バンコライの伝承

Bangkorai Lore

グレンモリル・ウィルドThe Glenmoril Wyrd

タネスのレディ・シンナバー 著

タムリエルで、グレンモリル・ウィルドの魔女たちほど誤解されている者はいない。第一に、これまで彼女たちについての文献を執筆してきた学者が皆、男性だったのが原因であると私は思う。これはリルモスのキギョー師と、シャド・アツーラのバースト教授による革新的な著作物を完全に軽視しているわけではなく、単に彼らの客観性がその男性優位の文化的先入観によって影響を受け、次第に損なわれてきたということだ。

誤解のないように言うと、私が感情的にグレンモリル・ウィルドの姉妹を理解するに適しているのは私が女である事実のせいではない。それどころか、従来の性的役割における背景において客観的でいられるという能力は、著名な私の小論文「聖人で奴隷の女王:アレッシアとジェンダーの観点」で証明済みである。ゆえに、私はウィルド姉妹のような一方の性のための社会における問題に取り組む比類なき資質を持ち合わせていることになる。

グレンモリル・ウィルドは、自然と自然界を深く尊敬し、デイドラ崇拝に傾く魔女が集まった統制の緩い団体である。種族的には完全に人間だが、魔術結社によってはハグレイヴンやラミアなどの人間の混血もいて、彼女らは大抵自分たちの魔術結社を牛耳っている。彼女たちにとって野生の中で生きていくことは、大抵の場合、農業や牧畜を営む「文明人」の少数民族集団から遠く離れて位置することを意味する。それが彼女たちの本性が理解されない一因になっている。これが原因で、グレンモリルの魔女の魔術結社は、不気味、世捨て人、危険、有害、悪などの言葉で表されることが常なのだ。

実際に、グレンモリル・ウィルドには、これらすべての表現が当てはまった。ただし反論するが、悪だけは違う。彼女らが文明世界と文明の習わしを強固に拒み続けているのは事実であり、魔術結社に男性が入ることを一切認めないのも確かだ。また、自分たちのことを、「自然の法則」を施行する者と見なしているのも事実であるが、それを認めているのは彼女たちだけである。しかし、だからといって彼女たちが悪なのではなく、我々のものとは異なる道徳規範を厳格に守っているだけだ。

さらに、グレンモリルの魔術結社が男性を受け入れない状態で人口の維持を可能にしているように見える事実もまた、近接して住む人々が不信感を抱く対象となっている。ウィルドの姉妹は近所の農家から女児を盗むことで数を補充しているという古い中傷があるが、そのような慣習が立証されたことはない(ハイヤルマーチの沼地に住む悪名高き魔女については除くが、彼女らが崇拝するのはモラグ・バルで、子供の誘拐は彼女らの不快な習慣の中でも最もましなことだった)。大規模になりつつある私の研究によって、ほとんどの魔術結社に関しては、困窮した両親によって連れてこられた、望まれない女児を新規のメンバーとして獲得しているという結論が導き出された。(北部地域における望まれない男児はどうなるかという質問は、おそらく投げかけずにしておくのが最善だろう)

グレンモリル・ウィルドは数的に少数だが、地理的に最東は中央スカイリムのグリーンスプリング魔術結社から、最西はハイロックのイレッサン・ヒルズ魔術結社まで広範囲にわたる。8ほどある最も有名な魔術結社はハーシーンの信奉者だが、西ファルクリースにあるハグフェザー魔術結社はナミラをあがめ、マルカルスの姉妹(都会に住む唯一の魔術結社)はメエルーンズ・デイゴンを崇拝し、前述したハイヤルマーチの沼地に住む魔女たちは、モラグ・バルの信奉者である。

北部の未開地に住むもう一方の主要なデイドラ崇拝者であるリーチの民との関係は、魔術結社によって、そしてリーチの一族によって異なる。ハグフェザー魔術結社、ライムロック・ウィルド、そしてマルカルスの姉妹は皆リーチの民と友好的な関係を持っているが、イレッサン・ヒルズの西の魔術結社とビリジアン・ウッドは、何千年にも遡ってリーチ族たちと争っている歴史がある。これは、イレッサンとビリジアン・ウィルドが、ハーシーンのあまり野蛮でない側面を崇め、ライカンスロープを治癒することで知られている一方、リーチの民がハーシーンのより残忍な側面を好み、ライカンスロープを呪いよりもむしろ贈り物として称賛しているという事実によって説明されるかもしれない。

ということで、これこそが、広範囲に生息するが捕えどころのないグレンモリル・ウィルドの姉妹について分かっていることである。確かに、多くの疑問は未解決のままであるし、なされるべきさらなる研究も残っている。これらの問題に適切に取り組むには、タネスを出て北部の未開地へと個人的な探検に乗り出す必要さえあるかもしれない。ただし、このような価値ある学究的活動への資金援助を申し出る、気前のいい後援者がいればの話だが。

ハーシーンの姿Aspects of Lord Hircine

リーチの民の言い伝え、その5

コロール大学、ジュノ・プロシラス 著

以下は、自らを魔法使いウラキャナックと呼ぶ、ドルアダッチの呪術師による話を書き留めたものである。

「手の指のように、ハグレイヴンの爪のように、熊を殺す矢のように、ハーシーン王の姿は5つある。5つのどれにも出会う可能性はある。どれも真の姿であり、森の中の死である。どれも敬意を払うに値するものである」

「アルラベグと呼ばれる「狩人」に出会うかも知れない。彼は悲痛な慈愛の槍を身に付けている。ハンティング・グラウンドから、新しい獲物を狩るためにここへやって来るか、もともとハンティング・グラウンドにいるユニコーンなどの獲物を、新しい森で狩るために連れてくる。獲物を連れてきてない時に彼と出くわせば、ただでは済まない。野兎役に指名されてしまう可能性がある。そうなったら力の限り逃げるしかないが、逃げ切れはしない」

「ストリーベグと呼ばれる「獣男」に出会うかも知れない。狼の頭蓋骨のトーテムを身に付け、そのうなり声はまるでカース渓谷の地滑りのようだ。子供達のスキンシフターと一緒に狩りのためにやって来るか、新しく子供を養子にして生皮を剥ぐために来る。彼の遠吠えは、星霜の月の真夜中に池が凍るのと同じように体内を凍らせる。死が近づいてくるのが分かるが、逃げることはできない」

「ウリカンベグと呼ばれる「大雄鹿」に出会うかも知れない。そのひづめの音はブラッド・サモンズに鳴り響く。雌鹿と交尾をするためにやって来て、その目的のために魅力的な女性を変身させてしまうこともあれば、群れの中で弱った者を殺すこともある。彼のひづめの音が聞こえたら、群れと走る運命にあり、彼の後についてハンティング・グラウンドに行き、追い回された末に滅ぼされることになるだろう」

「グリベグと呼ばれる「素早い狐」に出会うかも知れない。彼は骨の杖を巧みに操る。定命の狩人達を当惑させるためにやって来て、円を描くように走らせた末で、極端に途方に暮れた状態にして、彼について崖や道のない泥沼を渡らせる。体を激情で満たし、彼を追い求めることしかできなくされてしまうか、彼に利口だと認められて技を教えてもらえるかも知れない」

「フロッキベグと呼ばれる「強大な熊」に出会うかも知れない。爪と牙のトーテムの化身であり、孤独、労働を離れた平穏、そして内なる燃える霊魂の更新を求めてやって来る。彼を刺激して平穏を乱すようなことをすれば、粉々にされてしまうので注意しなくてはいけない。しかし敬意を払って近づき、甘いハチミツ酒を捧げれば、次の戦闘時に熊の心臓の力を授けてくれるかも知れない」

「これらが5つの姿だ。これ以上はなく、あると言う者は無知で愚かな者だ。ウラキャナックがそう言うのだ。これまで私が間違っていたことがあるか?そう言ってるのだから、そうなのだ。ジュニパーの水薬をよこしてくれ」

バンコライ、ハイロックの盾Bangkorai, Shield of High Rock

(イーモンド王による兵士達に向けた最後の演説)

「聖ペリンの騎士、エバーモア衛兵、モウルノスとエフェサスの自由民による市民軍、バンコライの兵士達よ!我々は以前にも、東からの侵略者に対するブレトン王国の防衛の最前線である、ハイロックの盾となったことがあった。これまで幾度も、エバーモアとその周辺地域のブレトンは武器を手に取り、バンコライ峠に軍を配置し、我らが母国を略奪し荒らそうとした者達を追い返した。第一紀の874年、スルジュ戦士長のオークとゴブリンの軍が、レッドガードによってハンマーフェルから送り込まれた際には、通過を阻止して北東への撤退を余儀なくさせ、オルシニウムへたどり着くまで、重い足取りでドラゴンテール山地を通らせた。前哨戦を抜けて我らが母国に入れたゴブリンなど、一体もいなかった」

「そして1029年、女帝ヘストラの帝国軍が、ヴァーカースの吸血鬼であるストリキ王を退位させた際、王は恐ろしいグレイホストを率いて、周囲を火の海にして惨殺を繰り返しながら西へ撤退した。しかしそのコウモリ人間と狼の軍がバンコライ駐屯地に到着した時には、岩に砕け散る波のように倒れた。生存者はヘストラの帝国軍が捕獲して殺した。女帝は大いに感心したため、ハイロックに最初の帝国への加盟の名誉を与えた」

「ルビーの玉座の下でおよそ千年近くが経過した後、アレッシア教団の逸脱行為によって、ハイロックは最初の帝国からの脱退を余儀なくされたが、シロディールの僧兵はおとなしく手を引こうとはしなかった。2305年、修道院将軍プリスクス・マクテータの指揮の下、ブレトンを傘下に戻すべく慈悲と恩寵の帝国軍が送り込まれた。マクテータの狂信者達がフォールンウェイストを端から端まで埋め尽くしたが、バンコライ駐屯地を通ることはできず、信心深い者が気高い者と戦う5ヶ月間の包囲の末、修道院将軍は敗北を認め、面目を失ってシロディールに戻る他はなかった」

「駐屯地がハイロックを防御できなかったことは1度しかない。ダーコラクのリーチの民の大群が、ビョルサエの南岸になだれ込み、それまでいつも我々を守ってくれた北東の尖塔から流れ入った。そしてエバーモアが略奪され、要塞は裏側から襲われた。それでもなお、我々はハイロックのために十分な時間を稼ぎ、ブレトン王国は兵を集めることができ、結果的にはダガーフォールでダーコラクを撃退した」

「今日、東からの侵略者が、シロディールからの帝国軍という形で再び我々を脅かしている。しかし連中は女帝ヘストラの伝説に名高い帝国軍でもなければ、皇帝レマンのよく訓練された兵士達でもない。サルンの強奪者の、堕落した傭兵達だ。おまけにこの帝国軍は、まさしくあの堕落して信念を失った家族の親族が率いている!」

「魔導将軍セプティマ・サルンとは何者だ?追徴課税で自由民を苦しめる以外に、これまでに戦に勝利したことはあるのか?ただの寄せ集めで名前だけの「帝国軍」を、デイドラを崇拝する異端の方法で我々の母国に連れてくるとは、何のつもりなのだ?」

「私は連中をクズと呼ぶ。かつて高貴だった「帝国軍」という名前を汚す行為である。私は連中を暴徒と呼ぶ。そして、我々が壁を守っている限り、バンコライ駐屯地を通させはしないと確信している!」

「どうだろう、聖ペリンの騎士、エバーモア衛兵、モウルノスとエフェサスの自由民による市民軍、バンコライの兵士達よ!先祖の血を裏切って、敵を通してやるのか?あり得ない!今日も、明日も、この先も決してそんなことをさせてなるものか!」

ビリジアンのセンチネルThe Viridian Sentinel

しーっ。もう少し寝なさい。ビリジアンのセンチネルがいるかぎり、ここにはトロールは来ないから。

何だって?ビリジアンのセンチネルの話をまた聞きたいって?もちろんいいよ。さあ、枕に頭を休めてお聞き。

バンコライ北部の者なら、誰もがビリジアンのセンチネルについて知っている。センチネルは、野生のものすべてを森にとどめておくガーディアンだ。センチネルが監視をしている限り、トロール、熊、魔女と仲間の狼。どれも征服された土地には入らせない。そしてセンチネルはいつも監視を続けてくれる。

そんなビリジアンのセンチネルがいなかった時代があると知っていた?ずっとずっと遠い昔のこと。私達ブレトンはディレニのエルフから自由を勝ち取ったばかりで、エルフはまだ苦々しく思っていた。「さあ、お前達がハイロックと呼ぶこの地を所有するがいい」と彼らは言った。「すぐに手放すことになる。私達は塔のある島へ撤退する。アース・ボーンズとの協定を断ち、これらの土地は荒野に返すことになる」

エルフの話し方についていつもそうであるように、私達は彼らの意味したことを理解しておらず、ただ肩をすくませて、この土地を自分達のものにすべく働き始めた。畑を耕し、作物の種をまいた。草原には柵を立て、家畜用に牧草地を作った。道を作り、市場街を建設し、人々が互いに生産物や商品を売れるようにした。何事もうまくいっているように見えた。

しかし、森に最も近い農家で悪いことが起き始めた。軒の下に魔女達が潜み、森に近寄りすぎたブレトン達が森の影の中に消え去ったまま戻ってこないようになった。次第に農民達は森に近い畑を放置せざるをえなくなった。

事態はさらに悪化した。森の中から、恐ろしい生物や獣といった様々なものが、主に夜間だが時には昼間にも現れ始めた。それらの生物は農場をうろつき、農家の家族を脅かし、可能ならば殺しさえした。農民の多くは「荒野から来たあんな生物には太刀打ちできない。さあ、農場を去って街に行こう」と言った。

しかし彼らが街に到着すると、農民にできる仕事は見つからなかった。さらに悪いことに、農民達が街に食料を送り出さなくなったので、食べるものはほとんどないに等しかった。街の住民達は農場を放棄した農民達を責め、農民達は武装した番人を送ってくれなかった街の住民達を責めた。どうすればいいのか、意見をまとめられる者はいなかった。

農家の子供でグリーンワードという名の青年は、とても心配していた。礼拝堂に行って真剣にステンダールに祈りを捧げた。「慈悲と保護の力を持つ高潔な神よ、私達はひどい窮地に立たされており、あなたの助けを必要としています。荒野の獣たちが解き放たれ、私達の土地は荒れた地に戻りかけています。じきに、規律と調和を重んじる定命の者が住める場所はなくなってしまいます。私達自身も獣になってしまい、名前を忘れ、神々に背を向けることになってしまわないかと心配なのです。神よ、どうしたらいいか、どうぞ助言をお与えください」

するとカワセミが礼拝堂に飛び込み、グリーンワードの前にある祭壇に止まった。とても大きなカワセミで、青年がそれまで見たことがないほどだった。カワセミは頭を上に向けると、口笛を吹くようにさえずって、くちばしを鳴らした。グリーンワードには、そのさえずりとくちばしの音に混ざって、話し声が聞こえるようだった。「獣が荒野から出てきたのは、あなた達の名前を忘れ、殺すことが認められている同じ獣だと思い込んでいるからだ。誰かが荒野に入り、獣達に対して、自分には名前があり、征服された土地は没収されたのだと伝えなくてはならない」。その後カワセミは鳥らしくそこを汚してから飛び去った。

青年はお辞儀をして言った。「家族と、征服された土地にいる他の家族のために、私がやります」。彼は父を抱きしめ、母にキスをすると、街を出て荒野の端へ戻った。そこで凶暴な虎と出くわし、虎は彼に襲いかかりそうになったが、青年はこう言った。「名前があって獣ではない自分を襲うことは認められていない。名前はグリーンワード。この土地は征服された土地であると宣言する。荒野に戻って二度とここへは来るな」

するとどうなったと思う?凶暴な虎は言われたとおりにした。植えた狼も、よろよろ歩く熊も、恐ろしいトロールも、危険なスプリガンも、すべて荒野に戻り、それ以上征服された土地には来なくなった。

これをやり終えた時、青年は務めを果たし、家族の元に戻れると思ったが、そうではなかった。荒野から新しい獣が現れる度に、境界線で教えてやらなければいけなかったのだ。そのため、それから青年は森の近くに住み、荒野の端へ歩いて行って、獣に名前を伝えて送り返すようになった。そして人々は彼をビリジアンのセンチネルと呼んだ。

時は流れ、そのうちビリジアンのセンチネルはかなりの高齢になり、やがて境界線へ歩いて行けなくなるかも知れないと思い始めた。彼は心配になった。しかし、鳥から話を聞いたという1人の少女が現れ、それからは2人で一緒に境界線へ行くようになった。そしてついにセンチネルが亡くなり、彼の名前が魂と共にエセリウスへ行くと、少女が新しいビリジアンのセンチネルになり、征服された土地の安全は保たれた。

それ以来これはずっと続いている。この先も続くはずだ。

フォールン・グロットの伝説The Legend of Fallen Grotto

遠い昔、7人の息子と7人の娘を持つ男がバンコライに住んでいた。家族の住まいは、森の外れにある、奥深くまで続く曲がりくねった洞窟の中にあった。

周囲を取り囲む森は、熊、狼、アナグマ、鹿など、ありとあらゆる種類の生物であふれていた。大家族ではあったが、獲物は豊富にいて狩りも楽だったため、空腹とは無縁だった。

「ハーシーンの祝福に感謝しなくては」と男は言った。

そして狩りの神を祭った祠を家の中に建て、ハーシーンに祈りを捧げることにした。洞窟の壁には動物の脂肪と土を混ぜたものを塗った。子供達が狩った鹿から枝角を取って祭壇を作り、妻は皮を編んで敷物を作り、土の地面を覆った。

祠が完成すると、男のその家族は獣脂のキャンドルを灯し、雄牛をあぶり焼きにし、祈りの言葉を唱えながら雄牛の血を祭壇に注いだ。

すると突然、笑い声が聞こえ、雄牛の死に際の鳴き声とその焼かれた肉の匂いに誘われたハーシーンが、彼らの目の前に現れたのだった。

「上出来だ!」とハーシーンは大股で歩み寄りながら大声を上げた。何重もの動物の革に身を包んでいたが、足元は裸足だった。

「私はあなたの忠実なるしもべです」と男は神の前にひれ伏しながら言った。

「信仰心の証明として」ハーシーンは言った。「7人の息子と7人の娘を送り出すがいい。夜明けから夕暮れ、そして夜明けまで、私が満足するまで狩りの獲物にしよう」

男は恐怖で後ずさりした。「そんなことできません!」男は言った。「他のものなら構いませんが、子供達だけはご勘弁を!」

ハーシーンは目をしかめ、洞窟の天井に向けて片手を上げた。そしてもう一方の手で地面を指した。ハーシーンが叫び声を上げると、壁が内側へ崩れ、祠と男の家は破壊された。

捧げ物から上がる煙のように塵が舞い上がり、がれきの中から16体の森のトロールがドシンドシンと頼りなさげに現れ、よろめきながら洞穴から森の中へと入っていった。

ハーシーンが冷たく言った。「獣にするにも値しなかったが、どうせだから狩りをするとしよう」

ライカンスロープ症と生きるLiving with Lycanthropy

時代を超えて、「ウェアウルフ」という言葉を聞く時、それは恐怖と嫌悪からくる叫びだった。しかしこれからは、必ずしもそうではない。セイニーズ・ルピナスに苦しんでいても、生産性のある平穏な暮らしを送ることは可能だとタムリエルに証明するのだ。

掟:暴力的な行動をしたくなる衝動を抑える

社会から遠ざかることで、このシンプルな掟を毎日の生活に適用する方法を学べる。私達の苦境を理解できない者に対して報復するという、野生の願望に負けてはいけない。他者を単なる娯楽目的で殺すべきではない。ハーシーンは私達に、優れた戦闘能力と、普通の人間を超える強さを与えて下さった。この祝福を、他者を傷つけるために利用してはならない。代わりに、他者にも恩恵があるように使わなくてはならない。狩りはやりがいのある趣味にもなり、恩人に感謝する方法にもなる。しかし人間であれ獣であれ、他者を苦しめる方法であってはいけない。

この祝福は、祝福であって呪いではない。おかげで重い荷物を運ぶことができ、疲労することなく長距離を移動できる。このため、旅の商人に向いており、あらゆる種類の肉体労働にも向いている。継続して自制を見せ、他者に暴力を振るわず、空腹感によって殺す衝動に駆られないと証明することで、自分達と家族に敬意を払うことができる。

ハーシーンの祝福に忠実であり続け、ウェアウルフも穏やかでいられると示すことは、私達の務めである。

狩りへの出立The Posting of the Hunt

いかなる者にも人前で言わせてはならない。狩りが中止されてないことも、儀式の宣言がされたことも、古代の務めの存在についても。

純潔な獲物の儀式は、グレートハントとも呼ばれる。この世界を包み込む強力なマジカの流れから魔法のエネルギーを引き込む、古代の儀式である。儀式の作成者と時期については遠い昔に忘れ去られた。しかし正しく行えば、儀式はハンツマンに強大な力と威厳をもたらす。

儀式では、上級犬と下級犬を連れた全能のハンツマンを、定命の生物である人類の狩りにちなんで伝統的に「野兎」と呼ばれる、哀れで不幸な純潔の獲物と戦わせる。ハンツマンは即座にその能力がもたらす強烈なスリルと栄光、そして無力な獲物に対する支配力で満たされ、それと同時に、純潔な獲物の悲劇的で崇高な、究極的に無益な苦境に心を動かされる。儀式のこれ以上になく美的な実現の中で、殺しによって我を忘れる歓喜は、純潔な獲物が抱く悲しみと絶望をハンツマンが認識することによって釣り合いが保たれる。純潔な「野兎」の死体が小さく切り裂かれる中で、ハンツマンは力の悲劇的な不均衡について、そして世界における残酷な不公平について思いを巡らせる。

狩りが始まると、下級犬は緑のクリスタルが映し出す純潔な獲物の礼拝堂の前に集合する。礼拝堂の中では、ハンツマン、上級犬、そして狩りの王が儀式を執り行い、ハンツマン、ハント、そして純潔な獲物を参加者として清める。次に、ハンツマンは礼拝堂から出て、悲痛な慈愛の槍を掲げ、「狩りの務め」を読み上げる。そこには狩りの4段階、すなわち、さらい、追跡、合図、検分における掟と条件が説明されている。

第1段階:さらい。下級犬が地面をさらい、隠れている「野兎」を外に出す。

第2段階:追跡。上級犬が「野兎」を見える所へ狩り出す。

第3段階:合図。上級犬が「野兎」を罠にかけ、仕留めるために漁師を呼ぶ。

第4段階:検分。ハンツマンは儀式で使う悲痛な慈愛の槍を使って仕留め、街の鐘を鳴らして狩りの王を呼び、見てもらう。次に狩りの王は、狩りで悲痛な慈愛の槍を巧みに使った、勇敢なる猟師に報酬を授ける。狩りの王はさらに勇敢なるハンツマンに、次の狩りにおける「野兎」を指名するように要求する(勇敢なるハンツマン自身は次の狩りに参加するとは限らない)。

勇敢なるハンツマン、狩りの王、猟犬が厳粛に守らなくてはいけない「狩りの務め」には、狩りの手法と条件が詳細に記述されている。これらの手法と条件は掟とも呼ばれ、狩りにまつわる詳細がすべて具体的に定められている。例えば、参加できる各種猟犬の数、悲痛な慈愛の槍を使う際の方法などである。さらに掟では、たとえわずかであれ、「野兎」には現実的に狩りから逃げられるチャンスがなくてはならないと定めている。実際には、デイドラの儀式の聖堂に集めると、野兎が狩りから離れた場所へ転移できる、すなわち猟師と槍から逃れられる鍵が6つ用意されているという条件で満たされる。当然ながら、「野兎」が実際に鍵を発見して逃避することは起こりえないが、その形式は守られなくてはならず、鍵に細工をしたり、「野兎」が鍵を発見または使用できる本来のチャンスを削いだりする行為は、恥ずべきものであり、狩りの掟に対する許されざる裏切り行為である。

真のホーリン伝説 パート1The True-Told Tale of Hallin, Pt. 1

「若きファハラジャード王子へ伝えられた物語の歴史」より

おお王子よ、ではお話しよう。ラ・ガーダがたちまちハンマーフェル中に広がって牙の民を追いやり、かつてヨクダ人であった人々が剣を捨て、代わりにシャベルとこてを拾い上げるやいなや平和が生まれた。三世代の間レッドガードは地を掘り、偉大な建造物を数多く砂漠の上に建立した。また、我らが民は皆、その偉大さを称える記念碑を建設していたために、剣の道の研究を行う者はほとんどいなかった。

今のアリクル東部、そしてバンコライの峠の南部に、立派であり続けるオジュワ女王によって見事な街が建設され、すべて白い石と縦溝掘りの柱に彩られたその街の名は、非常に高名な女王のその名にちなんで、オジュワンブと名付けられた。その道々と広大な大通りには、商業的かつ創造的なすべての芸術を扱った家や集会所がたくさん見られた。人々は洗練された服に身を包み、輝く宝石で自らを飾り立てて通りをうろつき、美味しいものを食べ、活気ある曲や心静まる曲を聴いた。そして、それについてはすべて、心地よいものであった。

