リベンスパイアーの伝承

Rivenspire Lore

ウェストマーク・ムーアの墓苑The Barrows of Westmark Moor

長老サシル・ロングリート 著

一般に「サングイン墓地」と呼ばれるウェストマーク・ムーアの墓苑は、その歴史を通じて、地元の人々のあいだに芳しからぬ評判を醸成してきた。リベンスパイアーの貴族は、今生きている者が誰一人憶えていないほど昔から、この墓苑の節くれだった木々の根に死者を埋葬している。腐敗、争い、墓荒らし、その他もっと酷いことを目撃して来た古い墓に、親族を葬ってきたのだ。

ウェストマーク・ムーアの冷たい大地には、ドレル、タムリス、モンクレアをはじめとする北部の有力な家の多くが死者を埋葬している。こうした家の中にはショーンヘルムの王や女王を輩出している家もあるが、彼らが死後、ここで親戚縁者たちと共に眠ることはない。彼らの遺体はグレナンブラにあるキャス・ベドロードの大霊園に送られ、ハイロックの歴代君主たちとともに永久の眠りにつく。これは長らく続く伝統に則ってのことである。

「サングイン墓地」内の埋葬区画の所有権をめぐって家と家が争うのは、珍しいことではない。そもそも「サングイン墓地」などという不吉な通称からして、第二紀551年の初夏に起きたある事件を境に奉られたものだ。私の記憶では、タムリスとモンクレアの両家で、同じ日に不幸があったことがそもそものきっかけだったように思う。両家の墓は境界を接しており、それゆえ長年にわたって争いの種だった。したがって問題の朝、両家の葬列が同じ区画(川を一望できる人気の高い場所だった)に面した同じ丘の上に到着した時点で、悶着は避けられないものだった。

貴族たちは何時間も言い争い、召使たちを何度も往復させては古文書やら証書やら正式な境界線が記された地図やらを持ってこさせたが、どちらも引き下がるわけにはいかない。日没が近づく中、互いに我慢が限界に近づいていた。驚くべきことでもないが、やがて双方が侮辱を受けたといって非難の応酬を始め、ついには武器が抜かれた。リベンスパイアーの人々は、続いて起きた「血の葬列」(呼称は後につけられた)が両家の歴史に汚点を残したと一般に考えている。

「サングイン墓地」では、略奪や冒涜もまた珍しいことではない。墓苑を巡回するのは白霜の高原の当局の仕事なのだが、富の誘惑が番人を罪人に変えるのに充分な時もあれば、自ら手は下さないまでも、墓への侵入に目をつぶってやるには充分な時もある。ショーンヘルムの王や女王がそういった不心得な行いに対して絞首刑という厳罰で臨み、一罰百戒を狙ったことも、一度や二度ではない。

そういった厳罰にもかかわらず、貴族が埋葬される度に、新たな狼藉や盗掘が行われるといっても過言ではない。実際、ある朝、タムリス家の墓所が遺体も含めて丸ごとからっぽになっているのが見つかり、家の人々を呆れさせたのは、つい数年前の出来事なのだ。盗人たちは結局見つからずじまいだ。なぜ彼らが遺体も一緒にさらっていったのかについては、誰しも考えたくないだろう。

「サングイン墓地」は、1つの墓地としては多すぎるほどの悪事や揉め事を体験してきた。しかもこの墓地は何度も繰り返し、その名にふさわしい悪評を得ている。これ以上この記録に暴力や盗みのエピソードを書き加えずにすむことと、いまだそこに埋葬されている貴族たちが未来永劫安らかに眠れることを、私は願ってやまない。

エセルデ王女の物語The Story of Princess Eselde

[このささやかなプロパガンダはタムリス家のために捏造され、エセルデ女伯爵が南部でアーケイ教団の教えを受けているあいだに流布されたものである。]

かつてカットキャップの国にはルルスルブという名の偉大な王がいて、長きにわたり善政を敷いた。やがてルルスルブも老いを感じ、自分が世を去ったあとの王国の行く末を案じるようになる。ルルスルブには2人の王子がいた。普通であれば老境の君主にとっては喜ばしいことだが、この場合はむしろ悩みの種だった。というのも、若いほうのピジョン王子は正室たる王妃の子だが、意志薄弱で政治に関心がなかった。対照的に、年長のランセル王子は大胆で物おじせず、母親もカットキャップ一の名門リスマット家出身だったが、いかんせん正嫡ではなかった。

さて、ルルスルブは英明な王であり、自分がランセル王子を気に入っていることを隠そうとしなかった。ランセルのほうが統治者にふさわしいことは、誰の目にも明らかだったからだ。にもかかわらず、年老いた王がついにエセリウスへと旅立ったとき、柔弱なピジョン王子が王位を継ぐべきだと感じる者が一部にいた。この連中が単に心得違いをしていたのか、それともカットキャップの王権が弱まるべきだと考える何らかの理由があったのか、それはよくわからない。ただ、最終的には良識派が勝利し、ランセル王子が貴族評議会によってカットキャップの王に選ばれた。

王位に就いて間もなく、ランセルは舞踏会でレディ・ヴェスパイアといううら若き乙女を見初め、恋に落ちる。可憐で賢いヴェスパイアはリスマット家の出身であり、短い求愛期間を経て、ランセル王は貴族評議会に彼女を妃に迎えるつもりだと話した。ところが、元王子のピジョン伯爵がこれに異を唱える。ランセル王の母親もリスマット家の出身であり、血縁法に照らしてレディ・ヴェスパイアは血が近すぎる。したがってこの婚姻はふさわしくない、というものだった。これに評議会の他のメンバーも賛同したため、ランセル王は評議会の説得を容れてレディ・ヴェスパイアとの結婚を断念した。知らせを聞いたレディ・ヴェスパイアは姿を消した。ニクサドの一団によって森の中に連れ去られたとも言われている。ランセル王は捜索隊を出したが、失踪した恋人はいくら探しても見つからなかった。

やがて、評議会が王朝存続のためにランセル王に花嫁候補を推薦する。ダル家出身の健やかな娘、レディ・イグノートである。いまだ傷心の癒えぬ王は、この薦めを受け入れる。ランセルとイグノートは華燭の典を挙げ、ランセル王は輿入れしたばかりの王妃の側で国王としての務めに打ち込んだ。それから数ヶ月後、王妃イグノートがランセル王の子をなしたことが発表される。幼い王女のために命名祭の開催が決まり、国中の貴顕紳士が招待された。

命名祭の当日、カットキャップの名士たちがこぞって駆けつけ、アレイエルと名づけられたばかりの王女が眠る揺りかごの足もとに贈りものを置いていった。ところが、その行列のしんがりに、何者とも知れない招かれざる客が並んでいた。それは不吉なウィルド・ハグで、マントに身を包んでフードをかぶり、暗い色の花を一輪、手にしていた。じつは「太陽が死んだ年」からこのかた、カットキャップでウィルド・ハグの姿が見られることはなかったのだが、それでもみな怖気づき、あえてその行く手を遮ろうとする者は誰もいなかった。

ウィルド・ハグは王女の揺りかごに歩み寄ると、フードを脱いで叫んだ。「ごらんなさい、ランセル王!私です、レディ・ヴェスパイアです。今はウィルドのウィレスですが!」着飾った人々は恐怖に駆られて後ずさりをした。というのも、かつて可憐だったレディ・ヴェスパイアが、見る影もなく変わり果て、今や醜いイボに覆われた巨大な鼻をこれ見よがしに突き出していたからである。「何かの手違いで、陛下のご息女の命名祭に私は招かれておりませぬが、それでもこうやって罷り越しました。ごらんなさい、幼き王女殿下に贈りものをお持ちしましたわ!」

「贈りものとは何か?」ランセル王が身を震わせながら訊ねた。「その暗い色の花か?見るからに気に入らんぞ!」

「そうでしょうとも、陛下」ウィルド・ハグは嘲るように言った。「これは「見捨てられたバラ」と言って、誰も欲しがらない花ですもの!そんなふうに疎まれるのがどういうものか、私は知っておりますよ、ランセル王。そして、我が呪いによって、あなたの娘にもそれを思い知らせてやりましょう!」そう言うと、おぞましい魔女はいびつな形をした花を赤ん坊の上に落とした。その刹那、炎がぱっと燃えあがり、異様な臭いの煙が漂ったかと思うと、ハグの姿は消えていた。

その後、王女アレイエルは一輪のバラのように美しく成長したが、性格はひねくれており、そのうえ癇癪持ちだった。それでも彼女が北部の王女であることに変わりはなく、南部のエメティック王が花嫁を探しにやってくると、2人のあいだですみやかに婚約が交わされた。

ところが、昔から足しげく南部を訪れ、エメティック王とも親しくなっていたピジョン伯爵が、南部の王に注進におよぶ。アレイエルは性格がひねくれているうえ癇癪持ちであることを教え、「監視塔の姫」を娶るほうがよほど良縁になると勧めたのである。やがてエメティック王はこの進言を容れ、アレイエルとの婚約を解消し、「監視塔の姫」と改めて結婚の約束を交わした。

しかし、ランセル王がこれをすんなり認めるわけもなく、誓約を破った南部の王に戦を仕掛けることを誓う。そして実際にエメティック王に対して大義ある戦いを挑むが、「トールの戦い」で旗下の将軍の1人に裏切られ、殺害されてしまう。ランセル王の王冠もアレイエル王女も行方がわからなくなり、それ以来、カットキャップの玉座は空位が続いている。

しかし、一説によると、ランセル王誕生のみぎり、実は双子の妹も生まれていたのだが、1人のウィルド・ハグにさらわれ、森で育てられたのだという。ルルスルブ家とリスマット家両方の血を引くこの女児が成長して娘を産み、その娘は母方の一族に引き取られた。この娘というのが、誰あろうエセルデ女伯爵その人だというのである。

もしこれが本当なら、エセルデ女伯爵の本当の称号は「王女」でなければならないのは自明だ。そして、他の誰でもない、彼女こそがカットキャップの玉座の正当な継承者ということになる。しかしながら、それは彼女の領民たちが語るお伽噺にすぎない。

シルバーフーフの騎馬民族The Horse-Folk of Silverhoof

ケフレム大学ヨクダ文化専攻、ナベス・アルジレーン博士 著

ハイロックの北部沿岸にレッドガードの知られざる入植地があるという噂を耳にしたとき、私がまともに取り合わなかったのは言うまでもない。そんなものが到底あるはずがないと思えたからだ。しかし、噂は根強く、一向に衰える気配もないため、とうとう私は長期休暇を取って大学の教授職からしばらく離れ、自分の目で噂の真偽を確かめるべく、北に旅する気になった。

そしてモルワの涙にかけて、噂は本当だった!学術的な詳細は近々発表する論考「群れの母を戴く部族に関する7つの真実」で余すところなく述べるとして、ここでは要点だけ整理しておきたい。というのも、遅々として進まぬ奨学金の手続きに合わせて公表を先延ばしにするには、この発見があまりにも驚異的だと感じるからだ。

ハイロックのリベンスパイアー地方の北西岸、ショーンヘルムから数リーグ西に行ったところに、シルバーフーフ谷と呼ばれる窪んだ牧草地がある。そこには三千年前からレッドガードの一部族が住み着いている。単に「騎馬民族」とだけ呼ばれている集団だ。

