を、私を泥の水たまりに落としたり、シチューにネズミを入れるという形で表現した。アイオックノールは私よりも1歳年下だったが、彼が私を悪ふざけの対象以上の存在にしたがっていることはすぐにわかった。彼はハグレイヴンの息子として、罰を受けることなくやりたいことは大体何でもできたし、ヴォアンシェはクロアブドラに苦情を言って私を守ることはできなかった。横暴な老女はゲラゲラ笑い、手を振って追い払うだけだった。

だから、毛皮の山で寝ているべきはずの夜、私は槍を作り始めた。

マラバル・トールの伝承

Malabal Tor Lore

アビシアンの海賊Pirates of the Abecean

嵐がサラジャ船長の計画に予期せぬ変更をもたらした。彼女は海賊船の裂けた帆と折れたマストを見つめた。つい最近の略奪品が流されただけでなく、風がなくなり修理を終えるまで進めなくなってしまった。

「座礁したも同じですよ」。一等航海士のフルツが険しい顔で言った。

「船がいたら、乗ってる奴らに降りるよう話をつけるさ」と船長はしわがれ声で笑って答えた。「船は動けないがまだ浮いてる。お前は悪いことばかり考えてるな」

「だとしてもずっと…あれは船では?」

サラジャは振り返りニヤリと笑った。「未来の我々の船ってことだ」

フルツは距離を見て思慮深く言った。「そう遠くはない。ボートを降ろしましょう」

すぐに乗組員のカジートたちは船に乗り移る準備を整えた。砂州に錨を降ろしたその船は無傷なようだ。近づきながらサラジャは動きがないか船と空の境を見る。静かなものだ。略奪の機は熟した。

フルツが暗い船体をゆっくりと探りながら登っていく。仲間たちが網を張り乗船できるよう、こちら側に警備がいたら彼が抑えなければならない。そっと甲板に上がると、フルツは船首と船尾にちらりと目をやった。警備はいない。手すりから身を乗り出して仲間に合図を送る。

次々と海賊たちが乗船し、武器を抜いて音を立てずに歩き回る。静かな船に全員が乗り込んだ。

「遊覧航海には大きすぎますね」とフルツが船長に囁いた。「それに武装の割に静かすぎる」

サラジャは船室の扉を示して頷いた。「あそこに隠れてるんだろう」と囁く。「我が船から降りてもらおうじゃないか」

ときの声を上げてフルツが船室のドアを蹴り破った。爪を出し武器を構えた海賊たちが彼に続くが、10歩も行かずに足を止めた。中は静かで暗い。

「どうなってるんだ?」

「早く!明かりをくれ!」

海賊の1人がほくちと火打ち石を打つ。ゆっくりとたいまつを掲げると、室内いたるところにある鏡にほのかな明かりが映り込んだ。

「なんてこった!コスリンギだ!」

「コスリンギの死体だ!」

サラジャは壊れた船に戻るよう全員に命じるが、もう手遅れだった。紅き船を見て、生きて戻った者はいない。乗組員たちは見る以上のことをしたのだ。

ヴァレンウッド:研究Valenwood: A Study

公文書保管人 エンダラナンデ 著

アルドメリ・ドミニオンの多くの命がヴァレンウッドで生まれている。緑の森に覆われ、多様な動植物で溢れかえるこの地は、古きエルノフェイから来た最初のエルフたちの一部にとっては故郷である。

時と世代を経て、この初期の移住者たちは森に適応していった。新たな獲物たちを研究してステルスや巧妙さを身につけた。やがて彼らはボズマーことウッドエルフとなった。アルトマーより小柄で、勤勉かつ機敏な彼らは射手や斥候として名高い。

果敢な戦闘員としてのボズマーにはグリーンパクトという独自の強みがある。ボズマーの伝説によると、森の神イフレが敵を破る方法を授けたのだという。ただしヴァレンウッドの植物を食べたり傷つけたり、収穫することはしないのが条件だ。

グリーンパクトの一つの結果であるワイルドハントも有名だが、これについては語らないでおこう。

ボズマーはよその土地から救いを求めてヴァレンウッドに来た者を歓迎する。この点について彼らは、近縁の生粋のアルトマーとは大きく異なる。我々は尊厳を維持しようとするが、ボズマーは若木のようにたやすく他者の意志に従うのだ。

乱暴で愚直だが、このウッドエルフたちはドミニオンにとって不可欠な存在である。我々の同盟の繁栄のため、失うわけにはいかないのだ。

ヴァレンウッドのアイレイド都市Ayleid Cities of Valenwood

抄録

グウィリム大学の高名な歴史家 ホムフリー 著 第二紀445年

南部地域におけるハートランド・ハイエルフの輝かしい集落についての調査

…ここで、注目に値するセイヤタタルの街々や現代のブラヴィルの元になったアイレイドの集落に触れるべきだろう。これらはヘヴン、ウッドハース、シルヴェナールといったヴァレンウッドの街に並び、いずれも栄えていた。現在シロディールの中心である場所に白金の塔が建った後、貿易が活性化したことによるものだった。

特に注目すべきは、エルデンルート近くの大学や蔵書庫だ。その地のアイレイドはエルデンの木、別名始まりの木とその周辺に街を築いた。この木がヴァレンウッド全域に種をまいたのだと多くの者に信じられている。

ヘヴンとウッドハースはマオマーの攻撃で徹底的に破壊された。マオマーはヴァレンウッドのアルドマーの進んだ文明に配慮することはなかった。内陸へと進軍した彼らはエルデンルートを居留地にしただけでなく、あの大樹までも奪ったのだ。あのように荘厳なものを傷つけ奪うとは、なんと不埒な部族か。

マオマーはアルドマーの民族的純粋性を保つ伝統を破り、ピャンドニア先住の野蛮な部族と交わった可能性がある。それならば彼らの凶暴性や、本土の偉大なエルフ文化に対する敬意のなさも説明がつくだろう。

ウッズマーThe Woodsmer

ウィローレッグは足首をさすった。折れてはいない。捻っただけだ。彼は慎重に足に体重をかけ、立ち上がった。よし。耐えられそうだ。ヴァレンウッドを旅しながら、よく転んでいた。彼の片足はもう一方より細く、時々それを忘れてしまうのだ。

「さて、ここはどこか突き止めるか」。ウィローレッグは言った。頭上高く出揺れる木々の葉を見上げると、その間に青空が時折見え隠れする。ウッドエルフでなければ、そんなわずかな眺めからは何もわからない。ウィローレッグはすぐにまた歩き始めた。

すぐに、自分だけではないと気付く。彼の左手に別のウッドエルフがいた。ぼさぼさの濃緑色の髪を顔の周りに垂らしている。一人旅に慣れている彼は、その静かな同行者が彼を追い越さないよう、歩く速度を合わせていることにも気が付いた。

「あんたもファリネスティに?」。ウィローレッグは訊ねた。

「ああ」

ウィローレッグは気さくに続けた。「移動前に夏の地に着けるといいんだが」

緑髪のウッドエルフは言った。「大丈夫だろう」。これ以上話したくなさそうな声音にウィローレッグは黙って頷き、歩き続けた。

彼らはその日ずっと、黙ったまま一緒に旅をした。ウィローレッグが休憩しようと止まると見知らぬ男も足を止めた。ウィローレッグは水と干し肉を分けてやった。そしてまた、残りの旅路につく。木々がまばらになっていき、ファリネスティがぴったり収まった空き地に出た。

空き地の端で、見知らぬ男は立ち止まりウィローレッグの腕に手を置いた。驚いたウィローレッグは、その緑髪のエルフの肌がザラザラで硬く、樹皮のようだと気付いた。

「ここにいろ」と男は言い、小声で呪文を唱えた。

ウィローレッグは動くことも話すこともできず、男がファリネスティの根元へ行き、表面に額で触れるのを見ていた。木の街は震えると、大地から根を上げてゆっくりと移動を始めた。

緑髪のエルフがファリネスティを連れて歩き去ると、ウィローレッグはかけられた奇妙な呪文が解けるのを感じた。そして手足のうずきとともに動けるようになった。下を見た彼は細い片足が治っているのに気付いたが、靴はなくなっていた。

「ウッズマー」だ。ウィローレッグは畏敬の念を抱きつぶやいた。ウッズマーは森で不用心に迷った者を導く神話の存在だが、道を知る者に恵みを授けるとも言われている。

ファリネスティは南へ移動し、ウィローレッグはどこへ行ったのかと考えた。

ウッドエルフのユーモアThe Humor of Wood Elves

発明家テレンジャーによる収集

発酵飲料で広く知られるバルクワステンには、知る中でも特に気さくなボズマーが暮らしている。種族の特徴でもあるが、彼らは勤勉でたいていの人とうまく付き合える。彼らの醸造方法の調査を終え、地元の家に泊めてもらった。

歴史家として私は、ユーモアを研究すればその文化の多くを学べると考えている。そこで将来の研究のために彼らのジョークを書き留めておく。彼らの娯楽をよく知ればきっと、ボズマーの考え方をより深く理解できるだろう。

スケルトンが酒場に入ってきてこう言ったんだ。「ロトメスをくれ。あとモップも」

Q:なぜ猿が木から落ちたか?
A:死んでたから。

Q.茶色くてボーッとしたものは何?
A.棒だろ。

人物1:俺が木か聞いてみな。
人物2:お前は木か?
人物1:いいや。

Q.レイヴンのどっち側に一番羽毛が生えてる?
A.外側。

Q.頭が3つあって、醜くて臭いものは何?
A.おっと違った!君の頭は3つないな!

Q.羽のように軽いけど、あまり長くは持たないものは何?
A.息。

Q.スローターフィッシュがいるのにボートが沈みかけるのを想像して。どう助かる?
A.想像するのをやめる!

Q.なぜサンダーバグは生肉を食べるのか?
A.料理を習ったことがないから。

Q.なぜハチはブンブン言うのか?
A.口笛が吹けないから。

グリーンレディ、わが淑女Green Lady, My Lady

我が淑女よ目覚めよ、朝が来た
あなたを絹で着飾ろう
髪には羽を編み込んで
足には革の履き物を履かせよう

我が淑女よこちらへ、愛が待っている
今日この日、テーブルを囲もう
宴のテーブルの上は
美味なるごちそうばかり

グリーンレディ、我が淑女よこちらへ
客人たちは集まった
そして陽気で楽しい音楽が響く
イフレの子らはなんと恵まれているか!

結婚披露宴:回顧録The Wedding Feast: A Memoir

別名「裸しっぽ」のナラル 著 日付のない回顧録

子供たちよ、旅で出会うウッドエルフたちの奇妙な性質について理解できるよう、ナラルがこれを書き残します。彼らの恨み深さには気をつけて!