壁によって光が遮られた、取るに足らない街角に立つ「戦いの美徳の間」では、アンセイ最後の戦士、ホーリン師が、剣の道に関心を持ったオジュワンブの若者たちにそれを教えていた。そんな若者は少ししかいなく、同輩から冷やかしや冷酷なからかいを受けたりしたが、それでも彼らは年老いたホーリンから刺激を受け、レッドガードの真の戦士となるまで剣の道を学んだ。後にお分かりいただくように、申し分のない戦士になった。

「竜の尾」という山岳地帯にて未だ潜伏する牙の民が、レッドガードに対する怒りの不満を大げさに示すがごとく、そのぼろぼろになった衣服を引き裂いていた。その中に、謀略によってディヴァドの呪いを逃れたために減退していなかった、ゴブリンの偉大なる領主がいた。悪賢さと活力の両方を備えていたこの巨大なゴブリンは、部族の中で長い間働き、ある日竜の尾にいるすべての牙の民の領主となっていることに気がついた。彼の名は石拳のマーグズールといった。そういうわけでマーグズールは、偉大な剣「骨切り」を掲げて地震のような力強い声で吠え、復讐の日はついにそこまで来ていると宣言した。

それからマーグズールは、竜の尾から「直立軍」を率いて大きな砂嵐のようにハンマーフェルへと殺到したが、その前に立ちはだかる者は誰もいなかった。フォールン・ウェイストの人々は、牙の民の怒りを前に逃げまどい、街が溢れ返るまで、実に多くの者がオジュワンブの壁の向こうに避難した。苦悩と不安の中、市民は泣き叫び、「ああ、オジュワ女王よ。我々のために一体誰が戦うのか?我々は皆、職人に、そして喜びを作る者になってしまった。今や剣の道を忘れてしまったのだ」と嘆いた。

すると、オジュワ女王は民に話しかけ、「剣の道を覚えている者は誰もいないのか?」と言った。そこで、ホーリン師が名乗り出て、女王の前でお辞儀をするとこう言った。「女王様、私はアンセイ最後の戦士です。少なくとも自分が心得ているだけの剣の道を覚えております。できる限りのことをいたしましょう」

それから、ホーリンの弟子たちも前に進み、女王の足元に剣を置いた。しかし、非常に高名なオジュワは、剣の数があまりに少ないことに失望し、取り乱してこう言った。「そのように少ない剣でどうやって直立軍を撃退することができるのか?牙の民は砂漠の砂のように無数にいるのだぞ」

ホーリンはそれでも決して思いとどまることなく、大胆に、「偉大なる陛下よ、ご安心ください。あなたの民はレッドガードです。剣の道を容易に思い出すでしょう。剣の柄をいま一度手に取れば、円環の書からもう一度格言を学び、敵が無数であろうと、全世界のどの民にも匹敵するでしょう」と言った。

「アンセイの師よ、そのようになさい」と、オジュワ女王は答えた。「しかし、レッドガードといえども、剣の道を習得するには時間を要する。しかし我々には時間がない」

「それなら、もっと時間を作りましょう。十分な時間を与えるのが我が任務です。それは我が人生において、最高の仕事となりましょう。オンシのまばゆい刀剣にかけて、与えることを誓います」そして、彼は女王の目の前で剣を引き抜き、剣の仲間への誓いをかけた。驚くべきことに、ホーリンの背丈は巨人の背丈になった。剣の鋭い刃は輝く光になり、皆は注視できなかった。

そのうちに視力が戻った彼らが目にしたのは、いつものホーリン師が、微笑みながら剣を鞘に収める姿であった。すると、アンセイ最後の戦士は、まるでオジュワンブの全市民を抱擁するかのように両手を掲げて言った。「レッドガードの仲間たちよ。私は君たちに、長きに渡って守ってきた円環の書の知識を伝授しよう。どんな脅威であれ対処できるであろう。我が弟子たちが君たちに知識を教えれば、皆が剣の道をもう一度理解するだろう」

それから彼はオジュワ女王に振り向いて言った。「さあ、民を導いてください。偉大なる女王よ。それはあなたにしかできない仕事です。彼らを西へ連れて行き、ハンマーフェルは自ら直立軍との戦いの準備を整えられると、剣の道の評判を広めるのです。私はこの街にとどまり、人々が自らのために戦う準備が整うまで、他のアンセイと共にできるかぎり防衛しましょう」

真のホーリン伝説 パート2The True-Told Tale of Hallin, Pt 2

ホーリン師の言葉をそのまま信じたオジュワ女王は、直ちに兵士に命令し、円環の書からの教練を毎日行わせながらも、アリクルへと向けて西へと進軍させた。ただし、オジュワ女王が行ったのはこれだけではなかった。フクロウの仲間である賢明な女王は、すべてのフクロウに敬意を払い、殺してはいけないと法令で定めていた。そのお返しに、フクロウも女王の願いを叶えていた。だから女王はフクロウの父を呼び出し、オジュワンブで待機してホーリンの防御を見守るように頼んだ。女王は、「街全体を1人の男がどうやって守るのかを知りたい」と言った。

アリクルへ続く秘密の道を進むため、最後尾にいたオジュワンブの人々が門から出たと同時に、東に牙の民の斥候が現れたが、ホーリンはそれに気がついた。なぜなら、彼は年老いてはいたが、その目は鋭かったのだ。

聞いていたのはフクロウの父以外にはいなかったが、ホーリンは言った。「蛇が脱皮をするように、アンセイは過去の殻から新たに現れよう」彼は剣を掲げ、「同胞よ!人々の救援を求める。時が終わるとしたら、その時は今なのだ」と叫んだ。

彼が剣を左に指し示すと、胸壁に沿って北のほうで、蛇皮のようなカサカサという音がした。すると驚いたことに、胸壁沿いに兵士の集団の影ができた。そこには、かつては皆アンセイの女であったらしき者たちが立っていて、ホーリンの方を向いて敬礼をした。ホーリンが右に同じような身振りをすると、胸壁に沿って南のほうで、カサカサという音がした。すると驚いたことに、かつては皆アンセイの男であったらしき者たちがそこに現れ、同様にホーリンに向かって敬礼をした。それから、北と南のすべての者は、輝く剣を抜き、胸壁の上で立って待ち構えた。

牙の民の斥候は、オジュワンブの防衛を観察しようと、直ちに立ち止まった。街の人々が剣の道を忘れてしまったと聞いていた彼らは、胸壁に相当な数の戦士がずらりと並んでいるのを見て驚いた。そして、誰がマーグズール戦士長へこの知らせを届けるかについての相談がなされたが、そのような知らせを伝える者は首を切り落とされるだろうと恐れたために、彼らは口論になり、言い逃れをすることとなった。しかし、最終的には一番小さな者が、心の打撃を受けながらも戦士長への報告を持ち帰った。

そのようにして斥候は、マーグズールに、オジュワンブの壁には奇妙なことに、相当数の防衛にあたる戦士がいると報告した。石拳は瞬く間に斥候の首を打ち落としたが、悪質さも活力も備わっている彼は、よく考えた。そして彼は、「だからどうだというのだ?我々は砂漠の砂ほど無数にいる。このオジュワンブを取り囲んで、入口も出口も離れない。彼らの畑を荒らし、物資の流れを止めて、誰も飲まず食わずにさせるのだ。さすれば、街は陥落しよう」と考えた。

そしてマーグズールは命令を下し、それは実行された。牙の民は外塁の戦利品で暇をつぶし、壁を防衛する戦士たちに罵声を浴びせ、彼らを愚弄した。しかし、戦士たちは何も応じなかった。捕虜を虐待して最低な楽しみ方で時間を過ごしていたマーグズールとその部隊は、オジュワンブの防衛者たちが衰弱し、その数が減少するのも時間の問題であると確信していた。

だが、そうではなかった。戦士長の骨計数機による計算が、市内の食料や飲料の底がついたと示しても、戦士たちはじっと立ち、屈強な様子で、黙っていた。そこでマーグズールは呪術師を招集し、「呪術師よ!我々はレッドガードにばかにされているのか?我々が見ている戦士は、実際に胸壁に並んでいるのか?それとも、ただの影なのか?」と言った。

それで、呪術師たちは前兆を占い、双子の乳児をいけにえに捧げ、東門へ偵察を送ったが、ホーリンはそれを上から槍で突いた。彼らは戻り、こう言った。「いいえ、偉大なるマーグズール様。我々はばかにされてなどおりません。我々が目にしているのは、確かに胸壁に並んだ相当数の戦士です。しかし、いかにして飲まず食わずで立っていられるのかは、私どもにはわかりません」

マーグズールはほんの一瞬で呪術師たちの首を打ち落とし、それから血まみれの「骨切り」を掲げて叫んだ。「戦闘準備だ!隊列を作れ!今夜我らはオジュワンブの血を飲むのだ!」

その戦いを生き延び、話を語るレッドガードは誰もいなかった。しかしそれでも、フクロウの父によって伝えられたために、賢明なオジュワ女王はその事実をすべて知ることとなった。まさに17日もの間、ホーリンとそのアンセイの戦士たちがいかにして攻撃に耐えたかが伝えられた。戦士の数はかなり多かったが、それでも時間と共にアンセイの戦士は減少した。ただし、彼らは蛇皮へと変わるように、殻のみを残して逝った。最後には、東門に立つ者はホーリンだけとなり、「骨切り」を振り上げたマーグズール戦士長が門を押し開けた。すると、ホーリンの体は戦士長に匹敵するほど拡大したように見え、どちらも剣の戦いへと突入した。

長きにわたって剣はぶつかり合ったが、月が昇ると石拳はついに、ホーリンを地面に叩きつける強打を放った。しかし、ホーリンを倒したと同時に、円環の書のありとあらゆる切り込みと突きを心得たホーリンは、剣を振ってマーグズール武将の首を切り落とした。それから両者とも死に果てたが、その死に顔に微笑みと平穏な表情を浮かべていたのは、1人であった。

オジュワ女王はこの知らせを聞きながらうなずき、「それはよろしい」と言った。そして、円環の書のありとあらゆる切り込みと突きを心得たレッドガードの戦士による大軍隊の方を向き、言った。「レッドガードよ!今こそ牙の民から我らの地を取り戻すため、進撃するのだ。もう一度我らの壮麗な街を取り戻したら、それをホーリンズ・スタンドと新しく名付けよう。その日はきっと訪れるであろう」

そのようにして、街の名は、その後ずっとホーリンズ・スタンドと呼ばれている。

野蛮人と獣の生活A Life Barbaric and Brutal

アーセナイス・ベロック 著

第一章:リーチの民による拉致

私は、エバーモアからビョルサエを北へ行った、マルシエン村で生まれた。母は織工で、父は、川貿易用の小さな漁船やコラクル舟を作る船大工だった。少年時代は、父が働く港で遊んだり、森の近くでイッポンシメジのかさやクルミを隅々まで探したりと、幸せだったことを覚えている。

それはある日、後者の遊びをしていた時だったが、私はいつもより村から少し離れて道に迷い、ブライアの茂みに入り込んでしまった。すると突然、いつの間にか気がつくと、1対の人間の頭蓋骨をじっと見つめていた。自分が見ていたものが、杖に乗った頭蓋骨と、その隣にあった頭蓋骨のような模様を描いた女の顔だということに気がついた時には、打ちのめされて縛られ、女の肩に担がれていた。

家から離れ、北へと連れていかれた先は山の中だった。蹴ったり叫んだりし始めると女は私を投げおろし、さらにきつく縛って、おまけに猿ぐつわをかませた。それから女はまた、辺境へと私を運んでいった。結局私は、極度の疲労で気絶した。

目が覚めると辺りは暗かったが、火明かりのゆらめきのおかげで、ぼんやりと物影を見ることはできた。それは、角や骨、そしてくぎや羽毛を身につけた人影だった。リーチの民だ。私は目を閉じて、目覚めようとしたが、それは悪夢ではなかったのだ。目を開けると、彼らはまだそこにいた。

猿ぐつわは外されていたので、水が欲しいと叫ぶと、頭蓋骨顔の女(後にヴォアンシェという名だと知る)が、コップに入れた水を持ってきてくれた。女は縄を確認したが、私が痛みにたじろいだ部分を、実際に少し緩めてくれたのだ。これに私は驚いた。リーチ族は未開人で、残虐行為にふける意地悪なデイドラ崇拝者であるといつも聞かされていたからだ。もしかすると、私がどれほど苦しんでいたかを知れば、解放され家に帰されていたかもしれない。

だがそれは、空頼みだった。私はそのまま、8年間もクロウワイフ・クランの捕虜にされたのだ。リーチの民は、故郷のブレトンで信じ込まされたよりもはるかに複雑で、理解し難かったが、1つだけ間違っていないことがあった。それは、リーチにおいて野蛮な行為と残酷さは、ごく当たり前の日常だったことだ。ヴォアンシェは馬飼いで、前の奴隷が頭を蹴られて死んで以来、馬の世話をする奴隷が必要だったため、私を拉致したのだった。彼女が私に水を与え、縄を緩めたのは、新しい所有物の状態を心配しただけに過ぎなかった。

ヴォアンシェのクランは、クロアブドラというハグレイヴンが牛耳っていたが、かぎつめのような爪をしたこのしなびた婆は、かなりの権力を持った女呪術師だった。彼女は、デイドラの霊魂ナミラという、クモや虫、ナメクジや大蛇といった不快な害獣を制する古代の闇の淑女に仕える女司祭だった。ナミラは有害な小動物の支配者だったので、リーチの民は彼女を「子供の神」と呼んだ(ユーモアがないわけではなかったが、彼らの冗談はいつでも悪意あるものであった)。双子月の闇の度に、クロアブドラはリーチも奴隷も含む一族の子供を抽選で無作為に選び、闇の女神へのいけにえにした。選ばれた子供は、「いつもにじみ出る祭壇」に連れて行かれ、ナミラへの供物としてその心臓を切り離された。いつも自分が選ばれると思っていたが、羽が引かれると、そこに書かれた名前は、いつでも他の子供の名前だった。

クロアブドラの醜い夫は、コインスサックという無作法で暴力的な男だった。彼は墓の歌い手で、死体を意のままにする呪術師だったが、それを私の国では死霊術師と呼んだ。彼はいつも、焼いた鳥肉を見るかのようにヴォアンシェを横目で見ながら唇をなめていた。彼は一族で権力があったし皆に恐れられていたが、ヴォアンシェは高慢な態度で接したため、それは時にコインスサックを怒らせることとなり、夜にテントへ嘲笑する幽霊を送り込まれたり、馬の肥料にライスワームで呪いをかけられたりした。ヴォアンシェはまったく動じず、彼の醜い妻クロアブドラに苦情を出すぞとコインスサックを脅して、いつでも追い払っていた。

リーチでの生活は大変だった。クロウワイフは狩猟クランだったため、荒野の至る所で群れを追いまわすのが私たちの生活だった。それは厳しく危険な暮らしで、大牡鹿の枝角や、サーベルキャットの牙で一瞬にして生命が奪われてもおかしくないような日々だった。しかし、私が最も恐れていたのは、半年ごとにある、ツンドラの群れの後を追ってカース川を横断することだった。私の仕事は、ヴォアンシェとその役立たずの娘が、氷のように冷たい過流を馬に泳いで渡らせるのを手伝うことだったが、毎回これが最後だと、そう思っていた。カース川に捕らえられる度に、2人の兄弟たちのようにビョルサエで水泳を習っていたらと、どれほど願ったことだろうか。

時折、横断の途中で馬がパニックに陥り私たちの手を離れたが、それは大抵、溺れて死ぬことを意味していた。ヴォアンシェと私は馬の死体が打ち上げられている場所が見つかるまで、はるか下流を捜索した。それは馬の皮をはいで、貴重な脂肪や肉、そして骨を手に入れるために死体を解体するためだった。リーチの民の間で、無駄になるものは何もなかったのだ。

カラス妻の奴隷になって6回目の夏(なんと、大嫌いなカースを11回も渡っていた!)、クロアブドラとコインスサックの無礼な息子、アイオックノールに注目され始め、私は迷惑していた。彼はその注目を、私を泥の水たまりに落としたり、シチューにネズミを入れるという形で表現した。アイオックノールは私よりも1歳年下だったが、彼が私を悪ふざけの対象以上の存在にしたがっていることはすぐにわかった。彼はハグレイヴンの息子として、罰を受けることなくやりたいことは大体何でもできたし、ヴォアンシェはクロアブドラに苦情を言って私を守ることはできなかった。横暴な老女はゲラゲラ笑い、手を振って追い払うだけだった。

だから、毛皮の山で寝ているべきはずの夜、私は槍を作り始めた。

リベンスパイアーの伝承

Rivenspire Lore

ウェストマーク・ムーアの墓苑The Barrows of Westmark Moor

長老サシル・ロングリート 著

一般に「サングイン墓地」と呼ばれるウェストマーク・ムーアの墓苑は、その歴史を通じて、地元の人々のあいだに芳しからぬ評判を醸成してきた。リベンスパイアーの貴族は、今生きている者が誰一人憶えていないほど昔から、この墓苑の節くれだった木々の根に死者を埋葬している。腐敗、争い、墓荒らし、その他もっと酷いことを目撃して来た古い墓に、親族を葬ってきたのだ。

ウェストマーク・ムーアの冷たい大地には、ドレル、タムリス、モンクレアをはじめとする北部の有力な家の多くが死者を埋葬している。こうした家の中にはショーンヘルムの王や女王を輩出している家もあるが、彼らが死後、ここで親戚縁者たちと共に眠ることはない。彼らの遺体はグレナンブラにあるキャス・ベドロードの大霊園に送られ、ハイロックの歴代君主たちとともに永久の眠りにつく。これは長らく続く伝統に則ってのことである。

「サングイン墓地」内の埋葬区画の所有権をめぐって家と家が争うのは、珍しいことではない。そもそも「サングイン墓地」などという不吉な通称からして、第二紀551年の初夏に起きたある事件を境に奉られたものだ。私の記憶では、タムリスとモンクレアの両家で、同じ日に不幸があったことがそもそものきっかけだったように思う。両家の墓は境界を接しており、それゆえ長年にわたって争いの種だった。したがって問題の朝、両家の葬列が同じ区画(川を一望できる人気の高い場所だった)に面した同じ丘の上に到着した時点で、悶着は避けられないものだった。

貴族たちは何時間も言い争い、召使たちを何度も往復させては古文書やら証書やら正式な境界線が記された地図やらを持ってこさせたが、どちらも引き下がるわけにはいかない。日没が近づく中、互いに我慢が限界に近づいていた。驚くべきことでもないが、やがて双方が侮辱を受けたといって非難の応酬を始め、ついには武器が抜かれた。リベンスパイアーの人々は、続いて起きた「血の葬列」(呼称は後につけられた)が両家の歴史に汚点を残したと一般に考えている。

「サングイン墓地」では、略奪や冒涜もまた珍しいことではない。墓苑を巡回するのは白霜の高原の当局の仕事なのだが、富の誘惑が番人を罪人に変えるのに充分な時もあれば、自ら手は下さないまでも、墓への侵入に目をつぶってやるには充分な時もある。ショーンヘルムの王や女王がそういった不心得な行いに対して絞首刑という厳罰で臨み、一罰百戒を狙ったことも、一度や二度ではない。

そういった厳罰にもかかわらず、貴族が埋葬される度に、新たな狼藉や盗掘が行われるといっても過言ではない。実際、ある朝、タムリス家の墓所が遺体も含めて丸ごとからっぽになっているのが見つかり、家の人々を呆れさせたのは、つい数年前の出来事なのだ。盗人たちは結局見つからずじまいだ。なぜ彼らが遺体も一緒にさらっていったのかについては、誰しも考えたくないだろう。

「サングイン墓地」は、1つの墓地としては多すぎるほどの悪事や揉め事を体験してきた。しかもこの墓地は何度も繰り返し、その名にふさわしい悪評を得ている。これ以上この記録に暴力や盗みのエピソードを書き加えずにすむことと、いまだそこに埋葬されている貴族たちが未来永劫安らかに眠れることを、私は願ってやまない。

エセルデ王女の物語The Story of Princess Eselde

[このささやかなプロパガンダはタムリス家のために捏造され、エセルデ女伯爵が南部でアーケイ教団の教えを受けているあいだに流布されたものである。]

かつてカットキャップの国にはルルスルブという名の偉大な王がいて、長きにわたり善政を敷いた。やがてルルスルブも老いを感じ、自分が世を去ったあとの王国の行く末を案じるようになる。ルルスルブには2人の王子がいた。普通であれば老境の君主にとっては喜ばしいことだが、この場合はむしろ悩みの種だった。というのも、若いほうのピジョン王子は正室たる王妃の子だが、意志薄弱で政治に関心がなかった。対照的に、年長のランセル王子は大胆で物おじせず、母親もカットキャップ一の名門リスマット家出身だったが、いかんせん正嫡ではなかった。

さて、ルルスルブは英明な王であり、自分がランセル王子を気に入っていることを隠そうとしなかった。ランセルのほうが統治者にふさわしいことは、誰の目にも明らかだったからだ。にもかかわらず、年老いた王がついにエセリウスへと旅立ったとき、柔弱なピジョン王子が王位を継ぐべきだと感じる者が一部にいた。この連中が単に心得違いをしていたのか、それともカットキャップの王権が弱まるべきだと考える何らかの理由があったのか、それはよくわからない。ただ、最終的には良識派が勝利し、ランセル王子が貴族評議会によってカットキャップの王に選ばれた。

王位に就いて間もなく、ランセルは舞踏会でレディ・ヴェスパイアといううら若き乙女を見初め、恋に落ちる。可憐で賢いヴェスパイアはリスマット家の出身であり、短い求愛期間を経て、ランセル王は貴族評議会に彼女を妃に迎えるつもりだと話した。ところが、元王子のピジョン伯爵がこれに異を唱える。ランセル王の母親もリスマット家の出身であり、血縁法に照らしてレディ・ヴェスパイアは血が近すぎる。したがってこの婚姻はふさわしくない、というものだった。これに評議会の他のメンバーも賛同したため、ランセル王は評議会の説得を容れてレディ・ヴェスパイアとの結婚を断念した。知らせを聞いたレディ・ヴェスパイアは姿を消した。ニクサドの一団によって森の中に連れ去られたとも言われている。ランセル王は捜索隊を出したが、失踪した恋人はいくら探しても見つからなかった。

やがて、評議会が王朝存続のためにランセル王に花嫁候補を推薦する。ダル家出身の健やかな娘、レディ・イグノートである。いまだ傷心の癒えぬ王は、この薦めを受け入れる。ランセルとイグノートは華燭の典を挙げ、ランセル王は輿入れしたばかりの王妃の側で国王としての務めに打ち込んだ。それから数ヶ月後、王妃イグノートがランセル王の子をなしたことが発表される。幼い王女のために命名祭の開催が決まり、国中の貴顕紳士が招待された。

命名祭の当日、カットキャップの名士たちがこぞって駆けつけ、アレイエルと名づけられたばかりの王女が眠る揺りかごの足もとに贈りものを置いていった。ところが、その行列のしんがりに、何者とも知れない招かれざる客が並んでいた。それは不吉なウィルド・ハグで、マントに身を包んでフードをかぶり、暗い色の花を一輪、手にしていた。じつは「太陽が死んだ年」からこのかた、カットキャップでウィルド・ハグの姿が見られることはなかったのだが、それでもみな怖気づき、あえてその行く手を遮ろうとする者は誰もいなかった。

ウィルド・ハグは王女の揺りかごに歩み寄ると、フードを脱いで叫んだ。「ごらんなさい、ランセル王!私です、レディ・ヴェスパイアです。今はウィルドのウィレスですが!」着飾った人々は恐怖に駆られて後ずさりをした。というのも、かつて可憐だったレディ・ヴェスパイアが、見る影もなく変わり果て、今や醜いイボに覆われた巨大な鼻をこれ見よがしに突き出していたからである。「何かの手違いで、陛下のご息女の命名祭に私は招かれておりませぬが、それでもこうやって罷り越しました。ごらんなさい、幼き王女殿下に贈りものをお持ちしましたわ!」

「贈りものとは何か?」ランセル王が身を震わせながら訊ねた。「その暗い色の花か?見るからに気に入らんぞ!」

「そうでしょうとも、陛下」ウィルド・ハグは嘲るように言った。「これは「見捨てられたバラ」と言って、誰も欲しがらない花ですもの!そんなふうに疎まれるのがどういうものか、私は知っておりますよ、ランセル王。そして、我が呪いによって、あなたの娘にもそれを思い知らせてやりましょう!」そう言うと、おぞましい魔女はいびつな形をした花を赤ん坊の上に落とした。その刹那、炎がぱっと燃えあがり、異様な臭いの煙が漂ったかと思うと、ハグの姿は消えていた。

その後、王女アレイエルは一輪のバラのように美しく成長したが、性格はひねくれており、そのうえ癇癪持ちだった。それでも彼女が北部の王女であることに変わりはなく、南部のエメティック王が花嫁を探しにやってくると、2人のあいだですみやかに婚約が交わされた。