彼らはいつ、どうやって、またいかなる理由でそこにやってきたのだろうか?あいにく騎馬民族は書かれた記録を持たないが、その代わり彼らには口承の伝統が根づいている。私は世代から世代へと語り継がれてきたそうした伝承を聞き書きすることに努めた。部族の長老たちは時間を惜しまず私の相手をしてくれたが、なかでもムザールとヤライダの2人は特に協力的で、私はこの2人に聞いたさまざまな話から、次のような歴史らしきものを組み立てることができた。

彼らがもともと住んでいたのはヨクダであり、これには疑いをさしはさむ余地がない。周りに住むネードの民と何世紀にもわたって接触を続けた結果、「ブレトン化」を免れなかったものの、彼らの日常語にはヨクダ語が数多く残っており、それらはいずれも、古アコス・カサズのステップ地方に由来すると思われる、母音を延ばす特徴的な訛りとともに発声される。ここでは彼らの乗馬用語からいくつか例を挙げれば充分だろう。たとえば彼らは馬首を左に向けたいときには「ネトゥー」と命じる。右に向けたいときには「ネトゥー・フゥー」。止まれは「セーリーム」だ。言うまでもなく、「ネトゥ」は古ヨクダ語で「曲がる」を、「アンセリム」は「止まる」あるいは「やめる」を意味する。

つまり、騎馬民族はヨクダの民の末裔であり、おそらくはアコス・カサズの北部で遊牧生活を送っていた諸氏族から枝分かれした部族と考えられるのである。部族の長老たちは自分達の系譜に関する詳細な言い伝えを憶えており、それらに語られる世代の数から、彼らがタムリエルにやってきたのは第一紀の6世紀初頭と推定できる。その頃、ハイロックは動乱の時代だった。ディレニ王朝は断末魔の苦しみにあえぎ、ブレトンの諸王国はいずれも建国の途上にあって、まなじりを決した入植者たちの集落が、先住民に駆逐されたり取り込まれたりする前に、わずかな隙をついて足場を固めることが可能な時代った。そして、私がムザールとヤライダから聞き取ったいくつもの伝承によれば、それこそがまさにラ・ガーダがハンマーフェルにやってくる2世紀近く前、シルバーフーフ谷で起きたことだったのである。

騎馬民族がこの地にやってきた理由を確定するのは、それほど簡単ではない。というのも、話がその点におよぶと、彼らの言い伝えは伝説へと逸脱し、神話の領域にさえ入ってしまうからだ。ここで、私は彼らの一風変わった信仰について触れなければならない。なぜなら、それこそが彼ら騎馬民族の伝統とアイデンティティーの中心をなすものだからだ。知ってのとおり、彼らは古いヨクダの神々のいずれも信仰せず、その代わり、「群れの母」と呼ぶ、一種のアニミズムに基づく聖霊を崇拝している。馬の姿をしたこの存在は、部族を教え導く守護神としてふるまう。部族の青年は夢の旅路で群れの母と心を通い合わさなければならない。夢の旅路というのは、大人の仲間入りをするための一種の通過儀礼(我々に伝わるウォークアバウトの風習に似ている)であり、青年は独りでそれを全うする義務を負う。この群れの母は現在の学術研究の世界で知られていないが、言うまでもなく我々の文化的記録は膨大な量が「旧き島々」を飲み込んだ大変動によって失われてしまったのであり、そのことは踏まえておくべきだろう。

彼らは「旧き島々」で何らかの危機に見舞われた群れの母崇拝を絶やさないために、失われたヨクダを離れたというのが騎馬民族に伝わる伝承である。数多の伝説には、群れの母から賜った「泳ぐ馬の船」を連ねた船団が、アコス・カサズを出港して海を旅する様子が描かれている。船団は「17の海を渡り」、タムリエルにたどりついたのだという。荒唐無稽な話として一笑に付すのは簡単だが、ただ、彼らは自分たちが「騎馬民族」と呼ばれる由来である馬たちを故郷の島々から一緒に連れてきたと言って譲らないし、これに関して私は疑いを抱いていない。なぜなら、乗用馬の目利きである私が見るところ、騎馬民族が乗りこなしている馬がいわゆる「ヨクダ産馬」と同一種であることは疑いない。アリクルの「アスワラの馬屋」育ちだと言っても良いほどだ。

タムリス家:近年の歴史House Tamrith: A Recent History

上級王エメリック陛下のご高覧に限る!(陛下は、この種の報告書がこういうふうに書き出されるのを好まれるようですね)

タムリス家はリベンスパイアーの主に西半分に領地を有し、農業、商業、通商をはじめ、数々の権益を有しています。実際のところ、彼らが紆余曲折の末にストームヘヴンおよびウェイレストの街と強い絆を結べたのも、南部諸国との交易を成功させていたからと言えるでしょう。

リベンスパイアーの三家(タムリス、ドレル、モンクレア)の関係を特徴づける三つ巴の確執は、いろいろな意味で第一紀の末にまで遡れます。それぞれの家が富と名声の礎を築き、リベンスパイアーの繁栄に貢献していた時期です。三家のなかでもタムリス家は特に信心深く、伝統的に宗教への傾倒が盛んで、しばしばアーケイを一族の守護神と頼み、お気に入りの神として崇めていました。

よくご承知のとおり、上級王陛下はお若い頃、リベンスパイアーの2人の貴族と多くの時間をお過ごしになられました。エスマーク・タムリス男爵とヴェランディス・レイヴンウォッチ伯爵です。それゆえ、今から10年以上も前、ウェイレストとその同盟勢力がリベンスパイアーに武力の矛先を向けねばならなくなった時には、気が重かったことと推察します。当時、ショーンヘルム王ランセルはウェイレストに宣戦布告し、忠誠を誓う貴族たちに、自らの負け戦に加わるよう強制しました。本心でウェイレストに対していかなる感情を抱いていたかはともかく、リベンスパイアーの各家は王命に従い、上級王陛下に対して兵を向けたのです。

そんな中、タムリス家は早々とランセル王への支援をやめ、兵を引きあげさせて講和を請願しました。ドレル家もすぐに同調しました。リベンスパイアーの他の家に比べて弱いレイヴンウォッチ伯爵家だけは、最初から武器を取りませんでした。レイヴンウォッチ伯爵家は1年続いたその戦を通じて中立の立場を貫いたのです。一方、モンクレア家はほとんど最後までランセル王を支えました。彼らはランセル王の残存兵力が現在「裏切り者の岩山」と呼ばれる場所まで押し戻されることになる合戦の直前まで、ウェイレスト連合の軍門には下らなかったのです。

この戦が終わると、平和と協調を主導する力強い旗手として、タムリス男爵が台頭します。上級王の名においてリベンスパイアーを治める三者連合政府を樹立し、三家それぞれの当主がエメリック上級王に忠誠を誓うというアイデアも、タムリス男爵のものでした。上級王は三者連合政府をお認めになったものの、ショーンヘルムの新しい王については、機会が訪れ次第選出すると約束するにとどめられました(これをお読みになって、陛下はその約束がいまだ果たされていないことを思い出されるでしょう)。

エスマーク・タムリス男爵はエルデ家の息女ジャネスを娶り、両家の財力が合わさった結果、さらに強大な政治勢力となりました。エスマークとジャネスは2人の娘に恵まれます。実際的で思慮深いエセルデと、腕っぷしが強く姉よりもお転婆なジャニーヴです。今から4年前、エセルデはリベンスパイアーを離れました。ストームヘヴンでより高度な教育を受け、宗教に対する理解を深めるためです。ストームヘヴンに滞在中のほとんどの時間を、エセルデは上級王陛下の宮廷の客人として過ごしました。同じ頃、若きジャニーヴは(父親と姉の望みに反して)「ショーンヘルムの衛兵」に加わります。

エセルデは学問に秀で、とりわけ歴史学、政治学、外交研究、そして神学の分野に関心をひかれました。彼女はアーケイの教えと「光の道」に深い確信を示すと同時に、治癒師としても謎かけコンテストの代表としても同期生のなかで抜きんでておりました。エセルデがゆくゆくはタムリス家の当主の地位を継ぐつもりで、その準備に努めていることは、誰の目にも明らかでした。

ジャニーヴもまた、周囲の予想の上を行きました。武勇、軍略、それに戦場での指導力、そのいずれにおいても驚くべき才能を示し、めきめき頭角を現したのです。結果、特進に特進を重ね、とうとう衛兵隊長の地位にまで登り詰めました。ショーンヘルムでの軍務に加え、ジャニーヴはタムリス家の私兵団の長にも就任しました(念のために申し上げれば、戦時をはじめとする非常時において、家の私兵が街の衛兵隊と合同で国防のため単一の戦闘集団を形成することは、決して珍しいことではありません)。ジャニーヴに欠点があるとすれば、それは気が短いことと、絶えず行動したがるところでしょう。行動せずにはいられないのだと言う者もおります。

ここで、悲報をお届けしなければなりません。エスマーク・タムリス男爵が、ほんの数ヶ月前、天寿を全うしました。父親の訃報に接したエセルデはただちにストームヘヴンを発ってリベンスパイアーに戻り、タムリス家当主の跡目を継ぎました。現在、彼女はエセルデ女伯爵として、リベンスパイアーを治める三者連合政府において亡父の後任に収まっています。これまでのところ、ドレル男爵が何かと異を唱えてくるのにもめげず、彼女はみごとに務めを果たしていると言えましょう。モンクレア男爵とどのように渡り合うかはまだ分かりません。と申しますのも、モンクレア男爵はここ数ヶ月宮廷を離れ、病で臥せっている奥方の看病に専念しているからです。

いずれにせよ、何か不測の事態でも起きないかぎり、襲名間もないタムリス女伯爵の前途は洋々たるものでしょう。

上級王陛下の御為に。内務省書記、レギナ・トロアヴォア

ドゥームクラッグにまつわる不吉な伝説の数々Dire Legends of the Doomcrag

タムリス家の側近ナラナ 著

はるか昔、ドゥームクラッグと呼ばれる陰鬱で不吉な石の尖塔は、アイレイドの民が学びや信仰に身を捧げる場所だった。しかし最近では、霧と影に覆われた剣呑な道の先にそびえる、取り憑かれた場所として知られている。

これまであまり顧みられることのなかった場所ではあるが、目下にわかに関心を集めていることから、タムリス女伯爵の依頼を受け、この禁断の地にまつわる伝説をここに列挙する。

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陰鬱な伝説の1つに、ならず者の首領レッド・ロブを追って「隠された峠」に分け入ったドレル家の女傑、「豪胆なるブリアンナ」に関するものがある。ブリアンナと配下の騎士たちは、レッド・ロブを捕えて裁きにかけ、それまでに犯してきた数々の罪を償わせるため、北部の海岸伝いにはるばる一味を追跡してきた。このならず者の仕業とされる数多の罪状には、最近ドレル家の貨物船から略奪を働いた一件も含まれていたのである。レッド・ロブにとってあいにくだったのは、その船にドレル家当主の娘、つまり男爵令嬢が乗って旅をしていたことだ。怪我を負ったうえに屈辱を味わわされた令嬢は、レッド・ロブの首級を望み、「豪胆なるブリアンナ」を捕り手として差し向けたのだった。

さて、ブリアンナが「隠された峠」の鳥羽口にたどりついたとき、配下の騎士たちは一人残らず殺されるか深手を負っていた。彼女が頼みにできるのは自分だけというありさまだった。ただ、レッド・ロブもまた似たような状況だった。仲間をみな失った彼は、ブリアンナを振り切るため、独りで濃い霧のなかに飛び込んだ。ブリアンナも「豪胆」の呼び名に恥じず、躊躇なく後を追う。それ以来、2人の姿は二度と見られることがなかった。