最上位のエルフ2人の結婚の宴のため、何ヶ月も前から準備が始まりました。彼らの結婚は森とその人々が一つであるという証。そのためとても大きな宴なのです。

商人として、王族へのちょっとした食べ物の用意をよく依頼されていました。名は挙げないまでも率直に言えば、ムーンシュガーをまぶしたビスケットをエルデンルートの宴のために何度も用意していました。でもこの結婚の宴では、私にできる以上のことをたくさん要求されて、土壇場での変更を余儀なくされたのです。

牛のスープ50樽については、根菜スープを足すことで30樽分を用意して埋めあわせました。ウッドエルフは死んだ素材にはこだわらないので、手に入る骨なら何でもよしとして出どころは聞かずに骨髄10カゴ分を用意しました。

でも小麦粉を使わないケーキ?そんなの聞いたこともない!それが作れるというウッドエルフのパン職人たちに相談しました。ウッドエルフはよそ者に用意されたのでなければ植物は食べません。それなのに小麦粉なしのケーキを出せというのには戸惑いました。そしてレシピをいくつか入手し卸売業者に確認すると、期限内に必要な量を揃えられる者はいませんでした。

かくして私はケーキ作りを始めました。卵のかさ増しをするため水で薄めます。その緩さを消すためにアロールートと粉末のフラックスシードを加えました。砂糖はケーキで最も高価な材料だったので、使う量を減らすために石灰の粉を足しました。味はケーキに似ていました。とても似ていた。これはかかった時間も金もわずかで、ケーキだけで儲けは2倍となったのです。

でもバターの代用品にしたラードと泡立てたフラックスシードオイルが、多くの客人の腹とこの私に破滅をもたらしました。

ウッドエルフは以降の契約をすべて打ち切っただけでなく私の尾の毛をそり、あわてて逃げた私の所持品や品物も奪ったのです。

子供たちよ、ウッドエルフの宴に商品を提供してはいけません。必ず辛い結果に終わります。

赤い塗料The Red Paint

「このように混ぜなさい」とラカールが言った。湿った粘土とハーブを規則的な動きで乳棒ですりつぶす。「塗料を作るという行為そのものが祈りなの」

ヤシールは自分の石の乳棒を掴むと、器を引き寄せて女司祭をまねた。

叩く!上げる!一つかみのハーブを器にばらまき、また叩く!オークたちは膝をつき合わせて側に座り、曲げた膝で器を支えている。

ラカールは動きに合わせて、そっと詠唱した。徐々に一団の動きが強さを帯びてくると、彼女の声はそれに釣り合う大きさになった。

「モーロッチは!」叩く!

「我々の行いを…」上げる!

「…見ている!」ばらまく!

部族の化粧の準備をするという名誉は、少数の族長の娘たちのものだった。ヤシールはこの輪に加わり座ったことはない。これまではハーブや粘土を集めていて、それ以上はなかった。それが今はラカールの右側という栄誉ある位置に座っている。若いウッドオークは誇りを感じた。彼女は明らかに、見習いに選ばれたのだ!

「モーロッチは!」叩く!

「我々に…」上げる!

「…血をくださる!」ばらまく!

最後の言葉で女たちは頭を後ろにそらせ、モーロッチの叫びを解放した。喉の奥から出た遠吠えが木々の間や近くの崖に響き渡る。ラカールは仕事の完了を合図した。

部族の者たちが列を成す。できたての戦赤の粘土で化粧を施してもらうのだ。ラカールは戦にふさわしくない、あるいは向かないと見なした者を脇へとよけさせる。彼らは化粧の儀式に参加することは許されない。

ラカールに列から出るよう合図され、ヤシールは抗議の声を上げようとしたが口を堅くつぐんだ。ラカールの判断に異議を申し立てるのは不名誉とされる。混乱した怒りで頭を下げたまま、ヤシールは選ばれなかった少数のオークに加わった。

ラカールは選ばれなかった者たちに目をやり、ヤシールを自分の横に連れ出した。「モーロッチは次の儀式を行う者にお前を選んだの。剣を持ちなさい。忘れないで、モーロッチはお前を見ています」

ヤシールの手を引いてラカールは空のボトルの上にかがみ、伸ばした首に若いオークの剣を滑らせた。真の戦士の聖なる血で次の化粧を施すため、彼女が意識を失おうとしていてもラカールの手は緩まなかった。

夫はネレイドに盗まれたA Nereid Stole My Husband

ネレイドが私の夫を奪った
私の夫をネレイドが奪った
海辺の乙女には用心して
次にあなたが慰められないように。

私たちは無邪気に海岸をぶらついて
貝を集めたり石をひっくり返したり
そして声が聞こえ今の私は嘆く
その声、歌は、あんなに高い声で!

すぐに夫は足を速めた
「待って」私は叫んだ「ネレイドよ」
しかし夫はさらに足を速めた
彼女の甘い呼び声には逆らえない。

手遅れだ、ああ悲しいかな、もう遅い
彼の心は傾き、もう深い虜
彼の恐れは運命のように現実に
彼はネレイドの呼び声に従った。

そして彼女は美しく残酷で無分別
姉妹の元へ泳ぎながら叫んだ
「あなたの夫はつまらない
返してあげるわ、背中曲がりの奥さん!」

ネレイドが夫を奪って
すぐに返してきた
かわいそうな私、あの日から
望まれないのに彼の側にいる!

民の声The Voice of the People

変化は風の中に。木々の葉や、水の流れの中に。動物たちですらその違いを感じ取れる。「民の声」は沈黙していた。

シルヴェナールは死んだ。予想されてはいたが、多かれ少なかれ騒動を伴う事態だ。

優先すべきは街か、それともシルヴェナールか?答えを知る者も気にする者もいないようだ。かつて混沌があり、何世代も続く社会構造が現れた。いや、社会構造のようなものだ。むしろ組織だった狂乱と呼ぶほうが近い。

次のシルヴェナールである若い男が、マントを手にしようとする。

「彼らが待っています」と従者が言った。彼女は発酵したスープの入ったアラバスターのゴブレットを差し出す。

「わかっている。少し待ってくれ」。インデニールは儀式のカップを受け取る前に目を閉じ、深く息をした。

シルヴェナール。公式には結婚までこの称号は彼のものではなかった。だが彼はすでに変化を感じることができた。耳元での蛾の羽ばたきのように、新たな身分が彼の脈拍を速めてインデニールに囁いてくる。くすぐったい気分だ。

シルヴェナールはウッドエルフの代表だ。彼もしくは彼女は、民の意思を感じそれに従って行動する。この関係は双方に作用する。彼もしくは彼女は、ウッドエルフに影響を与えうるのだ。

彼の民は緊張していた。

リフトの伝承

The Rift Lore

さまようスカルドThe Wandering Skald

あらゆる蔵書庫がカビ臭い古い物語を抱えている
それは雨と雪の中、運ばれた
だがノルドのスカルドは喜んで人々をもてなす
それは遥か昔に詩人達に広く歌われていた物語

あらゆる本には題名と名前がある
だがそのページはすぐに塵となる
私達の歌う詩は名誉と共に生き続ける
私達全てが信じる時代から

古い物語は遥か昔から伝えられてきた
抑揚と拍子と詩歌と共に
すぐにスカルドの顧客は期せずして知ることになる
「そうだ、私の人生は悪くない」

そして王達は真実を知る
剣や盾よりもましなことを
過ぎ去った若き日々から教えられる
スカルド王には行使する英知がある

よくぞ来てくれた友よ
今夜歌う詩のために
終わることなく夜通し続くだろう
乾杯のハチミツ酒から日の出まで!

セネファンのハチミツ酒の謎Thenephan’s Mysteries of Mead

ダガーフォールから締め出され、エルデンルートから追い出され、モーンホールドから追放されたのには訳がある。私はこの世界にいる限り避けては通れない、人を酔わせるあらゆる物、ワイン、エール、そしてアルゴニアン酒を試してきた。カジートのスクゥーマを試飲し、アルゴニアンのヒストの木を舐め、ボズマーの「魔法」カエルを仕留めたこともあった。

どれもノルドのハチミツ酒とは比較にならない。ハチミツ酒に並ぶようなものは存在しないのだ。

この世界一純粋な酒はノルドの村で作られる。だが今はノルドと戦争中だ。それにブレトンが生きてそこに辿り着ける保証もない。その手のことは専門家に任せるべきだ。だがまだ希望は残されている。もし酒場に行ったとき、そこにノルドのハチミツ酒が置いてあったら、それを飲まない手はない。

ハチミツ酒は発酵したハチミツと水から作られる(糖蜜を使うレシピもいくつかある)。時には、すり潰した穀物を入れて味を調えることもあるが、必ずしも必要というわけではない。ハイエルフの一部はこれを「ハチミツワイン」と呼んでいる、とにかくハチミツ酒には非常に良質のハチミツが必要となる。それぞれのハチミツ酒醸造所には独自のレシピがある。たくさんのハチミツ酒を飲めば、醸造家の名前を自然と覚えるようになる。酔っ払ったノルドは、素晴らしい醸造家の名誉のためであれば、他のノルドの顔を殴りつけさえする。だが酔っ払ったノルドであれば、何かと理由を付けて誰にでも殴りかかるかもしれない。

あらゆる醸造家が、独自に調合したスパイスやフルーツ、そして時にはホップ(これがハチミツ酒に苦味を与え、一部のノルドの舌をしびれさせる)を持っている。詩人や吟遊詩人の伝えるところによれば、英雄の血を混ぜたハチミツ酒もあるそうだ。

あるアルトマーから、醸造はあらゆる文化の根幹を成しているという話を聞いた。だからこそ我々の祖先は農業を始め、街を作ったのだ。そして、小麦と大麦とホップが余り、農業に疲れると、醸造を行う。どうやら酒を飲む文化がノルドを一つに束ねているようだ。

ノルドは本当に農業にうんざりしているようだ。なぜなら彼らは驚くほどのハチミツ酒を造って飲んでいるからだ。素晴らしいハチミツ酒の樽が開くと、ノルドはその樽がすぐに空になると知っているためその周りに集まる。だが、もしノルドの酒飲み文化のしきたりを知らなければ、最後には酔いつぶれて、意識を失い、二日酔いになって、動けなくなってしまうだろう。私はそのしきたりを苦労して身につけたのだ。

ノルドは飲むのが好きだ。だがそれだけではない。ノルドは苦難を乗り越えられる人々を尊敬している。なぜ2人のノルドが「私の顔面を思い切り殴れ」競争をするのかを説明するには大げさすぎるかもしれないが、しかしだからこそ彼らの文化では酔うことを称賛するのである。

吹雪の中を生き抜いたり、鋭い棒きれで熊を倒したりしたときと同じように、ノルドはハチミツ酒を誰よりも多く飲むことで尊敬を得ることができる。彼らは酔うと「ノルドの名誉」について延々と語り出すが、素面の時に比べればまだましである。つまりノルドについて最初に知るべきことは、彼らから尊敬されたければ、飲むのを絶対にやめてはならないということだ。これは試験なのだ。次の酒が飲めなければ、その場から離れなければならない。そうしなければ、とても愉快な場所で目を覚ますことになる、だがその当事者はきっと笑ってはいられないだろう。

ノルドは吟遊詩人も愛している。乱闘や空自慢が頂点に達し、斧を投げ始めるようになると、歌と物語を背景にして観客は大いに盛り上がる。彼らの歌は、彼らがいかに他者より優れているかを語っているものばかりである。彼らはそれを何度も何度も聞いている。だからその場を訪れたら自分しか知らない話をすることをお勧めする。彼らは新しい物語を聞きたがっているのである。

