オルシニウムの記録

Orsinium Archive

アーグドシュの送られなかった手紙Urgdosh’s Unsent Letter

ウラカ

スカルグは我々を真実に導いた。彼に対する評価が辛口だったかもしれないが、網の紡ぎ手に対する彼の愛は行き過ぎたものだと今でも言える。氷を砕くと小道に邪魔がなくなったが、彼は導くメファーラの歌の網が見えると言い張った。

ラコラ達一行を見つけた。負傷しているが生きている。彼らが麓で何を見たか信じないだろう、ウラカ。ドワーフの所業は見たことがあるが、今回は…

それは、ある種の鍛冶場で、見えない力を抑え込むように作られている。だが、この場所では周囲に力を感じる。ここはとても暖かいのに、何度となく体が震えている。

ドワーフの痕跡はなかった。ガーディアン達の誰ひとりとして、この場所を守るものはいない。瓦解しつつある。これほど風格があるのになぜ放棄しようとしたのか?

この地を自分達のものだと主張すべきだとグザルは言う。再建し、改造する。私達のものにする。忌々しいスカルグが言うには、それがメファーラの願いだと…私達が追うべき糸だと。意味不明だ。

すぐに帰宅できることを願っている。

—アーグドシュ

アイスハートの日記Ice-Heart’s Journal

包囲が続いている。クログと、薄汚いオークどもめ!

我がウィンターボーンが進撃を行った後、いわゆる豚の子供どもの王が外遊から帰国し、オークのクランを束ねた。突然、我が戦士長達は追われる身となって次々と殺され、我が隊の戦士は四方に散り散りになった。だがいいか。我々はこの包囲を耐えてみせる!

このブレトンのかつての砦は、神に遣わされたものだ。あの愚かな豚の子供どもに突破されなどしない。ましてやハーピーをやり過ごすなどとうてい無理だ。ハーピーが無警戒のオークを急襲して捕まえるのを見るのは最高だ。オーク達を凍らせ、粉々に砕く音を聞くのに負けず劣らず楽しい。だが、これほどの建造物を誇ったブレトンがこの地を制圧できなかったのは不思議でならない。彼らは豚の子供どもより愚かだったに違いない!

我々の店を支援する物資は毎日続々届いている。愚かな豚の子供どもめ!彼らがロスガーに送り込んだキャラバンは1つ残らず、我がウィンターボーンにとっての雑貨屋になるのだ。支払いを気にせず、望みどおりのものを手に入れられる雑貨屋だ!確かにクログが召喚したよそ者達には、いささか手を焼いている。だが結局は大差ない。到着したそばから殺すのだ!

ハグレイヴン達は完璧な手順を続け、ブライア・ハートを育て、彼らを使ってブライア・ハートの戦士を作り出している。あの木は魔法による見事な逸品だ。とりわけあれを考えたのがハグレイヴン達だと思うとな。しかし、たとえ出所がどこであろうと、私は優れた案を却下したりはしない。ブライア・ハートのおかげで我が戦士達は不死身だ。だからこそウルフォン・アイスハートはこの戦いに勝つのだ。だからこそウィンターボーンが勝利を得るのだ!

アゴラスの日記Agolas’s Journal

項目297
新しいカモを見つけた。ザバニはオルシニウムがどういうところか何も分かっていない。こいつを利用して王のコーナークラブに侵入するか?

項目298
奴を金庫の近くに行かせ、中身を頂いてから、何も知らないカモのザバニを衛兵に差し出してやった。奴が罪を負い、俺がブツを得るってわけだ!

項目299
こんな手間をかけて、醜いマグが手に入っただけか?

項目300
どんな盗品商もこれには手を出さない!グリーディー・ガットでアスティルムと会えるよう手配しないといけない。彼女は何でも買う。これはケリがつくまで、水道橋の岩の北に隠しておく

X = 水道橋の橋脚、細い木、灰色の大蛇

アゴラスへのメモNote to Agolas

アゴラス

この不細工なマグを守るのに、なぜこれほど難しい鍵を使っているのか理解できない。感傷的な価値でもあるの?

急いでキャンプに戻るわ。盗賊ギルドであなたの友人達に会うのが待ち切れない!

—Z

ウィンターボーンのメモWinterborn’s Note

マイルナ

ウチュイラン戦士長は何も説明してくれないが、失踪の原因を突き止めたと思う。戦士長の愛人、ハグレイヴンのクラーラが鳥の剥製のトーテムを使って、囚人を鳥に変身させていた。

ハグレイヴンは、変身の技を囚人だけに使っている訳じゃなさそうだ。仲間たちにもトーテムを使っているんだ!できるだけ早く逃げろ。私も―

〈乾いた血で汚れ、手紙の残りは読めない〉

エチャテレのすべてAll About Echatere

スタグブラルツ・グロー・シャトゥル 著

食事の時に、何が腹を満たしてくれる?エチャテレだ。寒さが厳しい時に何が身を包んでくれる?エチャテレだ。忘れるな。エチャテレは食い物だ。エチャテレは服だ。これが放牧地の最初の掟だ。

エルフが村にきてエチャテレが「かわいい」とか「気高い」とか抜かしたら。ぶん殴ってやれ。エチャテレはかわいくも気高くもない。醜く、嫌らしく、尖ってる。エチャテレを愛すれば、エチャテレに殺される。これが放牧地の第二の掟だ。

口笛を吹かずにエチャテレを集めることはできない。だが口笛を吹くとエチャテレは怒る。それでもやらねば食べることができない。死なないためには殺される危険を冒さねばならない。これが放牧地の第三の掟だ。

エチャテレを屠る時は、喉を切ってその血をたらいにためろ。さもないと、中から腐ってしまう。これは掟ではない。常識だ。腐った肉など食いたくない。

エチャテレの子供に名前を付けると、子供が夢中になってしまい、屠る時に泣かれる。だからエチャテレが区別できなくて、どれがどれだか分かるように名前を付けたい時でも、「バカなハムスター蟹」とか「毒々しいの」とか「尖りすぎ」といった名前にしろ。オーク風に名づけてはならん。そうしないと子供がなついてしまって、一生恨まれることになる。

これが放牧地の掟のすべてだ。これを守れば群れは増え、腹も満たせ、子供にも嫌われなくてすむ。

追記:エチャテレが一匹の時はエチャテレだ。二匹ならばエチャテレズだ。誰でも知ってることだ。だが一生放牧しているなら、「エチャテレが5匹あっちにいる」と言っても構わない。なぜならあいつらはみんな同じだからだ。

オークと牙Orcs and Their Tusks

非公式の研究
フォルムズ・セレス 著

典型的なオークの牙の魅力とは何か?断言する。彼らがあの牙をこまめに磨き研いでいなかったとしても、あらゆる反射する表面を間近に見て、隣の牙を物欲しそうに眺めている。そしてこれらを行わない時は、自らの牙をほとんど家宝や古代の遺物のように語る。言っておくが、これだけでもこのダークエルフを怒らせるには十分だ!

牙にまつわる執着についてオークにずばり聞くのは失礼だと思うが、日常のオークの会話に牙という言葉と概念がどう使われているか学ぶことは、理解がある水準まで達する役に立つかも知れない。この目的のために近づいた最初のオークは女で、ここではオーカと呼ぶ。怒った顔をしていた。少なくとも怒っているように見えた。平均的なオークの顔つきとなると、その違いは区別しにくい。オーカは怒った声で「牙を外せ!」と言ってきた。

何て奇妙な言い回しだろうか。「牙を外せ」とは。シンプルで断定的だ。ほとんど意味をなしてないが、オーカの口から発せられたのだ。私に何を求めたのかははっきり分かった。彼女が傍らに吊してあった斧に手を伸ばすのと同時に、私は大慌てで詫びながら側から離れた。

これを機にオークの他の表現も、さまざまな場面で耳にする言葉を含め、考えるようになった。例えば「マラキャスの牙にかけて!」という言葉は、感嘆の言葉として万能で、そのオークの有名無名具合にかかわらずぴったりの名詞代わりだ。私はオーク達が何々にかけてという時の何々に、マラキャス、トリニマク、クログ、バズラグ、鍛冶の母アルガ、ほら吹きのウルゾ、さらには暖炉の母や、誓った当人以外誰も覚えていない古代の先人を当てはめて誓うのを聞いたことがある。そして誓いに使った牙は、目先を変え、削り、割り、壊し、欠けさせ、刺し、様々な影や色にした。

他にもオルシニウムの酒場で何度も聞いた表現に「牙を蹴るよりいい」がある。何か不愉快な経験をしても、他の不愉快な経験ほどではないという意味のようだ。オークの1人がもう1人に「ヒルがうじゃうじゃいる池にお前が落ちたと聞いた」と言うと、もう1人がこう感嘆する。「牙を蹴るよりいいわ」と。オークがどんなにひどい苦労を味わっても、もっと悪いことがあるかも知れないと私は結論づけた。オークの牙は非常に傷つきやすく、蹴ると耐えがたい痛みをもたらすのだろう。あるいは、それは単なる話し言葉で、会話からより深い何かを暗示することはできないのかもしれない。オーク達には本当に混乱させられる。

しかし、これは言わば牙の豆知識に過ぎない。オークの酒場で数時間過ごすと、牙に関するありとあらゆる表現を耳にできる。「牙にしてやる!」「誰が牙を渡す?」「馬鹿者に牙を刺す!」「牙とは?」「周囲に牙するのはやめて!」「私に牙を!」。そして私のお気に入り候補は「自分に牙を刺せ」で、一見無理な注文に思えるが、オークの牙が肉親に対して何ができるか見ている。オークはこういう横暴な提案をする者は嫌いなようだ。

牙の話題をオークと議論するためにもう1つ試してみようと決めた。今回選んだのは、人目を引く若い女で、暗い隅に腰を下ろし、オルシニウムのピンクの黒葡萄ワインのボトルを飲み尽くそうとしていたところに、オークの言葉における「牙」のいろいろな使い方について話してくれないかと頼んだ。

「牙はだめ!」と彼女ははっきり言った。それでも私は粘った。

「牙でからかう気なの?」と彼女は尋ねた。私が「牙でからかう気はない」と言うと、彼女はこぶしを丸めて、私の尻をなぐった。

「牙!」と私は叫んだ。こうして私は牙の本当の意味を理解できた。

オークの古いことわざ:盾Old Orc Sayings: Shields

これはオークの知恵の言葉を集めたものであり、第二紀の初めに36年間オークと暮らしたロアルド・ケンウェイによって記録されたものである。

1. 敵の盾を破壊するときは、破片に気をつけろ。

2. 肋骨が砕けるよりは盾が砕けるほうがましだ。

3. 魔導士を殴るには盾がいい。だが、こん棒ならもっといい

4. 盾に矢がたくさん刺さっても、顔に刺さるよりはましだ。

5. 盾の壁は、石の要塞のごとく動かない。

6. 斧は切るために。盾は防ぐために。

7. 戦士の剣は多くの命を奪うが、その盾は1つの命を守る。

8. 壊れた盾は守りが薄い。

9. 盾を敵の血で染めろ。

10. 強い盾は攻撃する者の心を折る。

11. 盾は皿として使いにくいし、皿も盾として使いにくい。

12. 1つ盾を持っていれば大きな価値があるが、2つ盾を持っていてもバカみたいだ。

13. 奴らは我らの盾を見て恐れるだろう。

14. 春には無傷の盾も、夏の終わりには壊れているだろう。

15. オーク戦士の愛するものは2つある。1つは剣、もう1つは盾だ。

16. 君のクランが持っている盾は、君だけだ。

17. 石塚の石の多くは、盾を持たずに戦闘に出た者だ。

18. 木製の盾でも、盾がないよりはましだ。

19. 敵が盾の後ろに隠れたら、足を切り落とせ。盾を下げたら、首を切り落とせ。

20. 盾を前に構えていれば、マラキャスがいつも味方してくれるだろう

オーシマーの奇妙な儀式Strange Rituals of the Orsimer

タムリエルの民の死の儀式についての調査
アーケイの司祭チャプレイン・ジョーダン 著

私は埋葬と葬儀の神の敬虔な信徒として、リーダーや家族や愛する者が亡くなったとき、タムリエルの様々な種族が行う儀式の研究に生涯を捧げてきた。この巻では、ロスガーのオークとしても知られるオーシマーの死の儀式を探っている。