けれども、その地方に住む人々に言わせると、空気の冴えた寒い夜、空を突いてそびえる石の塔を赤い霧が薄く彩るとき、剣と剣を打ち合せる音が聞こえるのだという。ブリアンナとレッド・ロブが丁々発止の闘いを今も続けており、それは永遠に終わることがないのだと。

***

ドゥームクラッグにまつわる伝説でよく知られているものとしては、もう一つ、聞く者をやや落ち着かない気持ちにさせるかもしれない話がある。恋に破れ、この石の塔の頂で憔悴していったアイレイドの女性の話だ。とある貴族の屋敷で執事を務めるハンサムな男性にふられた彼女は、ドゥームクラッグの頂上に登って籠城を決め込んだ。友人と家族は、彼女を元気づけて塔から降りてこさせようと、あれこれ手を尽くすのだが、それでも、傷心の彼女は懇願や慰めの言葉にいっさい耳を傾けようとしない。そしてとうとう苦しみに耐えられなくなり、ドゥームクラッグからはるか下の海に身を投げてしまう。

けれども、この悲しい物語はそこで終わらない。今でも人々は信じている。ハンサムな旅人が不用意にドゥームクラッグに近づきすぎれば、恋に破れたアイレイドの女性の注意を引いてしまう恐れがあるのだと。いわく、彼女の安らげぬ霊魂が疾風のように降りてきて、不運な旅人をさらい、石の塔の頂に運んで慰みものにするのだという。しかし、どんなに辛抱強い囚われ人も、最後にはアイレイドの女性の霊を拒み、肘鉄をくわすことになる。寂しい夜、重なり合う2つの悲鳴が聞こえてくるかもしれない。それは、アイレイドの女性の霊がまたしても海に身を投げ、いちばん新しい恋人を水の墓地へ道連れにしたことを意味しているのだ、と。

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しかし、ドゥームクラッグにまつわる伝説で最も人口に膾炙しているのは、なんといっても「歩く死」の話だろう。そしてこの伝説に限っては、始めから終わりまで、恐怖譚というよりはむしろ用心を促すための教訓話と呼ぶほうがふさわしい。この伝説は言う。「隠された峠」を辿ろうとする者は誰であれ、否応なく自らの死を目指して坂をのぼることになるのだと。なぜなら、一歩歩みを進めるごとに、寿命が1年縮むからだ。年齢や健康状態によっては、濃い霧のなかに入ってほんの数歩進んだだけで死が訪れることもありうる。逆に、人並み外れて幸運な者であれば、「隠された峠」を登り切り、頂に到達できるかもしれない。噂に聞く、宝物庫に足を踏み入れることができるかもしれないのだ。ただそれでも、結局「歩く死」に追いつかれることは変わらない。

いずれにせよ、避けられない死に向かって進める一歩には、それなりの苦痛と衰弱が伴う。この伝説こそ、他のどの伝説よりもドゥームクラッグを神秘のベールに包んできた原因と言える。なぜなら、この話の真偽を確かめようという勇気の持ち主が、ほとんど現れないからだ。

自分の原稿を読み返してみると、なぜタムリス女伯爵が幼いころドゥームクラッグを怖がったか察しがつく。正直、いい歳をした私でさえ、こういった伝説には恐怖を覚えずにいられないのだから。

ノースポイント:その評価Northpoint: An Assessment

ノースポイントと街で随一の権勢を誇るドレル家に関するこの報告書は、上級王エメリック陛下じきじきの命により、丹念な調査を経て作成されました。私こと内務省書記レギナ・トロアヴォアは、個人的にこの努力の成果を査読し、そこに盛られた情報が正確であることを保証するものです。

まず、背景を知るために歴史の講義を行いましょう。ノースポイントは第一紀の9世紀、ダガーフォールからソリチュードに至る夏季航路を行き来していた冒険的なブレトン人の交易商、イリック・フロウディス船長によってその礎が築かれました。一帯の海岸は理想的な港を築くには適していないものの、周囲の水深が深く、大型船も難なく航行できました。また、交易路沿いに位置することから、商人が再補給し、船の修繕を行い嵐をやり過ごすにはちょうど良い中間点でした。この二点に着目したフロウディス船長は、投錨地として最も適したノースポイントに最初の船着き場を築き、そのまま港の名前としました。

船着き場を建設して間もなく、フロウディス船長は次第に大きくなってゆく寄航港の東にあるドレ・エラードの丘に、防壁をめぐらせた小さな砦と倉庫を建設させます。ほどなくして街は活気にあふれるようになり、自分の投機的事業が成功したことを確信したフロウディス船長は、この丘の名前を新たな姓として名乗ることにしました。それ以後も彼とその一族は海運事業を成長させ、同時に港とその周辺の土地で開発と投資を行い、ついには農民に土地を貸し出すことで新たな収入源を確立したのです。

第一紀の大半を通じて、ドレル一族は活動的で企業家精神に富んだ豪商の典型として、ハイロックに大いなる繁栄をもたらしました。第一紀の1029年、女帝ヘストラがハイロックを「最初の帝国」に併合したのを機に、ドレル家は男爵家に叙せられました。以来、ドレル家の財力とノースポイントの富は、北西海岸の沿岸貿易の消長と運命を共にしてきたと言えます。

24世紀、財力と権勢を伸張させ続けたドレル家は、数世代にわたってショーンヘルムの王位を保持します。この栄光が、その後何世紀ものあいだドレル家の自己認識を彩り続けました。それ故にこそ、今でも彼らにはリベンスパイアーの真の指導層の一翼を担っている自覚があるのです。そして、かつて王座に君臨していたという事実は、彼らに政治的陰謀への嗜好を植えつけました。それがただでさえ野心的な本来の性向と相まって、彼らを無視できない存在にしています。現在の当主アラード男爵は、ランセル王亡きあとリベンスパイアーを統治する三者連合政府の一角を占め、権勢をほしいままにしています。モンクレア家とタムリス家の当主たちと共に上級王へと忠誠を誓うアラード・ドレルは、いつの日かただ1人のショーンヘルム王としてリベンスパイアーを統治する権利を手中に収めたいと考えています。

近年、海運と交易を牛耳る雄として、ドレル家の存在感は抜きんでています。当主が宮廷事情に疎くならないように、わざわざショーンヘルムに男爵(または女男爵が)住まう広壮な邸宅を構えてもいます。ノースポイントの屋敷は一族郎党に任せているものの、所領の管理は依然として宗家の専権事項のままです。現在、当主アラードの息子で若年ながら有能なエリック卿がノースポイント周辺の領地を管理し、男爵自身は宮廷で三者連合政府の一翼を担っています。

ドレル家は軍事と政治の両面で抜け目がないうえ、伝統的に商業に力を入れてきた甲斐があって、その財力はリベンスパイアーで稀に見る水準に達しています。ドレル家はソリチュードの商人たちとの結びつきを深めてきましたが、これは彼ら自身が懸命に指摘するように、武力を用いた威嚇とは何ら関係がありません。ドレル家にしてみれば、単に商売として引き合うだけのことです。

三者連合政府を形成するリベンスパイアーの三家を私なりに研究した結果、モンクレア家はほとんど信用に値しないという結論に達しました。彼らと関わる際には、どのような状況であれ警戒を怠らないことをお勧めします。彼らが真に忠誠を捧げているのは、彼らの野心だけです。一方ドレル家は、野心的であることに変わりはないものの、ある程度の名誉の概念、そしてモンクレア家(ランセルの後裔だということを過度に誇っているように見える者たち)が稀にしか示さない愛国心を持ち合わせているように見えます。タムリス家はどうかというと、彼らは常にウェイレストの忠実な友でした。もっとも、現在の女伯爵は当主の地位に就いたのが比較的最近ということもあり、今以上に大きな責任を負う用意はできていないかもしれません。

リベンスパイアーの狂血鬼Bloodfiends of Rivenspire

タムリス家の側近ナラナ 著

このところリベンスパイアー全土に出没するようになった狂血鬼について、調べられるだけのことを調べよと仰せつかった。この生物は一見、過去に我々が観察してきた他の狂血鬼とまったく変わりがないように見える。しかし、さまざまな点が似ている一方で、1つだけ重大な違いがある。それは、彼らが吸血鬼の周期の終わりにではなく、始めに現れるという点だ。

このプロセスは、長くつらい潜伏期間の終わりに現れるのではなく、恐ろしいほど短い時間内に、ごく普通の人々を凶暴な怪物に変えてしまう。まるで、驚くべきスピードで感染者の体を溶かしてしまう血液性の熱病のようだ。触媒に接触した者が全員発症するわけではないが、発症すれば吸血鬼に(稀に)なるか、短時間で全ての狂血鬼の特徴である狂乱状態に陥る(ほとんどはこちらの経過をたどる)。

調査したところこれらの狂血鬼は、どうやらモンクレア家の宮廷魔術師であるアルゴニアンのリーザル・ジョルと、ワイロン・モンクレア男爵のレディ・ルレラヤ・モンクレアに関わりがあることが分かってきた。その2人はモンクレア家の兵を率いてリベンスパイアーを転戦しているが、旗下の兵のなかには吸血鬼も混じっている。噂によるとリーザル・ジョルとルレラヤは、何らかの邪悪な魔術、血の呪いのおかげで、単に一瞥し、手を振り、二言三言つぶやくだけで、ごく普通の人々を狂血鬼に変えてしまう能力を手に入れたのだという。もっとも、数々の目撃情報は贔屓目に見ても錯綜しており、こうした主張はまだ完全に裏付けが取れたと言えない。

過去に我々が対処してきた他の狂血鬼同様、リベンスパイアーの狂血鬼も正気を失った吸血鬼である。彼らの精神は回復不能なほど退化し、動くものと見れば見境なく襲いかかる。まさに骨と血に飢えた、残忍で暴力的な獣と言うほかない。この「血の呪い」は、異常な速さで進行する。いったんこれに取りつかれるや、ほんのわずかな時間で凶暴化した人々の例は、それこそ枚挙にいとまがない。リーザル・ジョルとルレラヤがいかにしてこの恐ろしい力を身につけたのかは詳らかでない。分かっているのは、2人がどうやらオブリビオンの力に頼って、モンクレア男爵のリベンスパイアー平定を支援しているということだ。

この「血の呪い」は例外的なものではあるが、リベンスパイアーの狂血鬼の習性は彼らの同族と変わらない。理性を欠いたこの凶漢たちは、犠牲者に自らの苦しみを伝染させる能力を持ち、しばしばそれを行使する。リベンスパイアーの狂血鬼に傷を負わされるか殺されるかした者が、それこそ瞬く間に狂血鬼に変貌してしまう確率は、相当に高い。

さらなる情報が集まるまで、リベンスパイアーの狂血鬼に関して私が推奨できる行動指針は1つしかない。滅ぼすべきだ。

レイヴンウォッチ伯爵家からの布告House Ravenwatch Proclamation

理解を求める者たちに告ぐ。

掴まえ所がなく古い貴族の家が、分かりやすく目標を公開することなどないとお考えだろう。そう考える者がいても不思議はない。しかしながら、故郷と味方に不和という災厄が訪れた今、明敏とは言えぬ者達のために旗幟を鮮明にしておくべきだと考えた。

レイヴンウォッチ伯爵家にとっての最優先課題は、いにしえの昔からリベンスパイアーに巣食う邪悪な存在を滅ぼすことだ。それは数々の名前で呼ばれている。アバガンドラ、ロラダバル、そして現在においては「光なき名残」。はるかな昔から、幾世代もの学者たちが、このアーティファクトを理解しようと努めてきた。しかし、理解など土台無理な話だ。それはムンダスに取りついた疫病であり、駆除する他はない。