どこにいても、酒は誤りを正したり誤ったりするときの手っ取り早い手段となる。そしてそれはノルドでも同じだ。競争で敗れたら、酒を買わなければならない。失敗したり誰かを怒らせたりしたら、酒を買わなければならない。屈辱を受けたにも関わらず、呆然と立ち尽くすしかなかったら、酒を買わなければならない。

酔っ払ったノルドだらけの部屋を抜け出すには、必ずしも腕っ節の強い人間になる必要はない。彼らの心を動かしたければ、上手く言いくるめるか頭を働かせればいい。だがそのためにはかなりの才能が必要だ。顔を殴られる時を迎えたら、顔面を殴られる準備をした方がいいだろう。殴られるのが嫌ならば、政治や最高の醸造家、さらには誰が一番殴る力があるかなどについては、絶対に話題にしてはならない。そして殴られた理由を決して聞いてはならない。

もっと詳しく知りたければ、ダガーフォールで今度、私に酒をおごってくれ。きっと教えられることがあるはずだ。

ソブンガルデへの道The Road to Sovngarde

語り部達は、ソブンガルデに行って戻ってきたと主張する英雄達の物語を知っている。だが真実のほどは定かではない。偉大なる戦士達は命を落とすことでソブンガルデに向かって歩みを進めることになる、だがもし命のある者がそこに行き、戻ることができたとすれば、前代未聞のことである。

だが語り部はソブンガルデが存在していることは知っている。我らの神がそれを裏づけている、と我々は信じている。ソブンガルデはエセリウスの中心にあり、死亡した戦士達の魂が辿り着くのを待っている。名誉ある戦死を遂げたノルドは、死んだ後にこの地で目覚める。勇気の間では痛みも病も消え去る。酒宴は終わることなく続き、ハチミツ酒が大量に振る舞われ、史上最も偉大なノルド達が、力と勇気の腕比べをする。

この世界の閉じ込められた霊魂は、負け戦や王国の没落、そして目的を失った人々につきまとう、苦しみや空虚や終わりのない苦痛を知っている。だがソブンガルデではそれがないのだ!不死の退屈さというものすら感じることなく、幽霊達はそこかしこにある影に潜み、腕試しをできる相手を待っている。

ショールは大昔にその見事な魔術でソブンガルデの領域を作った。だがこの詐欺師の神は我々の世界から姿を消してしまった。他の神々は彼の欺瞞のベールをはがすべく、見捨てられた力を利用し、この来世の世界へと続く隠された道を探そうとした。だがその試みは全て悲劇に終わった。誰もこの詐欺師を出し抜くことができなかったのだ。言い伝えによれば、ショールはこの領域に引きこもり、彼を出し抜こうとした者を嘲笑っていたとされている。彼はこの世界の支配者でもあるらしく、彼の気の向くままに英雄を選び出して栄誉を与えている。

これはすべて憶測でしかない。尊敬に値する者だけが真実を知ることができる。そして彼らは生者に対して口をつぐむ。この世界のあらゆる苦痛と不幸を耐え抜いた本物のノルドの戦士だけが、ソブンガルデに行けるのである。

リーチのクラン:ガイドClans of the Reach: A Guide

エーセルモ 著

リーチの野蛮なクランの人々と関わり合いを持つ機会、または不運が巡ってきたら、関わりを持つ相手のことを知っておくべきだ。北の都市と穏当かつ平和的に交易を行っているクランも多々あるが、旅行者を脅威や標的とみなしているクランも存在する。

私は研究の過程で、どんな犠牲を払っても特に関わりを避けるべき3つのクランを特定した。

ボーンシェイパー・クラン:

ボーンシェイパー・クランは、トゲのある蔓や植物を用いた数多くの風変わりな儀式を創り上げてきた。クランの名前も、儀式のいけにえの骸骨にそういった蔓を通し、骸骨の中で蔓を育てる彼らの伝統に由来している。この植物は元々リーチにあったものではなさそうだが、彼らは上手に栽培を行っている。

襲撃や戦闘を開始する直前に、彼らはこの蔓で人形を作る。その植物で、生物の大雑把で不格好な似姿を作る。クラン内では死霊術が禁忌となっているようだが、儀式の中には死者を利用するものもある。死体がどんな形で使用されるのかは不明だが、旅行者は彼らの武骨なクランのシンボルを見かけたら、十分な距離を保つべきである。

レイジクロー・クラン:

レイジクロー・クランは、頑丈で好戦的な種類の熊科の動物を家畜化している。この熊は幼いうちから訓練され、クランの特定のメンバーや家族と結び付いている。女性が支配するこのクランは、多くの面で彼らの相棒である動物を模倣している。最も重視されているのはクランの若いメンバーを保護することで、私もレイジクローの家族全体が、子供に対するごくささいな脅威をきっかけに戦いに加わるのを目にしたことがある。

このクランがリーチの他のクランといさかいを起こすきっかけとなっている独特の習慣がある。レイジクローは自分達より規模の小さなクランを制圧し、吸収した上で、レイジクローの流儀に従わせるのだ。新たにクランに加わった女性は、自分達にとてつもない支配権と自由が与えられていることに気づき、変化を楽しむことが多い。男の戦士たちは大人の熊と1対1で闘わされ、熊を1匹服従させることでクランの中での居場所を得るが、こういった巨大な獣の扱いに慣れていないクランの男性は大抵苦戦する。

ストーンタロン・クラン:

最後がストーンタロン・クランである。表向きは上記の2つのクランほど攻撃的ではないが、独特で闘争的なふるまいは多々見られる。レイジクロー同様、ストーンタロンも女系社会だが、女性の数は非常に少ないようだ。目撃される時、女性は皆鳥の羽で作られた重たいマントにくるまれ、まるで病気にでもかかっているような出で立ちをしている。彼らは何か計り知れない目的のために、数々の試練に耐えているに違いない。

いずれにせよ、私が出会ったマントの女性達は1人残らず強力な魔法使いであった。結果として、ストーンタロン・クランは故郷を遠く離れた場所で出会うには最も危険な人々だと言えるかも知れない。

リフテンの利益の河Rivers of Profit in Riften

リフテンの街には冒険を好むならず者の興味をそそるチャンスが満ちているが、隠れた流砂にのみ込まれる危険も潜んでいる。リフトには我々の試みに適した肥沃な土地はほとんどなく、少しの間だけでも立ち寄ることをお勧めできる場所はリフテンのみである。

一旦街に入ったら、「ウィサードツリー」か「シェイドホーム」に仕事の拠点を置くことができる。どちらも違いの分かる旅行者の要求を満たす宿屋である。街をざっと流すと有望な顧客が何人か見つかるだろう。だがここで警告しておく。偵察は常に用意周到に、街のたくさんの商人達から品物を1つ買った上で行うべきだ。街の衛兵隊は活動的で、よそ者に対して異様なほど疑り深く、ノルド以外の人種に対してはことさらその傾向が強い。地元で買った品を持たずにそぞろ歩きしていると、あっという間に監房に入れられてしまうだろう。

街の心臓部を形作る島は、近くにある湖のさわやかな水に囲まれており、商人の屋台がいくつかある。こちらで手早く買いものを済ませれば、衛兵の疑念を和らげるだけではなく、商人が扱っている品物をチェックすることもできる。商品の質や品ぞろえにはかなりの違いがあるため、どの屋台が最も興味深いかについては各自に判断を委ねたい。

北には注目すべき建物が2つある。一般に島内の屋台では手に入らない品物を扱う2軒の老舗である。ロサレン家は手工芸用の素材を扱っており、その中には非常に専門的で貴重な品もいくつか含まれている。このダンマーの一家は、その商品が平凡な街に怪しい魅力を添えているという理由でリフテンの街に受け入れられている。ロサレン家は他のすべてのダンマー同様貪欲で疑り深く、嘆かわしいほど数多くの衛兵を雇った上に、もっと深遠な安全対策も講じている。ここでは貪欲な鉤爪に警告し、大人しくさせるべきである。

ロサレン家の隣にあるのはグラム・アイアンアームの工房である。この引退した鍛冶屋とその家族は、武器や防具の職人として技術を提供している。こういった商売に必要な素材はほぼここでそろうため、リフト中から職人達が訪ねてくる。警備はアイアンアーム一族が行っており、一族の情熱の証として、玄関の上にたくさんの切り落とされた手が釘で打ちつけられている。

衛兵隊長の宿舎や戦士ギルドについて長く語る必要はない。何の見返りも見当たらないのにあれほど深くて流れの速い水に飛び込むのは愚か者のみだからだ。

ああ、しかしリフテンで最も印象的な大建造物、魔術師ギルドのホールは別である!あの中に納められた財宝を想い起こすだけで、私の爪は震える。呪文の一部分に、貴重な巻物、そして強力な魔力を秘めた品々——リフトにしかない貴重なコレクションだ。残念ながらそれを守る護衛はよく切れる頭と破壊力とを兼ね備えている。この建物に入るときはすべての感覚を研ぎ澄ませよ。

水際には街の港がある。単純な者はそこで釣りをしたり、暗い水面をのぞき込んだりするが、我々の中でも貪欲な者はもっと大きな喜びを抱く。港の下層では、海岸すれすれに位置するうっとりするほど湿っぽい倉庫で、人目につかない場所を好む商人が商売を営んでいることがある。ここでは通常どんな種類の売りものにも買い手が見つかる。街の衛兵は港の下層を避けるか、規模の大きい、回避しやすい集団でのみパトロールを行っている。

港の一方の端にある格子戸は、小さな下水道に通じている。現在はネズミの通路でしかないが、リフテンの発展に応じて最終的にはこれが街全体の地下に広がり、秘密の作戦の際にもっと役立つものになるだろう。

ギルドの知識を広げることに貢献できるよう願いつつ、リフテンでの私の体験の記録を提供する。
同志たちよ、潤いを保て。

ここに謹んで提出する
「意志を持った目」

帰還の歌 第5巻Songs of the Return, Volume 5

我らの偉大なる王であり、我ら全ての導き手であるイスグラモルは、キャンプの炎の前に座っていた。ジョルバスクル、ファロウファイア、ケール・カーズの船員達は、彼に食べ物を勧め、自慢話をせがみ、酒をついだ。この土地のいたるところには500の同胞団の愉快な団員達がいた。数々の物語が語られ、哀歓があり、常に焼けた肉の匂いが漂っていた。我ら全ての偉大なる者は、戦士達を全員近くに招き寄せると、ウースラドの鍛造の物語を語り始めた。

導き手が始末したあらゆるエルフは、ウースラドによって殺された。長い戦いの中で、導き手が違和感なく使えた武器は強大なるウースラドだけだった。彼が語ったように、伝説上の斧のほとんどが、夜の最も暗い時に鍛造されたものだった。

それは涙の夜だった。イスグラモルは海を渡ることにした。彼は最後の船に乗り、タムリエルから逃れてアトモーラの岸に向った。そこから彼は、最初の街、サールザルが炎を上げているのをじっと見ていた。膨れ上がった空が炎と海の上に雨を降らせた。そして我ら全ての偉大なる者は、悲痛な涙を流した。

導き手の悲しみは非常に深く、イスグラモルは悲しみを隠すことなく、混じりけのない黒檀の涙を流した。彼の一番上の息子であるユンゴルはその涙を器に集め、暖かく父親を抱きしめた。彼は導き手の偉大なる喉にハチミツ酒を流し込むと、導き手の偉大なる肩を毛皮で包み、導き手を下甲板の偉大なるハンモックに寝かせた。