ところが、昔から足しげく南部を訪れ、エメティック王とも親しくなっていたピジョン伯爵が、南部の王に注進におよぶ。アレイエルは性格がひねくれているうえ癇癪持ちであることを教え、「監視塔の姫」を娶るほうがよほど良縁になると勧めたのである。やがてエメティック王はこの進言を容れ、アレイエルとの婚約を解消し、「監視塔の姫」と改めて結婚の約束を交わした。

しかし、ランセル王がこれをすんなり認めるわけもなく、誓約を破った南部の王に戦を仕掛けることを誓う。そして実際にエメティック王に対して大義ある戦いを挑むが、「トールの戦い」で旗下の将軍の1人に裏切られ、殺害されてしまう。ランセル王の王冠もアレイエル王女も行方がわからなくなり、それ以来、カットキャップの玉座は空位が続いている。

しかし、一説によると、ランセル王誕生のみぎり、実は双子の妹も生まれていたのだが、1人のウィルド・ハグにさらわれ、森で育てられたのだという。ルルスルブ家とリスマット家両方の血を引くこの女児が成長して娘を産み、その娘は母方の一族に引き取られた。この娘というのが、誰あろうエセルデ女伯爵その人だというのである。

もしこれが本当なら、エセルデ女伯爵の本当の称号は「王女」でなければならないのは自明だ。そして、他の誰でもない、彼女こそがカットキャップの玉座の正当な継承者ということになる。しかしながら、それは彼女の領民たちが語るお伽噺にすぎない。

シルバーフーフの騎馬民族The Horse-Folk of Silverhoof

ケフレム大学ヨクダ文化専攻、ナベス・アルジレーン博士 著

ハイロックの北部沿岸にレッドガードの知られざる入植地があるという噂を耳にしたとき、私がまともに取り合わなかったのは言うまでもない。そんなものが到底あるはずがないと思えたからだ。しかし、噂は根強く、一向に衰える気配もないため、とうとう私は長期休暇を取って大学の教授職からしばらく離れ、自分の目で噂の真偽を確かめるべく、北に旅する気になった。

そしてモルワの涙にかけて、噂は本当だった!学術的な詳細は近々発表する論考「群れの母を戴く部族に関する7つの真実」で余すところなく述べるとして、ここでは要点だけ整理しておきたい。というのも、遅々として進まぬ奨学金の手続きに合わせて公表を先延ばしにするには、この発見があまりにも驚異的だと感じるからだ。

ハイロックのリベンスパイアー地方の北西岸、ショーンヘルムから数リーグ西に行ったところに、シルバーフーフ谷と呼ばれる窪んだ牧草地がある。そこには三千年前からレッドガードの一部族が住み着いている。単に「騎馬民族」とだけ呼ばれている集団だ。

彼らはいつ、どうやって、またいかなる理由でそこにやってきたのだろうか?あいにく騎馬民族は書かれた記録を持たないが、その代わり彼らには口承の伝統が根づいている。私は世代から世代へと語り継がれてきたそうした伝承を聞き書きすることに努めた。部族の長老たちは時間を惜しまず私の相手をしてくれたが、なかでもムザールとヤライダの2人は特に協力的で、私はこの2人に聞いたさまざまな話から、次のような歴史らしきものを組み立てることができた。

彼らがもともと住んでいたのはヨクダであり、これには疑いをさしはさむ余地がない。周りに住むネードの民と何世紀にもわたって接触を続けた結果、「ブレトン化」を免れなかったものの、彼らの日常語にはヨクダ語が数多く残っており、それらはいずれも、古アコス・カサズのステップ地方に由来すると思われる、母音を延ばす特徴的な訛りとともに発声される。ここでは彼らの乗馬用語からいくつか例を挙げれば充分だろう。たとえば彼らは馬首を左に向けたいときには「ネトゥー」と命じる。右に向けたいときには「ネトゥー・フゥー」。止まれは「セーリーム」だ。言うまでもなく、「ネトゥ」は古ヨクダ語で「曲がる」を、「アンセリム」は「止まる」あるいは「やめる」を意味する。

つまり、騎馬民族はヨクダの民の末裔であり、おそらくはアコス・カサズの北部で遊牧生活を送っていた諸氏族から枝分かれした部族と考えられるのである。部族の長老たちは自分達の系譜に関する詳細な言い伝えを憶えており、それらに語られる世代の数から、彼らがタムリエルにやってきたのは第一紀の6世紀初頭と推定できる。その頃、ハイロックは動乱の時代だった。ディレニ王朝は断末魔の苦しみにあえぎ、ブレトンの諸王国はいずれも建国の途上にあって、まなじりを決した入植者たちの集落が、先住民に駆逐されたり取り込まれたりする前に、わずかな隙をついて足場を固めることが可能な時代った。そして、私がムザールとヤライダから聞き取ったいくつもの伝承によれば、それこそがまさにラ・ガーダがハンマーフェルにやってくる2世紀近く前、シルバーフーフ谷で起きたことだったのである。

騎馬民族がこの地にやってきた理由を確定するのは、それほど簡単ではない。というのも、話がその点におよぶと、彼らの言い伝えは伝説へと逸脱し、神話の領域にさえ入ってしまうからだ。ここで、私は彼らの一風変わった信仰について触れなければならない。なぜなら、それこそが彼ら騎馬民族の伝統とアイデンティティーの中心をなすものだからだ。知ってのとおり、彼らは古いヨクダの神々のいずれも信仰せず、その代わり、「群れの母」と呼ぶ、一種のアニミズムに基づく聖霊を崇拝している。馬の姿をしたこの存在は、部族を教え導く守護神としてふるまう。部族の青年は夢の旅路で群れの母と心を通い合わさなければならない。夢の旅路というのは、大人の仲間入りをするための一種の通過儀礼(我々に伝わるウォークアバウトの風習に似ている)であり、青年は独りでそれを全うする義務を負う。この群れの母は現在の学術研究の世界で知られていないが、言うまでもなく我々の文化的記録は膨大な量が「旧き島々」を飲み込んだ大変動によって失われてしまったのであり、そのことは踏まえておくべきだろう。

彼らは「旧き島々」で何らかの危機に見舞われた群れの母崇拝を絶やさないために、失われたヨクダを離れたというのが騎馬民族に伝わる伝承である。数多の伝説には、群れの母から賜った「泳ぐ馬の船」を連ねた船団が、アコス・カサズを出港して海を旅する様子が描かれている。船団は「17の海を渡り」、タムリエルにたどりついたのだという。荒唐無稽な話として一笑に付すのは簡単だが、ただ、彼らは自分たちが「騎馬民族」と呼ばれる由来である馬たちを故郷の島々から一緒に連れてきたと言って譲らないし、これに関して私は疑いを抱いていない。なぜなら、乗用馬の目利きである私が見るところ、騎馬民族が乗りこなしている馬がいわゆる「ヨクダ産馬」と同一種であることは疑いない。アリクルの「アスワラの馬屋」育ちだと言っても良いほどだ。

タムリス家:近年の歴史House Tamrith: A Recent History

上級王エメリック陛下のご高覧に限る!(陛下は、この種の報告書がこういうふうに書き出されるのを好まれるようですね)

タムリス家はリベンスパイアーの主に西半分に領地を有し、農業、商業、通商をはじめ、数々の権益を有しています。実際のところ、彼らが紆余曲折の末にストームヘヴンおよびウェイレストの街と強い絆を結べたのも、南部諸国との交易を成功させていたからと言えるでしょう。

リベンスパイアーの三家(タムリス、ドレル、モンクレア)の関係を特徴づける三つ巴の確執は、いろいろな意味で第一紀の末にまで遡れます。それぞれの家が富と名声の礎を築き、リベンスパイアーの繁栄に貢献していた時期です。三家のなかでもタムリス家は特に信心深く、伝統的に宗教への傾倒が盛んで、しばしばアーケイを一族の守護神と頼み、お気に入りの神として崇めていました。

よくご承知のとおり、上級王陛下はお若い頃、リベンスパイアーの2人の貴族と多くの時間をお過ごしになられました。エスマーク・タムリス男爵とヴェランディス・レイヴンウォッチ伯爵です。それゆえ、今から10年以上も前、ウェイレストとその同盟勢力がリベンスパイアーに武力の矛先を向けねばならなくなった時には、気が重かったことと推察します。当時、ショーンヘルム王ランセルはウェイレストに宣戦布告し、忠誠を誓う貴族たちに、自らの負け戦に加わるよう強制しました。本心でウェイレストに対していかなる感情を抱いていたかはともかく、リベンスパイアーの各家は王命に従い、上級王陛下に対して兵を向けたのです。

そんな中、タムリス家は早々とランセル王への支援をやめ、兵を引きあげさせて講和を請願しました。ドレル家もすぐに同調しました。リベンスパイアーの他の家に比べて弱いレイヴンウォッチ伯爵家だけは、最初から武器を取りませんでした。レイヴンウォッチ伯爵家は1年続いたその戦を通じて中立の立場を貫いたのです。一方、モンクレア家はほとんど最後までランセル王を支えました。彼らはランセル王の残存兵力が現在「裏切り者の岩山」と呼ばれる場所まで押し戻されることになる合戦の直前まで、ウェイレスト連合の軍門には下らなかったのです。

この戦が終わると、平和と協調を主導する力強い旗手として、タムリス男爵が台頭します。上級王の名においてリベンスパイアーを治める三者連合政府を樹立し、三家それぞれの当主がエメリック上級王に忠誠を誓うというアイデアも、タムリス男爵のものでした。上級王は三者連合政府をお認めになったものの、ショーンヘルムの新しい王については、機会が訪れ次第選出すると約束するにとどめられました(これをお読みになって、陛下はその約束がいまだ果たされていないことを思い出されるでしょう)。

エスマーク・タムリス男爵はエルデ家の息女ジャネスを娶り、両家の財力が合わさった結果、さらに強大な政治勢力となりました。エスマークとジャネスは2人の娘に恵まれます。実際的で思慮深いエセルデと、腕っぷしが強く姉よりもお転婆なジャニーヴです。今から4年前、エセルデはリベンスパイアーを離れました。ストームヘヴンでより高度な教育を受け、宗教に対する理解を深めるためです。ストームヘヴンに滞在中のほとんどの時間を、エセルデは上級王陛下の宮廷の客人として過ごしました。同じ頃、若きジャニーヴは(父親と姉の望みに反して)「ショーンヘルムの衛兵」に加わります。

エセルデは学問に秀で、とりわけ歴史学、政治学、外交研究、そして神学の分野に関心をひかれました。彼女はアーケイの教えと「光の道」に深い確信を示すと同時に、治癒師としても謎かけコンテストの代表としても同期生のなかで抜きんでておりました。エセルデがゆくゆくはタムリス家の当主の地位を継ぐつもりで、その準備に努めていることは、誰の目にも明らかでした。

ジャニーヴもまた、周囲の予想の上を行きました。武勇、軍略、それに戦場での指導力、そのいずれにおいても驚くべき才能を示し、めきめき頭角を現したのです。結果、特進に特進を重ね、とうとう衛兵隊長の地位にまで登り詰めました。ショーンヘルムでの軍務に加え、ジャニーヴはタムリス家の私兵団の長にも就任しました(念のために申し上げれば、戦時をはじめとする非常時において、家の私兵が街の衛兵隊と合同で国防のため単一の戦闘集団を形成することは、決して珍しいことではありません)。ジャニーヴに欠点があるとすれば、それは気が短いことと、絶えず行動したがるところでしょう。行動せずにはいられないのだと言う者もおります。

ここで、悲報をお届けしなければなりません。エスマーク・タムリス男爵が、ほんの数ヶ月前、天寿を全うしました。父親の訃報に接したエセルデはただちにストームヘヴンを発ってリベンスパイアーに戻り、タムリス家当主の跡目を継ぎました。現在、彼女はエセルデ女伯爵として、リベンスパイアーを治める三者連合政府において亡父の後任に収まっています。これまでのところ、ドレル男爵が何かと異を唱えてくるのにもめげず、彼女はみごとに務めを果たしていると言えましょう。モンクレア男爵とどのように渡り合うかはまだ分かりません。と申しますのも、モンクレア男爵はここ数ヶ月宮廷を離れ、病で臥せっている奥方の看病に専念しているからです。

いずれにせよ、何か不測の事態でも起きないかぎり、襲名間もないタムリス女伯爵の前途は洋々たるものでしょう。

上級王陛下の御為に。内務省書記、レギナ・トロアヴォア

ドゥームクラッグにまつわる不吉な伝説の数々Dire Legends of the Doomcrag

タムリス家の側近ナラナ 著

はるか昔、ドゥームクラッグと呼ばれる陰鬱で不吉な石の尖塔は、アイレイドの民が学びや信仰に身を捧げる場所だった。しかし最近では、霧と影に覆われた剣呑な道の先にそびえる、取り憑かれた場所として知られている。

これまであまり顧みられることのなかった場所ではあるが、目下にわかに関心を集めていることから、タムリス女伯爵の依頼を受け、この禁断の地にまつわる伝説をここに列挙する。

***

陰鬱な伝説の1つに、ならず者の首領レッド・ロブを追って「隠された峠」に分け入ったドレル家の女傑、「豪胆なるブリアンナ」に関するものがある。ブリアンナと配下の騎士たちは、レッド・ロブを捕えて裁きにかけ、それまでに犯してきた数々の罪を償わせるため、北部の海岸伝いにはるばる一味を追跡してきた。このならず者の仕業とされる数多の罪状には、最近ドレル家の貨物船から略奪を働いた一件も含まれていたのである。レッド・ロブにとってあいにくだったのは、その船にドレル家当主の娘、つまり男爵令嬢が乗って旅をしていたことだ。怪我を負ったうえに屈辱を味わわされた令嬢は、レッド・ロブの首級を望み、「豪胆なるブリアンナ」を捕り手として差し向けたのだった。

さて、ブリアンナが「隠された峠」の鳥羽口にたどりついたとき、配下の騎士たちは一人残らず殺されるか深手を負っていた。彼女が頼みにできるのは自分だけというありさまだった。ただ、レッド・ロブもまた似たような状況だった。仲間をみな失った彼は、ブリアンナを振り切るため、独りで濃い霧のなかに飛び込んだ。ブリアンナも「豪胆」の呼び名に恥じず、躊躇なく後を追う。それ以来、2人の姿は二度と見られることがなかった。

けれども、その地方に住む人々に言わせると、空気の冴えた寒い夜、空を突いてそびえる石の塔を赤い霧が薄く彩るとき、剣と剣を打ち合せる音が聞こえるのだという。ブリアンナとレッド・ロブが丁々発止の闘いを今も続けており、それは永遠に終わることがないのだと。

***

ドゥームクラッグにまつわる伝説でよく知られているものとしては、もう一つ、聞く者をやや落ち着かない気持ちにさせるかもしれない話がある。恋に破れ、この石の塔の頂で憔悴していったアイレイドの女性の話だ。とある貴族の屋敷で執事を務めるハンサムな男性にふられた彼女は、ドゥームクラッグの頂上に登って籠城を決め込んだ。友人と家族は、彼女を元気づけて塔から降りてこさせようと、あれこれ手を尽くすのだが、それでも、傷心の彼女は懇願や慰めの言葉にいっさい耳を傾けようとしない。そしてとうとう苦しみに耐えられなくなり、ドゥームクラッグからはるか下の海に身を投げてしまう。

けれども、この悲しい物語はそこで終わらない。今でも人々は信じている。ハンサムな旅人が不用意にドゥームクラッグに近づきすぎれば、恋に破れたアイレイドの女性の注意を引いてしまう恐れがあるのだと。いわく、彼女の安らげぬ霊魂が疾風のように降りてきて、不運な旅人をさらい、石の塔の頂に運んで慰みものにするのだという。しかし、どんなに辛抱強い囚われ人も、最後にはアイレイドの女性の霊を拒み、肘鉄をくわすことになる。寂しい夜、重なり合う2つの悲鳴が聞こえてくるかもしれない。それは、アイレイドの女性の霊がまたしても海に身を投げ、いちばん新しい恋人を水の墓地へ道連れにしたことを意味しているのだ、と。

***

しかし、ドゥームクラッグにまつわる伝説で最も人口に膾炙しているのは、なんといっても「歩く死」の話だろう。そしてこの伝説に限っては、始めから終わりまで、恐怖譚というよりはむしろ用心を促すための教訓話と呼ぶほうがふさわしい。この伝説は言う。「隠された峠」を辿ろうとする者は誰であれ、否応なく自らの死を目指して坂をのぼることになるのだと。なぜなら、一歩歩みを進めるごとに、寿命が1年縮むからだ。年齢や健康状態によっては、濃い霧のなかに入ってほんの数歩進んだだけで死が訪れることもありうる。逆に、人並み外れて幸運な者であれば、「隠された峠」を登り切り、頂に到達できるかもしれない。噂に聞く、宝物庫に足を踏み入れることができるかもしれないのだ。ただそれでも、結局「歩く死」に追いつかれることは変わらない。

いずれにせよ、避けられない死に向かって進める一歩には、それなりの苦痛と衰弱が伴う。この伝説こそ、他のどの伝説よりもドゥームクラッグを神秘のベールに包んできた原因と言える。なぜなら、この話の真偽を確かめようという勇気の持ち主が、ほとんど現れないからだ。

自分の原稿を読み返してみると、なぜタムリス女伯爵が幼いころドゥームクラッグを怖がったか察しがつく。正直、いい歳をした私でさえ、こういった伝説には恐怖を覚えずにいられないのだから。

ノースポイント:その評価Northpoint: An Assessment

ノースポイントと街で随一の権勢を誇るドレル家に関するこの報告書は、上級王エメリック陛下じきじきの命により、丹念な調査を経て作成されました。私こと内務省書記レギナ・トロアヴォアは、個人的にこの努力の成果を査読し、そこに盛られた情報が正確であることを保証するものです。

まず、背景を知るために歴史の講義を行いましょう。ノースポイントは第一紀の9世紀、ダガーフォールからソリチュードに至る夏季航路を行き来していた冒険的なブレトン人の交易商、イリック・フロウディス船長によってその礎が築かれました。一帯の海岸は理想的な港を築くには適していないものの、周囲の水深が深く、大型船も難なく航行できました。また、交易路沿いに位置することから、商人が再補給し、船の修繕を行い嵐をやり過ごすにはちょうど良い中間点でした。この二点に着目したフロウディス船長は、投錨地として最も適したノースポイントに最初の船着き場を築き、そのまま港の名前としました。

船着き場を建設して間もなく、フロウディス船長は次第に大きくなってゆく寄航港の東にあるドレ・エラードの丘に、防壁をめぐらせた小さな砦と倉庫を建設させます。ほどなくして街は活気にあふれるようになり、自分の投機的事業が成功したことを確信したフロウディス船長は、この丘の名前を新たな姓として名乗ることにしました。それ以後も彼とその一族は海運事業を成長させ、同時に港とその周辺の土地で開発と投資を行い、ついには農民に土地を貸し出すことで新たな収入源を確立したのです。

第一紀の大半を通じて、ドレル一族は活動的で企業家精神に富んだ豪商の典型として、ハイロックに大いなる繁栄をもたらしました。第一紀の1029年、女帝ヘストラがハイロックを「最初の帝国」に併合したのを機に、ドレル家は男爵家に叙せられました。以来、ドレル家の財力とノースポイントの富は、北西海岸の沿岸貿易の消長と運命を共にしてきたと言えます。

24世紀、財力と権勢を伸張させ続けたドレル家は、数世代にわたってショーンヘルムの王位を保持します。この栄光が、その後何世紀ものあいだドレル家の自己認識を彩り続けました。それ故にこそ、今でも彼らにはリベンスパイアーの真の指導層の一翼を担っている自覚があるのです。そして、かつて王座に君臨していたという事実は、彼らに政治的陰謀への嗜好を植えつけました。それがただでさえ野心的な本来の性向と相まって、彼らを無視できない存在にしています。現在の当主アラード男爵は、ランセル王亡きあとリベンスパイアーを統治する三者連合政府の一角を占め、権勢をほしいままにしています。モンクレア家とタムリス家の当主たちと共に上級王へと忠誠を誓うアラード・ドレルは、いつの日かただ1人のショーンヘルム王としてリベンスパイアーを統治する権利を手中に収めたいと考えています。

近年、海運と交易を牛耳る雄として、ドレル家の存在感は抜きんでています。当主が宮廷事情に疎くならないように、わざわざショーンヘルムに男爵(または女男爵が)住まう広壮な邸宅を構えてもいます。ノースポイントの屋敷は一族郎党に任せているものの、所領の管理は依然として宗家の専権事項のままです。現在、当主アラードの息子で若年ながら有能なエリック卿がノースポイント周辺の領地を管理し、男爵自身は宮廷で三者連合政府の一翼を担っています。

ドレル家は軍事と政治の両面で抜け目がないうえ、伝統的に商業に力を入れてきた甲斐があって、その財力はリベンスパイアーで稀に見る水準に達しています。ドレル家はソリチュードの商人たちとの結びつきを深めてきましたが、これは彼ら自身が懸命に指摘するように、武力を用いた威嚇とは何ら関係がありません。ドレル家にしてみれば、単に商売として引き合うだけのことです。

三者連合政府を形成するリベンスパイアーの三家を私なりに研究した結果、モンクレア家はほとんど信用に値しないという結論に達しました。彼らと関わる際には、どのような状況であれ警戒を怠らないことをお勧めします。彼らが真に忠誠を捧げているのは、彼らの野心だけです。一方ドレル家は、野心的であることに変わりはないものの、ある程度の名誉の概念、そしてモンクレア家(ランセルの後裔だということを過度に誇っているように見える者たち)が稀にしか示さない愛国心を持ち合わせているように見えます。タムリス家はどうかというと、彼らは常にウェイレストの忠実な友でした。もっとも、現在の女伯爵は当主の地位に就いたのが比較的最近ということもあり、今以上に大きな責任を負う用意はできていないかもしれません。

リベンスパイアーの狂血鬼Bloodfiends of Rivenspire

タムリス家の側近ナラナ 著

このところリベンスパイアー全土に出没するようになった狂血鬼について、調べられるだけのことを調べよと仰せつかった。この生物は一見、過去に我々が観察してきた他の狂血鬼とまったく変わりがないように見える。しかし、さまざまな点が似ている一方で、1つだけ重大な違いがある。それは、彼らが吸血鬼の周期の終わりにではなく、始めに現れるという点だ。

このプロセスは、長くつらい潜伏期間の終わりに現れるのではなく、恐ろしいほど短い時間内に、ごく普通の人々を凶暴な怪物に変えてしまう。まるで、驚くべきスピードで感染者の体を溶かしてしまう血液性の熱病のようだ。触媒に接触した者が全員発症するわけではないが、発症すれば吸血鬼に(稀に)なるか、短時間で全ての狂血鬼の特徴である狂乱状態に陥る(ほとんどはこちらの経過をたどる)。

調査したところこれらの狂血鬼は、どうやらモンクレア家の宮廷魔術師であるアルゴニアンのリーザル・ジョルと、ワイロン・モンクレア男爵のレディ・ルレラヤ・モンクレアに関わりがあることが分かってきた。その2人はモンクレア家の兵を率いてリベンスパイアーを転戦しているが、旗下の兵のなかには吸血鬼も混じっている。噂によるとリーザル・ジョルとルレラヤは、何らかの邪悪な魔術、血の呪いのおかげで、単に一瞥し、手を振り、二言三言つぶやくだけで、ごく普通の人々を狂血鬼に変えてしまう能力を手に入れたのだという。もっとも、数々の目撃情報は贔屓目に見ても錯綜しており、こうした主張はまだ完全に裏付けが取れたと言えない。

過去に我々が対処してきた他の狂血鬼同様、リベンスパイアーの狂血鬼も正気を失った吸血鬼である。彼らの精神は回復不能なほど退化し、動くものと見れば見境なく襲いかかる。まさに骨と血に飢えた、残忍で暴力的な獣と言うほかない。この「血の呪い」は、異常な速さで進行する。いったんこれに取りつかれるや、ほんのわずかな時間で凶暴化した人々の例は、それこそ枚挙にいとまがない。リーザル・ジョルとルレラヤがいかにしてこの恐ろしい力を身につけたのかは詳らかでない。分かっているのは、2人がどうやらオブリビオンの力に頼って、モンクレア男爵のリベンスパイアー平定を支援しているということだ。

この「血の呪い」は例外的なものではあるが、リベンスパイアーの狂血鬼の習性は彼らの同族と変わらない。理性を欠いたこの凶漢たちは、犠牲者に自らの苦しみを伝染させる能力を持ち、しばしばそれを行使する。リベンスパイアーの狂血鬼に傷を負わされるか殺されるかした者が、それこそ瞬く間に狂血鬼に変貌してしまう確率は、相当に高い。

さらなる情報が集まるまで、リベンスパイアーの狂血鬼に関して私が推奨できる行動指針は1つしかない。滅ぼすべきだ。

レイヴンウォッチ伯爵家からの布告House Ravenwatch Proclamation

理解を求める者たちに告ぐ。

掴まえ所がなく古い貴族の家が、分かりやすく目標を公開することなどないとお考えだろう。そう考える者がいても不思議はない。しかしながら、故郷と味方に不和という災厄が訪れた今、明敏とは言えぬ者達のために旗幟を鮮明にしておくべきだと考えた。