よく知られている言い伝えによって、オークの遺体は死んだ場所に安置されると信じられている。その話には一片の真実があるかも知れないが、オークは他の知的な種族に劣らず、病気には詳しい。腐敗の進む遺体をその場に散らかして悪臭が放たれることを誰も望まないし、そうした遺体はありとあらゆる昆虫や捕食者を引き寄せる。だから、オークが死んだ場所は同胞によって印を刻まれ、神聖に近い場所とみなされるが、遺体がその場に置かれる時間は数時間もない。それまでのあいだ家族や友人が立ち寄り、最後のお別れをする。そして遺体は移動される。行き場所は分からないが。

オークは口承の伝統を持つが、よそ者に説明し詳細を語ることは拒んでいる。私としては観察結果や交わすことのできた会話を元に学識を交えて推測するしかなかった。だが、これまでのところ、オークが遺体をどう扱うか教えてくれる者はいそうもなかった。

* * *

オークの古代の埋葬地を、ソロウと呼ばれる山で見つけた。この雪に覆われた山頂は危険な生物だらけで、気候も死と隣合わせだ。数世代に渡り、オークの亡骸の保管場所の役目を果たしたが、過去のある時点において突然、この習慣は終わりを迎えた。どう見ても、この山はオークの中でも最も勇敢で屈強な者のためのものだ。そうした者は、最後に死に襲われるまで、できる限り高いところまで登ることを求められた。こうしたオークは力尽きた場所に残されるが、遺体に石が積みあげられ、遺体を保護する石塚か、くさび型墓と呼ばれる独特な建造物になった。

これもまた、オークが死んだり力尽きたりする場所に、神聖なる岩で印をつける習慣と関係があるようだ。オークはその岩を「タムナー」と呼ぶが、これはオークの言葉で「死の石」を意味すると思われる。

* * *

ようやく、死の儀式についの話を提供してくれる老女のオークを見つけた。厳密に言えば、彼女は「ベシュカー・ノア」と呼ばれる「死の鍛冶」の習慣について議論したがっていた。

どうやら、リーダーや英雄や敬愛された年配者など、偉大なオークの遺体は、「死の鍛冶」として知られる行程を経ることになるらしい。この行程を老女のオークは難解な言葉で説明してくれた。遺体から血を抜いて後で使うときまで取っておくのか、遺体をまるごと灰になるまで燃やして灰をとっておくのかはよく分からない。いずれにせよ、取っておかれた遺体は最後には、溶解した金属と混ぜ合わされ、敬愛されたオークは、たいていは剣、槌、盾などの強力な武器や道具に姿を変える。

* * *

こうして、ロスガーのオークによる複雑な埋葬儀式の習慣を完璧に理解しようという探求は、今も続いている。かなりのことを学んだつもりだが、それでも何も学んでない自覚はある。一般にオークは死者を埋葬しないが、ソロウの山のような場所では埋葬する。オークが強力なオークが亡くなった時は印をつけるのは知っているが、死体をそのままにして腐敗させることはおそらくしないだろう。そして、亡くなったオークは部分的に保存され、「死の鍛冶」として知られる行程を経て、新たに鍛造された武器や道具になることも学んだ。

これからも調査、研究は続けるが、それも、こうした矛盾をはらんだ習慣に魅せられたからだ。願わくば、悪いオークに腹を立てて自らオークの死の儀式を学ぶのだけはごめんだ。そんなことはないだろうが。

オーゾーガへの手紙Letter to Orzorga

コマンダー・オーゾーガ

頼むから、復職願いを再考してくれ。お前には非正規軍を指揮する以上の力がある。お前以上の将校は思いつかない。私は多くの戦いを経験してきたのだぞ。

ルマーレ湖岸で起こったことは悲劇だが、将校の誰もが学ばなくてはいけない教訓だ。兵士達は消耗品だ。時には攻城兵器の弾や馬の飼葉のように消費される。これは兵站の問題だ。それ以上の問題ではない。

私の話を考えてくれ。白金の塔は手の届く所にある。

プロキシマス将軍

オルシニウムへの招待状Invitation to Orsinium

your name

私が最も信頼する使者の1人に友情と尊敬を込めて託した、この招待状をお受け取りください。強大なクログ王の名によって、私はあなたが荘重なロスガーの荒野で腕を試されることを歓迎し、招待いたします。

オーシマーはあなたがどこに忠誠を誓っていても気にしません。オルシニウムの街の再建と、ウィンターボーンの脅威の鎮圧にご協力をお願いします。偉業を成し遂げようとしている王をお助けいただければ、富と名誉はあなたのものです。

あなたをロスガーに迎えるよう招待するため、私はラズガラ大使をあなたのもとに遣わしました。彼女には、ダガーフォール、ダボンズ・ウォッチ、バルケルガードのどこかで会えるでしょう。街に着いたら、彼女を探してください。

あなたと直接会えるのが楽しみです。あなたの冒険についてはすばらしい報告を聞いています。オルシニウムに着いたら、私の前に姿を現してください。

鍛冶の母アルガ
オルシニウム、ロスガー

ガラクルの日記Gharakul’s Journal

長いあいだずっと孤独だった。だが、もう一人ではない。彼女が絹の夢に誘ってくれると分かっている。

私達はほぼ全滅した、エルフによって。あるいはスカルグの愚かさによって。彼はここ数年うぬぼれが強くなっていた。自分が大蜘蛛の勇者だと思い込んだ。「我々には古い血が必要だ。エルノフェイの血が!」とよく言い、意気込んで探した。

スカルグが破滅のきっかけを見つけた。魔術師を生きたまま壊さずにここへ連れて来た。黄金のエルフで、長身で誇り高く人目を引いた。その琥珀色の目に欲望が見えた。私に対してでも、おそらく定命者の肉体でもなく、もっと何か偉大なものに対する欲望。

スカルグはエルフに以前私達がよく使っていた飲み物を与えた。エルフを鎖でつなぎ、最も貴重な血の容器としてできるだけ長く生かしておくつもりだった。

私達は口論になった。これは私が聞いたあの歌ではない、メファーラの糸に沿って歩いた道でもない。だがスカルグに、彼女の複雑な網は私に見えないと言いくるめられた。だから信じた。

エルフは屈服せず、激昂した。スカルグは燃え尽きて灰になり、私は泣き叫んだ。エルフは、血で鍛錬したガーディアン達さえものともせずなぎ倒し、鍛冶場へ向かった。そしてボルズを倒し、槌を両手で持った。

ローブから小さなフォークを出現させ、それで槌を軽く叩いた。モークルディンはぎこちなく動き身震いした。壁が抗議の叫びを上げた。周囲にいたクランは耳や目から血をあふれさせて死んだ。その叫びをエルフの笑い声がかき消した。だが、その声の中にあの歌が聞こえた。

私は背後からエルフに近寄った。恐怖はなかった。あるのは信念だけで、絹のような髪を握り、彼の金色の顔を鍛冶場の火炎の中に押し込んだ。

静寂。静まり返っている。

いまだに絹の夢の中で彼女の声が聞こえる。その囁きは、鍛冶場を鎮め、眠らせ、隠しておく方法を教えてくれる。ここでの私の時間は終わりだ、まもなく、スパイラル・スケインの頂きで彼女に会うだろう。

いつか、別の者が彼女の歌を聞くだろう。たとえ彼らが自分達を何が駆り立てているのか分からなくても。その日、鍛冶場は息を吹き返し、銀の大蜘蛛の栄光を輝かせるだろう。

時が来た。我が身を彼女の子供達に与えよう、そうすれば彼らは大いに楽しみ、巣を作るかも知れない。私の抜け殻を彼らの子孫のための器、子育ての繭にしよう。無数の目に見つめられながら生きていこう。そうすれば、彼女の栄光を知るだろう。

クミー・アトタミナの送られなかった手紙Unsent Letter From Qumih at-Tamina

エズミ

採掘は順調に進んでいる。信じられないものがいろいろ見つかった。岩の話だけでインクを切らしたら嫌がられているのは分かっているけれど、どれも面白い岩なんだ。

ロズルスとシャレラを覚えている?彼らは槌とノミ、切り離せない相棒同士だろ?最初は反目し合っていたようだ。私達が発見したこの墓のすべてにおいて。

もちろん私は距離を置いていた。どちらの言い分が正しいか分からないから。何より不思議なのは、オークの墓の扉に描かれているのが――

またその話かって?

2週間以内に戻れると思う。調査は間違いなくもっと長く続くけれど、私の担当は終わった。

私の代わりにティリーにキスしてあげて。馬上から空を見上げ、早く戻れるのを祈るよう言っておいてくれ。君たちに、そして家の温かな砂に会えるのが待ち遠しい。

戻るまでに2人が持ちこたえられるだけのお金を送った。それに、君にちょっとしたおまけをね。

愛を込めて
クミー

グラズダーのメモ:槌の迂回路Grazdar’s Notes: Hammer’s Bypass

メモを持ってこられないなんて誰も言わなかった!きっとマラキャスも私に劣らずパズルは嫌いだ。

ザグの話では、最初の門のために覚えておくべき、単純な子供の童謡がある:

4つのシンボルの元になっている鍵は、
街を作ったクランのもの
今日、称えているのは誰の名か
イリアック湾のオーク達の中で

最初に来たのは、壁を建てた者達
次は、広間を武装したクラン
3番目は、燃料を与え続けた者
最後は、すべてを統治した者

この手紙を見つけた者にFor Letter Finder

この手紙を見つけた者に

コレグの息子、マルゴスの息子、アガラバグの息子、金属の地の偉大なる部族の書記が記す。この地にとても長く暮らし、太陽は空に青白く、暖かさが消えた時のことを書く。食べ物は育たないがときどき肉が食べられ、洞窟にキノコがある。

司祭は「大いなる暖かさ」に生け贄を捧げ、パイプを叩き、機械仕掛けの魔物の攻撃を止める。読み書きを教えるのは難しくなった。欲しいのは食べ物だ。本はいらない。欲しいのは暖かさだ。本を燃やすと暖かい。

金属の地の部族の最期の言葉を書く。再び暖かくなる前に、お互いを食べることになるだろう。司祭は生贄を捧げる。族長は暖かくする場所を探す。古い地図に道は記されている。族長は読まない。

私はクランの肉を食べない。死ぬ。私は読み書きができる最後の者だ。他の者に食われる。他の者は生きる。

ジェアムンの作業記録Jeirmun’s Work Log

この先で生き物を見つけるとは期待していなかった。しかし、オークかオークのようなものが、こちらをひと目見るなり襲ってきた。私たちは退却して体制を立て直した。道を切り開くべく傭兵達が先に進んだ。

* * *

シノサリオンはあの青白いオークに執着している。私はただ眠りたかったが、彼がオークの死体の1つにぶつぶつ語る声が聞こえる。気持ち悪い。

それでも彼らは間違いなくオークのようだが、壊れ変貌していた。エルフの見解では、傷から見て体を何度も切り開かれては何度も閉じられているらしい。手足を失っている者も、別の部分を失っている者もいる。もうこれ以上知りたくない。

* * *

寝つけない。

* * *

グラーバシャとドランドがまた議論している。彼は続行を望んでいる。彼女は撤退を望んでいる。彼女を非難できない。この少し先には何かがいる。

どこのドワーフの遺跡も不気味だが、ここは特別だ。空に向かって開け放たれている部分が、どことなく重苦しさを感じさせる。威圧感がある。

* * *

頭の中から声が聞こえてくる。罠にかかったと。ここから出られないと言っている。

酒が欲しい。

* * *

日記を見つけた。筆者は、あの青白いオーク達を切り刻んだ者だ。何が書いてあるのかほとんど理解できない。シノサリオンに見せようとしたが、結局、シノサリオンに言葉で説明するはめになった。