レイヴンウォッチ伯爵家の第二の目標は、「光なき名残」の力を利用しようとする不心得者たちの野望をくじくことだ。モンクレア男爵の美辞麗句と「熱烈な愛国心」とやらに騙されてはならない。彼は「光なき名残」の力に屈し、リベンスパイアーの美しい郷土を破壊することをもくろんでいる。我々がなぜそれを知っているかというと、モンクレア男爵が「光なき名残」の力に取りつかれたとき、その場に居合わせたからだ。

我々はどちらかというと日陰を好む。本来、旗振り役を自ら買って出る柄ではない。しかし、事態は切迫している。もはや手段を選んでいる余裕などない。どうか知っておいてほしい。リベンスパイアーがいかなる脅威に直面しているにせよ、諸君だけが矢面に立つわけではない。我々が諸君の味方をしよう。レイヴンウォッチ伯爵家はエメリック、そしてリベンスパイアーの善良なる民と共にある。

レイヴンウォッチ伯爵家当主、ヴェランディス

光の名残The Remnant of Light

アイレイドの書
〈告げ示す者〉ベレダルモ 訳

その血の刹那(または永劫)のうちに、アヌマリルはフィレスティス(卿)に「光の名残」(アウタラク・アラタ)を届け、それをタムリエルの「太陽が沈む寒い果て」(ファル・ソーン・グラセ)に運んでほしいと頼んだ。気高いフィレスティスは「光の名残」を受け取ると、クラン(または家畜)を引き連れてクワイロジル(?)を離れ、はるかな地へと旅立った。常に夕日をいちばん左の目で見るようにして旅を続けるフィレスティスの後ろを、アイレイドの移民たちがついてきた(または追ってきた)。

一行は「冷たい岩の大地」にたどりつき、泳いで岸にあがった(打ちあげられた?停泊させられた?)。岩は冷たく硬かったが、「光の名残」が全てを肥沃に(またはうごめくように)してくれた。移民の多くは健康を損なったが、「光の名残」のおかげで岩(または山々)に食用石(クレ・アンダ)がなるようになり、これは美味なだけでなく治癒の効果もあった。

フィレスティスは「冷たい岩の大地」全体に「光の名残」が微笑む(輝く、ぬくもりを広げる)ことを望んだ。そこで、今や光輝に力づけられた移民たちが山(または峰)を隆起させ(または削り取り)、「光の名残」をその上に置けるようにした。これは、880刹那(または永劫)のうちに照合(?)された。すると、「冷たい岩の大地」にはあまねく食用石がなるようになり、移民たち全員が健やかに(または多産に、あるいは賢く)なった。

時は過ぎ(何ヶ月もが無為に過ぎ)、気高いフィレスティスは死の(餌食に)なった。すると、移民たち1人ひとりが涙にくれ、その涙で青く澄んだ湖ができた。けれども、フィレスティスの配偶者が彼を「光の名残」がある山(または峰)に連れていった。すると、フィレスティスは光輝に力づけられ、さらに8コーラスを踊った。

北部の王宮都市、ショーンヘルムShornhelm, Crown City of the North

第39代モンクレア男爵、ワイロン卿 著

マルクワステン・ムーアとショーンヘルムの高地に住むブレトンの民には、繰り返し物語に語られる長い歴史があり、誇るべき事績には事欠かない。伝説の時代にあった「巨人族の捕縛」、「太陽が死んだ年」の「ウィルド・ハグの粛清」(これにより、ムンダスの空という空がマグナスを取り戻した)、「グレナンブリア湿原の戦い」における「モンクレア騎士団の突撃」(しばしば誤って「ショーンヘルム騎士団の突撃」と呼ばれる)等々…

こうした波乱万丈の歴史を経ながらも、終始リベンスパイアーの民草は幸運であった。恐怖が支配する時代も勝利に沸く時代も、常にモンクレア家の当主によって巧みに導かれてきたからである。

モンクレア家の当主が常に天命を授かりショーンヘルム王としても君臨してきたかというと、必ずしもそうではない。しかしながら、モンクレア家が備える数多の美徳のなかには謙譲の精神もまた含まれる。ことを丸く収めるために、歴代の当主たちが自分よりも王位を主張する根拠が弱い者たちに、自ら進んで即位の権利を譲ることも少なくなかった。この謙譲の精神を発揮しすぎたことによって時に悲劇が起きたことは、我が父にして第38代モンクレア男爵たるフィルゲオンの例が、悲しくも証明している。

ブレトンの歴史を学ぶ者であれば誰しも知るとおり、レマン皇帝亡きあとの最も偉大なショーンヘルムの君主といえば、「グランデン・トールの戦い」で我が軍を率い、第二紀522年より北部を治め、在位のまま同546年に身まかったハールバート王をおいて他にない。ハールバートはブランケット家の出で、第21代ブランケット伯爵であった。そして妃には、モンクレア女伯爵イフィーリアを迎え入れている。ハールバート王崩御のみぎり、正嫡のフィルゲオン王子はわずか14歳と幼く、その王位継承権にはモンクレア家の後ろ盾があったにもかかわらず、ブランケットとタムリスの両家はフィルゲオン王子の異母兄に当たるランセル王子を支持した。ランセル王子はタムリス家の血筋に連なる病弱な女性とのあいだに生まれた庶子であった(ドレル家は例によって争いから距離を置き、どちらの候補に肩入れすることも拒んだ)。

ランセル王子がフィルゲオン王子を抑えてショーンヘルムの王位に就くまでに、どのような裏工作が行われていたかは、あまりよく知られていない。若きモンクレア男爵の顧問官たちは(男爵の母君はハールバート王よりわずか2年早く逝去していた)、正嫡であるフィルゲオン王子こそが王位の正当な継承者であると主張した。これには、かの有名な「ブレトン出生録」の補遺による裏付けもあった。その補遺は、「マウント・クレール家」こそがショーンヘルムの王統であると明言していたからである。複数の王位請求者たちの正統性を審議するため北部評議会が召集されたが、この審議が続いているさなか、モンクレア家の顧問官たちはブレトン出生録補遺が紛失しているのに気づく。一方ランセル王子は、長らく行方知れずになっていたという(いかにも胡散臭い話だが)「ディレニの勅書」なる古文書を持ち出してきた。それには、リベンスパイアーにおける「ブレトン王家の代理人」として、ブランケット家が指名されていたのである。

やがて評議会で投票がおこなわれ、ランセル王子が僅差で勝利をつかみ、ショーンヘルム王ランセルとなった。フィルゲオン王子の顧問官のなかには一戦交えても王位を争うべきだと主張する者もいたが、若い王子はこれを拒み、ただのモンクレア男爵となる道を選んだ。

そのような謙譲の精神が、どれほど裏目に出たことか!フィルゲオンが評議会の決定に唯々諾々と従った結果どのような事態を招いたか、我々はみな知っている。すなわち、566年の一連の悲劇、そして、第一次ダガーフォール・カバナントに対する反乱である(我々にとっては恥ずべきことだが、この反乱は「ランセルの戦争」として知られる)。標準的な歴史によれば、モンクレア、タムリスはもちろん、ドレルまで全ての家がランセル王の召集に応じ、エメリック上級王と南部を敵にまわした彼の致命的な戦争に兵を出したことになっている。このとき、ランセルの掲げる大義の正当性に確信が持てなかったモンクレア伯爵フィルゲオンが、ランセル王とエメリック王に対して、両陣営のあいだを取り持つ和平特使になろうと申し出たことはあまり知られていない。これに対してエメリック上級王がどのような返事をしたかは歴史の闇に埋もれてしまったが、ランセル王が激怒して言下に拒絶したことはよく知られている。我が父は再び異母兄に服従し、結果、モンクレアの騎士たちは滅びる定めにあったランセルの軍に加わったのであった。

ランセル王が陣没すると、リベンスパイアーはたちまち混乱状態に陥った。ショーンヘルムの王冠は「裏切り者の岩山の戦い」で行方知れずとなり、ランセルを玉座につかせるために決定的な役割を果たした「ディレニの勅書」もそれ以来目にされていない。ランセルの死によってブランケット家の血筋は途絶え、以来、ショーンヘルムの玉座は空位が続いている。リベンスパイアーは現在、三者連合の北部評議会によって治められている。評議会は北部諸州の平和と秩序を維持すべく誠心誠意努めてはいるが、本音が許されるならば、彼らの努力が充分だと言う者は誰もいまい。ショーンヘルム、および北部には王が必要なのだ。

そもそも、なぜ北部に王がいてはいけないのか?腹蔵のないところを言わせてもらえるならば、モンクレア家伝統の謙譲の精神はひとまず、いかに残念であろうとも脇に置いてこう言わねばならない。モンクレア男爵ワイロン卿たる私こそが、ショーンヘルムの玉座につくべき正統なる継承者なのだ。我が祖父はハールバート王その人であり、私はその正嫡の系譜に連なる直系の後裔に他ならない。これは、北部広しと言えども、私の他に誰一人掲げることのできない主張である(このことはまた、ブランケット家の領地を継ぐべき唯一の存命相続人たらしめてもいる。当該領地の大半は不公正にもタムリス家とドレル家によって分割され…いや、これ以上は言うまい。謙譲。常に謙譲の精神を忘れてはならないのだから!)

さらに言うならば、この決定的な局面において、次の事実を公表できることを幸運に思う。すなわち、長らく行方知れずだった「ブレトン出生録補遺」がモンクレア家の歴史家によって発見されたのである。その中から、重要なくだりをここに引用しよう。

「…当時シャーン・ヘルムとその隣接地域においては万事が秩序のうちにありしことに鑑みて、いと気高くも高貴なる…(判読不能)…はマウント・クレール一門に…(判読不能)…並びにシャーン・ヘルムの統治…(判読不能)を永久に付与せんとする。かくあらしめよ」

リベンスパイアーの民に告ぐ。モンクレア男爵ワイロン卿は自らの務めを果たす用意がある。

仕立師助手メール 4週間目

22日目
短文をお許しください。亜麻布のスカーフで疫病を拡げた、と疑われているのです。暴徒集団がすぐそこまで来ていますので。

23日目
私の隠れていた納屋は暴徒によって火を点けられてしまいましたが、親切なソーサラーが私の脱出を助けてくださいました!今は彼が拠点としている洞窟に身を隠しています。行商の品は火災でほぼ燃えてしまいましたが、ソーサラーの方は私が持ってきた数少ない素材とこの手紙を送ると言っていただけました。大変優しいご老人です。今回の配送については、どうか彼に感謝を!

24日目
私の脱出を助けてくれたソーサラーは、「黒き虫の教団」に属する人物でした。彼は私の「疫病スカーフ」を自分の目的に使うため、入手したいとのことでした。そこでその隠し場所について巧みな嘘を吐いたのです。彼がそれを回収しに向かっている間、私は「疫病ゾンビの儀式用素材」と書かれたカゴを奪って脱出しました。中には「疫病」や「ゾンビ」は入っていなかったので、その点はどうぞご心配なく!

25日目
在庫をすべて買い戻すことができました!虫の教団のソーサラーたちはいつも色々と役立つ素材を持っているみたいですね。ちなみに暴徒から救ってくれた妖術師は、私が疫病に全く関係ないことを知り、あまり喜んでいるようには見えませんでした。そこで彼が洞窟に戻ってきた時に、その上にあった枯れ木が落ちる罠を仕掛けたんです。これは賭けではありましたけど、妖術師というのは中々頭上を見ないものですね。というわけで、戦利品の一部を同梱しておきました!