レイヴンウォッチ伯爵家にとっての最優先課題は、いにしえの昔からリベンスパイアーに巣食う邪悪な存在を滅ぼすことだ。それは数々の名前で呼ばれている。アバガンドラ、ロラダバル、そして現在においては「光なき名残」。はるかな昔から、幾世代もの学者たちが、このアーティファクトを理解しようと努めてきた。しかし、理解など土台無理な話だ。それはムンダスに取りついた疫病であり、駆除する他はない。

レイヴンウォッチ伯爵家の第二の目標は、「光なき名残」の力を利用しようとする不心得者たちの野望をくじくことだ。モンクレア男爵の美辞麗句と「熱烈な愛国心」とやらに騙されてはならない。彼は「光なき名残」の力に屈し、リベンスパイアーの美しい郷土を破壊することをもくろんでいる。我々がなぜそれを知っているかというと、モンクレア男爵が「光なき名残」の力に取りつかれたとき、その場に居合わせたからだ。

我々はどちらかというと日陰を好む。本来、旗振り役を自ら買って出る柄ではない。しかし、事態は切迫している。もはや手段を選んでいる余裕などない。どうか知っておいてほしい。リベンスパイアーがいかなる脅威に直面しているにせよ、諸君だけが矢面に立つわけではない。我々が諸君の味方をしよう。レイヴンウォッチ伯爵家はエメリック、そしてリベンスパイアーの善良なる民と共にある。

レイヴンウォッチ伯爵家当主、ヴェランディス

光の名残The Remnant of Light

アイレイドの書
〈告げ示す者〉ベレダルモ 訳

その血の刹那(または永劫)のうちに、アヌマリルはフィレスティス(卿)に「光の名残」(アウタラク・アラタ)を届け、それをタムリエルの「太陽が沈む寒い果て」(ファル・ソーン・グラセ)に運んでほしいと頼んだ。気高いフィレスティスは「光の名残」を受け取ると、クラン(または家畜)を引き連れてクワイロジル(?)を離れ、はるかな地へと旅立った。常に夕日をいちばん左の目で見るようにして旅を続けるフィレスティスの後ろを、アイレイドの移民たちがついてきた(または追ってきた)。

一行は「冷たい岩の大地」にたどりつき、泳いで岸にあがった(打ちあげられた?停泊させられた?)。岩は冷たく硬かったが、「光の名残」が全てを肥沃に(またはうごめくように)してくれた。移民の多くは健康を損なったが、「光の名残」のおかげで岩(または山々)に食用石(クレ・アンダ)がなるようになり、これは美味なだけでなく治癒の効果もあった。

フィレスティスは「冷たい岩の大地」全体に「光の名残」が微笑む(輝く、ぬくもりを広げる)ことを望んだ。そこで、今や光輝に力づけられた移民たちが山(または峰)を隆起させ(または削り取り)、「光の名残」をその上に置けるようにした。これは、880刹那(または永劫)のうちに照合(?)された。すると、「冷たい岩の大地」にはあまねく食用石がなるようになり、移民たち全員が健やかに(または多産に、あるいは賢く)なった。

時は過ぎ(何ヶ月もが無為に過ぎ)、気高いフィレスティスは死の(餌食に)なった。すると、移民たち1人ひとりが涙にくれ、その涙で青く澄んだ湖ができた。けれども、フィレスティスの配偶者が彼を「光の名残」がある山(または峰)に連れていった。すると、フィレスティスは光輝に力づけられ、さらに8コーラスを踊った。

北部の王宮都市、ショーンヘルムShornhelm, Crown City of the North

第39代モンクレア男爵、ワイロン卿 著

マルクワステン・ムーアとショーンヘルムの高地に住むブレトンの民には、繰り返し物語に語られる長い歴史があり、誇るべき事績には事欠かない。伝説の時代にあった「巨人族の捕縛」、「太陽が死んだ年」の「ウィルド・ハグの粛清」(これにより、ムンダスの空という空がマグナスを取り戻した)、「グレナンブリア湿原の戦い」における「モンクレア騎士団の突撃」(しばしば誤って「ショーンヘルム騎士団の突撃」と呼ばれる)等々…

こうした波乱万丈の歴史を経ながらも、終始リベンスパイアーの民草は幸運であった。恐怖が支配する時代も勝利に沸く時代も、常にモンクレア家の当主によって巧みに導かれてきたからである。

モンクレア家の当主が常に天命を授かりショーンヘルム王としても君臨してきたかというと、必ずしもそうではない。しかしながら、モンクレア家が備える数多の美徳のなかには謙譲の精神もまた含まれる。ことを丸く収めるために、歴代の当主たちが自分よりも王位を主張する根拠が弱い者たちに、自ら進んで即位の権利を譲ることも少なくなかった。この謙譲の精神を発揮しすぎたことによって時に悲劇が起きたことは、我が父にして第38代モンクレア男爵たるフィルゲオンの例が、悲しくも証明している。

ブレトンの歴史を学ぶ者であれば誰しも知るとおり、レマン皇帝亡きあとの最も偉大なショーンヘルムの君主といえば、「グランデン・トールの戦い」で我が軍を率い、第二紀522年より北部を治め、在位のまま同546年に身まかったハールバート王をおいて他にない。ハールバートはブランケット家の出で、第21代ブランケット伯爵であった。そして妃には、モンクレア女伯爵イフィーリアを迎え入れている。ハールバート王崩御のみぎり、正嫡のフィルゲオン王子はわずか14歳と幼く、その王位継承権にはモンクレア家の後ろ盾があったにもかかわらず、ブランケットとタムリスの両家はフィルゲオン王子の異母兄に当たるランセル王子を支持した。ランセル王子はタムリス家の血筋に連なる病弱な女性とのあいだに生まれた庶子であった(ドレル家は例によって争いから距離を置き、どちらの候補に肩入れすることも拒んだ)。

ランセル王子がフィルゲオン王子を抑えてショーンヘルムの王位に就くまでに、どのような裏工作が行われていたかは、あまりよく知られていない。若きモンクレア男爵の顧問官たちは(男爵の母君はハールバート王よりわずか2年早く逝去していた)、正嫡であるフィルゲオン王子こそが王位の正当な継承者であると主張した。これには、かの有名な「ブレトン出生録」の補遺による裏付けもあった。その補遺は、「マウント・クレール家」こそがショーンヘルムの王統であると明言していたからである。複数の王位請求者たちの正統性を審議するため北部評議会が召集されたが、この審議が続いているさなか、モンクレア家の顧問官たちはブレトン出生録補遺が紛失しているのに気づく。一方ランセル王子は、長らく行方知れずになっていたという(いかにも胡散臭い話だが)「ディレニの勅書」なる古文書を持ち出してきた。それには、リベンスパイアーにおける「ブレトン王家の代理人」として、ブランケット家が指名されていたのである。

やがて評議会で投票がおこなわれ、ランセル王子が僅差で勝利をつかみ、ショーンヘルム王ランセルとなった。フィルゲオン王子の顧問官のなかには一戦交えても王位を争うべきだと主張する者もいたが、若い王子はこれを拒み、ただのモンクレア男爵となる道を選んだ。

そのような謙譲の精神が、どれほど裏目に出たことか!フィルゲオンが評議会の決定に唯々諾々と従った結果どのような事態を招いたか、我々はみな知っている。すなわち、566年の一連の悲劇、そして、第一次ダガーフォール・カバナントに対する反乱である(我々にとっては恥ずべきことだが、この反乱は「ランセルの戦争」として知られる)。標準的な歴史によれば、モンクレア、タムリスはもちろん、ドレルまで全ての家がランセル王の召集に応じ、エメリック上級王と南部を敵にまわした彼の致命的な戦争に兵を出したことになっている。このとき、ランセルの掲げる大義の正当性に確信が持てなかったモンクレア伯爵フィルゲオンが、ランセル王とエメリック王に対して、両陣営のあいだを取り持つ和平特使になろうと申し出たことはあまり知られていない。これに対してエメリック上級王がどのような返事をしたかは歴史の闇に埋もれてしまったが、ランセル王が激怒して言下に拒絶したことはよく知られている。我が父は再び異母兄に服従し、結果、モンクレアの騎士たちは滅びる定めにあったランセルの軍に加わったのであった。

ランセル王が陣没すると、リベンスパイアーはたちまち混乱状態に陥った。ショーンヘルムの王冠は「裏切り者の岩山の戦い」で行方知れずとなり、ランセルを玉座につかせるために決定的な役割を果たした「ディレニの勅書」もそれ以来目にされていない。ランセルの死によってブランケット家の血筋は途絶え、以来、ショーンヘルムの玉座は空位が続いている。リベンスパイアーは現在、三者連合の北部評議会によって治められている。評議会は北部諸州の平和と秩序を維持すべく誠心誠意努めてはいるが、本音が許されるならば、彼らの努力が充分だと言う者は誰もいまい。ショーンヘルム、および北部には王が必要なのだ。

そもそも、なぜ北部に王がいてはいけないのか?腹蔵のないところを言わせてもらえるならば、モンクレア家伝統の謙譲の精神はひとまず、いかに残念であろうとも脇に置いてこう言わねばならない。モンクレア男爵ワイロン卿たる私こそが、ショーンヘルムの玉座につくべき正統なる継承者なのだ。我が祖父はハールバート王その人であり、私はその正嫡の系譜に連なる直系の後裔に他ならない。これは、北部広しと言えども、私の他に誰一人掲げることのできない主張である(このことはまた、ブランケット家の領地を継ぐべき唯一の存命相続人たらしめてもいる。当該領地の大半は不公正にもタムリス家とドレル家によって分割され…いや、これ以上は言うまい。謙譲。常に謙譲の精神を忘れてはならないのだから!)

さらに言うならば、この決定的な局面において、次の事実を公表できることを幸運に思う。すなわち、長らく行方知れずだった「ブレトン出生録補遺」がモンクレア家の歴史家によって発見されたのである。その中から、重要なくだりをここに引用しよう。

「…当時シャーン・ヘルムとその隣接地域においては万事が秩序のうちにありしことに鑑みて、いと気高くも高貴なる…(判読不能)…はマウント・クレール一門に…(判読不能)…並びにシャーン・ヘルムの統治…(判読不能)を永久に付与せんとする。かくあらしめよ」

リベンスパイアーの民に告ぐ。モンクレア男爵ワイロン卿は自らの務めを果たす用意がある。

伝記集

Biographies

アイレン:不測の女王Ayrenn: The Unforeseen Queen

アルドメリ礼儀作法大学のタニオン学長 著

当大学のボズマーおよびカジートの生徒の中には、美しい我らがアイレン女王の下に団結するのはすべてのサマーセットのアルトマーではないと誤解し、流言を繰り返す者がいる。それはまったくの嘘である!我々ハイエルフには、古くからある洗練された文化に新たに触れた者には時に勘違いされてしまうような、「しゃれ」や言葉の軽妙なやりとりを好む習慣がある。私はこの件を解決するべく、我らが敬愛するアリノールの女王についてアルドメリ・ドミニオンの新たな仲間にも理解してもらえるように、簡素かつ率直に紹介することを目的に、この簡潔な入門書を整理した。

アルトマーはニルンを創造した神々からの連綿とした子孫であることは当然のことだ。アリノールの王族に関しては、特に当てはまる。威厳ある名を残したアイレンの父ヒデリス王は、サマーセット諸島を長い間うまく統治し、エルフの儀式制君主政治において最良のやり方を例証して、下す決断はすべてプラキスの書に制定された判例を基盤とした。

やがてヒデリス王とその妻の公女トゥインデンは書が定めるとおりに子を儲け、そしてプラキスが決定づけたとおり、その子をアイレンと名付けた。アイレン王女が生まれた第二紀555年の栽培の月5日は吉兆に満ちた日だったが、その重要性を完全に理解するための背景が不足しているだろうから、理由については割愛したい。しかし、サマーセット、オーリドン、アルテウムの全島民が、王女の誕生を55日間にわたって祝ったということは信じてくれて良い。

アイレン王女は自分が生まれてきた、騒然とした落ち着きのない時代を反映すると予言されたが、そのとおりになった。頭の回転が早く勘がいいアイレンは、家庭教師の授業を早々に極め、学業においても若年から型破りな方法で取り組んだ。実際に時折、独自の研究に没頭しすぎるあまり、何日も居場所がわからずにいたこともあった。野外に出かければ際立った知識を身につけて戻り、卓越した新しい技能を披露した。

573年の星霜の月のある日、アルトマーの王政プラキスと儀式制君主政治を必ず3555日間学ぶ大学であるサピアルチの迷宮への入学が許可されたアイレンを祝うため、アリノールの全王族が水晶の塔に集まった。だが、アイレンは現れなかった。王女は宮殿と塔の間のどこかで姿を消し、司法高官による第十七段階の捜査にもかかわらず、どこにも見当たらなかった。しかしサピアルチの迷宮は、アイレンの失踪した夜は兆候と前兆に満ちていたと報じた。淑女座が駿馬座に乗っているかのように見え、大天球儀は反対に廻り、幼い鷲のヒナが探検家トパルの像の上で見つかった。

その結果、アイレンの弟の内もっとも年長だったナエモン王子がアリノール王の後継者として指名され、575年に迷宮へ入学した。ナエモンは自分の父親同様生まれながらの儀式制君主で、後継者のしきたりによって決定する慣習や任務を心から享受しているようだった。ヒデリス王が580年にエセリウスに上がった時も、ナエモン王子は父親の地位へと昇進する八十日の即位の典礼を表明する準備を即座に始めた。

その後、予告もなしにその不測は起きた!大陸にあるポート・ヴェリンから、アイレン王女が白鳥型の船でオーリドンに向かう途中であると便りが来たのである!驚きあわてたアリノールの宮廷は王女を出迎えにファーストホールドへ向かい、王女の予期せぬ帰還を歓迎するために間に合うよう到着した。アイレン王女は最年長の後継者としてアリノールの王座を引き受ける準備ができていると発表し、最高司法官はそれが確かに王女の権利であることを認めた。580年降霜の月7日、王女はアイレン女王として即位した。

さて、諸君の中には、アイレン王女がサマーセットにいなかった間に経験した、冒険に関する数々の面白い話を聞いたことがある者がいるかもしれない。一等航海士としてアンヴィルの海賊船長と共に航海したとか、ネクロムの宝物庫でインディゴの書を読むためにダンマーに変装したとか、リハドの修道僧に刀剣の舞いで打ち勝ったとか、ハチミツ酒飲み比べコンテストで、ウィンドヘルムの炎の髪のマブジャールン女王よりも飲んだとか。断言するが、全ての俗説や噂は実にばかげているし、非常にふざけている。我らが女王は単にご自分のやり方で独自の研究を行い、プラキスと儀式制君主政治の準備をしていて不在であっただけの話だ。

王座を継承してからというもの、女王はこの地の規則を改変させた。ただ、それは女王の吉兆な誕生の時に予言されたとおりで、サピアルチは誰もが近代化を支持した。であるからして、諸君。アイレンは島々の女王であることは明白であり、すべてはそうあるべくして正しく、当然のことなのである。

スカルド王ジョルンJorunn the Skald-King

ウィンドヘルムの吟遊詩人、リュート・ボイスのヘルグレイル 著

第二紀546年に炎の髪のマブジャールン女王のもとに生まれたジョルン王子は、姉のナルンヒルデが即位する宿命にあるということを理解し育った。人間の声が持つ力をあがめる文化において稀に見る歌の才能を見せたジョルンは、リフテン外部に位置するゴールド島にある、スカルドの静養所で学んだ。彼はそこで、東王国で最も名高い吟遊詩人らから学べる限りのすべてのことを教わった。ジョルンは、スカイリムの「スカルド王子」と呼ばれていた。

ジョルンはほとんどの青年時代を芸術や哲学的探究に費やし、東スカイリム全域と、それを越える地域から実に様々な芸術家、職人、演者を育てた。モーンホールド、ストームホールド、サッチ、エリンヒルで過ごした彼だが、西スカイリムの首都であるソリチュードを変装して訪れたという噂まである。また、政治や統治に興味はないと主張していたが、生まれ持った指導力のおかげで、どんな独創的な分野に身を置いてもリーダー的存在となっていた。戦闘と武力行使の策謀に関して受けた正規の教育はほんのわずかだった(といっても、ノルドの王子が何とか習得できるほどのわずかさだが)一方で、タムリエル全土を旅するのはいつでも危険な行為であった。旅をすることで、彼は問題への対処法を正統ではない方法で学んだのである。

第二紀572年にアカヴィリのディル・カマルがスカイリムの北東海岸を襲撃した時、ジョルンはリフテンにいた。ジョルンと彼の親しい仲間による「吟遊詩人団」は戦いながら海岸を進み、ウィンドヘルムへ到着したのは、アカヴィリによってその門が破られるまさにその時であった。ジョルンは戦いに身を投じ、それなりに慣れていた市街戦に加わったが、街の陥落も、戦いに向かったマブジャールンと「短命の女王」となってしまったナルンヒルデの殺害も防げなかった。

負傷し、精神的にもひどく落ち込んだジョルンは、ウィンドヘルムの略奪をどうにか無事に逃れた。王家生まれの責任を初めて感じた彼は、グレイビアードに援助を訴える決心をして、隠れながらも大急ぎでハイ・フロスガーへと向かった。その理由は明らかになっていないが、グレイビアードはスカルド王子に、ソブンガルデから英雄を召喚し、召喚者の言葉のために戦うスームを教えた。しかしジョルンの声では、スームは王家の勇気の呼び声となってしまい、召喚される英雄は灰の王、ウルフハース以外にいなかった。

今やスカルド王の称号を共に得たウルフハースとジョルンは東スカイリムのノルドを再結集し、リフトと、イーストマーチの外側領域から兵力を集め、その後リフテンを要塞化した。ウィンドヘルムから南に移動したディル・カマルが目にしたものは、ウルフハースの存在に触発されて怒ったノルドがリフテンを守り、しきりに戦いたがっている姿であった。それを見たディル・カマルは、レッドマウンテンの戦い以来、初めてリフテンを迂回してモーンホールドへ前進を続けた。アカヴィリの指揮者が立ち去るのを見て喜ぶだろうと考えたからだ。

その選択は致命的な誤りだった。ジョルンとウルフハースは兵を率いてアカヴィリ部隊を追跡し、ノルド軍はレッドマウンテンの戦い以来、初めてモロウウィンドに入った。アカヴィリ軍はストンフォールで、ノルドとアルマレクシア率いるダンマーの軍団の間で捕まった。大規模な戦いの行く末がどちらに転ぶかは不明であったが、爬虫類の魔闘士3人が率いる、アルゴニアン・シェルバックの部隊が予期せぬ介入を行ったことによって決着した。アカヴィリの戦線は突破され、海へと追いやられた彼らは、数千人単位で溺れ死んだ。

目的を果たした灰の王はソブンガルデへと帰っていった。3週間後のウィンドヘルムでは、ジョルンが王の宮殿の王座の間にて、上級王に即位した。

皆に対して情け深いファハラジャード王The All-Beneficent King Fahara’jad

第一章:立派な青年時代

ああ幸福な読者よ。センチネルの王座まで上り詰めた立派な話を始めとする、国王陛下の非常に恵まれた人生の話を、そして陛下の数えきれない長所と美点の列挙を、いかにして語ればよいのか。

ああ、敬愛する読者よ。我らが吉兆の王の家は貴族であり王族でもあるが、父はジャフルールのマカラの子孫、まさにアルアザル上級王の子孫である。同様に、母の先祖は、最も威厳ある名と功績を残したジゼーンをはじめとする、アンチフィロスの大公である。いかにもジゼーン大公に関しては、あまりにも誠実だったために、婦女の浴場に誤って入ってしまった際、直ちに自分の目をくりぬき、みだらな行為を未然に防いだという逸話が、詩人ベロウズによって伝えられている。

(アルアザル上級王については、知りたがり屋の探検家が「立派なアルアザルの偉業」の書を探している)

さて、皆に対して情け深いファハラジャード王がまだアンチフィロスの王子だった頃、ある日大公の庭で象牙の弓を使って野鳥狩りをしていると、大カラスがイチジクの木に止まったのを見た。するとファハラジャード王子は、「我はこのカラスを、オンシのまばゆい刀剣にかけて殺害せん!」と誓った。そうして王子は象牙の矢を象牙の弓につがえて放った。見よ、それはカラスの目に命中し瞬時にして死んだ。

その時、空から忌まわしいハグレイヴンが辛辣な呪いをもって落ちて来た。「そなたは我が愛情を注いだ子を殺したがゆえ、死なねばならぬ!その目を引き抜き、葡萄のように食らってやろう!」と叫びながら、若き王子を汚れたかぎ爪で脅した。そして大きな叫び声をあげながら、王子の眼球を引っかいた。

すると、天から金の光の筋が照らされ、永遠に壮大なるオンシがまるでまばゆい刀剣の上を闊歩するかのように降りてきて、「待て、悪魔の生き物よ」と叫んだ。そして、ハグレイヴンのカラスをひょうのように地面に落として打ち負かすと、彼女も同様に倒れ、神にひれ伏して情けを請い始めた。オンシは、「嘆願しても無駄だ。金切り声のうるさい女め。お前は我が特別に大事に育て守るべき運命の王子を脅かした。この貴族の青年ファハラジャードは、長年にわたる危難において人々を導く予言を与える者であるゆえ、お前は死なねばならぬ」と言って、ハグレイヴンの首をはねた。

ひどく驚いた王子は両目を覆い、もう一度見てみた時には、神もハグレイヴンもいなかった。それゆえ自分の目を疑った王子は聖堂へと急ぎ、オンシの司祭に起きたことをすべて話した。そして、司祭は王子が見たことは真実であると判断した。これが、第一の王室の予言であった。

君主の勝利、第三章Triumphs of a Monarch, Ch. 3

第三章:ダガーフォールの門にて

グランデン・トールの戦いの十数年後、平和だったハイロックの王国では、ウェイレスト、ダガーフォール、センチネルの商船がタムリエルの全港の遠くや近くで商売をしていた。ウェイレストにある父の商売の間では、配送した荷の追跡、収支バランス、通貨の変動を学んだ。だが、カンバーランドのピエリックは世界の本質を知っていて、自分の息子に単に平和と商売のやり方だけを学ばせても満足はしなかった。毎日朝にはカンバーランドの戦闘の達人とスパーリングし、昼は天気の許す限り軍馬に乗ってメネヴィアの重装竜騎兵と運動した。それはただの練習ではなかった。毎年夏の2ヶ月間は馬に乗ったエバーモア・キャラバンの護衛団の副官として旅に出て、山賊やゴブリンの襲撃者、リーチの民の部隊を片手では数えきれないほど撃退した。

私がまだ20歳だった第二紀541年、ブラック・ドレイクのダーコラクがリーチに勢力を広げ、野蛮な部族民を戦争に招集した。武器を長く手にしていたのは幸運なことだった。蹴られた蟻塚の蟻のように山の隠れ家から噴出してきたリーチの民は、雄叫びを挙げて略奪をしながらバンコライへと突入した。わずか3日の包囲の末、エバーモアはこの軍勢の手に落ちた。土地は略奪され、人々は大量に虐殺された。ホーリンズ・スタンドは比較的長く抵抗したが、最終的には異教徒の軍勢によって占領されてしまった。ビョルサエの向こう側にいる彼らは、数日のうちにウェイレストに迫ると思われた。

その頃は街が大きくなったせいで古い壁が限界に来ており、ガードナー王がウェイレスト周辺に新しく壁と胸壁を建てたことを皆が喜んでいた。地方から大勢の人が殺到してきて、街の壁の中にメネヴィア、ガヴァウドン、アルカイアが全て入っているように見えた。しかし、ウェイレストにリーチの民の嵐が突如現れると、その混雑もデイドラを愛好する異教徒の怒りから自分たちを守るための、小さな犠牲のように思えた。

このようにして、叙事詩にあるウェイレストの包囲が始まった。ストームヘヴンのブレトンは恐ろしい敵の攻撃から57日間壁を守り抜いた。攻城兵器が不足していたリーチの民は、新しい壁を破壊することも街を略奪することもできなかった。また、船が不足していたため、港を封鎖することも、街を飢えさせて人口を減らすこともできなかった。手詰まりだ。ダーコラクによるハイロックの侵略は終わったのか?