* * *

日記を失った。日記を拾って以降、コンストラクトに素知らぬ顔をされながらも、監視され、跡をつけられているのを感じた。日記を放り捨て洞窟に隠した。すると追って来なくなった。

仲間を見つけなくては。ここを立ち去らないとまずい。

* * *

私達はルキンダレフトに来るべきではなかった。

ジョイル王からメルセディーン将軍への命令King Joile’s Orders to General Mercedene

M

お前がこれを読む頃には、精鋭の部隊が包囲ラインを越えて到着するだろう。彼らのことは労働者として身分を伏せろ。戦闘が始まったら、彼らを使って攻撃しろ。お前は私の死刑執行人になる。攻撃は迅速にな。

より暖かい地方ではあのドラゴンが必要になる。彼は死んではならない。彼の騎士については知り過ぎている。ダガーフォールの敵として扱え。

—J

スカルグの日記Skalg’s Journal

彼女の子供達がこの場所を自分達のものだと主張したのは、私達よりずっと前だ。彼らはドワーフ達を追い出したのかもしれない。働いていると、彼らの多数の目が見守り、待っているのが見える。彼らは私達を恐れていないと思う。彼らは分かっている。私がクランの中を歩いているのを、そして私が彼らと同じくらい彼女のものだと。彼らは私達を許す。私を許す。

* * *

残りの中では、ガラクルだけ見込みがある。鍛冶場の増強が完了したら他はお払い箱だ。

ガラクル。彼女の髪は銀色で細長い。大蜘蛛の勇者である動かぬ証だ。メファーラが振る舞い方を教えてくれる。私達の糸は私達を結び付け、私達の運命を縛り付ける。今度私達が孤立したら、彼女に話しかけよう。彼女はあの歌も聞いている。聞かなくてはならない。

* * *

メファーラは心から祝福してくれた。寝ている間にガラクルは私を見つけ出した。彼女は私を起こすときこうささやいた。情欲は愛、嘘は真実、死は生。私の喉に手を回して締め付けた。私の視界は暗転し、輝きは塵となった。まだらの腹が私の顔の上で踊っているかのように。その瞬間、私はメファーラの子供の1人をつかんだが、彼女の毒が私の内側を液状化させた。

私達は神聖な結合の後、秘密を分かち合った。今では鍛冶の真実を理解している。贈り物を炎に与えながら銀の大蜘蛛を崇め、彼女の作品を世界へ運び出している。

彼女のためにもっと贈り物を見つけてやらないと。よりよい贈り物。彼女を養わないといけない。

トラグの腕輪Armlet of Torug

オルシニウムに最初の街を建てたトラグ王は、「トラグの腕輪」と呼ばれる強力な遺物を持っていた。言い伝えによれば、腕輪は魔力を持つブレスレットで、表面に宝石が散りばめられていた。その力を用いてトラグはロスガーの未開の荒野を支配し、オルシニウムの最初の街を築いた。

古代の文書の断片に、その腕輪とトラグの祠と、ソロウのキスと呼ばれるものについて記されている。著名な探検家レディ・クラリス・ローレントは、このわずかな情報を手がかりに、オーシマー栄光の館のために探検隊を率いて登頂し、遺物を探して回収することに同意した。

他の歴史的意義のあるものと同様に、博物館の中では決して何にも触らないこと。

ドランドの最期のメモDorand’s Final Notes

この奇妙な生き物を何かが操っている。ドゥエマーコンストラクトを操るようにだ。だがどうやって、何のために?

圧力弁と関係があるに違いない。バゾーグベグは3つ見つけた。遺跡内に点在している。「起動、変換、収斂」と彼は呼んでいた。あの熱のすべてが、エネルギーのすべてが施錠された中央の部屋に流れ込んでいる。何のために?よからぬことに違いない。

圧力弁が鍵だ。すぐに閉めなければ!圧力が解放され、エネルギーが逃されれば、中央の部屋の扉が開くはずだ。願わくは我々がまだ——

バゾーグベグの探検日誌Bazorgbeg’s Expeditionary Journal

1日目
ルキンダレフトでの最初の数時間は、成果がほとんどなかった。青白いオーク達に襲われたのだ。彼らは気がふれているように見えた。雇った傭兵を何人か失った。ジェアムンとグラーバシャは、この場所は呪われていると信じて疑わなかった。

愚か者どもめ。危険でなかったら、価値あるものが中にあるわけない!ドランドが責任者でよかった。彼が続行を望んでいるのだから続行だ。

2日目
奇妙な日だったが、成果はあった。だが相変わらず、青白いオーク達が気がふれている原因は不明だ。彼らを昨日よりも数多く見かけたが、慌てて氷河の中に隠れてしまった。いい厄介払いだ。

ドワーフのコンストラクトは永久不滅に思え、驚かされる。いくつかは凍って固まっているが、まだ微音を立てているものもわずかにある。彼らからの攻撃が予想されたが、無視された、まるで私達が存在しないかのように。たまに視線を感じて振り向いても、立ち去られてしまう。

ドランドはコンストラクトの調査を許可しなかった。「奴らに理由を与えるな」と言うのだ。彼の言うとおりだと気づかされる。

3日目
遺跡が溶けている理由が判明した。ドゥエマーの後に誰かがここにいたのだ、おそらくかなり長い間。彼らの意図を突き止めるのは困難だが、研究素材が周囲に散乱していたからには、そのために魔術師の大規模チームが、熱を調和する力を膨大に必要としたことがうかがえる。私達は後で研究に使えそうなものを残らず回収した。

ドランドが自制心を失った。続行するかグラーバシャと議論していたと思ったら、次の瞬間、ほとんど音を立てずに跳び上がった。彼は遺跡は生きていると繰り返し言う。あの壁は私達を監視しているのだと。彼には少し睡眠が必要だ。

4日目
青白いオーク達に襲われた後、ドランド達が別行動を取った。傭兵2人を任された。名前すら知らないが、2人は返事をしてくれる。とりあえずこれでいい。

2人にここに来る途中で見かけた、熱を調和するバルブについて話し、バルブを閉じるよう命じた。ドランドが言うように、圧力で扉は閉じている。バルブを解放すれば、扉が開く。扉の脇で2人がバルブを解放するのを待つことにした。中に入れば、全圧力が一室に集中している理由を突き止められるかどうか分かる。

5日目
まだ十分ではなかった。扉は圧力を失ったが、びくともしない。1時間後、圧力がひとりでに復旧した。傭兵は戻って来なかった。逃げ出したのか?殺されたのか?

このコンストラクトはこちらを監視している。近づいてくる。このままじっとしていたら――

バロス・ブラッドタスクBaloth Bloodtusk

ふてぶてしく立ち
死はその友を訪れない
ただその強大な盾に弾かれるのみ
常にその背後に。

バロス・ブラッドタスクへの手紙Letter to Baloth Bloodtusk

強きバロス・ブラッドタスクよ

オルシニウムであなたの兄弟が私の軍を相手にして倒れたと聞いた。残念なことだ。私が心から嘆いていることを知ってほしい。彼が立派な王にひざまずきさえすれば、あなたの隣でごちそうを飲み食いしていただろうに。彼の死の責任を問われるべき者がいるとしたら、ゴルカール王だとあなたも同意するだろう

あなたとその傭兵は、その力をこの偽りの王にずっと利用させてこなかった、その点は賢い。この新たな知らせが、あなたの剣の矛先を正しい方向に、真の悪者へと向けさせることを願っている。

私の申し出に変わりはない。

—ダガーフォールのジョイル王 著

ブライア・ハートの世話と餌やりThe Care and Feeding of Briar Hearts

ガル・クーはブライア・ハートを愛している!彼女は興味深い古い鳥、あのハグレイヴンだ。古いブレトンの砦に来て以来、私の役目はウィンターボーンの中でガル・クーを支援し、彼女がブライア・ハートを成長、繁殖させるためにどんなことでもしてやることだ。ブライア・ハートは不思議だ。大きな果実のようにも、大型動物の心臓のようにも見える。あるいは人間の心臓のようにも。

今日は世話の行程を間近で見ることになった。まずは死体だ。ウィンターボーンは敵の死体を好むが、彼らに罪の意識はない。オークでもウィンターボーンでも、はたまたハーピーですら、どんな死体でも構わない。死体で生まれたら、それをハグレイヴン自ら考案した奇妙な儀式で清め、特別に仕立てた区画の土の上に置く。そして、ファンファーレが響く中敬虔な態度で、置かれた死体にブライア・ハートの種を加える。

この死の庭園に、呪文と血が餌と水として与えられ、まもなく死体から最初の芽が出る。芽はまたたくまに苗木となり、やがて小さな木となる。この小さな木々は根の組織を通じて、砦の中庭でハグレイヴン達が世話をする大樹とつながっている。苗木は大樹の健康と総合的な力に貢献していると思うが、この件についての私の疑問は、ガル・クーを初めとするハグレイヴン達に無視された。

一方、ブライア・ハートの果実は苗木にも大樹にも実り、耳について離れない滝のような音を要塞じゅうにこだまさせる。果実が熟すと、もう移植できる。そしてここで我らが戦士の出番となる。たいてい、ウィンターボーンの戦士が戦闘で死ぬと、ハグレイヴンは熟したブライア・ハートを戦士に授けられる。その魔法の手順では、死んだ戦士にブライア・ハートを押し込み、蘇らせ、ブライア・ハートの戦士にふさわしい力と不屈の心を新たに授ける。

そして詳しいことは分からないが、生きた戦士にブライア・ハートを埋め込む方法もあると考えられる。檻の中で最も強力で忠実な戦士達が瞑想し、ブライア・ハートの戦士になる心の準備をしているのを見たことがある。その名誉を私が授かることをガル・クーが同意したら、彼らも許してくれるだろう。そうなったら、どんな結果になるかお知らせする。

フロストブレイク要塞にて、あなたの姉妹

ホーカーに捧げる歌Ode to a Horker

吟遊詩人の卵ドラスク作の詩

静かな港で腰かけ、凍った海を眺め
ホーカー達が無邪気にはしゃぐのを見つめる。

水中で、氷上で、彼らは走り回り
彼らの大声や呼び声はまるでからかってるよう。

大きな雄牛アルバクロスに私は大喜びして笑う
動物達が戯れる姿は、跳ね上がる馬を思い出させる。

マラキャスとトリニマクMalacath and Trinimac

王の書記官ウグドルガによる信仰論

何世代にも渡り、オークは3つの不変の真理を信仰してきた。それは要塞、恨み、マラキャスの怒りである。しかし、一部の伝承と著名な学者によれば、マラキャスの前にトリニマクがいたという。今日、オルシニウムの街では、知的な討論と敬虔な信仰の両面にまたがる議論が鳴り響いている。オーク達の真の神は誰かと?