26日目
なめし革が市場から姿を消しました。在庫がほとんど一晩の内に無くなってしまったんです。この状況からは2つの可能性が導き出せます。大金を持つ何者かが革の価格を釣り上げてから市場に革を放出するつもりなのか、あるいは誰かがオグリム歩兵隊に鎧でも作るつもりなのか。大型の腰帯用金具の大量購入には目を光らせておいた方が良いかもしれませんね!

27日目
もし誰かに「カボチャのワイン」という物を差し出されたら、絶対に飲まないことをお勧めします。私の場合は間に合いませんでしたけど。

28日目
魔術師ギルドがタムリエル中の支部と話す事ができるのなら、なぜお互いに病気の蔓延について警告しようとしないのでしょうか。どんな帝国、王国、要塞にとっても益となるはずだとは思いませんか。

デシャーンの伝承

Deshaan Lore

クワマーの採掘の楽しみと利益Kwama Mining for Fun and Profit

フラール家のドレイン・レダス 著

クワマー鉱山を開拓し維持すれば利益が得られるだろう。さらに重要なことは、それぞれがクワマーとクワマーの環境条件について時間をかけて学べば、もっと利益が上がるだろうということだ。クワマーとは、卵鉱山と呼ばれる地下に作られたコロニーに生息している巨大な虫だ。卵はすべてのクワマー鉱山にとって主要な収入源だが、鉱山で産出できる生産物は決して卵だけではない。クワマーのカトル、スクリブのゼリー、スクリブジャーキーなどがすべてクワマー鉱山にとっての収入源となる。

クワマー鉱山に着手するにあたって:

1a.野生のクワマーコロニーを見つけ出して手なずける(難易度は高い)、あるいは
1b.過剰供給状態の鉱山から余ったクワマーを購入する(高価である)
2.クワマーの匂いが体にしみ込むまでコロニーの近くに住む
3.クワマー・クイーンの部屋には決して近づかない
4.卵を集めカトルを集める
5.利益を計算する

その名前に反して、クワマー鉱山は生きた生物から構成されている。賢明かつ控えめな維持を行えば、中規模の鉱山から貴重なクワマーの卵を大量生産できる。さらに、クワマー鉱山では味のいいスクリブジャーキー、すっぱいスクリブのゼリー、錬金術師に評価が高いクワマーのカトルの生産も可能である。

クワマーコロニー:利益が見込める鉱山を手に入れるには、まずは健康なクワマー・クイーンと大量のクワマー・ワーカーを確保することだ。クイーンは鉱山の最奥部にある部屋で卵を産む。クワマー・ワーカー達が卵の世話をし、必要な空間や環境条件、卵の発育状況に合わせて様々なトンネルや部屋へと卵を運ぶ。クワマー・ワーカー達は、鉱山のための食べ物の生産、クイーンの給餌や洗浄、コロニーの発達に合わせた鉱山の拡大なども行う。普段の仕事をしていない時、クワマー・ワーカー達は発展し続ける迷宮のごとき鉱山の中に新たな部屋やトンネルを掘ることもある。クワマー・ワーカーは普段は大人しいが、威嚇や攻撃を受けたりクイーンが危険に晒されると凶暴化する。

クワマー・ウォリアー達はコロニーを守っており、危険を察知すると迅速に対応する。攻撃的で極めて危険なため、慎重に丁寧に扱わなければならない。クワマー・ワーカーが四足歩行なのに対し、クワマー・ウォリアーは二足歩行で非常に強力である。

スクリブは、鉱山労働者が未熟なクワマーと呼んでいるように、クワマーコロニーの中を自由に動き回る。鉱山では通常スクリブの群れを2つのグループに分ける。ワーカーやウォリアーに成長させるグループと、ゼリーやジャーキーにするため幼いうちに捕獲するグループだ。スクリブのゼリーは食料源など様々な用途に使用されるが、薬を作り病気を治癒するための重要な材料として錬金術師に重宝される。スクリブの薄切り肉を乾燥させて作られるスクリブジャーキーには多少の回復効果があり、ダークエルフの料理専門家のあいだで大変美味だと評判である。

クワマー鉱山の入手:設置済みの鉱山からクイーンとクワマーを購入する際にかかる法外な料金を支払いたい人はいないだろうから、まずは野性のコロニーを見つけ出して手なずける必要がある。しかしこの方法でも資金が必要ないわけではない。野生のコロニーの探索へと本格的に着手する前に、鉱山オーナー志願者はフラール家からライセンスを購入する必要がある。

有望なコロニーを見つけても、すぐに中に入って営業開始というわけにはいかない。鉱山労働者がコロニーの凶暴な戦士達によって始末されてしまうだろう。そのための解決法がある。順応することだ。順応作業には時間がかかるが、時間をかけてコロニーを慣れさせ、中に入っても不快だと思わせないようにすることで、(コロニーのメンバーと鉱山労働者両方の)負傷者や死者の数を最小限に抑えられる。鉱山労働者がその辺りのクワマーと同じ匂いを発するようになれば、ウォリアー達は彼らをコロニーの仲間だと認識するようになる。

卵の捕獲:クワマーの卵の実際の「採掘」には技術はそれほど必要ない。鉱山労働者は仕事を行うための根気と常識を持ち合わせていれば十分だ。卵の捕獲者にはバランスを見極める目が必要だ。卵を多く取りすぎるとウォリアー達やクイーンを刺激してしまう可能性がある。少なすぎると、クイーンの卵産出量が減少してしまう。鉱山管理者はクイーンの卵産出量が多すぎたり少なすぎたりしないように、注意深く目を配らなければならない。産出量が大幅に上下してしまうと利益に影響が出て計画を立てるのがより困難になる。避けなければならない。

クイーンの部屋には決して近付かないこと。クイーンに近付くといかなる者もクワマー・ウォリアーとクワマー・ワーカーによって脅威と見なされ、適切な対処をされる。コロニーに混乱が起こってしまうと鉱山労働者が安全に鉱山に入れず、生産を中止せざるを得ない。コロニーで暴動が起きている際に鉱山労働者を何人か失ってしまうかもしれないが、ここで忘れてはいけない最も重要なことは、クワマーはいずれ落ち着きを取り戻し、鉱山労働者が中に入っても再び受け入れるようになるということだ。

注意:フラール家の卵鉱山ライセンス取得後は、定期的に生産高を報告する必要がある。遵守できなければ制裁措置や罰金が課せられ、鉱山の閉鎖を強いられる場合もある。そうなるとつまらないし、当然儲けを出すこともできない。

ゴーストスネークの伝説Legend of the Ghost Snake

第二紀568年、マブリガシュの観察記録。放浪者ボノリオンの日記より

デシャーンでは奇妙なダークエルフのアッシュランダーの部族に遭遇した。彼らは自分自身をマブリガシュと呼んでいる。ヴァーデンフェルの同胞とは違ってこの部族は遊牧民ではなく、彼らがゴーストスネークの谷と呼ぶデシャーンの中でも隔絶した地域に定住しているようだ。恐ろしいゴーストスネークの話は、外部の人間が村に長居しすぎないように彼らがでっち上げたものに違いない。しかし正直に言わせてもらうと、これまでに出会ったどの文明的なダークエルフにも負けないほどのあの無礼さがあれば、そんなことをしなくても外部の人間は逃げていくだろう。しかしその孤立した部族に対する好奇心が勝り、私はその無礼さになんとか耐え、近くに滞在して観察記録をつけられた。わかったことは以下の通りだ。

マブリガシュは訪問者を歓迎しない。

マブリガシュは母系社会のようで、明らかに男性よりも女性のほうが力を持っている。数の上でも男性の3~4倍はいるようだ。この社会は男性を嫌悪しているとまでは言わないが、男性に対する信頼度は明らかに低く、あまりよく思われていない。少なくとも私が見た限りは。

彼らはゴーストスネークが谷を越えて助言を与え、見守ってくれていると主張している。訪問者を怖がらせて村の人口を一定に保つために、このいわゆる「ゴーストスネーク」を利用しているに違いない。

彼らはこの架空の神に部族内の仲間をいけにえとして捧げているようだ。長老達はこの「ゴーストスネーク」を称えるための試練を促しているが、ほとんどの場合参加者の死亡という結果に終わっている。

ゴーストスネークの伝説の内容を、6才か7才くらいのかわいい少女が教えてくれた。彼女はまったく怖れたり遠慮することなく私に近付いて来た。なぜそんなに気味が悪くてずっと監視しているのかと尋ねられた。少なくとも要点はそういう内容だった。私はマブリガシュの方言はせいぜい初歩的なものしか理解できない。私はその質問には答えず質問で返した。「みんなが口にしているゴーストスネークとは何なんだ?」私は彼女に尋ねた。

「くねくね道を進んで行ったらわかるよ」と、そのかわいい小さなまつ毛をまばたかせながら彼女は答えた。「谷を大事にしていればゴーストスネークが助言をくれて守ってくれるの」。彼女は続けた。「みんな知ってるよ」。彼女は話し続けてくれた。ゴーストスネークとは部族の女性の祖先の霊的実体が合わさったもので、幽霊のような外見をしていると部族に信じられ崇められているということだった。あるいは、谷を呪っている恐ろしい死んだ蛇が罪のないマブリガシュの子供達を好んで食べていると言っていたのかもしれない。彼女は早口で喋った上に、さっき書いた通り、私の方言の理解度は完璧にはほど遠いものだったのだ。

経済的な観点から話をすると、部族は独特な蛇革を作る。服からリュックサック、シンプルな鎧に至るまで、彼らは何を作るにもこの蛇革を使う。しかしこんなにも素晴らしい物にも関わらず、外部の人間どころか部族内の男性にさえも、それを売ったり交換したりしようとはしない。もしマブリガシュに外界との取引を説得できれば、関わった者全員が一財産を築けるだろう。

偵察中のマブリガシュの斥候に出会ったこともある。彼女には「くねくね道の亡霊と大蛇の中に投げ込む」と脅された。幸いにも私の走る速さと木登りの腕は彼女よりもはるかに上回っていたので、この残忍な儀式は避けることができた。さらに観察を続けると、彼らは主に蛇の肉を食べて暮らしているということがわかった。彼らの手に負えない非友好的な態度はその食生活のせいかもしれない。

近くに野営し観察を数日間続けた頃、ずいぶん恐ろしいマブリガシュの戦士の訪問があった。グラカーンと名乗ったその人物は、彼らが私を谷の大蛇の中に投げ込まなかった理由は、千里眼が私を不運な愚か者と認識したからにすぎない、と言った。きっと翻訳の過程で何かを聞き逃してしまったのだろう。千里眼に会いたいと申し入れると、その腰にぶら下げたずいぶん危険な見た目をした剣の柄を握ったグラカーンの手に力が入ったように見えた。それでマグリガシュ族と過ごす時間を終わらせることにした。

***

第二紀576年、部族学者司祭
ニュロス・ラロロからの注釈

この非常に馬鹿げた「観察記録」は、ストンフォールとの境界近くに捨てられているところを数年前に発見された。このボズマーの歴史家であるボノリオンは、変わった出来事や民族の正確な記録方法に関して5才児ほどの理解力も持ち合わせていなかったようだ。作り話や飛躍した論理ともいえないようなものを用いて彼が言うところの「結論」を出している。少なくともマブリガシュとの会話を行っているという点や、当部族に関する情報は珍しいという点から、この文書はトリビュナル蔵書庫内に保存されており出版もされている。

シャド・アツーラ魔法大学の手引きShad Astula Academy Handbook

魔法大学シャド・アツーラへようこそ!ここはエボンハート・パクトの才能溢れる魔術師達が共通の学び舎を持ち、魔術師コミュニティのリーダーとなるために学ぶ場所です。あなたの旅はここから始まるのです。

多くの人にとって、魔法の達人への道のりは挫折と困難に満ちたものです。ここで行われている訓練は、最高の教師と指導法のおかげで、奉仕の人生とやりがいのある仕事へと繋がっていきます。この魔法大学に招待された人は全員、偉大な魔術師になれる可能性があるという将来性を見込んで招待されたわけですが、実情を言えば、全員が与えられた課題に合格できるというわけではありません。不運にも落第してしまった人達には、自分自身や他人に危害を加えることなく足りない技術に磨きをかけるための、セーフティネットとしての役割をシャド・アツーラが担います。

しかしあなたは落第しません。あなたはその不運な1人ではありません。あなたなら乗り越えられます。エボンハート・パクトのリーダーになるのです!