そして彼は仕事に取り掛かった。我ら全ての導き手の一番上の息子であるユンゴルは、我々が知る限り一番の鍛冶師だった。海の上でユンゴルは自分の道具を使って仕事に取り掛かった。彼は雷を使って夜の涙を温め、海の波でそれを冷やし、勢いを増す風音の中ハンマーを叩き続けた。

イスグラモルが次の朝に目を覚ました時にユンゴルは、昨日の夜彼を打ちのめした悲しみから削り出した強力な斧を彼に渡した。そして我ら全ての導き手は息子を抱きしめた。彼は喜びと、悲しみと、怒りの涙を流した。そして、サールザルからの最後の船の甲板で、イスグラモルはその斧を、アトモーラの言葉で「嵐の涙」を意味する、ウースラドと名付けた。

そして、ここでイスグラモルは言葉を詰まらせた。我ら全ての導き手はユンゴルの名前を叫んだ。ハラックの船員達と一緒にいたユンゴルが、離別の嵐により行方不明になってしまったのだ。イスグラモルの長男であり、彼の一番の喜びでもあったユンゴルは、いつも彼と一緒にいた。嵐の涙に捕らえられたユンゴルは、名誉ある気高い500の同胞団との日々の中で、常にイスグラモルと共にあった。

帰還の歌 第27巻Songs of the Return, Volume 27

ついにシンムールは追い詰められた。我ら全ての導き手イスグラモルは、臆することなく残っていた同胞団を最後の戦いへと導いた。すでに多くの勇敢な同胞達が巨人に倒されていた。そして頑健なヴァルダーとずる賢いハクラが、狡猾な半巨人に攻撃を開始した。彼らの霊魂が長きに渡り讃えられんことを。他の多くの者は、その頃ソブンガルデに向かって神聖な道を歩いていた。彼の血族は全て死に絶え、シンムールだけが我らの偉大なる者に抵抗していた。

百に及ぶ巨人を殺したウースラドは、血を滴らせながら、シンムールの墓地の暗闇の中で鈍く光っていた。イスグラモルは前に進むと、従者達に止まるように指示した。つまり彼は勇敢にも命を賭けてシンムールと戦うことにしたのだ。そしてこの巨人族もそれを受け入れて、大声を上げて挑戦の意志を示すと、戦いにその身を投じた。鉄で強化された彼の巨大な棍棒が敵を潰さんと前に振り下ろされた。我らの王イスグラモルが横に避けると、彼の横にあった岩が棍棒によって打ち砕かれた。ウースラドは血の歌を歌いながら棍棒を切り刻むと、それを麦わらのようにバラバラにしてしまった。

シンムールは怒りに大声を上げると、もはや見る影もなくなったその武器の破片を我らの王イスグラモルの頭めがけて投げつけた。そして彼はイスグラモルを掴むと、握りつぶして殺そうとした。だがその怪物の耳に届いたのは大きな笑い声だった。イスグラモルは額と膝を使ってそれぞれ強力な一撃を放った。シンムールは悲鳴を上げると、我らの王の前に跪いた。

イスグラモルが巨人の頭蓋骨を真っ二つにしたとき、ウースラドは死と歓喜の歌を鋭く響かせた。シンムールから血が噴き出し、死の音が喉元からもれると、イスグラモルは勝利の声を上げた。ウースラドが頭上で振られ、同胞団は大きな歓声を上げた。この巨人とその下劣な一族による略奪行為がついに終わりを迎えたのだ。我ら全ての導き手のイスグラモルの伝説は、このとき強固なものとなった。

帰還の歌 第49巻Songs of the Return, Volume 49

船長達のサークルの命令により、それぞれの船の船員達は各々の判断で船を出すことになり、サークルの伝説的存在、ファロウファイアの船員達を大いに喜ばせることになった。彼らの望みは始末していないエルフ達が住んでいる新しい土地に、人間の恐怖を持ち込むことだった。彼らは自分達の王、イスグラモルの「慈悲の心を捨てよ。思いやりを見せるな」という言葉を深く心に刻み込んだ。

ファロウファイアのために岸に薪が積み上げられた。彼らの愛した船の灰が海に降り注ぐと、アトモーラに向かって流れていった。これにより彼らと故郷との繋がりが完全に絶たれることになった。グリルダ・シャークトゥース船長に率いられたファロウファイアの船員達は、海に背を向けて内陸へと歩みを進めた。

彼らは南に向かい、他のイスグラモルの船員達が手を付けていない土地を探した。彼らはイスグラモルが求めている血の復讐の種を蒔きながら、南へと進んでいった。彼らの斧を目にしたエルフで生き残った者はおらず、彼らが通った後には焼け落ちた住居だけが残された。ファロウファイアは王の怒りを不誠実なエルフ達へ忠実に伝えた。彼らが旅を続ける内に、エルフ達は彼らに対して恐怖心を抱くようになっていった。

グリルダは船員達を険しい山脈の裾野に連れて行った。彼らはそこをイスグラモルの歯と名付け、そこを通り抜ける道を長い間探し続けた。ようやくその道を見つけ出すと、船員達は山を越えて新たな土地へと足を踏み入れた。深い渓谷と流れの速い川で分断されていたことから、彼らはこの土地を「リフト」と呼ぶようになった。彼らはファロウファイアと死んだ同胞達、そしてユンゴルの名の下に、この土地を物色してエルフの村々を焼き払い、出会った者全てをその斧の餌食にした。

ついにエルフ達が戦いを挑んできた。勇敢なグリルダの同胞団と戦うために、臆病なエルフ達は岩の丘の頂上に大軍を集めた。そして実際に攻撃を開始した。苦闘が繰り広げられ、勇気ある決断があり、英雄が生まれた。戦いは時間が経つごとに激化し、その日の太陽が西の山脈の頂上に触れたとき、エルフの軍は崩壊して敗走した。グリルダは多数の武器で刺されて瀕死状態になっており、太陽が沈んでから息を引き取った。彼女の霊魂は、船員達の勝利を知る、ソブンガルデへと登っていった。

その日、エルフによるリフトの支配は終わりを告げた。同胞団は、我ら全ての導き手、イスグラモルの名の下にその地の支配者となり、全てのノルドにその土地を解放した。同胞団は彼らの死を讃えるために、長い間苦心しながらその丘を調査して墓を作った。グリルダは彼女の武器や鎧と一緒にそこに埋葬された。そこにはグリルダと一緒に、船長を守るために戦いで命を落とした、歯なしのベルギッテと鷲の目のカヨルドも埋められた。名誉の戦死を遂げた他の者も同じように埋葬された。墓の入口の周辺には、墓の位置を見失わないように、巨大な石塚が立てられた。

長い間グリルダの一等航海士であった、ひとつ目のヴィコルドは、彼女の後を次いで船長となると、周りにある山々と足下にある渓谷を長い間じっと見つめた。そして彼はここが愛せる場所であり、人々が繁栄できる土地だと考えた。彼は最後には船員達の自由を認め、戦場に大会堂を建設した。ファロウストーンの間はこのようにして、彼らをこの岸まで運んでくれた船に敬意を表して作られた。このとき以来リフトの同胞団はここで暮らしている。彼らの栄光が決して色あせぬことを!

虫の舌の感触Touch of the Worm’s Tongue

13日目:外見上好ましくはないが、厳密に保存用の塩のみを使用した場合に最も転換の成功率が高いことが判明した。

17日目:黒ずんだ体液が器の中に戻ってくる前に、残った血液を(特に基本的な臓器から)すべて抜き取る必要がある。

19日目:時に宿主に死に至るほどの苦痛を与えるが、肺に水を押し込むと、将来的に咳と膿を吐く発作を防げるかも知れない。

23日目:ごくまれな状況下においてのみ、器が前世で抱えていた症状を示すことがある。初期段階でこれが問題となった場合は、作業を放棄する以上の対処法がないことが多い。

29日目:今日、指示された特定のやり方で慎重に準備を整えておかないと、宿主が器を受け付けない場合があることが明らかになった。これは宿主に対する重大な侮辱であり、このような事態を招くほど器の扱いがずさんであったとすれば、軽い扱いでは済まないであろう。

31日目:最近採用された2つの早道は、器の寿命をあてにできない状態を招くことが分かった。準備段階では一切の早道を回避することが重要だ。誤った知識が広まる原因となった者達は処分された。

37日目:我々の未来の輝かしい最初の一例が誕生した。宿主と器は完璧に結びつけられ、結果として驚くべき力が生じている。

予期せぬ味方Unexpected Allies

私がまだ若かった頃、私はスカイリムの東端に立ち、モロウウィンドを眺めていた。ステンダールの灯台からはヴァーデンフェルのレッドマウンテンが見えた。だがそこに行ったことは一度もなかった。他の多くのノルドと同じように、私も国外の土地はその国の人々のものだと考えていたのだ。

およそ10年前の第二紀572年、私の父は異なる道を選択した。第二次アカヴィリの侵攻に抵抗するために、父は同盟を結んでいたダンマーと共に戦った。ノルドが侵略者を追ってストンフォールに入った時、父もスカイリムの兵士としてそこにいた。父から聞いた話だが、外国のさらに奥深くへと進軍していた軍隊は、飢餓状態でもはや壊滅状態だったらしい、だがダンマーがノルドのためにアルゴニアンの兵士達を連れてきてくれたおかげで、軍隊はすんでのところで気力を取り戻せたそうだ。

これは誰も予想していなかった。今考えても本当に驚くべき出来事だ。ダンマーはかつてアルゴニアンを奴隷にしていた、だがその時にアルゴニアンが来てくれたおかげで歴史が変わったのだ。密林から現れた彼らは、血と泥にまみれていた。アカヴィリは彼らの爪の前に敗れ、その仲間のノルドとダンマーの剣と魔術によって打ち倒された。その時に同盟が結ばれ、それ以来その関係は一度も揺らいでいない。

協定はエボンハートで結ばれた。だが戦場で築かれた絆と比べると、これは表面的なものでしかなかった。逆境の炎で鍛造されたこの同盟は、我々をあらゆる侵入者から守るための盾となった。それぞれ文化は異なっているが、その目的が我々を一つにしているのだ。

数年前、ダンマーのトリビュナルから同盟に兵の支援要請があった。シロディールで頭角を現しつつある我々の新たな敵、帝国と戦うためだ。カバナントとドミニオンにいる我々の敵も、この土地を解放するために軍隊を送った。

そして今はどうなったか?タムリエル全土へと戦火は広がったのだ。カジートとボズマーは、ダンマーとアルゴニアンと戦っている。アルトマーはスカイリムを攻撃している。そしてハイロックからダガーフォール・カバナントが我々に攻撃を仕掛けてきている。

この混沌の中、我々にはどんな選択肢が残されているのだろうか?ダンマーとアルゴニアンとの同盟は10年続いている。私は仲間達と一緒に戦っている。そして家に帰ると子供達に、ダンマーやアルゴニアンと一緒に勝ち取った誇らしい勝利の話をする。

パクトが永遠に続いたとしても驚くべきことではない。私はかなり前からアルゴニアンの秘術師達と言葉を交わし、その世界観に驚かされている。ダンマーの司祭の洞窟に行けば、暗闇を見つめている間、彼らは神々の物語を聞かせてくれる。