伝統主義者にとって、疑問はない。マラキャスが主であり神だ。彼は、立てられた誓いと忌まわしき呪いを擬人化したものだ。彼の人物像には、衝突、戦闘、破られた約束、苦悶もある。オークが世界における自らの立場に感じる不安は何もかも、怒れる者から来ている。オークは自分達を裏切られし者と思い、マラキャスがその信仰を強めている。マラキャスにとって、クランとは強力であるべきだが、先人伝来の要塞で孤立しなければならないものだ。最強の者が支配し、弱き者は度が過ぎた不寛容さで捨て去られる。

バズラグ族長などクランの族長達は、オーシマーの王という考えに異議を唱え、マラキャスの教えに固執している。

新しいオーシマーにとって、トリニマクは夢と希望の到達点だ。この戦士の神は、文化と文明を擬人化している。彼は呼びかけている。不和でなく、団結を。悪意に満ちた混迷でなく、力を。彼が表しているのはオーシマーの統合だ。オークを卑しい自然を超える存在へと高め、他の種族と対等にすることだ。

クログ王とオルシニウムのオーシマーは、トリニマクの教えに従う。

マラキャスとリーチMalacath and the Reach

オークは自分達はマラキャスの子供だとよく言う。私の部族は異を唱えるだろう。マラキャスがオークやオーガ、トロールを使って、本当に選んだ種族、つまりリーチの民を試すことが稀にあるとリーチの民は教わる。

私に言わせれば、どちらも間違っている。灰と骨の王は私達の誰にも関心を持たない。彼を崇拝することは愚かであり、皆で破滅することになるだろう。

例えば、このトークン「復讐の目」は、我が部族が湿っぽい墓で血眼になって探したものだ。このつまらない小装飾品のために、計り知れないほどの血を無駄に流してきた。オークと我が部族の確執は何世紀も続いてきた。私達の呪術師の話では、マラキャスが彼の名において、私達の誰かがこれを運ぶことを求めているという。オークの話では、これは彼らのものだそうだ。

両者とも、2つの種族を踊らせる弦は見えていない。

私達がデイドラにしてきたのはそういうことだ。遊びの慰みものだ。彼らの贈り物は毒入りだ。そう考えなければ愚かだ。だが、我々は愚者の世界に生きている。皆が自分たちはどこか違うと思っているのだ。どこか特別だと。私達が殺し、信仰のために殺される間、デイドラは微笑んでいる。

モークルディンの最後の届けものMorkuldin’s Final Delivery

スカルグ

これが私の最後の積み荷だ。今、邪悪な目が私を見ている。しがない盗賊や街の小者が行方不明になっても気づかれないと思っていたが、間違っていた。お前の鍛冶場を満足させる別の方法を見つけないといけない。

この最後の積み荷の内容は以下のとおり:

オーク4名:健康
カジート2名:病気の可能性あり
ブレトン3名:凍傷
エルフ2名:1名は健康、1名は死体

死人についてはすまない。仕方がなかった。だが、前回エルフの血について言っていたから、死体も残しておいた。

いつもどおり、いつもの場所にモークルの鍛冶武具と鎧の一式が届いていることを願っている。

友よ、糸が導きますように

—ズシュラク

モークルディンの訪問者の観察Morkuldin Visitor’s Observations

人目を避けて暮らしているモークル・クランから招待を受けた。ロスガリアン山地の奥深くにある、彼らの最高傑作を作っている鍛冶場を見るのを許されたのは、そこの親方の話では私が初めてだという。初日だけでも、オークにできるとは思ってもなかった驚くべき光景をいくつも目撃した。大学へ戻る前に、この体験を記録しようと決意した。

ここのオーク達の秘密主義には驚いた。大きな鍛冶場の入口でさえ用心深く隠され、そこにあることを知らなければ目に入らない。それでもまだ足りないとばかりに、一族や、ある種の方法で自分を証明できる者にしか開かない道もあるようだ。もっと探ってみないと。

鍛冶場は驚異的だった。正直言うと、しょせんオークだと半信半疑だったが、とんでもない光景だった。あえて触れないが、鍛冶場を作ったのがオークでないことは明らかだ。実際、その起源を隠すためにオークはいろいろ外観を凝らしていた。しかし、内部の仕組み、精密なデザインはどうだ?オークの石の下に隠されているのはドゥエマーの才気だ。それは疑問の余地がない。

オーク達は鍛冶場を自慢気に語り、様々な道具を使って作業しているが、鍛冶槌については何も語らない。自分達が何を持っているかさえ分からないのか?鍛冶場はたぐいまれなものだが、ここでこれを作ったのがドゥエマーだと考えるのが自然だと思いつかないほど、こちらも鈍くはない。鍛冶槌はかなり古いものだが、今でも丈夫だ。槌の持ち主が彼らではなくて私だったら何ができるだろう!

いつかチャンスがあるかも知れない。今は鍛冶場の親方に、休息と水分を取れるように脇の控室を案内された。この場所は熱でうだるように暑く、頭を曇らせる。頭がすっきりしていたから、なおさらだ。

ヤザラへの手紙Letter to Yazara

ヤザラ

オグゾー族長が死にかけていると聞いた。オルシニウムから戻って族長の座に挑むつもりよ。マラキャスは勝利者を好む。

―U

やる気のない徴募兵の告白Confessions of a Reluctant Recruit

ヴォシュ・ラクが仮面を被るのは私にとって好都合だ。差し支えなければ、ここでは本名を伏せさせてもらいたい。私のことは、そうだな、ローグと呼んでくれ。私は真っ当なオークだった。クランの族長の話を聞いた。恨みと破られた約束を糧に生きようとした。そして、そんな時私は啓示を受けた。トリニマクの言葉を聞いてから私の人生は一変した。

何が起こったって?クランの名高い切り株のエールの樽を持ってオルシニウムの街へ行く途中、ヴォシュ・ラクの徴募官の一団に襲撃された。トリニマクの名を称えろ!地面にねじ伏せられた私は頭に袋をかぶせられ、どこか秘密の場所に連れて行かれた。正直言って、震え上がるほど怖かった!

何時間も経ったような気がした後、年配のヴォシュ・ラクが私の頭の覆いを外した。彼女は、私の古くさい考え方が誤っていることを教えてあげると言った。私の心を開かせ、トリニマクの神聖なる言葉を受け入れやすくするのだと。詳細は省くが、彼女の手法の中には、何度も殴り、殺し文句を延々と繰り返し、家族のことで脅迫し、彼女曰くトリニマクの言葉が理解しやすくなるというまずい飲み物を適度に飲ますものもあった。

ついに私が根負けし、トリニマクとヴォシュ・ラクに対する信仰を口にすると、それからもう1時間、年配のヴォシュ・ラクが私が本心から言っているのだと確信するまで続いた。そして仮面とローブを渡され、ヴォシュ・ラクの仲間として迎えられた。トリニマクを称えよ!

今?今の私はヴォシュ・ラクの忠実な一員であり、トリニマクの鋭利な刃の1つだ。ヴォシュ・ラクのために戦う。頼まれればヴォシュ・ラクのために死ぬだろう。だが内心では、少し別の思いもある。ヴォシュ・ラクにはなりたくない!はっきり言って、最近の改宗者の大半はグループの一員にはなりたがらない。自分達自身に我慢ならないんだ。徴募活動はそんなにいいものではない。

ルキンダレフトの族長会議Rkindaleft’s Council of Chiefs

15日目
我々族長は何日も会合を重ねた。外では敵が待ち構えているが、中には何が待ち受けているのか分からない。食料だけが減っていく。

遺跡の中の機器が冷え始めた。やがてまた氷が張り、陥落前のオルシニウムよりも厚い壁の中に閉じ込められるだろう。

問題は、ここを出るか、突き進むかだ。

17日目
ようやく、斥候を送ることを決断した。遺跡の奥に何があるのか、やがて明らかになるだろう。

18日目
斥候が戻った。ドワーフの装置によって暖められた谷があり、しかも獲物が豊富にいるとのことだった。

他の族長はその報告に縋り付きたがっていたが、私は訝しく思った。斥候はハーシーンの狩場を見つけたような口ぶりだった。

19日目
我々は決を取った。私は華々しく戦場で散り、オルシニウムの犠牲者の仇を討ち、バロス・ブラッドタスクへの裏切りを正すことに票を投じた。

しかし通ったのは斥候の大げさな話だった。我々は内部へと歩を進めた。

ロスガーのオーガ:継続中の論文The Ogres of Wrothgar: A Continuing Treatise

シランティレ 著

タムリエルのオーガについての以前の研究では、オーガについて、その行動、基本的な知性を詳しく議論した。あの研究「オーガ:概略」には、あの能なしの獣についてもっと学びたい人向けに十分な情報を盛り込むべきだが、ロスガーを旅して以降、耳にした誤解を晴らすのを目的にこの補遺を書いている。

1、オーガはある種の社会的組織を形成している、などとは誰にも言わせてはならない。他の動物と同じく、強いオーガは自らの優越性を誇示して弱いオーガを率いる。単純かつ明快だ。

2、オーガは魔法を使えない。「オーガの呪術師」について報告があるが、それらは誤解に基づく悪質な誇張だ。説明しがたい力を持つオーガもごくわずかはいるが、私達が目にできるのは、複雑さで言えば、蜘蛛が巣を作るのと大差ないものだ。

最後に、優雅なセンチや便利なグアルと違い、オーガには何の取り柄もない。訓練することも飼い慣らすこともできない。自然災害と同様に扱い、オーガを大きく避けるか、近くから排除することが賢明だ。これが最高の回答だ。

ロスガーのリークル:観察記録Riekrs of Wrothgar: Observations

1日目

マスター・ステロンのゴブリン臭の調合を使用すると、リークルたちは私を一員として認めたようだ。彼らはとても社交的な生き物で、それぞれが役割を担っている。

私は槌で石を砕く役割を与えられた。この役割の目的がまだよく分かっていないが、他の者たちは嬉しそうに鳴きながら石を砕いているので、特に気になっていないようだ。

2日目

さらに石を砕く。腕の筋肉を痛めてしまったかもしれない。

3日目

リークルの社会構造を観察するうち、魔法とその使用者に対する不思議な態度が見受けられた。知能の低い生き物のため、タムリエル各地で見られるような正式な訓練は受けられない。その代わり、彼らはこの世の魔法とのつながりを持って生まれてくる。

その魔法とのつながりを示した者は、たちまち兄弟たちにのけ者にされる。私がクランに入った当初砕いていたような石を投げつけられ、追い払われる。魔術師は野生へと逃げるか、死ぬしかない。しばらく追放された後、新鮮な鹿、熊、エチャテレなどの肉を手土産にクランへと戻る。

その後魔術師はクランの中で崇拝される存在となり、族長とともに力と影響力を持つ。

5日目

魔術師たちが会議を行い、移住の合図が出された。新たな食料源が見つかったようだ。

6日目

食べ物の入った箱でいっぱいの洞窟に到着した。何らかの野営地であったことは間違いないが、所有者は見当たらない。

7日目

リークルの一人が箱の中で本を見つけ、これは何かと私に聞いてきた。見たところレシピ本のようだった。そう伝えると、彼はそれにかぶりついた。

「レシピ、おいしくない」と言って吐き出した。

8日目

私の石砕きは他のリークルたちに追いついておらず、怪しむような目で見られはじめている。リークルはしっかり働かない者には優しくない。完全にばれる前に、そろそろ出て行ったほうがいいかもしれない。

ロズルスへの手紙Letter to Lozruth

ロズルス

書状を受け取った。出発が承認された。今のところ1人だ。すぐに行く。

君が仕事をできるように、全力を尽くしてみんなを引き離している。楽ではないけれど。

よろしく
ゴルズ

怨みの岩の滝の伝説The Legend of Grudge-Rock Falls

どんなオークも恨みの概念を理解している。オークの心に、血や戦闘やヴォシュ・ボールに劣らず根づいている。だが、おそらくロスガー全土の中でも恨みが格別な意味を持っているのは、怨みの岩の滝として知られる場所だ。

ジョーマグとトーカグが、2人のとっておきのエチャテレをつがわせて生まれた子供の所有権を巡っていさかいを起こし、名もない高原の頂きで会って解決した時、岩肌の絶壁に滝は流れていなかった。だが、2人が戦闘中に出会ったとき、遺恨を巡る争いが一昼夜続いた。

2日目の朝、ジョーマグの斧と剣がトーカグの槌とぶつかり合った結果、金属同士の衝撃音が岩を震わせ、大きく切り裂き、そこからものすごい勢いで水がどっとあふれ出た。今も流れている。

それが真実か伝説かは定かではないが。

音声メモ、屈折81u5Auditorial Notes, Declension 81u5

…魂の部分がずっと絡み合い続けなくてはならない。危険性は極めて高い。転移の途中で何かがなくなったら、確実に失敗する。試みが不成功なら、例えこの過程を乗り切っても、基礎となる獣は著しく弱体化する。つまりどうしても不健康になる。