あなたは自分がマジカという才能を持ち、他の人達とは違っていることにもう気付いていることでしょう。さあ、力の世界へと誘われる準備はいいですか。あなたのために、翼を広げる場所をシャド・アツーラが提供します。魔術師の達人であるスタッフの助けを借りて、ただ飛び方を学ぶどころか、空高く舞い上がるのです!

魔法大学が選んだ一員として、魔法を学ぶ際に通常設けられる制約や規則はあなた達に適用されません。ああいった規則は、自分自身や他人に危険をもたらす可能性がある魔術師の安全を確保するために設けられています。魔法大学が選んだ生徒達は優秀であろうと見込んでいますので、すぐに自分の限界を学ぶことができるでしょう。しかしいくつかのルールはあります:

——指定された召喚サークル以外ではオブリビオンの次元から生物を召喚しないこと。
——大学の他の生徒に魔法の実験を行うことは禁止されています。
——スタッフへの魔法の実験は大いに結構です。隙を狙って行い、スタッフも反撃するので気を抜かないように。
——「子分」として助手を持つことは厳しく禁止されており、教団や密教の行動あるいは組織に関わった者は厳しく処分します。権力欲は卒業後まで取っておくように。
——感情制御と精神安定試験(ECMSE)に落第した生徒は部屋の共有を禁止されています。
——魔法による決闘は、スタッフの魔闘士の監督下でない限り厳しく禁止されています。

まもなく校長との面会日時が取り決められ、その際にシャド・アツーラについてや大学の一員としての立場について校長から説明があります。それまでは、自由にキャンパスを歩き回り、学友に自己紹介などしてください。その中には同級生になる人もいれば、下級生になる人、あるいは上級生になる人もわずかながらいるでしょう。しっかり顔見知りになっておいてください。

シャド・アツーラへようこそ。翼を広げて大空に飛び立ちましょう!本当に期待しています。失望させないでくださいね。

ドゥエマーのダンジョン:私が知っていることDwemer Dungeons: What I Know

非凡なダンジョン探検家、キレス・ヴァノス 著

彼らについてはほとんど何も分からない。最も興味深く、興奮に満ちた遺跡を残していったということ以外は。誰について話しているのかわかるでしょう。そう!ドワーフ。あるいはこれを読んでいるかもしれない学者達の間ではドゥエマーと呼ばれている人達。(私の兄弟のレイノーにはドゥエマーと呼べと言われるけど、ドワーフという呼び方のほうが好きよ。そっちのほうが言いやすいから)

さて、ダンジョン探検というのは(どれだけ楽しくもなりうると言っても)大変な仕事で、非常に危険なことでもある。ドワーフの遺跡は発見するだけでも簡単ではないし、中に入って無事に出て来るのはほとんど不可能に近いわ。しかしそれについて書く前に、まず遺跡自体について書きましょう。

ドワーフは建物や街からなる巨大なネットワークを地下に建設した。なぜ岩や土の下に建設することを選んだのかは分からないけど、しかしとにかくそこに建設したの。だから、ドワーフの遺跡を訪れたいなら地下に行かないといけない。1つでも見つければわかるでしょう。地上の入口から地下の構造に至るまで、ドワーフ建築は独特な見た目や雰囲気をしている。彼らは岩に自然に開いていた裂け目を用い、元からあった岩や自然の柱を飾ったり彫ったりして使ったの。他の構造を支える際や砦を設置する際など、どうしても必要な場合にのみ新たな構造を建設したのよ。

自然の岩を彫ったり形作ることに加え、ドワーフは主要な建築材料として石を使ったわ。遺跡内には金庫もある。アクセントとして、あるいは機械の中に、主に銅が使われているの。そして、ここが最も面白い部分なんだけど、ドワーフは装置を好んだようで、遺跡の中は装置だらけなの!罠だけではないわ。非常に巧妙な罠が遥か昔にいなくなったドワーフによって設計されて作成されたのは事実だけど、それだけじゃないの。蒸気ピストンと素晴らしいギアで構成された冷暖房設備、壁から光を放つライト、滝によって回転する巨大な車輪、光のビームを放つ多面型の宝石などなど、他にも驚くべき物が多数ありすぎて書き切れない。

ドワーフの遺跡を通り抜けるのは不気味な仕事よ。空っぽで無人なはずなんだけど、ライトが光り続けてパイプからは蒸気が出続けている。その場所は誰かの帰りを待っているかのようね。まるでドワーフがちょっと外出したっきり、そのまま何百年も帰って来なかったかのように。

さらに、ドワーフの建物はあなたが考えるほど生命体が存在しないわけじゃない。遺跡には住人がいるの。実際には、事実上その生命体だらけになっている遺跡もある。しかしその生命体は、私やあなたが知っているようなものではない。機械の生命体よ。コンストラクトね。彼らはダンジョンの部屋や通路を歩き回り、遥か昔に与えられた任務をこなしているの。しかし、間違えないでね。コンストラクトに見つかってしまうと、襲ってくるわ。音を立てる刃とピストンで動く剣を使って、ドワーフのコンストラクトはダンジョン探検家の全てに多大なる脅威を与えて来る。さらに悪いことに、そのコンストラクトはお互いを修理する方法を心得ている。遺跡の中に、この機械の生物がいなくなることはないらしいわね。

従って、ドワーフの遺跡に入って無事に出て来るには、巧妙な罠を見分けるか避け、強力なさまようコンストラクトの大群を避けるか倒し、鍵のような物がいるのかいらないのか分からない、奇妙な錠の開け方を突き止めなければいけないの。少し面倒かもしれないけど、個人的にはこの挑戦って、とても楽しいものだと思うわ。

もちろん、ここまでに書いてきたことはすべて学説と憶測よ。私の兄弟と私はまだドワーフの遺跡に入ったことはないの。この世界に点在する平凡なダンジョンでしか実践を積んだことはない。でも、本はすべて読んだわ!ようやくブサヌアルというドワーフの遺跡に立ち向かうために必要な資金を調達できた。近いうちにその冒険について書くつもりよ。

ところで、皆遺跡では注意しましょう。ダンジョンは楽しいことばかりじゃないわ。生存とは大変な仕事で、私達は成功だけを狙ってはいけない。生き残りもしないとね!

モーンホールドのポケットガイドA Pocket Guide to Mournhold

旅人よ、ようこそ!光と魔法の街、モーンホールドはあなたを歓迎します!このポケットガイドは第二紀481年に丁寧に書かれたもので、あらゆる要求に応えられる最新のものであることを保証します。

モロウウィンドの首都であるモーンホールドは、タムリエル一偉大な街です。祈りや交易をもたらしてくれる旅人達を心から歓迎します。

毎日あまりにも多くの巡礼者が集まるため、迷っていたり困惑していたり、時には喧噪や街の設計に苛立っている外国人を見かける場合があるということをご理解ください。

すべての訪問者に対応するために、楽しんでいただけそうな場所や活動、従っていただく必要のあるトリビュナルの教えなどをまとめた便利な案内を街の記録官が編集しました。よく読んでよく学び、楽しい時間をお過ごしください!

崇拝:モロウウィンドの最果てやさらに遠い場所から、ダンマーがトリビュナルの生き神に祈りを捧げ崇敬の念を表するために毎日やって来ます。もしあなたが私達ダンマーの兄弟あるいは姉妹であるなら、トリビュナル三大神のアルマレクシア、ヴィベク、ソーサ・シルへの崇敬の念の表し方はすでに心得ていることでしょう。トリビュナル聖堂を含む街の至るところにある聖なる祠では寄進も受け付けています。

あなたがダンマー以外の訪問者の場合は、市民をよく見れば正しい崇敬の念の表し方を身につけられます。最も安全なやり方は最も簡単なものです。ダンマーが行動するように行動してください。ダンマーが言うことを言うようにしてください。そして歩く場所に気を配ってください。

異教徒がトリビュナルの正義の裁きを受けているところを見ても慌てないようにしてください。記録官は異教徒に対する対処法をしっかりと心得ていますので、ご心配なさらないように。あなた方の安全は私達の最優先事項の1つです。

大市場:モーンホールドはモロウウィンドの商業の中心地です。商売は大歓迎です!この偉大な街に来るのが初めてだという場合は、街の監視所でお尋ねいただければ商業地区への安全な最短ルートをお教えします。

市場の中でも最大で、最も厳重にパトロールされている大市場には、滞在中にぜひ訪れておいたほうがいいでしょう。野外劇場で行われている季節ごとのイベント、街広場で行われる放浪の受難劇、手入れが行き届いた公園で行われている聖歌隊の合唱は必見です。そして買物をする度に、モーンホールドの素晴らしいお土産が手に入ることもお忘れなく。

しかしながら、買物は登録された認定商人からのみ行うようにしてください。そうしなければ、違法な手数料や物品税を取られてしまうことがあります。

ブリンディジ・ドローム広場:迷える人々は、彫像に囲まれたブリンディジ・ドロームの庭園を歩き回ることで安らぎを見出すことができます。木々や花が太陽からの栄誉を求めて空へと伸びるように、モーンホールド市民はトリビュナルの叡智を求めて手を上げるのです。ここであなたに慰めが与えられますように!

旅人の多くは、モロウウィンドの生き神が住まうトリビュナル宮殿を訪れるのを楽しみにしています。私達はあなたの熱意を歓迎する一方、過剰に熱意を表しすぎるとオーディネーターが異議を唱えることもあるかもしれないということをご理解ください。例によって、節度が大事です。熱意を抑えられない時は、街の至る所にあるトリビュナルの祠が贖罪のための寄進を受け付けています。

お探しのものはすべてモーンホールドで見つかるでしょう。司祭、記録官、街の衛兵が保証します。滞在をお楽しみください!

闇の遺跡Dark Ruins

狂気のシリロ 著

人は私の頭がおかしいと決めつける。私はその烙印を受け入れ、誇り高く受け入れることにする。私に与えられた名前は、私が闇の中に何度も入ろうとした証に他ならない。世界に知識をもたらすため、狂気と混沌の遺跡に挑んだ証なのだ。三大神よ、私が見つけたものから守りたまえ。そしてこの知識を世界と分かち合うまで私の心を保ちたまえ!