いつかダンマーとアルゴニアンとノルドが共にシロディールの盟主となる日が来るだろう。我々は無敵の確固たる同盟、パクトの旗の下で勝利を挙げるのだ。

リベンスパイアーの伝承

Rivenspire Lore

ウェストマーク・ムーアの墓苑The Barrows of Westmark Moor

長老サシル・ロングリート 著

一般に「サングイン墓地」と呼ばれるウェストマーク・ムーアの墓苑は、その歴史を通じて、地元の人々のあいだに芳しからぬ評判を醸成してきた。リベンスパイアーの貴族は、今生きている者が誰一人憶えていないほど昔から、この墓苑の節くれだった木々の根に死者を埋葬している。腐敗、争い、墓荒らし、その他もっと酷いことを目撃して来た古い墓に、親族を葬ってきたのだ。

ウェストマーク・ムーアの冷たい大地には、ドレル、タムリス、モンクレアをはじめとする北部の有力な家の多くが死者を埋葬している。こうした家の中にはショーンヘルムの王や女王を輩出している家もあるが、彼らが死後、ここで親戚縁者たちと共に眠ることはない。彼らの遺体はグレナンブラにあるキャス・ベドロードの大霊園に送られ、ハイロックの歴代君主たちとともに永久の眠りにつく。これは長らく続く伝統に則ってのことである。

「サングイン墓地」内の埋葬区画の所有権をめぐって家と家が争うのは、珍しいことではない。そもそも「サングイン墓地」などという不吉な通称からして、第二紀551年の初夏に起きたある事件を境に奉られたものだ。私の記憶では、タムリスとモンクレアの両家で、同じ日に不幸があったことがそもそものきっかけだったように思う。両家の墓は境界を接しており、それゆえ長年にわたって争いの種だった。したがって問題の朝、両家の葬列が同じ区画(川を一望できる人気の高い場所だった)に面した同じ丘の上に到着した時点で、悶着は避けられないものだった。

貴族たちは何時間も言い争い、召使たちを何度も往復させては古文書やら証書やら正式な境界線が記された地図やらを持ってこさせたが、どちらも引き下がるわけにはいかない。日没が近づく中、互いに我慢が限界に近づいていた。驚くべきことでもないが、やがて双方が侮辱を受けたといって非難の応酬を始め、ついには武器が抜かれた。リベンスパイアーの人々は、続いて起きた「血の葬列」(呼称は後につけられた)が両家の歴史に汚点を残したと一般に考えている。

「サングイン墓地」では、略奪や冒涜もまた珍しいことではない。墓苑を巡回するのは白霜の高原の当局の仕事なのだが、富の誘惑が番人を罪人に変えるのに充分な時もあれば、自ら手は下さないまでも、墓への侵入に目をつぶってやるには充分な時もある。ショーンヘルムの王や女王がそういった不心得な行いに対して絞首刑という厳罰で臨み、一罰百戒を狙ったことも、一度や二度ではない。

そういった厳罰にもかかわらず、貴族が埋葬される度に、新たな狼藉や盗掘が行われるといっても過言ではない。実際、ある朝、タムリス家の墓所が遺体も含めて丸ごとからっぽになっているのが見つかり、家の人々を呆れさせたのは、つい数年前の出来事なのだ。盗人たちは結局見つからずじまいだ。なぜ彼らが遺体も一緒にさらっていったのかについては、誰しも考えたくないだろう。

「サングイン墓地」は、1つの墓地としては多すぎるほどの悪事や揉め事を体験してきた。しかもこの墓地は何度も繰り返し、その名にふさわしい悪評を得ている。これ以上この記録に暴力や盗みのエピソードを書き加えずにすむことと、いまだそこに埋葬されている貴族たちが未来永劫安らかに眠れることを、私は願ってやまない。

エセルデ王女の物語The Story of Princess Eselde

[このささやかなプロパガンダはタムリス家のために捏造され、エセルデ女伯爵が南部でアーケイ教団の教えを受けているあいだに流布されたものである。]

かつてカットキャップの国にはルルスルブという名の偉大な王がいて、長きにわたり善政を敷いた。やがてルルスルブも老いを感じ、自分が世を去ったあとの王国の行く末を案じるようになる。ルルスルブには2人の王子がいた。普通であれば老境の君主にとっては喜ばしいことだが、この場合はむしろ悩みの種だった。というのも、若いほうのピジョン王子は正室たる王妃の子だが、意志薄弱で政治に関心がなかった。対照的に、年長のランセル王子は大胆で物おじせず、母親もカットキャップ一の名門リスマット家出身だったが、いかんせん正嫡ではなかった。

さて、ルルスルブは英明な王であり、自分がランセル王子を気に入っていることを隠そうとしなかった。ランセルのほうが統治者にふさわしいことは、誰の目にも明らかだったからだ。にもかかわらず、年老いた王がついにエセリウスへと旅立ったとき、柔弱なピジョン王子が王位を継ぐべきだと感じる者が一部にいた。この連中が単に心得違いをしていたのか、それともカットキャップの王権が弱まるべきだと考える何らかの理由があったのか、それはよくわからない。ただ、最終的には良識派が勝利し、ランセル王子が貴族評議会によってカットキャップの王に選ばれた。

王位に就いて間もなく、ランセルは舞踏会でレディ・ヴェスパイアといううら若き乙女を見初め、恋に落ちる。可憐で賢いヴェスパイアはリスマット家の出身であり、短い求愛期間を経て、ランセル王は貴族評議会に彼女を妃に迎えるつもりだと話した。ところが、元王子のピジョン伯爵がこれに異を唱える。ランセル王の母親もリスマット家の出身であり、血縁法に照らしてレディ・ヴェスパイアは血が近すぎる。したがってこの婚姻はふさわしくない、というものだった。これに評議会の他のメンバーも賛同したため、ランセル王は評議会の説得を容れてレディ・ヴェスパイアとの結婚を断念した。知らせを聞いたレディ・ヴェスパイアは姿を消した。ニクサドの一団によって森の中に連れ去られたとも言われている。ランセル王は捜索隊を出したが、失踪した恋人はいくら探しても見つからなかった。

やがて、評議会が王朝存続のためにランセル王に花嫁候補を推薦する。ダル家出身の健やかな娘、レディ・イグノートである。いまだ傷心の癒えぬ王は、この薦めを受け入れる。ランセルとイグノートは華燭の典を挙げ、ランセル王は輿入れしたばかりの王妃の側で国王としての務めに打ち込んだ。それから数ヶ月後、王妃イグノートがランセル王の子をなしたことが発表される。幼い王女のために命名祭の開催が決まり、国中の貴顕紳士が招待された。

命名祭の当日、カットキャップの名士たちがこぞって駆けつけ、アレイエルと名づけられたばかりの王女が眠る揺りかごの足もとに贈りものを置いていった。ところが、その行列のしんがりに、何者とも知れない招かれざる客が並んでいた。それは不吉なウィルド・ハグで、マントに身を包んでフードをかぶり、暗い色の花を一輪、手にしていた。じつは「太陽が死んだ年」からこのかた、カットキャップでウィルド・ハグの姿が見られることはなかったのだが、それでもみな怖気づき、あえてその行く手を遮ろうとする者は誰もいなかった。

ウィルド・ハグは王女の揺りかごに歩み寄ると、フードを脱いで叫んだ。「ごらんなさい、ランセル王!私です、レディ・ヴェスパイアです。今はウィルドのウィレスですが!」着飾った人々は恐怖に駆られて後ずさりをした。というのも、かつて可憐だったレディ・ヴェスパイアが、見る影もなく変わり果て、今や醜いイボに覆われた巨大な鼻をこれ見よがしに突き出していたからである。「何かの手違いで、陛下のご息女の命名祭に私は招かれておりませぬが、それでもこうやって罷り越しました。ごらんなさい、幼き王女殿下に贈りものをお持ちしましたわ!」

「贈りものとは何か?」ランセル王が身を震わせながら訊ねた。「その暗い色の花か?見るからに気に入らんぞ!」

「そうでしょうとも、陛下」ウィルド・ハグは嘲るように言った。「これは「見捨てられたバラ」と言って、誰も欲しがらない花ですもの!そんなふうに疎まれるのがどういうものか、私は知っておりますよ、ランセル王。そして、我が呪いによって、あなたの娘にもそれを思い知らせてやりましょう!」そう言うと、おぞましい魔女はいびつな形をした花を赤ん坊の上に落とした。その刹那、炎がぱっと燃えあがり、異様な臭いの煙が漂ったかと思うと、ハグの姿は消えていた。

その後、王女アレイエルは一輪のバラのように美しく成長したが、性格はひねくれており、そのうえ癇癪持ちだった。それでも彼女が北部の王女であることに変わりはなく、南部のエメティック王が花嫁を探しにやってくると、2人のあいだですみやかに婚約が交わされた。

ところが、昔から足しげく南部を訪れ、エメティック王とも親しくなっていたピジョン伯爵が、南部の王に注進におよぶ。アレイエルは性格がひねくれているうえ癇癪持ちであることを教え、「監視塔の姫」を娶るほうがよほど良縁になると勧めたのである。やがてエメティック王はこの進言を容れ、アレイエルとの婚約を解消し、「監視塔の姫」と改めて結婚の約束を交わした。

しかし、ランセル王がこれをすんなり認めるわけもなく、誓約を破った南部の王に戦を仕掛けることを誓う。そして実際にエメティック王に対して大義ある戦いを挑むが、「トールの戦い」で旗下の将軍の1人に裏切られ、殺害されてしまう。ランセル王の王冠もアレイエル王女も行方がわからなくなり、それ以来、カットキャップの玉座は空位が続いている。

しかし、一説によると、ランセル王誕生のみぎり、実は双子の妹も生まれていたのだが、1人のウィルド・ハグにさらわれ、森で育てられたのだという。ルルスルブ家とリスマット家両方の血を引くこの女児が成長して娘を産み、その娘は母方の一族に引き取られた。この娘というのが、誰あろうエセルデ女伯爵その人だというのである。

もしこれが本当なら、エセルデ女伯爵の本当の称号は「王女」でなければならないのは自明だ。そして、他の誰でもない、彼女こそがカットキャップの玉座の正当な継承者ということになる。しかしながら、それは彼女の領民たちが語るお伽噺にすぎない。

シルバーフーフの騎馬民族The Horse-Folk of Silverhoof

ケフレム大学ヨクダ文化専攻、ナベス・アルジレーン博士 著

ハイロックの北部沿岸にレッドガードの知られざる入植地があるという噂を耳にしたとき、私がまともに取り合わなかったのは言うまでもない。そんなものが到底あるはずがないと思えたからだ。しかし、噂は根強く、一向に衰える気配もないため、とうとう私は長期休暇を取って大学の教授職からしばらく離れ、自分の目で噂の真偽を確かめるべく、北に旅する気になった。

そしてモルワの涙にかけて、噂は本当だった!学術的な詳細は近々発表する論考「群れの母を戴く部族に関する7つの真実」で余すところなく述べるとして、ここでは要点だけ整理しておきたい。というのも、遅々として進まぬ奨学金の手続きに合わせて公表を先延ばしにするには、この発見があまりにも驚異的だと感じるからだ。