ヴァーデンフェルの方法論の私なりの分析を通じて考えるに、有機物の部品とコンストラクトの融合を複製するのはより簡単だ。注意すべきは、この技術が標準的な方法以上の利益は生まず、多くの点で劣っていることだ。希少なことと、顧みられないことが理由だろう。

ルキンダレフトにはまだ十分な手段が残っている。要するに、それがドゥエマーの意志だ。そして、適した宿主の創造についての私の研究は完成している。今後の年月は、意識の本質、意識と魂との関係、(ひいては)記憶との関係に費やさなくてはならない。これが鍵なのは確かだ。そこに近づいている。

忘れてはならない。ルールは存在しない。どんな壁であろうと、まだ突き破ったことのない壁だ。

時間はかかる。一生涯かかるだろう。だが、その分の蓄えはある。

監視塔に捧げる歌Ode to a Watchtower

吟遊詩人の卵ドラスク作の詩

生きて目にすることがあるとは思ってもみなかった
私より情けない形の建物を。

倒れた石と壊れた王冠が
私の眉間の深い皺を和らげることはない。

それは木々の中に寂しく立ち
果たされない約束が果たされることは永遠にない。

血の丘の試練The Challenge at Bloody Knoll

歌の前の時代、クランはそれぞれうごめき、酷寒の北の地でしのぎを削った。やがて山のように積み上げられた死者たちと、その石塚へとつながる深紅の道が雪の上に拓かれた。

秋となり、クランは講和し、牧場や放牧地や農場から遺体を回収した。その数はあまりに多く、遺体を集め終わるまでに秋は二度巡ってきた。

死者の数を目にし、働く者のいない田畑が放置されているのを見て、シャーとトゥルの族長たちは密会した。「互いの戦士を虐殺しあうことに栄光も名誉もない。今年頭角を現した英雄は次の年に死ぬ。我々が年老いた時に跡目を継いでくれる精悍なオークが残っているか?」と語らった。

そこで彼らはマラキャスを訪ね、エチャテレと自らの血を捧げた。するとデイドラ公は二人に答えた

「死者の記念碑を建てて我に捧げよ。シャーとトゥルの犠牲者の石塚だ。そこで互いの軍から最も強き者を選び出せ。選ばれし者たちが石塚の頂上で決闘し、石塚が敗者の血で清められるまで続けるのだ。勝者を新たなシャー・トゥル・クランの族長とせよ」

族長たちはマラキャスの命に従った。部族間の戦は終結し、新たなクランが生まれた。最初の決闘が行われた地は血の丘と呼ばれた。戦死者の死体で築かれ、決闘の敗者の血で清められたからだ。

残酷な息子達の戦いの歌Savage Sons War Chant

バロス!バロスのために!
我らは昼も夜も進む。
敵はいない!
我らは戦いにおける恐怖そのもの。

自由のために血を流すのは誰だ?
残酷な息子達だ!
兄弟のために血を流すのは誰だ?
残酷な息子達だ!

バロス!我らがバロス!
我らが勇者。
ワイルドボアー!ブラッドタスク!
彼の名前に栄光がある。

バロスのために血を流すのは誰だ?
残酷な息子達だ!
他人のために血を流すのは誰だ?
残酷な息子達だ!

バロス!友なるバロス!
我らを雪から引っぱり出してくれた。
国を追われた者!クランのない者!
皆が知る以上に残酷に。

残酷な息子達よ、突撃だ!

狩猟のラコラLakora of the Hunt

瞳は鋭く
破滅が近づいた時でさえ
仲間を引き寄せ
栄光への道へと導いた。

小さなエチャテレLittle Echatere

鋭い矢のエヴェリ作の詩

私達がとても小さなエチャテレを愛しているって知ってた?
今、君は群れなどあれやこれやにいる。暮らして幸せ?

いるのを見ると、君は穏やかで落ち着き払っている。
ところで君が提供するチーズはおいしくて、とても評価されている。

ハ、宿屋と酒場、砦と城、ハッ、小さなエチャテレ、
隠しているのは王と国。人生は不公平ね。

部屋がきっと毛に覆われた背中にある。いつでももう1袋積むのよね?
合わせた知識で、皆に欠けていることを教えてくれる?

言葉では伝えきれないくらい愛している、小さなエチャテレ。
オークはマンモスや野兎よりも素敵だと、知っている。

きっと心配しないで、もうこれ以上戸惑わせない。
匂わない愛を、育った証にちょうだい。最後の抱擁に。

捜査官ヴェイル:マンドレイク邸の呪いInvestigator Vale: The Curse of Mandrake Manor

「かけがえのない友よ、亡霊などいないわ。犯人は、鍛冶屋のパルウィンよ!」

捜査官ヴェイルの言葉が壁にこだまし、蔵書庫に集まった大勢は、レディ・マンドレイクの周囲で息を呑んだ。犯人と呼ばれた者を探そうと四方を見回した。部屋の奥に、鍛冶屋が不安げな様子で立っていた。かぶりを振っているが、その顔には、やましい表情が広がっていた。

「何をおっしゃる?これほどの厄介事を、ただの定命の者が起こせるわけがない」と鍛冶屋は弁解するように言った。「どうして密室に忍び込んで執事を殺せる?どうして死体を隠せる?ずっと鍛冶仕事をしていたのに。証拠もないくせに!」

部屋は静まり返り、全員の目は再び捜査官ヴェイルへ向けられた。だが、激しい言葉にも、彼女がひるむ様子はなかった。燭台の炎がちらつく中で、目を輝かせると、肩を引いて顎を心持ち上げ、漆黒の髪を背中になびかせた。右手の握り拳の中に何かを掴んでいるようだ。おもむろに拳を開いて指を広げると、そこに現れたのは、頭蓋骨の形をした光り輝くブロンズの鍵だった。

「親愛なるパルウィン、またしても私を甘く見たようね」とヴェイルは言った。「証拠は、あなたの顔に鼻があるのと同じくらい明らかよ。この頭蓋骨の鍵を入手できたのはあなただけだった。マンドレイク邸からなくなった鍵を!」

パルウィンの目が見開かれた。彼は言葉に詰まり、気を取り直そうとした。そして言った。「そ…それが私のものだとどうして分かる。どうやって手に入れた?答えを…聞こう。私を利用したんだろう!」

ヴェイルは頭を戻し、長く優雅な喉から、嬉しそうな笑い声を発した。「あら、お馬鹿さんね!もちろん利用したわ!ゆうべ2人で飲んだあのお酒は?あなたの分にチンキを入れたの、あなたがぐっすり寝て部屋を調べられるように。そうなれば、部屋のどこが不自然か見抜くのはたやすかった」

ヴェイルは、部屋を動き回って聴衆に訴えかけながら、続けた。「床にあるひっかき傷は本棚を動かしてできたもので、明らかに、隠し扉があるという証拠よ。血に染まった手袋が、隅に無造作に投げ捨てられていた。死体の発見現場には、森の草がべったりついたブーツがあった。そしてこの鍵は、誰からも見えるあなたのナイトスタンドにあった」

「それが何の証拠になる?お前が私をはめたこと以外に」とパルウィンは怒鳴った。

「何もかも証明している」とヴェイルはにこやかに言った。「亡霊ではなく、不満げな鍛冶屋がいて、邸宅の地下のトンネルをさまよっていた。この鍵の元に行ける唯一のトンネルを。最初は脅かしやゆすりとして始まった企みは、ついに殺人へと至った」

「違う!」とパルウィンは叫んだ。「私のものを使ってだまそうたって、そうはいかない!二度と!」。彼はベルトから短剣を抜くと、ヴェイルへ突進した。ヴェイルが間一髪でよけると、パルウィンはバランスを崩し、頭から壁にぶつかった。崩れ落ちた彼の胸に短剣が刺さった。

「殺人は償えない」とヴェイルは言った。「さて、もう下がっていいかな。強い酒のボトルが私を待っているの。そして、また謎が現れる。いつだって謎が現れる」

捜査官ヴェイル:鳥の仕掛けInvestigator Vale: Fowl Play

「鴨だわ、タムシン伯爵」。捜査官ヴェイルは、たくましい貴族から転がるように離れながら声を上げた。

タムシンは困惑し、柔らかい曲線を持つ秘密捜査官が体の上から消えたことを惜しんだ。肘をついてもがきながら叫んだ。「セクシーな探偵よ、鴨とは?そんな話をする時間じゃない」

ヴェイルは裸の伯爵を置き去りにしてベッドから跳び出し、シルクのシーツを体に巻いた。「あら、絶好の時間よ!あなたの屋敷で何が起こったか、ようやく突き止めた」

タムシンは枕で体を隠そうと無駄な抵抗をしながら、「謎の死のこと?」としどろもどろに言った。起き上がって彼女のそばに行くか、そのままベッドにいるか迷っていた。「確かに君を雇ったのは難題を解くためだが、その前にやることをやってから解決して欲しいな」

「そんなムードにはもうなれないのよ、タムシン伯爵。羽をむしり取るべき鳥が他にできたから」

「何の話をしているんだ、ヴェイル?」。伯爵は狼狽しながらも、同じくらいに怒ってどうしても声を抑えられなかった。「分かりやすく話せ!」

「分かりやすく?分かりやすく話してるのに!創意工夫に富んだ計画だったけど、捜査官ヴェイルがいつもどおり解決したの」

「ヴェイル!私の理性も君のムードと同じくらい、切れてなくなりそうだ…」

ヴェイルは笑みを浮かべて窓際に腰を下ろすと、漆黒の長い髪をそよ風にたなびかせた。「猟区管理人のジェリター・ナッレだわ。死んだ時の状況を調べてみると、どれも鴨のローストを食べた直後だった。ナッレが気前よく提供した鴨を。彼があなたの部下を毒殺したのよ」

「あの悪党め!」とタムシン伯爵は怒鳴った。「切り刻んで、奴の鴨の餌にしてやる、ふざけおって!」

突然、ヴェイルは体を伯爵に密着させた。二人を隔てるのはシルクのシーツ1枚のみ。「伯爵、大好きよ、あなたの考え方」と甘えた声で言った。「ムードが戻って来たみたい」

「猟区管理人はどうなる?」

「正義は遅かれ早かれ下されるわ、タムシン」とヴェイルは囁いた。「でも私達は途中だったのに、急に事件が解決して水を差されてしまった。私は欲しくてたまらない。鴨よりもう少し中身のあるものが欲しいムードなの」

「ああ、捜査官ヴェイル」と伯爵は言い、捜査官とベッドに戻った。

捜査官ヴェイル:密室殺人Investigator Vale: The Locked Room Murder

「ええ、殺人が起きたとき、あの部屋は確かに密室でした」と捜査官ヴェイルは、瀟洒な服から埃を払いながら言った。彼女に劣らず埃にまみれた皿洗いの召使は、顔を紅潮させ、慌ててエプロンを直しながら、錬金術師用の在庫豊富な棚の裏から走り去った。

「この裏で何があったのです、捜査官?」と錬金術師クレラナがいぶかしげに尋ねた。

「ああ、元気のいい召使が手伝ってくれたんです、私の…捜査を」とヴェイルは素知らぬ顔で言った。「あなたが注意を払うべきは、この半分空になったワマスの胆汁の瓶よ」

錬金術師クレラナは不安そうに身をよじりながら、2人の会話に改めて興味を向けているたくましい街の衛兵をちらりと見た。クレラナは唾を飲んでから言った。「私の古い備品室とグラス頭取の死とどう関係がある?彼は鍵がかかった自室で死んだのに」

ヴェイルは、手袋をはめた指を棚から引き戻した。「ええ、この場所はかなり汚い。この倉庫施設は何ヶ月も使われていないとあなたは言っていた。でも、ワマスの胆汁の瓶に気づいた?埃はほとんど拭き取られていた。理由が分かる?」

「なぜです?」とたくましい衛兵が尋ねた。

ヴェイルはとっておきのまぶしい笑みを彼に与えた。「頭取が中から鍵をかけたとき、すでに死んでいたからよ。彼はそれに気づいていなかった!」

ヴェイルは錬金術師に勝利の笑みを見せた。「認めなさい。この数週間、致死性の胆汁をかなりの量、頭取の羽ペンに塗ったのね。哀れな頭取に徐々に毒を盛った!」

「忌々しいヴェイルめ!」と錬金術師は吐き捨てるように言った。「しかし、私が地下牢に連行される姿を見物はさせないぞ!」。衛兵が止める間もなく、クレラナは瓶の中身を喉に流し込んだ。床に倒れこんだが、その時には肌がもう灰色に変色していた。

「クレラナ、あなたが死んでも私は満足しない」とヴェイルは残念そうに言った。そして気を取り直して言った。「ところで、流し場の召使は…あの意地悪女はどこに逃げたの?」

多くの舌のマズガーMazghar Many-Tongues

洞窟を光で満たし
微動だにせずその間に立つ
暖かさと勇気の言葉は
常に耳から離れない

大いなる暖かさThe Great Warmth

大いなる暖かさに頭を垂れよ
大いなる暖かさに祈れ
大いなる暖かさに捧げよ

大いなる暖かさは汝の父だ
大いなる暖かさは汝の主人だ
大いなる暖かさが見ている

暖かさなくして命はない

怒れる者の怒りPrayer to the Furious One

呪いの神よ、我が祈りを聞け!