初めてデイドラの遺跡を見つけたのは、ずっと若い頃だ。それはトリビュナルの守護者を祀った古代の祠だった。私は群れからはぐれたクワマー・スクリブを捕まえようとしていた。秘密の峡谷までスクリブを追ったところで、はぐれたスクリブの痛ましい鳴き声が岩壁の裂け目から聞こえてきた。その狭い裂け目を何とか抜けると、岩の中に巨大な空間が広がっていた。しかし、私が足を踏み入れたのはただの洞穴ではなかった。その空間は彫刻を施された石だらけで、それを目にした途端、私は恐怖と感嘆の念に襲われた。その威圧的な石の数々にはクモの巣とクモの模様が施されており、中央に立つ像は他でもないヴィベクの守護者である網の紡ぎ手メファーラを模していた。

像の土台に彫られていた言葉が今も脳裏に焼き付き、決して忘れることはない。「肉欲は愛。嘘は真実。死は命」この言葉に恐怖を覚えたと同時に、心が踊った。この経験から狂気と知識への道へと導かれた。その終わりと始まりの境界線はわからない。

クワマー鉱山へと戻り、スクリブを群れへと導いた。それから荷物をまとめ、母に別れを告げ、デイドラの遺跡が眠る隠された祠と、闇の場所を探し求め始めた。

すべての荒れ果てた祠が地下にあるわけではない。人里離れた平原に隠されたものもある。草が生い茂る場所や、なだらかな丘のくぼみや岩だらけの峡谷に隠されていることもある。海底に眠る祠を訪れたこともあった。

地下洞窟の祠や建造物は、地上の大自然の中にあるものに比べて不気味で威圧感を与える傾向にあるが、それは単に絶えず存在する暗闇や、岩壁の圧迫感を意識することによる影響かもしれない。古代の祠は暗闇にひっそりと佇んでいることもあるが、巨大な建造物の中心を担っているものもあり、その多くが精巧な罠や凶暴な怪物、あるいはその両方によって守られている。

これまで数多くのデイドラの遺跡を訪れてきたが、その中には聖堂の荒れ果てようからは想像できないほどに頻繁に使われているものもある。デイドラ公を称え、崇拝する者は日常的に存在し、私自身かなりの数の新鮮な捧げ物や生贄を目にしてきた。しかし私が新しい名を手にするに至った理由である真の秘密とは、そんなものではない。それに関しては、先入観を持たずに覚悟して聞いてもらう必要がある。なぜなら、これから明らかにする事実は作り話のように聞こえるかもしれないからだ。キャンプで就寝前にたき火を囲みながら、怖がらせるために話すような怪談話のようにさえ聞こえるかもしれない。しかしはっきりと断言する。これは真実だ。

私が最初にたまたま迷い込んだ網の紡ぎ手の祠で見たもの。両親が住む家を飛び出してデイドラの遺跡をさらに探し求めようと思った理由。それは声だった。美しく魅惑的な声。その声が私に囁き、聞いたこともない秘密を教えてくれた。その囁きは古代のひび割れた像から発せられ、洞窟の壁からこだましていた。私の心の中まで鳴り響き、私自身の考えと記憶をかき消すまで、その音量と激しさを増していった。私はこの囁き声に怯えた。しかし、同時に心が踊り、もっと聞きたい衝動に駆られた。しかし網の紡ぎ手はそれ以上囁いてくれなかった。叡智の言葉と闇の秘密を告げ、沈黙したのだ。その場所は再び荒れ果てた場所に戻っていた。

もう一度あの声を聞くには、別の祠を探す必要があった。そして私は聞かずにはいられなかった。こうして私のライフワークが始まった。他の秘密の場所や隠された遺跡を探すしかなかった。他のデイドラが何を語ってくれるのか、聞かなければならなかった。彼らを崇拝しているからではない。何らかの黒魔術にかかってしまったからでもない。知識を世界に広めるために、もっと学ぶ必要があったのだ。それが私の使命であり、義務だったのだ!しかし、こうして言葉をつづりながらも、あの囁き声が私に語ってくれた内容を書くのは不可能に思う。あの囁き声を書き記そうとしても、手が動いてくれない。何度やってみても、それを拒否するのだ!

どうやら使命は果たせないらしい。知るべき秘密が存在している、と伝えることしかできない。しかしその秘密を学びたい者は、自ら足を運ぶしかないようだ。闇の遺跡を訪れ、囁きを聞いてほしい。あなたのほうが私よりもうまくやれるかもしれない。そしてあの囁き声を聞いても、正気を保てるかもしれない。

許容される殺人Sanctioned Murder

ミアラー・ヴィリアンの日記より

物心がついた時からずっと他人の命を奪うことに人生を捧げてきた。手当たり次第殺したわけではない。法を破った者やモロウウィンドの名家を陥れた者、トリビュナルの聖なる教えを冒涜した者を殺してきただけだ。

奴らの命は私の物だったのだ。私に与えられたと言ってもいいかもしれない。奴らは死ぬべきだったのだから。そして私は殺しの達人だったのだから。

私に殺された者達のほとんどは、私に殺されるとは予想もしていなかった。他人を陥れたと自覚している者はいた。無実の者を殺し、名家から窃盗を行い、人の恋人と寝たということを。しかし奴らは何も悪いことはしていないと言い張った。私が誤解していると。人違いだと。しかし喉に剣を突き付けられた人間が、正直にすべてを告白をしてくれる様には感心させられる。

次から次に始末していった。喉を素早く切り裂いた。表面の肉が口を開き、細い血管がきれいに切り裂かれた。叫ぼうとしても、あとは肺に貯まった真っ赤な血で窒息するだけだ。

私は死が大好きだ。他にどんなことをしても得られなかったような喜びで満たしてくれた。これが私の人生だ。これが私という人間だ。

人は私を怖れた。私の兄弟や姉妹を怖れた。我々を突き放し、必要になれば我々を抱きしめた。

英雄として称えられたと思えば、殺人鬼として怖れられた。権力者は我々の秘密の剣に倒れた。そして我々に指図していた者達が我々に従うようになった。

しかし誤りを犯してしまった。過程に欠陥があった。完全になりすぎていたのだ。罪なき血から正義を抜き取ってしまった。

どんなに明確な契約にさえも、こういうことはある。法が誤っているという可能性はいつも存在する。法が過ちを犯したという可能性が。契約は決して嘘をつかないが、いつも正しいというわけでもない。どんなに小さくて無害に見える行いでも、のちに破壊的な津波を引き起こすことがある。

愚か者の自尊心が決断力を鈍らせる。激情の瞬間、壁に塗りたくられた血がすべてを物語る。「モラグ・トング」。その言葉が大声で執拗に叫び続ける。その言葉が世界中に響き渡り、我々に無慈悲な殺人鬼だというレッテルを貼る。規範を守らず法を持たない殺人鬼だと。

常に隠れて秘密裏に動いていたトングが突然凝視にさらされた。奴らが我々を闇から光へと引きずり出そうとしていた。我々は闇の深部へと潜った。契約は減り、仕事は雑事に変わった。暇を持て余した名家の貴族の使い走りをさせられた。我々は耐えた。

そして我々は従った。忠誠を尽くした。目的の達成を命に賭けて誓ったのだから、立ちはだかっているものがどれだけ困難であろうとも背を向けない。世界が我々に背を向けようとも、我々は諦めない。

指導者たちが我々に囁く。忍耐を実践せよと。我々の正義の手が再び伸ばされ世界を支配する日が必ずやって来ると。来るべき闇が世界を一掃するだろうと。

そしてモラグ・トングが再び必要とされるだろう。再び重要となるだろう。

しかし私はもう年老いた。私の人生は終わろうとしている。ヴォウノウラへと旅立つ準備をし、このマントを誰か若い者に手渡さなければならない。経験が少なく、あまり賢くない者に。息子と娘は間もなく短剣を手にするだろうが、彼らは我々が偉大だった時を知らない。2人はモラグ・トングのため、新たな道を切り開かなければならぬ。

戦争の闇がやって来る。その怒りを免れる者は誰もいない。

モラグ・トングはこれまで耐えてきた過ちのことを、ひとまず忘れねばならない。覚悟が必要だ。

生き神The Living Gods

神学者デュリリス 著

ニルンの他宗教は、ダークエルフが知っている絶対的真理にたどり着くことは決してできない。神が彼らを支配し、神は彼らの中におり、神はモロウウィンドの他の住人と同じように実際に存在しているという真理だ。モーンホールドのトリビュナル聖堂の権力の座から、トリビュナルの生き神は民を護り助言を与えている。必要な時には罪や過ちを罰するが、貴き者にも賎しき者にも、それぞれに必要な恩恵を与えてくれる。

しかし生き神とは何か?超人的な鍛錬と積徳、人智を超えた叡智と洞察力によって神性を手に入れた、強大な力を持つダークエルフ達だ。モロウウィンドの3人の神王として、ダンマーの国を神の力によって導いている。三大神——神、母、魔術師——については、以下の通りだ。

戦士であり詩人であり、モロウウィンドの主であるヴィベクは、三大神の中で最も人気がある神かもしれない。彼は公に姿を現すことも多く、人々は彼を愛している。戦士であり詩人であるヴィベクは、情欲や殺人といった、粗野で冷酷な衝動に関わる陰の一面も持っている。

モロウウィンドの母として知られているアルマレクシアは、治癒師と教師の守護聖人である。彼女は治癒の母であり、慈悲と共感の源であり、貧しき者と弱き者の守護者だ。アルマレクシアはダンマーの文化と目的の良き部分の化身だ。彼女は慈悲を体現し、その叡智は日々の細事に至るまでダークエルフを導いてくれる。

機構界の神であるソーサ・シルは、トリビュナルの神の中でも最も知られておらず、隠された神である。モロウウィンドの謎と称されることもある彼は、魔術師であり発明家と魔術師の守護聖人だ。おそらく世界一の力を持つ魔術師で、最も博識な魔術師であることは間違いない。知識の光、クラフトと魔術に関する啓示と見なされている。

生き神はトリビュナル聖堂の三本柱だ。ダンマーの人々の力と統制の象徴であり、慈悲と法規範の遵守を組み合わせることによって統治している。

聖ヴェロスの審判The Judgment of Saint Veloth

マギストリックス・ヴォクス 著

強力な治癒の遺物の多くは巡礼者の聖ヴェロスと関連している。おそらく最も有名で名を残しているアーティファクトは聖ヴェロスの審判だろう。この強力なデイドラの戦槌は、追放者と霊的知識探求者の守護聖人としてヴェロスが具現化した物すべての輝かしい象徴である。

他の聖なるアーティファクトと共にトリビュナル聖堂の地下墓地に厳重に保存されている聖ヴェロスの審判は、預言者と人生の秘密の源泉の役に立ってきたが、聖ヴェロスが聖人に即位して以来伝説的な力を持つようになった。モロウウィンドの神王達がこの遺物を見守っており、領域の防衛にこの遺物の力が必要となった時のために準備を整えている。

聖ヴェロスは勇気を体現した人物であり、彼の人生の教訓と教義を信奉する者はその勇気を学び、大胆な物の見方を育てていく。彼は善きデイドラと悪いデイドラとの違いを明確にし、善きデイドラ公と元の協定の交渉に当たりさえした。善と悪を見分ける能力はこの生きた聖人の特質で、彼の治癒と治癒アイテムの傾向でもあった。この2つの面は彼の個人的な力の象徴であり、審判という名で知られている戦槌に統合されている。

ヴェロスの審判の権威は世界中に知れ渡り、その魔法は堕ちた魂による腐敗を浄化するために使われる。元々は武器として使われていたことは間違いない。しかしヴェロスは、外科医がメスを操るのと同じくらいの正確さでその戦槌を操り、魂から腐敗を取り除いて残りの部分を正常な状態で残すことができた。その戦槌は取り除いた腐敗を蓄え、使い手が戦槌の力の強化に使えるエネルギーへと変えられた。