ハイロックのリベンスパイアー地方の北西岸、ショーンヘルムから数リーグ西に行ったところに、シルバーフーフ谷と呼ばれる窪んだ牧草地がある。そこには三千年前からレッドガードの一部族が住み着いている。単に「騎馬民族」とだけ呼ばれている集団だ。

彼らはいつ、どうやって、またいかなる理由でそこにやってきたのだろうか?あいにく騎馬民族は書かれた記録を持たないが、その代わり彼らには口承の伝統が根づいている。私は世代から世代へと語り継がれてきたそうした伝承を聞き書きすることに努めた。部族の長老たちは時間を惜しまず私の相手をしてくれたが、なかでもムザールとヤライダの2人は特に協力的で、私はこの2人に聞いたさまざまな話から、次のような歴史らしきものを組み立てることができた。

彼らがもともと住んでいたのはヨクダであり、これには疑いをさしはさむ余地がない。周りに住むネードの民と何世紀にもわたって接触を続けた結果、「ブレトン化」を免れなかったものの、彼らの日常語にはヨクダ語が数多く残っており、それらはいずれも、古アコス・カサズのステップ地方に由来すると思われる、母音を延ばす特徴的な訛りとともに発声される。ここでは彼らの乗馬用語からいくつか例を挙げれば充分だろう。たとえば彼らは馬首を左に向けたいときには「ネトゥー」と命じる。右に向けたいときには「ネトゥー・フゥー」。止まれは「セーリーム」だ。言うまでもなく、「ネトゥ」は古ヨクダ語で「曲がる」を、「アンセリム」は「止まる」あるいは「やめる」を意味する。

つまり、騎馬民族はヨクダの民の末裔であり、おそらくはアコス・カサズの北部で遊牧生活を送っていた諸氏族から枝分かれした部族と考えられるのである。部族の長老たちは自分達の系譜に関する詳細な言い伝えを憶えており、それらに語られる世代の数から、彼らがタムリエルにやってきたのは第一紀の6世紀初頭と推定できる。その頃、ハイロックは動乱の時代だった。ディレニ王朝は断末魔の苦しみにあえぎ、ブレトンの諸王国はいずれも建国の途上にあって、まなじりを決した入植者たちの集落が、先住民に駆逐されたり取り込まれたりする前に、わずかな隙をついて足場を固めることが可能な時代った。そして、私がムザールとヤライダから聞き取ったいくつもの伝承によれば、それこそがまさにラ・ガーダがハンマーフェルにやってくる2世紀近く前、シルバーフーフ谷で起きたことだったのである。

騎馬民族がこの地にやってきた理由を確定するのは、それほど簡単ではない。というのも、話がその点におよぶと、彼らの言い伝えは伝説へと逸脱し、神話の領域にさえ入ってしまうからだ。ここで、私は彼らの一風変わった信仰について触れなければならない。なぜなら、それこそが彼ら騎馬民族の伝統とアイデンティティーの中心をなすものだからだ。知ってのとおり、彼らは古いヨクダの神々のいずれも信仰せず、その代わり、「群れの母」と呼ぶ、一種のアニミズムに基づく聖霊を崇拝している。馬の姿をしたこの存在は、部族を教え導く守護神としてふるまう。部族の青年は夢の旅路で群れの母と心を通い合わさなければならない。夢の旅路というのは、大人の仲間入りをするための一種の通過儀礼(我々に伝わるウォークアバウトの風習に似ている)であり、青年は独りでそれを全うする義務を負う。この群れの母は現在の学術研究の世界で知られていないが、言うまでもなく我々の文化的記録は膨大な量が「旧き島々」を飲み込んだ大変動によって失われてしまったのであり、そのことは踏まえておくべきだろう。

彼らは「旧き島々」で何らかの危機に見舞われた群れの母崇拝を絶やさないために、失われたヨクダを離れたというのが騎馬民族に伝わる伝承である。数多の伝説には、群れの母から賜った「泳ぐ馬の船」を連ねた船団が、アコス・カサズを出港して海を旅する様子が描かれている。船団は「17の海を渡り」、タムリエルにたどりついたのだという。荒唐無稽な話として一笑に付すのは簡単だが、ただ、彼らは自分たちが「騎馬民族」と呼ばれる由来である馬たちを故郷の島々から一緒に連れてきたと言って譲らないし、これに関して私は疑いを抱いていない。なぜなら、乗用馬の目利きである私が見るところ、騎馬民族が乗りこなしている馬がいわゆる「ヨクダ産馬」と同一種であることは疑いない。アリクルの「アスワラの馬屋」育ちだと言っても良いほどだ。

タムリス家:近年の歴史House Tamrith: A Recent History

上級王エメリック陛下のご高覧に限る!(陛下は、この種の報告書がこういうふうに書き出されるのを好まれるようですね)

タムリス家はリベンスパイアーの主に西半分に領地を有し、農業、商業、通商をはじめ、数々の権益を有しています。実際のところ、彼らが紆余曲折の末にストームヘヴンおよびウェイレストの街と強い絆を結べたのも、南部諸国との交易を成功させていたからと言えるでしょう。

リベンスパイアーの三家(タムリス、ドレル、モンクレア)の関係を特徴づける三つ巴の確執は、いろいろな意味で第一紀の末にまで遡れます。それぞれの家が富と名声の礎を築き、リベンスパイアーの繁栄に貢献していた時期です。三家のなかでもタムリス家は特に信心深く、伝統的に宗教への傾倒が盛んで、しばしばアーケイを一族の守護神と頼み、お気に入りの神として崇めていました。

よくご承知のとおり、上級王陛下はお若い頃、リベンスパイアーの2人の貴族と多くの時間をお過ごしになられました。エスマーク・タムリス男爵とヴェランディス・レイヴンウォッチ伯爵です。それゆえ、今から10年以上も前、ウェイレストとその同盟勢力がリベンスパイアーに武力の矛先を向けねばならなくなった時には、気が重かったことと推察します。当時、ショーンヘルム王ランセルはウェイレストに宣戦布告し、忠誠を誓う貴族たちに、自らの負け戦に加わるよう強制しました。本心でウェイレストに対していかなる感情を抱いていたかはともかく、リベンスパイアーの各家は王命に従い、上級王陛下に対して兵を向けたのです。

そんな中、タムリス家は早々とランセル王への支援をやめ、兵を引きあげさせて講和を請願しました。ドレル家もすぐに同調しました。リベンスパイアーの他の家に比べて弱いレイヴンウォッチ伯爵家だけは、最初から武器を取りませんでした。レイヴンウォッチ伯爵家は1年続いたその戦を通じて中立の立場を貫いたのです。一方、モンクレア家はほとんど最後までランセル王を支えました。彼らはランセル王の残存兵力が現在「裏切り者の岩山」と呼ばれる場所まで押し戻されることになる合戦の直前まで、ウェイレスト連合の軍門には下らなかったのです。

この戦が終わると、平和と協調を主導する力強い旗手として、タムリス男爵が台頭します。上級王の名においてリベンスパイアーを治める三者連合政府を樹立し、三家それぞれの当主がエメリック上級王に忠誠を誓うというアイデアも、タムリス男爵のものでした。上級王は三者連合政府をお認めになったものの、ショーンヘルムの新しい王については、機会が訪れ次第選出すると約束するにとどめられました(これをお読みになって、陛下はその約束がいまだ果たされていないことを思い出されるでしょう)。

エスマーク・タムリス男爵はエルデ家の息女ジャネスを娶り、両家の財力が合わさった結果、さらに強大な政治勢力となりました。エスマークとジャネスは2人の娘に恵まれます。実際的で思慮深いエセルデと、腕っぷしが強く姉よりもお転婆なジャニーヴです。今から4年前、エセルデはリベンスパイアーを離れました。ストームヘヴンでより高度な教育を受け、宗教に対する理解を深めるためです。ストームヘヴンに滞在中のほとんどの時間を、エセルデは上級王陛下の宮廷の客人として過ごしました。同じ頃、若きジャニーヴは(父親と姉の望みに反して)「ショーンヘルムの衛兵」に加わります。

エセルデは学問に秀で、とりわけ歴史学、政治学、外交研究、そして神学の分野に関心をひかれました。彼女はアーケイの教えと「光の道」に深い確信を示すと同時に、治癒師としても謎かけコンテストの代表としても同期生のなかで抜きんでておりました。エセルデがゆくゆくはタムリス家の当主の地位を継ぐつもりで、その準備に努めていることは、誰の目にも明らかでした。

ジャニーヴもまた、周囲の予想の上を行きました。武勇、軍略、それに戦場での指導力、そのいずれにおいても驚くべき才能を示し、めきめき頭角を現したのです。結果、特進に特進を重ね、とうとう衛兵隊長の地位にまで登り詰めました。ショーンヘルムでの軍務に加え、ジャニーヴはタムリス家の私兵団の長にも就任しました(念のために申し上げれば、戦時をはじめとする非常時において、家の私兵が街の衛兵隊と合同で国防のため単一の戦闘集団を形成することは、決して珍しいことではありません)。ジャニーヴに欠点があるとすれば、それは気が短いことと、絶えず行動したがるところでしょう。行動せずにはいられないのだと言う者もおります。

ここで、悲報をお届けしなければなりません。エスマーク・タムリス男爵が、ほんの数ヶ月前、天寿を全うしました。父親の訃報に接したエセルデはただちにストームヘヴンを発ってリベンスパイアーに戻り、タムリス家当主の跡目を継ぎました。現在、彼女はエセルデ女伯爵として、リベンスパイアーを治める三者連合政府において亡父の後任に収まっています。これまでのところ、ドレル男爵が何かと異を唱えてくるのにもめげず、彼女はみごとに務めを果たしていると言えましょう。モンクレア男爵とどのように渡り合うかはまだ分かりません。と申しますのも、モンクレア男爵はここ数ヶ月宮廷を離れ、病で臥せっている奥方の看病に専念しているからです。

いずれにせよ、何か不測の事態でも起きないかぎり、襲名間もないタムリス女伯爵の前途は洋々たるものでしょう。

上級王陛下の御為に。内務省書記、レギナ・トロアヴォア

ドゥームクラッグにまつわる不吉な伝説の数々Dire Legends of the Doomcrag

タムリス家の側近ナラナ 著

はるか昔、ドゥームクラッグと呼ばれる陰鬱で不吉な石の尖塔は、アイレイドの民が学びや信仰に身を捧げる場所だった。しかし最近では、霧と影に覆われた剣呑な道の先にそびえる、取り憑かれた場所として知られている。

これまであまり顧みられることのなかった場所ではあるが、目下にわかに関心を集めていることから、タムリス女伯爵の依頼を受け、この禁断の地にまつわる伝説をここに列挙する。

***

陰鬱な伝説の1つに、ならず者の首領レッド・ロブを追って「隠された峠」に分け入ったドレル家の女傑、「豪胆なるブリアンナ」に関するものがある。ブリアンナと配下の騎士たちは、レッド・ロブを捕えて裁きにかけ、それまでに犯してきた数々の罪を償わせるため、北部の海岸伝いにはるばる一味を追跡してきた。このならず者の仕業とされる数多の罪状には、最近ドレル家の貨物船から略奪を働いた一件も含まれていたのである。レッド・ロブにとってあいにくだったのは、その船にドレル家当主の娘、つまり男爵令嬢が乗って旅をしていたことだ。怪我を負ったうえに屈辱を味わわされた令嬢は、レッド・ロブの首級を望み、「豪胆なるブリアンナ」を捕り手として差し向けたのだった。