いや、そうではなかった。恐れなき凶暴なリーチの戦士は、そこまで我慢強くはなかった。ブラッド・ドレイクは、我々を中に閉じ込めておくよう壁の周辺にある護岸に十分な軍勢を残し、あっさりとグレナンブラへ去っていってしまった。奇襲を受け、新たに独立した都市国家カムローンが陥落して略奪された。そしてその後、ダーコラクは南へ、ダガーフォールへとその目を向けた。

幸運にもガードナー王が、重装竜騎兵を輸送するために我々の商船を使用するという助言に耳を傾けてくれた。それがきっかけで、ウェイレスト最高の槍騎兵を引率し、ダガーフォールの街門の前で固まっていたリーチの民の背後から突入した。ブラック・ドレイクの戦士がいかに完全な不意打ちを受けたか、私がどのようにダーコラクを倒して奴の不浄な旗を引き下ろしたか、ブレトンは皆知っている。我々が始めた仕事をベルガモット王のダガーフォール騎士が終わらせ、強風の前の秋の落ち葉のように破れた異教徒軍を追い散らしたことを、ブレトンは知っているのだ。

その後たったの2週間で、ダガーフォール、カムローン、ショーンヘルム、エバーモア、そしてウェイレストの王たちが最初のダガーフォール・カバナントに署名したところを、私は頭を伏せながら見ていた。

君主の勝利、第六章Triumphs of a Monarch, Ch. 6

第六章:ランセルの戦争——ウェイレスト包囲

第二紀563年は重大な年だった。ウェイレストの国王に即位してから、王妃を誰にするかが私と側近の関心事だった。ショーンヘルムのランセル王にラエレ王女という美しい娘がいて、ショーンヘルムにいる私の仲間がその娘をしょっちゅう私に勧めてきた。実際に、私はショーンヘルムの王女を受け入れる決心をほぼしていたが、センチネルを訪れた際にファハラジャード王の娘、マラヤ王女を初めて見た時に気持ちが変わった。その瞬間から、マラヤ以外にウェイレストの女王はいないと誓った。もちろん、他にも予期せぬ利点があった。彼女が持参金として2つの国の通商協定を持ってきたおかげで、皆が大きく繁栄したのだ。

悲しいことにランセル王は娘の手を取らなかった私に激怒し、ウェイレストの宮廷にいる大使を召喚した。566年の春、私とマラヤの結婚式にはランセルを招待したが、彼はカバナントの他の王たちと同様に、ショーンヘルムにとどまって怒りで煮えくり返っていた。

おそらく私はランセルの機嫌の悪さにもっと注意を向けるべきだったが、新しい花嫁と、イリアック湾界隈での商売の問題に夢中になりすぎたために、山地のショーンヘルムは遠く無関係のように思われた。この誤りによって、王座を危うく失うところだった。

1年以上もの間、ランセルは静かに軍勢を集結し、傭兵への支払いのために金庫を空にしていった。第二紀566年の収穫の月、彼は南に落雷が落ちる中軍隊を率いてショーンヘルムを後にした。ランセルがアルカイアとメネヴィアを進軍して通り抜ける直前まで、我々はその接近に気がつかなかった。ショーンヘルムの先遣隊がウェイレストの門に到達した頃、我々が急いで招集した民兵はまだ列を成して門を通り過ぎていた。これが、歴史を揺るがす幕開けの時だった。オールドゲートの槍騎兵隊の攻撃が我々の民兵を追い散らして門を占拠していれば、ウェイレストは1時間以内に攻撃者の手に落ちていたかもしれない。

幸いにも、私自身がカンバーランドの衛兵と門にいた。事の重大さに気がついた私は、自分の旗手に突撃を知らせ、オールドゲートの槍騎兵隊に対抗するべく門衛と家の兵士を率いた。兵士たちは鎧兜に身を固め、私は鎧を着けていなかったが、利点の多い魔法の剣、オリハルコンのメスを腰につけていた。オリハルコンのメスを使ったのはその時が初めてだったが、我々が槍騎兵隊に猛然と突っ込んでいくと、製材機の刃のようにきらめいてうなった。挑む敵が混乱した不正規軍ではなく武装した古参兵であることを急に理解した敵は、突如到来した雷雨によってさらに打ち負かされた。ひょうに激しく打たれた敵の馬は雷を怖がり、首や手足を刈るオリハルコンのメスに直面した。評判の高いオールドゲートの槍騎兵隊もたじろぎ、急に方向を変えてあわてて門から逃げ出した。

ランセルの主力が現場に到着した時、すでに我が軍は全員壁の中だった。門は固く閉まっていたが、ショーンヘルムの王は後に引かなかった。ウェイレストの街はまたもや包囲され、リーチの民のダーコラク以上の策略と周到な準備を持ったランセルは、攻城兵器を伴ってやってきていた。

君主の勝利、第十章Triumphs of a Monarch, Ch. 10

第十章:運命の召喚

読者の諸君、これが私の話だ。ここまで、私のカンバーランド家での気楽な青春時代、私の父ピエリック卿が通商の船で私を訓練してくれた経緯、戦争や国について、そしてダガーフォールの門にてダーコラク相手に初めて大勝利を収めたことや、カンバーランド鉱山で当家が掘り当てたオリハルコンの巨大な鉱脈のことも読んでいただいたと思う。ナハテン風邪が到来した悲劇によって私の父とウェイレストの王族全員が命を奪われ、我々の王国が大混乱の時代に指導者のいない状態になってしまった経緯もお分かりいただいただろう。ウェイレストの王座に、説得されて就任したことが私にとって不本意であったこと、即位式で太陽が金の円光を縁取ったことも、もうご存知かと思う。あの神々による賛同の予兆のおかげで私の疑念はすべて晴れ、最もねたんでいたライバルでさえ、心の底からの盟友と変わった。

ランセルの戦いの真の歴史と、ハンマーフェルのレッドガードや、我々が最も切実に援助を必要としていた時に来てくれたオルシニウムのオークを含み、どのようにしてそれが第二次の、より偉大なダガーフォール・カバナントへと導いたのかをこれで学んでいただけたと思う。タムリエルの自由な人々は、それが内部であれ外部からのものであれ、全ての脅威に対して共に抵抗することを誓ったのだ。

我々はすぐに試されることになった。第二紀578年、協定を結んでいたヴァレン皇帝が帝都から姿を消し、シロディールはまたもやデイドラの陰鬱な陰謀に支配された。ヴァレンの謎の失踪により、野蛮なリーチの民の子孫であるクリビア「女帝」がルビーの玉座に就任した。それ以降帝国の中心部は、狂気、殺人、腐敗に陥ってしまった。我々の民にとっては(実際のところ、タムリエルのすべての民にとっては)帝国の真の炎がまだダガーフォール・カバナントで燃えていることは幸いなことである。今はひどい時代だが、我々の運命は、我々の前にレマンの道々のようにまっすぐ、そして真実味を帯びて並んでいる。我々はシロディールを行進して偽の女帝とその血統すべてを倒し、タムリエルの帝国を取り戻さなければならない。そうすれば、血と炎ではなく、平和と正義による国の統治が今一度実現されるだろう。

死の幻惑The Illusion of Death

[断片]

…その後、猿の娘ダルサをもてあそんだために、マルクは自らの世紀の秘跡をストーンメドウズで過ごしたが、目は焼け、舌は腫れ上がり、皮膚はまだら模様になって、左手の親指は常に塔の星を指していた。そして、アレッシュの影が絶えず彼に話しかけ、概念の臓器をノコギリの言葉でギシギシとこすり、苦痛によって知恵をもたらした。

そして彼は、その猿の血が流れる中で、グリフを使って懇願のスカープに彼女の言葉を記録し、人面の石には血から燃える火によって七十七の不動の教義が刻まれた。そして、労働が劣化しようとも自分の実体を惜しむことなく破壊したのは、死が幻であることを知っていたからだ。死んでいるにもかかわらず、アレ=エシュが話すナイフを貫かなかったから?そして、ペリナルはウマリルの死で彼自身死んだのに、彼女の死の目撃者ではなかったのか?そうするとマルクは、真の命とエルノフィックの破棄に捧げられた正しき到達が、死の幻惑を越えて存続することを知っていたが、それは腐敗を消し去る原動力がアーケイの円環でさえ打ち負かすことができるからだ。

聖アレッシアの裁判Trials of Saint Alessia

[聖アレッシアの裁判からの断片]

はるか昔のその当時、アカトシュはアレッシアと契約を結んだ。彼はオブリビオンのもつれた糸を集め、それを血まみれの心臓の腱であっという間に編んでみせると、アレッシアに贈ってこう言った。「これを、汝の血と誓いが事実であるかぎり、我が血と誓いが汝にとって事実であるという我が印とする。この印は王者のアミュレットとなり、霊魂の王である我と、定命の女王である汝の間で契約が結ばれよう。汝は定命の者の肉体すべての証人となり、我は不死の魂すべての証人となろう」

そしてアカトシュは胸から一握りの燃える心臓の血を取り出し、アレッシアの手に渡しながら言った。「これも、我らの結ばれた血と、固く誓った誓約の印となろう。汝と汝の後裔が王者のアミュレットを身につけているかぎり、永遠の炎であるこのドラゴンファイアが、人類と神々すべてにとって信義の印として燃え続けるであろう。そしてドラゴンファイアの火が灯っているかぎり、我が心臓の血がオブリビオンの門を堅く保つことを、汝とそのすべての子孫に誓う」

「ドラゴンの血がその支配者に強く流れるかぎり、帝国の栄光はいつまでも拡大するであろう。ただし、ドラゴンファイアが弱まり、王者のアミュレットを身につける我らの血を受け継ぐ者が誰もいなければ、帝国は闇へと陥り、失政の悪魔の権力者がその地を統治することになろう」

—ドラゴンファイアの再点火式より

同胞団の偉大な導き手Great Harbingers of the Companions

この歴史は、第二紀ジョルバスクルのサークル、千里眼のスワイクによる記録だ。私は文才に恵まれなかったが、自分の前の同胞団の歴史を学び、私の代でそれが失われることのないよう記録を始めた。ここには有名な同胞団の導き手の一覧を記す。闇を貫き、我らをソブンガルデの栄光に導いた者達だ。

導き手のメモ:同胞団にはイスグラモル以来本当の統率者はいない–誰にもジョルバスクルで鼓動する偉大な心臓を統率するような強さはなかった。魔術師や盗賊などは階級によって何を着るかも変わって来るが、我々同胞団は自ら栄光の運命を掴める。導き手は助言し、問題を解決し、名誉に関する疑問が上がったら解明する。同胞団は何千年もの間ジョルバスクルにあり、導き手の中には悲惨な者も卓越した者も共に存在する。腕や心、その魂によって。歌や行動に影響を与えた最も栄光ある導き手を記載する。

イスグラモル:最初の導き手、最初の人間、言葉をもたらす者、そしてはるか昔、遠く離れた地で初めて同胞団に栄光をもたらした者。もっと良い者が彼について書いているため、ここには記載しない。

川のジーク:帰還中のジョルバスクルの船長で、スカイフォージの発見者、ホワイトランの創設者、時と共に失われた、同胞団の最初の誓いの番人。他の乗組員は征服に栄光を求めていたが、彼の乗組員は最初に定住し、戦争に向かない者がその地で遅れた時、彼らの護衛を勤めた。

撤退者ムライフウィール:イスグラモルの死から数百年後、同胞団は傭兵より少しましな雇われ兵士の集団だった。戦争で戦うために雇われたが、個人の名誉を追求したため、盾の兄弟は否応なく戦場で顔を合わせた。ムライフウィールの知恵により、いかなる戦争や政治的な争いにも関与しないと宣言するまで、同胞団の名誉の絆は崩壊する寸前だった。彼の優れた統率力のおかげで、今日の同胞団は公平な調停者として、戦場の栄光とともに有名だ。

高慢なシロック:最初のアトモーラ人以外の導き手。これはノルドが自分達をノルドだと考え始め、純粋さとイスグラモルの遺産を巡って大きな論争があった頃だ。シロックは最初従者としてジョルバスクルに来たが、このレッドガードは当時の名誉のない戦士から不当な扱いを受けた時、すぐに勇気を証明した。導き手の沈黙のタルバーを助けた後、彼は名誉ある同胞団の地位を得た。盾の兄弟で最も有能な戦士として知られ、速さと狡猾さではあらゆるアトモーラを上回った。彼が導き手となった時間は短かったが、その剣さばきは訓練を通して新しい同胞団へ受け継がれている。

よそ者ヘナンティア:最初のエルフの導き手。前のシロックのように、彼もまたジョルバスクルに着いた当初は嘲りの的で、時期的な事もあって(第一紀が終わるところだった)エルフは正式な同胞団にはなれず、殿堂の中を見ることさえほとんどの者に許されなかった。日中のヘナンティアは謙虚に、頼まれた事を何でもやった。夜は中庭の外で激しく訓練し、翌日の仕事を再開するまで数分しか眠らなかった。彼は数名の導き手に尽くし、休まず不満も言わず、心と体を磨き続けた。長い年月が過ぎ、彼は同胞団に名誉のあり方を教える助けとなる者として信用されるようになった。

弟子の1人が導き手となり、老人となった時、ヘナンティアは死の床に付き添った。導き手はすべての同胞団を集め、彼の後継者にヘナンティアを指名してこう言った。「エルフもノルドの心を持って生まれる事がある」その日同胞団には武器を置く者もいたが、真の名誉を知る者は残った。我々は彼らの遺産を担っている。

鋭い眼のマッケ:その美しさで知られる導き手だが、それを理由に過小評価した者は同じ過ちを繰り返せないだろう。敵軍の半分を睨み倒し、残りを単独で倒したと言われている。導き手として8年目に行方不明になった理由は不明だが、多くの中傷的な嘘が理由として挙げられている。

長鼻のキルニル:第二紀の暗黒期の後、相次ぐ不誠実で不名誉な導き手がジョルバスクルに対する権利を主張していた時、真の心を持った同胞団を荒野に集め、ジョルバスクルに猛攻撃を仕掛けたのが、長鼻のキルニルだった。昔ながらのやり方で強奪者を倒し血を流して名誉を取り戻した。彼は若く新しい同胞団に規範を示す、サークルと呼ばれる信頼できる相談役(偉大なるイスグラモルの船長の議会から名付けた)を創設した。

名誉の概念を壊れない伝統として、彼は同胞団が進む道を定めた。我々は再びイスグラモルの下へ向かい、ソブンガルデへと進めるようになった。

秘術師ガレリオンGalerion the Mystic

荒れ果てた時代だった第二紀の初期、無名の貴族ソルリチッチ・オン・カーのジルナッセ卿の農奴、トレクタスとして生まれたのが、後のヴァヌス・ガレリオンである。トレクタスの父と母は普通の労働者だったが、父はジルナッセ卿の法に逆らい、密かにトレクタスに読み書きを教えた。奴隷が教養を持つことは自然に反しており、奴隷自身と貴族にとって危険な存在であると、ジルナッセ卿は教えられてきた。ソルリチッチ・オン・カーにある本棚はすべて封鎖されており、ジルナッセの砦の外では、すべての本屋、詩人、教師が禁じられた存在だった。しかしながら、少しずつ密かに書物と巻物が持ち込まれ、ジルナッセの目を盗んで出回っていた。

トレクタスが8歳になったころ、書物を持ち込んだ者たちが逮捕され、投獄された。無学で信心深く、夫を恐れていたトレクタスの母の裏切りによるものだと言われているが、他の噂もある。裁判は存在せず、すぐに刑が執行された。トレクタスの父の遺体は、何世紀もすさまじい暑さが続いているソルリチッチ・オン・カーの真夏の時期に、何週間も吊るされたままにされた。

3ヶ月後、トレクタスはジルナッセ卿の元から逃げ出した。サマーセット諸島までの道のりの中間地点、アリノールまでたどり着いた。道脇の水路で丸くなって死にかけていた彼は、吟遊詩人の楽団の手によって介抱され、食事と寝床の見返りに雑用係として雇われた。吟遊詩人の1人、予言者ヘリアンドがトレクタスの精神を試したところ、内気ではあるが、劣悪な環境で育ったにも関わらず、不思議なほど知的で洗練されていると分かった。アルテウム島で秘術師としての訓練を受けていたヘリアンドは、少年の中に自分と共通するものを感じた。

サマーセットの東の果て、ポテンサで一座が演奏をしていた時、ヘリアンドは11歳になっていたトレクタスをアルテウム島へ連れていった。島の賢者イアケシスはトレクタスの資質を見抜き、生徒として受け入れ、ヴァヌス・ガレリオンの名を与えた。ヴァヌスはアルテウム島で精神、そして身体を鍛えた。

そして、魔術師ギルド最初のアークマギスターが誕生した。彼はアルテウム島のサイジックから訓練を受けた。幼少期からの欲望と不当な扱いから、彼は知識を分かち合う哲学を身につけていた。

ダガーフォール・カバナント スタイル

クラフトモチーフ26
Daggerfall Covenant Style

ダガーフォール・カバナントの武器と鎧

バリクター・ステラニー将軍 著

確かにダガーフォール・カバナントの武器と鎧は第二帝国の古典的なデザインに基づいたものであり、我々はそれに関して悪びれるところはない。実際、誇りに感じている!カバナントはレマンの帝国と、比類なき高みにあるタムリエル文明の継続的な理想の象徴である。オークを含めた誰もが、史上最も偉大な連合の一員なのだから。失われた栄光を取り戻すため、我々はこのデザインと象徴で敵に思い出させようとしている。

ブーツ

鋼のサバトンだ。質実で実用的である。カバナントの戦士が履くのは、シロディールやその先までも続く長い行進にふさわしいブーツだ。我々の騎士たちは丈夫な動物に乗るかもしれないが、戦闘時には大半が降りて、歩兵や射手とともに徒歩で戦う。

ベルト

カバナントのベルトは強く丈夫で、正方形の鎖で作られているが、正面には丸いバックルが付いている。バックルの抽象的なデザインはニルンの全世界を象徴しており、その中心にはタムリエルがある。我らがエメリック王によって実証されたレマンの理想の下、再結合したタムリエルを表している。

我々の胸の防具は帝国のデザインに基づいているかもしれないが、兜に関しては、カバナントはハイロックの騎士団の鎧から発想を得ている。面頬と、首を保護するための鎖かたびらが備わっていて、顔の全面を覆う兜を我々は採用した。

脚当て

カバナントのグリーヴは地味だが、部隊のぜい弱な下腿を最大限に守るため、分厚くて頑丈である。デザインは、ブレトンの騎士の鎧と、オークの鍛冶作業着の両方に基づいている。

カバナントの弓は獅子のかぎ爪と、恐るべき広範な攻撃範囲を与えてくれる!ダガーフォール・カバナントでは体力を基準に射手を選抜し、最も分厚い鎧を貫ける強さで弓を引ける筋肉の持ち主が選ばれる。

胸当て

ダガーフォール・カバナント部隊の胸当てはデザインも形もあからさまに帝国のものだが、胸に目立つ立ち上がる獅子の装飾は、紛れもなくカバナントのものだ。これを同盟の象徴としてお選びになった時、エメリック王はまさに賢明な選択をされたのだ!

ダガーフォール・カバナントの部隊は、第二帝国が使用していたものを思い起こさせる剣を装備している。幅広で真っ直ぐな両刃の剣は、切りつけ突き刺せるように設計されており、柄の上の頑丈な鍔は接近戦の最中の大胆な受け流しを可能にする。

肩防具

カバナントの肩当ては、ブレトンの騎士団が身につける鎧に特有の、実用的なポールドロンに起源がある。自分たちが荒々しく強大な存在であることを忘れないよう、うなり声を上げる獅子の顔で飾り立てる場合もある。

手袋

レマン帝国では、手と前腕を守る目的で腕当てのみを着用していた。カバナント軍では、現代的な接近戦においてさらなる保護が必要だと我々は感じている。手の動きの自由は比較的保ちながらも、前腕を守るため、強靭な籠手を上部に加えることにした。

カバナントの兵士は凧の形をした盾に守られて進撃する。そこに彫られているのは、我らが君主、エメリック国王陛下が自ら同盟の印としてお選びになった、立ち上がる獅子の輝かしい象徴だ!進め、ダガー!

魔法に関して、カバナントの同盟で最も生まれつき才能があるのはブレトンである。ハイロックの魔法使いたちは、我らが上級王エメリックの立ち上がる獅子を先端に頂く杖を、誇らしげに振りかざす。錬鉄の獅子は通常、ファセットカットされた何らかのフォーカス・クリスタルの上に、後ろ脚で立っている。

戦棍

ダガーフォール・カバナントの戦棍は、全面にスパイクが付いた、重く丸いヘッドで統一されている。これは昔ながらの非常に実用的なオークのデザインだ。どのように棍棒を持っても同じなら、戦闘の最中にヘッドが正しい方向を向いているかどうか、気にする必要もなくなる。

短剣

幅広ではあるが突き刺せるように尖ったカバナントの短剣は、第二帝国の帝国軍が突き刺す際に用いる短い剣に基づいている。皇帝レマンを信奉する兵士たちが良さを十分に認めるものであれば、我々にとっても良いものに違いない!

我々の斧にはダガーフォール・カバナントの立ち上がる獅子が装飾されている。一振りする度、敵は獅子に噛まれる思いがするだろう!硬く、頑丈で、鋭く、重い。それはオークから学んだことだ。そう、我々は帝国に少しばかり何かを教え込むこともできる。

生産の本

Crafting Books

クラフトモチーフ1:ハイエルフスタイルCrafting Motif 1: Altmer Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

この小論集は、タムリエルの主要文化の1つひとつにつき、それぞれを他と分かつ象徴的および様式的特徴を芸術作品や工芸品から抽出し、大づかみに概観しようという試みである。論考の焦点は、さまざまな種族の携行耐久財、すなわち、衣類、装飾品、武器防具などに当てられることになるだろう。なぜなら、それらには個々の文化の表情が如実に現れるからだ。この小論集が完成した暁には、アルケイン大学の初等民族誌学コースのカリキュラムで教材として使われる予定である。

本稿の筆を起こすにあたって、まずはハイエルフ、すなわちサマーセット諸島に隠遁するアルトマーを取り上げたい。というのも、タムリエルの文明は旧エルノフェイのアルドマーによってもたらされたという議論が可能であり、実際、そういった議論がしばしばエルフたちによって提起されるからだ。確かに、サマーセット諸島のエルフが神話紀の先祖から受け継いだ遺産を守るために意識的な努力をする限りにおいて、第一紀以前の社会の伝統に最も近いのは、彼らの伝統であることは間違いない。

もっとも、だからといって、最初のアルドマーがこの大陸にやってきて以来数千年のあいだに、ハイエルフの文化が次第に本流からはずれ、さまざまに枝分かれしていないとは言えない。なぜなら、それは事実に反するからだ。むしろ、現在のアルトマー文化を歴史家の目で見れば、そこには文化的起源の輪郭がかろうじて見て取れる、と言えるに過ぎない。

今後の研究の端緒となるだろうこの仕事において、私はここアルケイン大学で教鞭を執る変性意識学の泰斗、モリアン・ゼナス教授から助言を賜る幸運に恵まれた。ゼナス教授は本学の教授陣で唯一、サマーセット諸島を訪れた経験があり、具体的にはアルテウムでしばらく過ごしたほか、ダスクにも乗り継ぎの際にごく短期間ながら滞在している。

聖堂地区にある教授の住まいを初めて訪ねたときには少々恐れをなしていた私だが、実際に会ってみると、教授は気難しいという評判が嘘のように魅力的な老紳士だった。モリアン(教授がそう呼んでほしいと言うので、あえてこう書くが)が夕食を食べていくよう勧めてくれたので、私は教授の弟子で無駄口をきかないアルゴニアン、セイフイジ・ヒッジャの給仕で供応にあずかった。

モリアンの説明によると、ハイエルフはシンプルな美しさをそなえたデザインを旨としており、流れるような線は自然界の優美な造形を反映しているのだという。多かれ少なかれ抽象的に描かれた鳥や花、貝殻といったものはよくあるモチーフで、それらが豊かな、それでいて抑えた色調で描かれる。鎧には鱗や羽毛の模様が刻まれ、重いキュイラスや兜にさえ、翼や嘴を模した意匠が凝らされる。

金属製品にはしばしば、「碧水晶」と呼ばれる緑がかった半透明な材質でアクセントが添えられる。これは一種のヒスイ様黒曜石であり、アルトマーにしか知られていない秘密の手法によってそれを加工するすべを、エルフの鍛冶屋たちは習得したのである。冷やせば切れ味鋭い刃になるほど硬い反面、可鍛性を持たせることができるため、ほぼどんな形にも整えられる。ハイエルフは装飾を凝らした武器防具の作製に、この碧水晶という素材を広く用いている。

夕食のあと、2人でシロディールブランデーのグラスを傾けながら、私はモリアンから質問攻めにされた。モチーフに関する研究計画のこと、私自身のこと…。これは面映ゆくもたいへん嬉しい経験だった。もう一度彼と話をする口実を見つけなければ。

クラフトモチーフ2:ダークエルフスタイルCrafting Motif 2: Dunmer Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

ハイエルフの次はダークエルフについて考察するのが自然だろう。なぜなら、モロウウィンドに移り住む前の彼らの故郷はサマーセット諸島だからだ。それゆえ、ダークエルフの文化はアルトマー文化から枝分かれしたものと考えることもできるが、多くの意味で、ダンマーの文化はサマーセット文化の延長というよりは、それに対する反発として生まれたものと言える。

ところで、モリアンからディヴァイス・ファーというダークエルフを紹介された。教授によれば、「変性意識状態による逗留」なるプロジェクトを手伝ってもらっているパートナーだという。いったいどういう内容なのか見当もつかないが、それでもディヴァイス本人からダンマー文化のことならなんでも訊いてほしいと言われたので、私としては断る理由もなかった。

優美さを重んじる程度においてはダークエルフもハイエルフに引けを取らない。が、それ以外の点では、2つの種族の様式はこれ以上ないほど違う。モロウウィンドは風光明媚なサマーセット諸島とは比べものにならないぐらい自然環境が厳しく、その過酷さがダンマーのデザインに反映されているのである。ダークエルフもまた自然からインスピレーションを得るが、鳥や植物のモチーフに代わって、ダンマーはモロウウィンドに生息する巨大な昆虫の甲殻が持つ、曲面や尖りで構成された形状を模倣する。それらは優美ではあるが、同時に恐ろしげでもあり、ダンマーが生存をかけて日夜戦っていることを絶えず思い出させてくれる。