裏切られし者の神よ、我に力を授けろ!

恨みの番人よ、私の心を強くしろ!

破られた約束の持ち主よ、私の苦悶を焚きつけろ!

立てられた誓いの主よ、敵に勝たせる凶暴さを授けよ!

マラキャス、私の祈りを聞け!

逃げた理由Why We Fled

我々がオルシニウムから逃げたのは臆病だったからだと言われるだろう。子供たちよ、それは嘘だ。時が流れ、人々が己の出自を忘れたとしても、恥じ入って項垂れてはならない。トラグの愚行、バロスの裏切り、そしてゴルカーの墓の物語を忘れるな。

オークは強い種族だ。精悍で戦を恐れない。血は我々の生来の権利だ。マラキャスの筋肉が我々の骨を包んでいる。だが我らは座して動かないでいられるようには作られてはいない。腰を据えて土地を耕すように生まれついてはいないのだ。その代り、旅をして略奪するように生まれついている。我々の力は破壊のためだ。滅ぼした者から戦の栄光を刈り取るのだ。それだけが我々に必要な糧なのだ!

だが何年も前に、力と怒りにおいてオークの中でも抜きんでたトラグというオークが、我が民に構想をもたらした。大いなる都を作るのだと彼は言った。さすれば世界中が恐怖し、敬意を抱くだろうと。

確かに恐怖はもたらしたが、決して尊敬はされなかった。たとえ彼の築いた都がどれほど巨大でも。

彼らは岩の中に街を築いた。まばゆい宝石のような都を。それがオルシニウムだ。確かに偉大な都ではあったが、オークは街で暮らすように生まれついていない。防衛のために作られた壁は我々を閉じ込めただけだった。三重の門は我々を封じ込めた。街はトラグの野望の墓標となり、オークの夢の墓標ともなった。やがてレッドガードとブレトンが街を滅ぼしにやってきた。

我々が逃げたのは戦を恐れたからではない。我々が脱出したのは敵と戦うためだった。そして敵軍を滅ぼし、その国土を滅ぼした。奴らのロスガーの所領は我々の行軍に震え、我々の足音に大地は揺れた。

ああ、栄光よ!ああ、喜びよ!再びオークとなれるとは!自由に旅をするのだ!

しかし勢いは長続きしなかった。敵が集結させた軍勢は我が軍をはるかに上回っていた。そして我々は山の麓へと追い詰められた。永久に氷で閉ざされた平原へと。機械仕掛けの悪魔に守られ、我らはぬくもりと住居、防衛策を見出した。いつの日か我らは、輝かしく牙を剥き出したマラキャスの笑みの下、雄々しく身を現し、勝利へと向かうのだ。

謎のウグイアビMystery of the Chub Loon

オークの土地に、何とも説明しがたい生き物がいる。ウグイアビは目的意識がなく、その歴史もほとんど知られていない。しかし、ムーンシュガー・シロップとシトラスで料理すると絶品だ。

私ザビアーコの一行は、ファルン要塞のオークと安全な取引を模索していた時、交渉が相手の不興を買ったことに気づいた。族長に船を燃やされ、追っ手の戦士を差し向けられると、我々は死に物狂いで逃げるしかなかった。極寒の亡霊の海を望む、寒々とした岩だらけの海岸がその晩のねぐらとなった。うなる海風が、毛皮の少し中まで猛威を振るった。それでも闇夜になると、ついに眠りは訪れた。

ドリュアダク山地に日が昇ると、波が岩に当たるリズミカルな平和を騒々しい音が打ち砕いた。他の者達は未知の野獣が自分達を食べに来ることを恐れたが、こちらは好奇心が恐怖心に打ち勝ち、毛布を抜け出し、杖をつかみ、海岸へ向かい、ここに留まるか逃げるか、この目で決めようとした。目の前を通り過ぎた生き物の中で何より不思議だったのは、切り株のような脚でよちよち歩く鳥で、氷盤や岩の上に群がっていた。体の側面にある役立たずの羽をぱたぱたしながら、何羽ずつかで寄り集まって暖め合っていた。その鳴き声も、彼らを見下ろしたとき最初は驚かされたが、コミカルな響きがあった。

故郷の蔵書庫で借りた古いよれよれの野生動物のガイドブックには、この鳥に似た鳥は何も載ってなかった。友情の門からの脱出は後回しにできる。これは新種だ。新種は価値がある。最初の2、3羽はとても慎重に捕らえたが、じきにこの鳥が愚かすぎてカジートから逃げ切れないことを学んだ。けれど、オークからは難なく逃げ切れている!どんな手頃な獲物でも、カジートが現れれば逃げ出そうとするが、この恐れ知らずの鳥は別だ。我々はこの鳥達をすくい上げるように捕らえ、ファルンのクランにこちらの匂いをかぎつけられて追いかけられないように、門へ急いだ。

ウェイレストで最初に寄ったのは、魔術師ギルドだ。少しお金を払って、彼らの自然史の蔵書庫に入れてもらった。そこには野生動物のガイドブックの新版が堂々と陳列されていた。ウグイアビは神出鬼没の生物とされ、初期の書き手は触れていない。なぜあんな気に障る生物が見落とされていたのだろう?

数日間、そして数夜ロウソクの灯りとともに過ごし、タムリエルの生き物と野生動物に関する全書物に目を通した。第二紀初めより前にウグイアビの存在についての記述はなかった。そんなことがありえるのか?最初の記述は、ホーカーが書いた文で、ホーカーの居住地に現れ、食料源を混乱させたとだけ記されている。ノルド達のように、他の土地から来たということがありえるのか?あの愚かな鳥は、アトモーラから旅人に連れて来られたのか?氷の塊に乗るだけで自力で亡霊の海を渡って来られるのか?どうやって来たにせよ、ロスガーの岩場の海岸に新たな居住地を確保し、繁栄しているのだ。

不屈のアラカウルArakaul the Unbroken

族長を殺したが、クランは放っておいた、
エルフにも人にも屈服せず、
オークを永遠に自由にした。

樫の盾で守り、
最後までバロスを守りし、
忠実なる友は永遠に。

戦ったのは国でも金貨でも王のためでもない、
何より大事なのは同胞、
残酷な息子よ、永遠に。

風歩きのタマールWindwalker Tamahl

いつも忠実なのはタマール、
機転が利き、しぶとい、
だから友にとっても忘れられない。

剣を比類なきほど優雅に振り、
落ち着き払った仮面を顔に被る、
敵の記憶に残るように。

ガイデン・シンジの忠実なる助けのおかげで、
名誉の借りは必ず返される、
誰もが忘れないだろう。

「名誉の休息地」の記念碑Honor’s Rest Monument Stone

この広間で戦士が安らぎを見つけ、
壁に永遠に名が刻まれる、
忘れられてはならない。

灰と骨、ここで彼らは眠る、
鉄と石によって名誉は証明される、
それを忘れられてはならない。

宝石より偉大な宝物の中に、
記念の池の贈り物の中に、
彼らを忘れてはならない。

遠い昔に失われた記憶を深く学べ、
薄れかけた歴史に光を当てろ、
それは忘れられてはならない。

傭兵が残した焦げた日記Mercenary’s Scorched Journal

…この仕事を得た。バゾーグベグは私達を死へ送りだした。私が最後の1人だと思う。

ここはドワーフの機械が追ってきたりはしないが、寒すぎる。

* * *

大きな管にもたれかかった。全てがシフトした。灯りと蒸気があった。少なくとも今は暖かい。

* * *

他のと同じような管が見える。最初のは部屋を暖めた。とすると、次はドワーフの食料?食料はないのだから、失うものなどあるか?

デイドラ公

Daedric Princes

アズラの祈りInvocation of Azura

シギラウ・パレート 著

300年もの間、私はアズラことムーンシャドウのデイドラ公、薔薇の母そして夜空の女王の女司祭をしてきた。どのホギトゥムも我々は蒔種の月21日を祝い、価値ある美しいものをあの方に捧げるのと同様に助言を求めて彼女を呼び出す。彼女は残酷だが、賢い支配者である。どのホギトゥムであれ、雷雨の時は彼女に祈らない。たとえ日取りが重なったとしても、こうした夜はマッドゴッドのシェオゴラスに属するからである。そのようなときアズラは我々の注意を理解している。

アズラの祈りは非常に個人的なものである。私は他3柱のデイドラ公の女司祭をしてきたが、アズラは礼拝者の性質と彼女への崇拝の裏にある真実を重視する。私は16歳のダークエルフで侍女であったとき、企みのデイドラ公ことモラグ・バルを礼拝する、祖母の魔術結社に参加した。恐喝、ゆすりそして賄賂は闇の魔法であると同時にモラグ・バルの魔女の武器でもある。モラグ・バルの祈りは、暴風雨を除いて星霜の月20日におこなわれる。この儀式が行われないことはめったにないが、モラグ・バルはしばしば他の日に人間の装いで自分の崇拝者たちの前に姿を現す。ファイアウォッチの後継ぎに毒を盛ろうとして祖母が亡くなったとき、私は自分の信仰をもう一度問いただした。

兄弟はボエシアの教団のウィザードだった。彼の話から、闇の戦士は信用ならないモラグ・バルよりも私の精神に近かった。ボエシアはデイドロスの誰よりも戦士らしいデイドラ公である。数年間を陰の策略で過ごした後では、行動に直接結果が生まれる主人は好ましかった。その上、私はボエシアがダークエルフのデイドラの1人であるのが気に入った。黄昏の月2日、籠手と呼ぶ日に我々の教団は彼女を召喚した。血まみれの戦いが彼女に敬意を表して行われ、9人の信者の命が他の信者の手で奪われるまで衝突は続いた。ボエシアは彼女の信者に対してほとんど気を使わず、彼女の関心は我々の血だけだった。誤ってスパーリング中に兄弟を倒してしまったとき、彼女は確かに笑った。私の恐怖が彼女を大喜びさせたのだと思う。

その後すぐに教団を離れた。ボエシアは私にひどく冷たかった。心に深みのある支配者が欲しかった。人生の次の18年間、私は誰も崇拝しなかった。その代わり、本を読んで研究をした。古くて俗な書に、不可思議なノクターナルの夜の女王、ノクターナルの名前を見つけた。その本が指示したように、炉火の3日、聖なる日に彼女に呼びかけた。ついに、長いこと求めていた自分の主を見つけたのだ。彼女の不可思議な痛みの元になる、入り組んだ哲学を必死で理解しようとした。話し方や私に求めた言動でさえも、彼女に関することはすべて闇に包まれていた。私がノクターナルを理解できることはないという、単純な事実を理解するまで数年かかった。ボエシアへの残忍な行為やモラグ・バルへの裏切りと同じように、彼女の神秘は彼女にとって不可欠だった。ノクターナルを理解することは彼女を否定し、その部分を闇で覆う幕をめくることだ。私は彼女を愛する程に、彼女の謎を解く無益さに気がついた。代わりに彼女の姉妹、アズラのことを考えるようになった。