もちろん、そんなに強力なアーティファクトは、誤った者の手に渡ってしまうと益となるよりも害と成り得る。この理由で、トリビュナルはこの審判を他のアーティファクトと共に鍵を掛けて保存している。審判の使い道として、治癒の道具としてではなく、生物の魂すべてを吸い出して、使い手の力を無限に増大させるために使えるのではないかと提案されたこともある。この提案は実現されなかったし、トリビュナルが道を誤らない限り、決して実現されないだろう。

二家の戦争War of Two Houses

フラール家歴史学者ドレリサ・フラール 著

モロウウィンドの名家間の戦争は珍しいことではなく、現在でも世界のどこかで2つまたはそれ以上の名家の間でしばしば対立が起きている。この対立が策略や陰謀から全面戦争にまで発展することは稀であるが、敵意が露わにされることはモロウウィンドの歴史上珍しいことではない。この戦争の中から、ある1つの戦争について書こうと思う。

第二紀559年、フラール家とドーレス家は通常の緊張関係や牽制を超えて、ブラック・マーシュの境界上ナルシスの南に戦闘部隊を配置した。商売敵である両家が戦うのはこれが最初ではなく最後でもなかったが、この戦争は戦況が進むにつれ膨らんでいった規模と犠牲者の数の両方において、記憶に残る戦いだった。

フラール家は係争中の領土に断固として交易所を設立しようとしていた。ドーレス家も同様に、これを断固として阻止しようとしていた。交易所の建設が半分ほど終わった頃、フラール家の作業員は突如としてドーレス家の傭兵に包囲されていることに気付いた。作業員の護衛を任されていたピュリラ・ファレンが率いるフラール衛兵の少数部隊はすぐさま防御を固め、交易所の防衛の準備に取りかかった。フラール衛兵の5倍ほどの人員を保有していたドーレス家の傭兵は、フラール衛兵をさっさと片付けて昼食前には交易所を全焼させられるだろうと考えていた。

しかし、そうはいかなかった。

ピュリラと衛兵達は最初の攻撃を比較的容易に撃退した。援軍が到着するまで何としても戦線を死守すると彼女は決意していた。援軍の到着を助けるために、ピュリラは連れて来ていた1人の魔術師にナルシスへのポータルを開く作業に取りかからせた。衛兵がドーレス家の傭兵の猛攻を十分な時間食い止められれば、開いたポータルからフラール家の戦闘商人達が溢れ出して戦況を逆転できる。あと少しの時間でよかった。

魔術師がポータルを開く儀式を行っている間、ピュリラと衛兵達はドーレス家の攻撃に技術と残忍さで対抗していった。傭兵達は突入し、交易所のバリケードを破るために何度も部隊を送り込んだ。軍はことごとく撃退されたが、打撃を与えていないわけではなかった。軍を4度送り込み4時間が経過したころ、ピュリラの軍の数は3分の1まで減っていた。その頃にはドーレス家の次の攻撃を撃退するために残っている者は、ピュリラと衛兵6人のみとなっていた。魔術師が儀式を終えてポータルを開くまではあと数分というところだった。「何としても時間を稼ぐのだ!」ピュリラは宣言した。「フラールのために!」

怒り狂った立派な7人の防衛者達は、魔術師が儀式の最後の手順を終えようとしている間、名誉とすさまじい決意と共に戦った。衛兵が1人やられた。2人。4人。砦に残っているのはピュリラと衛兵2人だけとなっていた。これまでの戦いを援助し見守っていたフラール家の作業員達もまた砦に赴き、工具ややられた衛兵の武器を使って交易所の防衛に参加していた。こうした懸命の努力も関わらず、彼らはドーレス家の攻撃の重圧に押しつぶされそうになっていた。

その時ポータルが開いた。

フラール家の戦闘商人達がポータルからあふれ出し、驚いた傭兵達の隊列に呪文や矢を浴びせた。ポータルから歩兵隊の一個部隊が現れ、ドーレス家の傭兵の戦列を破壊した。ドーレス家は少しの間持ち応えたが、まもなくフラール家の部隊の重圧に崩れ落ちた。戦線が崩壊したドーレス家の傭兵達はついに打破され、残った傭兵達は逃亡した。戦闘商人は完敗を理解させるために十分な長さだけ彼らの後を追い、そのあとは交易所を守るために整列した。

フラール家の勝利は勇敢で誇り高きピュリラ・ファレンの賜物だったが、彼女は最後の戦いで息絶えていた。撤退する途中に、ドーレス家の傭兵の刃が彼女の首を捕らえたのだった。治癒師が到着した時、彼女は死んでいた。しかしこのような歴史によって、彼女の偉業は決して忘れ去られることがないだろう。

鍛冶師助手メール 4週間目

22日目
ナルシス・ドレンはデイドラ信者から逃げた話(最高の物語だった!)の後、新著「ナルシス・ドレンとサリンヴォードの失われた遺跡」からの引用を朗読したの。早くこの新刊を手に入れて、精霊から逃げる方法を知りたい!戦いの経験もなくて、血とも無縁な新米みたいに聞こえるかも知れないけれど、居ても立ってもいられない。彼ってとても…情熱的!

23日目
何て恥ずかしいの!あんなスキーヴァーみたいな人を尊敬していたなんて信じられない!講演の後、ナルシス・ドレンのところへ行って、著書の「ダンジョン探検」にサインを頼んだの。そしたら、「いいよ、これから私の部屋に来て、私の”アーティファクト”をよく調べてくれた後なら」と言われた。殴ったら兎ミートボールが入った袋のように崩れ落ちたわ。有名な冒険者らしくもない。

24日目
こんにちわ。私よ、ヴァリンカ。ナルシス・ドレンのことばかりでごめん。私の知っているそこらの馬鹿な男と同じで、彼がヒーローでも何でもないことが分かったわ。簡単に寝るのが嫌な訳じゃないけど、女は勝ち取られる方が好きでしょう?吟遊詩人フョッキの詩みたいに。はい、これがあなたへの物資。

25日目
この私、ヴァリンカの人生に新たな目的ができたわ。あのいかれたスキーヴァー、ナルシス・ドレンより凄いダンジョン探検家になってやる。それにちょうど探索できそうなダンジョンの宛てがあるし。実はあいつの鼻を殴りつけたとき、彼は羊皮紙の文書を落としていたの。私は気づかなかったけれど、プラッキーが拾って持って来たわ。そしてそれは地図だった!

26日目
ブスンツェルという場所に聞き覚えは?私も知らないけど。ナルシス・ドレンが落とした地図が指し示しているのは、どうもそこらしいの。そして、その場所に「ドワーフの遺跡?」「未探検!」「宝?」と書き込まれている。言うまでもなく、この私ヴァリンカは一匹の興奮したホーカーになったのよ。でもあなたのための任務はちゃんと果たすと約束するわ。たとえ有名人になっても。

27日目
ドレンのマップにマークされていた場所の近くにある小さな町で、必需品を買っているとき、私は少し有名な遺物ハンターだと、つい口にしてしまったの。確かにちょっと大げさだったけど、とにかくうずうずわくわくしていたのよ。そして今、誰かに跡をつけられている気がするの!プラッキーが一緒でよかった。何ていい子!おっと、物資は受け取ってね!

28日目
この物資がちゃんと届けばいいけど。私は今もできるだけ早くブスンツェルの遺跡へ向かっているの。跡をつけられていたと思っていたけど、気のせいかもしれない。町を発ってから信者や山賊の気配はまったくないから。けれど、プラッキーは相変わらず不安げな様子。

シヴキン スタイル

クラフトモチーフ17
Xivkyn Style

ドレッドの公文書保管人、規則推進者デノゴラス 著

我らが主の新たなシヴキン儀仗兵は、強大なるモラグ・バルに栄光をもたらし、敵を恐怖させる身なりをしなければならない。以下に記した規則は厳守されねばならず、例外は許されない!これに反する者は、痛みの輪でその報いを受ける。

ブーツ

シヴキンのブーツのつま先は、倒れた敵を蹴り上げる際に役立つように重みのある金属製のものとする。プレートには可動部を設け、攻撃性能や防御性能を損なわずに足を動かせなければならない。

ベルト

シヴキンのベルトの締め金は幾何学的な形状で、デイドラが前かがみになると不快感を覚えるような大きなものでなくてはならない。その他の部品や重い帯には、鋭いひし形のプレートを格子状に組んだものを使うこととする。これを捕虜の拘束に使用すれば、苦痛を与えられる。

シヴキンの兜は戦士の頭頂部だけでなく、頬も覆うものとする。兜には鋲をちりばめ、角をあしらい、モラグ・バルの敵には悲惨な死を想起させる外見でなければならない。

脚当て

シヴキンの脚当てはブーツのプレートと一体化して見えるようにし、またスパイク付きのひざ当てを使用しなければならない。

シヴキンの弓には、射手が攻撃を受け流せるように翼状の金属製スパイクを付属させる。シヴキンの射手の矢筒は薄いアーマープレートで覆われ、大量のリベットで固定されていなければならない。無論、リベットの数は多いほど好ましい。

胸当て

シヴキンの胸当ては、鱗上に金属片を重ねて模様を描いたものとする。模様は我らが強大なる恐怖の王の頭蓋骨を想起させ、また畏敬の念を抱かせるものでなければならないが、直接的な描写は許されない。胸当てには、着用者の強さを知らしめる重厚感を持たせなければならない。

短剣同様、シヴキンの剣には幅広の刃を使うものとする。モラグ・バルに逆らう愚か者に、恐ろしい傷を負わせるためだ。この両刃の剣は、常に良く研がれた状態で維持しなければならない。柄のまわりには翼状のスパイクを付属させるものとする。

肩防具

シヴキンのポールドロンや肩当ては、肩だけでなく首も守れるように上下に広がった形状でなければならない。また、アクセントとして暗い赤色、定命の者の乾いた血の色を使うものとする。

手袋

シヴキンは可動部のある、金属製の籠手を使うものとする。指の部分は戦士の爪が届く範囲をさらに伸ばす、鋼の鉤爪で覆われていなければならない。またサイズは1種類で、全員が使えるものでなければならない。

シヴキンの盾は凧のような形状とし、周りには翼状のスパイクが付属していなければならない。また利き手が違っても問題がないように、両側面の上端を刺突に使える形状にする。ここでもリベットは惜しまず、ふんだんに使うことを推奨する。

シヴキンの魔法使いは、上端が翼状のスパイクで装飾された杖を持たなければならない。これは必要となれば魔術師が敵の臓物を切り抜くことにも使えそうな外見でなければならない。翼状のスパイクは3つの部分に分けられ、各装飾部の中心には呪文のエネルギーを放出する鋭利な金属に似た宝石がなければならない。またシヴキンの杖は地面に立てれば照明としても使用できる。

戦棍

シヴキンの戦棍には、重く、鋭い突起のある八角形の柄頭を使うものとする。敵の頭上に落下しただけで粉砕しそうな外見でなければならない。

短剣

シヴキンの短剣は、切り傷から大量の血が流れ出るように幅の広い刃を使うものとする。柄には翼状の金属製スパイクを付属させ、敵を刺せるように柄頭が鋭利でなければならない。

シヴキンの片手斧の刃は、死刑執行用の斧に使う刃と同じものとし、逆側には下向きに少し弯曲した薄いスパイクがなければならない。両手持ちの斧は両刃斧で、こちらも刃は死刑執行用の斧のものでなければならない。斧はいずれも刃のすぐ下に翼状の金属製スパイクを付属させるものとする。
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