さて、ブリアンナが「隠された峠」の鳥羽口にたどりついたとき、配下の騎士たちは一人残らず殺されるか深手を負っていた。彼女が頼みにできるのは自分だけというありさまだった。ただ、レッド・ロブもまた似たような状況だった。仲間をみな失った彼は、ブリアンナを振り切るため、独りで濃い霧のなかに飛び込んだ。ブリアンナも「豪胆」の呼び名に恥じず、躊躇なく後を追う。それ以来、2人の姿は二度と見られることがなかった。

けれども、その地方に住む人々に言わせると、空気の冴えた寒い夜、空を突いてそびえる石の塔を赤い霧が薄く彩るとき、剣と剣を打ち合せる音が聞こえるのだという。ブリアンナとレッド・ロブが丁々発止の闘いを今も続けており、それは永遠に終わることがないのだと。

***

ドゥームクラッグにまつわる伝説でよく知られているものとしては、もう一つ、聞く者をやや落ち着かない気持ちにさせるかもしれない話がある。恋に破れ、この石の塔の頂で憔悴していったアイレイドの女性の話だ。とある貴族の屋敷で執事を務めるハンサムな男性にふられた彼女は、ドゥームクラッグの頂上に登って籠城を決め込んだ。友人と家族は、彼女を元気づけて塔から降りてこさせようと、あれこれ手を尽くすのだが、それでも、傷心の彼女は懇願や慰めの言葉にいっさい耳を傾けようとしない。そしてとうとう苦しみに耐えられなくなり、ドゥームクラッグからはるか下の海に身を投げてしまう。

けれども、この悲しい物語はそこで終わらない。今でも人々は信じている。ハンサムな旅人が不用意にドゥームクラッグに近づきすぎれば、恋に破れたアイレイドの女性の注意を引いてしまう恐れがあるのだと。いわく、彼女の安らげぬ霊魂が疾風のように降りてきて、不運な旅人をさらい、石の塔の頂に運んで慰みものにするのだという。しかし、どんなに辛抱強い囚われ人も、最後にはアイレイドの女性の霊を拒み、肘鉄をくわすことになる。寂しい夜、重なり合う2つの悲鳴が聞こえてくるかもしれない。それは、アイレイドの女性の霊がまたしても海に身を投げ、いちばん新しい恋人を水の墓地へ道連れにしたことを意味しているのだ、と。

***

しかし、ドゥームクラッグにまつわる伝説で最も人口に膾炙しているのは、なんといっても「歩く死」の話だろう。そしてこの伝説に限っては、始めから終わりまで、恐怖譚というよりはむしろ用心を促すための教訓話と呼ぶほうがふさわしい。この伝説は言う。「隠された峠」を辿ろうとする者は誰であれ、否応なく自らの死を目指して坂をのぼることになるのだと。なぜなら、一歩歩みを進めるごとに、寿命が1年縮むからだ。年齢や健康状態によっては、濃い霧のなかに入ってほんの数歩進んだだけで死が訪れることもありうる。逆に、人並み外れて幸運な者であれば、「隠された峠」を登り切り、頂に到達できるかもしれない。噂に聞く、宝物庫に足を踏み入れることができるかもしれないのだ。ただそれでも、結局「歩く死」に追いつかれることは変わらない。

いずれにせよ、避けられない死に向かって進める一歩には、それなりの苦痛と衰弱が伴う。この伝説こそ、他のどの伝説よりもドゥームクラッグを神秘のベールに包んできた原因と言える。なぜなら、この話の真偽を確かめようという勇気の持ち主が、ほとんど現れないからだ。

自分の原稿を読み返してみると、なぜタムリス女伯爵が幼いころドゥームクラッグを怖がったか察しがつく。正直、いい歳をした私でさえ、こういった伝説には恐怖を覚えずにいられないのだから。

ノースポイント:その評価Northpoint: An Assessment

ノースポイントと街で随一の権勢を誇るドレル家に関するこの報告書は、上級王エメリック陛下じきじきの命により、丹念な調査を経て作成されました。私こと内務省書記レギナ・トロアヴォアは、個人的にこの努力の成果を査読し、そこに盛られた情報が正確であることを保証するものです。

まず、背景を知るために歴史の講義を行いましょう。ノースポイントは第一紀の9世紀、ダガーフォールからソリチュードに至る夏季航路を行き来していた冒険的なブレトン人の交易商、イリック・フロウディス船長によってその礎が築かれました。一帯の海岸は理想的な港を築くには適していないものの、周囲の水深が深く、大型船も難なく航行できました。また、交易路沿いに位置することから、商人が再補給し、船の修繕を行い嵐をやり過ごすにはちょうど良い中間点でした。この二点に着目したフロウディス船長は、投錨地として最も適したノースポイントに最初の船着き場を築き、そのまま港の名前としました。

船着き場を建設して間もなく、フロウディス船長は次第に大きくなってゆく寄航港の東にあるドレ・エラードの丘に、防壁をめぐらせた小さな砦と倉庫を建設させます。ほどなくして街は活気にあふれるようになり、自分の投機的事業が成功したことを確信したフロウディス船長は、この丘の名前を新たな姓として名乗ることにしました。それ以後も彼とその一族は海運事業を成長させ、同時に港とその周辺の土地で開発と投資を行い、ついには農民に土地を貸し出すことで新たな収入源を確立したのです。

第一紀の大半を通じて、ドレル一族は活動的で企業家精神に富んだ豪商の典型として、ハイロックに大いなる繁栄をもたらしました。第一紀の1029年、女帝ヘストラがハイロックを「最初の帝国」に併合したのを機に、ドレル家は男爵家に叙せられました。以来、ドレル家の財力とノースポイントの富は、北西海岸の沿岸貿易の消長と運命を共にしてきたと言えます。

24世紀、財力と権勢を伸張させ続けたドレル家は、数世代にわたってショーンヘルムの王位を保持します。この栄光が、その後何世紀ものあいだドレル家の自己認識を彩り続けました。それ故にこそ、今でも彼らにはリベンスパイアーの真の指導層の一翼を担っている自覚があるのです。そして、かつて王座に君臨していたという事実は、彼らに政治的陰謀への嗜好を植えつけました。それがただでさえ野心的な本来の性向と相まって、彼らを無視できない存在にしています。現在の当主アラード男爵は、ランセル王亡きあとリベンスパイアーを統治する三者連合政府の一角を占め、権勢をほしいままにしています。モンクレア家とタムリス家の当主たちと共に上級王へと忠誠を誓うアラード・ドレルは、いつの日かただ1人のショーンヘルム王としてリベンスパイアーを統治する権利を手中に収めたいと考えています。

近年、海運と交易を牛耳る雄として、ドレル家の存在感は抜きんでています。当主が宮廷事情に疎くならないように、わざわざショーンヘルムに男爵(または女男爵が)住まう広壮な邸宅を構えてもいます。ノースポイントの屋敷は一族郎党に任せているものの、所領の管理は依然として宗家の専権事項のままです。現在、当主アラードの息子で若年ながら有能なエリック卿がノースポイント周辺の領地を管理し、男爵自身は宮廷で三者連合政府の一翼を担っています。

ドレル家は軍事と政治の両面で抜け目がないうえ、伝統的に商業に力を入れてきた甲斐があって、その財力はリベンスパイアーで稀に見る水準に達しています。ドレル家はソリチュードの商人たちとの結びつきを深めてきましたが、これは彼ら自身が懸命に指摘するように、武力を用いた威嚇とは何ら関係がありません。ドレル家にしてみれば、単に商売として引き合うだけのことです。

三者連合政府を形成するリベンスパイアーの三家を私なりに研究した結果、モンクレア家はほとんど信用に値しないという結論に達しました。彼らと関わる際には、どのような状況であれ警戒を怠らないことをお勧めします。彼らが真に忠誠を捧げているのは、彼らの野心だけです。一方ドレル家は、野心的であることに変わりはないものの、ある程度の名誉の概念、そしてモンクレア家(ランセルの後裔だということを過度に誇っているように見える者たち)が稀にしか示さない愛国心を持ち合わせているように見えます。タムリス家はどうかというと、彼らは常にウェイレストの忠実な友でした。もっとも、現在の女伯爵は当主の地位に就いたのが比較的最近ということもあり、今以上に大きな責任を負う用意はできていないかもしれません。

リベンスパイアーの狂血鬼Bloodfiends of Rivenspire

タムリス家の側近ナラナ 著

このところリベンスパイアー全土に出没するようになった狂血鬼について、調べられるだけのことを調べよと仰せつかった。この生物は一見、過去に我々が観察してきた他の狂血鬼とまったく変わりがないように見える。しかし、さまざまな点が似ている一方で、1つだけ重大な違いがある。それは、彼らが吸血鬼の周期の終わりにではなく、始めに現れるという点だ。

このプロセスは、長くつらい潜伏期間の終わりに現れるのではなく、恐ろしいほど短い時間内に、ごく普通の人々を凶暴な怪物に変えてしまう。まるで、驚くべきスピードで感染者の体を溶かしてしまう血液性の熱病のようだ。触媒に接触した者が全員発症するわけではないが、発症すれば吸血鬼に(稀に)なるか、短時間で全ての狂血鬼の特徴である狂乱状態に陥る(ほとんどはこちらの経過をたどる)。

調査したところこれらの狂血鬼は、どうやらモンクレア家の宮廷魔術師であるアルゴニアンのリーザル・ジョルと、ワイロン・モンクレア男爵のレディ・ルレラヤ・モンクレアに関わりがあることが分かってきた。その2人はモンクレア家の兵を率いてリベンスパイアーを転戦しているが、旗下の兵のなかには吸血鬼も混じっている。噂によるとリーザル・ジョルとルレラヤは、何らかの邪悪な魔術、血の呪いのおかげで、単に一瞥し、手を振り、二言三言つぶやくだけで、ごく普通の人々を狂血鬼に変えてしまう能力を手に入れたのだという。もっとも、数々の目撃情報は贔屓目に見ても錯綜しており、こうした主張はまだ完全に裏付けが取れたと言えない。

過去に我々が対処してきた他の狂血鬼同様、リベンスパイアーの狂血鬼も正気を失った吸血鬼である。彼らの精神は回復不能なほど退化し、動くものと見れば見境なく襲いかかる。まさに骨と血に飢えた、残忍で暴力的な獣と言うほかない。この「血の呪い」は、異常な速さで進行する。いったんこれに取りつかれるや、ほんのわずかな時間で凶暴化した人々の例は、それこそ枚挙にいとまがない。リーザル・ジョルとルレラヤがいかにしてこの恐ろしい力を身につけたのかは詳らかでない。分かっているのは、2人がどうやらオブリビオンの力に頼って、モンクレア男爵のリベンスパイアー平定を支援しているということだ。