アズラは私が崇拝したデイドラ公の中で、唯一信者を気にしているように思える。モラグ・バルは私の精神、ボエシアはは私の腕、そしてノクターナルはおそらく私の好奇心を欲しがった。アズラはそのすべてを望み、とりわけ愛を欲しがる。盲従ではなく、誠実で純粋なあらゆる私達の愛だ。そしてその愛は、内側にも向かわねばならない。我々が彼女を愛し自身を憎むと、彼女は我々の苦しみを感じる。私が今後他の主に仕えることはないだろう。

エドラとデイドラAedra and Daedra

神、悪魔、エドラ、デイドラという名称は一般の大多数にとっては紛らわしい物である。これらは同意語として使われることも多い。

「エドラ」と「デイドラ」は相対語ではない。両方共、エルフ語で正確な定義がある。アズラはスカイリムとモロウウィンドのデイドラである。「エドラ」は通常「祖先」と訳され、シロディール語としてはエルフ語の概念に可能な限り近づけている。一方、「デイドラ」は大まかに言うと「我々の祖先ではない」という意味になる。伝説上の系図がイデオロギーを根本的に分岐させているダンマーにとって、この違いはとても重要な物だった。

エドラは静止に関連付けられる。デイドラは変化を象徴する。

エドラは定命の者の世界を作り、アース・ボーンズに縛られている。一方、想像ができないデイドラは変化をもたらす力を持っている。

神の創造に基づく契約の一部として、エドラは殺すことができる。ロルカーンと月がその証明である。

契約が適用されない、変幻自在なデイドラは、追放することしかできない。

オプスカルス・ラマエ・バル・タ・メッザモルチェOpusculus Lamae Bal ta Mezzamortie

ラマエ・バルと休まらぬ死の概要

マベイ・アイウェニル 書記

グウィリム大学出版局翻訳 第二紀105年

光が大きくなると、陰の闇が濃くなる。デイドラのモラグ・バルがアーケイを見て、人間やエルフ族の死を支配するエドラを高慢と考えた時、それは真実となった。

残酷な抑圧と定命の者の魂を罠にかける役割のバルは、ニルンの人間やエルフ族、獣人も死からは逃れられないと知っているアーケイを邪魔しようとしていた。エドラは自分の役割を疑わず、だからこそモラグ・バルは最高の死をニルンに送った。

バルが人の姿になってネードの民のラマエ・ベオルファグの乙女を奪った時、タムリエルはまだ若く、危険や驚くべき魔法に満ちていた。バルは乱暴に愛もなく彼女の体を汚した。その叫びが悲鳴の風になり、今もスカイリムのフィヨルドでは聞こえるところがある。1滴の血を彼女の額に流し、バルは怒りを撒き散らしながらニルンを去った。

乱暴を受け意識のない状態で、ラマエは遊牧民に発見され世話を受けた。2週間後、遊牧民の女性は彼女が他界したために布で覆った。習わしに従い、遊牧民はたき火を作り魂のない体を焼いた。その夜、ラマエは火葬の薪の中から立ち上がり、燃えたまま群衆に襲いかかった。彼女は女性の喉を裂き、子供の目を食べ、バルに暴行されたように残酷に男性を犯した。

そしてラマエ(血の母として有名)はタムリエルの人達に呪いをかけ、醜悪な物を際限なく生み出した。最も狡猾な夜の恐怖、吸血鬼はここから生まれた。タムリエルには不死の苦しみがもたらされ、原初の神々の時代から続くアーケイの生と死のリズムを残酷に阻害したのだ。アーケイは悲しんだが、元に戻すことはできなかった。

ハーシーンのトーテムThe Totems of Hircine

ハーシーンから最も貴重なライカンスロープの贈り物を授かった我々の間で、彼が自分の力をこの世界に存在する特定のアーティファクトにもたらしたという伝説がある。それは人間が書く事も話す事も考える事もほとんどできなかったが、選ばれし者達には野獣の血がまだ色濃く流れていた頃の時代の話だ。

第1:彫刻がほどこされた狼の頭蓋骨。
我々一族を作り上げた血の儀式で古代の呪術師によって使われ、その前にひれ伏す人々への存在感を高めると言われている。それは、ハーシーンの顔をちらっとでも見たことのある人々以外は、彼らの姿を見ると未知の恐怖で縮み上がるほどだと言われる。

第2:頭蓋骨同様、彫刻が施された大腿部の骨だが、何の動物の骨かは不明。より古代の仲間の多くが薬効効果のある棒として使用し、視力も嗅覚も高めると言われていた。そのため感覚が鋭くなった我々から獲物が遠くに逃れられなくなった。

第3:平凡な太鼓。そのありふれた外観はおそらく長い歳月の中で忘れ去られたことを意味するのだろう。我々の父が戦場から仲間を呼ぶために拍子をとったように、太鼓を鳴らせば我々の血の中に眠る先祖が同族を呼び集めるだろう。

これらのトーテムを通して、我々は野獣の力を呼び起こし、集中させる。ウェアウルフが人々に知られている魔法を見限る一方で、我々は時により直接的な自然エネルギーと接触できる。そしてこのようなトーテムを通して、人工的な文明に汚される前の最初に世界を支配した力を見つけられるのだ。

フラグメンテ・アビーサム・ハルメアス・モラスFragmentae Abyssum Hermaeus Morus

…そしてイスグラモルは巨人の妻の嘆きを集め、フロアとグロスタの元に持って行き、イスグラモルの強弓ロングランチャーを張り直すため、より合わせて悲嘆の弦にしてもらった。以来、ロングランチャーは運ばれるとため息をつき、発射されると嘆きの声をあげた。そして、イスグラモルはそれを狩りに持って行くことにした。

そして彼はアトモーラのフロストウッドで狩りをして、多くの獲物を仕留めてから、喉を心ゆくまで潤そうと浅瀬で立ち止まった。そこにフォーレルグリムの白鹿が、流れを越えて飛び跳ねた。イスグラモルは鹿を射た。だが彼は何と射損じた。不機嫌な彼は誓った。白鹿を倒すまで追い続けると。だが鹿は静かに落ち着いて、雪の上にかかる霧のごとく通り過ぎていった。イスグラモルは何度も鹿を見たが見失った。悲嘆の弦のため息が、白鹿の足音より大きくなったがゆえに。

再び跡を見失い、怒りに燃えて立ち止まったとき、ウサギが現れて言葉を発した。「鹿はあそこの谷の中に潜んでいます」「どうしてわかるのだ?」イスグラモルはウサギに問いただした。ウサギは答えた。「長い耳があるのでわかります。ええ、あなたも私ほどの長い耳を持っていたら、獲物がどこに行っても聞きつけることができますよ」

「それならば」イスグラモルは言った。「私の耳が汝のものほどの長さになるように」するとウサギの鼻がひくひくと動き、イスグラモルは自分の耳が伸びて先が尖るのを感じた。ところが一匹のキツネが雑木林から飛び出して、ウサギに飛びかかって殺した。イスグラモルは不思議なことに、自分の耳が縮んでいつもの大きさになったのを感じた。

そしてキツネが言葉を発した。「知るがよい、定命の者よ。我が名はショール。この者はウサギなどではなく、ハルマ・モラである。汝を欺き、エルフの仲間に変えるところであった。これより後は、人間の素直なやり方に頼り、エルフのごまかしを避け、彼らのようにならぬようにせよ。さあ、谷で汝を待つ白鹿のもとへ向かうがよい」

ハイルマ・モラ・パド・アダ・オイア・ナガイア・アバ・アゲア・カヴァ・アポクラ・ディーナ・ゴリア・ガンドラ・アルカン

「ハルメアス・モラはアダ、アビサル・セファリアークよりも年長であり、この下劣な者の請願に耳を傾ける。私が否定された知識を交換するに至ったがゆえに。私が求めるものはこの羊皮紙に名前が書かれており、それによって私はお前に敬意を表して知識の悪魔を使役する。我が願望にとって知ることは計り知れず、償いには名づけられたいかなる対価もみたされるであろう」エ・ハルマ・モラ

エ・ハルマ・モラ・アルタドゥーン・パドメ・ルカン・エ・アイ

(私の次なる夢は)アポクリファの夢だった。そこで私は(名もなき書物)の間の影の広間、煙のごとく吸い込んだ意見と議論の間を歩いた。左手にはベラムの巻物、右手には羽根ペンを持ち、通り過ぎてきた歴史(を書いた)が、巻物が文字で満たされることはなかった。(言葉を)下に書くにつれて上の(言葉が)消えていくからだった。

そして私はラピスラズリの台座の元で立ち止まった。そこにはこれまで述べてこなかった(物が)しまってあった。奇妙な装飾の壷だった。そこで私は巻物と羽根ペンを(脇に置いて)、装飾をつかんで蓋を持ち上げた。

(壷の中には)ねばねばした不快な匂いの(液体)があった。その上に浮かんでいたのは、灰色に輝く定命の者の(思考器官)だった。それで、なぜかはわからないが理解した。その(液体)は塩水ではなく、その脳は保存されていたのではなく生きていて、警戒しており、闇の知性によって思考を続けていたのだと。私は蓋をしめて壷(から目を上げて)、そして(台座の向こうの)長くどこまでも続く回廊を見やった。左右に数え切れないほどの台座が並び、(それぞれの台座の上には)壺があった。

(そういうわけで)私が目を覚ました(時)、私の舌は刺し貫かれていたのであった。

ボエシアの証明Boethiah’s Proving

(以下の説明は真実である。聞く耳と考える心を持つ人々に警告として届きますように)

ある日ある時刻に、信仰深い者たちは主を一目見ようとある儀式を行うために集った。日程は正しく、まさしく召喚日和だった。

ベールに立ち込める煙を掻き分けて、恐ろしくもまばゆい女が姿を現した。彼女は太陽の表面よりも熱く燃え上がる刀剣を振りかざしながら、月が出ていない夜よりも暗い漆黒の衣装で着飾っていた。ダンマーの戦う女王の姿だったが、レッドマウンテンから彫り出された像のようにそびえ立っていた。

「なぜ私の眠りを妨げたのだ?」

驚いて、人々の間で1番目の者は祈った。

「ボエシアよ、策略のデイドラ公にして民を惑わす者であり、影の女王でありそして破壊の女神でもああるお方よ。あなた様に崇拝を奉げるために参りました!」

彼女は証言をしようと集まった彼らを見下ろした。不機嫌そうな顔で最初に尋ねた。

「答えよ。お前は私を知っているが、私はどうやってお前を知ればいいのだ?」

恐る恐る男は答えた。

「毎晩あなた様に祈ります。毎晩あなた様の素晴らしいお名前を声に出してお呼びします。もちろんあなた様は私の声がお判りになりますよね?最も忠実な信者ですよ?」

彼女は顔をしかめて長い溜息をもらすと、そこから出た空気が男を包み、突然彼の姿は消えた。

2番目の者の方を向き、彼女は尋ねた。

「お前はどうだ?どうお前の価値を見定めればいい?」

その声の力に衝撃を受け、男は漆黒の衣装を纏った彼女の前で頭を垂れた。

彼女が手をたたくと、彼もまた消えた。

3番目の者には次のように尋ねた。

「そこのお前、答えてみろ。私は先ほどの彼ら、そしてお前のように情報がない者をどう知ればいいのだ?」

震え、仲間の失踪に言葉を失い、男は囁いた。

「我々にお慈悲を!」

彼女は2度まばたきした。1度目のまばたきで男は苦しみ悶絶し、2度目で死んだ。

彼女は残りの者たちに容赦ない視線を向けて言った。

「私は慈悲を与えはしない」

他の者たちも一緒だった。彼女は彼らを試し、彼らは何も与えられなかった。

ついに、怒りで目をぎらつかせ憎しみで舌を濡らし、彼女は私のところに来て言った。

「すべての私の信者の中で残りは2人だ。最後から2番目の者よ、どうやってお前の存在を証明するのだ?」

ためらうことはなく私は武器を抜いて、隣に立っているもう1人の胸を突き刺した。恐れることなく答えた。「今この刃から血を流すこの男に、私が存在しているかどうかを聞いてください」