黒檀はダークエルフの重装鎧に好んで用いられる素材だが、軽装鎧や軽盾も、素材の鋼や合金鋼をわざわざ暗い色に塗って黒檀のように見せる場合が少なくない。衣服は鎧も含め、しばしば肩や頭頂部あるいは腰部を膨らませてアクセントとし、さらにはドワーフ文化から拝借したとおぼしい重層的な幾何学模様をあしらっている。もっとも、ダンマーがいかなる形であれドゥエマーの影響を受けているなどという考えに、ディヴァイスは苛立ちを隠さないのではあるが。

実を言うと私は、このヴァーデンフェル出身のソーサラーが、妙に抗いがたい魅力をそなえていることに気づいている。彼はさほど年配に見えないが、少なくとも60歳は超えているだろうモリアンのことを「あの青年」と言う。いったい彼はいくつなのだろう?いや、気になるところは他にも山ほどある。心の底まで見透かされそうなあの赤い眼…あの眼で見つめられると、少々ドギマギしてしまう。

そのディヴァイスから、波止場地区にあるボズマーの酒場に行ってみないかと誘われた。この機会に一度、足を運んでみるのもいいかもしれない。

クラフトモチーフ3:ウッドエルフスタイルCrafting Motif 3: Bosmer Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

次はエルフの項のしめくくりとして、ヴァレンウッドのボズマーを取りあげたいと思う。類縁に当たるハイエルフやダークエルフに比べて世界全体におよぼす影響力は劣るものの、数ではタムリエルに住む他のエルフ族すべてをしのぐ。ウッドエルフはエルフにしては多産であり、あえて言うなら、他よりも色好みの気がある。

ウッドエルフが自然のモチーフを好むというのは月並みな指摘だが、単にそれだけではないことを私は学んだ。そうした自然のモチーフが埋め込まれ様式化されたスタイルには、彼らのイフレ崇拝と「アース・ボーンズ」にまつわる物語が反映されているのである。ボズマーの信じるところによれば、イフレがすべての動植物と人々に名前を与える前、自然はことごとく混沌に包まれていたという。名前こそが、各動植物種に恒久的な姿形を与えたのだというのだ。だからこそ、各動植物種はイフレから与えられた原型を表す、独特かつ理想化されたモチーフによって描かれるのである。

このことは、ウッドエルフが手掛ける芸術、工芸、衣服のいたるところに現れるデザインに反映されている。こうしたデザインには膨大な数のレパートリーが存在する。というのも、ボズマーの世界に生息する動植物各種には、それぞれ固有のデザインがあるからだ。もっとも、こうしたデザインの使い方や描き方は文化的にきっちり決まっていて、バリエーションが生まれる余地はほとんどない。これら様式化されたいわば絵文字を正統的でないやりかたで用いることは不適切のそしりを免れず、はっきり言えば「誤り」と見なされる。

その他のことにはひどく無頓着で奔放そうな種族だけに、矛盾して見えるかもしれない。けれども、これは誇張でもなんでもなく、私も実際にこの目でそれを確かめる機会に恵まれた。帝都には相当数のウッドエルフがいて、波止場地区には「酔いどれホタル亭」という酒場を中心に、小さなボズマー街が形づくられている。モリアン・ゼナスの実験を手伝っている魅力的なダークエルフの魔術師ディヴァイス・ファーから、ボズマー街に行ってみないかと誘われた私は、良い機会なので足を運んでみることにした。

ディヴァイスと波止場地区に行く約束の日、モリアンの住まいを訪ねると、玄関の扉をあけてくれたのは教授自身だった。ちょっと書斎に寄ってほしいと言われ、いささか面食らうとともに、モリアンのいでたちにも私は驚かされた。なんと彼は星座のシンボルをあしらった真新しい絹のローブに身を包み、髪の毛はきちんと刈りそろえて櫛を通し、かすかにラベンダーの香りまで漂わせていたのである。それまで、焦げ痕と染みだらけのみすぼらしいローブを着ているところしか見たことがなかったので、その変わりようには目をみはらされた。

書斎で話を聞いてみると、教授はディヴァイス・ファーと波止場地区に行くのはよしたほうがいいと言うのだった。私は思わず吹き出してしまい、教授の顔を赤らめさせたのだが、そのあときちんと、自分は子供ではないし心配にはおよばないと告げた。モリアンはやや狼狽し、ぶつぶつと詫び言を口にした。それから察するに、どうやら教授は私が波止場地区に足を運ぶことよりも、ディヴァイスと一緒に過ごすことのほうが気がかりなようだった。私は彼の気持ちを傷つけたくなかったので、まっさらなローブをほめた。モリアンが相好を崩すのを見てから、私はディヴァイスが待つ客間に足を向けた。

これ以上だらだらと書き連ねるのもはばかられるが、それにしてもあの夜は素晴らしかった。酔いどれホタル亭はにぎやかな店で、ディヴァイスは女将のレディ・ビニエルに紹介してくれた。彼女は一緒に飲もうと言って譲らなかった。出しものは「ビニエルのボズマー風バーレスク」で、これがとても愉快だったうえ、ひどい味がするウッドエルフの飲みものはどれも受けつけなかったものの、バグスモークのパイプをディヴァイスと回し喫みすることは断らなかったものだから、私は妙な具合に陽気になってしまった。

実を言うと、ボズマーが「不適切なデザイン」をいかに蔑むかの格好の例を目の当たりにすることができたのも、このパイプのおかげだった。というのも、私がディヴァイスのパイプを喫っているのを見て、レヤウィンの船乗りが、骨を削ってこしらえた「純ヴァレンウッド製」だというパイプを買わないかと持ちかけてきたのだ。するとレディ・ビニエルが、それは偽物だから騙されちゃいけないよと忠告してくれた。船乗りは抗議したが、この小柄なウッドエルフ女性が、火皿にイムガが彫ってあるようなガラクタがまともな品でないことは、どんな馬鹿にだって分かると一喝すると、船乗りは引き下がるしかなかった。

それから間もなく、ディヴァイスと私は店を出た。帝都の城門に向かう道すがら、ディヴァイスは星降る夜空を指さし、それぞれの星座を古いチャイマーの言葉でなんというか教えてくれた。正直、星座の名前は全部忘れてしまったが、ただ、ディヴァイスのよく通る声の暖かい調子は憶えている。そして、私の腕に触れる彼の掌の温かい感触も…

クラフトモチーフ4:ノルドスタイルCrafting Motif 4: Nord Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

次はノルドについて考察する。タムリエルでエルフの支配に抗い、あまつさえ取って代わることに成功した最初の人間文化である。

ボズマー同様、ノルドもまた建築や工芸、被服の各分野において、様式化され、しばしば絡み合った自然のモチーフに大きく頼っている。しかし、ウッドエルフのデザインが主として植物を意匠化したものであるのに対し、ノルドのそれは動物を強調しており、とりわけアトモーラの古い信仰においては8つの「トーテム」動物が重んじられる。すなわち、狼、鷹、鯨、蛇、蛾、狐、その他である。また、デザインのバリエーションという点では、ウッドエルフの様式をはるかにしのぐ。動物のモチーフの中には、あまりに抽象的すぎて、何の動物か判別しがたいものまであるほどだ。それどころか、縁取りの部分など、まったく自然物を想起させない幾何学模様の組み合わせで埋められることも少なくない。

ノルドのデザインは、エルフのそれとも、また別な点で異なっている。エルフの作品がほっそりとして優美で、かつ控えめなのに対し、ノルドのデザインはおおむね単純で重々しく、それでいてダイナミックな形状に依拠する。何にせよ、ノルドの作るものに控えめなものなど存在しない。

このことは、帝都のスカイリム大使館の外観にもはっきりと表れていた。モリアン、ディヴァイス、私の3人で、ログロルフ王の歓迎会に足を運んだときのことだ。大使館の入口扉の上に渡されたまぐさは、挑発の言葉を叫んでいるかのようにくちばしを大きくひらいた鉄製の巨大な鷹の頭を戴いており、扉の側柱には意匠化が強すぎて鳥類というよりも斧と呼ぶほうがよほどふさわしい鷹の浅浮き彫りがほどこされていた。扉自体は暗色のオーク材でできており、木材がまるで攻撃を跳ね返すためでもあるかのように鉄で束ねられ、鉄の鋲がいくつも打ち込まれていた。

大使館のなかは、外側ほど武張ったものではなかった。ただ、扉のすぐ内側には甲冑に身を固め武器を携えた衛兵が立ち、番をしていた。パーティーの招待客をチェックするのに羊の角をあしらった顔まで覆う兜を着ける必要がはたして本当にあるのかどうか、私には疑問に思えたが、ノルドの衛兵の目つきは必ずしも質問を促すようなものではなかった。

パーティーはすでに述べた通り、最高顧問に敬意を表するために帝都を訪れているログロルフ王を歓迎する催しだった。モリアンはアルケイン大学の代表として招かれたのだが、彼から同行してほしいと頼まれた私は、気性の荒いことで知られるこの北方の(同じ人間種に属する)いとこたちを彼らのホームグラウンドで見られるならばと、二つ返事で承知した。私たち2人がどこに出かけるのかを聞きつけたディヴァイスは、モリアンがものすごい目つきでにらむのにも構わず勝手についてきたが、いざ大使館に足を踏み入れ、大声で話す騒々しいノルドたちに囲まれてみると、一緒に来たことを後悔しているようだった。

一方モリアンはというと、それとは対照的だった。ハチミツ酒をひと壜飲み干したあとの彼は、突如として、私の目にまったく新しいゼナス教授として映ったのだ。真新しいローブで盛装したモリアンは、まさに意気軒昂と形容するにふさわしく、称賛の目で彼を見つめる外交官たちを相手に魔法の歴史を長々と弁じたて、ノルドのアークメイジ、シャリドールがなしたという数々の魔術的偉業を語り、聞く者を夢中にさせたのだった。その姿はまるで20歳も若返ったかのようで、私には突然、初めて帝都を訪れ、アルケイン大学の創設に関わった全盛期にはきっとこんなふうだったに違いないと思えるモリアンが垣間見えた。

モリアンはなんとログロルフ王本人に私を紹介してくれたが、彼がどうやってスカイリムの君主と近づきになったのか、私には見当もつかない。ディヴァイスを探すと、彼はいつのまにか姿を消していた。モリアンと私は遅くまで大使館に残り、ハチミツ酒をあおりながらノルドのあけっぴろげな冗談に腹を抱えて笑った。ようやく御輿をあげ、モリアンに送られて家まで歩く道すがら、私は彼の眼にそれまでとは違う光が宿っているのを見た気がした。

彼もまた、私の眼に同じ光が宿っているのを見たかもしれない…

クラフトモチーフ5:ブレトンスタイルCrafting Motif 5: Breton Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

アルケイン大学の大賢者レディ・オペル・ダンテーヌはブレトンだ。そこで、ブレトンのモチーフを研究するにあたって、私は彼女に意見を仰ぐことにした。レディ・オペルは気さくな女性で、惜しみなく協力してくれた。

ブレトンは、タムリエルで最後にエルフによる支配のくびきを脱した主要人間種である。そして、長きにわたりディレニに臣従してきたことが、多くの点で彼らの文化を規定している。ブレトンは自治の気風が強く、ハイロックの各王国は個々の主権を死守しているが、ブレトンの社会そのものは階級主義のディレニ王朝に由来する封建的構造を脱していない。また、ブレトンは同じ人間種のノルドとほぼ同じくらい気難しいが、長らくエルフの保護下にあったことから魔術に対しては開放的で、さほど抵抗感を持たない。

以上のことが、果たして彼らの芸術や工芸にどのように表れているだろうか?例として、ブレトンの鎧を見てみよう。ブレトン騎士が着る光沢を放つ重装鎧はノルドの私兵が着る鎧と同じくらい頑丈で実用的だが、目に心地よいその形状にはエルフの優美さを髣髴とさせる微妙な洗練がにじんでいる。同じ影響は、美しい外観と裏腹に恐るべき破壊力を誇るブレトンの武器にも見て取れる。

このことから私が連想したのは、ディヴァイスとモリアンの違いだった。ディヴァイスがエルフ特有の都会性をそなえているのに対して、モリアンはその深い学識とは裏腹に、例の気難しさも含め、あまりにも人間臭い矛盾をいくつも抱えている。変性意識状態の実験は、どうもうまくいっていないようだった。ゆうべ教授の家に立ち寄ったところ、モリアンもディヴァイスも不在だった。教授の弟子のセイフイジによると、2人はオブリビオンへの旅から確実に生還できるようにするには、輸送の担い手にどのような対価を支払うのが妥当かという問題をめぐって口論を始めたという。やがて個人攻撃の応酬になり、ついには私の名前まで持ち出されたらしいのだ。2人は怒鳴り合いのすえ、研究室から憤然と出ていくと、神々通りをそれぞれ反対方向に歩み去ったという。

言葉もなかった。私を巡って2人がケンカを?白状するが動転のあまり、私はレディ・オペルに洗いざらい打ち明けてしまった。彼女は信じられないほど優しく、親身になってくれた。2人の魔術師のどちらかに特別な感情を抱いているのかと訊ねられた私は、そうだと認めたものの、気持ちは葛藤し、せめぎ合っていた。レディ・オペルがバンコライのスパイスが入ったワインを1本か2本あけてくれたので、夜が更けるにつれて私たちはいっそう打ち解けていった。どうやって家に帰り着いたかは憶えていない。今日は二日酔いで頭が痛いけれど、そのかわり心がいくぶん軽くなったのでよしとしよう。

クラフトモチーフ6:レッドガードスタイルCrafting Motif 6: Redguard Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

今朝モリアンの住まいを訪ねると、前日のことが嘘のように何もかも普段通りだった。ディヴァイスと教授はまるで親友同士のように、チャルを注いだマグカップを片手におしゃべりに興じていた。話題はラリバラーの「11の儀式形態」と「最も神秘的盟約の本」の比較だ。私はディヴァイスに、商業地区のヨクダの礼拝堂に連れていってくれる約束はどうなったかと訊ねた。モリアンはかすかに眉を曇らせたが、それでも笑顔を作り、自分は研究室で新しい超苦悶媒体をテストしたいから、かえって好都合だと言ってくれた。

(それと、おそらく光の加減だと思うが、私の目には二人ともなんだか…若やいで見えた。どちらも高い能力を持つ魔術師であり、おそらくは幻惑魔法にも通じているだろうから、その点を忘れないようにしなければ。たんに私がのぼせあがっているだけかもしれないが)。

礼拝堂では博識なレッドガード数人と会ったが、全員が全員、例の威厳と奥ゆかしさをそなえていた。私が見たところ、それらはレッドガードのなかでも高い教育を受けた人々に特有の資質だ。トゥワッカの司祭であるジルミル大司祭(つづりが間違っていないことを祈る)はとりわけ協力的だった。

大司祭が指摘したのは、レッドガードの故郷であるヨクダにしろ、彼らの現在の本拠地であるハンマーフェルにしろ、どちらも砂漠だ(ヨクダについては、砂漠「だった」と言うべきか)という点だ。涼しく過ごすため、また厳しい日差しや強い風から身を守るため、レッドガードの衣服はおのずと軽いうえ、丈が長く、ゆったりとしたつくりになる。そしてその流れるような曲線が、彼らの作る芸術作品や工芸品のデザインに持ち込まれているのである。彼らの着るローブや鎧は、関節部と頭部に曲線状の膨らみでアクセントを添えることが少なくない。剣でさえ、やもすると曲線を描く。

対照的に、彼らの建築物はどちらかというと重厚な印象だが、よく見ると、それは主として砂漠の極端な気温を遮断するためのものだと分かる。ジルミル大司祭は礼拝堂の優れたシステムを見せてくれた。かすかな風をも逃さず身廊に送り込むため、明かり層に「よろい張り」を施した換気ダクトが設けられているのである。

ジルミル大司祭が受け持ちの信徒団の相手をするために呼ばれて行ってしまうと、ディヴァイスと私はヨクダの神々を祀った8つの祠を眺めようと、ぶらぶら後陣に入っていった。ディヴァイスによれば、ハンマーフェルのフォアベアーがレマン帝国によってもたらされたシロディールの神々を崇めることが少なくないのに対して、より保守的なクラウン・レッドガードはこうした伝統的な神々を崇拝するのだという。そんなうんちくを傾けていたディヴァイスだったが、モルワを祀った蜂の巣状の祠の後ろで不意に向きなおり、例の燃えるように赤い眼で見つめながら、私の手を取るや、だしぬけに、あなたはこの帝都で誰よりも聡明で素敵な女性だと言った。私は息を飲んだ。心臓が早鐘のように打っている。ところが、彼が私を抱きしめるようなそぶりを見せた瞬間、私は急に怖くなった。私は後ずさりをし、かぶりを振ると、身をひるがえして身廊に駆け込んだ。モルワの祭壇に蝋燭を立てていたレッドガードの子供たちを、ずいぶん驚かせてしまったと思う。

どうしよう?ディヴァイスをひどく侮辱してしまったに違いない。どうしたらこの埋め合わせができるだろう?それと、モリアンには話すべきだろうか?ああ、ジュリアノスの小さな茶瓶にかけて、なんというジレンマだろう!

クラフトモチーフ7:カジートスタイルCrafting Motif 7: Khajiit Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

今朝教授の住まいを訪ねた私が真っ先にしたかったのは、ディヴァイスに謝ることだった。ところがセイフイジからあいにく留守だと言われた。ポータルのある部屋でなにやらまじないを唱え、どこかに行ってしまったという。あとには物が燃える匂いの他、何も残っていなかったとか。仕事を進めるのよと、私は自分に言い聞かせた。仕事が忘れさせてくれる。というわけで、私はモリアンを探しにいった。

教授は朝食中で、ちょうどスイートロールを食べ終え、チャルを飲み終わったところだった。私が台所に入っていくと、驚いたことに、彼はお辞儀をしようとあわてて立ちあがった拍子に、あやうくマグカップを引っくり返しそうになった。私は小論集ではカジートにも触れたい旨を告げ、あいにく猫族に知り合いがいないので、誰か紹介してもらえないかと訊ねた。教授はそれならうってつけの人物を知っていると請け合い、ちょうど今日は「あの癇癪持ちのテルヴァンニ」も休みをとっているし、喜んで紹介しようと言ってくれた。

それまでにも私は市場の門の外側に折々設営されるバーンダリ行商人組合のキャンプの前をよく通っていたが、中に足を踏み入れたことはなかった。あそこには近づかないようにという父の忠告がいまだに残っていることもあるし、鼻を刺すようなにおいが自然に足を遠のかせたということもある。けれどもモリアンは躊躇なくキャンプに入っていくと、色とりどりの祈りの旗で飾られた天幕に私を連れていった。あとについて天幕に入っていった私を、彼はマダム・シザヒ・ジョーに引き合わせてくれた。なんでも、アズラーとマグルスに仕えるカジートの妖術師だという。蓮華座を組んで座ったまま、マダムは恭しく頭を下げ——猫族の体はかくもしなやかなのだ——、床に敷かれた一組のクッションを勧めると、「この者」がどんなお役に立てますかと訊ねてきた。

マダムとの会話は楽しく、私たちはすっかり話し込んでしまった。カジートとレッドガードのモチーフやデザインには表面的に似通っている点があるが、これはおそらく、両者がいずれも暑く乾燥した土地に住んでいるためと思われる。しかし、レッドガードが長く、流れるような曲線を好むのに対し、猫族は円形と三日月形に愛着を示す。それは、マッサーとセクンダのすべての月相の形状が、カジートの衣類や装飾品のいたるところに現れることからも明らかだろう。鎌にも似た三日月の形はまた、カジートの手足の肉球からバネ仕掛けのように飛び出す鉤爪を思い出させる。目立たないとはいえ、そんなものを四六時中ちらつかされては、気の弱い人はたまらないだろう。

マダム・シザヒ・ジョーはお茶をたててくれ(カジートの食べものや飲みものの例に漏れず、これもまたベタベタと甘ったるかった)、それから私のカップの底の茶葉を見るよう促した。彼女は桃色がかった鉤爪でお茶をかきまわし、私の悩みの種が分かったと言った。夫人によれば、私は臆病風に吹かれて本心から目をそらし、ふさぎの虫に取りつかれているのだという。私はディヴァイスにキスされそうになったことを、うっかり口にしてしまった。モリアンは自分のカップを取り落とした。飛び散ったお茶がマダムにかかったのは、気の毒としか言いようがない。

てっきり激怒するかと思いきや、モリアンはいかにも悲しげな表情を浮かべ、それから私に対する自分の気持ちを堰が切ったように話しだした。彼の言葉はとても情熱的で、私はすっかりほだされてしまった。カジートの魔術師が気を利かせて席を外してくれたので、私たちはクッションに座ったまま、それこそ何時間とも知れないほど話し続けた。

クラフトモチーフ8:オークスタイルCrafting Motif 8: Orc Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

ゆうべ、短い時間だが酔いどれホタル亭でディヴァイスと会い、あなたのことは大好きだけれど、モリアンに心を奪われてしまったと正直に打ち明けた。ディヴァイスはジェラール山脈を吹き荒れる嵐もかくやというほど表情を曇らせたが、それでも大きく息をつくと、どうにか威厳を保ちながら店を出ていった。ああ、どうか彼が大丈夫でありますように。

ただ、正直に言えば、今はモリアンのほうが心配だ。ディヴァイスとの共同研究は佳境を迎えつつある。間もなくモリアンはゲートをひらき、単身オブリビオンへと旅する予定だ。とりあえずはアズラが支配する領域、ムーンシャドウを目指すつもりだと言っている。それなら比較的安全なはずだと。安全ですって!?私は鉄板の上に載せられたスクリブみたいに心配でならない。せめて出発する前にひと目会いたいが、モリアンは承知しない。儀式の執行に集中しなければならず、気が散るようなことは避けたいからと。

セイフイジからモリアンの手紙を渡された。オルシニウムの新しい大使を迎える支配者主催の公式晩餐会に、自分の代わりに大学を代表して出席してほしいと書いてある。是非とも行きたいと言っていたこの催しを欠席するからには、よほど忙しいに違いない。もっとも、わが「諸種族のモチーフ」プロジェクトにとっては願ってもない話だ。それに、仕事に没頭していれば、あれこれ気に病まずにすむ!