この「血の呪い」は例外的なものではあるが、リベンスパイアーの狂血鬼の習性は彼らの同族と変わらない。理性を欠いたこの凶漢たちは、犠牲者に自らの苦しみを伝染させる能力を持ち、しばしばそれを行使する。リベンスパイアーの狂血鬼に傷を負わされるか殺されるかした者が、それこそ瞬く間に狂血鬼に変貌してしまう確率は、相当に高い。

さらなる情報が集まるまで、リベンスパイアーの狂血鬼に関して私が推奨できる行動指針は1つしかない。滅ぼすべきだ。

レイヴンウォッチ伯爵家からの布告House Ravenwatch Proclamation

理解を求める者たちに告ぐ。

掴まえ所がなく古い貴族の家が、分かりやすく目標を公開することなどないとお考えだろう。そう考える者がいても不思議はない。しかしながら、故郷と味方に不和という災厄が訪れた今、明敏とは言えぬ者達のために旗幟を鮮明にしておくべきだと考えた。

レイヴンウォッチ伯爵家にとっての最優先課題は、いにしえの昔からリベンスパイアーに巣食う邪悪な存在を滅ぼすことだ。それは数々の名前で呼ばれている。アバガンドラ、ロラダバル、そして現在においては「光なき名残」。はるかな昔から、幾世代もの学者たちが、このアーティファクトを理解しようと努めてきた。しかし、理解など土台無理な話だ。それはムンダスに取りついた疫病であり、駆除する他はない。

レイヴンウォッチ伯爵家の第二の目標は、「光なき名残」の力を利用しようとする不心得者たちの野望をくじくことだ。モンクレア男爵の美辞麗句と「熱烈な愛国心」とやらに騙されてはならない。彼は「光なき名残」の力に屈し、リベンスパイアーの美しい郷土を破壊することをもくろんでいる。我々がなぜそれを知っているかというと、モンクレア男爵が「光なき名残」の力に取りつかれたとき、その場に居合わせたからだ。

我々はどちらかというと日陰を好む。本来、旗振り役を自ら買って出る柄ではない。しかし、事態は切迫している。もはや手段を選んでいる余裕などない。どうか知っておいてほしい。リベンスパイアーがいかなる脅威に直面しているにせよ、諸君だけが矢面に立つわけではない。我々が諸君の味方をしよう。レイヴンウォッチ伯爵家はエメリック、そしてリベンスパイアーの善良なる民と共にある。

レイヴンウォッチ伯爵家当主、ヴェランディス

光の名残The Remnant of Light

アイレイドの書
〈告げ示す者〉ベレダルモ 訳

その血の刹那(または永劫)のうちに、アヌマリルはフィレスティス(卿)に「光の名残」(アウタラク・アラタ)を届け、それをタムリエルの「太陽が沈む寒い果て」(ファル・ソーン・グラセ)に運んでほしいと頼んだ。気高いフィレスティスは「光の名残」を受け取ると、クラン(または家畜)を引き連れてクワイロジル(?)を離れ、はるかな地へと旅立った。常に夕日をいちばん左の目で見るようにして旅を続けるフィレスティスの後ろを、アイレイドの移民たちがついてきた(または追ってきた)。

一行は「冷たい岩の大地」にたどりつき、泳いで岸にあがった(打ちあげられた?停泊させられた?)。岩は冷たく硬かったが、「光の名残」が全てを肥沃に(またはうごめくように)してくれた。移民の多くは健康を損なったが、「光の名残」のおかげで岩(または山々)に食用石(クレ・アンダ)がなるようになり、これは美味なだけでなく治癒の効果もあった。

フィレスティスは「冷たい岩の大地」全体に「光の名残」が微笑む(輝く、ぬくもりを広げる)ことを望んだ。そこで、今や光輝に力づけられた移民たちが山(または峰)を隆起させ(または削り取り)、「光の名残」をその上に置けるようにした。これは、880刹那(または永劫)のうちに照合(?)された。すると、「冷たい岩の大地」にはあまねく食用石がなるようになり、移民たち全員が健やかに(または多産に、あるいは賢く)なった。

時は過ぎ(何ヶ月もが無為に過ぎ)、気高いフィレスティスは死の(餌食に)なった。すると、移民たち1人ひとりが涙にくれ、その涙で青く澄んだ湖ができた。けれども、フィレスティスの配偶者が彼を「光の名残」がある山(または峰)に連れていった。すると、フィレスティスは光輝に力づけられ、さらに8コーラスを踊った。

北部の王宮都市、ショーンヘルムShornhelm, Crown City of the North

第39代モンクレア男爵、ワイロン卿 著

マルクワステン・ムーアとショーンヘルムの高地に住むブレトンの民には、繰り返し物語に語られる長い歴史があり、誇るべき事績には事欠かない。伝説の時代にあった「巨人族の捕縛」、「太陽が死んだ年」の「ウィルド・ハグの粛清」(これにより、ムンダスの空という空がマグナスを取り戻した)、「グレナンブリア湿原の戦い」における「モンクレア騎士団の突撃」(しばしば誤って「ショーンヘルム騎士団の突撃」と呼ばれる)等々…

こうした波乱万丈の歴史を経ながらも、終始リベンスパイアーの民草は幸運であった。恐怖が支配する時代も勝利に沸く時代も、常にモンクレア家の当主によって巧みに導かれてきたからである。

モンクレア家の当主が常に天命を授かりショーンヘルム王としても君臨してきたかというと、必ずしもそうではない。しかしながら、モンクレア家が備える数多の美徳のなかには謙譲の精神もまた含まれる。ことを丸く収めるために、歴代の当主たちが自分よりも王位を主張する根拠が弱い者たちに、自ら進んで即位の権利を譲ることも少なくなかった。この謙譲の精神を発揮しすぎたことによって時に悲劇が起きたことは、我が父にして第38代モンクレア男爵たるフィルゲオンの例が、悲しくも証明している。

ブレトンの歴史を学ぶ者であれば誰しも知るとおり、レマン皇帝亡きあとの最も偉大なショーンヘルムの君主といえば、「グランデン・トールの戦い」で我が軍を率い、第二紀522年より北部を治め、在位のまま同546年に身まかったハールバート王をおいて他にない。ハールバートはブランケット家の出で、第21代ブランケット伯爵であった。そして妃には、モンクレア女伯爵イフィーリアを迎え入れている。ハールバート王崩御のみぎり、正嫡のフィルゲオン王子はわずか14歳と幼く、その王位継承権にはモンクレア家の後ろ盾があったにもかかわらず、ブランケットとタムリスの両家はフィルゲオン王子の異母兄に当たるランセル王子を支持した。ランセル王子はタムリス家の血筋に連なる病弱な女性とのあいだに生まれた庶子であった(ドレル家は例によって争いから距離を置き、どちらの候補に肩入れすることも拒んだ)。

ランセル王子がフィルゲオン王子を抑えてショーンヘルムの王位に就くまでに、どのような裏工作が行われていたかは、あまりよく知られていない。若きモンクレア男爵の顧問官たちは(男爵の母君はハールバート王よりわずか2年早く逝去していた)、正嫡であるフィルゲオン王子こそが王位の正当な継承者であると主張した。これには、かの有名な「ブレトン出生録」の補遺による裏付けもあった。その補遺は、「マウント・クレール家」こそがショーンヘルムの王統であると明言していたからである。複数の王位請求者たちの正統性を審議するため北部評議会が召集されたが、この審議が続いているさなか、モンクレア家の顧問官たちはブレトン出生録補遺が紛失しているのに気づく。一方ランセル王子は、長らく行方知れずになっていたという(いかにも胡散臭い話だが)「ディレニの勅書」なる古文書を持ち出してきた。それには、リベンスパイアーにおける「ブレトン王家の代理人」として、ブランケット家が指名されていたのである。

やがて評議会で投票がおこなわれ、ランセル王子が僅差で勝利をつかみ、ショーンヘルム王ランセルとなった。フィルゲオン王子の顧問官のなかには一戦交えても王位を争うべきだと主張する者もいたが、若い王子はこれを拒み、ただのモンクレア男爵となる道を選んだ。

そのような謙譲の精神が、どれほど裏目に出たことか!フィルゲオンが評議会の決定に唯々諾々と従った結果どのような事態を招いたか、我々はみな知っている。すなわち、566年の一連の悲劇、そして、第一次ダガーフォール・カバナントに対する反乱である(我々にとっては恥ずべきことだが、この反乱は「ランセルの戦争」として知られる)。標準的な歴史によれば、モンクレア、タムリスはもちろん、ドレルまで全ての家がランセル王の召集に応じ、エメリック上級王と南部を敵にまわした彼の致命的な戦争に兵を出したことになっている。このとき、ランセルの掲げる大義の正当性に確信が持てなかったモンクレア伯爵フィルゲオンが、ランセル王とエメリック王に対して、両陣営のあいだを取り持つ和平特使になろうと申し出たことはあまり知られていない。これに対してエメリック上級王がどのような返事をしたかは歴史の闇に埋もれてしまったが、ランセル王が激怒して言下に拒絶したことはよく知られている。我が父は再び異母兄に服従し、結果、モンクレアの騎士たちは滅びる定めにあったランセルの軍に加わったのであった。

ランセル王が陣没すると、リベンスパイアーはたちまち混乱状態に陥った。ショーンヘルムの王冠は「裏切り者の岩山の戦い」で行方知れずとなり、ランセルを玉座につかせるために決定的な役割を果たした「ディレニの勅書」もそれ以来目にされていない。ランセルの死によってブランケット家の血筋は途絶え、以来、ショーンヘルムの玉座は空位が続いている。リベンスパイアーは現在、三者連合の北部評議会によって治められている。評議会は北部諸州の平和と秩序を維持すべく誠心誠意努めてはいるが、本音が許されるならば、彼らの努力が充分だと言う者は誰もいまい。ショーンヘルム、および北部には王が必要なのだ。

そもそも、なぜ北部に王がいてはいけないのか?腹蔵のないところを言わせてもらえるならば、モンクレア家伝統の謙譲の精神はひとまず、いかに残念であろうとも脇に置いてこう言わねばならない。モンクレア男爵ワイロン卿たる私こそが、ショーンヘルムの玉座につくべき正統なる継承者なのだ。我が祖父はハールバート王その人であり、私はその正嫡の系譜に連なる直系の後裔に他ならない。これは、北部広しと言えども、私の他に誰一人掲げることのできない主張である(このことはまた、ブランケット家の領地を継ぐべき唯一の存命相続人たらしめてもいる。当該領地の大半は不公正にもタムリス家とドレル家によって分割され…いや、これ以上は言うまい。謙譲。常に謙譲の精神を忘れてはならないのだから!)

さらに言うならば、この決定的な局面において、次の事実を公表できることを幸運に思う。すなわち、長らく行方知れずだった「ブレトン出生録補遺」がモンクレア家の歴史家によって発見されたのである。その中から、重要なくだりをここに引用しよう。

「…当時シャーン・ヘルムとその隣接地域においては万事が秩序のうちにありしことに鑑みて、いと気高くも高貴なる…(判読不能)…はマウント・クレール一門に…(判読不能)…並びにシャーン・ヘルムの統治…(判読不能)を永久に付与せんとする。かくあらしめよ」

リベンスパイアーの民に告ぐ。モンクレア男爵ワイロン卿は自らの務めを果たす用意がある。

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