彼女は微笑んだ。そして彼女の歯の間にあるオブリビオンの門が開いた。それから言った。

「最後となった者よ、なぜ他の者たちがいない場所に残るのだ?」

私は刃をしまい、答えた。

「そこにいる者が死んだから、私は生きています。私が存在しているのは、その意思があるからです。この刃から血が滴るように私が仕事をする証がある限り、私は生き残るでしょう」

贈り物を受け取りながら、彼女は言った。

「確かに」

(もし、これを読んでいるときに血管の血が煮えたぎり、心が燃えていたなら、ボエシアに呼ばれるだろう。彼女の声に耳を傾けることは最も賢明である)

モラグ・バルの子供The Spawn of Molag Bal

モラグ・バルは奴隷にする。モラグ・バルは冒涜する。

モラグ・バルは従わざる者との子供を生み、軽率な者の魂を刈り取る。

伝説によれば、モラグ・バルは最初の吸血鬼の父である。吸血鬼の多くの種についての詳細は明らかではないが、吸血鬼はみな彼の子と考えられるかも知れない。

大部分の吸血鬼は血をたどっていくと同じ遠い祖先に行き着く。モラグ・バルに汚された、ネードの従わざる処女だ。彼は怪物の血を生み出し、怪物達はさすらい、彼の汚れを遠くに撒き散らした。

モラグ・バルとの契約や取引の結果吸血鬼となった種もある。モラグ・バルは契約の見返りに、不死と永遠の罰を伴う力を約束したのだ。

モラグ・バルは混沌と不和の種を蒔き、次々と魂を腐敗させることで争いを撒き散らす。彼の軍は勢をなし、彼の忍耐は無限である。彼の究極の目的は、生きとし生けるものすべてを支配し、奴隷とすることだ。

現代の異端者Modern Heretics

帝都内のデイドラ崇拝の研究

ゴトルフォントのハデラス 著

シロディール内でデイドラ崇拝は法で禁じられてはいない。これは主に、デイドラの召喚を許可するために帝都が魔術師ギルドに対して認めた特権の結果といえる。にもかかわらず、聖職者および一般大衆からのデイドラ崇拝への風当たりが非常に強いため、デイドラ関連の儀式を行うものたちは秘密裏に活動している。

一方で、諸地方に目を向けてみるとデイドラ崇拝に対する見方は様々である。シロディール内でも年月と共に伝統的な世論に少なからぬ変化が見られ、デイドラを崇拝する集落も存続している。伝統的なデイドラ崇拝を志す者には信仰心や個人的な信念を動機とする者がいるのに比べ、現代的なデイドラ信者の多くは魔法的な力を目当てにしている傾向がある。とりわけ冒険家と呼ばれる人種は、伝説に名高いデイドラのアーティファクトの、武器や魔法的な利点を追い求める傾向にある。

筆者自身も、夜明けと黄昏の女王であるアズラを信仰する一団と遭遇している。デイドラ崇拝に興味をもつ研究者は複数の方法で調査を進めることができる。既存の文献の研究、古代のデイドラの祠の探索および発見、各地の情報通からの聞き取り、そして信者そのものからの聞き取りなどが挙げられる。筆者自身はアズラの祠を発見する際にこれらの手段を全て用いている。

筆者は最初に文献を紐解くことにしている。本書のような解説書からデイドラの祠に関する一般的な事情などを知ることができる。筆者が自身の研究によりシロディール内のデイドラの祠について理解している事項を例示すると、一般的に、デイドラの主の像が祠の象徴となっており、祠の位置は集落などから離れた野外にあり、各々の祠には信者の一団がついており、祠ごとにデイドラの主への嘆願等を行うべき特定の時間(週の間のある日であることが多い)が決まっており、デイドラの主は嘆願者が十分な力を有しているか、相応の人物でない限り嘆願に応じないことが多く、また返答を得るには適切な供物を捧げる必要があり(捧げるべき供物については信者の一団のみが知る秘密となっていることが多い)、そしてデイドラの主は何らかの仕事や使命を達成した冒険家には、しばしば魔力をもったアーティファクトを授けることがわかっている。

筆者は次の段階として、周辺地域の地理に精通している地元住民に聞き取りを行う。とりわけ得るものが多い聞き取り対象は二つあり、一つめは(移動中に祠を発見する可能性のある)旅の狩人や冒険家であり、二つめは魔術師ギルドの学者たちである。アズラの祠については、どちらの対象も有益な情報源となってくれた。旅路の途中で奇妙ながらに雄大な彫像を見かけたというシェイディンハルの狩人によると、像は両腕を伸ばした女性の姿をしており、片方の手には星を、他方の手には三日月を持っていたとのことだった。祟りを恐れて像を避けたものの、その位置は記憶しており、シェイディンハルの遥か北方、アリアス湖の北西、ジェラール山脈の奥深くという情報が聞き出せた。像の外観に関する情報が得られたので地元の魔術師ギルドを訪ねてみると、その外見を元に崇拝の対象となっているデイドラの主の正体が特定できたのであった。

祠の位置が判明したので現地に足を運んでみると、祠の周囲に信者の一団が住み着いていることがわかった。デイドラ崇拝に対する風当たりの強さゆえ、信者たちは当初こそ自分たちの素性を認めたがらなかったものの、筆者が彼らの信頼を得た後にはアズラが嘆願に耳を貸す時間帯(夕暮れから夜明けまで)に関する秘密や、捧げるべき供物がウィル・オ・ウィスプから得られる「発光する塵」であることを教えてもらえた。

筆者は一介の聖職者兼学者であるため、ウィル・オ・ウィスプを発見して発光する塵を入手することはかなわなかったうえ、供物として捧げられたとしてもアズラが耳を貸してくださったかどうかは定かではない。しかし、仮に供物を捧げてアズラがそれを認めてくださった場合、筆者は何らかの使命を与えられ、それを達成できた暁には伝説的な魔力を秘めたデイドラのアーティアクト「アズラの星」を授かることができた可能性があったのは確かである。

筆者はその後、シロディール内に上記以外にも複数のデイドラの祠が存在すること、およびそれぞれの守護神であるデイドラの主の名、そして冒険家たちが授かりうるデイドラのアーティファクトに関する噂を耳にしている。狩人のハーシーンは強力な魔力を帯びた鎧である「救世主の皮鎧」の伝説と結びついている。魔剣「ヴォレンドラング」は妖魔の王マラキャスと関連があるらしく、名をそのまま冠した「モラグ・バルの戦棍」もデイドラ崇拝の対象となっているようである。シロディール内にあるこれら以外のデイドラの主の祠および信者たちについては、たゆまぬ努力を続ける探究者たちによって明らかにされていくことだろう。

災厄の神The House of Troubles

聖ヴェロスとチャイマーに従って約束の地モロウウィンドへと向かった祖先の霊魂の中で、デイドラの主である4人、マラキャス、メエルーンズ・デイゴン、モラグ・バル、シェオゴラスは、災厄の四柱神として知られている。彼らデイドラの主は、トリビュナルの助言と勧告に反発し、クランと名家に大いなる騒動と混乱をもたらした。

マラキャス、メエルーンズ・デイゴン、モラグ・バル、シェオゴラスは、試練の時に障害物の役割を果たすという意味において聖人である。時に彼らは、この地域の敵であるノルド、アカヴィリ、あるいは山のオークとさえ交流を持った。

マラキャスはかつてトリニマクだった者の残骸であり、弱いが復讐心に燃えた神である。ダークエルフは彼がオークの神王マラクだと言う。彼はダンマーの身体的な弱さを試す。

モラグ・バルは、モロウウィンドにおける残虐の王である。彼は名家の血統を壊そうと試みており、さもなければダンマーの遺伝子プールを汚すつもりでいる。モラグ・アムールに住んでいたと言われる怪物の種族は、前紀に行われたヴィベクの誘惑の結果である。

シェオゴラスは狂気の王である。彼は常にダンマーの精神的な弱さを試す。多くの伝説において彼は、ダンマーのある派閥に対抗しようとする派閥に招かれている。物語のうち半数において、彼は自分を呼んだ者たちを裏切らず、そのため、全体的な枠組みにおける彼の立場について混乱が生じている(果たして彼は我々を助けられるのか?障害にはならないのか?)。彼は、例えば帝国のように、ダンマーが恐怖を抱く他の種族と、役に立つ同盟者として結びつくことがある。

メエルーンズ・デイゴンは破壊神だ。火事、地震、洪水など、自然の危険と関わりを持つ。ある者たちにとって、彼はモロウウィンドの住みにくい土地の象徴である。耐えて生き延びる意思がダンマーにあるかどうかを試す。

これら四柱の邪悪は崇拝は、聖堂の掟と慣習に反することである。しかし、四柱に仕えようとするどん欲で無謀な者や、正気を失った者が絶えた試しはない。古代の聖堂の掟と秩序、そして帝国の法に基づいて、こうした魔女やウォーロックたちは処刑される。帝国の駐留部隊は聖堂のオーディネーターやボイアント・アーミガーと協力して、荒野の隠れ家や古代の遺跡に隠れて冒とく的な崇拝を行う者たちを追い詰め、始末している。

夢中の歩みThe Dreamstride

1000年以上もの間、ヴァルミーナの司祭は錬金術の達人である。彼らの混合剤の複雑さと効用は、まさに伝説にほかならない。このような錬金術の秘宝は非常に人気があり、闇市に出回る水薬1つが大金を生むこともある。

現在知られている数多くの薬の中でも、おそらくヴァルミーナの不活性薬が1番素晴らしいだろう。この粘着性のある液体を一滴飲むだけで、「夢中の歩み」として知られる状態に陥る。使用者は他人の夢を、まるで自分がそこに入り込んだかのように体験できるのである。対象者は最初から居たかのように夢の世界に溶け込み、夢の重要な一部になる。夢の中に登場する人々からは、使用者の方が夢を見ている人だと思われるだろう。使用者は、自分の癖や話し方、適切に広がった知識さえも目にするはずだ。

観察者の目には、薬を飲んだ使用者の姿が消えてしまうようだ。対象者が夢の中で行ったり来たり歩くとき、観察者たちもまた実際の世界を行ったり来たり移動する。不活性薬の効き目が切れると、対象者の姿は再び見えるようになり、夢の中でいた場所とまったく同じ場所に出現する。わずか数フィートしか動かなかった対象者もいるし、ほんの数分で元の場所から数千マイルも離れた場所に現れた者もいる。

注意すべきこととして、夢中の歩みは非常に危険で対象者に様々な潜在的危険を与えることだ。ある夢では、対象者は病気や、暴行そして死のような生命を脅かす状況にさらされた。ほとんどの場合は傷を負うことなく現実の世界に戻って来れるが、場合によっては対象者は帰ってこずに薬の効き目が切れたと見なされるか、死亡した状態で現れる。現実世界においては危険で有害な場所に戻ってきてしまうことも多い。たとえ夢中の歩みの中では、そこが安全な場所であったとしてもだ。

ヴァルミーナの不活性薬は、それを作り出す錬金術師のように不思議でとらえ所がないものである。この独特の移動装置が不活性薬自体の効果なのか、単にヴァルミーナの奇妙な企みなのか定かではない。しかし、通り抜けられるはずのない障害物を通り抜ける夢中の歩みの効果は、確実にその不思議な性質によるものである。