新たに帝国の州となったオルシニウムはまだ帝都に大使館を置いていないため、支配者に仕える半人半蛇のしもべたちの手で、白金の塔の1階に天幕がずらりと設営されていた。ズグギク大使を歓待しようと、すべての天幕はロスガーから取り寄せた本物のオーク備品で飾られている。私はこれ幸いとばかり、だらだらと冗長なスピーチが続くあいだ、日誌を取り出し、そうした品々をせっせとメモにとる作業に励んだ。

それにしても、オークのような野蛮な種族がこれほどまでに洗練された品々をデザインし、こしらえることができるとは!もちろん、彼らは防具作りの名手としてタムリエル全土に知られているが、私は常々、それは技能のおかげというよりも並外れた腕力のなせる技だと思っていた。しかし、彼らの武器や防具をちらっと見ただけで、それがいかに間違った考えかを思い知らされた。華美な装飾どころか、装飾自体いっさい凝らされていないのだが、ノルドのそれよりもシンプルで実用的なオークの金属細工には、均整と対称性、そして調和というものを彼らがどれほど深く理解しているかが表れているのである。オークの剣は暴力の道具かもしれないが、使う者の掌に吸いつくように造形された重いが形の良い柄と好対照をなす刃が、ダイナミックに薙ぎ払われるさまを思い浮かべると、なぜだか私はほとんど安らぎに似た気持ちを覚える。

その後、嬉しいことに、晩餐会の席で大賢者レディ・オペルの姿を見つけた。彼女は親しげに挨拶をしてくれ、エイダールチーズを肴にウェストウィールドのワインを傾けながら、2人の魔術師とはその後どうなっているのかと訊いてきた。私が何もかも台無しにしてしまったと思うと答えると、レディ・オペルは大丈夫、最期に全部丸く収まるからと請け合ってくれた。モリアンとは長い付き合いだそうで、あれこれと小うるさい年寄りのように見えて、そのじつ非常に思慮深い人間だという。彼があなたぐらい賢い女性を見初めたのは嬉しいかぎりだとも言ってくれた。これで研究室に入ったきり姿を消してしまう心配がなくなるもの、と。

けれども、私に言わせれば、それこそまさに彼がしたことだった。セイフイジともう一度話してみよう。彼なら、旅立つ前のモリアンになんとか会わせてくれるかもしれない。

クラフトモチーフ9:アルゴニアンスタイルCrafting Motif 9: Argonian Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

今朝、メイドのダリエラが興奮した口ぶりで、戸口にトカゲの女性が来ていますと告げた。何やら、急ぎの用事らしいという。帝都にアルゴニアンはそれほど大勢いない。そう考えると、セイフイジの使いではないかと思い当った。きっとモリアンに関する何か恐ろしい知らせを携えてきたに違いない。私は大学のローブを羽織ると、玄関に急いだ。

戸口で待っていたのは、まさに若いトカゲ族の女性だった。複雑な螺旋形の意匠で飾られたスパイダーシルク製の洒落た上着をまとい、通りに立っている。彼女は〈尾を上げる者〉と名乗り(私は冗談に違いないと思ったが、爬虫類特有の無表情な顔立ちからは、冗談とも本気ともつかなかった)、主である〈明瞭なる者〉デッシュ・ウルムの命で迎えにきたと言った。どんな用件かまでは知らされていないが、とにかく急を要することだから、すぐに来てほしいという。私はためらいながらもうなずくと、そのまま彼女のあとについていった。

アルゴニアンの娘に連れられ、私は聖堂の門をくぐり、波止場地区へと向かった。埠頭のはずれまで行くと、そんなものがあるとはそれまで気づかなかった風変わりな古びた館があった。玄関の脇の黒いプレートには〈ザンミーア〉と彫ってある。初めて目にする言葉だった。中に入ると、その大きな館は丸ごとアルゴニアンに占領されていることが分かった。人数は十数人もいただろうか、全員そこに住んでいるらしく、どの部屋もみなで共有しているようだった。そこらじゅういたるところに、アルゴニアンの掛け布、彫刻、呪物がある。それらは貝殻、骨、羽根といった自然の素材でつくられ、目もあやな螺旋と幾何学のデザインが凝らされていた。もしそのどれもがアルゴニアンの故郷で使われているのと同じものだとしたら、蛇皮、亀の甲羅、鋸歯状牙、ターコイズ、ヒスイ…私たちが珍しい異郷の素材と見なしているこれらすべてが、ブラック・マーシュではありふれたものに過ぎないことになる。

〈尾を上げる者〉は私の先に立ち、階段を取り払ってしつらえたとおぼしい傾斜路を上がっていった。上の階で、彼女はとある湿った部屋に私を案内した。気のせいか、腐臭とかび臭さが感じられる。咳き込みながら足を踏み入れると、部屋の中はほとんど丸ごと熱帯植物の鉢植えで埋まっているのが分かった。一部はとっくの昔に枯れてしまい、腐っている。私はサンダルで何かを踏みつぶしてしまい、思わず後ずさりをしたが、トカゲ族の娘が優しく手を取り、シダの葉が生い茂るなかを部屋の真ん中まで導いてくれた。

そこには不釣り合いにも、陶製の大きなニベン式浴槽が置かれていた。私の住まいの化粧室にあるものと似ているが、目の前にあるそれは縁までなみなみと気味の悪い緑色の泥で満たされている。そしてその泥のなかに、かろうじて鼻づらだけ覗かせた、見たこともないほど年老いたアルゴニアンが身を横たえていた。

じっさい、その老いさらばえたトカゲ族の男性はミイラにしか見えなかったので、その口がひらき、そこから言葉が発せられたとき、私は肝をつぶしてしまった。皮革がきしむような声で、その爬虫類はゆっくりと言葉を継いだ。「わしはデッシュ・ウルム。お前様はアル・フィッド…帝都で並ぶ者なき才女とお見受けする。わがウクシス——いや侘び住まいにようこそ参られた」

相手の視線が私の肩のあたりにさまよっているように見えたので、怪訝に思ってよく見ると、年老いたトカゲ族の両目は乳白色の膜で覆われていた——彼は盲目だったのだ。向こうは目が見えないという事実が、いくぶん気を楽にしてくれた。私は冷静さを取り戻し、ありがたいことに、礼儀作法を思い出した。私はお辞儀をし——相手には見えなかっただろうが——、こう述べた。「お招きにあずかり光栄に存じます、デッシュ・ウルム様。私のような若輩者が、どのようなことで叡智の長老のお役に立てるでしょう?」

「気をつけられよ!」彼はしわがれ声で叫んだ。鱗に覆われた両手が泥の中から現れたかと思うと、浴槽の縁をつかみ、腕の力で上体を持ちあげる。「お前の肌の乾いた魔術師たち——彼らのことで、横糸がほどけつつあるのじゃ」そう言うと、アルゴニアンの老人はやや落ち着きを取り戻し、両手で螺旋形を描く見慣れないジェスチャーをした。「由々しき事態じゃ。アウルビクのかせ糸たちが悪意によって分かたれてはならぬ」

このところ魔術師たちと過ごしているおかげで、私は彼の言う意味を推し量ることができた。「モリアンとディヴァイスのことですか?2人の身に危険が?私はどうすればよいのでしょう?」

デッシュ・ウルムはあごを2度鳴らしてから言った。「お前様は有能じゃ。彼らを止めなければならぬ。お前様は勝つじゃろう。万一敗れれば——」額に生えた3本の鋭い棘状の突起物が立ちあがる。「——その川を泳ぐ者たちすべてに悪夢と鋸歯状の刻み目がもたらされるじゃろう。カオック!」歳ふりたアルゴニアンはだしぬけに浴槽のなかでばちゃばちゃやりだし、泥を周囲にまき散らした。「セイラル!」

〈尾を上げる者〉が昆虫の甲殻でつくったとおぼしい水差しにさっと手を伸ばし、栓を抜くと、茶色の液体をトカゲ族の老人の喉に注ぎ込んだ。「行って!」部屋の出口を指さし、彼女は鋭く言う。「お師匠様がそう言ってるの!さあ早く!」

私はきびすを返して部屋を出ると、傾斜路を下り、玄関を抜け、走って帝都の市内に戻った。

クラフトモチーフ10:インペリアルスタイルCrafting Motif 10: Imperial Style

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

帝都…私はこの街に憧れていた。若いころ、故郷のスキングラードはどうしようもなく田舎臭く思え、年に1度ハートランドを訪ねる母親に同伴する機会が来るのを待ちわびたものだ。私にとって帝都は学びと文化そのものであり、私が愛おしむすべてのものの縮図だった。

私は今、その帝都の街路を歩いている。地区から地区へと移動しつつ、街並みに目を凝らす。スキングラードはたしかに田舎臭く思えたが、それでもコロヴィアらしい町ではあった。直截的かつ簡潔で、すっきりとした線で構成され、質素で禁欲的な趣をそなえる。そこに暮らす人々もまた同様だ。

それに対して帝都はというと、城壁と白金の塔はアイレイドが作ったものだから除くとしても、ニベンの色彩が強い。洗練され、装飾過多で、捉えがたく、隠微なのだ。

退廃的で、爛熟しているのだ。

…そこに住む人々やそこに引き寄せられる人々がそうであるように。

私は間に合わなかった。

モリアンは行ってしまった。ディヴァイス、呪うべきディヴァイスの助けを借りて夢をかなえ、オブリビオンに旅立ってしまったのだ。セイフイジによると、モリアンは計画通りムーンシャドウにたどり着いたものの、そこに留まらず、なおも旅を続けたのだという。ムーンシャドウからアッシュピットへ。アッシュピットからコールドハーバーへ。コールドハーバーからクアグマイアへ。クアグマイアからアポクリファへ…

そしてアポクリファで、彼は足をとめた。

平板なはずの爬虫類の声を震わせながらセイフイジが教えてくれた。オブリビオンに足を踏み入れてから、モリアンはますます向こう見ずになり、次の次元へと通じるポータルをくぐるたびに、どんどん有頂天になってゆくように見えたこと。助手である自分がいくら戻ってきてくれるよう懇願しても、耳を貸そうとしなかったこと。モリアンがアポクリファに…魅入られてしまったこと。

セイフイジ・ヒッジャは取り乱していた。頭を抱え、背びれをしょんぼりと垂れさがらせたその姿は、明らかに途方に暮れている者のそれだった。自分でなんとかするしかない。そう悟った私はディヴァイスの部屋へ走った。セイフイジから留守だと聞かされていたが、モリアンと連絡を取る何らかの手立てが見つかるかもしれない。あるいは、助けを求める私の声に、ディヴァイスなら反応してくれるかもしれない。

ディヴァイスの部屋では、1冊の本しか見つからなかった。机の上に置いてあったその書物の題名は「フラグメンテ・アビーサム・ハルメアス・モラス」。デイドラ公ハルメアス・モラスを呼び出す儀式について書かれているとおぼしきページが開かれており、そこには次のようなくだりがあった。「いかなる代償であろうとも、必ずや支払うべし」

アポクリファの王ハルメアス・モラを呼び出す儀式…

私はモリアンの研究室に急いだ。徹底的に調べたが、手がかりになりそうなものは1つしか出てこなかった。それは丸められた紙切れで、広げるとこう記してあった。「汝がオブリビオンに入らんとするとき、オブリビオンもまた汝に入らんとす」

モリアンは行ってしまった。彼はアポクリファに渡り、そこに留まっている。

だから、私は地区から地区へとさまよい歩きながら、思いをめぐらせている。アポクリファの王がディヴァイス・ファーに求めた代償はなんだろうか?モリアン・ゼナスを魅了し、虜にすることの対価として、ハルメアス・モラはディヴァイスに何を求めたのだろう?

私は帝都の大路小路をあてもなくさまよいながら、自問自答を繰り返している。

私はいつ、代償を支払う覚悟ができるだろうか?

クラフトモチーフ11:古代エルフスタイルCrafting Motif 11: Ancient Elf Style

セイフイジ・ヒッジャ 著

先生、モリアン・ゼナスは行ってしまわれた。レディ・アルフィディア(いつもはルプス博士と呼んでいた)も姿を消した。姿を消したと言えば、あのテルヴァンニ家の男もそうだが、少なくともあいつに関しては、いなくても寂しいとは思わない。あのいけすかないエルフときたら、教授の目を盗んでは「鱗肌の助手風情」が云々と意地の悪いことを口にしていた。

そうとも。あのテルヴァンニ家の男が消えてくれて、むしろせいせいしている。しかし、他の2人については…

私はできるかぎりここに留まり、教授の住まいをきちんとしておくつもりだ。誰かが手記や試料を整理整頓し、蔵書のほこりを払わねばならない。私はまだ教授が帰ってくるという希望を捨てていない。今のところ大学は教授を「長期休暇」扱いとし、私が教授の居宅と研究施設を維持できるように俸給を送ってくれている。

あるとき教授の机を整理していた私は、偶然、数冊のノートを見つけた。それはレディ・アルフィディアの優美な筆跡でしたためられた研究ノートだった。複数の文化様式における被服や武器防具を題材にした、未完の労作だ。川の流れがゆるやかな今日このごろ、私は(望むらくは)ルプス博士がそうしたであろうやりかたに近いやりかたで、これらのノートをまとめあげようと決心した。

今日のタムリエルに存在するエルフの主要な社会がそれぞれ備える様式に関する研究ノートは、すでにまとまってはいるものの、まだ言及しなければならない要素が残っている。というのも、自らの祖先と血統を大切にするエルフは、アルドメリ文化の歴史に特別な敬意を抱いているからだ。エルフが初めてタムリエルを征服し植民地化した神話紀を、彼らは模倣すべき黄金時代と見なしている。結果として、当時の衣服と防具が本当の意味で時代遅れになることはかつて一度もなかったし、多くのエルフは古代アルドメリの様式と作法にいまだ愛着を感じているのである。往古のアイレイドやチャイマーのような装いをしたハイエルフやダークエルフに出くわすことは、タムリエル大陸でさえ珍しいことでもなんでもない。こうしたいでたちをエルフは「ゆったりとした襞を多用したエルノフェイ・スタイル」と呼ぶが、エルフ以外はたんに「古代エルフスタイル」と呼びならわしている。

(ここで、不在のレディ・アルフィディアに代わって私見を付け加えたいと思う。私自身、長年帝国の首都で暮らしているが、ウッドエルフに限っては、この古代エルフスタイルの装いをした手合いにお目にかかった試しがない。どうやらボズマーは我々アルゴニアン同様、今現在に生きることを好むようであり、昔の流儀にはさほど敬意を払わないように見える)

古代エルフスタイルは、サマーセット諸島やモロウウィンドに暮らす現代の匠たちが好むエルフ様式とまったく同じというわけではない。前者のほうが、いくぶん有機的な度合いが強く、かつ、より抽象的でもある。流れるような植物のモチーフが使われるのは同じで、たいてい先細りして尖った先端や終端に収束するのだが、これはいたるところにアイレイドの遺跡があり、鋭角なアーチを見慣れているシロディールの住民にはなじみ深いものだ。古代エルフスタイルでは円、半円、円弧がふんだんに使われ、しばしばそれらのなかに先細りする有機的な巻きひげが描かれるが、これはエドラ(エルフが自分たちの祖先だと主張する人々)がムンダスの創造によって束縛されたことを象徴しているように思える。

(え?今のはなんだ?「気取ってること、セイフイジ!」だって?まるでレディ・アルフィディアに耳打ちされたような…)

クラフトモチーフ12:蛮族スタイルCrafting Motif 12: Barbaric Style

セイフイジ・ヒッジャ 著

引き続き、アルフィディア・ルプス博士が残した、さまざまな文化様式における被服および武器防具の研究ノートの編集を進める…

誉れ高き我らが第二帝国による文明化の影響にもかかわらず、タムリエルには今なお文化果つる辺境があちこちに残っていて、そういった場所には未開の部族が住んでいる。おそらく、我々シロディール人にとって最もなじみ深いのは、スカイリムとハイロックにまたがる荒涼たる山岳地帯に住む蛮族、リーチの民だろう。ブルーマの周縁部で略奪をはたらく彼らの姿が見られたのは、さほど昔の話ではない。リーチの民のほかにも、モロウウィンドのアッシュランダー、ブラック・マーシュに住む好戦的なコスリンギ、中央ハンマーフェルのケット・ケプトゥ等々、数多くの蛮族が存在する。

こうした数多の蛮族が、それぞれ大陸の遠く離れた場所に暮らしながら、服装に関しては驚くほど嗜好が似ているというのは、奇妙だが否定できない事実だ。それがいったいどういう理由によるのかは、もっと思弁的な民族誌学の研究に任せるとしよう。本稿は、単なる記述的研究にすぎないのだから(したがって、記述を続けよう)。

「バーバリック」と呼ばれるこの氏族的あるいは部族的な様式は、実のところ、洗練度において他の文化の様式に引けを取らない。いわゆる「蛮族」たちは、単に気取った抑制というような考えをことごとく蔑んでいるだけであり、けばけばしさや悪趣味をことさら好むに過ぎないのである。彼らのあいだでは鮮やかな色彩が好まれ、素材をどんな色合いに染めるかに関してはほとんど制限がない。装身具にはたいてい頭蓋骨、鹿の骨、羽根、紐でつなげた歯などが使われるうえ、銅箔によるアクセントが加えられる。また武器については、これでもかというぐらい大きなものを、これみよがしにいくつも身に着けるのが普通だ。

(ついでに言うなら、上の記述の多くは、我が故郷ブラック・マーシュの様式にも当てはまる。かの地が「バーバリック」などと形容される謂れはほとんどないにも関わらずだ!…この文化様式については、別の機会にあらためて取り扱おう)

クラフトモチーフ13:野生スタイルCrafting Motif 13: Primal Style

セイフイジ・ヒッジャ 著

引き続き、アルフィディア・ルプス博士が残した、さまざまな文化様式における被服および武器防具の研究メモの編集を進める…

完全装備をしたゴブリンの族長を見て、読者諸賢はこう思うかもしれない。なんてちぐはぐな恰好なんだ。原始的な装備品を手当たり次第に身に着けただけじゃないか、と。けれども、それは間違いだ。族長が身に着けているものは、すでに評価の定まった優れものを注意深く選び抜いた逸品であり、数千年の伝統に裏打ちされた選定を表しているのである。これは我々民族誌学者が「野生」と呼ぶ武器防具の様式であり、その独自性と識別のしやすさは他のどんな文化にも劣らない。

プライマルを自分たちの文化様式として採用したゴブリンその他の種族は、たいてい、ゴミ漁りとお宝の回収を得意とする。捨てられたもののなかにも、まだまだ使えることはもちろん、他よりも優れた品質さえ備え、なおかつ野生の美意識にかなうような装備品はいくらでも存在する。彼らはどこを探せばそういうものが見つかるかを嗅ぎ分ける特殊な嗅覚をそなえているようにも見える。そして彼らが自分たちのいでたちに対して抱いている誇りは、帝国のどんな百人隊長にも劣らないのだ。

グウィリム大学のイントリケイトゥス博士による最近の研究は、上記を裏付けるばかりでなく、「野生」というのがこの様式を形容するのに最もふさわしい言葉であることを示す新情報をも発掘した。虐殺された「ナイフビター」というゴブリンの部族がまとっていた原始式の装束を57組調べたところ、死体が身に着けていた品々の多くは、数千年とは言わないまでも、数百年は昔のものであることが判明したのだ。グリーブやキュイラスのなかには第一紀初期のものと思われるものがあり、そうした装備品にはその後歴史に埋もれてしまった古代の鍛造技術が使われていたという。はたしてゴブリンたちは、巷間言われてきたように、それらをシロディールの古代遺跡から掘り出しているのだろうか?それとも、彼ら自身の手で、悠久の過去から現在へと、いくつもの世代を仲立ちにして受け継いできたのだろうか?

ええ、ゼナス教授。教授はそういうふうに「悠久」とお書きになります。えっ…どういうことだ?教授?今のはあなたのお声ですか?

クラフトモチーフ14:デイドラスタイルCrafting Motif 14: Daedric Style

セイフイジ・ヒッジャ 著

引き続き、アルフィディア・ルプス博士が残した、さまざまな文化様式における被服および武器防具の研究ノートの編集を進める…

ルプス博士による小論集「種族別のモチーフ」の掉尾を飾るこの項目がデイドラの武器防具であるのは、まったくもって妥当である。というのも、不在のレディ・アルフィディアは消息を絶った我が師モリアン・ゼナス教授の後を追って、いかなる方法を使ってかデイドラが支配するオブリビオンの次元に赴いたものと私は信じているからだ。そして、教授のささやき声がほとんど絶えず聞こえてくるようになった今こそ、ルプス博士のノートのまとめを締めくくり、オブリビオンへの扉をくぐった教授の旅について語る段階に移行する潮時であると考える。

デイドラは教授がしばしば言っていたように混沌の獣であり、巨大なエネルギーと力を併せ持つ存在だが、創造性というものを完全に欠いている。彼らは模倣や誇張はできるし、改悪もできる。しかし、新しいものは何一つ生み出すことができない。創造という能力は本来エドラと、彼らからその能力を贈られた我々ニルンの定命の者だけに備わっているのである(ブラック・マーシュではもちろん見解が異なる。上記はあくまでも教授とレディ・アルフィディアの考えであることに留意されたい)。

それゆえに、ルプス博士が「人間型」と呼ぶドレモラ、ズィヴィライ、ゴールデンセイントのようなデイドラの武器防具は、我々にとってなじみ深いタムリエル様式の胴当て、胸当て、ポールドロン、剣、槍、弓で構成されている。それらは我々の目には、風変わりな鋲と大げさな飾り線文様で飾られているように映るかもしれないが、デイドラの鎧一式の内側を見れば、そこには、見慣れた詰めものや革ひもがついていて、普通の体型をした者ならば誰でも着用できるようになっている。デイドラの剣を手に取れば、その異様な形状にもかかわらず、柄はしっくりと手になじみ、目方のバランスも良好だと分かる。実際、「モラグ・バルの戦棍」のような名高いデイドラ公のアーティファクトは、そのほとんどが、魅入られた、あるいは強要された定命の匠の手で作られたと言われているほどだ。

ええ、教授。もう充分だと思います。少なくとも当面は。親切だった博士に対する義理はこれで果たしました。さあ、私はあなたの書斎で机につき、耳をそばだてています。もう一度ムーンシャドウのことを話してください…

クラフトモチーフ29:魂なき者スタイルCrafting Motif 29: Soul-Shriven

コールドハーバー王宮の騎士、騎士道の勇者、無防備な者を守る者、魂なき者の指導者 アンドーンテッドのキャドウェル卿 著

ここコールドハーバーにはタムリエル全土から人々が集まってきている。彼らを責めることができるか?この王国は楽園のようなものだ!それと、今思えば食の面では矛盾している。なぜなら、我ら魂なき者は生きているが、食べはしない。最後に少しでも腹が減ったと感じたのはいつだったか、覚えてすらいない。おかしいだろう?なぜなのだろうか?

だがそれはいい。本題はこれだ:スタイル!厳密には魂なき者のスタイルだ。全てのスタイルから吸収しているため、スタイルなきスタイルなのだ!全てのいいところ取りだと思わないか?

我々の武器を見てみろ!とがった凶器に戦闘向けの付属品が本当に豊かだ。短剣:魂なきカジートの波状の短剣!戦棍:魂なきオークの上質なとげとげ鎖鉄球!剣:カマリの馬鹿げたまっすぐな剣ではなく、本物のアカヴィリ、あのずる賢いツァエシが使っていた本物のカタナだ!そして斧:大鎌のついた格好いいやつだ…本物の大鎌…いや、正直に言うとどこからきたものか知らないが、ほぼ間違いなくどこか楽しいところだろう!

そして鎧も見てみろ!ほら!似たようなものは見たことがないが、私はその見た目が好きだ。あれは…何といえばよいだろうか?なんだかごちゃごちゃに混ざって分かりにくいだろう?そこらじゅういろんなものの断片が寄せ集められた感じで…少し精霊に似ているが、着心地は何倍もいいし、あんなに刺激的ではない。

そこで、少しでもスタイルに関心があるのなら、無鉄砲な冒険に向けて魂なき者の武器や防具を作ってみてはどうだろうか?魅力的だし、全くもって怪しくない。いやまあ、少なくとも怪しすぎることはない。

タムリエルの釣りの手引きA Guide to Fishing Tamriel

「老いぼれスローターフィッシュ」 著

釣りはいいものだ。農耕の大変な時期のあとや妻になじられた長い夜のあと、ちょいと釣りに出ることよりいいことなんてない。

自然の中に自分だけ、木々の間を抜ける風や岸に寄せる波の音を聞く。これで大抵の男は満足だ。価値のある獲物を釣るなんてことは考えちゃいない。だから森で居眠りしてると妻やご近所に思われるんだ。

だが真の釣り人は常に、うまい料理に使えるようなでかい魚でびくをいっぱいにしたがるものだ。それには何を釣ればいいのか、そいつはどこにいるのか、餌は何がいいのかを知らなきゃならない。これがタムリエル中で見つかる一般的な魚だ:

スローターフィッシュとトロッド:
こいつらは下水道、悪臭のする沼地や腐乱死体のそばの水たまりなど、どにかく汚い水にいる。安全な壁の中にいたい街の住人たちのお気に入りだ。この魚たちははい虫や魚卵に引き寄せられる。

サケとリバー・ベティ:
このうまい魚の住みかは清流だ。餌は昆虫や小さなシャッドをよく食べる。

スペードテールとシルバーサイド・パーチ:
日差しを遮れる深い穴や茂みのある湖をこの魚は好む。小さなカエルやグアル、鶏などの内臓、それに小さなオーシャンミノウが一番の餌だ。

ズフィッシュとロングフィン:
海辺にいるなら、このきれいな魚を手づかみで捕まえてみるといい。庭によくいる虫や小さなチャブがこの魚の中でも大物を誘うだろう。

これが今度釣りに行った時に役立つことを祈っている。これならきっと大漁で家に帰れる。誰にも1日を無駄にしたと責められることはないだろう。

バカでもできる木工Woodworking For Simpletons

「スカヴィンのヘボ大工」ことホアリー・ドゥロッツェル 著

おふざけはそこまでにしときな、鼻たれども。手に職をつけねえ限り、おめえたちにゃゴブリンの糞ほどの値打ちもねえ。そしてオイラは、小屋を身内の糞の臭いで満たすつもりはねえんだからな。

今日は木工のイロハを教えてやる。おい、腹を鳴らすのはやめて聞けってんだ!木工はまっとうな商売だ。おめえたちもこのホアリーを見直すことになるだろうぜ。いいか、テボンズでもついてこれるよう、優しい言葉で教えてやっから安心しな。

まずはこの斧を持って森に行くんだ。古い切り株や岩の近くで苔むした丸木を探しな。見つかったら斧で叩き割って粗目のカエデ材を10持ち帰るんだ。何?なんでそう呼ぶかだって?粗目だからに決まってんだろうが、この馬鹿ガキ!とにかく何かをこしらえようと思ったら、それだけの数は入り用だぜ。

次に、集めた粗目のカエデ材10を木工場に持ってくんだ。そこで、粗目のカエデ材を上質のカエデ材に変えるってわけよ。これを、この商売じゃ「加工」って呼んでる。いや、研磨じゃねえ、加工だって!できあがるのは上質なカエデ材だ。全然紛らわしくなんかねえだろ!

その次は——おい、聞いてんのか?ここは大事だぜ!スタイルも決めねえで、ただ闇雲に上質なカエデ材を削り始めることはできねえからな。わかるか?スタイルだよ、スタイル!タムリエルの全種族は固有のスタイルを持ってて、それぞれ好みの素材も違うんだ。

アルゴニアンはアルゴニアンスタイルで素材を加工すんだ。わかるかい?じゃあ、街でスタイル素材を仕入れてくるがいいぜ。木工師から買うに決まってんだろ、このイカレポンチが。ええい、どの木工師からだろうと構いやしねえよ!

さあ、いよいよスタイル素材と上質なカエデ材3つを持って木工場に行き、カエデの弓を作る段だぜ。弓弦のことは気にしなくていいからな。いや、だから無視して構わねえって言ってんだよ!しなやかなウッドエルフの踊り子の脚みてえな弓をつくることに集中しな。うん?踊り子?おめえたちにゃ関係ねえ話だよ!

「それだけ?」ってのはどういう意味だい?八大神の名にかけて、それだけのわけがねえだろう!木工はもっと奥が深いもんよ。材料を増やして品質を上げることだってできるし、完成した木工品を改良することだってできるんだ。

だから今それを話そうと思ってたところだって!カエデの弓は〈樹脂〉で改良してはじめて仕上がったと言えるんだ。〈樹脂〉なら、そこらで見つかるはずだぜ。「そこら」と言ったら「そこら」だよ!言っとくがな、充分な〈樹脂〉を用意しねえで改良しようとすると、弓はおしゃかになるし、〈樹脂〉も無駄になるから気をつけるんだぜ。

ああ、森に行けばいつだってカエデはあるぜ。ん?どういう意味だ?砂漠で過ごす予定でもあんのか?ああ、そういうことか…いいだろう。砂漠じゃカエデを見つけることはできねえ。なぜって砂漠にゃ森がないからな。だが、おめえにゃカエデの弓がある。そいつを木工場に持ってって、弓そのものから必要な素材を取り出せばいい。もちろん弓はおしゃかになる。オイラたちはこの処理を「解体」って呼んでる。おめえの姉妹がこさえる出来の悪い詩みてえなネーミングだけどよ、とにかく鑿さえあればそいつができるってわけだ。

なぜそんなに木工がうまくなったかだと?分析のおかげだよ。いや、本を読んでお勉強するのとは違うぜ。できのいい木工品が手に入るたび、オイラはそいつを分解して調べたんだ。そこらのガラクタとどこがどう違うのかを学ぶためにな。そりゃあ時間がかかったし、分解すればその木工品はおしゃかになったが、オイラは気にしなかった。どうやってそれをつくったかさえ分かれば、てめえでいくらでも新品を作れるわけだからな。

さあ、いい加減その口を閉じなよ、テボンズ。飛び込んできた肉喰い蝿を飲み込んでしまう前にな。

基本調理ガイドBasic Provisioning Guide

第七軍団糧秣担当下士官クロエリウス・マルギネンシス 著

私はこの20年というもの帝国軍第七軍団の補給責任者を務めているが、その間に1つの絶対的な真理を学んだ。それは、こと食糧の調達と供給に関しては、自分1人のためでも軍全体のためでも変わらないということだ。魔導将軍セプティマ・サルンの命により、実績と経験で我々に劣る他軍団の補給担当者の力となるべく、ここに私の知識を披露する次第である。

ステップ1:材料の調達

戦場において、味方兵士たちが食糧貯蔵庫として当てにできるのは、貴君のバックパックしかない。したがって、見つかるものは手当たりしだいに徴発すべし。樽、箱、穀物袋…こういったものからは漏れなくその一部を差し出させなければならない。

帝国兵士として、貴君には欲しいだけ徴発する権利がある。とはいえ、節度は保つべきだ。食料庫を空っぽにされた市民は、帝国の横暴をなかなか忘れまい。私は単純に、1つの樽、箱、あるいは穀物袋から徴発する量としては、片手に一杯、柄杓にひと掬い、数えられるものであれば1個にとどめておくことを自分に課している。

ステップ2:レシピの入手

自分が調理師であって、シェフではないことを忘れないように。貴君は何も、シェイデインハル女公爵が召しあがる食事をこしらえているわけではないのだ。部隊の腹を満たすことさえできれば、味なぞどうでもよろしい。貴君に必要なのは、手間がかからずシンプルで、大量に作るためのレシピだ。

鶏の胸肉のローストを例にとってみよう。これをつくるには鶏が要る。ただ、正しいレシピがなければ、いくら必要な食材を知っていても無意味だ。レシピなしでは、手に入れた材料は単なる生肉にすぎない。住民には料理の材料を準備する彼らなりのやりかたがあるものだ。したがって、物資の徴発にあたっては、レシピを見落とさないことが重要になる。

ステップ3:調理、調理、ひたすら調理

レシピを頭に入れたら、集めた材料を調理場まで持っていく。いよいよ調理開始だ。くれぐれも焦がさないように注意されたし。

味方兵士たちには、彼らが最も必要としているものを供すること。斥候と尖兵にはふんだんな野菜が必要だ。魔術師には果物がいちばん効く。歩兵にはいつでもボリュームたっぷりの肉料理が喜ばれる。暖かい食事がときに生死を分けるということを、ゆめゆめ忘れないように。

補足:陣中における醸造

酒類の醸造については訊ねられることが多いので、特に紙幅を割く。まず、酒はポケット瓶1つぶんより多い量を作り置きしないことをお勧めする。そうすれば、味方兵士たちも、それが目覚ましい戦功をあげた者たちだけに与えられる褒賞だと理解するだろう。

とはいえ、戦いや閲兵式の直前など、部隊に景気をつけることが必要なときもある。そんなとき、私はその土地のレシピをひもといて酷い味の地酒をこしらえることにしている。それなら一種のショック療法で兵士たちに自信を与えられるし、とにかくまずいので病みつきになる心配もない。

ステップ1とステップ2は調理と同じだ。ではステップ3はどうだろう?

ステップ3:醸造、醸造、ひたすら醸造

レシピを頭に入れたら、材料を調理場に運び、醸造を始める。失敗しないように。

私は事前に材料を「寄付」してくれた現地住民に、余った醸造酒を分けてやることが少なくない。これは帝国の徴発方針とは異なるのだが、将来われわれほど勇猛果敢でない軍団の巻き添えを食って退却を余儀なくされたとき、部隊が現地住民の敵意に囲まれないようにするには些かの効果がある。

救済のお願いA Request for Relief

親愛なる財務府さま

今年私に課せられました税金について、考え直していただけますよう再度お願い申し上げます。確かに私は帝都に暮らす、認可済みの付呪師です。ですが状況が変わり、かつてはうまくいっていた商売も、今では収入を削るばかりなのです。

数年前、付呪師は付呪をかける対象物を使いました。さまざまな材料と道具を使い、必要な神秘の力をそれに吹き込むのです。このため、付呪師が競う相手は同じ街の同業者だけでした。多くの人々はわずかなゴールドドレイクを浮かせるために剣を下げて何百リーグも先の付呪師の元へ行くのは望みませんでしたから。街での値段は3、4人の付呪師による友好的な会合で決められ、十分な利益を上げられました。王家の権利により、街での営業には高額の税が課せられることもありました。

ですが今はすべてが変わりました。付呪師は望みの効果を閉じ込めたグリフを作るだけです。グリフは単なる宝石で、誰でも剣の柄頭や鎧の部品に取り付けられます。そうすればグリフ内の魔法がその品に流れ込みます。

簡単に思えますでしょう?これが市場の暴落を引き起こしたのです。街ごとの基準で決めた付呪の価格をつけるのではなく、タムリエルの全付呪師が競い合うことになってしまいました。ダガーフォールの三流付呪師が10個の炎のグリフを作り旅の商人に売ります。商人はそれを帝都に持ち込み、シロディールの付呪師たちが決めた値段よりずっと安く売るのです。

この競争により、今では材料費をわずかに上回るほどのゴールドしか得られません。そしてこれでは、あなた方が課した税を払えないのです。

あなた方がよそで作られたグリフの輸入を停めないのであれば、私がこの商売を続けるための税を減らしてください。このままでは20年住み続けた家を売り、商人の息子の家庭教師など、他の職業に就かねばなりません。

お返事を心よりお待ちしております。

疲れ果てた賢者

仕立屋入門A Clothier’s Primer

粉々の仮面 著

未来の挑戦者たちよ!俺様、粉々の仮面が戦ってきた相手のなかには、きちんとした履きものの重要性を理解しない連中があまりに多い。

この入門書では、貴様にシンプルな手織りの靴のこしらえかたを伝授しよう。もし将来「聖なるるつぼ」で貴様と相まみえるなら、貴様が負けるのは靴が満足に縫えなかったせいではなく、俺様の比類ない戦闘技能のおかげであってほしいからな。

ステップ1:黄麻の入手

未加工の黄麻は安く、豊富なうえ、編みやすい。一目でそれと分かる黄色い花を原野で探すんだ。なんなら、誰かに金を払って積んできてもらってもいい。闘技場で俺様が懲らしめたいのは、その手の怠け癖だからな。

ステップ2:布の加工

仕立台さえあれば、未加工の黄麻に手を加えることができる。プロの仕立屋はこの処理を「加工」と呼ぶが、加工は未加工の素材であればどんなものにも施せる。靴をこしらえるために必要な加工済みの黄麻を作るには、さしあたり未加工の黄麻が10要る。

もっとも、機織りなんぞやってられるか、というなら話は別だがな。

ステップ3:スタイル!

仕立屋たる者、自分たちの文化に固有のスタイルを守るものだ。何より、闘技場で目立つ格好をしようと思ったらスタイルが欠かせない。だから、自分が作業しやすいスタイル素材を見つけることだ。貴様がアルゴニアンなら、アルゴニアンスタイルの素材から始めるといい。仕立屋から買うもよし、貴様に負けて吠え面をかいている負け犬から取り上げるもよしだ。

ステップ4:靴の作製

スタイル素材と黄麻5(いいか、加工済みの黄麻だぞ。未加工の黄麻じゃ駄目だ)を持って仕立台に足を運び、さっそく作業に取りかかれ。手織りの靴を1足こしらえるんだ。使う黄麻を増やせば品質を上げられるが、まずは5から始めるのがいいだろう。

たやすい仕事だぞ!硫黄の王冠を勝ち取るという貴様のはかない、勘違いも甚だしい望みを打ち砕くのが、俺様にとってたやすいのと同じくらいにな。

粉々の仮面流仕立術

闘技場でそれなりの戦いぶりを見せる戦士ならば誰しも、ただの靴じゃ満足しない。その点、生皮のブーツなら防御力が上がるし、色鮮やかなサッシュなら闘技場で目立つこと請け合いだ。是非、こしらえてみるといい。仕立屋家業の勘所さえつかんでおけば、愛する者たちの目の前で俺様に恥をかかされたあとでも、食うに困る心配はなくなるぞ。

靴の改良

こしらえた靴、またはその他の衣服を改良するには、仕立台で「タンニン」を使う必要がある。ただし、慎重にやらないと、衣服もタンニンも途中で失われてしまうぞ。タンニンは、必要と思うだけ使うこと。

タンニンは自分で見つけるんだ。なんでもかんでも楽な方法があると思うなよ。

解体

貴様は手間を省きたいタイプかもしれない。未加工の素材を集める暇がないなら、要らなくなった衣服をいつでも解体できるぞ。解体すればその衣服は駄目になるが、その代わり、俺様に頭から吹っ飛ばされる運命の帽子を作るために必要な素材を回収できるだろう。

特性の調査

さて、そろそろ貴様はこう考えているだろう。「粉々の仮面と戦うには、何か強みが必要だぞ」と。それなら、自分より腕のいい仕立屋がこしらえた衣服をばらばらにし、使われている技術を学ぶのがお薦めだ。そうすれば、その衣服に固有の特性が分かる。とにかく、自信をつけるためにできることはなんでもするがいい——俺様がそいつを粉々に打ち砕いてやるまではな。

鍛冶の基本Blacksmithing Basics

ゼグ・グラ・ドゥシュ 著

オークの鍛冶夫人たちは言う。鍛冶のノウハウを知っているのは自分たちだけだと。そんな言い草はくそ喰らえだ!本書では鉱石の見つけかたから始め、鉱石からインゴットを取り出す方法を示し、さまざまな加工スタイルを説明したうえで、具体的な武器の作り方を解説する。これを読めば、君もすぐに鍛冶屋を名乗れるようになるだろう。

ステップ1:鉄鉱石の入手

鉄鉱石は最も扱いやすく、しくじっても簡単にやり直しがきく。まずは、大きな岩の露頭の近くで艶のないさび色の岩を探すこと。見つかったら掘り出す。自分で掘らない場合は、掘り出した人から買うか、知り合いに借りればいい。鉄鉱石の塊が10個集まったら、次のステップに進む準備は完了だ。

ステップ2:インゴットの加工

まず、鍛冶場を見つける。次に、鉄鉱石の塊10個からインゴットをつくる。この作業を「加工」と呼ぶ。理由が知りたければ、鍛冶夫人に訊ねればいい。

ステップ3:スタイルの選択

すべての種族が独自の鍛冶スタイルを持っており、それぞれ伝統的に好まれる素材が違う。憶えやすいように、ここではそれを「スタイル素材」と呼ぶ。私にはオークのスタイルが一番しっくりくるが、それは私がオークだからだ。君がアルゴニアンなら、アルゴニアンスタイルの素材から始めるといいだろう。素材が他で見つからなかったら、鍛冶屋に行けば売っている。

ステップ4:鉄の短剣の作製

鉄の短剣は簡単に作れる。必要なのはスタイル素材が1つ、インゴットが2つ。あとはハンマーをしっかり握った片手があればいい。これらがそろったら鍛冶場を見つけ、鉄の短剣を一振り作ってみよう。高品質なものを作るには使うインゴットの数を増やさなければならないが、さしあたって2つで充分だ。

ステップ5:作品の鑑賞

先に進む前に、しばし自分の作品を鑑賞しよう。それは「ただの鉄の短剣」とは違う。君が地面から鉱石を掘り出してつくった、命を奪うことができる道具だ。自分の作品には敬意を払うべし。

とはいえ、鉄の短剣では鍛冶夫人たちを感心させられないだろう。だが、あの連中に何が分かる?鍛冶仕事をする者は誰しも鍛冶屋を名乗る資格がある。何も鍛冶屋に嫁ぐ必要はない。今日は鉄の短剣しか作れなくとも、明日は黒檀の大剣を作ればいいのだ。

補足:上級鍛冶

本気で鍛冶夫人たちの鼻を明かしたいと思ったら、鉄の短剣以上のことを知らねばならない。

武器防具の改良

鍛造した武器や防具を改良するには、〈添加物〉を用いる。必要なときに見つかった試しがなく、いつも怒りに我を忘れる。

〈添加物〉が見つかったら、改良したいアイテムと一緒に鍛冶場に持ってゆく。〈添加物〉の数が多いほど、品質を向上させられる確率が高まる。ただし、成功する保証はない。失敗すれば〈添加物〉もアイテムも失われる。

〈解体〉

素材が足りないとき、武器や防具を〈解体〉して素材を取り出すことができる。〈解体〉すればそのアイテムは壊れてしまい、素材の一部しか回収できないが、インゴットを手っ取り早く手に入れたいときには便利な方法だ。

特性の調査

鍛冶夫人を戸惑わせる方法の1つは、彼女から最良のアイテムを買い、それを分解して彼女が作る武器防具の最大の特性を突きとめることだ。それが分かれば、その鍛冶夫人の最高傑作をコピーして、安く売ることができる。本気で彼女を怒らせたいなら、その鍛冶夫人の鍛冶場で作業を行えばいい。

弟子のための錬金術Alchemy For My Apprentice

言わずと知れた私より

我が愛弟子よ、お前が無駄にしてくれた錬金術の材料は、とうてい不問に付せる量ではない。我が師なら、かくも見下げはてた無能さにはとうてい耐えられまい。「教えるだけ無駄」、「本でも読んでいれば」などと突き放されるのが落ちであろう。そんな不肖の弟子のために、私はこの簡単な手引書をしたためた。希少な溶媒をもう1ケース調達するよりは安くあがるからだ。

万一この手引書を失くしても——お前のことだ、どうせ失くすだろうが——、捨て鉢になる必要はない。私はお前に年俸として支払うべき金を投じてこの手引書を大量に印刷し、ほうぼうに配布する手はずを整えた。いずれ、タムリエルじゅうの錬金術の作業場にこの小冊子が行き渡るだろう。

ステップ1:溶媒の入手

すでに承知の通り、どんな薬を調合するにも下地となる溶媒が要る。私の講義を一度でも真剣に聴いたことがあるなら、最も望ましい溶媒は自然に湧き出た清浄な水だということを知っていよう。水の純度が、薬の品質を左右する。したがって、水を汲むのに最も適しているのは自然の泉なのだ。

新鮮な水が湧く場所の必要性は、何度強調しても足りぬ。治癒の水薬に関する例の事故を憶えているかね?淀んだ水たまりや入り江の洞窟、製革所の下流などで水をすくって事足れりとしてよいはずがないのだ。都会であれば瓶入りのきれいな水がいくらでも手に入るだろうが、それでも自分で汲むに越したことはない。

ついでながら、お前の言う「雨水溶媒」は絶対に使いものになるまい。無駄な実験はただちにやめることだ。

ステップ2:試料の入手

錬金術は組み合わせの学問だ。溶媒が薬の下地であるのに対し、試料は薬の有効成分となる。1つの試料には、4つの特性がある。ここで方形混合の原理を——あらためて——お前に説明するのは気が進まぬが、基本だけは思い出させてやろう。そう、「似たもの同士を組み合わせるべし」だ。

今後、必要な試料は野や山で探すがいい。我が研究室ではなくな!よいか、草花とキノコ類を探すのだぞ。他のものは必要ない!いかなる状況下でも、この原則から逸脱してはならぬ。いつかお前が持ってきた「リスをすりつぶした粉末」などは、八大神に対する冒涜以外の何ものでもない。

なお、使った乳鉢と乳棒は念入りに洗い、きれいにしておくのを忘れぬように。

ステップ3:薬の調合

溶媒1種類と試料2種類を持って錬金台に足を運ぶがいい。くどいようだが、試料は種類の異なるものが必要となる。ムラサキ草とムラサキ草を組み合わせたところで、できあがるのはたんなるまずい水だ。

必要なものがそろったら、それらを混ぜ合わせて薬を調合する。プラスの特性を持つ試料同士を組み合わせれば、プラスの効能を持つ薬ができる。反対に、マイナスの特性を持つ試料同士を組み合わせれば、それをあえて飲もうという愚か者に害悪を及ぼすだろう。試料の特性が合わなければ、溶媒も試料も失われてしまう。

とにかく試料をとっかえひっかえし、どういう薬ができるか試してみることだ。そうすれば、おのずと試料の特性が分かってこよう。もっとも、試料のごく基本的な特性は食べてみれば分かる。ただし、食べるのは1つだけでいい。間違っても試料で腹を満たそうとするでないぞ!

そう言えば、お前はニルンルートを口にしただろう?ばれないとでも思っていたか?こうしていても歯の歌う声が聞こえるくらいだし、だいいち、光るおまるを隠す方法などないのだぞ。

上級錬金術の原理

あくまでも基本をマスターしたうえでの話だが、手の込んだことをやろうと考えるのもよかろう。注意深い研究を重ねれば、薬を調合する際にマイナスの特性を抑える方法、単純な試料の組み合わせから複数の薬を調合する方法、あるいは、試料を追加してより強力な薬を調合する方法さえ習得できよう!

しかし、さしあたって今は、「自分に毒を盛らないこと」を目標にすべきであろうな。

付呪は簡単Enchanting Made Easy

「ルーンをすなどる者」 著

付呪師には誰でもなれる。今何者であるかも、過去何者であったかも関係ない。私など、ひょんなことから付呪の世界に足を踏み入れることになるまで、20年間、ブラック・マーシュで魚を獲っていた。アルゴニアンの元奴隷漁師にマスターできるのだから、あなたにできないわけがない!

ステップ1:ルーンの入手

何年も前、ブラック・マーシュで漁をしていた私は、光り輝くルーンを見つけた。そのときはてっきりウィスプだとばかり思ったよ!ルーンは危ない場所でよく見つかる。だから、充分用心しつつ、そういう場所でルーンが埋まっている角ばった石を探すといい。

—赤い品質ルーンは魚の歳を思い出させる。稚魚はたくさん獲れるが、身が少ない。反対に、歳をくった老魚にはめったに出くわさないが、釣れれば大きい。
—青い潜在力ルーンは魚の味を髣髴とさせる。うまければ1日気分がいいし、まずければ敵に食わせるのにうってつけだ。
—緑色の本質ルーンは魚の種類のようなものだ。霜魚、鎧魚、毒魚…あとは考えれば分かるだろう。

タムリエルじゅうにルーンが散らばっているのはなぜかと訊かれることもある。でもそんなことは魔術師ギルドに訊いてほしい。自分は魚がどこから来るかなんて考えたこともない。考えたのは、どこに行けばたくさんいるかということだけだ。

(白状すると、私は色が識別できない。そういう向きはルーンの明るさを見るといい。品質ルーンは暗く、潜在力ルーンは明るく、本質ルーンはとても明るい)

ステップ2:付呪の作成

品質(魚の年齢)、潜在力(魚の味)、本質(魚の種類)の各ルーンが1つずつそろったら、付呪台に持っていく。さあ、ルーンを1つにまとめて、記念すべき最初の付呪を作成しよう!

漁を学ぶ最良の方法は、実際に魚を獲ってみることだ。付呪にも同じことが言える。付呪を作成する過程で、未知のルーンの意味と機能が分かってくるだろう。「ルーンがどのように魂と共鳴するかを理解しなければ、本当に理解したことにはならない」という意見もあるだろうが、そういう小難しいことは魔術師ギルドに任せておけばいい。

ステップ3;アイテムへの付呪

記念すべき最初の付呪が完成した。いよいよ、初めてアイテムに付呪する準備が整ったぞ!付呪を施し、魔力を付加したいアイテムを見つけるんだ。楽勝だろう?もちろん、そんなに簡単なわけはない。

付呪は選り好みが激しい。武器に使うのがふさわしいものもあれば、防具に使うのがふさわしいものもある。また、宝飾品にしか使えない付呪も多い。自分の手元にあるものよりも高品質なアイテムでないと使えない付呪だってあるかもしれない。そうそう、もし気が変わったら、アイテムを再付呪できるが、新たな魔法を付与すると、古い魔法は失われてしまう。肝心なのは、私の卵の姉妹が言うように、「その場にふさわしい魚を食べさせろ」ということだ。

補足:ルーンの抽出

作成した付呪が自分で使えなくても、がっかりすることはない!売ったり、交換したり、それを使える友達にプレゼントすればいい。

もちろん、付呪台さえあれば、付呪からルーンを抽出することができる。私はこれを「魚のわた抜き」と呼んでいる。この処理で付呪は駄目になってしまうが、使われているルーンの1つを回収できるので、それを別な付呪に使える。

宝飾の喜びThe Joys of Jewelry Crafting

宝飾職人フェラリアン 著

私たちの内には、それぞれ石がある。粗く、でこぼこで、控えめな石が。だがギザギザな表面の奥では色と、可能性の光が輝いている。精錬されていないが有望だ。そして少し磨くだけで、その石は美しく光り輝く宝石になれる潜在力がある。

私たちは誰でも宝飾の技を内に秘めているが、誰もがその力を見通せるわけではない。それゆえ、技を磨き始めるための方法について案内を書く役目を引き受けた。以下に記す簡単な手順をこなせば、どんな新米でも宝飾の基礎を学ぶことができる。

ピューターの粉末の入手

ピューターは入門者が最初に取り組むのに適した素材だ。加工が容易なだけでなく、呆れるほどどこにでもある。ただ荒野でピューターの鉱脈を探せばいい。鉱石と同じように、こうした鉱脈は通常岩の露出部分で見つかる。そこから必要なピューターの粉末を簡単に入手し、クラフトを始められるだろう。

ピューターのオンスの精錬

次に、ピューターの粉末をピューターのオンスへと精錬する必要がある。これはどの宝飾台でも可能だ。宝飾台は通常、大都市で見つかる。もちろん、可能なら自宅に自分用の宝飾台を置くことを推奨する。利便性は費用に十分見合うと思う。

指輪の作成

ここからがピューターのオンスを有効活用する時だ。簡素なピューターの指輪はクラフトで作れるアイテムの中で豪華なものではないが、最初のアイテムとしては上出来だ。この作業を完了するためには、やはり宝飾台が必要になる。

宝飾の解体

宝飾台は宝飾の作成だけでなく、解体のためにも使える。解体すれば指輪やネックレスを作成するために使った材料の一部を回収できる。例えばピューターの指輪を解体すると、ピューターのオンスが手に入る。もちろん、クラフトの大部分と同様、これによって経験値を得ることもできる。

特性の研究

宝飾はそれだけでも美しいが、非常に有用でもありうる。正しい特性を与えられれば、指輪やネックレスは体力、スタミナ、マジカを増加させられる。望ましい特性の宝飾を作るには、まずその特性をすでに有している宝石を研究しなければならない。例えば「堅牢」の特性を持つピューターの指輪を見つけたら、その指輪を研究すれば「堅牢」の特性を持つ新しい宝石を作る助けになる。残念ながら、このプロセスは常に研究されたアイテムを破壊してしまう。それが進歩というものだ。

終わりに

この案内を読んで、宝飾という栄誉ある技の探究を始めてくれることを心から願っている。上に記した基礎を覚えておけば、誰でも真の職人になる旅を始められるだろう。記述はこの辺にして、君の努力が実るよう祈っている!